超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress 作:シモツキ
長い歴史を持つ信次元には、現代では使われていない建造物や施設も存在する。その多くは文化遺産や歴史的建造物として管理、保全が行われているが、中には時間の流れでモンスターの巣窟、或いは環境的に危険な区域となってしまったものもあり、それ等は完全に人の手を離れた『過去の存在』として少しずつ朽ちていく。だが、当然作りによってはそう簡単には崩壊しないのであり……そんな建造物の一つ、ルウィーのとある古城は犯罪組織の拠点となっていた。
「ふぅむ…やはり女神相手ではこうなるか…」
「所詮人間の限界はこの程度。だが、これならば実用には申し分ないだろう」
玉座の間で幾つかの映像データを見る、二人の四天王。その映像に映っているのは、身体の主導権を奪われし人々の姿。
「後は女神がどう出るかだが……」
「少なくとも命を奪う形での対処はせんだろう。そうするような者達であれば、あの時負けていたのは我輩達であろうからな」
「ふん。……して、何故この時は撤退をさせた。まだ数には多少の余裕があるだろう?」
「何故?…テストは十分に出来ていたのだ、例え余裕があろうと戦力を無駄に散らさぬよう撤退させるのは当然の判断だと我輩は思うが?」
残った四天王の片割れ、マジックが指差したのはブランとシーシャが相手をした集団の映像。元々和やかな会話ではなかったが、マジックがそれを指摘した瞬間空気が不穏なものへと変化した。……だが、指摘したマジック自身がそこまで追求する気はなかったのか、その空気はすぐに霧散する。
「…貴様の考え方に文句を付けるつもりはない。だが…無念と絶望の中の死は、犯罪神様への極上の供物。わざわざブレイブが散るまで待った策を、無駄にするような真似はするなよ?」
「分かっておるさ、我輩とて四天王の一角なのだからな…」
トリックが不敵な笑みを浮かべる中、マジックはその場を後にする。そして彼女の気配が完全に無くなったところでトリックは小さく息を吐き、その場にいる二人の人間へと目を向けた。
「…気にする事はないぞ、アズナ=ルブよ。貴様は我輩の指示に従い撤退支援を行っただけだ」
「気になどしていないさ。元々私は私の目的の為にここにいるのだからな」
「ならばよい」
二人いる人間の内、一人はアズナ=ルブ。腕を組み、壁に背を預けていた彼は、彼の言葉通り一切気を揉んでいる様子がなかった。そんな姿に軽く頷いたトリックは、続いてもう一人の人間にも声をかける。
「…分かり易いな。怯えておるのか、リンダよ」
「……っ…そ、そんな事…」
「…不安がる必要はない。危惧せずとも我輩はお前を彼等のように扱うつもりはないのだぞ?」
「そ、そうなん…ですか……?」
「お前の才覚はまだまだ光る場所があるのだ。それを使わないのは勿体ないと思わぬのか?」
「アタイの、才覚……」
自分もこのまま成果を上げなければ、操り人形として使い潰される。…その思いを見抜かれていたリンダは驚き言葉に詰まってしまったが…トリックの言葉は、彼女の想像していたものとは真逆だった。そして彼女は安心し…同時に歓喜の感情を胸中に抱く。自身を評価し、今も期待しているというトリックの言葉で。
「さぁ、来るがよいリンダ。これから行う作戦の為の準備、お前にも手伝ってもらうぞ」
「あ…は、はい!アタイなんかでいいなら、なんだってやってやりますよ!」
「……その言葉、幼女から聞いてみたいものだ…」
「うっ…それはアタイに言わないで下さいよトリック様…」
そうしてトリックとリンダも、それから少しした後アズナ=ルブもその場を離れ玉座の間は無人となる。
大きく戦力を削がれ、劣勢となった犯罪組織。だが、その中核である四天王の生き残りは……未だ、一切の諦観を抱きはしていないのだった。
*
私がベールと共にリーンボックスに行ってから、各国で犯罪組織(残党)絡みの出来事があった。一番大きいのはユニのブレイブ撃破で、同じく単騎で四天王を倒した身としては色々思うところのある情報だったけど…それは私個人での話。個人ではなく陣営としては嬉しい事だった。
でも逆に、嬉しくない出来事だって当然起きる。嬉しくない出来事で一番大きいのは残党の一部が操られて戦わされてるという事態で……それが今、リーンボックスに脅威となって近付いていた。
