超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第九十二話 願いの力

これまで、アタシは何度も負けたくないって思ってきた。女神がそこら辺のモンスターに負けるなんて恥だから負けたくないし、絶対に間違ってる犯罪組織には女神として負けたくないし、ネプギアやロム、ラムは同じ女神候補生だからこそ負けたくないし、お姉ちゃんや皆さんにだって出来るならば負けたくない。それは負けず嫌いだからなのか、意地っ張りだからなのかは分からないけど…負けたくないって思いは、いつもアタシの中にあった。

今も、負けたくない。…でも、今感じてるこの気持ちは、いつもの気持ちと少し違う。それはアタシの勝手だけど正しい手段で頑張ってる人、自分の道を真っ直ぐ進もうとする人の味方として戦っているから。だからきっとアタシは、負けたくないんじゃなくて……負けてほしくない。

 

「こっ、のぉぉぉぉぉぉっ!」

 

大口径の弾頭による連続射撃。反動を翼の微細な動きで受け止めて、アタシは一発一発が高い威力を持つ弾丸を次々と撃ち込んでいく。

 

「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

ブレイブはアタシの射撃を飛び回る事で避けていく。時にはフェイントも入れて、置いてあるコンテナを障害物にして、それでも避けきれない射撃は大剣で斬り伏せて、隙あらば距離を詰めようとしている。今はアタシが一方的に攻撃しているけど……余裕は、全くない。

 

「子供の夢は、笑顔は娯楽から…楽しいという思いから生まれるッ!故に、万人がその思いを享受出来るマジェコンは必要不可欠なのだッ!」

「楽しいって思いはゲームじゃなきゃ得られない訳じゃないでしょ!何でそうなるのよッ!」

「ゲームは一人でも皆でも楽しめる!忙しくとも合間の時間に楽しむ事が出来る!体調や場所など関係ない!それがゲームなのだッ!」

 

大剣の腹で弾丸を弾き、盾の様に掲げて接近してくるブレイブ。数度の斬り伏せで強行突破が可能だと判断したのか、回避を行う様子はない。ならばグレネードなり榴弾なりで体勢を崩してやろうと思ったアタシだけど…弾種を切り替えようとした瞬間、大剣の上から砲口を覗かせる二門のキャノンから光芒が放たれた。

 

(くっ……まぁ、そう簡単にはやらせてくれないわよね…!)

 

ノールック砲撃は狙いが甘く、避ける事は難しくない。でもこれはさっきアタシが行った面制圧…相手の隙を作る為の射撃とは逆の、自分の隙をカバーする為の砲撃。つまり、この後にすぐ……本命がくるッ!

 

「夢と笑顔の……邪魔をッ!するなぁッ!」

 

アタシが左に避けるのとほぼ同時にブレイブは大剣を振り上げ、アタシの回避先へと振り下ろす。そしてその刃から放たれる、真っ赤な炎。もしそれが直撃すれば、大火傷は避けられない。

既に眼前へと迫っている炎。避ける事はほぼ困難。……でも、方法はある。

 

「……っ!」

「む……ッ!?」

 

前へと倒れ込み、狙撃の様な体勢を取るアタシ。その体勢となると同時にアタシは引き金を引き……炎の壁に文字通りの『突破口』を作った。

炎は不定形な存在で、その時々によって形が変わる。それ故に防御するには身体全体を覆えるような盾を用意しないと防げないけど、不定形だからこそ力を加える事で形を変える事が可能であり…その性質を利用して、アタシは弾丸による突破口、セーフティーゾーンを発生させたのだった。

 

「夢と笑顔の邪魔?……いつアタシが、邪魔をするって言ったのよッ!」

「ちぃぃ……ッ!」

 

扇状に広がる炎がすり抜けていった瞬間、アタシはX.M.B.を持ち上げ即発砲。ブレイブはまさかアタシがこんな方法で避けてくるとは思ってなかったのか反応が遅れ、かなり無駄の大きい回避行動へ。

 

