梗と星と焔は近くにあった和菓子屋に寄る事にした。テーブルをはさむ形で星の向かい側に梗と焔が座ると、店員が注文を聞きにやってきた。
「え~とぉ~……ようかんと~桜餅と~三色団子と~……」
「おいおいおい、そんなに食えねぇだろ」
献立を新聞の様に目の前一杯に広げながら目に着いたものを次々に注文する焔を梗はあわてて止めた。
「食べるもん! 食べたいんだもん!」
玉のような白いもち肌をぷくっと膨らませながら焔が訴えると。梗はテーブルに頬づえをついて諦めの様子を示した。
「はいはい、わかったよ好きなもん頼みな……」
梗はそう言うと、焔は再び献立を見ながら瞳を輝かせていた。
注文を終え、食べ物が運ばれてくると焔は色鮮やかな和菓子達に手を伸ばしていた。
真っ白い頬が膨らむほど口いっぱいに和菓子を詰め込みながら焔がもっきゅもっきゅと咀嚼している間、梗と星は何気ない世間話に花を咲かせていた。
「………へぇ、それでこの子を」
「ええ、どういういきさつで
「……ッゴホッ……ゴホッ」
餅を喉に詰まらせ、涙目になりながら咳き込む焔の背中を梗が軽くたたいてやる。
星がお茶を差し出すと、焔はそれを一気に飲み干し、さらにそれを喉に詰まらせてむせていた。
「梗さんって見かけによらず面倒見が良いところがありますよね」
梗と焔の光景を見ながら星がほほ笑み言う。
「なんですか、普段は面倒見が悪そうに見えてるんですか?」
苦笑いを浮かべながら冗談交じりに言う。
その間も焔は手づかみで和菓子をほおばっていた。
「しかし、八雲を狙う敵ですか」
「今までは、幻想郷の中で起こっていた異変でしたが、今回ばかりはその枠組みには収まりそうにありません。最も、八雲家の問題、つまりは私事ですから、幻想郷には何の影響も及ぼさないかと」
「それでも、万に一つの事があったりでもしたら」
その言葉に梗が表情を曇らせる。テーブルに両肘をつき、その上に顎を乗せる形で黙る。
しばらく、沈黙が続いた後、梗はゆっくり口を開いた。
「その時は俺が……」
「梗~」
言い切る前に梗の服が横から引っ張られた。焔が口元に粉を思いっきり着けながら梗を呼んでいた。
「なんだよ」
「おかわり頼んでもいいかな」
穢れの無い表情で見つめられた梗は一瞬、頭の中が真っ白になった気がした。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
「もういいか? 満足か?」
梗が聞くと焔は満足そうに目を細めながら頷いた。
「ごちそうさまでした。私も久々にリラックスして過ごせた気がしました」
星も満足そうに笑顔を溢していた。
「ほらほら、口元に砂糖ついてんぞ」
そう言って、梗は焔の口元にハンカチを当て、少し強めに擦ってやる。焔は少し痛そうな表情で顔を動かすが、そのたびに梗に怒られてしまった。
店を出ると、陽は少しずつ赤くなり、もう少しで、沈み始めるようだった。
「寅丸さん、みんな心配してるんじゃないですか? 今日は帰った方がいいかと」
「しかし……そう言うわけにも……」
「大丈夫ですよ、佐助に頼んだんですから、あいつ、ふざけた奴ですけど仕事はこなす奴なんで」
「しかし……」
申し訳なさそな表情で星は小さな声で呟くが、結局、梗に説得され、今日は帰ることにした。
焔や梗も寄り道せずにマヨヒガに帰ったが、帰るやいなや梗は再び、どこかへ出かける様子だった。
「どこに行くんだ~?」
玄関まで来た焔が履物を履く梗に問いかける。
「ん、あぁ、ちょっとな、別に大した用じゃない。夕飯の支度時には帰ってくるからおとなしくしてろよ」
「わかった~」
焔の返事を聞くと梗はさっそく何処かへと出かけていった。
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大鷹に乗って、空を駆けていた佐助は下を見渡し、何かを確認すると口笛を吹いた。
その相図と同時に佐助が大鷹から飛び降りると、大鷹は空の彼方へと飛んでいった。
佐助が落下したのは深い森の中だった。魔法の森ではないこの森は暗い色の木で埋め尽くされており、上空から地面の様子を確認することはできない。
凄い勢いで急降下していた佐助は空中で一回転し、勢いを弱めながら木々の隙間を縫って地面に着地した。
森の中は陽がほとんど差し込まずしかしながらも夏の暑さが手伝い、湿気の逃げない森の中は非常に蒸し暑くなっていた。
水浸しの地面に足を取られながらも進んでいくと、やがて、一軒の家が見えてきた。
「……なんで、こんなところに建てたんだか」
二階建、洋風な造りの一軒家だが、大きさはそこまであるわけではなく、自宅というよりは別荘として扱われるような佇まいだ。
鐘の付いたドアを開き履物を脱いで佐助は中に入っていった。
「うぅ~ん。やっぱり、俺にはこの手の趣味はわからねえな」
中に入ると、そこは廊下になっていた。壁には年季の入った絵画が何枚も貼ってあり。棚の上に作られたショーケースには眩いほどの光を放つ宝石達が所せましと並べられていた。
「こんなの、俺には落書きと光る石ころにしか見えなんだが……」
「物の価値なんて所詮はそんなもんよ」