「……これが、現在こちらへ向かってきている残党の一団ですわ」
リーンボックス教会の会議室。その壁にあるモニターには、同じ方向へと向かって歩く沢山の人と兵器の姿が映っていた。
「…結構な数ね。散り散りになってた残党の一集団じゃなくて、作戦の為に編成した部隊と見るべきかしら」
「人はともかく、兵器までこんなに残ってるなんて…まだ大規模な工廠が残ってるって事かな…?」
「それよりはお姉ちゃん達の奪還前までに出来る限り生産しておいた、って可能性の方が高いと思うわよ?…奪還されて組織も壊滅するなんて事は想定してなかっただろうけど…」
会議室にいるのは、四人の守護女神と女神候補生、それに私を加えた計九人。……うん、そう。要は女神が全員集まってるって事。
「ノワールの言う通り、これは恐らくリーンボックスへ向けた侵攻部隊。そして皆さんに集まってもらった理由は勿論……」
「こいつらをたおすのよね!」
「みんなで、やっつける…!(ふんす)」
『…………』
「…あれ?ちがうの?」
「い、いえ…正解ですわ…」
ぐっ、と握り締めた手を胸の前に出してやる気を見せるロムちゃんラムちゃん。二人の認識は何も間違ってないし、二人が言わなくても似たような事を誰かしら言ったとは思うけど……見た目が見た目だけに、言葉に反して会議室の雰囲気は一瞬和やかになってしまった。もう全員一瞬「あぁ、癒されるなぁ…」とか思ってしまった。……小っちゃい子って、癒しだよね。変な意味じゃなくて。心のオアシス的な意味で。
「こ、こほん。この一団が生活圏へと到達してしまえば、被害が出るのは火を見るよりも明らかな事。ですのでわたくしは何としてもこの一団を撃破したいのですけど…」
「そこでネックになるのが、人の存在。…ネプギア達も、話は聞いてるんだよね?」
「はい、お姉ちゃんから聞きました」
「うちも話したわ。二人共、話した事はきちんと覚えてる?」
「うん。あやつられるのは、かわいそう…」
ベールから引き継ぐ形で私が言った質問に、ネプギア達はそれぞれ頷く。…皆がどんな言い方で四人に説明したかは分からない。でも、四人はちゃんと事実を受け止めている…そんな顔をしていた。
「だったら、説明は不要だね。…私とベールは、この一団の迎撃において……あの手段を、試してみようと思ってる」
『……!』
一度ベールと目を合わせ、一拍置いて私は言った。そしてその瞬間、ロムちゃんラムちゃんの発言以降少し緩くなっていた雰囲気が一気に引き締まる。
「…とはいえ、これはリーンボックスの問題。もし参加出来ないというのであれば、大人しく引き下がりますわ」
「もし参加出来ないというのであれば…って、水臭い事言わないでよベール。心配しなくたってわたしは協力するよ」
「同感よ。それに、犯罪組織の動向は信次元全体に関わる問題。貴女だけが背負う必要はないわ」
「だってさ、ベール。…ね、私が言った通りだったでしょ?」
「…ふふっ、そうでしたわね」
私とベールは残党の一団を確認した時点で迎撃作戦を立案し、その中でもベールは今の件を気にしていた。その時も私は「皆なら二つ返事で協力してくれると思うよ?」…って言ったんだけど…おっとりしてるベールも、こういう事は人並みに心配するんだよね。事情が事情なんだから心配するのは当然だけどさ。
「では……ネプテューヌ、ノワール、ブラン、イリゼ。四人はわたくしと共に操られている者達の対応に当たって下さいまし。そしてネプギアちゃん、ユニちゃん、ロムちゃん、ラムちゃんには軍と共同で兵器部隊の分断と殲滅をお願いしますわ」
「えぇ、その頼みは聞き受けたわ」
「今の私はリーンボックスへの増援。そんな言い方しなくたって、元々私は協力するつもりだよ」
「…感謝致しますわ。フラグにするつもりはありませんが、もし無事に終わらせられたら……」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
安心と嬉しさの混じった笑みをベールは浮かべ、何か作戦成功後の事を口にしようとする。けれどそんなベールの言葉は、少し狼狽えた様子のユニによって遮られた。…いや、ユニだけじゃない。その隣に立つネプギアも、ユニ程あからさまじゃないけど思うところがありそうな表情を浮かべていた。
「…何か、気になるところがおありですの?」
「気になる、って訳じゃないですけど…どうしてアタシ達は、兵器の撃破担当なんですか…?」
