超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress 作:シモツキ
第五十五・五話 原初と紅の邂逅
リーンボックスにはいない女神候補生の代わりに私がこの国の担当となってから数日。私はオリジンハートが…女神が今居るんだと知ってもらう為に街に駆り出したり、人目に付き易い仕事なんかをしながら日々を過ごしていた。そして今日は、早めに昼食を済ましてクエストに出ている。
「これで…終わりだッ!」
長剣の投擲にモンスターが気を取られた一瞬の隙を突いて肉薄する私。直前で気付いた茄子に顔と手足が付いた見た目のモンスター(多分ネプテューヌは物凄く強いモンスターなんかよりこの系統のモンスターが苦手なんだろうなぁ…)は咄嗟に短い手で迎撃の殴打を仕掛けてくるけど、それを私は蹴り上げて打ち払い、振り上げた両手に短剣を精製。モンスターが下がるよりも早くその二振りの短剣を振り下ろし、二本同時に頭頂部へと突き刺した。
短剣から伝わってくるのは、見た目通りのぐにゅりとした感触。刺された瞬間モンスターは目を見開いていたけど…その数秒後にはだらりと両手を垂らし、私が短剣を引き抜くと地面へ倒れ込んだ。
「ふぅ…これで依頼達成、っと」
数歩下がり、気を抜かずに私が注視する中モンスターは光となって消えていく。消滅はモンスターが死亡した事を表す現象であり…それを見たところで私は短剣を消して一息吐いた。
「お疲れ様です、イリゼ様。こちらのタオルをお使い下さい」
「お見事です、イリゼ様。こちらのドリンクをどうぞお召し上がり下さい」
すっ、と私が一息吐いた瞬間現れた二つの人影。それは私がクエスト対象探しで手を煩わせる事のないよう先んじて目的地入りし、戦闘中は私の指示通り後方待機をしていてくれた二人組の男性……通称兄弟。
「あ、どうも…」
「いやぁ、それにしても華麗な動きだったな。揺れる胸、弾む乳房、跳ねるバスト……あの圧倒的な胸部に、わたしは心を奪われた…」
「僕もだよ兄さん。あのままずっと見ていたらオリジンハート教に改宗してしまいそうだった…この気持ち、正しくあ……」
「相変わらずですね!ほんっとブレませんね!私はベール程寛容じゃありませんよ!?」
『巨乳の女性に倒されるならば悔いはない!』
「そこまでいくと最早天晴れですよ!欠片も尊敬はしませんけどね!」
この二人はそこそこ優秀らしいし、欲望第一とはいえ私達女神に何度も協力してくれてるし、今日だってすぐ討伐を開始出来たのは二人が先に出て見つけておいてくれたからだけど……やっぱり、女性としてちょっとね…。
「はぁ……私軽く見回りしてから戻るので、先に帰っていてくれますか?」
「ご命令とあれば何なりと。クエストの達成報告もしておきましょうか?」
「お願いします…あ、タオルは洗って返しますね」
「いや、それはそのまま返して頂いても…」
「…………」
「…兄者、ここは言われた通りにした方がいいんじゃないかな?」
「その様だな…では我々は失礼を」
私の「ちょっとほんとに斬ろうかな…」という心情を閉口から感じ取ったようで、満足半分名残惜しさ半分みたいな顔して帰還する兄弟。その二人の後ろ姿を見て、私は再び大きな溜め息を漏らす。…兄弟といいガナッシュさんといい、どうして私や皆の周りにいる男の人って大体見た目は良い割に中身が残念なのかな…イヴォワールさんもかなり独特だし…。
「……って、それは私達もか…」
女神化を解いた私は近くにあった岩に座り、半分程飲んだドリンクと軽く身体を拭いたタオルを白い本の隣に置く。私達だって中身の残念さじゃ悲しい事に全く引けを取らないし、これは類は友を呼ぶってやつかな……
「…………え?」
自分達の事を顧みた私は、人の事を言えないって気付いて苦笑いを……浮かべた次の瞬間、驚愕に目を見開いた。だって、そこには白い本があったから。ここにはない筈の、持ってきていない筈の、プラネタワーの私の部屋にある筈のあの本が、いつの間にかあったのだから。
「え……え?…嘘、なんで……?」
ぞくり、と鳥肌が立つのを感じる。あり得ない事が起きただけでも驚きなのに、現れたのはよりにもよってあの時の本。これは私にとって思い入れのある、大切な物だけど……同時に超常現象の切っ掛けにもなった、曰く付きの本でもある。そんな物が今、突然現れたんだから…不思議な事もあるんだなぁ、なんて軽く流せる訳がない。
(……っ…取り敢えず、他にも何か妙な事が起きてないか確認しないと…!)
