超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第八十三話 絆の力

ネプテューヌ達四人が長い苦痛の中で負った心の傷は、女神すらも怯えさせその身を竦ませる程のもの。…けれど、四人は今ここに…ギョウカイ墓場の前に、再び訪れている。……それが、四人の出した答えだった。

 

「ユニ、周囲に敵影は?」

「ありません。少なくともスコープで見える範囲には野良のモンスターがいる程度です」

「了解。MAGES.、ロムちゃん、ラムちゃん、魔術的な罠や仕掛けなんかは?」

「反応無しだ。私に女神二人がチェックして反応無しなのだから、犯罪組織に稀代の大魔導士でもいない限り罠は無いと見ていいだろう」

「なら、突入の上での障害はないね」

 

飛んで空から索敵するユニと、三人で分担して探知を行う魔法使い組の報告を受ける私。…と、言っても問いかけたのが私というだけで聞いているのは私だけじゃない。私達女神全員と旧パーティー組…汚染ワレチュー(仮称)討伐作戦に出撃した全員が、今の報告を聞いていた。

 

「敵影も罠も無しなんて…明らかにおかしいね。まず相手のミス…って事はないと思うよ」

「そうね。墓場の中に誘っているのか、それとも既に墓場は放棄してるのか…いや、犯罪神復活の為にここは放棄出来ない筈。となると…前者になるのかしらね…」

「さ、流石本物の忍者さんと諜報部員さん…その抜かりない感じ、格好良いです」

 

マベちゃんにアイエフ、ネプギアのやり取りが聞こえた私は考える。アイエフの言う前者とはつまり、私達を入らせないんじゃなくて入らせた上で何かしらの対応を取ってくる、という事。双方同条件なら基本侵攻側より防衛側の方が有利だから、そのアドバンテージを活かそうとしてない時点で怪しいものだけど…ここまで来たんだから、今更二の足を踏んだってしょうがない。

 

「…よし、じゃあ突入しようか。皆、増援が来たらその時は頼むよ?」

「分かってるです。イリゼちゃん達も、何かあったら呼んでくれていいですからね?」

「ふふっ、そうならないといいんだけどね」

 

討伐作戦に出撃した全員と言っても、皆が皆突入する訳じゃない。内部に入って直接討伐を行うのは私達女神組だけで、コンパ達は増援対策と墓場の中で想定外の事態が起こった際に備えた別働隊として待機、そしてここに居ない新パーティー組は作戦中に国が襲われた場合の防衛担当…と、前回同様今回も戦力を分けて多方面に対応出来るようにしている。…まぁ、勿論国には軍がいるけど…行動の自由さ柔軟さが全然違うからね。

 

「…皆、まさかとは思うけど忘れ物したとかないよね?」

「んと…だいじょうぶ」

「そんなしょーもないことするわけないじゃない」

「だよね、じゃあ…」

 

 

「…行くよ、皆」

 

前置き…ではないけれどワンクッション置いて、振り返り……ずっとギョウカイ墓場を見つめていたネプテューヌ達へ、声をかける。

 

 

 

 

もしかしたら…と思っていたけど、元気を貰ったのはわたしだけじゃなかった。あの後こんぱ達もわたし達を心配して来てくれて、それでわたし達が思ってたよりは元気を取り戻してたからかおまけに叱咤もされちゃって…だけどそれが嬉しかった。…いや勿論わたしがマゾに目覚めたとかじゃないよ?そうじゃなくて…落ち込んでる時気にかけてくれて、元気付けてくれる家族や友達がこんなにもいるんだって事が、わたし達守護女神全員にとって嬉しくて……だから、わたし達は今ここにいる。

 

「…ね、皆。もう全く怖くない…って感じだったりする?」

「そんなの当然よ、って言いたいところだけど…正直、そうは言えないわ」

「勇気があっても怖いものは怖い…当たり前ですけど、それは避けられない宿命ですわ…」

「…けど、逃げ出す訳にはいかないわ。わたし達は、皆に背中を押してもらったんだから」

 

