【東方】<八雲梗>【九尾伝】   作:甘味料

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蟲術を扱う者を執拗に追いかける佐助、物語は悪戯にその者を梗の前に仕向ける。



第三刻:厄災

 男が梗を見上げる形で暫く互いに静止する。

 男のプレッシャーに耐えられなくなった梗は男の足元に視線を落とすとそこには一升瓶が置かれていた。

 

(なんだ? あのビン何か入ってるぞ。黒い……液体みたいなのが入ってるな。泥水か?)

 

 気になった梗がビンを注意してのぞき込む。

 泥水のような物の中に浮いている大小様々な物体……。

 

 

 

(!!?)

 

 

 

 

 梗は気づいてしまった。その一升瓶の中身の正体に。

 

 それは。

 

 百足や蠍、蜘蛛などの生物の死骸だった。

 バラバラになった百足の体や、苦痛に顔を歪ませながら白目を剥いているネズミなど、とても見続けられるような代物ではなかった。

 

(こいつ……)

 

 泥水のような黒く濁ったものもおそらく、瓶の中に入れた水にこの蟲達の体液が諸々染み出した結果なのだろう。

 

 

 梗がその様をみて顔を引きつらせるとそれに気づいた男が瓶を持ち上げて説明する。

 

「びっくりしちゃいました? これ蟲毒(こどく)っていうんですよ。まあ、今回は失敗しちゃいましたけどね。蟲毒はこうやって器の中に数種類の蟲を入れて殺し合いをさせるんです。そうして残った最後の一匹を使って呪いをかけるんです」

 

「呪い」

 

「そんな、怖い顔しないでくださいよ。蟲とは言っても虫というよりは蛇だとか百足も使ってるのでどうなんだろって感じですけどね」

 

 元気な声だった。

 その粗末な身なりからは想像できないほどのはっきりとした発声に梗は一瞬キョトンとしていた。

 

「そういえば、さっき僕を心配して声をかけてくれたんですよね。こんな身なりですからただ休んでるだけでも心配されちゃうんですよね、でも大丈夫です。気にしないでください。

 

「……そうか」

 

 男に言われて梗はその場を立ち去ろうとした。

 蟲毒ということはこの男が最近里で話題になっている蟲術師だということは大体察しがついたが、気味が悪いのでこの状況から離れようとしていた。

 蟲毒に失敗したならば、次の被害までは多少の間隔があるのだろう。

 

 梗は男に背を向けてそこから離れようとした。

 一歩、二歩、なるべく意識を向けないように離れる。

 

「………」

 

「………」

 

 何歩目かを踏み込んだときだった。

 

 とっさに梗がよこ振り返るように身をずらした。背後に何かしらの脅威を感じたからだ。

 

「あっ」

 

 男が背後に迫っていた。

 梗がよけたことで男は盛大にからぶった。

 頭めがけて振り下ろされた一升瓶は男を中心に半円を描き地面に当たって砕け散った。

 

 ビチャ。と気持ち悪い音を立てて梗の頬に何かが付着した。

 ゆっくりと片手でそれを取る。

 蠍だか何かの破片と思わしき黒い殻だった。

 それが付着した部分がかゆい気がしたのでもう片方の手の甲で強めに擦る。

 

 梗が男の背中を見下ろしていると男がむくりと立ち上がる。梗よりも近距離で瓶の中身が飛び散ったので大量の蟲の破片が顔についていた。それを男は犬猫のように身震いして落とす。

 その一部が梗のズボンについたので梗はあからさまに嫌な顔をした。

 

 梗と男が向かいあう。

 今度の時間は短かった。

 

「チッ」

 

 あからさまな舌打ちだった。

 ムカつくといった感じに首を傾げ一升瓶の先を持ったまま男は梗に背を向けた。

 

「おい」

 

 梗の制止に男は立ち止った。

 上を見上げだるそうにひとつ息を吐くとひとつ間をあけて男は振り向いた。

 

「どうしました? あっ、そうそう此処は人里から離れてますから帰るときはお気をつけて~」

 

 挑発でもしてるのだろうか、男は何のことやらと言いたげで表情を梗に向けていた。

 

 

 気が付くと梗は男の胸ぐらをつかんでいた。

 

「てめぇ!」

 

「~~~?」

 

