【東方】<八雲梗>【九尾伝】   作:甘味料

40 / 48
今の自分を見失いつつある梗。その前に現れた新たなる出海の刺客、彼らを倒したとき、梗は何かを見出すことはできるか。



第四刻:武の呼吸

「ここらでいいだろう」

 

 空中から降下して地面に降り立つ。人間の里から遠い八雲家から人気の少ない場所を探すのは難しくない。

 そこは、梗がバベットと一線を交えた場所だった。開けた広さのあるその場所は回りを岩壁に囲まれていて決闘にはもってこいである。

 女が目で合図をすると道着を身にまとった男が前に出た。それに合わせて梗も関節をほぐしながら前にでる。

 

「細いな」

 

 向かい合った梗に対し男が言う。二人の背丈はほとんど変わらないが男は梗に比べ肩幅もあり肉付きもしっかりしている。

 梗自身、細身ではあるものの筋肉は人並み以上に付いている。それでも、武術を使う者としては心もとない体格である。

 

「ほっとけ」

 

 嘲笑する男の目を睨み返す。

 息がかかるほどの近さに近づいた二人を見て女は小石を拾い上げ放り投げた。そして。

 バァン!

 と、小石を拳銃で打ち抜いた。

 それと同時に二人の体が動き出す。

 

「ぬぁぁ!」

 

 男が梗の顔を薙ぎ払う。

 それを梗は体を落として回避し男の懐に潜り込み跳ね上がるように拳を突き上げる。

 だが、その拳が男を打ち抜くことは無かった。男は残ったもう片方の手で梗の拳を受け止めた。

 それにより梗の動きは止まったが今度は男が動き出した。

 

「!?」

 

 男の体が宙に弾け飛んだんのだ。

 アッパーを食らったように顎を中心に打ち上げられた男だが、男は確かに梗の攻撃をガードした筈だった。

 

「<幻武:翔破天(しょうはてん)>。打撃の痛みではなく、衝撃のみをお前に叩き込んだ」

 

 弧を描き宙を舞う男は体勢を立て直し着地の姿勢を整えるが梗が着地前に更なる追撃を加える。

 両手を腰に置き、それぞれを地面に平行に構えると男へむかって走り出す。

 男も着地をする前に体を回転させ、裏拳で対抗する。

 その裏拳に今日は両手を居合切りのように開いて合わせる。

 

「<幻武:枝垂桜(しだれざくら)!」

 

 拳と手刀がぶつかり合い金属の様な衝撃音があたりに響く。

 地に足がついていた梗に利があったようで男は体勢を崩しながら着地した。

 対してふらつくことのなかった梗はさらに踏み込み拳を振りかぶり放つ。

 男は片腕でガードするが、拳の衝撃に体勢をさらに続く。

 一回の攻撃だが、打点から立て続けに二度目の衝撃が伝わる。梗が下から斜めに突き上げるように放ったために男の足が地面から離れそうになる。

 そして、三度目の衝撃でついに男は宙へ放たれた。

 

「<幻武:三掌連(さんしょうれん)

 

 だが、踏み込みが甘く、男が遠くに飛ばされることはなくすぐに着地した。

 互いにファーストコンタクトを終え息を整える。

 先の攻防なら梗が優勢なのはわかるが男の目にはまだ、余裕がうかがえた。

 

「これが、幻武か、なるほど、打撃のひとつを取ってもいかなる状況下だろうが相手に攻撃を通せるような技の多彩性だ」

「そういや、名前を聞いてなかったな」

 

 梗が構えをやめ聞くと、男も直立の姿勢に直し答えた。

 

「名乗る性は持っていないが、伐瑠羅(きるら)という名をもっている」

「随分とハイカラな名前じゃないか」

 

 修羅をキル(Kill)と梗は頭の中で字をあてた。おそらく、感じた気の質からも根っからの武人なのだろう。

 正々堂々の仕合に応えるべく、梗は気を引き締め直し再び構えを取る。

 伐瑠羅が構えを取り直すと同時に梗が前に出た。

 右の突きを伐瑠羅が左手でガードすると同時に次手の左足の下段蹴り。しかしこれも、右足を下げた相手に躱される。

 だが、終わらないのは梗も同じだ。左足を軸足に切り替え、流れを止めることなく右足の後ろ回し蹴りに切り替える。

 しかし、軸足の切り替えを伐瑠羅にあわされ、切り替えた左足にローキックをもらう。

 勢いが止まったところにさらに上から叩き込むような拳が降ってくる。

 右の上腕で受け止めるが、重い一撃に耐えられなくなり、後方に飛び、力を流しながら距離を取った。

 