もしこれが大きな事件の兆候ならば、取り返しがつかなくなる前に動かなくちゃならない。そう思った私は、動揺する気持ちを抑えながら白い本を掴んで……
「…………あ、れ…?」
──立ち上がった時、私がいたのはリーンボックスの森林付近ではなく……見覚えのない、どこか別の空間だった。
*
異空間とでも言うべき場所に迷い込んでから約十数分。私は、思考を巡らせながらこの場所の探索を行っていた。
「……やっぱり、何か違う…」
どういう訳かこの場所へと迷い込んだのだと気付いた当初、私はここをあの場所だと…『創滅の迷宮』だと思った。…けど、そことここは何となく違う気がする。具体的にこう、って説明は出来ないけど…感覚的に、一緒ではないように思える。
じゃあ、どこなのか。現段階でその手がかりとなるのは、ここが圏外でシェアエナジーの配給が感じられないという事だけ。シェアエナジーの配給が感じられないって事はつまり、信次元の外なんだろうけど…数多ある可能性の中から一つ抜けた程度じゃ殆ど意味がないし、むしろシェア配給が感じられないのは不安感を掻き立てられてしまう。女神にとってシェアは、文字通りの生命線なんだから。
「…とにかく、まずは情報を得ないと…」
何も分からない場所、感じられないシェア、そんな中で一人の私。現状不安要素しかないし、その不安で心拍もちょっと上がってしまっている。……けど、あの時よりはずっと落ち着いている。例え楽観視出来る状況じゃなくても、一前にも同じ様な事があって、その時は解決まで持っていけたって経験があるおかげか私の心には余裕があった。それに……ほんのちょっぴりだけど、この状況に『期待』を抱いている私もいる。
(もしかしたら、もしかするのかな…)
私が心に思い浮かべているのは、ある友達の事。今と同じ様な出来事の時に出会って、短い間だったけど一緒に頑張って、その中で仲良くなって…最後に、またねって言って別れた、小さな友達の事。…その友達に、ここでなら会えるのかもしれない。確証はないし、またこんな形で会う事になるのかって思いもあるけど…それでも、次会えるのがいつか分からなかった相手に会えるかもって思ったら、私は期待を抱くのを抑えられない。
不安だらけなこの場で、その期待は私に勇気を与えてくれた。……でも、その期待は同時に私の警戒心を薄れさせてしまってもいた。
「なっ!?くっ!」
突如感じた、身体の底からの危険信号。何が、とかどうして、とか思うよりも先にその感覚に従う事を選んだ私は、バスタードソードを手元に取り出し振り向きながら防御。その瞬間、バスタードソード越しに衝撃が走る。
「──へぇ、防ぐんだ。不意打ちだったのに」
私へと攻撃を仕掛けてきたその人は、防がれたと見るや否や後ろに飛んで構え直す。その手にあるのは、杖とそこから伸びる氷の剣。
「急に斬りかかってくるなんて、一体……」
相手が即座に次の攻撃を放ってくる様子はないと見た私は、こちらも武器を構え直しながら相手を見る。そしてまず、私を襲った相手が少女である事に気付いた。
ポニーテールで結んだ飴色の髪に、深みを感じる青と水色の中間のような瞳。不敵な笑みを浮かべる彼女は少女というより幼女と言うべき背格好をしていて、手に持つ氷剣さえなければ外見相応の元気な女の子にしか見えてこない。…と、そんな見た目を持つ少女に対し、私は驚いた。でも、それは幼い子がここにいたからじゃない。そうじゃなくて…私が驚いたのは、少女の見た目が……
「……え、ラムちゃん…?」
ルウィーの女神候補生、ラムちゃんに瓜二つだったから。勿論髪型や服装なんかは違うから完全に一致している訳じゃないし、雰囲気を加味しなければ当然双子であるロムちゃんとも少女は似ている。…まぁ、どっち似かは置いておくとして…謎の空間で、突然襲ってきた相手が数日前まで一緒に旅をしていた仲間の一人にそっくりだったんだから、驚かずにいられる訳がない。
「いや、でもラムちゃんがこんな所にいる訳が……」
「考え事してる場合?てりゃぁッ!」
この少女はラムちゃんなのかそうじゃないのか。ラムちゃんなら、何故ここにいるのか。そんな事を自然に考え始めた私だけど…少女はゆっくり考える時間をくれはしなかった。