「アタシが邪魔をしてるってなら、それはアンタの夢に対してよ!子供の夢と笑顔を邪魔する気なんて…毛頭ないッ!」

「その行為が夢と笑顔の障害となっているのだッ!世の中を、現実を見ろ!今の世界は、全ての子供が平等にゲームを出来るようにはなっていないッ!」

「だからマジェコンを流行らせようって!?コピーで幾らでもゲームをインストール出来るような端末を普及させようって言うの!?」

「そうだ!これまでは資金調達の為に泣く泣く有料としていたが、犯罪組織が天下を取った暁には無償で全ての子供に配るつもりだったのだ!子供が家庭の経済状況に左右されずゲームを楽しめる…それの、何が悪いッ!」

 

回避の隙にX.M.B.をビーム射撃モードに切り替え、翼の力だけで飛び上がりながら追撃をかける。

全ての子供が平等にゲームを出来る訳じゃない。…それは事実。子供が家庭の経済状況に左右されずゲームを楽しめる事は…何も悪くない。だからブレイブの言葉には正しいところもあって、ブレイブの認識は間違っていない。……でも、

 

「マジェコンが流行れば…いや、今の段階でもゲームやデジタルデバイスのソフト開発者は大きな被害を受けてるのよ!だってそうでしょう!?マジェコンがあればソフトを新規で買う必要がないんだものッ!」

 

フルオートで光弾を叩き込み、ブレイブに体勢を立て直す隙を与えない。ブレを十分に押さえてフルオート射撃が出来るレベルじゃ光実どちらも有効打とするのは難しいけど、近距離なら無視出来ない程度の影響力を持つから、撃つ意味は確かにある。

ブレイブの思想は、子供の為にって思いは立派だと思う。…けど、ブレイブのやり方は間違っている。他人に迷惑をかけて、その人の道を邪魔して作り出す『子供の為』なんて……アタシは、肯定出来ない。

 

「アンタはそれをどう思ってるのよ!子供の悲しむ善を否定するアンタは、その行いで別の誰かが悲しむ事をどう思ってるのッ!?」

「子供の時に夢を、頑張ろうという希望を持てていれば、マジェコンで悲しむ事はないッ!子供の頃に得た夢は、どんなものよりも強い原動力となるのだからッ!」

「そんな理論が通用する訳ないでしょうが!どんなに夢があったって辛い事は辛いに決まってる!それに、その理論じゃ今現在悲しんでる人は助けられないでしょ!ソフトの開発者は、今悲しんでるのよ!」

「その者達には申し訳ないと思っている!その者達には恨まれても仕方ないと分かっている!だが!それでも!今いる子供とこれから先生まれる子供の為には、マジェコンは必要なのだッ!」

 

射撃を防ぐ為に両腕を交差させているブレイブ。構え直す為にどこかで後退すると思っていたものの、アタシが今悲しんでいる人について触れた瞬間、その言葉に触発されたかのように再び突進を敢行してきた。

瞬間的に思い付いたのは、高出力ビームの照射による返り討ち。でもブレイブを丸ごと消し飛ばせる程の大口径にするにはチャージの時間が足りないし、今出来る範囲のチャージじゃ突進を止められない可能性がある。もしブレイブのパワーを正面から喰らえば…それだけで骨が折れてもおかしくない。だからアタシは……前に出る。

 

「夢や笑顔を生み出すのはゲームだけじゃないのに、それで悲しむ人がいるのも分かってるのに、それでも曲げるつもりがないってなら……アンタのそれは、ただの身勝手よッ!ブレイブッ!」

「他者からどう思われようと、それが常識から乖離していようと、俺はマジェコンを使い、子供の夢と笑顔を守るッ!夢を守る者が、自身の夢を断念する訳には……いかんッ!」

 

止められないなら、予想外の動きをされたなら、アタシも対抗すればいい。予想外の動きを仕返せばいい。その思いでアタシは突っ込み、激突する寸前に身体を捻る。

吠えながら身体を捻って腕を避け、その動きのまま砲口をブレイブの顔に合わせる。そして、すれ違いざまに一撃。X.M.B.から放たれた光弾は狙い通りに顔へ直撃し……脇腹に、激しい痛みが駆け巡った。

 

「ぐぁ……ッ!?」

「がは……っ!?」

 

同時に聞こえた、アタシとブレイブの呻き声。アタシは地面に叩き付けられ、ブレイブはよろけてコンテナへと激突する。叩き付けられた瞬間の衝撃で肺の中の空気を吐き出してしまったアタシは、アタシが撃つのとほぼ同タイミングでブレイブが仕掛けた肘打ちによって落とされたのだと理解する。

 

(やっぱり、ブレイブ…強い……ッ!)