皆はわたし達を待っている。わたし達が、前に進むのを。ノワールとベールの言う通りそれは怖くて、情けない事を言えば帰っちゃいたい気持ちもあるけど…ブランの言う通り、背中を押してもらっておいて帰るなんて出来ない。出来ないし…そんなの、わたし達らしくない。

覚悟を決めて、歩み出すわたし達。大丈夫だって心の中で自分に言い聞かせて、ギョウカイ墓場内部への侵入口に近付いていく。……でも…

 

「……っ…!」

 

後一歩というところまで来て…どくん、と胸が締め付けられるような感覚が襲ってきた。胸だけじゃなくてお腹もキリキリと痛んで、吐き気のようなものを感じたわたしは右手で自分の口を覆う。息が乱れて、苦しさから胸の前で手を握って…わたし達は、また動けなくなる。

 

「…お姉、ちゃん……」

 

聞こえてくるのは、心配そうなネプギアの声。大丈夫だよって声をかけたかったけど…わたし達全員が苦しそうな様子を見せちゃったんだから、作り笑いでそんな事を言ったって安心してくれる訳がない。

苦しくて、また怖さが膨らんできて……そしてそれ以上に、悔しかった。勇気を貰ったのに、これじゃ何も変わってない。もう一歩前に進めなきゃ、皆の思いに応えられない。だからわたしは、わたし達は苦しくても前に進みたいのに……自分一人じゃ、乗り越えられない。

 

(……でも、それは分かってた…分かってた事、だよね…)

 

悔しいけど、悲しいけど…この恐怖がどうしようもない事は、もう分かってた。最初から諦めちゃうのは嫌で、ほんの少しだけ期待してたけど…やっぱり、無理だった。だからわたしは諦める。この恐怖を完全克服する事を。一人で前に進む事を。

 

「…………」

「……え…ネプテューヌ…?」

「…共有しようよ、皆。怖いって気持ちも、それでも前に進みたいって気持ちも…皆から貰った、皆の思いも」

 

わたしは右手を口元から離して、その手でノワールの左手を握る。するとそれだけで、ちょっとだけど楽になった。

 

「……そう、ね…ベール、左手を握らせてくれるかしら…?」

「…勿論ですわ。ブラン、わたくし達も手を…」

「…いいわ。繋がりは、わたし達の力だものね…」

「そ、それならわたし達も…」

「ううん、ネプギア。今はわたし達四人だけにさせて」

 

ノワールはベールと手を繋いで、ベールはブランと繋いで、ブランはわたしに手を差し出して…わたし達四人は、一つの円になる。この人数だと変な儀式をしてるみたいな感じだけど…でも、ブランとも手を繋いで、手と手の繋がりでベールとも一つになれた瞬間、すっ…と心の中が晴れていくのを感じた。思いを全部共有して、辛さも勇気も自分一人のものじゃないって手の温もりから感じて、わたし達を縛る恐怖の鎖が消えていくような気がした。

繋がりは、わたし達の力。それは本当にそうだと思う。ここにいるのも、ここまで来れたのも、繋がりの力。それが無ければわたし達はどこかの段階でマジェコンヌにやられてたと思うし……もしかすると、今もわたしは地面に刺さったままでモニュメント化していたかもしれないんだから。

 

(…ここで逃げたら、わたし達の絆がその程度だったって事になる。そんなの嫌だし……わたし達の絆に、上限なんか無い。…そうだよね、皆)

 

深呼吸を一つ。ここはギョウカイ墓場の前で、シェア的には全然良い環境じゃないけど……それでも息を吸うと同時に澄んだ何かが入ってきて、吐くと同時に溜まっていた何かが出ていくような気がした。

そうしてわたし達は手を離す。……もう、大丈夫だよね。

 