 どうしました? そんな感じで男は首を傾げた。

 梗は頬をピクピクさせながら男を睨みつけていた。

 

「さっきは乗り気じゃなかったがお前、最近里で噂になってる蟲術しだろ。個人の気まぐれでなんてことをしてくれてんだ!」

 

「ん~? なるほど、通りで妖怪のわりに僕たち側には肩入れしてない雰囲気だと思ったらなるほど、人間(そっち)側か。理解、理解」

 

「目的はなんだ!?」

 

「嫌がらせ、特に理由のない一個人の気まぐれ」

 

 脊髄反射に近かった。梗は男を掴んで無い方の手を握り男の顔めがけて振り抜いた。

 

 

 躱された。

 

 

「危なっ!?」

 

 驚いた。まさか、この距離で躱されるとは。

 

「いきなり人に暴行を加えおうとしちゃいけないじゃないか」

 

「鏡に向かって言ってみろ」

 

「お前は妖怪だ」

 

「てめぇ」

 

「てか、そろそろ離せよ苦しんだぞ? 胸ぐら(ここ)掴まれてんの」

 

 梗の神経を逆撫でするような言葉を男は浴びせる。

 内心冷静を保ちながらも、純粋に怒りのケージが急上昇していた。

 

「どの道、お前みたいなのがいると人が死ぬのは時間の問題だ。改心する気がねえなら手を出すぞ」

 

「やってみろよ」

 

 その言葉を合図に梗がまた拳を男の顔に放つ。

 今度は拳を男に受け止められる。

 皮の薄い中身に何か骨ではない何かが入っているような手のひらだった。

 

「始めたのはお前だからなっ!」

 

 男が梗の腹めがけて放った蹴りを梗は男を掴んでいた手を離しその腕で受け止めた。

 蹴りとばされる形で梗が後方に吹き飛ばされる。

 

 距離を置いて2人が対峙する。

 

 仕掛けたのは梗。

 地面を蹴って男に近づく。

 もう少しで男が梗の間合いに入りかけるそのタイミングだった。

 

 地面が揺れた。危険を感じ梗は宙返りで距離をとると地面から異形の生物が姿を現した。

 

「なんだ、こいつは!?」

 

 それは、全長5~6mはあろう巨体は丸太のように太い6本の足で支えていた。

 見た目の軸はカブトムシやクワガタムシのようだったが、その生物には左右3つずつの眼球がありそれらがバラバラに立体的に動き獲物を探していた。

 巨大な口元からは異臭をはなつヨダレのような液体が垂れ、白い息を吐いていた。

 クワガタムシを連想させる大顎は胴体とほぼ同じ大きさにまで成長し、六本の足には刺々しい突起が大量にあり全身を黒い光沢が覆っていた。

 

 常人なら吐き気を催すような禍々しい見た目と存在感をその生物?は放っていた。

 

「俺は、蟲毒を呪いの為だけの儀式とは思っちゃいない。数十、数百という蟲達の中から生き残った奴等は底なしの生命力を持っている。ならもし、その生存競争を生き残った奴等同士で蟲毒を行えばどうなると思う? さらに生命力の強い奴は生き残るとは思わないか?

そういて同じことを繰り返せば繰り返すほど、俺たちに比べれば知力なんて無いに等しい蟲野郎どもも学習する。生き残るためには知力は必要ない、より生き残る為の自分を作り上げようとする。進化するんだよ、こうして、俺は何千何万もの蟲毒を繰り返して作り上げたのさ。

お前にそいつら(・・・・)の相手が務まるかな?」

 

「そいつら?」

 

 そう梗が言ったのとほぼ同時だった。

 再び大地が揺れ、梗の後ろから別の生物が現れた。

 全身を白い産毛で覆われたその生物は蜘蛛のようだった。

 だが、鍬形のそれのような大きな体からは百足のように無数の足が生えていて、本来蜘蛛には生えていない牙も生えていた。

 

「気色の悪い化け物どもだ」

 

「そいつらにこれから殺される気分はどうだ?」

 