「それは勿論、適切な戦力配置の為ですわ。女神と軍が共同で兵器の殲滅に当たれば、軍側の被害を大きく減らす事が出来ますもの」
「…それは分かります。でも…アタシが訊きたいのは、そういう事じゃありません」
姉の友達である守護女神(と私)に対する上下関係を、候補生の中でも特に意識するユニ。だから全員集まっての会議や話し合いの時は、私達に対して遠慮がちになる事が多い…というのが私の印象だったけど、今日のユニは遠慮の気配を残しつつもはっきりと自分の意思を表していた。……もしかするとこれが、ブレイブとの戦いでユニが得た成長の一つなのかもしれない。
「アタシは…いえ、アタシ達女神候補生は全員、まだまだ未熟です。でも、未熟だったとしても…アタシ達候補生も、女神なんです。だからもし、アタシ達の配置が気遣いによるものなら……」
「……ユニ」
真剣な表情での、ユニの言葉。最初の戦いの時とは違う、自分の立場も力量もきちんと理解した上での、女神としての言葉。それに皆が一瞬言葉を失い、一時的とはいえ指導者を務めた私はある種の感慨深さを感じる中……静かな声で、ノワールがユニの言葉を制した。
すっ、とユニの前に出て、一度ベールと目を合わせるノワール。視線の中でやり取りが交わされ、ベールの首肯を受けたノワールが口を開く。
「貴女の気概は伝わったわ。貴女が未熟と言えど確かな力を持っている事も分かってる。…でも、駄目よ」
「…その、理由は?」
「技量と経験の差よ。それで納得出来ないなら、私から訊かせてもらうわ。…ユニは、近接格闘を主軸にする私達でもどこまで出来るか分からない事を、私達以上にやれると言うの?」
「……それは…」
「相手は犯罪組織の残党、それも操られてる人間よ。成功すれば相手を助けられるけど、失敗すればどうなるか分からない貴女じゃないわよね?…それでもユニは、引き金を引けるの?」
「…………」
優しさは、優しくする事だけじゃない。私は相手が引きずってなくても気にしちゃうから出来ないけど、相手の為を思って厳しい言葉をかける優しさもある。…でもそれは、相手に優しさだと、自分を思ってくれてるのだと伝わらなければ暴言を吐くのと変わらない。そしてノワールは……優しいけど、不器用な人。ここにいる皆の中で、一番相手を思っての言葉が勘違いに繋がってしまいそうなのが、ノワール。だから私は不安になって、ユニにフォローを入れようとして……その時には既に、ネプテューヌが二人の間へ割って入っていた。
「まぁまぁノワール、気持ちは分かるけどその位にしてあげなよ。ほら、ユニちゃん傷付いちゃってるんじゃん」
「え……い、いや…別に傷付いたって事は……」
「そう?でも大丈夫だよ、ユニちゃん。これはユニちゃんに力が足りないって事じゃなくて、偶々必要なのが近接格闘能力だったってだけだもん。もし近接格闘能力じゃなくて狙撃能力が必要ってなったらわたし達は皆役立たずになるんだから、気にする事なんてないんだよ。…だからさ、ユニちゃん。自分は出来ない、じゃなくて自分は自分が出来る事を、ノワールはノワールが出来る事をする…って考えようよ、ね?」
「ネプテューヌさん……」
いつも通りの雰囲気で、いつものような口振りで、ネプテューヌは微笑みながらそう言った。凄く説得力がある訳でも、理路整然とした訳でもない…でも心にすとんと収まるような、温かい言葉を。
ノワールが真面目で何事にも真剣な、良くも悪くも高みを見る人だとすれば、ネプテューヌは真面目な時と不真面目な時の差が激しい、良くも悪くも自分の目線で物事を見る人。そして今は……その無理をしない、あまり高くもない…けれど真っ直ぐな目線の言葉が、曇りかけていたユニの表情に光明を届けていた。
…………でも、代わりに……ある人物に対しては、完全に裏目の発言となっていた。
「ちょ、ちょっと!?それは私も言うつもりだったのよ!?いや、私もって言うか…それ含めて最後まで私が言うつもりだったんだけど!?」
「え……そ、そうなの?」
「そりゃそうでしょうが!何美味しいところ持ってってくれてるのよ!?これじゃ私、キツい事言うだけ言ってフォローもしない駄目指導者みたいじゃない!」
「え……ち、違うの?」
「違うわよ!っていうか天丼ネタは止めなさいよ!あぁもう違うからね!?私だってユニの実力は認めてるし、あくまで適材適所の結果私達が相手をするって形になっただけなんだから!そうよねベール!」
