【東方】<八雲梗>【九尾伝】   作:甘味料

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バベットの介入により、状況が変わった此度の戦い、呼吸に必要な喉を突くことにより伐瑠羅を押し始めた梗だったが、ウィルディの銃弾がその心臓を打ち抜いた。



第六刻:禁術

 

「心拍数0……体温、急激に下降……心肺完全停止による死亡を確認」

 

 怪しげな片目メガネに手を当てながら何やらブツブツ言っているウィルディは梗が動かなくなったのを確認すると、そそくさと帰り始めた。

 

「うそ……」

 

 バベットは動けないでいた。というより、現状を理解できないでいた。

 八雲に式が、幻影の九尾が、拳銃の引き金を引く女の指先だけで殺されたのだ。

 別に、梗に自分が特別な感情を持っていたわけではないが、目の前の光景にただ、言葉を失っていた。

 

「やることはやったから、次のターゲットを狩る為の作戦を考える。さっさと行くよ、伐瑠羅」

 

 ウィルディの声がけに伐瑠羅は無言で頷き、彼女の後ろを続く。

 その伐瑠羅にすれ違う形でバベットが梗に歩み寄る。

 うつ伏せになっている梗を仰向けに寝かせ顔をのぞき込む。

 何とも味気ない死に顔だった。静かに目を閉じ、口元を固く結んだその顔は、自分に対する未練がどこかに感じられた。

 動かないと理性が理解しているが、本能が梗のからだを揺さぶる。

 半分、震えを押さえながら、口角をつりあげ、梗に呼びかけてみる。

 

「ねぇ……な……何、こんな所で寝てんのよ。あんた、ご主人様を守るんでしょ、こんな所で倒れちゃいけないんじゃないの!?」

 

 そこまで言い切って、頭の中でらしくないと思い直した。

 ひとつ、ため息交じりの息を吐いて、立ち上がり、バベットも梗から離れていった。

 

 伐瑠羅とウィルディは歩きながら次の任務について話していた。

 

「次はどっちを狙うんだ?」

「藍とかいう狐かな。単純な妖力は梗より上だけど、今回のような肉弾戦に持ち込めればさほど難しくないはずよ、今回と同じく、あんたが攻めてるところを私が撃つ。それだけ」

 

 ウィルディがそう言ってメガネを外そうと手をかけた時だった。

 

「……?」

 

 生体反応が探知された。

 このメガネには対象の生存を探知させる機能があるが、一度にとれる対象はひとつで今のその対象はというと……。

 

「まさか!?」

 

 振り向き、レンズを注意深くのぞき込むと、レンズが対象に矢印を向け、高い警告音を鳴らしていた。

 その様子を見て、伐瑠羅は体をほぐしなおしていた。

 

「心拍数回復、体温上昇中……。心肺機能………異常なし!!?」

「どういう訳か知らんが、まだ、死んでないということか」

 

 ピクリ

 

 ほんのわずかな動作だったが、梗の胸が動いた。

 そして、次の瞬間。

 

「がはぁっ………っ………はぁ……はぁ…はぁ」

 

 勢いよく、大量の血を吐き出し梗が息を吹き返した。

 ウィルディがすかさず銃を構えるが、それを伐瑠羅が手を差し出して制した。

 打ち抜かれた、心臓部分を押さえながら、ヨロヨロと梗が立ち上がる。

 桔梗色の妖気も徐々にだが濃さを取り戻していた。

 

「確かに死んだはずよ、何? 転生でもしたの?」

「いや、転生したらこうもボロボロの状態では立ち上がらんだろう」

 

 二人が頭の上に疑問を浮かべていると、息が徐々に整ってきた梗がようやく口を開いた。

 

「まさか、発現することになるとわな……<禁符(きんふ):生死超越の(すべ)>。ただの一度だけ、死の淵から蘇られる術。万が一の時の為に紫様にかけられたわけだが、本当に有用されちまうとはな……」

 

「生死を超越するか……とんでもない業だが、生と死の境界を越えようとする事に対して死神が何の見返りも求めないとは思えんな……」

 

 伐瑠羅がそう言い終えると同時に梗の全身に激痛が走った。

 

「!!」

 

 膝をつくように崩れ落ち、口を押さえつける。

 勢いよく血が口から吹き出し押さえつけていた指のすきまから鮮血が飛び散る。

 ウィルディに打ち抜かれた穴という穴からも血がしたたり、梗の全身が紅に染まっていく。

 

