【東方】<八雲梗>【九尾伝】   作:甘味料

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鮮血が梗の体から吹き出す。ウィルディの凶弾を雨のように受け、追い詰められるも梗の執念は弾丸の包囲網を貫いた。



第八刻:課題

 虎波を受けたウィルディは意識を失い、そこに倒れこんだ。

 梗も同様に今までの闘いで瀕死の重傷を負っていた。

 

「……もう駄目か」

 

 やがて、梗も意識を保つのを諦め、その場に倒れ伏した。

 

 ……それから、どれだけの時間が経っただろうか、梗は意識を取り戻し、辺りを見渡した。

 

「やっと、起きたのね」

 

 その声に、まだぼやけていた梗の脳が一気に覚醒する。

 飛び起き、構えを取り臨戦態勢に入る。

 

「お前……っ」

 

 相手を睨みつけたところで梗の頭に痛みが走り、梗は頭を軽く抑える。

 殺気立っている梗に対して相手側は岩壁に背を預け、腰を落としていた。

 

「そう、身構えなくていいよ。大丈夫、もう引き金を引く力も残ってないからさ」

 

 そう言うウィルディの左肩は、関節部分がずれていて、右腕もだらしなく力が入っていない様子だった。

 

「これで私もまんまと任務を失敗したわけだ。はてさて……ご主人様はさぞご乱心かな? いや、それは無いか……」

「主人……(すみれ)について、お前が知っていることがあったら聞かせてもらおうか」

 

 梗の問いかけに対して、ウィルディは虚を突かれた表情をした。

 

「すみれ? へぇ~、そんな名前なんだ、ご主人様とやらは」

「何?」

 

 梗が表情を渋らせるとウィルディが口角を吊り上げながら話し始めた。

 

「私達、出海の刺客ってあんたらに呼ばれてる奴等は大概、その菫っていう奴の顔を知らないよ。そいつの式とかいう(ろん)っていう銀狼が現場で私達の指揮を執ってるんだよ」

「つまり、お前達の殆どは菫について何も知らないってことだな。自分の情報を漏れるのを防いでいるのか、ただ自ら指揮を執るのを渋っているんだか」

「そういうことだね……っ。がはっ!」

 

 ウィルディが勢いよく血を吐き出した。平然を保っていたが、やはり相当のダメージを負っている様子だった。

 

「いてて……節々が痛いよ~」

「やけに落ち着けてるな」

 

 パラノクスやピアは最後の最後まで抵抗してきたが、このウィルディからは既に闘う気力が感じられない。任務を遂行できなかった者がどのような処分を受けるかは本人理解しているはずだが。

 すると、ウィルディがおもむろにまだ使える右手で拳銃を握った。

 脊髄反射で梗が身構え前に出ようとする。

 

「こらこら、そう殺気立たない。もう、勝ち目は消えたんだから。そんな泥臭いこと私の趣味じゃないしね」

 

 血を吐き、意識がどこかへ飛んで行ってしまいそうなのは今も同じはずなのに彼女は、まだ何かありげな笑みを浮かべていた。

 その笑顔からは、バベットのそれともどこか違う読めなさが漂っていた。

 

「ごふっ……はぁ……っ。もう、息をするだけで肺がズキズキするよ、あばらの何本か刺さってるなこりゃ。ねえ、あんたに最後に聞きたいことがあるんだよ」

「……?。 俺に聞きたいこと? 何だ、言ってみろ」

「あんたを殺したのは………私が……その……は……はじめてかい?」

「その通りだよ。殺されたのは、お前が初めてだよ。多分、後にも先にもな」

 

 その言葉を聞いたウィルディは満足そうな表情だった。

 

「フフ……嬉しいね……私があんたの初めてだったとは……殺し屋冥利に尽きるってやつだよ」

 

 そう言って、ウィルディは銃口を自分の頭に合わせた。

 

「なっ! お前っ……」

 

 

 

「その言葉あの世で自慢させてもらうよ」

 

 

 

 最後の銃声の後、沈黙の中に梗は立ち尽くしていた。

 ウィルディの顔を上から覗き込んだ梗は最後に小さく呟いた。

 

「これが死に顔か……」

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

 梗は帰路についていた。

 陽は落ち始め、空も次第に橙色に変わりつつあった。

 少し歩いては体の様子を確認する梗。外見も回復はしてはいるものの塞がっていない穴も幾つかあり、愛用の衣服に関しては出血で色彩がよく分からなくなっていた。

 

「はぁ~まいったな……このままじゃ帰るまでにもう一回倒れちまうかもしれねえな……ん」

 