地を蹴り、弾丸の様に飛び込んでくる少女。今度は相手の存在を認識しているし、意識も戦闘のそれへと切り替えていたから慌てる事なく放たれた斬撃を受け止められたけど…流石に楽々ガード、とはいかない。
「ぐっ…見た目に反して、重い…ッ!」
攻撃自体先の一撃より鋭いものだったけど、それ以上に私は相手の見た目と威力のギャップに苦しめられる。この見た目ならこの位だろう、という脳の無意識な推測に惑わされてしまう。…まさか、普段は相手の推測を崩して戦う私が逆に崩されるとは……。
「これも受け止めるんだ!やっぱり思った通りだ、おねーさんは、強い人ッ!」
「っ…ど、どうしてこんな事をするのッ!何が目的!?」
私の内心はどうあれ少女からすれば攻撃を防がれたというのに、その表情は欲しかった玩具を見つけた子供の様に輝いている。そんな少女に反して私は度重なる驚きで冷静さを欠き始めており、質問を叩き付けながら半ば力任せに弾き返した。
「わああー。…なんて、ねっ!」
押し返された少女は予想より大きく…見た目以上の力を持っていると知る前ならば予想通りに後方へ飛んでいく。その最中で一回転する少女に対し、私は追撃でもすればよかったんだけど…動揺から来る『相手の情報を得たい』という気持ちに沿って様子見してしまったのがいけなかった。
風を切る音と共に少女の手から放たれた何か。近距離、小さな物体、女神化していない状態と様子見しようとしていた事に加えて色々なマイナス要素の加わった状態では到底回避行動なんて間に合わず……ずぶり、とそれは私の脚へと突き刺さった。
「い…ッ!しまっ、何が…!」
「あはっ!もーらいッ!」
左脚の大腿部に走る鋭い痛みに身体を屈める私。少女はその瞬間嬉しそうな声を上げた。
女神化していない今の私にとって、脚の負傷は機動力の大幅低下に直結する。相当な強さを持つ少女を相手にこのディスアドバンテージは致命的だけど……そのおかげで私は、疑問も動揺も振り切り意識の全てを戦いに注ぎ込む事が出来た。
屈んだ体勢のせいで姿は見えないけど、少女が勝負を決めにかかってくるのは声から分かる。だから私は顔を上げよう、避けようと叫ぶ恐怖心を押さえ込み、一瞬よりも更に短い刹那の時間を全神経で認識し……ここだと思った瞬間バスタードソードを振り出した。
「……」
「……やるじゃん」
突き出す形となったバスタードソードのすぐ先にあるのは、少女の首元。この時少女も氷剣を振るっていたけれど、体格差もあって武器と身体との距離は間違いなく私が勝っていた。…この子が選んだのが遠距離攻撃だったら、立場は逆だったかもしれないけど、ね。
「…っはーあぁ、勝てると思ったのになぁ」
首元に切っ先を突き付けたとはいえ、相手はまだまだ万全の状態。油断はならないと思って睨み付ける私だったけど…少女は杖を手放し、残念そうにしながら座り込んだ。敵の剣がすぐ側にある中で座り込み、両手を上げた少女は、とても逆転の策を巡らせてるようには思えない。…って事は、つまり……
「は、はぁ…もう敵意はない、って思っていいんだね?」
「無いよ、無いでーす。降参ー」
「そ、そっか、急に来たと思ったら終わりも急だね…いつつっ…」
いきなり襲ってきた相手とは思えない程軽い感じで降参宣言をする少女。その様子があんまりにもあっけらかんとしていたものだから、私もそれで緊張感が抜けて(もう戦うつもりはないって確信して)……脚の痛みを、より鮮明に感じるようになった。
「あー。おねーさんストップ。無理に抜いたらよくないわよ」
「いや、そもそも君が投げたんでしょ!?」
「てへっ☆」
「か、かわいい…って誤魔化されないよ!!」
一度は剣を振り出すのと同時に身体を起こした私だったけど、今は痛みで再び屈んで膝立ち状態に。ともかくまずは刺さった棒状の物を引き抜かないと、と思ってそれを掴むと…そこで少女が声をかけてきた。しかも私の言い分に対し、少女がしてきたのはまさかの誤魔化しだった。……お、おねーさん呼びはグッとくるものがあるし、時々ネプテューヌにも似たような誤魔化しを図られる私だけど…流石に奇襲からの棒状の物ぶっ刺しを「てへっ☆」で流される程甘くはないよ…!
