伐瑠羅を打ち抜いた拳の様子をうかがう梗。
左手で拳を握り、痛みをごまかそうとするが、そう上手くもいかない。そうこうしているうちに崩れた岩の中から伐瑠羅が現れた。
「まだ、やれるぞ……!」
口元を拭き一気に伐瑠羅が梗に詰め寄る。その動きは風を纏い梗が気づくころには伐瑠羅が拳を振りかぶっていた。
「<旋風の
突風のように突き抜けた拳を梗は紙一重で躱すが、拳が纏った風が梗の顔をザックリ切り裂いた。
風の流れで状態が前に流れた伐瑠羅に梗が反撃に出る。バランスの崩れた右膝に左のロー。
鈍い音と共に膝に蹴りが入るとガクンと伐瑠羅の体が落ちる。
それを確認して、再び体勢を立て直そうとする伐瑠羅の顔に左の突き。
それを伐瑠羅はガードするが、反撃ができずにそのガードの上に梗がもう片方の右手で拳を叩き込む。
「
梗の顔が歪む。伐瑠羅の腕を殴った拳から嫌な音が聞こえてきた。
その痛みに梗の意識が一瞬向いたとき、伐瑠羅が一気に立ち上がり、形成逆転となる。
梗が後方に下がろうとするところを抑え込もうと、伐瑠羅が手刀を振り落す。それを梗は右腕だけで防御するが、拳に続いて前腕からも骨が軋む音が聞こえた。
「ぐっ……」
痛みに伴い、梗の体勢が落ちる。そこに追い打ちをかける形で伐瑠羅が右の拳を振りかぶり梗の顔面に叩き落とす。
だが、梗もそれに反応し、その拳を躱しながら、左の拳でカウンターを伐瑠羅の顔を突き上げる。
梗の攻撃を回避するため、伐瑠羅が大きく息を吸った。
「呼吸変換……」
その瞬間、梗の目が光った。
肘のところから突きの軌道を変え、手刀の先で照準を変える。
「<
梗の手刀の突きが伐瑠羅のエラ元を突いた。
「かはっ!?」
喉を突かれ、呼吸が止まった。
それに、伴い動きが完全に止まった一瞬を梗は逃さず、ボロボロの右拳を伐瑠羅の心臓付近に構えた。
「(もってくれ、俺の拳!)。<幻武〝奥義":虎波>!!」
バアァァン
「!?」
突然の爆音と共に梗の右頬を何かが掠めていった。
驚いた梗は伐瑠羅から離れ、爆音がした方向に振り向いた。
「……っち。外した」
黒革の衣装に身を包んだ女がこちらへ向けて拳銃を向け、銃口からは煙が出ていた。
梗は一瞬、思考が止まったが、伐瑠羅が後ろから攻撃を仕掛けることはなかった。
どうやら、向こう側としても想定外だった様子で暫く、無音の時間が流れた。
それを破ったのは女が再び拳銃に銃弾を転送する動作音だった。リボルバー式ではない拳銃のグリップの下部分から拳銃が入っている物を入れると再び銃口を梗に向けた。
構えると同時に女は躊躇なく引き金を引いた。
梗は銃弾を回避しようとするが、叶わず銃弾が右肩を打ち抜いた。
「うぐっ……。は、速い……!」
通常の方手持ちの拳銃の弾なら、それを躱すのは造作もないことだ。だが、女が放った銃弾は速さも威力も常識離れしたものだった。
肩を打ち抜かれ、動きが止まった梗に女はさらに追い打ちをかける。
次々と引き金を引き、放たれた銃弾が全て梗の体を打ち抜く。
ついに膝をついた梗の眉間に照準を合わせた女だったが、突如、別の方向を振り向き回避行動を取った。
それとほぼ同時に女のいた場所から鈍い音が響き、地面がスプーンですくったように削り取られていた。
「……ウィルディ・T・ディアナ。まさか、
声の主は、岩壁の上からその状況を見下ろしていた。
彼女と目を合わせた梗は表情を曇らせた。
「自分の利益のためにしか動かない奴が何の用だ? バベット」
その梗の目をバベットは不敵な笑みで受け止めた。
「言ってるとおりよ、何となく
「知り合いか?」
「顔見知りなだけよ。というわけで、ウィルディ……私と遊んでもらおうかしら!」
バベットがウィルディへ向けてスペルカードを構えると、無数の黒い真珠サイズの弾幕が飛び出した。
<
無数の弾幕を前にウィルディはもう片方の手にも拳銃を構え、大きく深呼吸をすると、拳銃を指で一回転させ、弾幕へ銃口を向けた。
ウィルディが高速で何度も引き金を引く、そして放たれた銃弾は的確に漆黒の弾を打ち抜いていく。
数で劣るウィルディだが、弾幕より威力のある銃弾は弾幕の海に突っ込むと、数十の弾幕を貫いて弾幕の海に次々と穴をうがっていた。
そして、抜け出してきた銃弾がバベットの体を打ち抜くが、バベットが得意げに手を広げ構えると、銃弾は彼女の体をすり抜けていった。
【すりぬける程度の能力】
弾幕と銃弾の相殺が終わり黒い煙が二人を隔てると、バベットは指で四角形を作り何やらブツブツ言いだした。
「X……Y………Z………!」
「!?」
ウィルディの右腕が殴られたようにへこむ。これはバベットの能力だ。
【空間を打つ程度の能力】
だが、そこからの流れがこれまでのバベットとは違った。
打たれた右腕を確認したウィルディは自分の目を疑った。
「!? 拳銃は!」
自分の右手が確かに握っていたはずの拳銃がなくなっていた。