「逃がさん」

 

 伐瑠羅が追撃に出る。地に足をつける前に間合いを詰められそうになり梗が手で薙ぎ払おうとした時だった。

 

 伐瑠羅の動きが一瞬、速くなった。視界から彼の姿を見失った梗が気を切らた瞬間だった。

 固い衝撃が、下から梗を襲った。

 何が起こったのかわからないまま梗が打ち上げられ地面に打ち付けられる。

 頭を押さえながら起き上ると、梗は伐瑠羅の変化に気づいた。

 彼の回りを空気が白味を帯びて漂っていた。そして。

 

(これは……奴の心臓の音か?)

 

 意識してそれを聞こうとしたわけでは無い。確かに梗の聴力なら心臓の鼓動も聞き取れるが、それは、何気なく相対していても聞こえてくるほどの大きさだった。

 それほどまでにドクン、ドクン、という伐瑠羅の心臓のリズムがはっきり聞こえてきたのだ。

 

「これが、伐瑠羅の戦闘スタイル。こいつは呼吸のスペシャリストで、そのリズムを自在に操ることで瞬間的に一部の能力を飛躍させることができる」

 

 女が伐瑠羅の能力を説明する。さらに、続けようとしたところで伐瑠羅が自ら口を開く。

 

「そして、この瞬発力を向上させる呼吸法は<疾風の呼吸(リズム)>」

 

 そういって伐瑠羅が深く構えると、彼を中心に突風が巻き起こった。

 その風を受ける梗の表情は、どこか満足気に見えた。

 

「これだ、必要だった、修羅場で、互角以上との相手との闘い!」

 

 伐瑠羅が風を纏い前に出る。

 梗もそれにあわせ拳を繰り出すが、伐瑠羅が息を吐くと風を巻いて視界から消えた。

 だが。

 

「後ろ!」

 

 地面を後ろに蹴り、後方に肘打ちを繰り出す。

 ガシィ

 と肘に手応えがあった。伐瑠羅がその肘を受け止めていた。

 そのまま押し込もうとするが、そうはいかず、ギリギリと両者の腕が振るえる。

 

「お前に勝った時、俺に何かが見えるかもしれない!」

 

 そういって、両者は互いの肘と腕をはじいた。

 梗の反応が一瞬速く、伐瑠羅の顔面に左の拳を叩き込むが、旋風の呼吸をする伐瑠羅はそれを躱し反撃に出る。

 梗も反応し、防御の姿勢を作るが、伐瑠羅はその状況からさらに強く振りかぶり大きく深呼吸をした。

 

呼吸変換(モードチェンジ)! <業火(ごうか)呼吸(リズム)>!!」

 

 纏っていた風が蒸気に代わり、梗のガードの上から打撃が叩き込まれる。

 

「がぁっ」

 

 ガードをしたにも関わらず梗が弾き飛ばされ、岩壁にたたきつけられる。

 素早く、復帰したが、殴られた腕の辺りを確かめていた。

 

「あの状況で岩壁のダメージを考えずに後ろに飛んだか。だが、正しい判断だ。正面から受けていたら腕の骨が折れていただろう」

「確かに……だが。(判断は正しかったが、俺にはこの判断しか残されていなかった。あのレベルの打撃で骨を折られるようじゃ、この先の奴らには勝てない。もう一つ上の戦い方が必要だ!)行くぞ!」

 

 気を引き締め、梗が伐瑠羅を睨む。それに伴い、桔梗色の妖気の勢いが増す。

 それに応えるかの如く、伐瑠羅も腰を今までよりも深くおろし大きく息を吸う。

 ジリジリと互いに間合いを詰めたところで、梗が腰を落とす。

 それに対応して伐瑠羅がローキックを放つと梗はしゃがんだ姿勢で跳躍する。

 だが、伐瑠羅の間合いで飛んだため、飛翔した梗の体は伐瑠羅の目の前に来る形となり再び、業火の呼吸をとる伐瑠羅の突きを食らうことになった。

 胸のど真ん中に伐瑠羅の突きだ叩き込まれるが、梗は体を横に反らし突きを躱すとその腕をつかみ空中で伐瑠羅の体に足をかけ、そこを起点として伐瑠羅を投げた。

 梗を中心に回転する形で伐瑠羅の頭が地面をたたきつけられる瞬間だった。

 

「呼吸変換。<清流(せいりゅう)の呼吸>」

 

「!?」

 

