【東方】<八雲梗>【九尾伝】   作:甘味料

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バベットから八雲を狙う新たな刺客の存在を聞いた梗。望むはもちろん正面衝突、はたして、此度の刺客はどのような者達なのだろうか……。



第三刻:先達が見せた理想

 バベットの家を後にした梗は寄り道をすることなく焔の待つマヨヒガへと帰宅した。昼間あれほどの菓子を押し込んだにも関わらず収まることのない焔の食欲を満たす夕食を作り焔を寝かした後、梗はひとり縁側から夜空を見上げていた。

 思えば、随分と自分勝手に動いてきたものだ。焔をかくまうためだけに長年一緒に暮らしてきた紫と藍から距離をとった。今でも、式としての仕事はそつなくこなしてるし、無礼にあたる行動をした覚えもない。

 それでも、自分は紫や藍の式として十分に働けているのか。

 八雲を狙う出海の刺客との交戦は式として当然だが、自分が何か、紫達とは違う別の場所でたったひとりで闘っている気がしてしまう。どうすれば…。

 

「今の自分に収拾がついていないという顔をしてるな」

 

 聞き覚えのある声にはっ、と梗が玄関口に目を向けると自分の主の姿がそこにはあった。

 

「藍様……。もう、こんな夜ですよ」

「構わないだろう」

 

 藍は庭を通り、縁側に来ると、梗の隣に来る形で一人分の距離を取って腰を下ろした。

 梗のほうを見ることはせず、同じく空を見上げるとおもむろに梗に問いかけてきた。

 

「何を悩んでいるんだ」

 

 それに梗は言葉を詰まらせ俯く。言葉が頭の中でうまくまとまらない。

 さっきまで、箇条書きのように並べられていた悩みが鎖のようにがんじがらめになって上手く言葉にできない。

 

「お前は式として完璧に仕事をこなしてると私は思うぞ」

 

 藍の言葉が頭の中に響くが、その言葉を今の梗は正面から受け止められない。

 (ろん)と出会い初めて式としての力量不足を知った梗は、自分における自身を失っていた。

 

「……言葉を変えよう。今、何がしたい?」

「つよく………っ……!」

 

 そう真っ先に口走ったものの、そこから最後まで言い切ることができなかった。

 

「つよく?」

 

 わざとらしく藍が聞き返す。全てを自分の口から言わなければ藍は首を縦には振らない。

 喉元まで込み上げてきた、強くなりたい。の言葉に理性で蓋を閉め、もういちど思考の海へ潜りなおす。

 式として、自分が今、何をするべきか。強くなるだけでは駄目なはずだ。他にも大切なことがあるはずだ。

 

「紫様……あのお方が我々にどんな事を求めているか、私には理解しきれない。だが……梗」

 

 藍の声がけに梗が顔を上げると藍がこちらに目を向けてきた。

 目線を合わせるが、その瞳を見続けることができずに梗はまた俯いた。

 

「私やお前の前に八雲には3人の式がいた。彼らは全員、九尾の狐であり全て男だった。全員、形は違えど強かったのだろう。だが、私に紫様はよく初代の式を話をされる。聞いているとわかるが、その方は強くありながらもまた、紫様の心のよりどころでもあった」

 

「それと今の私に何の関わりが……」

「お前はおぼろげにしか知らないだろうが、私は先代の式も見てきた。だからいえる。彼らは常に紫様の近くに居た。答えを探りたいなら。久しぶりに面と向かって紫様と話してみるのもいいかもしれない」

 

 そう言い切ると、藍は腰を上げ、夜の闇の中に消えていった。

 

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

 

 時を同じくして八雲家。紫の寝室に物影があった。

 襖をあけ、寝室に入ると、まだ眠りについていない紫の姿があった。

 

「まだ寝てない……」

 

「……さすがの私も、自分で呼んどきながら勝手に寝たりしないわよ」

 