「がはっ……っ………ごほっ……っ……っ………あ゛ぁ゛………」

 

 ひとつ、ひとつ、大きく白い息を吐きながら膝を押さえかろうじて立ち上がる。

 姿だけ見ればウィルディに心臓を打たれた時より重症である。

 それでも、二人に立ち向かおうとする梗だが一歩前に踏み出すだけで頭に激痛が走り倒れそうになりながら頭を手で押さえ踏みとどまる。

 意識が飛びそうになるのを抑え込み顔を上げると、目の前には伐瑠羅が立ちふさがっていた。

 彼の体も傷だらけのはずだが、今の梗と向かい合ってみると軽傷に見えてくるほど梗の体は血まみれだった。

 

「生き返るところまではよかったみたいだが、そのような満身創痍の体では何もできまい。それでも、やる気か?」

「……はぁ………ったりめえだ……」

 

 威勢よく言い、振りかぶった拳を伐瑠羅に打ち込むが、入った拳で伐瑠羅の表情が変わることはなく、跳ね上がった伐瑠羅の膝が梗のみぞおちに入ると梗はまた口から血を吐き出し吹き飛ばされた。

 弧を描き地に落ちた梗は苦しそうな顔をして蹴られたみぞおちを押さえていた。

 

「あばらが何本か折れたか」

 

 ゆっくりと梗に近づいて倒れている姿を見下ろす。

 梗の目はまだ、伐瑠羅をしっかり睨みつけているが、苦しそうな表情をしている。

 

「いさぎよく倒れ伏すべきだな」

 

 梗の胸の上に足をかかげ、それを梗に落とす。

 

「………」

 

 梗は右腕でそれをガードするが、ギリギリと少しずつ伐瑠羅の足が押し込まれていく。

 それを梗はもう片方の手で伐瑠羅の足をどかし転がりながら立ち上がる。

 

「無駄だとわかっていても足掻くお前の考えには同意しかねる。何故立ち上がる……? お前の代わりはいくらでも準備できるのだろう?」

「分かんねえな……俺は紫様の式であって道具でしかないが、俺自身の本能が寝かしてくれねえんだよな…………さて、この体はそう長くはもたねえ、早めに片付けさせてもらうぜ」

 

 梗が構え、伐瑠羅とウィルディを睨みつけると枯れかけていた桔梗色の妖気が梗の背中から湧き出した。

 

「問題ないわ……妖気が復活したことは驚きだけど、さっきと比べれば全然大したことないわ、伐瑠羅、さっさと片付けて」

 

 ウィルディが言うと、伐瑠羅が満身創痍の梗に詰め寄る。

 躱せないと読んで梗の膝にローキックを叩き込むが、顔をしかめたのは伐瑠羅のほうだった。

 

「<幻武(げんぶ)剛身弾刀(ごうしんだんとう)>」

 

 動きが止まった伐瑠羅に梗が叩き込む。

 思い切り振りかぶった拳を伐瑠羅は両腕を交差してガードするが拳を腕はきしみをあげた。

 

「!?」

「おぉぉぉぉ!!」

 

 ガードされた腕を押し込むように梗が拳を突き込む。

 伐瑠羅が飛ばされがかろうじて踏ん張る。

 追撃をかけるように梗が左に曲線を描きながらかけてくる。

 迎え撃とうと伐瑠羅が身構えてた瞬間だった。

 

「消えたっ!?」

 

 彼の視界から梗が消えた。そして、伐瑠羅が辺りを見渡すと、目の前にいつのまにか梗が拳を構えて立っていた。

 

<幻武:輝白(きびゃく)

 

 視界から一瞬消える技で瞬間的に伐瑠羅との間合いをつめていた。

 遠くから見ていたウィルディには梗の姿が見えていた様子で伐瑠羅を援護する形で梗へ向けて銃弾を放つ。

 躱せなかった時とほぼ同じ距離だったが、梗はそれを瞬時に見切り、伐瑠羅へ攻撃をしながら銃弾をかわした。

 伐瑠羅のガードに巻き付く形で伐瑠羅の顎を横から殴り飛ばす。

 吹き飛ばされ、地面に打ち付けられた伐瑠羅が跳ね起き、口元の血を拭う。

 