「え、えぇまぁそうですわ…(す、凄い形相で言われましたわ…)」
「そういう事だから!私はネプテューヌが出しゃばらなくたって『もし貴女の長所が必要になった時は、貴女に任せるわ』とか言うつもりだったんだからねっ!」
「あ、う、うん……ネプテューヌさん、ありがとうございました…お姉ちゃんもちゃんと話してくれてありがと…」
「えぇ、
「あ、あはははは…」
烈火の如き勢いで「なんで大切なフォローパート横取りするのよ(要約)」と荒ぶるノワールと、その勢いに言葉が返せなくなってしまった(というより、黙っておこうと判断した?)ネプテューヌ。ノワールからの承認欲求が強いユニも、流石にこれには軽く引いてる様子だった。…途中話を振られたベール以外、そんなノワールの姿に「ぽかーん」としてしまったのは言うまでもない。
「……えっと…ノワール、落ち着いた…?」
「何が!?」
「うわっ…こ、怖いよノワール……」
「あ……ご、ごめんなさいねイリゼ…皆にも話を脱線させちゃった事を謝るわ…」
「だ、大丈夫ですよノワールさん。これお姉ちゃんにもちょっと責任がある訳ですし。…えと…ある、んだよね…?」
「ま、まぁない事もないんじゃないかな…うん…」
それから十数秒。言いたい事を言えたノワールが落ち着いてくれて、更にネプテューヌも曖昧な表現ながら非を認めた事でやっとこの謎な展開は終幕を迎えるのだった。……ノワールが脱線させてネプテューヌが事の収拾に努めるっていう、なんだか珍しいパターンだったよ…。
「…こほん。では、ネプギアちゃん達も今の説明で納得してくれたかしら?」
「あ、はい。わたしも今ので納得です。わたしは候補生の中じゃ近接戦慣れしてますけど、お姉ちゃん達とは開きがありますし」
「わたしはさいしょからそれでよかったわ!だってそっちの方がどっかんどっかんやれるでしょ?」
「わたしも、ラムちゃんといっしょ…」
「分かりましたわ。今のペースで進行すれば、一団が街へ到着するのは明日の夜。よってそれよりも前に制圧を致しますわ」
それまでは温和な…つまりはいつもの雰囲気で通していたベールも、この時だけは真剣な表情で言葉を発していた。きっとそれは、国と国民を守りたいという気持ちが、皆にあまり気負わないでもらおうとする気持ちをその瞬間上回ったから。
ベールの言葉に、私達は頷く。ブランの言う通り、残党との戦いは信次元全体の問題で、その時狙われてる国だけが頑張ればいい事じゃない。……何よりも、これは友達が守りたいものを守る戦いだもん。例えどんな要素があろうと、私は全力で戦うよ、ベール。それが犯罪組織残党との戦いなら尚更…ね。
*
昼と夜の境目の時間、夕暮れ。心地よい風の吹くリーンボックスの草原に、わたくし達守護女神の四人とイリゼは立っていた。遠くに見えるのは、創作物に登場するゾンビの様にどこか違和感ある動きで歩いてくる犯罪組織残党の姿。
「…こうして見ると、確かに『操られてる』って動きだね…」
「実際に見るのは二度目だが…やっぱ見てて気分の良いものじゃねぇな…」
既にわたくし達は女神化をし臨戦体制。共に隊列を組んでいた兵器部隊は、ネプギアちゃん達による強襲と軍の長距離砲撃で分断済み。故に、後はわたくし達のタイミングで仕掛ければいいだけ。…けれど……
「……やっぱり、いざこの段階に来ると…少し、躊躇うわね…」
「…そうね。これだって十分に希望が持てる手段なのに、もっと良い手があるんじゃないか…って思う心は私にもあるわ」
どんな敵にも臆さず、どんな困難にも立ち向かってきたわたくし達女神。そんなわたくし達でも、この手段には…後ろ向きな感情を抱かずにはいられない。何故なら、その手段は……操られている人々を傷付ける事だから。
先日ブランが戦った際の経験、各国が尽力する事で得た情報、それを元に行われた調査と考察により、まず彼等が負のシェア…それも犯罪神に由来するシェアエナジーによって身体の支配を奪われているという結論に辿り着いた。そしてそうなれば、最も良い対処法は正のシェアで負のシェアを相殺する事。けれど、そうする為にはまずその処置が出来る場所へ連れて行き、安全に処置を行う事が出来るよう無力化しなければならず……それを実現する手段が、彼等を『身体の機能上動けない状態』を作る事だった。
