超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

120 / 183
第九十九話 何重もの策謀

古めかしく重厚そうな雰囲気を感じさせる、ギャザリング城の城門。周囲に展開している皆と軍に連絡を入れた後、わたし達は城内へ入ろうとしていた。

 

「いざ近くで見るとでっかいねー。THE・お城って感じ?」

「とびら、おもそう…」

「女神のすがたでおせばよゆーよよゆー」

 

城門の前で思い思いの感想を口にする三人。けれどその内容は、これから救出作戦を行う者のそれとはとても思えない。…インカムの向こうからは少なからず緊張を感じられたというのに…。

 

「…まぁ、緊張でガチガチよりはマシね…。三人共、入るわよ」

「はーい。それじゃあ皆、まずは力仕事……」

「その必要はないわ」

『え?』

 

内心呆れているとはいえ、三人の反応は予想の範疇だったわたしは軽く流して城門のある場所へ。大きな城門を力尽くで開こうとしていた三人を制し、そのままちょんちょんと一ヶ所を指差す。

 

「ほら、ここに小さな扉があるわ。わざわざ巨大な門を開けるより、ここを通る方が楽でしょ?」

「わ、ほんとだ。おねえちゃんあること知ってたの?」

「えぇ。…というか、こういう扉は大概の城門にあるわ」

『へぇー…』

「…ロムラムはともかく、ネプテューヌはこれ位知っていなさい……」

 

出入りの度に巨大な門を開閉していては、時間がかかるし無駄が多い。それを考慮して城門には平時用の扉が付いているのだけど…まさか全員に豆知識言ったみたいな反応されるとは……。

 

「…あ、そういえば…にんじゅつ学園…」

「あー!そうだねロムちゃん!あれもおんなじなのかも!」

「そうね、ほら入るわよ」

 

わたしが扉に手をかけると、二重の意味であっさりと扉は開く。…鍵がかかっていなければ、状態からしてちゃんと開くような補修もしてある……まるでここから入って来いと誘われているみたいね。

 

「…あっ、そうだブラン。扉に何か引っ掛けておいた方がいいんじゃない?」

「…どうして?」

「だってほら、入った瞬間扉が開かなくなる展開ってよくあるじゃん。なのにサブカル大好きなわたし達女神が何の対策もしないのは、マイナスポイントとして見られると思わない?」

「退路の確保ではなく評価が目的って…。…そうなったらぶち破ればいいだけよ。それが通用しないような扉なら、そこら辺の物を挟んでおいても無意味だろうし」

 

本当にどうしてここまで緊張感がないのか…と言いたい位、ネプテューヌは平常心を保っている。…相変わらず大したものね、ネプテューヌは。一周回って、だけど。

扉から中へと入ったわたし達は、横幅が一番広い正面の通路を選択。いつ襲われてもいいよう注意を払いながら、城の奥へと進んでいく。

 

「…しずかだね」

「うん、しずか…」

「ねぇおねえちゃん、ほんとにここで合ってるの?」

「ちがうおしろだったりしない…?」

「合っているから大丈夫よ。…けど、ここまで静かなのは怪しいわね…。外で何か起きてたりしないかしら…」

 

心というのは難儀なもので、何もないとそれはそれで不安になってくる。流石に場所を間違えたという事はないと思うけど、何か起きてる可能性を考えたわたしは一先ず通信を……行おうとして、気付いた。

 

「……ブラン?」

「…連絡が取れないわ。通信妨害をされてるみたい」

「え!?…うわほんとだ繋がらない!」

「これと同じ物が向こうに渡ってる訳だし、一応予想はしていたけど…こうなると、何かあっても即座に救援を呼ぶ事は出来ないわね…」

 

わたしはここにいる四人だけで、出来るならばわたしとネプテューヌだけで片付けるつもりだったからこれだけで慌てる事はないものの、やはり外部の事や緊急の情報を知る方法が奪われるのは辛い。情報が遮断されるという事はつまり、必然的に一つ一つの選択の難易度が上がる訳で……

 

「…ロム、ラム。貴女達は入り口で待っていてもいいのよ?」

『え?』

「向こうはわたし達四人を指定してきたけど、何も四人全員が行かなきゃいけない道理はないわ。現状通信で救援を呼ぶ事も出来ないし、もし無理してここに来ているのなら…」

『…むー……』

 

