超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百一話 魔導の真骨頂

城内を探索する中で、わたしはロムとラムを軽く怒らせてしまった。…それは、わたしが信じきれていなかったから。頭では二人を認めながらも、心の奥で二人はまだまだわたしが守ってあげなきゃいけない存在だと思っていたから。

でも、わたしは見た。ロムとラムが、自分の力を犠牲にしてでも助けてくれようとする姿を。誰かに指示されるでも、強要されるでもなく、自分の意思で考えて選ぼうとする姿を。……力だけじゃない、心の成長を。

本当はそれも、分かっている筈だった。あれだけ酷い事を言ったわたしの為にギョウカイ墓場まで来てくれて、情けない姿を見せたわたしを元気付けようとしてくれた時点で、心の成長も見ていた筈だった。なのに、信じきれなかったのは…わたしが姉として、未熟だったから。二人が女神として成長するように、わたしも姉として成長していく最中だったのに、それを忘れていたから。……だから、わたしは思った。ロムとラムを信じて…わたしももっと、成長しようって。

 

「わたし達の身を案じて触手を添える程度にしていたのが仇となったな、トリック」

「ぐっ…幼女の力を見誤るとは、我輩一生の不覚…!」

 

拘束と首輪から解放されたわたしとネプテューヌは、女神化をしトリックに刃を向ける。

まさか二人が、『残党に当たらない床からの氷柱精製でわたし達を打ち上げ、間接的な衝撃で残党を吹き飛ばす』なんて常軌を逸した手段を取るとは思わなかった。元々時折思いもしない事をする二人だったけど、ここまで強引な……わたし達が女神でなければ内蔵が破裂しかねない力技を選ぶなんて、普通じゃない。…だが、普通じゃねぇのが女神というもの。…全く…やってくれるぜ、二人共。

 

「マジかよ…ど、どうしますトリック様!?」

「今考えておる…!…女神の数は四人。対してこちらの人数は……」

「もしまた残党を人質にしようとしてるなら無駄よ。貴方も知っているのでしょう?リーンボックスでわたし達が、残党を殺さず無力化したって」

「…あの時と同じパフォーマンスを、今も出来ると?」

「ったりめーだ。可愛い妹が大見得切って状況ひっくり返してくれたんだ、こんな時にパフォーマンスなんて落とせるかよ」

「……女神は正の思いを力とする者。…それはシェアエナジーという物理現象だけに留まらないという事か…」

 

形成逆転とばかりに笑みを浮かべるわたし達と、狼狽えながらも体制を立て直すべく視線を巡らせるトリック。だがネプテューヌが先んじて牽制をかけ、更にわたしも軽く啖呵を切るとトリックは一瞬閉口し……どこか感心したような声を漏らした。そして、再びトリックは視線を巡らせ…言う。

 

「……リンダ!例の本は持っておるな!?」

「へっ!?あ、は、はい!」

「ならばお前は動ける者を引き連れ撤退するのだ!本があればまだ人質としては機能するッ!」

『……ッ!』

 

トリックの叫びと共に、奴の左右に展開した魔法陣から何本もの触手が射出される。それにわたしとネプテューヌは反射し触手を切断するものの…そのあまりにも堂々とした撤退指示に、驚きを隠せなかった。

 

「テメェ、そんな真っ正面で言われてわたし達が素直に見送ると思ってんのかよッ!」

「思ってはおらん!故に…暫く我輩と戯れようではないか、凛々しき幼女達よ!」

 

カメレオンの如く高速で打ち出されるトリックの舌。それもわたしは斬り上げで両断してやろうとするも…案の定、高い弾性を持つ舌は斬り裂けない。それどころか舌は更に伸び、誘導兵器の様に先を再びわたしへ向けて襲い掛かる。……が、その瞬間に舌は幾つもの氷の刃の直撃を受けて弾かれた。

 

「あんたのさそいなんておことわりよ!」

「おことわり…!(ぷんぷん)」

「お断りか…しかし今回は我輩もそうはいかん。否が応でも付き合ってもらう!」

 

突進をかけたネプテューヌを魔力障壁で凌いだトリックは、指示とは裏腹に逃げる様子は一切見せない。

撤退しろという命令。それに対して撤退の動きは見せず、逆に何としてでもわたし達を留めようとする態度。それはつまり……

 