 

ブレイブと同じ四天王であるジャッジと、アタシと同じく一対一で戦ったイリゼさんは、死んでもおかしくない程の怪我を負う事になった。今の攻撃は咄嗟だったからかせいぜい打撲程度で済んでると思うけど、このまま戦っていれば大怪我をする事も……いや、死ぬ事だって十分あり得る。…けどそれは、どんな戦いだって同じ事。

大きく息を吸い込もうとする身体を押さえ込んでハンドスプリング。ブレイブもまたアタシと同じように体勢を立て直している最中だと確認して、そこでやっと一呼吸。

 

「…今のは、痛かったぞ……」

「アンタこそ…よくあそこから打ち込めるわね…」

「負ける訳にはいかないからな…どんな痛みも、どんな無茶も…我が夢の前では瑣末事だ…ッ!」

「……アンタがただの悪人なら、もっと割り切って倒せたのにね…」

 

左目に傷を追いながらも、ブレイブはその気迫を一切落とさないままアタシと再び正対した。視力という戦いにおける重要な要素の一つを削られたにも関わらず、その精神には欠片も動揺や焦りを感じられない。それが夢の力だとしたら、子供達への思いだとしたら……出来るなら、アタシはブレイブとこうして武器を向け合いたくはない。

でも……

 

「……ブラックシスターよ、その言葉…まさかとは思うが、躊躇っているのではないだろうな?…戦士に優しさは必要だが、優しさと甘さは違うぞ…」

「…分かってるわよ。分かってるし…戦い始めた時点で、アタシはもう心を決めてる。アンタを撃って、アンタの夢を潰して……アンタとは違う形で、国民を、子供をもっと笑顔にするってねッ!」

 

そう言い放って、アタシはX.M.B.の砲口をブレイブの顔に向ける。もしブレイブと分かり合う事が出来たら、もしブレイブが真っ当な方法で子供の夢と笑顔を守ってくれるなら、そんなに良い事はない。…けれどそれは不可能な事。ブレイブの考えはきっとずっと前から、長い時間をかけて作られたもので、アタシの言葉じゃ否定は出来ても思い直させる事なんて到底無理だから。

だからこそアタシは、ブレイブにX.M.B.を向ける。アタシには守りたいものも、守らなきゃいけないものもあるから。大切なものを守って、アタシの道を進んでいくなら、犯罪神とその従者は倒さなきゃいけないから。それに、アタシは……こんなに子供の事を思っているブレイブに、これ以上悪人になんてなってほしくないから。

 

「お互い覚悟は見せられたんだから、そろそろ決着をつけようじゃない!アタシとアンタの覚悟の勝負の決着を!どっちが最後まで思いを貫けるか、どっちが思いの果ての未来を掴めるかの…決着をッ!」

「いいだろう!今のお前の輝きは、ブラックハートのそれに遜色ない!そんな者とこうして戦えるのであれば、それだけで最高の誉れだ!だが、俺は負けん!俺は勝ち、お前との戦いも糧とし……我が夢を、成就させるッ!」

 

激突する、アタシの射撃とブレイブの砲撃。目が眩む程の光の中、互いに次々と攻撃を仕掛ける。徹甲弾、散弾、榴弾、グレネード。ビームにレールガンにシェアエナジー射撃。アタシの持てる策と技術を駆使して、全身全霊をかけて、撃って撃って撃ちまくる。走って、飛んで、避けて、隠れて、ブレイブの全力に対抗する。

 

「夢とは未来だッ!笑顔とは力だッ!どんなに辛くとも、どんなに絶望していても、夢と笑顔は人を救ってくれるッ!俺は子供に、希望を持ってほしいのだッ!」

「悪が作り上げた希望なんて、どこかで歪むわ!例え歪まなかったとしても、その人が優しければ優しい程、悪が原点にある事に苦しむ事になる!より多くの人を笑顔にしたいなら、正しい方法じゃなきゃ駄目なのよッ!」

「正しい方法だけでは救えていない子供がいるのが現実だッ!希望に不安が混じっていたとしても、希望すら持てないよりはずっといい!まずは全ての子が希望を持ち、夢を持てる事が大切ではないのかッ!」