 ふと梗の目にひとつの人影が映った。普段なら、だれも通らないこの道だそれは目につくだろう。

 その人物の姿は夕日と重なり影で見えなかった。

 ただでさえ、狐の妖である梗の視力は良くない。目を凝らし、その人物が誰なのかをうかがう。

 徐々に影の中から男の姿が見えてきた。光を吸い込むような黒を基調とした上下の服装は藍や梗の服と同じように不思議な模様が金色で描かれていた。半袖の腕には大き目のバンドがとめられていて、それも黒と金でデザインされていた。全身と黒と金で装飾した衣装は、男の美しい銀色の髪を強調させていた。

 男は鍛え上げられた体つきをしていて、全体的に梗より一回り大きい印象だった。

 

「……!」

 

 梗は、気づいた。もとい、思い出した。

 男の顔を梗は初めて見た。だが、男から発せられる、殺気、妖気。それは、梗の脳裏にこびりついていた。

 梗の理性では無く、本能が梗の頭に危険信号を送る。

 

「様子が気になり、気まぐれに赴いてみれば何故その顔が此処にいる」

 

 輝きを失った純白の瞳からは意思をまるで感じない。風に撫でられる柔らかな銀髪は冷たいほどに美しく輝いていた。

 

「出海……(ろん)!」

 

 気が付いたときには梗は臨戦態勢に入っていた。自分の意思で……というよりは龍から自身を守ろうという生物としての本能が働きかけていた。

 梗が構えたのを見て龍もゆっくりと両手を構え始めた。

 腰を踏み込み軽く半身になり、拳を自分の前に構える。その動作ひとつひとつが辺りの大気を歪ませているようだった。

 梗は今日一番の深呼吸を深くも静かに吐き出していた。

 

(あいつ(ウィルディ)に嘘つくことになりそうだ。俺は既に死にかけている!)

 

 梗の戦闘経験は千年に迫ろうという生涯の中で膨大の域に迫っていたが、その中に格上との戦闘というのは数えるほどしかない。

 そのために相手の力を僅かに見誤ることがある。

 だが、今回に限ってそれはあり得なかった。

 火を見るよりも明らか、目の前の相手は確実に自分よりも強い。勝てない。

 理解はしていても、八雲梗としての体は後退を許さなかった。次第に周りの音か聞こえなくなり、自分の振動が全身を駆け巡るのがわかる。

 相手の様子を伺い、無いはずの隙をねらう。

 木に止まっていた一羽の烏が飛び立つのと同時に梗が前に出た。

 

 こちらから見て左側から斜めに仕掛ける、左の拳を振りかぶり一気に突き出す。

 その突きは躱される。そして、相手はそこに反撃を繰り出す。その反撃を梗は紙一重で躱し相手の懐に潜り込む。

 左正拳を躱した上に無理な体勢から反撃した相手はそれいじょう避けられずに防御の構えを取るしかない。

 そこに完全な間合いに入り込んだ梗がその防御ごと虎波で相手の体を打ち抜く。つもりだった。

 

「!?」

 

 梗の思考は自体に処理が追いついていなかった。

 

 梗の体が宙に浮いていた。左拳を突き出すつもりだったはずの体は脳の指令とは関係なく言うことが聞かない。

 そして、ワンテンポ遅れて梗の頬に激痛が走る。

 龍に殴られたのだ。意識が追いつかないほどの速さで梗は龍の攻撃を受けていた。

 今まで味わったことがないほどの痛みを梗が感じていると今度は後頭部に痛みが走る。

 視界がグルグルと回り状況を把握できない。

 

(俺は、何をされたんだ!?)

 

 間髪を入れずに今度は腹部への衝撃、これは直感的に理解できた。

 龍の突きが梗の腹を深くまで突いていた。

 その衝撃で梗が後方に吹き飛ぶ。その刹那、梗の視界には根元から倒れた幹の直径が3メートルはあろうかという大木だった。

 

(そうか……俺は頭を掴まれてあれに叩き付けられたわけだ)

 

 もうすぐで、岩壁に叩き付けられる。梗は衝撃を少しでも和らげようとするが、龍はそれさえも許さない。

 

 ガシッ

 