「…お待たせ。それじゃ、時間取らせちゃったわたし達が言うのもどうかと思うけど……行こっか」

 

怖いって気持ちはある。逃げ出したいって気持ちもある。けど、皆の思いに応えたいって気持ちや、わたし達の絆の強さを証明したい気持ちだってある。その気持ちは、後ろ向きな気持ちにも決して負けてない。わたし達の絆は、何物にも負けたりしない。だから、わたしは…わたし達守護女神は──前へ進む。

 

 

 

 

突入前、内部には罠なり何なりが備えてあるだろうと私達は思っていた。けれど、結論から言えばそれらしき物は何もなかった。少なくとも私達の突入ルートには何もなくて…気付けばもう、汚染ワレチューを目視出来る距離にいる。

 

「あれが汚染ワレチュー…でっか!『ネズミ=小さい』の概念を正面から覆すレベルじゃん!」

「シェアを纏う事で数倍…いえ、数十倍のサイズになるなんて……小さい物が、シェアで大きく…」

「うん、止めようブラン。それを考えたって悲しくなってくるだけだよ」

 

ネプテューヌ達は本来のワレチュー(比較対象)を見ていない訳だけど…それでも物凄く大きい鼠というのは驚きみたいだった。…後ネプテューヌとブランは自分の胸元見てたけど…それには触れないでおこう…。

 

「…あれ?ねーねーロムちゃん、アイツってあんなに大人しかったっけ?」

「ううん…もっと、あばれてた…と思う…」

「確かにうろうろはしてるけど暴れてはいないね…わたし達の事をまだ認識してないからかな?」

「どうかしらね。ちょっと行って理由訊いてきてよ」

「い、嫌だよ…そんな軽いノリで無茶言わないでよ…」

 

ここに来るまで色々あった守護女神組とは違って、女神候補生組はもう慣れたもの。あんまり余裕を持ち過ぎるのもよくないけど…ネプギア達は私と一緒に汚染ワレチューのタフさを目の当たりにしてるし、慢心する危険はないよね。…それより……

 

「…ここまで何もないとなると、まるで戦って下さいと誘われてるみたいだね…」

「誘われてる…だとすれば、ここで奴と戦うのは敵の思う壺かもしれませんわね」

「かもね…けど、だからって汚染ワレチューをこのままにしておく訳にはいかないよ」

 

この場にいる全員に目配せをして、女神化する私。気付いてないなら先手必勝…と初手から長剣ではない武器を精製して構えると、そこでノワールに声をかけられる。

 

「一つ頼みがあるんだけど…って、何よその益子家で代々使われてそうな大太刀は」

「これ?ほら、相手がスピードはそこまで高くないパワー型でしょ?だから大きい得物の方が有利かと思ってね」

「そ、そう…それで頼み事なんだけど…三分、いや一分でいいから私達に奴を観察する時間をくれないかしら?」

「…観察する時間?」

「えぇ。相手が曲がりなりにも犯罪神の力を宿してるなら、その動きをまず自分の目で見ておきたいのよ」

「それにわたくし達は久方振りの実戦。動体視力や戦術眼が鈍っていないか確認もしておきたいのですわ」

「あぁ、そういう事…私は構わないよ。皆はどう?」

 

戦いのプロである四人なら初見且つ身体が多少鈍ってても大丈夫だとは思うけど…当人がそう言うならそっちの方がいいに決まってる。そう思いつつネプギア達に話を振ると、やはり四人も頷いてくれた。

 

「わたしも大丈夫です。お姉ちゃん、焦らずにね」

「そうそう、三分なんて言わず十分くらいまかせてくれたっていいのよ?」

「三分と言わず十分って…何ともまぁ現実的な時間を提案するわね…」

「ラムちゃん、くればー…」

「あ…う、うん!わたしはげんじつが見える女なのよ!(くればーって何だろう…あそびにくれば?…のくればかな…?)」

「悪いわね、皆…それじゃあ一分間、頼むわ」

 