 梗は、瞬間的に伐瑠羅が軽くなるような感覚を感じた。

 それに合わせ、回転は狂い、伐瑠羅は地面にたたきつけられることなく受け身を取って着地した。

 梗も地面に着地し、さがって距離を取ろうとするが、先に着地していた伐瑠羅がそれを追う形で前に出る。

 伐瑠羅が左の突きを放つがすでに軽く体が宙に浮いている梗は回避できずに防御の姿勢を取り、その突きを受け止めた。

 

 ………トン。

 

 扉を軽くノックするような、そんな打撃とはとても言えない力を梗はガードした。

 攻撃が布石だと思い次の攻撃に対応しようとする梗だが、それは叶わない。

 

(ぐっ、防御を受けて距離を取るつもりで受けたから余計に姿勢が崩れた! しかし、なんだ今のは!? 当たる寸前まで、本気で殴るようにしか見えなかったぞ、あの切り替えしの速さはいったい……)

 

 両足が宙に浮いた梗は伐瑠羅の追撃に対応できない。

 左手で梗の右腕をつかみ自分に引き寄せる。右手で梗の胸倉を掴み、そのまま投げ間合いに入る。

 梗の体が放物線を描いで地面に叩き付けられる。

 

 しかし、伐瑠羅の体には手応えが伝わってこなかった。

 

「?」

 

 梗が頭をたたきつけられる一瞬手前、空いていた左手を地面につき、叩き付けられるのを防いだのだ。

 そして、投げて体勢の崩れている伐瑠羅を巻き込む形でそのままもう一回転。

 

「ぬあぁぁ!」

 

 ついに、伐瑠羅の脳天が地面に叩き付けられた。

 反動で、転がるように梗から離れていく伐瑠羅。梗も、先の一連の流れで息をつきそれ以上の追撃はできなかった。

 

「くっ!」

 

 怒りを表す表情で伐瑠羅が、梗を睨むと、それに反応したように梗が伐瑠羅めがけて走る。その右手には桔梗色の妖気が集中していた。

 伐瑠羅が踏み込むようにして最後の間合いを詰め、先手を打つ。

 それを躱すつもりだった梗だったが、清流の呼吸によって洗練された伐瑠羅の動きは初動が速く、梗の顔面に手刀の薙ぎ払いが入る。 

 

 ガクッ

 

 梗の足腰の動きが止まったところに伐瑠羅が下から突き上げるように顎へめがけて拳を突き上げる。

 

 ジャッ。っと頬を伐る音が聞こえ、鮮血が伐瑠羅の頬へ飛び散る。

 梗は紙一重のところで致命傷を避けていた。

 頬を切りながらも、伐瑠羅の懐に入り込んだ梗は、伐瑠羅のみぞおちに妖力の集中した拳をそえ、それを放った。

 それに対応して伐瑠羅も大きく息を吸い込む。

 

「呼吸変換。<烈土(れつど)の呼吸>!」

 

 激しい音を放ち、梗の拳が伐瑠羅の体を突く。

 だが、鋼のように固くなった伐瑠羅の体には特に変化が見られなかった。

 その体を殴った痛みに顔を歪ませる梗に対して、ニヤリと笑みを伐瑠羅が浮かべた瞬間だった。

 体を貫く衝撃が伐瑠羅の体を吹き飛ばした。

 岩壁に打ち付けられた伐瑠羅は血を吐いてずり落ちた。

 口元を返り血と吐血で赤くしながらも立ち上がる伐瑠羅を見ながら梗は息を整える。

 

「(なんとか、あの固い肉体を貫いてやったか……<幻武〝奥義":虎波(こは)>。初撃の打撃はその後の妖力の打撃を通すための布石だ。それを防いだぐらいじゃ奥義はやぶれないぜ……。だが、初撃は妖力を通しやすくするための役割もある。なんとか、貫けたが、ダメージは半分も入っていないはず……)まだまだ、これからだぜ……!」

 

 

 カチャリ

 

 戦いの様子を傍観していた女は、拳銃に弾丸を装填し始めた。

 

 




どうも、明後日は卒業式らしいですね。自分、中学校自体にそこまで深い思い入れがあるわけではないので泣くことはないと思いますが、卒業生代表の答辞では、家族やクラスメイトを泣かせてやりたいと思います。
さて、制作の話ですが、そろそろ、過去の話のリメイクに手を付けたいところです。まだ、2話しか終わってませんしね。全てではないため、あと10話ちょっとですが、そろそろやらないとまずいですね……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。