ふと、声のした方に顔を向けると、廊下の壁から灯りが見えた。
どうやら、その部屋に声の主がいるらしい。気持ち早めに足を進め灯りの出ている部屋に入った。
そして、そこにはやはり声の主が椅子に腰をかけながら文庫サイズの本を手に取っていた。
「あら、別に靴を脱ぐ必要はなかったのに」
「……メガネ似合わねえな」
互い、第一声から言葉のキャッチボールになっていなかった。
家の持ち主であろう女はキッチンへ足を進め、カップにお湯をそそぐと、それを応接用のテーブルの上に置き、自分が飲んでいたカップもそちらに持ってきて腰を下ろした。
「ブッラクは大丈夫」
「お構いなく、で、話があるわけだが、バベット。心当たりは」
「無いに決まってるじゃない。いちいち、盗まれた本人の気持ちまで考えないわよ」
飲み物を飲みながら遠目にバベットが佐助を見る。
佐助も出されたコーヒーを飲もうとするが、熱かったようですぐに戻した。
「猫舌?」
「悪かったな、で、話があるわけだが」
「てことは、熱い食べ物とかを味わえない訳じゃない。可哀そうね」
「ほっとけ、で、話が」
「それより、これ、見なさいよ。つい最近盗ってきた物なんだけど」
「なんで、本題に入らせてくれないんだよ」
「わかったわよ~」
佐助は非難の目を向けるとバベットはコーヒーを飲み干し、渋々佐助の話を聞く気になった。
「私が何を盗んだと思ってるわけ?」
「あぁ、宝塔っている物なんだが」
「名前を言われても分からないわよ、盗んだ物の名前、すぐ忘れちゃうんだから」
「嘘付け、この前、いろんなもん俺に自慢してきたじゃねえか」
「はぁ~、よくそんなどうでもいいの覚えてられるわね。そうね、結論からいうと私はそんな物、盗んでもないし、聞いたこともないわ。誰かの依頼で来たんでしょうけど、多分、依頼主が落として無くしただけじゃないの?」
そう言われた佐助は困ったような表情でソファに寄りかかる。
「マジか~じゃあ、普通に探すしかないのか」
「………そういえば、関係ないけどあんたら……正確には梗だけだったか知らないけど、八雲を狙ってるって輩の情報が入ってきたわよ。あ、でも、言っておくけど情報には価値があるんだから何かと等価交換よ」
出海の情報を知っていると聞いて佐助は跳ね起きた。
そして、佐助が何かを言おうとする前に誰かが話に割り込んで来た。
「……その話、詳しく聞かせて欲しい。後、バベット、聞いたこともないってもっともらしい嘘ついてんじゃねえよ」
「あら、あなたも靴を脱いで入ってきたのね」
「いくらなんでも草履で上がるわけにはいかないだろ」
梗だった。バベットの家は初見の筈なので、興味ありげに部屋の細部に飾られている価値のあるような装飾品の数々に目を通していた。
「あんまり関心はしないな盗みは、それに俺には価値があるようには思えん」
「価値なんて正直無くていいのよ。手に入れる事に価値があるの。私の場合、貴重な物じゃないと欲しがらないだけで、ガラクタなんてこの部屋の至る所にあるわよ」
そう言われ佐助と梗の二人は辺りを見渡すが、ガラクタというガラクタは見つからず、目につくものはどれも宝石等の光物だった。
「そんなことはどうでもいい、お前、出海の情報を持ってるっていったな」
「ええ、でも言ったでしょ? 等価交換」
「嘘がバレたからちゃらだ」
「……言うわね、わかったわ、私にとっては意味の無い物だから教えてあげる」
その言葉に反応して、佐助と梗が前のめりになり話を聞く姿勢になる。
「どうやら向こうは本気で
「そいつらは何故、出海の者だってわかったんだ?」
佐助の質問にバベットが即答する。
「そいつらが銀狼と接触してたからよ、銀狼の行動パターン的に……。
・八雲及び自分の仲間以外とは接触しない
・八雲の者以外には危害を加えない
これらがあったからよ。まあ、後者のおかげで比較的安全にこちらが情報を得られてるわけだけどね」
バベットが他人事のように話しているが彼女も向こう側の者である。
「だが、それだけじゃ情報とは言い難いんじゃないか? 梗?」
「うむ……確かに、銀狼はおそらく
「まだ、終わりじゃないわよ」
その呼びかけに顔を見合わせていた二人が再びバベットに注目する。
「その龍とかいう銀狼がそっちに刺客を送り出したらしいのよ、それも二人、一人は女で、もう一人は腰に刀をさしていたらしいわ。今まで、どんな奴とやってきたか知らないけど、私達もこの世界で長い間やってきてるから相手の力量ぐらいはわかる。その点を含めさせて言わせてもらうと……」
「どうだ?」
「今回は、流石のあなたでも苦戦するんじゃないかした?」
バベットは不敵な笑みを浮かべながら自分の持っている情報を全て吐いた。
すると、おもむろに梗が立ちあがった。
「どうした?」
「敵が動いたなら俺も動かなきゃいけないだろ」
佐助に言うと、梗は足早に部屋を後にしようとした。
「……バベット」
「何?」
「宝塔はこんな感じの奴だ。ちゃんと佐助に渡しとけ」
バベットは納得のいかないようで顔を曇らせた。
火曜日と水曜日には毎週、私事があるので書くのが難しいんですよね、しかし、高校生活が始まるまでにある程度話の全貌を明らかにしたいので、頑張っていきたいと思います。