ブランの言葉に首肯して、ネプギア達も女神化。私とネプギアが前に立ち、ユニとロムちゃんラムちゃんは鶴翼の陣(三人だから陣と言えるか微妙だけど)を取って一歩前へ。そうして数秒待ち……汚染ワレチューが背を向けた瞬間、私とネプギアは地を蹴った。

 

「一発で倒す位の気持ちで行くよッ!」

「はいっ!」

 

一気に距離を詰め、左右から脇腹を斬り裂く私達。気付いていない汚染ワレチューは当然無防備で、相手の身体を刀の芯で捉えた感触が伝わってくる。……けど、与えた傷は私の想定よりも浅かった。

 

(……っ…前より、硬い…?)

 

斬った瞬間の違和感。けどすぐ後衛からの追撃が飛ぶ事を知っていた私は違和感を一先ず後回しにして大きくサイドステップ。私とネプギアが離れた瞬間に射撃と魔法が汚染ワレチューへと直撃し、先の斬撃を含めた苦痛で汚染ワレチューは雄叫びを上げる。…その叫びとは裏腹に、みるみるうちに傷を再生させながら。

 

「やっぱり、ただ攻撃するだけじゃ…!」

「でも、再生だってノーコストで出来る筈がない!まずはとにかく攻撃を……んな…ッ!?」

「え……!?」

 

歯噛みするネプギアに言葉を飛ばしながら、即私は次なる攻撃を…しようとした瞬間、汚染ワレチューの拳が飛んできた。当然それはロケットパンチ的な意味じゃなくて、技でも何でもないただの殴打だけど…巨体というのはそれだけで近接格闘の威力を増幅させるもの。その巨体によるブーストがかかった汚染ワレチューの殴打は強烈で、防御は出来ても衝撃で吹っ飛ばされてしまった。

 

「……っ!やぁぁぁぁッ!」

「ぢゅうぅぅぅぅ!」

「ふ…防がれた!?」

 

空中で翼を姿勢制御重視に可変させ、長い刀を地面に刺す事によって強引に身体を止める私。その間にネプギアは汚染ワレチューの正面へと周り、大上段から斬りかかったけど…汚染ワレチューは腕を交差させ斬撃を防いでしまった。そしてそのまま汚染ワレチューは腕を振り抜き、私同様ネプギアも弾き飛ばす。

 

(この動き…もしや、暴走してない…?)

 

前回戦った時、汚染ワレチューはただ暴れているだけで的確な攻撃もまともな防御もしてこなかった。だからこそ攻撃も回避も容易だったし、再生によるタフさが無ければ前回の戦力でも十分倒せてた。……けれど、今の汚染ワレチューは違う。犯罪神のシェアエナジーを制御しているのか、それとも完全に乗っ取られたのかは分からないけど…今は、暴走していない。

 

「……いや、狼狽えるな私…例え相手の付け入る隙が一つ減ったとて、こちらにはそれ以上の有利があるッ!」

 

地面から刀を引き抜き、肩に刀身の背を乗せつつ私は再度突撃。それに合わせてユニ達が牽制を行ってくれた事で容易に後ろへと回る事が出来た私は、背中へ袈裟懸けを敢行。ギリギリで汚染ワレチューはそれに気付いたようだけどサイズ差から防御は間に合わず、背中に大きな傷跡が残る。…勿論、残っていたのは短い間だったけど。

 

「もう一撃…は無理か……!」

「イリゼさん、挟撃を!」

「任せてッ!」

 

振り返りざまの裏拳を後退で避けたところで聞こえたネプギアの声。その声と内容から大体の位置を察した私は刀を手放し、代わりに一番の得物である長剣を携え翼を三次元機動重視に可変させながら、即座にネプギアとは逆側へと滑り込む。ロムちゃんラムちゃんの放つ魔法で肩を撃たれた汚染ワレチューは僅かに動きが遅くなり…その隙を突いて、再び私達は脇腹を切り裂いた。