「と、トリック様!?ま、まさか…トリック様はここに残るつもりなんですか!?」

「誰も足止めせずにこの場を乗り切れるものか!」

「で、ですが…だったらその役目はアタイが……」

「自惚れるなリンダ!お前では勝負にすらならん!」

 

鬼気迫る表情で部下の言葉を一蹴するトリック。トリックは次々と魔方陣を展開しながら言葉を続ける。

 

「別に我輩は犠牲になるつもりではないのだ!早く撤退する事こそが我輩の助けになると考えよ!」

「あ…アタイは犠牲になろうと構いません!ですから──」

「折角の才能ある自分を無下にしようとするでない!お前には様々な事を見せてきたつもりだ!考えよ、そして最善を尽くせ!ここで戦う事が、お前がすべき事なのかリンダよッ!」

「……ッ!…トリック様…アタイ、お待ちしてますから!」

「……っ…だったら、こっちはいーすんを返してもらうわよッ!」

 

一度は食い下がった下っ端とやらも、トリックの彼らしからぬ熱弁に押されて走り出す。そしてその瞬間、完全に皆の意識から外れていたイストワールに向けて、ネプテューヌが飛んだ。

 

「いーすん!」

「ネプテューヌさん…!」

「ごめんなさい、すぐに助ける筈だったのに時間がかかっちゃって…でももう大丈夫よ!」

 

咄嗟にトリックが放った魔弾を鋭いループで避け、滑り込むようにイストワールの前へと降り立ったネプテューヌ。左手を差し伸べるネプテューヌの言葉には安堵の感情が篭っていたが…イストワールの返答には、焦りと申し訳なさが込められていた。

 

「…すいません、ネプテューヌさん…今逃げた方を追って下さい!彼女はわたしの本を持っているんです!」

「本?…そういえば、今のいーすんには……」

「はい!あれはわたしにとって真の本体と言うべきもの!あれがなければ、わたしは……」

「…分かったわ!ブラン、ここを任せてもいいかしら!?」

「言われなくてもそのつもりだ!早く行けッ!」

「えぇ、恩に着るわ!」

 

本が本体とは、一体どういう事か。わたしは一瞬そう思ったものの…ネプテューヌはそれを訊く事無く、即座に飛び上がった。そんなネプテューヌとわたしは視線を交わし…トリックの前へと躍り出る。

 

「ぬぅぅ!行かせなど…ッ!」

「ロリコンの癖に目移りしてんじゃねぇ!テメェが誘ってきたんだから、最後まで付き合ってもらおうじゃねぇか!」

 

魔方陣の一つを叩き割り、トリックに向けて肉薄する。堪らず下がった奴の先には、ロムとラムが精製した氷の杭。後退も出来ず、苦し紛れに魔力障壁を展開したトリックに向け…わたしは大上段から戦斧を振り下ろした。

 

 

 

 

わたしの知る限り、戦闘におけるトリックの真骨頂は策を交えて戦う事。準備を入念に行い、策を張り巡らせる事…それがトリックの強みであると同時に必要不可欠な戦法であり、想定外の形で戦わざるを得なくなった今のトリックは既にハンデを負っているようなもの。だから、今のわたしは負ける気がしなかったが……開戦から暫く経った今は、少しばかり焦りも感じていた。

 

「ちっ…いちいち鬱陶しい攻撃をしてくるんじゃねぇよッ!」

「アクククク、幼女には構いたくなるのが紳士なのだ!」

「紳士を名乗りたいなら…前に変態も付けやがれッ!」

 

執拗に魔方陣からの触手でばかり、それも動きの妨害ばかりを行ってくるトリックに怒鳴りを上げる。だがトリックは愉快そうに笑うだけで、それがわたしの神経を一層逆なでてくる。

焦りの要因は二つ。一つ目は、トリックの戦い方。端から勝つ事を考えていないのか、防戦に徹するトリックへは何度仕掛けても後一歩のところで凌がれてしまう。まるで歯が立たないならまだしも、後一歩が何度も続くのはとにかく気分が悪い。そして、もう一つは……

 

「むぅ、デカいわりにうごきまわって…!」

「当たらない…!」

「あっ、おい……!」

 