「ごめん、ごめんってばー。ほら、見せなさいよ」
「……信用薄いんだけど」
「あーもーめんどくさい!パラライズ!」
「へっ、ちょぉぉおぉぉおぉ!?」
相手の身体に直接干渉する類いの魔法は成功させるのが難しく、女神に行うとなると難易度は更に上がる(ブラン談)…というのが私の知る干渉系魔法だけど、少女は超一流の魔法使いなのか、それとも違う性質の魔法を使っているのかあっさりと私の身体を麻痺させてきた。あば、あばばばばばばば…。
(か、かおす先生じゃないよ…じゃなくて…まさか、騙された……!?)
魔法で身体の自由を奪われた私は、一気に血の気が引いていく。全力を尽くせば多分僅かに動く程度の事は出来るだろうけど…この状況じゃ全く動けないのと何も変わらない。
姿勢を直した少女が手を伸ばす中、私はどんどん心拍数が上がっていく。不味い…不味い不味い不味い不味い!このままじゃ私……!
(……っ…こうなったら一か八か、近距離射出で…!)
精度も質も落ちるけど、シェア圧縮技は今の姿だって使える。状況的にも少女の無力化だけを行うのは出来そうにないけど…こうなってしまえばもうそんな悠長な事は言っていられない。だって、死んでしまえば元も子もないんだから。…悪いけど、そっちがその気ならこっちだって相応の事を……
「えいっ」
「〜〜〜〜〜〜ッッッ!?!!?」
…しようとした直前、少女は私の脚に刺さった棒状の物を一息に引き抜いた。それは結構深く刺さってたし、少女は勢いよく抜いてきたし…何より抜かれるとは思っておらず痛みに備えていなかった私はあまりの痛みに悶絶寸前。しかも私の身体は反射的に転げ回ろうとするけれど麻痺してるせいでまるで動かず、結果痛みを逃がす事も出来ずに私は膝立ちで声にならない叫びを上げるばかり。…ま、まさかこの子…私をすんなり殺すつもりはないって事……!?
ただ殺せばいいところにわざわざ苦痛を与えてくる少女へ恐怖を抱き始める私。その間にも少女は何かを私にかけてくる。
「ナチュレキュア、ブースト」
顔を動かせない私は少女が何をしているのか分からず、声と脚への違和感に更なる恐怖を煽られる。き、傷口から毒でも送り込んでるの…?それとも私の脚の神経を駄目にして歩けない身体にしようとしてるとか…人の身体を内側から食い破る魔導生物を入れようとしてるとか……ひッ…嫌、嫌ぁ…!
どんどん恐ろしい可能性を思い浮かべてしまう私は、段々涙が出てきそうになる。その内「苦悶の末に殺されるなら左脚を切り落とした方がいいんじゃないか」なんて思い始めて、切るなら左脚のどの部分からがいいのか考えようとして……いつの間にか痛みが大分引いている事に気付いた。
(へ……?)
事態がよく分からない中、痛みに続いて麻痺も弱くなっている事に気付いた私はゆっくりと目線を下へ。すると見えてきたのは、治癒魔法の光と塞がりかけてる脚の怪我、そして汗をかきながら治癒をかけてくれている少女の姿だった。
「ふぅ…ふぅ……よし、と…リフレキュア。…これで痛まない、わよね?」
「……あ、うん。ホントだ、もうなんともない。…抜かれた時すっっっごく痛かったけど…」
私が見ている間にも治癒は続き、遂には傷が完治の状態に。それと同時に身体の痺れも取れて、私の身体は元通りに。……って、事は…今のって、私に苦痛を与えようとしたんじゃなくて…円滑に治癒を進めてくれてただけって事…?
