第一刻:毘沙門天の落し物
「……やっぱり来てたのか」
倒れているピアを見ながら梗がそう言うと、その背後から人影が現れた。黒混じりの茶髪をイジリながら現れた男は寝ているのではと疑うほどの細目で梗の背中を見つめていた。
「まあな。それにしてもその子も刺客だったのか……一体、何故に黒幕は毎度、毎度、最初から腰を上げないのかね……」
「俺は、藍様の式だから、それを邪魔する奴を片っ端から消すだけだよ」
「そういや、ご主人さまはどこだ? さっきまで居た筈だろ」
佐助は辺りを見渡しながら藍を探すがその姿は見当たらない。
「さっき帰ったよ。俺は少し、片付ける物があったからな」
梗は直立の状態から倒れてた状態で苦しそうに呼吸しているピアのほうへ歩み出した。
その行動を見て佐助が眉をせばめた。
「おい、まさか……」
「ちげぇよ」
腰をおろし、ピアの胸元に伸ばした梗の腕は彼女の胸をすり抜け、体の中に入っていった。
ジャリ
重い金属音が聞こえたかと思うと梗は自分の腕をピアの胸から引き抜いた。
「……鎖?」
引き抜いた梗の手には銀色に輝く鎖が握られていた。どうみてもピアの体の中に収まるサイズではない。
「
梗が佐助のほうを向いて言うが、佐助はまだ眉をひそめていた。
「それは、
「まあそうだが。こいつは現実世界でも使えるんだ。相手の心臓にこいつを絡めて相手の思考を制限する事が出来る」
「思考を制限?」
「生き物、何かをするとき絶対、何かしらの選択をするだろこいつはそれを縛れるんだ。使用したばかりでは何の効力もないが、対象が選択をすればするほど、鎖は強く絡まり、やがて、そいつは俺に都合のいい行動しかとれなくなるってわけだな」
「へぇ~~。……で、それで今まで何人の女を落としてきたんだ?」
「0だよ。そんなくだらないことに使ってたまるか。今回も最後の最後で挑発に乗らせる為の使用だ。締め付けを強くするため選択を機会を増やす必要があったが、それはメイド長のお手柄だな」
そう言って梗が立ち上がると、手に握っていた鎖は光の粒となって宙に消えていった。
「こいつはおそらく、
「……そんなこともないぜ」
こうして、二人は紅魔館を後にした。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
それから、八雲家に何かが起こる事は無く。いつもと変わらない日常が流れていた。
その中でも、梗は常に気がたっていた。出海の刺客がいつ来るか分からない状況。次第に仕事中もどこか締まらなくなっていった。
(次は一体どんな奴がくるだろう……パラノクスはあからさまな敵だったが、ピアには正直、すぐは気付けなかった。実力もなにかひとつに執着した力を持っていた。それに、龍の存在もある。あいつがいつ出てくるか分からないんだ。今のままでは確実に勝てない。次出会う時と場所を向こうは選んではくれない。せめて、一矢報うぐらいの力はつけねえと……)
「梗~!」
玄関口から帰ってきた焔の声が聞こえてきた。
元気に扉をあけた焔だったが、梗の返事が聞こえてこなかったので不思議に思い。居間にまで駆けてきた。
そこには、難しそうな顔で考え事をしている梗がいた。
(とにかく、今の俺に力が無いのは確定的に明らかだ。もっと力を……強くならなければ……」
「梗~!?」
ゆっくり、近づきながら声をかける焔だが、梗から返事は返ってこない。
「きょう~~」
(しかし、時間には限りがある。どうすれば、龍と止められるぐらい……藍様達を守れるぐらいに……」
「きょ~~う~~~」
(………………………)
「梗~~~!!!」
「痛い、痛い、イタイ! なんだ、なんだ!? 焔。聞こえてっから、耳を引っ張るのやめろ!」
焔を振りほどくと梗は涙目になりながら引っ張られた耳を押さえる。
本気で引っ張られたらしく。大きな両耳は真っ赤に腫れていた。
「……たく。なんだよ」
「う~ん……とくになにもない……けど」
「なんだよそれ」
溜め息をつき、焔の顔を見た所で、梗はふと冷静になった。
少しばかり、詰め込みすぎていたようだ。問題が山積みなのは確実だが、焔にまで心配されるようではそれ以前の問題だ。少しばかり息抜きをした方がよさそうだ。
そう思った梗は、おもむろに立ち上がった。キョトンとしながら見上げる焔の頭を少し乱暴に撫でやる。すると、焔は気持ちよさそうに目を細めた。
「……たまには息抜きでもするか。焔、今から里にでもいってみないか?」
「うん!」
目一杯の笑顔で焔は頷いた。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
「ん……? あれは……」
梗は、視力のそこまで良くない目を細めた。
人間の里にひときは目立つ姿をした者がいた。黒の混じった金色の髪をしていて羽衣のような白い輪を背負ってうる。虎柄の腰巻を身に付けた彼女の外見は本来なら神々しく見えるのだが、今の梗には頼りない背中にしか見えなかった。落ちつきなく人ごみに混じって辺りを見渡すその様はまるで何かを落としたような……。
そんな、彼女に近づいた梗は小さく溜め息をして彼女の名を読んだ。
「寅丸さん。また落とし者ですか?」
梗の声掛けに肩をビクっとさせた本人はこちらを向き、声の主が梗だと確認すると、落し物を誤魔化すような渇いた笑いをした。
「ははは……ちょっと宝塔のほうをなくしていまいまして……。梗さんは何の様で
星に言われ、梗は焔のほうに視線を落とした。
「こいつと里でブラブラするって口実で息抜きです。どうも、最近、俺の周りが物騒で」
「そうですか、私も今回、どこでなくしてか思い出せなくて……今回は間違いなく大切に扱ってたんですが……」
「まさか、盗まれたとか」
梗がそう言った時だった。
三人の後ろから荒い息をした男が走ってきた。
「どけ、どけぇ~!」
男は三人の間を三人を弾いて駆け抜けていった。
男の懐にはなにやらバックの様な物があった。
「強盗か?」
そう呟いた時。大分向こうから、女の人の顔が聞こえてきた。
「だ、誰かー。捕まえて下さーい!」
「梗、たすけてあげた方がいいんじゃないかな?」
焔が心配そうに梗を見上げると、梗は確かに頷いた。
「そうだな。……しかし、本当に最近、物騒だな……」
ブツブツ言いながら、梗は足元に転がっていた石を蹴りあげ、手にもった。
拳大の石を握りつぶすと、石は粉々になった。その中から、直径2,3cmの大きさになった小石だけを持つと。親指と人差し指に挟み、親指で弾き飛ばすように構えた。
親指の第一関節に小さくなっていく男の後ろ姿を合わせた。
(身長と足の長さから大体の歩幅は分かる。そして、走るリズムからして走る速さもほぼ分かる。体重のかかり方で変わる足音の大きさから走るフォームも推測できるから。後はどのくらいの速さで弾くかだ……事態を穏便に済ませるためにも……このぐらいか?)