「瞬発力が格段に上昇してるわ、これはあいつの能力なの?」

「違うな、おそらくはアドレナリンとあいつの身をまもろうという本能があいつの爆発的能力を引き出している。このレベルの闘いでは常時アドレナリンが出るはずなんだが、今まで出ていなかったということは舐められていたものだな」

 

 伐瑠羅が梗に向かって飛び出すのと同時にウィルディが後ろから引き金を引く。

 それを梗は銃弾を躱しながら伐瑠羅と組み合う。

 伐瑠羅の肘を梗は数cm体を後ろに引いて躱し伐瑠羅の顔を掴み自分に引き寄せながらそこに膝を跳ね上げる。

 肘が伐瑠羅の顔に入る前に梗はウィルディが放った銃弾を回避した。

 そのために伐瑠羅に襟をつかまれ投げ間合いに入られる。

 梗を掴み引き寄せ、伐瑠羅の一本背負い。

 投げられた梗の体が宙に舞っているところにその背中めがけてウィルディの銃弾が飛んでくる。

 

「!」

 

 梗は投げに任せていた体に鞭を打ち、伐瑠羅の投げより早く足から着地した。

 背中めがけて飛んでいった銃弾はまた空を切ることになった。

 

「……ちっ」

 

 ウィルディは苛立ちを隠せないでいた。

 自分の弾がよけられるのだ、それも他の相手と闘っている奴にだ。

 伐瑠羅のほうも梗におされ、倒されるのも時間の問題だろう。

 そうなれば、次は自分が梗とぶつかるのだ。

 

「面倒なことはしたくない……」

 

 自信はあるひとりでも梗に勝てる自信ならある。なら何故、こうして伐瑠羅と共に梗と闘っているか、それは単に楽をしたかったからだ、自分に忠実に動き、梗を苦戦させられるぐらい強ければだれでもよかった、それがたまたま伐瑠羅だっただけで。

 

「ちっ、また躱しやがった」

 

 伐瑠羅を躱しながら梗を打つのは面倒だった。ウィルディは我慢がだんだんできなくなっていった。

 そして、彼女の中で何かが切れた。

 

 バァァン……

 

 鋭い銃声に鮮血が舞う。

 

「え?」

「……え?」

 

 梗は自分の目を疑った。

 伐瑠羅は自分の耳を疑い、そして、激痛に顔をゆがませた。

 

「あ、当たった」

 

 ウィルディは無関心な顔で伐瑠羅の体に空いた穴を見ていた。

 

「……な、ぜ」

 

 伐瑠羅の問いにウィルディは銃声で答えた。

 ひとつ、ふたつ……銃声が響きわたる旅に弾丸が伐瑠羅の体にあなを穿いていく。

 

「なんのつもりだ、お前」

 

 歯を食いしばりウィルディを睨みつける伐瑠羅。

 

「うるさい、邪魔だから死んで。もう、あんたいらないから」

 

 一気に3回、引き金を引く。

 

「あがっ………」

 

 そのみっつの弾丸は伐瑠羅の脳天を華麗に打ち抜いた。

 白目を剥き仰向けに倒れる伐瑠羅。

 それでも、ウィルディの引き金を引く手は止まらない。

 やがて、完全に蜂の巣になり、伐瑠羅が動かなくなったのを確認すると、ウィルディは彼のもとへ歩みよった。

 

「もう、完全に死んでるけど、誰かさんみたいに生き返られたりしたら面倒だから」

 

 そう言って、再び、伐瑠羅の額に銃口を突き付けて引き金を引いた。

 銃口から細い煙があがる。伐瑠羅は完全に動かなくなり、少しずつ冷たくなっていった。

 

「てめぇ……なんのつもりだぁ!」

 

 その光景を見ていた梗がウィルディを怒鳴りつける。

 

「あぁ、もう五月蠅いな、あんたを撃つのに邪魔だからどいてもらったの。文句ある?」

 

 うつろな目で横目に梗を見るウィルディ。

 

「筋金入りの屑だな、撃ってみろよ。生憎、もう俺の心臓はお前じゃ打ち抜けねえけどな」

「戦う前にひとつ言っておくけど、私の弾丸から逃れられるなんて思わないことね」

 

 ふたりは、そう言って互いに距離を取り始めた。

 

 




拳銃や武術にまったく詳しくないのにこういうのを書くのは無謀なのではと、今更ながら思ってみる。
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