先の事を考慮してまず思ったのが、ロムとラムの事。トリックから名指しされた時も、それからわたし達で行く事が決定してからも二人はけろっとしていたけど、二人は言うまでもなく最年少(……相当)。成長したとはいえわたしやネプテューヌと同じだけのものを背負わせるなんて酷な筈だし、成長したからこそ二人は『期待に応えよう』としているかもしれない。……そんな思いでわたしは二人に声をかけたのだけど…それを聞いた二人は、何やらとても不満そうに。

 

「…おねえちゃん、すぐそう言う……」

「ねー、下がってなさいとかまってなさいとか。そんなにわたしたちがよわいと思ってるの?」

「え…い、いや別にそういう事じゃ…」

「ふーんだ、わたしたちはおねえちゃんにしんぱいされなくてもだいじょーぶだもん。行こ、ロムちゃん!」

「うん…!(だっしゅ)」

「ちょ、ちょっと二人共…!」

 

手を繋いで走り出すロムとラム。わたしとしては二人に無理をしてるなら…と声をかけただけのつもりだったのに、二人にはそれを過小評価しているのだと勘違いされてしまった。……むぅ…。

 

「あらら…もー、駄目だよブラン。そんな心配だよ感のある言葉かけちゃ」

「…五月蝿い、妹を気にかけるのは当然の事よ」

「それは否定しないけど……わたし達を助けてくれたのも、わたし達が汚染ワレチューの動きを見る間戦ってくれてたのも、その妹達なんだよ?勿論イリゼや皆がいてこそだとは思うけど…強さはちゃんと認めてあげようよ」

「……そんなの認めてるわ。でも、二人はまだ…」

「…まぁ、気持ちは分かるけどね。それにうちの場合はわたしよりしっかりしてる節があるし、UのドラマCDみたいに妹が違えば今の立場も逆になってたかもしれないんだけどさ」

「…貴女がロムラムの姉になったら、性格的にそれはそれで上手くいきそうね。あげるつもりは毛頭無いけど」

「わたしだってネプギアはあげないよ?それより早く二人を追おうよ」

 

…わたしだって、二人を信じようとは思ってる。信じるに値するだけの強さがある事も分かってる。けれど、それでもやっぱり、普段の二人は小さな子供そのものだから……ネプテューヌ達や、パーティーメンバー達と同列に扱う事がどうしても出来ない。それは二人に問題があるのか、わたしに問題があるのか…ただ一つ言えるのは、今はそれをゆっくり考えている場合じゃないという事。そうして思考に一区切りをつけたわたしは、ネプテューヌと共にどんどん先へと走っていく二人を追った。

 

 

 

 

一体どこまで二人は先行するつもりなのか。分断されるのも不味いし、女神化して追う必要もあるかもしれない。…そう考えながら、わたしは二人を追っていた。でも……何かしらが起こるよりも先に、わたし達が女神化するよりも先に、ぱっと二人が立ち止まった。

 

「……?なんで止まったんだろう…」

「さぁ?…でも、二人の先にあるのは扉のようね…」

 

止まった二人に疑問を持ちつつ、当然わたし達は二人に合流。二人が立ち止まったのは、見るからに豪華な扉の前。

 

「…迂闊に走るのは危険よ。で、どうして止まったの?」

「…あかないの」

「開かない?」

 

返答してくれたロムは困った顔。城門の件から他の扉も開くものだと思っていたわたしにはそれが少し意外で、ロムを疑う訳じゃないけど確かめたくてわたしも扉を押してみる。

 

「んっ……」

「あきそう…?」

「…開かないわね。…というより、そもそも扉じゃなくて壁の様な感じ…もしかしてこれ、魔力で全面コーティングをされてる…?」

 

扉が鍵や錆によって開かないのなら、何かに引っかかるような感覚がある筈。でも扉は開く機能自体が無いかのようにビクともしなくて……だからこそ、セメントで固めるが如く魔力でコーティングされているのではないかと思い至った。何故ならトリックには、かなり魔法の心得があるようだったから。

 