「それは諦めよ!真っ直ぐ頑張る事への…今の世界への諦めなのよッ!アタシはそんな事をしない!だってアタシは女神だから!一人でも正しい形で頑張ろうとしてる人がいる限り、女神は諦めたりしないッ!人も、未来も、全部ッ!」

 

放たれたビームで右腰の浮遊ユニットが爆散する。突き出された大剣で左の二の腕を斬られる。避けきれなかった拳で一瞬視界が歪む。それでもアタシはまだ戦える。まだアタシの思いは折れてない。絶対に…折れさせはしない。

 

「俺とて、諦めた訳ではないッ!だが人には限界があるのだッ!だから、俺は…ッ!この道の先で、その限界を超えると決めたのだッ!ぬぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

(……っ!あの炎……!)

 

歪む視界の中放った一発が、ブレイブの右肩口へと当たってよろけさせた。けれどブレイブは地を踏み締めて耐え、右手に持つ大剣を高らかに掲げる。そして大剣の刀身から吹き出す、煌々とした業火。それを見た瞬間、アタシの全神経が絶対にそれを阻止しなければいけないと叫ぶ。

 

(ブレイブは、勝負を決めにきてる……だったら、やるなら今しかない…ッ!)

 

二門同時ではなく、左右で交互に砲撃を撃ち込んでくる。それを避け、近くのコンテナ裏に隠れ、アタシは短く深呼吸。放たれる前に倒すという決意を胸に、X.M.B.へエネルギーチャージ。確実に倒す為には、アタシも今出来る最高最大の攻撃を叩き込むしかない。

一門ずつとはいえ、ブレイブの砲撃は強力なもの。だからコンテナは数発と持たずに崩壊し…瓦解の音が響いた瞬間、アタシは翼を広げて飛び出す。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

 

迎撃の砲火を掻い潜り、ブレイブへと接近するアタシ。ブレイブは避けるつもりも、半端な状態で大剣を振るうつもりない様子で左の拳を後ろに引き、どこからでもかかってこいと言わんばかりの覇気を見せる。

このまま進めばブレイブは拳を打ち込んでくる。でも攻め込まなければブレイブが先に切り札を放てる状態になってしまうかもしれない。一番ベストなのは一度倉庫から離脱し、超遠距離から最大出力の射撃を叩き込む事だけど……決闘で、覚悟のぶつけ合いで、そんな選択肢は存在しない…ッ!

 

「ブレイブッ!分かる、アンタの言う事も分かるわッ!具体性のないアタシより、夢と笑顔の為にどうするか考えてるアンタの方が正しいって言う人もいるかもしれないッ!」

「ならば……ッ!」

「──けどッ!」

 

アタシが右の脚を後ろに引いた瞬間、ブレイブの拳が打ち出される。このままいけば、アタシの蹴りとブレイブの殴打が激突する。手による打撃と足による打撃なら基本的には手<足が成り立つけど……

 

(ネプギアとの決闘で、これは経験済みなのよ…ッ!)

「な……ッ!?」

 

激突の刹那、アタシは膝を曲げ……その場で回転した。蹴りと激突しなかった殴打はアタシへ真っ直ぐ伸び、その勢いのままに直撃。でもアタシは遠心力で位置をずらしていた事、そして何より回転している事を利用し……腕に沿うような動きで受け流した。

ブレイブが目を見開く中、歯を食いしばって痛みに耐えたアタシはそのまま回し蹴り。続けてブレイブの肩を掴み、首元に向けて横蹴り。アタシの打撃は強固な鎧を砕く程の威力を叩き出す事は出来なかったけど……この一連の流れは、ブレイブのチャージを確かに遅らせていた。そして、X.M.B.からはシェアの光が漏れ出していく。

X.M.B.の砲身を上下に展開。そこから更に左右へ展開。四分割のリミッターフル解除状態となったX.M.B.を構え……叫ぶ。

 

「それでもっ、アタシはッ!今のゲイムギョウ界を守りたいのよッ!!」

 

初撃でブレイブを後退させ、駆け抜けながら連射。通常モードを大きく超える大口径となったX.M.B.から次々と大出力ビームが吠え、ブレイブの身体を叩いていく。

駆け抜けたアタシは高速ターン。着地し踏み締め、更なる連射で回避の隙を与えず打ち上げていく。

 

(今のゲイムギョウ界は、大好きなお姉ちゃんが、尊敬する皆さんが守ってきた世界。大切なケイが、多くの人が作り上げてきた世界。ネプギアが、ロムが、ラムが…アタシ達候補生全員がそんな人達と守っていかなきゃいけない世界。だから、問題があったとしても、直さなきゃいけない事があったとしても……今を壊させる事だけは、絶対にさせない…ッ!)