 紫が薄目で訴える相手の背には九本の尻尾が生えていた。

 男の姿を見渡して紫が一言。

 

「あなた、随分丸くなったわね。私の式をやってたときはあんなにツンツンしてた癖に……」

「ああ、どうも天狐(あまつぎつね)になってからどうも刺激がなくて、今思えば紫さんの式だった頃は楽しかったですね」

 

 そういって男が浮かべた笑顔を見た紫ははっ、とした表情で顔をそらした。そして、うつむいたまま彼にいった。

 

「本当におとなしくなちゃって……。昔はさん付けすらしてくれなかったくせに……」

 

 その言葉を聞いて、男は再び白い歯を見せる。そして、紫の傍に胡坐をかいて座ると、息がかかるほどの距離で紫に問いかけた。

 

「俺をわざわざ呼ぶなんてよっぽど大変な何かがあったんでしょ?」

「……天海(そら)からこっちを見てないのね。そう言うってことは」

「ええ、まあ」

「まあいいわ、私の命が狙われてるのよ」

「大した問題じゃないですか、可愛い式達が守ってくれるじゃないですか」

 

 男はそういって笑うが、紫はそれが冗談なんだと一目でわかった。

 

「相手は(すみれ)よ」

「ええ、知ってます」

 

 男の悪戯っぽい笑みに今度はなっ、と紫が言葉を詰まらせる。

 

「あなただって菫の強さは知ってるでしょ!」

「はい、あいつを封印した時の式は俺ですし、この右目は好きで瞑ってるわけじゃありませんから」

 

 右目を指さして笑う男に紫が三度言葉を詰まらせる。男の右目は閉じてはいたが軽く腐っているようにも見えた。

 何か、昔の悪い思い出が込み上げてくるように紫が深く俯く。

 その様子を見て男はさすがに真顔に戻り、紫の耳元でささやいた。

 

「たまには素直に思ったことを口にしましょうよ。だから俺を呼んだんでしょ」

 

 紫はそれからもしばらく俯いたままだったが、やがて、顔を上げていつもと変わらない読めない表情で彼と向き合った。

 

「藍と梗で彼らは止められると思う?」

「無理でしょうね」

 

 即答だった。紫もすぐに次の質問を問いかける。

 

「じゃあどうすればいいかしら?」

「……俺に答えを求めますか………今の彼らでは、菫にたどり着く前に殺される」

「龍のことね。今のあの子達で勝てないのはわかってる。でも」

「梗ですか……」

 

 男はそういうと後ろに手を付いて天を仰いだ。

 

「あの子は今までとは違って先代の背中をほとんど知らない。だから、理想の式像がつかめない」

「でも、潜在的な物なら俺たちと何ら遜色ない。……だから?」

「あの子はどうすれば、式として、強くなるのかしら」

 

 天を仰いでいた男は紫の顔を見つめなおし険しい表情で答えた。

 

「知りませんし、知ってても教える気はありませんね」

「!? なんで?」

「俺の後の2人も見てきたらなら知ってるはずです。そんなことに他人が首を突っ込んじゃいけない。あいつらは、ちゃんと自分で悩んで答えを出してきた。だから強かったんだ。弱い(あいつ)が強くなるにはあいつ自身がどうなるかが、かかってる」

「で、でも! もし間に合わなかったらあの子達は……!」

「死にますよ? あいつらは今までの誰よりも紫さんに従順だ。でも、式が主を守る為に死ぬのは本望の筈です。守り切れずにくたばったら所詮そこまでだったて話で、俺たちはそのつもりでやってきた。紫さん、らしくないですよ、いつの間にそんな情が深くなったんですか?」

「……」

 

 男の心を感じない言葉を突き付けられ紫が深く俯く。

 

「情が深くなるのも……私の勝手じゃない……駄目なの? 式を大切にしちゃ……私の式(あの子達)は私の道具なんかじゃない! ………文句……ある?」

 

 瞳が潤んでいた。目頭を赤くしながら紫が訴えると男も冷たい表情でその目を受け止めた。

 