「魔力…あ、言われてみるとそんなかんじある!」

「うん、魔力かんじる…」

「わたしだけじゃなく、二人もそう思うならほぼ間違いないわね。となると、後はどう開けるかだけど…」

「んー…ブランってオルターエゴ的性格だし、解呪(アンロック)で開いたり出来ないの?」

「誰が多重人格よ…後この扉は呪縛(ロック)されてる訳じゃないし、オルターエゴ自体にその能力はないわ」

 

ネプテューヌのボケはさておき、わたしは触って情報収集。魔法が得意だとはとてもじゃないけど言えないわたしだけど、知識はミナや国内トップクラスの魔法使いにも負けない自信がある。そしてどんな魔法が使われているか分かれば二人に伝えて解除を図る事が出来るし、完璧に解析出来れば対魔術式魔法で打ち消してしまう事も可能。……けれど、軽く調べてみた結果分かったのは…これはすぐには解析出来ないだろうという事だった。

 

「面倒な事をしてくれたわね…別の扉を探す?それとも横の壁をぶち抜いて道作る?」

「わぉ、さっきまで知的に開かない理由推理してた人とは思えない発言…壁の向こうに人いたら危ないし、一回頑張って開けられないか試してみない?」

「力技で開けるのは大変だと思うけど…二人はどう?」

「えー?…ネプテューヌさんにさんせー」

「…わ、わたしもさんせー……」

「…………」

 

二人の意見を訊いてみようとすると、二人はわたしとネプテューヌの顔を見比べた後ネプテューヌへと賛成を。……これは…。

 

「……さっきの当てつけのつもり?」

「…そ、そんなことないよ…?(あせあせ)」

「うん、ないない…(当てつけのいみはわからないけど…さっきのって言われたし、見ぬかれてる気がする…!)」

「…まぁいいわ。別段一つしか手段を選べない訳でもなし、一度試してみましょ」

 

保護者や指導者は寛容な心が大切。そう自分に言い聞かせ、わたしは扉に手を当てる。これで開けば儲けもの、開かなくてもほんの少し疲れるだけ…そんなところだものね、実際。

 

「あいたら、何があるかな…?」

「……お化けが出てくる、とか…?」

「ふぇぇ!?お化け、出るの…!?(びくびく)」

「あ、ご、ごめんねロムちゃん!古いおしろだからなんとなーく思っただけなの!きっと出ないからだいじょうぶよ!」

「あはは…よーし、じゃあ試してみるよ!せーのっ!」

 

もし状況が状況じゃなければ頬が緩んでしまいそうなやり取りを経て、ロムとラムも手を添える。ネプテューヌは刑事ドラマの真似でもしたいのか一人突進の姿勢を取っていて(普通の扉と違って全く動かないんだから、下手すると肩怪我するわよ…?)、とにかくわたし達は全員で押す体勢に。

案の定開かないか、それともまさかの成功か。それは全員で押してみれば分かる話。そう考えながらわたしは、ネプテューヌの掛け声に合わせて力を……

 

 

 

 

 

 

──するっ、ガチャン。

 

『え、ちょっ……わぁぁああああああッ!?』

 

……入れた瞬間、扉は開いた。それまでの強固さが嘘だったように、何の抵抗もなく、あっさりと。そしてわたし達は、扉がそれまで通りだと思っていたものだから…思いっきり前へとつんのめる。

 

「うっ……!」

「あぅ…!」

「いたっ…!」

「ねぷぅぅぅぅ!」

 

ほぼその場から前へと転ぶわたし達姉妹と、勢いがあったばかりにヘッドスライディングをかますネプテューヌ。幸いにもカーペットのおかげで怪我はないけど……間抜け過ぎて非常に恥ずかしい。ま、まさかこんな面白動画みたいな展開になるなんて……。

……と、そう思った瞬間だった。

 

「え…み、皆さん……!?Σ(・□・;)」

『……!』

「その顔文字を使うという独特の言葉遣いは……いーすん!?」

「ど、どこで判断してるんですかどこで!( *`ω´)」

 

入った大部屋の奥から聞こえた、幼げな声。その声に反応してわたし達が顔を上げると、部屋の奥…恐らくは新品に取り替えたのであろう王座に、彼女は……イストワールはいた。

