【東方】<八雲梗>【九尾伝】   作:甘味料

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龍に見せつけられた圧倒的な力の差、梗は一体どうすればいいのだろうか……。



第漆章:夢想蟲術
第一刻:蟲嫌い


 (ろん)がゆっくりと歩み寄ってくる。距離を取ろうとするが力を入れるどころか体全体が痛い。

 もがき苦しんでいると龍が自分の喉を掴み体を持ち上げる。

 

「お前では、結果を変えられぬ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っは!!?」

 

 意識が一気に覚醒するとそれと同時に痛みが全身を走り抜ける。

 歯を食いしばる。自分の身に起こったことを整理しようとするが上手く頭が回らない。

 

 

「梗!」

 

 甲高い声を共に小さな物体が自分の懐に飛びんこんでくるのを反射的に受け止めるとその物体が動いているのが分かった。

 見下ろすと綺麗な赤色の頭髪がうかがえた。

 

「焔………」

 

 

「やっと目を覚ましたか」

 

 今度は気品のある落ち着いた声が少し向こうから聞こえると金毛九尾の女性が氷水の入った桶をもって現れた。

 

「藍様……」

「全く……丸三日も寝たきりで……」

「本当に心配したんだぞ~!」

 

 焔が泣きじゃくりながら体を梗に預けてくる。

 目は真っ赤で目下も相当の涙を擦ったのだろう傷が入っていた。

 自分を心配してくれた焔の労をねぎらい優しく撫でてやる。

 

「痛っ」

「梗!」

 

 再び全身を走った激痛に全身を見渡すと血の染みた包帯で体中を巻かれていた。

 

「一体、どれほどの……」

 

「焔がここまで運んできてくれたんだ」

 

「焔が?」

 

 そう言って視線を落とすと、まだ焔は泣きじゃくってた。

 相当心配したのだろう。梗はふいに申し訳ない気持ちになった。

 

「俺の身に何があったんですか?」

 

 藍に問いかける。

 

「……焔がここにお前を運んできてからは今の今まで寝たきりだから特に何かがあったというわけでは……だが、焔がお前を運んできたときは驚いたぞ、ここまでその小さな体で引きずりながらもつれてきたんだから。何でも傷だらけで帰ってきて彼女を見つけ次第玄関口で意識を失ったというからそれは心配もするだろう」

 

 その言葉に俯き考えに浸る。

 これは大きな借りをつくったもんだと思い、まだ泣き止まない焔を落ち着かせるようにもう一度撫でた。

 

「だが、お前があれほどの傷を負って帰ってきたんだから私も驚いたぞ、誰と仕合ったんだ」

「……龍と」

 

 藍が唾を飲み込む。

 梗自身もあの場面で龍に出くわすというのは想定外の事態だった。

 しかし、梗に深く残っているのは……。

 

 龍との闘いでつきつけられた力の差。

 青髪の介入がなければ間違いなくあそこで死んでいたことだろう。

 

「……と、とにかく。無事だったんだ一安心だよ。さて、私も休むとするかな……」

 

 桶を置き立ち上がろうとした藍が突如、支えを失ったように倒れる。

 梗は焔を抱いたまま、もう片方の腕で藍を受け止める。

 すると、藍は梗の腕の中で静かに寝息を立てていた。

 その目の下にはくっきりと隈ができていた。

 

「心配をかけました」

 

 梗は泣き疲れて寝てしまった焔と藍を一緒に布団に寝かせると部屋を後にした。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

 数日が経ち梗の負傷も少しずつ回復していった。

 藍が朝食の準備をしていると……。

 

「手伝いますよ」

 

「梗!」

 

 驚いた藍は梗のもとへかけより梗の体をくまなく触り怪我のようすを調べる。

 

「だ、大丈夫ですよもう。そろそろ体を動かさないと思って起きてきたんですよ。それに、屋敷にいるのにこう何日も何もしていないと逆に落ち着かなくて」

「そうか、心配しすぎたかな。じゃあ、お願いしようかな」

 