梗が、親指で小石を弾き飛ばすと、パァン。と拳銃を使用したような高い音が辺りに響き渡った。凹凸のある小石は空気の抵抗により多少ズレはしたものの確実に男に向かって飛んでいきそして……。
「ぐあぁぁ!」
小石は男の右ふくらはぎを撃ち抜いた。
ふくらはぎに小石分の穴があいた男はバランスを崩し豪快に倒れ込んだ。
そして、すぐさま、男を数10人の人達が囲んでいった。
「ま、これで事なきを得るだろう。強盗には気の毒だが、頑張ればやがて走れるようにはなるだろう。骨は外してるしな…………それにしても」
「!?」
「どうかしました」
星と焔がキョトンとしていると梗が近くにあった店やの影を睨んでいった。
「いくら忍びとはいえ盗み聞きは関心しねえな……佐助」
梗が言うと、物陰から佐助が現れた。
「人聞きが悪いなお前……。今回はたまたま居合わせただけだよ。てか、なんだよ、また可愛い子と話してんじゃねえかよ」
「いい加減、その異常なまでの異性への執着は自重したらどうだ?」
梗が冷めた目で横目に佐助を見ると佐助は両手を広げしまりのない笑みを浮かべた。
「おいおい、今日は当たりがキビシイな。いい加減ってもう数100年の付き合いだぜ? 最初の2、3年で諦めろよ。それに女と関わるのを諦めたら男として終わりだぜぇ~?」
「あ~はいはい、わかったよ」
手で払うような動作で佐助を払うと、梗は再び、星のほうを見た。すると、梗の中で何かが閃いた。
その表情を星は何のことやらという感じで見ていた。
「佐助」
「あぁ?」
「折り入って頼みがある」
「……
「ここにいる寅丸星さん。毘沙門天の代理なわけだが、なんと落し物をしてしまってな。宝塔って言うんだが、こんな感じの奴だ」
梗がそういうと、佐助の頭の中に宝塔の映像が映し出された。
「これを俺に探せと?」
「そうだ」
「何でお前が頼んでんだよ。さっきまで散々言ってくれったくせに良いように使おうとしてくれんじゃねえかよ」
嫌そうな表情で断ろうとする佐助を見て、落とし主の星は頭を下げた。
「お、おねがいしま……」
「しょうがねぇ~な~」
ゴンッ
「んだ、その代わり様は! 結局、女か!? お前は!」
「って~~な~~。いいじゃねえか、依頼は引き受けたんだから有難く思え」
頭に出来た拳よろ一回り大きいたんこぶをあさえながら半泣きで佐助は訴えた。
「じゃあ、さっそく仕事に移るか……」
そう言うと、佐助は家の屋根に飛び乗り口笛を吹いた。
甲高い音が当たりに響き渡ったと思うと、遠くから巨大な鷹が猛スピードで飛んできた。
佐助は梗達を見下ろすと再びしまりの無い笑みを浮かべた。
「ま、この俺に頼んだんだ。朗報を期待してゆっくりまってな」
そう言って鷹に飛び移った。佐助の姿はみるみる内に小さくなっていった。
その光景をしばらく見つめていた星が申し訳なさそうに梗に話しかけてきた。
「本当にいいんですか? 私にとっては見ず知らずの方なのにあんなことをお願いして……」
「大丈夫ですよ、やるときはやる奴ですから。さ、俺は息抜きに来たんですが……どうです? 寅丸さんも一緒にお茶でも」
「ええ、喜んでご一緒させていただきます」
三人が再び歩き出そうとした時。遠くからこちらに向かって空を切りながら近づいてくる音が聞こえてきた。
「何? 何? なに? 何? 楽しそうなことしてんじゃ……」
ゴッ
「お前はさっさと任務を遂行しろ」
「……が、顔面に肘打ちはないわ………」
おかしな方向に曲がった鼻を押さえる佐助の目には本物の涙が伝っていた。
不定期連載宣言を利用しての一本目。
いや~、書いてすぐあげられるのはいいですね。
元々、書き溜めをしないスタイルなので、書きあげ次第、バンバン上げていくと思います。
というわけで、この不定期連載スタイルでいくので宜しくお願いします。