突然現れた…というか発見出来た救出対象に、湧き立ちそうになったわたし達。でも、何があったのか、何がどうしたのか……

 

『…………』

「…………」

『…………』

「…あ、えっと……」

 

 

『……何、その(格好・かっこう)…』

 

──イストワールは王座の上に置かれた、質の良さそうな椅子に座り、どこか手作り感を感じるティーカップを手に携えていた。

 

「…もしかして、ここ…いーすんの別荘だったり…?」

「そ、そんな訳ないじゃないですか!これは……」

「……これは、我輩が用意したのだ。高潔な幼女に、もてなしの一つも出来ぬようでは紳士失格なのだからな」

「……ッ!トリック…!」

 

経緯的にあり得ない…でも言いたくなる気持ちも分からないでもないネプテューヌの発言。イストワールは即座にティーカップを置いて反論しようとするも…王座の更に奥から、黄色い影が彼女の言葉を引き継いだ。

舌をだらんと垂らした、醜悪なぬいぐるみの様な怪物。…その姿を、忘れる筈がない。

 

「アクククク…ようこそ我が居城へ、見目麗しい幼女女神の方々よ」

「あー、うん。…わたしって結構褒められる事に弱いんだけどさ、こいつの場合は全然嬉しくないね」

「欲望剥き出しの野郎に褒められても嬉しくないのは当然よ」

「今のは純粋な言葉だったのだが…ならばこそ、そんな幼女を笑顔にしたいと燃え上がる…もとい、萌え上がるというものだ…アクク、アクククククク…!」

 

ネプテューヌと二人、死んだ魚の様な目でトリックを見るも、あろう事か奴は興奮していた。

 

…………。

 

「…ねぇ、帰ろうよブラン。わたしこいつ無理。ある意味犯罪神より怖いよ」

「そうね、わたしもわざわざ燃えを萌えと言い換えるあいつは背筋に怖気が走るわ」

「じゃあやっぱ帰ろうよ!早急に迅速に全力で!」

「えぇ、三十六計逃げるに如かず…!」

「えぇぇっ!?お、おねえちゃん!?ネプテューヌさん!?」

「か、かえっちゃだめだよ…!?」

 

ねっとりとした視線と下心丸出しな言葉に生理的な恐怖を喚起されたわたし達は、反転からの全力ダッシュ。そう、これは逃げるんじゃない。精神衛生の為の、最善且つ直接的な防衛策……と思っていたけど、すぐにロムとラムに止められてしまった。

 

「離して二人共。というかあいつと対面するのは二人にとっても宜しくないわ…!」

「で、でも…助けなきゃ…」

「そうよ!助けないと!」

『あ……』

『……?』

「……い、今のは奴を油断させる策だったのよ」

「そ、そうそう!いーすんを助ける為に来たんだもんね!」

 

……再び反転し、トリックと正対。…何も言わないで、女神だって完璧じゃないのよ…。

 

「あぁ、仲睦まじい幼女もまた良い…」

「か、観察してないでよ変態!というかよくもいーすんを、それも卑劣な手で人質にしてくれたね!わたしこう見えてかなり怒ってるんだからね!」

「それは申し訳ない。…だが、我輩はこれでも配慮したのだぞ?現に軍人にも、我輩が連れてきた者達も、民間人も、誰一人として死傷者は出ていないのだ。…平和的解決が出来たと思っていたのだがな…」

「…詭弁ね。脅迫で戦闘をせずに目的を達成した、その結果として死傷者は出なかった…こんなものを平和的解決とは言わないわ」

「まあ、そうとも言えよう。…しかし、その文句を言う為に来た訳ではないのだろう?」

 

自身の行為を都合良く言い換えるトリックに対し、ネプテューヌは怒りを露わに、わたしは冷ややかにした瞳で睨め付ける。…が、トリックは動じる様子もなく、ただにやりと笑みを浮かべるだけ。

 

「そーよ、来たんだからイストワール…さんをかえしなさいよ!」

「幼女の頼みならば勿論!…と言いたいところだが、流石にそれは出来ん相談だ。…しかし、我輩は嬉しい。幼女が約束を守り、余分な奴等を連れてくる事なく来てくれた事が非常に嬉しい。……あ、だがボールらしき物に乗っている幼女ならば連れて来てもよかったのだぞ?」