「ごめんなさーい。おねーさん強そうに見えたから、つい」
「本当に反省してるの?…いや、うん、いいけど…」
「……おねーさん案外お人好し?」
「いくら私でも流石に怒るよ!?」
またあっけらかんとした態度を見せる少女は、やっぱり敵意や悪意を感じられない。…それが半分、自分でも驚く程の勘違いで怯えてしまったという複雑な心境半分で私は少女を責め立てる気にはなれず、パーティーメンバーにからかわれた時のような気分になってしまった。…そんな私に対してからかいを重ねてきた瞬間はちょっと「生意気な…」とか思ったけど。
……と、そこで当初の目的を思い出す私。
「あ、そうだ…ここ、どこだか知ってる?」
「うん」
「そっか……まあ流石に知らない…知ってるの!?」
こんな入り方からしてあり得ない場所を少女が知ってるとは思えないけど、それでもまずは聞いてみるのが人付き合いというもの。だから私は一応少女の返答を聞いて、すぐにじゃあどうしようという話に……と思ったら、少女の回答はNOじゃなくてYESだった。
「うん。ここは、次元と次元の狭間にある、何次元でもない欠片みたいな場所。たまーにおねーさんみたいな迷子がいたりするけど、基本的に何もないところよ」
「そ、そうなんだ……うーん、どうやって帰ろう…」
一瞬なんちゃって、って言うのかとも思ったけど…どうやら少女は本当に知っているみたいだった。何次元でもない欠片みたいな場所に、偶にとはいえ迷い込む人がいるのかと思うとかなり恐ろしくなってくるけど…それよりまずは帰る方法。そう思って私は白い本を取り出してみる。
「いつの間にかなんか持ってたし、これが原因かなぁ…」
「…おねーさん、それ、どこで拾ったの?」
正しくは持っていたというか手元にあっただけど…それはこの際どうでもいい事。また私はこれに飛ばされたのかと眉をひそめつつ本を見つめていると…少女は、何か思うところがあるような表情をしていた。それを見た私は、一瞬考えて…素直に話す事にした。
「え?これは……ある子との大切な約束が詰まった本なんだ」
「……!」
素直に、とは言っても一から話していたらキリがない。だから掻い摘んで…というより私にとって一番大事な部分だけを抜き出して答えると、少女の表情は驚き…それにどこか安心したかのようなものに変わった。
「…ね、おねーさん。わたしがおねーさんの元いた場所に返してあげよっか?」
「え…?で、できるの?」
「うん!ただ、ちょっとだけ時間がかかっちゃうかもだけど」
「ううん、それでもいいよ!お願いできるかな?」
少女の口から発せられたのは、思ってもみない言葉。すぐには出来ない、と少女は付け加えたけど…前の時は今よりずっと時間がかかったんだから、数時間と経たずに帰還の目処が立っただけでも僥倖というもの。それだけで嬉しくなった私は、さっきまでの不満を全部チャラにしてしまう気持ちで提案してきた少女へとお願いした。
そうして少女は作業を開始。私が本を渡すと少女は魔法陣を描き、まるで触媒にでもするかのように魔法陣の中心へと本を置く。
「ん。これで後は待つだけよ」
見返りも求めず転移魔法か何かを準備してくれる少女に私は感謝の念を抱いたけど…同時にさっきの疑問も再び膨らんできた。二度の攻撃を受けた後と違い、今は多少だけど少女の人となりを知れた訳で、そうなるとやっぱりある仮説が浮かび上がってくる。…まぁ、少なくとも信次元の二人のどっちか(特に妹の方)、って事はないだろうけど……
「氷属性に、魔法…やっぱりあなたは「はいストーップ」え?」
少女が私の思い浮かべた相手なのか、そうじゃないのか。それを確認、或いは断定しようとした私は…言い切る前に止められた。私がそれに目を瞬かせる中、少女はちょっと大人びた顔で言葉を続ける。
「おねーさんはわたしの事知ってるかもしれない。けど、おねーさんが知ってる"わたし"とここにいる"わたし"はきっとたくさんの事が違っているはずよ」
「う、うん」
「わたしの自意識過剰かもだけど、おねーさんはその名前で呼んだら、きっとわたしがこうなっちゃった理由も気になっちゃうかもでしょ?だから、良いじゃない。ここにいるのは、名前も知らないおねーさんと、名前も知らないわたし。それでさ」
そう言って、私に同意を求めた少女は…私のよく知る顔だけど、私の知らない表情だった。
どうして少女はそう言うのか。少女の言う通り『おねーさんが知ってる"わたし"』の事を思っての言葉かもしれないし、『わたしがこうなっちゃった理由』というのをさっき出会ったばかりの私には語りたくないのかもしれない。ただ、どちらにせよ…少女の言葉の中には真摯な思いがある事は、よーく伝わってきた。……そういえば、あの子の時も同じ様な事があったな。勿論あの子が嘘を吐いてるとは欠片も思ってないし、私もそれが真実だって思ってるけど。