 

「…今、どれだけ相手のシェアを削れたと思います?」

「どうだろうね。イストワールさんの言う通り、ギョウカイ墓場からシェアエナジーを取り込んでるなら…」

「…プールの水をバケツで一回取った程度、でしょうか…」

「うん。けど……ここからは頼もしい味方が参戦するよ!」

 

ネプギアと合流し、射線の妨害にならないよう上昇した私。でも、その瞬間に駆け抜けたのは射撃でも魔法でもなく四条の光。紫、黒、緑、白の軌跡を残しながら汚染ワレチューへと肉薄し、再生が始まっていた両脇腹の傷を抉ったその光芒は…ネプテューヌ達四人に他ならない。

 

「待たせたわね、皆!」

「ほんとに約一分とは…皆も中々せっかちだね!」

「最低限のコストで最大限の効果を発揮する、これ位守護女神として当然の事よ!」

 

脇腹に追撃をかけた四人は更に一撃を与え、汚染ワレチューの前後左右にそれぞれで着地。戦闘の感覚を確かめるようにしながら武器を構え直し、すぐにまた汚染ワレチューへと向かっていく。…その姿には、もう怯え震える様子はない。

 

「……そういうところ、やっぱり皆は本物の守護者だよ」

「…イリゼさん?」

「ううん、何でもない。じゃ、ネプギア…ここからは作戦通りにいくよ!」

「分かりました、援護は任せて下さい!」

 

頷き合って、私は前へ、ネプギアは後ろへ。前衛五人、後衛四人のバランスの取れた体制になった私達は、本来のプラン…私達九人の総力で削り切るという単純明快な策を開始する。

 

「皆、候補生の遠隔攻撃は結構精密だから射線に入らないようにね!」

「こちとら魔法の国の女神だ、後衛の位置取り位感覚で分かるッ!」

「わたくしも敵しか見えない程視野が狭くはありませんわ!」

 

ノワールとブランが斬り込み、反撃をベールが潰し、ネプテューヌが隙を突く。ブランクをあまり感じさせない四人の存在は前と変わらず頼もしくて……この四人とまた戦える事に、私はつい笑みを浮かべてしまう。

…いや、それだけじゃない。ユニが点の、ロムちゃんラムちゃんが面の砲火を叩き込み、ネプギアがそれぞれの合間を埋めるという候補生組の支援も前衛にとっては頼もしいもので、私の教え子はこんなにも優秀なんだと思うとつい嬉しくなってしまう。……あぁ、全く…これなら負ける気がしないねッ!

 

「せぇぇぇえいッ!」

 

守護女神の四人に気を取られている汚染ワレチューの頭上に回り、敢えて眼前へと飛び込む私。突然注意の外にいた存在が現れた事で予想通り汚染ワレチューは驚き、更には元々汚染ワレチューの戦闘技能がそこまで高くなかったからか反射的な攻撃も来る事はなく、私は貰った!…と心の中でほくそ笑みながら横一閃。汚染ワレチューの目を両方纏めて搔っ捌く。

 

「あら、いつの間にかエグい攻撃するようになったのね」

「目って言ったって負のシェアで出来てる訳だし。それに…私はとある人との戦いのせいで、前よりちょっとだけ戦いに魅入られちゃったみたいなんだ…よッ!」

 

エグいと言いつつネプテューヌは額へ刺突。その勢いで頭が少し上を向いたのを見逃さなかった私は顎を蹴り上げ、更に顔を上へと向けさせる。大太刀が刺さったままだったネプテューヌは間接的に私の蹴りの衝撃を受ける形になったけど…守護女神はその程度対応可能の範疇内。振り回されるどころかその衝撃を利用し、大太刀で頭頂部へ向けて斬っていった。