「ボール…ブロッコリーさんの、こと…?」

「ほほぅ、彼女はブロッコリーというのか…可愛らしい名だ…」

「…御託はいいわ、早くイストワールを返しなさい。さもなくば……」

「まぁ待てルウィーの守護女神よ。それよりもまず、もう一人の賓客を紹介させてもらおうか」

「…賓客?」

 

そう言って指を鳴らすトリック。わたし達が不可解に思う中、トリックと同じように奥から二人の犯罪組織残党と、その二人に連れてこられた一人の少女が姿を現す。

二人の残党には、何ら特別さも見覚えもない。もしかしたら見かけた事位はあるかもしれないけど、少なくとも知人ではない。……けど、もう一人は…後ろ手に縛られ、口にも猿轡を噛まされた少女は違った。だって、その人は…彼女は……

 

「え……ネプ、ギア…!?」

 

──外で、空中で待機をしていた筈の、ネプギアだったのだから。

 

「……!ふぅぅっ!」

「ね、ネプギアちゃん…!?」

「うそ、なんで……」

「策とは何重にも用意しておくものだ。通信手段の絶たれた状態では知らないのも無理はないが、外では……」

「説明なんてどうでもいいわッ!ネプギアを離しなさい、この外道がッ!」

『……ッ!?』

 

わたし達が狼狽する中、トリックが笑みを深める中……ネプテューヌが、彼女の姉が…吠えた。瞳に怒りの炎を揺らめかせ、言葉に殺意を籠らせ、女神化と同時に大太刀の斬っ先をトリックへと向けながら、ネプテューヌは怒号を上げていた。その様に、斬っ先を向けられていない残党二人は後ずさる。

 

「…ふん、先程までの姿はともかく、今の貴様の言葉なぞ誰が聞くものか」

「そう。だったらいいわ、力尽くでネプギアといーすんを取り返すだけだもの」

「全く、堪え性のないものだな…話は最後まで聞け、プラネテューヌの守護女神よ。元々こやつは貴様等が余分な奴等を連れてきた場合に人質としようとしたもの。故に…端から話を終えた時点で解放するつもりだったのだ」

「…その言葉を信じろと?」

「女神化を解け、さすれば即座に解放する。…我輩から言えるのは、それだけだ」

「…………」

 

それまでとは態度が大きく変化したトリックと、今にも斬りかからんとするネプテューヌ。そして彼女は……女神化を解除する。

 

「……ほら、早くネプギアを返してよ」

「うむ、やはり熟した幼女とでも言うべきその姿は美しい…。…人質を解放してやれ」

「は、はい…」

「……っ…!」

 

女神化を解いたネプテューヌに、トリックは舐め回すような視線を送った。そうして暫し見つめた後、奴は二人に解放を指示。それに部下の二人が頷き、ネプギアは拘束から解放される。

 

「……っ!ネプギア!」

 

拘束から解放された瞬間、妹の名前を呼ぶネプテューヌ。同時に彼女を迎え入れるように両手を広げ、ネプギアもそのネプテューヌの下へと駆け寄り……わたし諸共、飛び込むように抱き付いてきた。

 

「もう大丈夫だよネプギア!わたしが…ううん、わたし達がいるからね!」

「そうよ、もう心配する事はないわ」

 

飛び込んできたネプギアを、わたし達は優しく受け止める。その横では、ロムとラムが安心したような顔でネプギアを見つめている。

どうしてネプテューヌだけじゃなく、わたしにまで抱き付いてきたのかは分からない。でもきっと、それはそれだけ不安だった事の裏返し。捕まっていた時はわたし達だって皆を信じつつも不安になっていたんだから、女神候補生のネプギアが不安になっても何もおかしくない。…見た目や表面的な精神年齢こそ違えど、ネプギアだってロムラムと同じだけしかまだ生きてないんだから。

まだ事態が解決した訳じゃない。イストワールは未だ人質のままで、ネプギアまで捕まっていたという事はつまり、外でも非常事態が起きているという事。……でも、まだ勝ち目がなくなった訳でも、イストワールを助けられないと決まった訳でもない。…だったら、やる事は変わらず一つ。そう思って、そう考えて、わたしはネプテューヌと共に立ち上が────