「そこまで言うなら…これ以上は何も言わないよ」
「ん、どーもね。……代わりにって言ったらなんだけど、わたしの事について以外なら答えるよ?」
私が少女の言葉に首肯すると、少女の顔はすぐに元通りになった。その後少女はちらりと魔法陣の方を見て…質問どうぞ、という旨の言葉をかけてきた。…うーん、この子の事以外っていうと……
「…あ、なら、さっき私に投げたあれって、なんだったの?鉄の針か何かだったのはわかったけど…」
「あぁ、あれ?まぁぱっと見じゃ針か何かに見えなくもないわねー」
気になる事、となると思い浮かぶのは先程刺さった鉄針らしき物の存在。あれって…ちゃんとした武器だよね?適当に使えそうな物転用したとかじゃなくて。
「って事で忍者じゃないけど忍者道具セットー。、じゃじゃーん」
「い、色々出てきた……っていうか多すぎない!?それにその大きな手裏剣とかどこからだしたの!?」
「ふふん、おとめのヒミツってやつよーっ♪」
「えぇ…」
質問を受けた少女が見せてくれたのは、サブカル業界じゃよくある割に言及はあまりされない『どこからか物を取り出す能力』…じゃなくて、忍者道具セット。各種手裏剣やら苦無(漢字にしちゃうと一瞬なんだか分からないね)やら鉤爪に……後何かの玉と、小さい忍者アイテム店なら経営出来そうな位少女はたくさん出してきた。…マベちゃんもこれ位持ち歩いてるのかな…後今、私の言葉が誰かとシンクロしたような気がする…。
「わたし忍者ではないけど、結構使い道あって便利なのよー?」
こっちの「えぇ…」って反応は気にも留めず、少女は広げた道具の内の一つ……正に先程私へ向けて放った、棒状の武器を手に。
「おねーさんに使ったこれは慣れるのちょっと大変だったけど、色んな場面で役に立つし」
「ああ、これって手裏剣の一種だったんだ。でも手裏剣って言うとこっちのイメージが強いよね」
「あー、確かにねー」
少女は具体的にこれは何だ、と言った訳じゃないけど…その左右に手裏剣が置かれているのを見て気付いた。…そうだ、元々マイナーな上に使おう、って機会もなかったから分からなかったけど……これ、棒手裏剣って名前の投擲武器じゃなかったかな?よく見る手裏剣がブーメラン(戻ってくるやつじゃなくて狩猟とかに使う方)に近い武器だとすれば、こっちは投げナイフに近い武器…とかだったよね。
そして物珍しさで私が棒手裏剣を見つめていると…少女はぱっと何かを思い付いたような表情に。
「んー…そうだ!急に襲ったお詫びにはならないだろうけど、おねーさんにこれの打ち方のコツ教えてあげる!」
「え?それって……棒手裏剣の?」
「そうっ。覚えたらおねーさんも忍者ごっこできるよ!」
「それはごっこで済むことなのかな…?」
にんにんって人差し指と中指を立ててみるとか、玩具屋で売ってるようなラバー手裏剣を打つとかならごっこだろうけど……マジの手裏剣投げちゃったら、それはもうごっこじゃなくて訓練な気がする。……けど、それも悪くないかも…その時私は思った。
普段は遠隔攻撃がしたいなら適当な武器を投げるなり飛ばすなりすればいいし、手投げにしたって大概は投げナイフや短剣で事足りる。でも、だからこそ…色んな武器を使って戦うスタイルに移行しつつある私ですら簡単には気付けなかった武器なら、他の人だって即座に気付いて適切な対応を取るのは難しい筈。そんな武器を、奇策としてピンポイント運用出来るようになれば…この戦闘スタイルはより洗練されるし、私はもっと強くなれる。……なんて考えていた私は、自分でも知らず知らずの内に少し頬が緩んでいた。…こういうところがある辺り、やっぱ私も女神だよねぇ。
そういう事を考えていた私は返答をしていなかったんだけど、少女はもう乗り気になっていて勝手に指導を始めてしまった。…ま、乗り気になってたのは私もだけどね。
「ふっ。…こうかな?」
「おー。おねーさん飲み込み早いわね!もしかして忍者の生まれ変わりだったり?」
教えられた通りに棒手裏剣を投げる事数十回。棒手裏剣を使う事こそ始めてだったけど、これまでも武器投擲は何度もしてきたからか身体は作法をすんなり覚えてくれて、棒手裏剣は自分でも思っていた以上に上手く飛んでくれるように。
「う、うーん、流石にそんな事はないはず…忍者の知り合いもいるし…」
「忍者の知り合いねぇ。いいなー、せっかくならわたしもなんか秘伝忍法とか教わってみたいかも。ごくらくせんじゅけん!なんてね!」