私とネプテューヌの連携に続き、次々と汚染ワレチューの頭部へと攻撃が放たれる。どうも前回より硬くなったらしい汚染ワレチューも女神九人の攻撃の前では耐える事は出来ず、あっという間に汚染ワレチューの頭部は無残な状態となってしまった。

 

「わー、あたまのちぎれちゃったぬいぐるみみたい…」

「た、確かに…ロムちゃん、ラムちゃん、大丈夫?見てて気持ち悪くならない?」

「……?ならないよ…?」

「シェアエナジーが集まって頭の形とってるだけだから大丈夫なんでしょ。それこそ色の悪いぬいぐるみかフィギュアかにしか見えないし」

 

再生なんてさせないとばかりに頭部への攻撃を続ける候補生組。その容赦のなさにネプテューヌノワールブランは何とも言えない顔をしていたけど…流石にそれで集中力が途切れるような事はなかった。

……と、その時インカムが墓場の外にいるメンバーからの通信を受ける。

 

「あー、報告だにゅ。犯罪組織の残党っぽい部隊が襲ってきたにゅ」

「えっと、相手はモンスターとキラーマシンかなぁ…?」

「…了解ですわ、迎撃は出来まして?」

「あたし達だけで大丈夫!皆は目標達成を優先して!」

「数もあんまり多くないからね、わたし達だけで蹴散らすよ!」

 

サイバーコネクトツーの声が聞こえた次の瞬間には、風を切る音と粒子砲の音とがインカムから流れてきた。…って事は、向こうも交戦開始したんだ…。

 

「増援って事は…外部から部隊を展開して私達を後ろから叩くつもりだったのかしら」

「それなら大部隊で来る筈じゃないかしら?皆の声はわたし達を気遣って嘘を吐いたようには聞こえないし」

「なら、別の目的が…?」

「どうだろうな?…まぁ何れにせよ、わたし達のやる事は変わらねぇだろ」

「その通りですわね。この戦闘では短期決戦こそが必勝の策。…勝ちを掴むなら、このまま仕留めるのが最善だと思いますわ」

「…そうね。じゃあ皆……一気に決めるわよッ!」

『(うん・えぇ・おう、はい)ッ!』

 

見得を切り、号令をかけたネプテューヌ。乾坤一擲の攻撃を仕掛けるべく守護女神の四人は一度下がり、私だけが汚染ワレチューの眼前へ残る。

 

「犯罪神よ、これから始まる女神の連撃…とくと味わうがいいッ!天舞弐式・椿ッ!」

 

天舞弐式は着実にダメージを与える技。でも桁外れの再生力を持つ汚染ワレチュー相手には相性が悪く、傷を与えた側から再生されていくけど……それでいい。私は皆が準備を整える為の数秒を稼げれば、それで目的達成なんだから。

最後の一撃を打ち込んだ瞬間、私は蹴りで弾かれる。でもその頃には…もう皆、準備万端だった。

 

「全力全開!いっけぇぇぇぇぇぇッ!」

 

四方に分かれたネプギア達による、四方向同時攻撃。二条のビームと二つの氷塊が凄まじい勢いで汚染ワレチューへと突進し、その身体を潰さんとばかりに砕いていく。

激しい閃光と、爆発。並みのモンスターなら跡形もなくなるであろうその四重攻撃はそれだけでも強力だったけど……まだ、ネプテューヌ達が残っている。

爆風を切り裂くように肉薄する三つの影。三人の持つ刃が、ビームと魔法の残光によって煌めきを放つ。

 

「喰らいやがれッ!ゲッターラヴィーネッ!」

「わたくし達が来たのが運の尽きですわッ!ディンブラストームッ!」

「亡霊は闇へと帰りなさいッ!ボルケーノダイブッ!」

 