 二人並んで準備を進め手早く朝食を完成させる。

 現在、梗が屋敷に常駐しているために橙と焔の分も合わせて5人分の食事をテーブルに並べ揃うのを待つ。

 食事を終えると紫はどこというわけもなくスキマの中に、橙と焔は寺子屋に。

 2人を送り終えた梗は久々の外出ということで里の大通りを散策(変装して)しながら帰宅した。

 

「どうやら仕事をする分には問題ないみたいだな」

「ええ、なんなりと仕事を申付けください」

 

 悪戯交じりの梗の謙譲語に藍の口角も自然に緩んだ。

 仕事ができずに余程ストレスが溜まっていたのか普段以上の速さで家事を片付けていく。

 そのおかげでまだ、陽が高いうちに一日分の仕事が終わってしまった。

 

「清掃、洗濯は終わりましたよ」

「早いな、まだ橙達を迎える時間でもないかな休んでてもらって構わないよ。今、お茶を入れる」

「あっ、私が入れます」

「はいはい、休んでなさい」

 

 立ち上がろうとしたところを藍に上から肩を押さえつけられる。

 テーブルを挟んでゆっくりとお茶を飲んでいると思わず目を細めてしまう。

 それを飲み干すと梗はひとつ大きな伸びをした。

 

「体調は問題なくといったところか」

「まあ、明日からは少しずつ体も動かしていこうかと」

 

 そう言って梗は自分の腕に力を入れる。

 バンドのように巻かれた腕の包帯に血が滲むことはない。どうやら傷口は塞がったようだ。

 

「そうか……それなら」

「それなら?」

 

 梗が聞き返すと、藍は、いけない。といった感じに、はっとした表情を浮かべて口を閉じた。

 

「いや、その……なんでもない」

 

 藍が横目に梗を見つめ返すと、梗はムスッっとした表情をしていた。

 

「うぅ……まだ首は突っ込まないでほしんだが……」

 

「異変ですか?」

 

「謹慎空けの体には少しな……」

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

―最近、飼い犬の様子がおかしくなったり、ある畑の作物が不作になったりと、小さな規模の災いが起こってるんだ。周期的に起こるものとは違っているようで今現在小さな話でも後々大事になっては困ると思ってお前の耳にも入れておこうと思ったんだ―

 

 

「小さな規模の災い……わざわい、か」

 

 翌日、梗はブツブツ呟きながら魔法の森とは反対側にある森林の中を進んでいました。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「えっ、梗が生きてる!?」

 

「…………」

 

「ねえ、本当なの!?」

 

「……うるせぇな、そう言ったろうに、いちいち聞き返すんじゃねえよこっちは夜勤明けで眠いんだよ」

 

 そう言って佐助は麦わら帽子を顔に被りなおした。

 夏の心地よいそよ風が頬を優しく撫でる。

 水田が広がる小さな村は新緑真っ盛り、佐助が寝ている木も枝々に緑の葉を沢山つけていた。

 時間の流れさえゆっくりに感じてしまうこの空間で彼女は体のどこかを動かしていないと落ち着けないほどの様子で佐助の肩を揺らして彼を起こした。

 

「仕事外のあんたはたまにテキトーなことを言うからイマイチ信用できないの! 証拠とかないの!?」

 

 彼女が乱暴に佐助の肩を揺らすと佐助が彼女の腕を掴んだ。

 麦わら帽子をどかしたその顔は少し怒りを含んでいた。

 

「俺は眠いっていってんだよ、梗は生きてるそれ以外には言うことはねえ。てか、お前がそれを知ってどうする? お前、梗になんかあるわけ? バベット?」

 

「えっ?」

 

 虚を突かれた様子でバベットが佐助から手を放す。

 

「気になってることでもあんの?」

 

「べっ、別に。ただ、なんとなく前に死にかけてるのを見たから気になっただけよ!」

 

「あっそ。じゃあ、これから俺は有意義な睡眠をとるから……くれぐれも快眠の邪魔をしないように」

 

 額が当たるほどの距離に詰め寄り無理やりうなずかせると、もう一度麦わら帽子を被り直しひとつ大きく息を吹いて目を閉じた。

 

 

