「はっ! ………はぁぁぁぁ!………ふぅ」
額の汗を拭いながら、ひとつ大きな息を吐いた梗。佐助に言うだけのことを言い渡して帰ってきたわけだが陽はまだ大分高い様子だった。
かなり長い間眠っていた為、鈍った体の感触を確かめてるのもあるだろうか。それとも、何かをしていないとあのことが一瞬で頭を支配してしまうのだろう……。
「龍……」
ずっと寝ていたのだ。つい昨日のようにあの記憶がフラッシュバックを繰り返しているのだ。明確な目標ができたといえるのだろうか、今まで体感したことのない強さの領域、龍から与えられたこのわずかな猶予の中で梗はどこまで自分に磨きをかけられるのだろう。
生物は、死という形のない感じることも理解することもできない無形のものに恐怖し抗う、自分を確実に葬る力を持った敵の前ならその恐怖は間違いなくやってくるのだろう。だが、底の見えない未知数の全く異次元な強さの前に今、梗がやっていることは抵抗なのだろうか。
梗の修行に割く時間は日々増加し限界を超えた体の酷使は疲労という形で蓄積していった。
「……梗?」
ふと、梗の手が止まった。
不意に声をかけられたのだ。
「何だ焔?」
声のしたほうを振り向くと、今日も今日とて不安があるのだろうに、それを上手く言葉にできなくて苦戦している表情の焔がいた。
「なんか~最近、梗の様子がおかしいなって」
「? どこが変なことしてたか、最近?」
心を辺りを胸の内に探ってみるが、そちらからは『I don't know』の回答。
目覚めてから一週間弱、いつも通り焔の世話、八雲家の雑用、そして毎日少しずつの鍛錬。これだけしか身に覚えがない。
「いや、その……変っていうかおかしな事っていうか……最近、修行のやりすぎ……で、その、なんちゃら……なんちゃらは体によくないって」
「オーバーワーク?」
「う~ん、その、上手く言えないんだけど。ひとつ焔にわかってるのは、梗が最近、変に疲れてるっていうのと元気がないってことかな」
そこまで言ってまた、さっき言った事が自分のいいたかった事と違うような気がしてモジモジする焔。
「焔ちゃ~ん!」
今度は遠くから焔を呼ぶ声。
声の主は橙のようで他の妖怪、妖精達も引き連れて手をふっていた。
焔が気づくと彼女もその輪の中に向かって駆けていった。
その小さな背中がさらに小さくなっていくのを見送った梗は空を仰いだ。
「変に疲れてる、か。あいつに心配される日がくるとはな」
夏の空からは太陽の陽が差し込んでいた。
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今日が晴れなのか雨なのかは分からない。でも、地上の見通しはこれだけ良いということはおそらく晴天に恵まれているのだろう。
胡坐をかき、立てた肘、手のひらに顎を乗せた姿勢で地上を見下ろす。
ただ、漠然と地上の景色を見渡しているようだが、どうやら彼の目には見たいものがくっきり映っているようだ。
「ふむふむ、っま、いいんじゃね?」
膝に置いていた肘を離し体の後ろに両手をつき天を仰ぐ。
退屈そうに大きな欠伸をしているとでこを指で突かれた。
「ん」
「またここから下界見物か、
話しかけてきたのは狐だった。
九尾の彼の体は全体的に他の狐同様、黄色の肌色だが、他と違っているのは体毛が黒い所だ、ジャンル分けをするなら
二人合わせて十八本の尻尾が集中する。
「お前の後継者のことが心配なのか? らしくもない」
「そんなことでもないだろ、下界見物なんて前からやってたろ」
「お前程の玉でも無意識のうちにその頻度が増してるのには気づけていないか」
にやけ顔で黒狐がのぞき込むと、男は頬に拳をあて目線をそらした。
「っま、引退してからずっと後輩達のことは気にかけてたのは認めざるをえないな。それに今は時期が悪い」
「ああ、
「どうやって龍に勝つか……そのヒントを与えるのが俺のしご……と………おい」
「ふっ」
2人共何かに気が付いた様子で小さく笑うと黒狐は腰を上げ去っていった。
「ここは天界です。下界の者が気安く盗み見していい場所じゃないんですよ紫様?」
振り向くと空間き切れ目が入り無数の目が奥からこちらをのぞき込んでいる不気味な空間から金髪の美女が姿を表した。
「鋭いわね~」
「スキマ程度で俺たちの目を欺けると思ったんですか、紫様達下界の生き物には多かれ少なかれ穢れがあるんです。あまり長居をするとつまみ出されますよ」
「あらあら、その長居ってどのぐらい?多分数千年は大丈夫だと思うのだけれど、そんな拒絶しないで話を聞いて頂戴よ」
紫がスキマの中から上半身を乗り出し近寄る。
「もし、くだらない話だった場合、俺がお引き取りを願ってもここではそれが正当な行いなんですよ?」