四方向からの遠隔攻撃に続き、三方向からの近接攻撃。ネプギア達の攻撃だけならまだ再生する余地があったであろう汚染ワレチューも、その直後に同じく強力な攻撃を受けてしまえばひとたまりもなく、粘土が千切れるが如く腕や胴の一部が吹き飛んでいく。

既に頭部は壊滅的で、それ以外の部位も跳ね飛ばされ蹴散らされた汚染ワレチュー。それでも再生力はその身体を元に戻そうと足掻きを見せていたが……その真正面へとネプテューヌが降り立った時、最早勝敗は決していた。

 

「これで終わりよ!クリティカルエッジッ!」

 

汚染ワレチューへと放たれた斬撃は、素早く鋭く力強い。最早虫の息だった汚染ワレチューにその攻撃を受け切るだけの余裕なと微塵もなく……ネプテューヌが背後で止まり、軽く大太刀を振った瞬間汚染ワレチューは真っ二つとなった。

左右に倒れ、崩壊する様に消えていく汚染ワレチューの身体。常軌を逸した再生力すら九人の…私達女神の前には敵わず、そこに残ったのは意識のないワレチューただ一匹だけ。どういう意図で犯罪神の力がワレチューを乗っ取ったのか、撃退する様子を欠片も見せなかった犯罪組織の残党は何を考えているのか……今はまだ残る謎も少なくはなかったけど、この戦いで私達が勝利した事は──紛れもない、事実だった。

 

 

 

 

「ワレチューはやられたか…」

「犯罪神様のお力添えがあったとはいえ、所詮はネズミ。この結果は妥当だろう」

 

イリゼ達女神が去った後、戦場となった場所に現れた二つの影…マジック・ザ・ハードとトリック・ザ・ハード。彼女等達にとってワレチューは味方だが…その声に、ワレチューへの慈しみはない。

 

「もし奴が幼女であれば、我輩は身を持って守っていた…悪く思うなワレチュー。貴様が幼女でないのがいけないのだ」

「ふん…それよりもトリック、例の準備はどうなっている」

「最終調整に入ったところだ。もう少しで実用可能になるだろう」

「そうか、ブレイブには?」

「言っておらん。この我輩ですらこれには些かの罪悪感があるのだ、ブレイブに伝わった日には内乱が起こるだろう」

「急げよトリック、でなければ犯罪神様をお待たせしてしまう」

「…あぁ、分かっているさ」

 

マジックの言葉に頷くトリックだが、その思いにまでは同意していなかった。もし彼が思った事を全て言ってしまう性格ならばこう言っていただろう。……この狂信者、と。

 

「…ジャッジは滅された。組織としての戦力も落ちた。犯罪神様の復活が近いとはいえ、ヘマをすれば取り返しはつかなくなるだろう。貴様の趣味は貴様の勝手だが……下らん理由で、犯罪神様の復活を妨げるなよ?」

「勿論だ。だが……もう一度我輩の思いを下らんと言ってみろ。その瞬間から貴様は…敵だ」

「……解せん奴だ、貴様は」

「アクククク、それはお互い様だろうに…」

 

そうして別れるマジックとトリック。四天王という守護女神と同数の面子を持つ彼女達だが…その関係性は全く違うのだという事を、今の会話が如実に表していた。




今回のパロディ解説

・益子家
刀使ノ巫女に登場する家系の一つの事。イリゼが使ってたのなあんな感じの刀です。絵的にはルウィー姉妹又は女神化前のネプテューヌが使った方が良かったかもですね。

・ゲッターラヴィーネ、ディンブラストーム、ボルケーノダイブ
原作シリーズのアニメ版のノベライズ、TGS炎の二日間にて三人が行った技の順番のパロディ。これを解説なしで気付けた方はかなり凄いかな、と思います。

・「亡霊は闇へと帰りなさいッ!〜〜」
機動戦士ガンダムUCの主人公、バナージ・リンクスの台詞の一つのパロディ。これは原作小説でしか言っていないようですね、展開的にも合いませんし。

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