 蜘蛛型の生物が口から糸を吐く、本来蜘蛛の尻から出るはずの糸だ。

 梗が空中に飛んで回避すると、それを追うように蜘蛛型の生物は無数の足で自分の体を支えながら上体を起こし空中の梗を捉えた。

 右足に付着した糸はその粘着力で梗の自由を奪っていた。

 そこめがけて鍬形の生物が飛翔する。

 飛行機の翼のような羽で突風と騒音をまき散らしながら梗に近づくと梗の背丈よりも大きな大顎を開いた。

 梗はとっさに空中の体を回転させ、大顎のギロチンを躱す。空気を切り裂くよう斬撃は蜘蛛型の糸は噛み切り梗は自由を取りもどす。

 着地すると空から鍬形の生物が急降下しながら再び大顎で噛みつく。

 転がりながら回避すると立ち上がるのを待たずに鍬形は口から唾を飛ばした。

 

「回避できない!?<夢符(むふ):弐重結界>!」

 

 とっさに札を取り出し結界を展開する。

 唾が直撃すると一枚目の結界はドロドロに溶けた。

 

 その隙にも蜘蛛型が後ろから攻撃を仕掛ける。

 巨体を跳躍させ、梗にのしかかろうとする。

 横に飛んで躱すと、鍬形がまたその顎で梗を切り裂こうとする。

 もう一度地面を蹴りギリギリのところで回避する。

 風にあおられた服が一瞬で切り裂かれた。

 

「こいつら!」

 

 後方に飛んで距離を取りながら手の平から弾幕を放って応援する。

 鍬形に直撃して煙を巻きあげたが、すぐに煙のなかから鍬形が梗に向かってきた。

 

「元が蟲だから痛覚が通ってねぇのか?」

 

 鍬形の噛みつきを躱して下に潜り込む、すかさず消化性の唾を吐き出そうとした鍬形の口を逆さ立ちの状態から真上に蹴り上げる。

 

幻武(げんぶ)龍起(りゅうき)

 

 口を蹴られ体が浮きかける、節々が折れたようにバキバキと乾いた音をあてたが、強靭な6本の足で踏ん張っていた。

 

「丈夫すぎだろ」

 

 鍬形が自分の懐に入っている梗を足で薙ぎ払う。

 回避できずに防御するが、薔薇の棘のようにとげとげしい足の突起が腕に突き刺さり、薙ぎ払われる。

 吹き飛ばされ、転がって立ち上がった梗の腕からは血が垂れていた。

 

「くそっ」

 

 そこに追い打ちをかけようと蜘蛛が攻めよる。

 応戦しようと梗が構えを取ったときだった。

 

 

 どこからか飛んできた物体に直撃した蜘蛛が吹き飛ばされた。

 物体は着地すると梗のほうを向いた。

 

「佐助!」

 

「悪いな梗、どうやら遅れちまったようだ」

 

 里の人から話を聞きつけた佐助が駆けつけてくれたのだ。

 佐助は2匹の蟲には目もくれずに男のほうを睨んだ。

 

「梗、悪いがその蟲どもを任せていいか」

 

「ん、あぁ。お前、あいつを知ってるのか?」

 

「名前を厄災之(やくさいの) 夫蟲(ふこ)。よぉく知っている蟲術師だ」

 

 男の名前を伝えると佐助は男のほうへ歩み寄っていった。

 数mの距離にまで近づいたところで佐助は夫蟲を指さした。

 

「夫蟲………」

 

「ん? お前……佐助か、大きくなったじゃねえか」

 

 不敵に笑みを浮かべる夫蟲の言葉に佐助は額の血管が浮き出るほどの怒りの形相をあらわにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「親殺しの罪、償って貰う!!!」

 




約3ヶ月ぶりですね、甘味料です。もう、多分こんなペースでしか投稿できないんじゃないかと思います。
一時期、小説の存在を忘れたりもしてましたが、さすがに40話以上投稿して失踪はしたくないですね、あまり期待せずに応援してくれるとうれしいです。
小説に関しての質問とかをしてくれれば、よろこんで即答するとは思います(ツイッター@kanmiryou909)。

ps.梗君を描いてもらいましたぁ!イラストを描いてくださった、ぽんたさん(http://www.pixiv.net/member.php?id=8203829)、本当にありがとうございました!

【挿絵表示】

絵を描かない自分にはこういったものから物凄いエネルギーをいただいています(みんなも描いていいのよ?)。
本当に本当にありがとうございましたぁ!
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