「教わってみたいっていう割には技名が具体的!流石に私の知り合いでもパイル付き手甲は使ってないから難しいんじゃないかなー…」
「むぅ、そっかー。残念」
原初の女神の複製体は、なんと忍者の生まれ変わりでもあった!……なんてなったらびっくり過ぎだね。だとしたら私の過去が更に複雑になっちゃうよ。
……にしても、いつの間にかこの子と打ち解けちゃったな。最初はいきなり襲われたし、途中ヤバい子かもとかも思ったけど…ちょっと、いやかなり遠慮がなかったり説明足らずだったりするだけで、普通にいい子じゃない。まだ疑問はいくつか残ってるけど…それはおいおい訊くか話してもらうかすればいいよね。だってもう、私はこの子の事を友達だって思ってるんだから。
と、私が思っていたその時、視界の端に魔力の光が映り込む。なんだろうと思ってそちらを向くと…そこでは魔法陣が輝きを放っていた。
「おねーさん、もう帰れるわよ。知らないとこに飛ばされる〜なんてことにはならないと思うから安心してね。たぶん」
「多分!?なんだろうすっごく不安になってきたんだけど…」
「だいじょーぶだいじょーぶ!ほらほら、早く帰った方がいいわよ?次元によっては時間の流れが違って、ここでの数分があっちでの数日になったりすることもあるんだから」
「えっ、じゃあこれくぐって戻ったら色々が終わった後だったり…?」
「それか世界が滅んでたりしてね!」
「笑えないよ!?止めてよね!?」
帰るという事はつまり、この子とのお別れにもなる。折角仲良くなれた相手ともうお別れになるのはやっぱり寂しい事なんだけど…そんな気持ちにはさせまいと言わんばかりに少女はキレッキレのブラックジョークをぶっ込んできた。このタイミングでここまで容赦無いボケを入れてくるなんて…この子はうちのパーティーでも十分やっていける逸材だよ……。
……ふふっ。
「もう…でも、色々ありがとうね」
「襲ってきた相手にお礼って変じゃない?」
「でも、ちゃんと謝ってくれたし、こうやって帰り道も用意してくれたでしょ?だから、ありがとう」
「む…どういたしましてー」
お礼を言われる事に少女は釈然としていない様子だったけど…私は重ねてありがとうを口にする。…だって、お礼って言う側が感謝を伝えたいから言うものだもんね。勿論社交辞令とか媚びとかで言う事だってあるけど……少なくとも、今は違う。私は心から感謝をしているし、ありがとうって伝えたかったんだから。
少女に促され、魔法陣の中へと入る私。その中で本を拾い上げると、魔法陣が放つ光が強くなっていく。
「それじゃあ、…えっと」
「?…ああ、そういえばおねーさんに自己紹介してなかったわね」
一度おふざけで遮られたとはいえ、私の名残惜しいという思いは変わらないし、出来るならばもう少しこの少女と話していたい。…でも、少女の言った通りここでの時間と信次元の時間が同じとは限らない。実際創滅の迷宮では時間経過に差があったんだから、ゆっくりしていたら冗談じゃなくて本当に世界が滅んでいた…なんて事になりかねない。だから私は後ろ髪を引かれる思いをしながらも帰る事を決めて、最後に挨拶を……しようとして、なんて声をかけたらいいのか困ってしまった。え、えっと…少女、って呼んだらおかしいし…さっきも言ったけど君とか貴女が無難かな……
「──わたしはエスト!もし今度会うことがあったら、わたしのお姉ちゃん共々宜しくしてあげるわ!」
「え…!?ちょ──」
……私が迷っていたその瞬間、少女は…エストちゃんは元気一杯の笑顔で言った。お姉ちゃん共々、って。
それが何を意味するのか。そんなの、分からない訳がない。でも分かったとしても驚きは隠せなくて、驚いてしまった私は声を出すのがほんの少し遅くなってしまって……私は一言すら満足に言えないまま、光に包まれ信次元へと戻っていった。
*
「……っ…」
眩い光が収まった時、私がいたのは日が暮れつつあるリーンボックスの森林付近にいた。……私の在るべき場所に、戻っていた。
「…戻って、これたの……?」
無事に帰還出来てほっと一息…といきたいけど、まだ安心は出来ない。私がいるのは次元と次元の狭間に飛ばされる前の場所に見えるけど、信次元にそっくりな別次元かもしれない。仮に信次元だとしても…かなりの時間が経ってしまっているのかもしれない。
「…で、電話してみるのが一番だよね…」