「お~い佐助~!」

 

 ほぼ、同時だった。

 眠気に身を任せようとした佐助を引き上げるように遠くから声が聞こえてきた。

 

「梗!?」

 

 バベットが驚愕の表情を浮かべ口元を両手で覆う。

 その行動に対して梗も疑問の表情を浮かべた。

 

「なんだ? 佐助の奴、快眠中か?」

「まだ、起きてるわよ。それより、梗……あなた生きてたのね」

「ん? まぁ、そうだけど。どうかしたかお前?」

「えっ、いや、別になんでもないわ。それじゃあ、私はこれで」

 

 カクカクした動きで立ち上がると、バベットはそそくさとフェードアウトしていった。

 

「お~い、佐助起きてんだろ」

 

 梗が麦わら帽子を突っつく。

 

「今から寝るんだ、話なら聞くだけ聞いてやるから。さっさと言って、さっさと帰ってくれ」

 

 帽子を被ったまま佐助が答える。

 

「ああ分かった、どうも最近里の方で小さな災いが多発してるんだ。飼い犬が発狂したり、店の経営がガタ落ちしたりと、大した話ではなさそうなんだが、どうも発生の頻度が以上らしい。藍様に聞いた話だと、他にも犬猫じゃなくで人間まで様子がおかしくなってるらしい」

 

「……だったら、それもう『呪い』の仕業とみて間違いねえじゃねえか」

 

 聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で佐助が返答する。どうやら話は聞いているようだ。

 

「そんな小さなこと、かける奴の気が収まったらすぐに収集がつくじゃねえか、俺らが動くほどの話じゃないだろうに……」

 

「いや、そうもいかないだろう。確かに『丑の刻参り』だとかその『呪いの藁人形』は呪いと呼ばれる代物だが、あれこそかける側の自己満足に過ぎず、実際の効果なんてほんとんど望めない。それに、呪術師としてもこれほどの規模で災いを連発できるとは思えない」

 

「……すると何だ梗、お前は相当ヤバイ奴、ヤバイ術でそれらの災いは引き起こされてるとでも言いてえのか?」

 

 佐助が帽子を軽くどかし、片目で梗を見上げる。

 梗は佐助より少し視線を落とし目を閉じて暫く考えた後、ゆっくり口を開いた。

 

「これは俺の推測だが……この災いには『蠱術(こじゅつ)』が使われてると思っている」

 

「!!」

 

 その言葉を聞いて佐助が飛び起きた。

 

 

 

蠱術(こじゅつ)

 

 犬を使用した呪術である犬神、猫を使用した呪術である猫鬼などと並ぶ、動物を使った呪術の一種である。「器の中に多数の虫を入れて互いに食い合わせ、最後に生き残った最も生命力の強い一匹を用いて呪いをする」という術式が知られる。

 古代中国において、広く用いられていたとされる。どのくらい昔から用いられていたかは定かではないが、殷・周時代の甲骨文字から蠱毒は痕跡を読み取られている。

 方法としては「百種の虫を集め、大きなものは蛇、小さなものは虱と、併せて器の中に置き、互いに喰らわせ、最後の一種に残ったものを留める。蛇であれば蛇蠱、虱であれば虱蠱である。これを行って人を殺す」といったものである。

 蟲の種類が多く、蟲達の念が強ければ強い程、術の威力は増すといわれている。

 

 

 

「!?」

 

 急に起きた佐助に対して、梗は暫く茫然としたが、佐助が言葉を発した。

 

「……その件の情報収集、受け持ってやる。……ただ」

 

「ただ?」

 

 

「今は、睡眠が優先だ!」

 

 そう言って、佐助は勢いよく寝転がり、3秒と経たないうちに寝息をたてていた。

 

 




久しぶりです。約2ヶ月ぶりの更新になった九尾伝ですが、今回は自分のリハビリを兼ねた軽めの内容(?)になっています。
来週からは、2週に一回……守りたいそのペース。
というわけで、体調不良で頭が痛いのでこの辺で締めさせてもらいたいと思います。(雨に濡れた体はちゃんと吹かないといけないですね^^;)
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