 梗が吹き飛ぶよりも速く龍は梗と追撃し、岩壁に叩き付けられる前に梗の頭を鷲掴みにする。

 そして、岩壁にさらに加速をつけて梗を頭から叩き付けた。

 その轟音で辺りの鳥たちが一斉に飛び立つ。

 梗が叩き付けられると数10メートルの高さの岩壁に勢いよく亀裂が入り、山のような岩壁に真っ二つに割れ崩れる。

 叩き付けられた衝撃で跳ね返った梗の体に合わせるように龍がさらに梗に拳を叩き込む。

 殴られた梗の体がくの字に曲がり勢いよく血をはきだし再び岩壁に打ち付けられる。

 すでに痛みで意識がなくなりかけた梗がおぼろげに視界を開くと龍の拳が梗の顔面に飛んできていた。

 

(ここまでか……まあ、八雲の式として死ねるんだ。悔やむことはないだろう……)

 

 

 ものすごい轟音と共に砂煙が嵐のように舞い上がり岩壁があった地形はすっかり姿形を変えてしまった。

 

「………」

 

 砂嵐はおさまり龍が拳をもどすとまだ、わずかにたっている脛煙の向こうにふたつの影が現れた。

 

「勝手に死にかけてんじゃねえよ! この狐が!」

 

 その怒鳴り声で梗の意識が覚醒する。

 梗が目を覚ましたのを確認するとその男は担いでいた梗を地面に落とした。

 受け身を取れずに落下し、激しくせき込みながら血を吐いた梗だったが、しばらくすると息を荒らげながらもなんとか立ち上がった。

 

「佐助……」

 

 梗がそういう頃には佐助は龍のほうに向きかえり構えをとっていた。そして既に滝のような汗が頬を伝っていた。

 

「説明しろ、なんだあのバケモンは? あれが、お前が言ってたロンとかいう銀狼なのかい?」

「残念ながら、その通りだ。この戦いは引けねえぜ……退くんなら今の内だ」

「なに、自分一人で勝てるような言い方してんだ! ボロクソにやられてるじゃねえか!」

 

 梗も構えを取り直立不動の龍を二人で迎え撃つが、その状態ですら龍の威圧感は二人に鳥肌をたたせていた。

 そして、龍が二人のほうへ足を踏み出した。

 

((来る!!))

 

「お~い! 何勝手に楽しそうなことやってくれてんだよ。龍~~」

 

 龍がピタリと足を止め、二人も一瞬思考が停止した。

 龍は振り返り、二人は声のするほうへ顔を向けた。

 

「順番は守ってもらわなきゃ困るんだよな~龍」

 

 声の主は木の枝に足をかけ逆様にぶら下がっていた。

 灰色のパーカーとゆるめのスウェット。地味な色合いの服装とは対照的に輝きを放つツンツンの青髪とスカイブルーの瞳、首元には金色のネックレスがかかっていた。

 

「勝手に表に出てもらっては困るな」

 

 龍が苦言を言うが、青髪の青年は気怠そうな表情をしていた。

 

「勝手に対象に手を出しといてその言い分なねぇな。俺が止めなきゃ、絶対、そいつらを片付けてたろ」

「………」

「どうせ、結果が変わるわけでもなしに面倒なことをするんじゃねえよ」

「ふむ、確かにお前の言う通りだ。今回はそちらの言い分に乗ることにしよう」

 

 そう言うと龍は向きを変え、梗と佐助から離れていった。

 青年も木から降り、龍の後ろについていったが、途中、足を止めると二人のほうを振り向いた。

 

「お前が、梗だな。今回お前は、俺の唯一の楽しみだ。だが正直、今のままじゃとてもお前じゃ楽しめねえな。精々、俺をその時まで少しでも楽しませられるように頑張んな」

 

 そう言って笑みを浮かべると、再び向き直って歩んでいった。

 そして、二人の影が消えると梗と佐助は膝から崩れ落ちた。

 

「はぁ……はぁ……。本当にとんでもねえ奴らに目をつけられたもんだ。あの青髪野郎。あいつも俺たち二人がかりでも話にならないクラスの玉だぜ」

「時間はねえんだ……強くならねえと駄目だ……それが今、はっきりした」

 

 そこまで言うと、梗は倒れ伏した。

 

「ボロボロじゃねえか……」

 

 佐助は梗を抱え上げ帰路についた。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

「あのまま俺が梗を始末していればいいものを無駄なことをして」

「無駄ぁ? 今回一番ガッカリしたのは俺だぜ!? あんな雑魚でどう楽しめってんだたく……八雲の式ってのは大したことない奴らなんだな」

「………それはどうかな」

「?」

 

第陸章:インフィニティ・トリガー(完)




高校生活が始まり、もう、完全に小説どころではありません。
当初予定していた、夏の完結も難しいでしょうが、どうか温かい目で待っていてくれればと思います。
ちなみに龍の衣装はモンハンのラージャン装備がモデルになっています。
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