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………え?』

 

……その瞬間、かちゃりという音と共に、わたしの首へと何かが嵌められた。…それは、首輪の様な物。それを付けたのは……歪んだ笑みを浮かべる、ネプギアの手。

 

「……へっ、引っかかったな女神共…」

「あ…貴女、何を言って……」

「……っ!待ってブラン!こいつネプギアじゃないッ!」

 

わたしが混乱する中、驚愕に目を見開いたネプテューヌがネプギアを突き飛ばす。そのネプテューヌの首にも首輪らしき物が嵌められていて……次の瞬間、床板を跳ね上げて現れた何人もの残党にわたし達は襲われた。

 

「わ、わっ……!?」

「ちっ、テメェ等…!」

 

その残党達は操られているらしく、常人とは思えない力でわたし達を押さえつけてくる。…とはいえ所詮普通の人間。女神化すれば弾き飛ばせる程度の数だし、実際そう思ったわたしは女神化をしようとする。…けれど……

 

「……な…ッ!?」

「え…何、で……?」

「おねえ、ちゃん…?」

「な、なんで女神化しないの…?」

 

……そう思った数秒後、わたしもネプテューヌも誰一人弾き飛はず事は出来ず、残党に押さえつけられたままだった。

そんなわたし達の姿を見て、ラムが言った。どうして女神化しないのかと。…でも、それは違う。わたし達は女神化しなかったんじゃない。しなかったんじゃなくて……女神化する事が、()()()()()()

 

「これは…成功したみてェですね、トリック様!」

「そのようだな。…よくやってくれたぞ、リンダよ」

「……ッ!おいトリック!テメェ、何しやがった!」

 

ネプギアは…いや、ネプギアの偽者は、トリックの隣に立っていた。既に女神化出来ない事がトリックの、或いは別の犯罪組織構成員によって仕組まれたものだと考えていたわたしがトリックに向かって言葉を飛ばすと……トリックは、気味の悪い笑みを浮かべる。

 

「…ふふ、慌てるでないホワイトハート。我輩はただある道具を作り、プレゼントをしただけだ」

「プレゼント…?じゃあ、まさか……!」

 

血の気の引いたような声を上げるネプテューヌ。血の気が引いているのは状況とこれからトリックが言うであろう言葉に心を乱されたから?…違う。それだけじゃない。

押さえつけられた時点では気付かなかったものの、抵抗している内にわたしは…恐らくはネプテューヌも、違和感を覚えた。力が抜けるような、シェアエナジーを吸われているような、恐ろしい感覚。……そしてその感覚は、前にも一度…いや、気が遠くなる程の間、感じていた事がある。そしてそれをわたし達が信じたくないと思う中……奴は言った。

 

 

 

 

「ご明察。これは、アヴニールの協力者によってもたらされた女神化封印システム…そして、先日まで守護女神を捕らえていたアンチシェアクリスタルの破片を利用した、女神からその力を奪う首輪。…おめでとう、ホワイトハート、パープルハート。これがある限り、君達は……ただの、幼女だ」




今回のパロディ解説

・にんじゅつ学園
忍たま乱太郎及び原作である落第忍者乱太郎に登場する学園の事。作中での城門もあんな感じに扉が付いてるんです…という説明も兼ねたパロディだったりします。

・UのドラマCD
原作シリーズの一つ、超次元アクション ネプテューヌUの特典であるドラマCDの事。ドラマCDでもこの組み合わせなんですよね、正確にはラムはノワールとですが。

・オルターエゴ
カードファイト‼︎ヴァンガードのユニットの一つ(二種類)、オルターエゴ・(ネオ・)メサイアの事。ブランはヴァンガードならメサイアデッキを使いそうな気がします。

解呪(アンロック)呪縛(ロック)
上記同様ヴァンガードに登場する能力の一つの事。オルターエゴは両方解呪(アンロック)をトリガーとするドロー能力はあっても、それ自体は出来ないんですよね。

・ロムがお化けを怖がる展開
パロディ…と言えるかどうかは微妙ですが、『超次元ゲイム ネプテューヌG 蒼と紅の魔法姉妹 -Grimoire Sisters(作橘雪華さん)』のパロディ。ちゃんと許可は取ってます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。