ちらりと首を動かしてみると、岩の上にボトルとタオルが置いてあった。その時点で信次元である事は確定、時間も二つの状態を見るに長くても数日から一週間程度だとは判断出来るけど、最悪のパターン…犯罪神が復活し、皆やられてこの世界の崩壊が決定付けられてしまったという可能性を考えると、とてもそれだけじゃ安心出来ない。…と、いう事で私は携帯を出し(携帯の時計やカレンダーは…次元超えた時に狂った可能性があるよね…)チカさんへと電話をかけた。知り合いの中で彼女を選んだ理由は簡単。私がクエストに出たのを知っていて、一番話がスムーズに進むと思ったから。
「…………」
「…………」
「…………」
「…はいはい、どうしたのよ?」
「……っ!」
通話を待つ事数十秒。現実的には一分にも満たない、でも体感的にはその何倍にも感じる時間の末……チカさんは、電話に出てくれた。それだけで私は「良かったぁ…」と漏らしたいところだったけれど、何とか気持ちを落ち着かせて冷静さを装う。
「あ、え…っと…私がクエストに出たの、いつだか知ってましたっけ…?」
「クエスト?そんなのお昼頃だったでしょ?さっき兄弟が帰ってきたけど、貴女はまだ散策中なのかしら?」
「…ま、まぁそんなところです…でも今から戻りますね、では」
通話だと言うのに頭を下げながら電話を切る私。そうして私は改めて携帯の時計を見て……ふぅぅー…と大きく息を吐きながら肩の力を抜いた。
「良かったぁぁ……」
チカさんの返答により、信次元ではあっちと同じかそれよりちょっと長いか程度の時間しか経ってないって確信した。…うぅ、ここまで安心したのも久し振りかも…もし最悪のパターンだったら、私絶望と罪悪感から自殺を図ってたかもしれないよ……。
「……あ…そういえば…私挨拶言えてない…」
平常心を取り戻した私は、岩の上の物を拾いながらエストちゃんへと言葉を返せていなかった事に気付いた。それと同時に、私の中で一つの結論が出来上がる。
(…もう、疑いようがないよね…エストちゃんは、それにあの子は…きっと……)
色々、思うところはある。複雑に感じるところもある。気になる事も、分からない事も…沢山ある。……けど、不思議とそれで心が重くなる事はなかった。むしろ私の心はすっきりしてて、なんだか安心したような気持ちすら芽生えている。…それが何故なのかは…まだ、分からない。
「…まぁ、それは全部次のお楽しみ、ってやつだね」
荷物を持って、私はリーンボックスの教会へと向かい始める。次のお楽しみなんて、次がある確証があるのか?…と言われたらそれはないけど、不安になんかなってない。だって、私にはこの本があるから。エストちゃんは、あの子と姉妹だって言ってたから。……あの子とは、またねって言ったんだから。
(…また会おうね、エストちゃん。…約束忘れてないからね──ディールちゃん)
とんとんっと足取り軽く進む私。私の胸は、新たに出来た友達の事と、大切な友達とまた会えるって気持ちが強くなった事とでぽかぽかとしていた。前の時と同じく、次がいつになるかは分からないけど……それでも、私はまた会えるって強く強く思っていた。
私の背を押す、信次元の夕焼け。それは、鮮やかで、綺麗な……紅の色だった。
今回のパロディ解説
・「〜〜わたしは心を奪われた…」「〜〜この気持ち、正しくあ……」
機動戦士ガンダム00の登場キャラ、グラハム・エーカーの代名詞的台詞の一つのパロディ。兄弟が心を奪われてるのは女神化したイリゼだけじゃないでしょうね、えぇ。
・かおす先生
こみっくがーるずの主人公、萌田薫子のペンネームの事。あばばばば、というのは彼女を象徴(?)する台詞ですね、イリゼの場合は痺れてるだけですが。
・ごくらくせんじゅけん
閃乱カグラシリーズの登場キャラ、夜桜の使う秘伝忍法の一つの事。こちらはグリネプ側でも解説されてますね。何せ同じシーンのネタなんですから。
・パイル付き手甲
上記と同じくこちらも夜桜というキャラが使う装備の事。上記と合わせ、同じパロディ解説を二度しているという形になっています。だからなんだという話ですが。
橘さんに合わせ、こちらも今回は一話のみとしてみました。同じ話を別視点で描く…新しい試みでしたが、私としては大変楽しむ事が出来ました。なので読者の皆さん、そして橘さんに楽しんで頂ければ幸いです。もしこの話やOIにてグリネプに興味を抱いた方がいたのであれば、是非読んでみて下さい。シモツキお勧めの作品ですよ?…それと、上記の通り展開は全く同じなので、両方を比べて読むのも面白いかもしれません。まぁ、ともかく…やはり橘さんの作品とコラボ出来るのは嬉しいのです!以上!これかも私はOriginsシリーズを頑張るので、『グリネプの方が面白いからこっちはいいや』とかにはならないで下さいねっ!