男が紫を睨みつけると男から突風が突き抜けていった。
暫くの間の後、紫はゆっくりと唾を飲み込んだ。
「……相変わらず妖力はいささかも衰えていないみたいね。大丈夫、今あなたが一番気にしていることの話よ」
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
「……という訳だからよろしくね」
「わかりました。近いうちにまた会いましょう」
そういうと、紫は微笑んでスキマの中に消えていった。
「なんて言われたんだ」
タイミングを見計らったように黒狐が雲影から姿を現した。
「聞いてなかったのか?」
「聞き耳は良くないと思って」
「なに、大したことは言われてないさ」
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ここ最近の佐助は一日に割く睡眠の時間が全体の八分の一程に減少していた。昼間中から夜中まで日が昇り始めるころに少し眠ってまた情報収集に奔走するループを繰り返していた。
それほどに梗が口にした『
この日も昼間から里の大通りや裏通りを言ったりきたりしていた。
「ここまでで分かった事といえば……犯人が単独犯だということ、やはり蟲術師だということ、人間だということ、出海とは関係がないこと、活動する時間帯が不規則だということだ。なんとなく人物像も捉えられてきたから後は目撃情報を当たっていけば……」
忍び装束から普通の着物姿に着替えて里の通りにでる。
ここから一番目撃情報を得ているのだ。
「絶対にこの事件のケリは俺がつけてやる。もしかしたら俺が思ってる奴とは違うかもしれないし、違っててほしいってのもあるが、奴だとしたら……確実に俺が殺す」
しらみ潰しに里の人間たちにその犯人の目撃情報を聞いていった。昼時に本能が腹の音を鳴らしてもその意識を振り向かせることはできなかった。
正午からさらに一刻(約2時間)程経った頃だろうか。
「ああ、その人なら今日見たよ」
「ど、っどこでだ!?」
「昼前に畑からお店に野菜を持ってくるときに通り道で見かけたのさ。日陰で切り株に深く腰掛けててね……あの様子じゃまだあそこにいるんじゃないかな」
「わ、わかったありがとうな!」
それを聞き終えると佐助は風のようにかけていった。
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佐助がその話を聞く四半刻程前に梗がその道を通っていた。
特に何の為という訳ではなかった。強いて言えば頭の片隅に蟲術の件があった程度だったのだがその行動がそのようなことを引き起こすことになるとは。
その通りというのは砂利道といった感じで道の両端は背の低い雑草が青々と茂っている様子だった。
人間の里から向かっていくと魔法の森、好き好んでそんな道を通るものは少ないもので常に人気なんて全くない。
この通りの中で唯一目に留まるのがこの木である。
3m前後の一本木とその樹木程の太さのある切り株、その後ろに、かつて何かの目的の為に伐られたであろう丸太が三本、キノコを生やしながら三角形に積み上げられていた。
何気なくそこを通りすぎる予定だったが、梗の目に人影が写りこんできた。
樹木の日陰になる切り株に深く腰掛け俯いている痩せた男がいた。
(なんだ、こいつ?)
梗はその男から違和感を感じた。
理由としては素人目にも分かるこの男のやつれた様子。薄汚れた黒い着物は所々敗れていて、その隙間からは青紫色の傷痣がうかがえた。
それと……。
(微弱だが、こいつ……)
今にも消えてしまいそうな、弱々しい霊力だった。
梗達妖怪が持つ妖力と本質はほとんど同じ霊力は人間が妖怪に対抗する為に必要な大前提物だ。
それは、訓練によって得られることができる魔力とは対照的に霊力は完全にその者の才能に依存する。
その希少な霊力をもった人間がいまここで死にそうな状態だった。
「おい、大丈夫か」
声をかけた。
純粋に心配だったからだが、その声に男はゆっくり顔を上げた。
薄紫の瞳の中心は不気味な血の色としていた。
えらく痩せているようで目のしたにクマがあり見るからに不健康そうだった。
「………」
その目で梗を見つめる男。
(こいつやばいな……)
みなさんはじめまして、私、甘味料(かんみりょう)ともうしま、うわなにをする……。
え~と……。最後に皆さんの前に姿を現したのはいつでしたっけ?
言い訳をしようにも遅れた理由を思い出せませんww。
今回のような長期間の間投稿をしない亀更新ですが、自分自身なんとかこの物語を完結させたいと思っているので、毎回言ってると思いますが、長い目で見てやってください。
それでは、また会える日まで………。