 

天井間際まで打ち上げられたブレイブに襲いかかる、幾重もの爆発。それが起こした爆炎の中を突っ切り落下するブレイブとは対照的に、アタシは弧を描きながら舞い上がる。

一発一発がただのモンスターや通常兵器ならば撃ち抜いてしまう程の射撃を、もう何発も撃ち込んだ。でもまだ終わらない。ギリギリのギリギリまで、アタシの出せる力の全てを振り絞る位しなきゃ、ブレイブに勝つ事なんて出来ない。

 

「それが、アタシの……願いだからッ!N(ネクスト).G(ジェネレーション).P(ポータブル)ッ!」

 

翼を限界まで広げ、余力の全てを姿勢制御に注ぎ込んで放つ、最後の一撃。それは、巨大な、長大な、天から降り注ぐが如くの光芒。激戦の疲労と、ブレイブから受けた傷でアタシの身体は悲鳴を上げ、反動だけで吹っ飛んでしまいそうになる。それでもアタシは耐えて、X.M.B.を握り締めて、込めたエネルギーの全てを撃ち切るまで引き金を引き続ける。

光芒の余波が、倉庫を傷付けていく。この戦いで既に何ヶ所も破損していた倉庫が、更に傷を増やしていく。そして、長い照射の末に光の柱はゆっくりとその輝きを淡くしていき……消滅する。

 

「はぁっ…はぁっ……」

 

肩で息をしながら、力を抜きたい衝動に駆られながら、地面へと着地。通常モードへ戻ったX.M.B.を重く感じながらも持ち上げ、煙を上げる一角へと意識を向ける。

倒せたかどうかは分からない。アタシが言えるのは、この攻撃に全力を尽くしたという事だけ。緊張しながら、希望と不安を感じながら、異様に長く思える時間を感じながら、少しずつ晴れていく煙を見つめ続ける。そうして煙が晴れた時、そこには…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ、だ……俺は、まだ…負けては、いない……!」

 

──鎧の大半が吹き飛び、今にも崩れそうな風体を持ち……しかし目には未だ強い光を灯す、ブレイブが立っていた。

 

 

 

 

アタシの全力は、ブレイブを倒すに至らなかった。間違いなく致命傷を与えていたけど……まだブレイブの意思は、折れていなかった。

 

「……は、は…嘘でしょ…?」

「嘘で、あるものか…俺は負けん…絶対に、負けん……」

 

その姿に、その根性に、一瞬攻撃を忘れてしまうアタシ。……ブレイブは、驚くアタシを前に呟く。

 

「絶対に、俺は…何があろうと、俺は……」

「…どうして、そこまで……」

「……負けられ、ないんだ…!俺に夢を与えてくれた、あの人達の為に…俺の夢で、笑顔になってくれたあの子達の為に……負けられないんだ……ッ!」

 

最早情熱や信念を超えた、執念や怨念とでも言うべき程の、ブレイブの覚悟。その思いに「何故」と思ったアタシへ返ってきたのは……ブレイブの本質が垣間見える、願いのような言葉だった。

あの人達とは、あの子達とは。その代名詞が指す人が誰なのかが気になるアタシに対し、ブレイブは大剣を持ち上げる。残火のように減衰し、でもまだその刀身に炎を残す大剣をブレイブは持ち上げ……

 

 

 

 

「み、みつけたぞ!わるいゲームをつくる、わるいやつめ!」

 

……その瞬間、子供の声が倉庫に響いた。玩具らしき、矢の様な棒がブレイブの足元へと落下した。

 

『な……っ!?』

「ぼくがせーばいしてやる!せいぎは、かつんだ!」

「な、何故……ここに、子供が…!?」

「き、君!ここは危ないわ!早くここから離れなさい!」

「だ、だいじょーぶだよめがみさま!ぼくは、こ…こわく、ないもん!」

「そういう事じゃ……」

 