 

 

 ……しばらく、その場を沈黙がつつんだが、やがて、男は紫の金色の髪み手を伸ばし彼女の髪を撫でてやった。

 

「よかった……紫さんがそう思っててくれて。やっぱりあなたは(あいつ)とは違う。式をただの道具だと思っていない。でも、それはあいつらには伝えないほうがいい。あいつらの覚悟に歯止めをしてしまう」

 

 自分の頭をなでる男の温かい手のぬくもりと、その言葉に我慢できずに紫の瞳から熱いものがこぼれた。

 

「ほら、ひとりで抱え込みすぎですよ……」

「だって……あの子達はあなたと違って、私の悩みを聞いてくれるほど強くないんだもの……」

「だとしても打ち明けるべきです。菫を迎え撃つときに主であるあなたに心の迷いがあっちゃいけない」

 

 いつの間にか紫は男の懐に体を預けていた。

 

「あの子達の代わりに話し相手になってくれるかしら……?」

「構いませんよ」

 

 紫の悩みを男は正面から受け止めた。そして気付けば徐々に東の空が明るくなってきた。

 

「そろそろ、行かないと」

「まだ、いてくれてもいいのに」

「今の(やつら)にあうにはもう少し、時間とそれに見合った理由が必要ですから。特に梗と会うには少し時期を選ぶべきだ。その時が来たときは紫さん。お願いしますよ」

 

 男の声に紫は小さくうなずく。その表情はいつもとおなじそれに戻っていた。

 男が襖に手をかけたとき、帰り際に紫が彼に聞いた。

 

「ひとつだけ、明白な答えがほしいわ。もし、あなたなら、今の龍に勝てるかしら?」

「…………」

 

 少しの沈黙を経て。

 

実力(ちから)だけなら俺のほうが上だと答えておきましょう」

 

 灰色の答えが返ってきた。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

「いってきま~す!」

 

 そう言って、校門から駆け出していく焔を梗は軽く手を振って見送る。

 焔が寺子屋の子供たちの輪に混ざり中に消えていくと、梗は振り返り、空を見上げた。

 昨日、藍に言われた言葉を思い出しながら足を踏み出した。

 

 そして、梗は八雲家へ足を運んだ。

 藍へ軽く会釈をし、屋敷の奥へ進んでいく。

 一際大きく立派な襖の前に達梗は大きく深呼吸をした。

 

「紫様」

 

 その声がけに反応し布団がもぞもぞと動く音が聞こえたかと思うと主の返答が返ってきた。

 

「いるわ、何の用」

 

「お話があり……」

 

 梗がそこまで言った時だった。

 

 バァン! と銃声のような音が外から聞こえてきた。

 すぐに玄関をほうを振り向き、梗は駆け出して行った。

 

「後ほど……」

 

 紫にそう言い残し梗が廊下を走り抜け、外に出るとそこには藍がいた。

 彼女の足元には小さな穴が地面にあいていてそこから白い煙が立っていた。

 そして、藍が向かうほうへ二つの人影があった。

 ひとりは女、そして、もう一人は男だった。梗を見つけると女のほうが口を開いた。

 

「どうやら八雲家。発見みたいね。正々堂々サシ同士でやる?」

「必要ない」

 

 そう言って梗が紫の前に出る。

 改めてみると女のほうは光沢のある黒革の衣装を身にまとい両腰のホルダーには拳銃が入っていた。

 男のほうは女より一回り大きな体格をしていて道着をモデルとした白く動きやすそうな服装をしていた。

 体をほぐしながらリラックスした様子で梗は二人の前に立った。

 

「場所を変えろ。二人まとめて相手してやる」

 

 




紫様を泣かせた初代式の九尾は紫様より年上の設定です。
最近、部屋の模様替えや新PCの購入。他にも卒業式へ向けた準備で忙しいです。
まあ、言い訳にしかすぎませんが……。
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