(…特定部位のみを攻撃出来れば、処置後に適切な治療を行う事で回復出来る可能性は高い。……そうは言っても、人を守るべきわたくし達が意思に反して戦わされている人を傷付けるなど…心が痛まない訳がありませんわ…)
彼等はマリオネットの様に外部から物理的に動かされているのではなく、脳、或いは精神の支配によって身体の主導権を奪われ動かされているというのが調査の結果。それ故身体のシステムが全て停止してしまう『死』を迎えた場合は勿論、身体は生きていても腱の切断、肩や足の付け根の脱臼等を操られている人間に起こす事が出来れば彼等を殺さず無力化出来る。……それが、わたくし達と教会の得た『手段』の全て。わたくし達で無力化し、後方で待機している軍の部隊が搬送するというのが、操られている人々を助ける作戦の全て。
「敵は敵、そう割り切りたいものですわね。それが正しいのか、それとも間違っているのかはともかく…」
「……いや、割り切らなくてもいいんじゃないかな」
『え?』
胸に渦巻く心苦しさを吐き出すように、ぽつりとそう呟いたわたくし。…けれど、いつまでも躊躇ってなどいられない。そう考え、気持ちを固めようとしたその時……イリゼが一歩前へ出た。それと同時に発した言葉へわたくし達が疑問を抱くと、イリゼは視線を人々に向けたまま再び口を開く。
「割り切るってさ、ある意味で諦める事でしょ?そういう状況だから、それしかないから仕方ないって。…実際今はこの手を使うしかないから妥当な判断だけど…私は割り切らないよ。これを選んだのは自分だって、その先で起こる出来事には自分が責任を持たなきゃいけないって、私はそう思ってる。その覚悟を、私は持っている」
「…イリゼ、貴女……」
「……って、これ…よく考えたら割り切らなくてもいい理由じゃなくて、私が割り切らない理由だったね。あはは、ごめんね変な事言っちゃって」
イリゼは時折見せる武人の様な言動をしていない限り、女神化の有無に関わらず柔和な印象を受ける方。…そんなイリゼが、今は重い…なにかを背負う者のような雰囲気を纏っていた。そしてそれを感じたのはわたくしだけではないらしく、ネプテューヌが何か言いたそうな声でイリゼの名を呼ぶと…途端にその雰囲気が霧散し、普段の彼女に戻っていた。
「い、いや別にわたし達は困ってねぇし、参考になる言葉だったと思うが…」
「それならよかった。でも、うん…ベール、先陣は私に任せてくれないかな?そろそろ私達も動かないと不味いでしょ?」
「それは、そうですけど…先陣を、ですの?」
「そう、先陣を。……駄目?」
「駄目…ではありませんわ。ここはリーンボックスですし、わたくしが先陣をと思っていましたけど、戦術的には誰が先陣を切ろうと問題ない……あ、ちょっ、イリゼ!?」
わたくしがイリゼの意図を図りかねつつも質問に答えた瞬間……イリゼは地を蹴り、接近してくる一団へ向かって突撃した。
その動きにわたくし達が唖然とする中、イリゼは一団の先頭に肉薄。イリゼの接近に気付いた先頭の一人が右の拳を振り上げるも…その右腕が振り下ろされるよりも早く、彼女の抜き手、それも人差し指と中指の二本が肩へと突き刺さった。
「ごめん、なさいッ!」
刺突を受けた一人が悲鳴を上げるよりも速く指を抜いたイリゼは、滑り込む様に足から彼の股を通過。その最中に大腿の上部を掴み、速度と力に任せて捻り上げる事により両脚を脱臼させ、彼を地面に崩れ落ちさせる。……イリゼが肉薄してから無力化するまで、それはほんの一瞬の出来事だった。
「……っ…わたし達も行くわよ、皆!」
「えぇ、そうですわねッ!」
そこで漸く我に返るわたくし達。ネプテューヌに言われるまでもないとばかりに地を蹴り、翼を広げてそれぞれに一団へと向かっていく。先程と今のイリゼは、一体何だったのか。それはわたくし達全員が気になる事だったものの、この戦いは余計な思考をしていられるようなものではない。そう考えたわたくし達は疑問を振り払い、リーンボックスを守る為…そして彼等を救う為に、彼等との戦いを始めるのでした。
今回のパロディ解説
・心のオアシス
デート・ア・ライブのヒロインの一人、四糸乃の事…というか彼女に対する主人公の、内心での思い。でも四糸乃とロムラムじゃ方向性が違いますね。どっちも癒しですが。
・「〜〜それでもユニは、引き金を引けるの?」
ソードアート・オンラインシリーズの主人公、キリト(桐ヶ谷和人)の名台詞の一つのパロディ。これはユニが銃器使いだから言っただけで、実際にやるなら銃は使えません。