声のした方向へ目をやると、そこにいたのは小さな子供。ロムやラムより小さい子供が、弓らしきものを持って鉄の板で出来た通路の上に立っていた。

突然現れた子供に、アタシもブレイブも呆気にとられる。その間も子供…男の子は矢を放ち、彼なりの攻撃をブレイブに仕掛けていく。不幸中の幸いと言うべきか、ブレイブはそれを受けても怒る様子は一切なかったけど…だからってあんな子供が、本当のただの子供がここにいて安全な訳がない。そして、アタシの口にした『危ない』という言葉は……アタシの意図とは別の形で、現実となる。

 

「ど、どうだ!わるいげーむをつくるやつなんて、ぼくが……へ…?」

「この音は…しょ、少年!早くそこの扉から奥へ入るんだッ!」

 

持ってきた矢を全部使ってしまったのか、今度は玩具の剣を取り出す男の子。その瞬間、バキバキという嫌な音が聞こえてくる。その音に男の子は戸惑い、音の正体にいち早く気付いたブレイブが声を上げるも……もう遅い。

 

「わ……わぁぁぁぁああああっ!!」

『……──っ!』

 

ガコン、と一つ大きな音を立て、鉄の通路は凄まじい勢いで崩壊していく。それは、アタシとブレイブの戦いの結果傷付いた通路の末路。割れ、砕け、崩れていく。……その上に立つ、男の子と共に。

男の子は悲鳴を上げて落ちていく。通路の位置は高く、先に落ちた通路は鋭い破片となっている。もし男の子がそのまま落ちたら恐らく…いや、確実に…死ぬ。……だからその時、アタシはもう地を蹴っていた。

 

「間に……合えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

X.M.B.を手放し、疲れを無視して飛び上がる。ブレイブに背を向ける事なんて気にしていられない。全てを助ける事にかけなきゃ、男の子の落下に間に合わない。

願いを込めて、願いを叫んで、飛ぶ。アドレナリンが出ているのか、落下するもの全てがゆっくりに見えて、アタシは男の子に手を伸ばして……その手が、確かに男の子を掴む。

 

「やった……ッ!」

 

掴んだ男の子を引き寄せ、抱き抱える。これでもう男の子は落ちない。地面にぶつかる事も、落ちた破片に身体を裂かれる事もない。何とか助ける事が出来た。ギリギリ間に合わせる事が出来た。やった、やった、やっ……

 

(…………あ…)

 

──アタシは、気付いた。上からまだ、砕けた破片が落ちてきている事に。小さいものなら何とかなるけど、アタシの直上にある大きな破片はどうしようもない事に。もしその破片が当たった事で男の子を落としてしまったら…落とさなくても、アタシ自身が落下してしまったら…。

今も世界はゆっくりに見える。でも、ゆっくりだからこそ…もう避けられない事が分かった。もう何をするのも間に合わない。アタシが出来る事と言えば、幸運を祈る事位。女神でありながら、何かに祈る位しかアタシは出来ない。

アタシは目を瞑る。お願い、何とかこの子は無事でいて…と。そんな僅かな可能性に願いを込めて、可能性に縋って……けれど、いつまで経っても破片が当たる衝撃は襲ってこない。

 

「…………え?」

 

衝撃の代わりに感じるのは熱。当たる音の代わりに聞こえるのは轟音。アタシがその不可解さに薄っすらと目を開けると……目の前では、破片を焼き付け吹き飛ばす炎が唸りを上げていた。




今回のパロディ解説

・「〜〜開発者は、今悲しんでいるのよ!」
機動戦士ガンダムSEED destinyの主人公の一人、キラ・ヤマトの名台詞の一つのパロディ。ユニのガンダムパロシリーズの一つです。この後もありましたね。

・「…今のは、痛かったぞ……」
DRAGON BALLシリーズの登場キャラの一人、フリーザの台詞の一つのパロディ。ブレイブはその後叫んだりしてませんね。痛かったと叫ばれてもキャラ的に困りますが。

・「それでも〜〜守りたいのよッ!!」
機動戦士ガンダムSEEDの主人公、キラ・ヤマトの名台詞の一つのパロディ。こちらはdestinyじゃない方のキラです。…最終決戦に使った方が良かったですかね…?

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