はっ。と思い、岩壁の上のバベットをふりむと彼女は岩壁から飛び降りてきた。
「へ~結構重いわね、引き金も大分重い。よく、こんなのを連発できたわね」
「私の拳銃……どうやって」
バベットの手には確かにさっきまでウィルディが持っていたはずの拳銃が握られていた。
「【何かを奪う程度の能力】を【空間を撃つ程度の能力】に乗せたのよ、遠く離れた相手を攻撃するだけじゃなく、高度なセキュリティの中でも獲物を盗めるようになったわ♪」
そう言ってバベットは拳銃をウィルディに向けた。
バベットにどれほど銃の心得があるのか分からないが、確実に彼女のそれはウィルディに劣る。
だが、ウィルディは銃を構えることなく両手を広げバベットを挑発した。
「撃ってみなよ」
「何のつもり?」
「最も、あなたに私が打てるならね」
カチッ
表情ひとつ変えずにバベットは引き金を引いた。銃声が辺り一帯に木霊する。
「!!」
バベットは自分の右腕が後方に吹き飛ばされているのに気付いた。
放たれた銃弾は狙いから大きくそれ、岩壁に当たると数百mはあるであろうそれをいともたやすく貫いた。
その様子を見ていた梗も驚きを隠せなかった。
「なんだあの威力は!?」
その疑問に後ろから伐瑠羅が答える。
「ディアナの拳銃は極限まで威力を追及した物だ。通常の何倍もの速さで銃弾を発射できるように改造され、銃弾の回転数、速度共に常識を上回る物に仕上がっている。その分、まるで強力なスナイパーライフルを使用したような反動が使用者に跳ね返る」
伐瑠羅のいうようにバベットは拳銃の反動で10m弱後方へ吹き飛ばされた。
右肩が完全に外れた様子で、左手で右肩を押さえながらなんとか立ち上がった。
ウィルディとバベットが互いに不敵な笑みで向かい合う。
そして、こちらも再び、拳の押収が始まっていた。
「そこっ!」
伐瑠羅の下段が梗の左膝に入る。
だが、梗に喉元を突かれ
膝に蹴りを入れられた梗だが、そのまま、左の拳で伐瑠羅の顎を突き上げる。
伐瑠羅も踏ん張り、反撃に出ようとするが、さらに梗の右肘をみぞおちにもらう。
「がはっ」
血を吐いた伐瑠羅にも梗は連撃の手を緩めない。
左の回し蹴りを伐瑠羅の首に叩き込む。
膝を落とす伐瑠羅だが、そこから意地を見せる。梗の足を掴むと、もう片方の手で梗の顔を掴みそのまま地面に梗の頭を叩き付けた。
だが、やはり流れは梗にある。叩き付けられた頭と上半身に体重を預け、もう片方の足も伐瑠羅の首に叩き込み、両足で伐瑠羅の首を捻りながら頭から地面に叩き付けた。
その反動をいかして梗は立ち上がるが、伐瑠羅はすぐには立ち上がれない。荒い息を整えながら梗は構えを保つ。
「はぁ……はぁ……捻りが甘かった」
「違うな……甘かったのは………お前自身だ……」
こちらも梗以上に荒い息をあげながら立ち上がる伐瑠羅。
「刹那、お前の中にためらいが生じた。あの状況でお前なら俺の首をへし折れた。それを殺す行為に対する恐怖が止めたのだ。仮に俺を倒すころができてもその甘さが抜けないようでは次のステージには進めんな」
そう言って、伐瑠羅は首を鳴らしながらゆっくり梗に近づいて行った。
――――――――――――――――
「危ない……っ」
バベットの脇腹を銃弾が突き抜けていった。
その他にも彼女の全身には銃弾が掠めていった後が赤い線となって残っている。
「それにしてもムカつクわね……」
ウィルディは常に梗の動きを確認しながらバベットと戦っていた。
右腕が使えないリスクがあるとしても舐められているとしか考えられない。それでも、バベットはおされていた。
「ちっ。<
緑色のロープのような弾幕がウィルディの回りを囲んで襲う。
それに対してウィルディは溜めを取り高速で回転しながら銃弾を放ち弾幕を消し去っていく。
やがて、弾幕をすべて消し、回転を止めたウィルディだが目の前にはバベットが左手を振りかぶって構えていた。
「!?」
「心の臓!」
バベットが振り下ろした左手をウィルディはギリギリで躱すが、バベットは左手を振り回す。
ウィルディが片足で着地した瞬間、バベットはその足を蹴り、彼女の体勢を崩した。
「もらい!」
バベットが左手を今一度大きく振りかぶったとき。ウィルディは横目に何かを確認すると、右手で地面を叩き、左上に回避した。そして。
バァァァァァン………。
「「!?」」
驚いたのは、バベットと梗だった。
バベットはただ目を疑うだけだったが、梗は自分の手についた血のもとをたどり言葉を失っていた。
自分の心臓の鼓動が聞こえず、徐々に意識が遠くなる。そして、梗は地面に倒れ伏した。
拳銃越しに梗が倒れる様を確認したウィルディは拳銃を両腰のホルダーに戻した。
「
淡々とした声と銃口から上る煙だけが辺りには見えた。
中学校の卒業式で泣くわけないとおもってたけど、まさか、泣く男子がいるとは思わなかった。
リア友もなく中、感動すら感じなかった俺には感情が一部、欠落していたのだろうか……?。