左右に分かれ、アイコンタクトだけで意思を交わして魔法を次々と放っていくロムとラム。二人の魔法はトリックの迎撃を飲み込み、障壁を砕いて炸裂を起こしていく。

勇猛果敢に攻め込んでいく心意気は姉として褒めたいところが……ここは屋内、それも随分と前に捨てられた古城。そんな場所で際限なく高威力や広範囲の魔法を放っていけば、そしてその果てに城が崩落すれば……わたし達だって、どれだけの怪我を負うか分からない。

 

(崩落に乗じて逃げようってのか?防戦に徹してるのは部下の離脱の時間稼ぎだけじゃなく、堅牢な防御を演じる事でロムとラムから強力な魔法を引き出し、流れ弾による城の破壊を目論んでるって事か?…ちっ、だとしたらとんだ道化だテメェは……!)

 

わたしの推測が当たっているならば、ヒートアップしている二人は完全にトリックに乗せられているという事になる。だが、だからと言って二人に加減しろとは言えない。わたし達三人が本気でかかれば勝ち目は十分にあるが、手加減して勝てる程甘い相手でもないのが、ここにいるトリックなのだから。

 

「…だがよトリック、そういう事なら…テメェはわたしに近付かれたくはねぇんだよなぁッ!」

「む、強行突破か…だがッ!」

 

多方向から伸びる触手を捻りを加えた回転斬りで斬り落とし、一直線にトリックへ突進。切断しきれなかった数本の触手がわたしへ追い縋ってきたが、それをわたしは敢えて左手と右脚で受け……その瞬間、巻き付かれた部位のプロセッサをパージ。

 

「ぬぉっ!?」

「こちとら女神なんだ、武器だろうがプロセッサだろうが、道具に頼るつもりはねぇんだよッ!」

「ぐぁっ……!」

 

如何に防御を意識していても、その防御が通用するのは攻撃側が想定の範囲内だった場合。つまり、奴の想定を超えれば……突破口は必ずあるッ!

目を見開くトリックの懐に入り、片手持ちの戦斧で一閃。それは本来両手で持つべき戦斧を、短く持ち替える事もなく放った一撃であるが故に致命傷こそ与えられなかったが…それでも確かに、戦斧はトリックの腹部を斬り裂いていた。

 

「ロム、ラム!追撃!」

「う、うんっ!」

「おねえちゃん上手くよけてねッ!」

 

女神化で気分が高揚しているのか、わたしがまだ攻撃範囲内にいるであろう時点で炎と雷の竜巻を打ち込んでくるロムとラム。…けど、それでいい。わたしだってそうしてくる想定で動いているのだから。

ムーンサルトで後ろへ跳んだ瞬間、わたしの背を掠めるようにして二つの竜巻がトリックへと直撃する。火花と放電を周囲に撒き散らしながら爆発を起こす二つの魔法は、その余波を見るだけでもかなりの威力がある事がひしひしと伝わってきたが……

 

「…うぐぐ…多少の傷はやむなしと思っていたが…どうやら墓場での戦いと同等かそれ以上を覚悟しなければいけないようだな……」

「ちっ…ほんと便利だなその舌は……」

 

爆煙が晴れた時、トリックは舌を身体に巻きつけた姿で攻撃を耐え抜いていた。勿論無傷ではなく、舌には火傷と焼け焦げの痕が残っていたが……それはわたしの期待していた程じゃない。

 

「げっ、キモいぼうぎょしてる…」

「おねえちゃん、どうする…?」

「そうだな…二人共、策士策に溺れる…って分かるか?」

「……さとしくん、おぼれる…?」

「さとしくん、かわいそう…」

「さとし君じゃなくて策士だ…分からねぇなら帰ったら教えてやる。取り敢えず二人は、面より点の攻撃を心掛けてくれ。よーく狙って、なッ!」

 

ロムラムと合流したわたしは、パージしたプロセッサを再精製しつつ遠回しに広範囲魔法の使用を抑制させ、同時に思案を巡らせる。狡猾で常に策を講じ続けるトリックへ、最大最高の攻撃を叩き込む道筋を見付ける為に。

 

(防戦に徹してるトリックにデカい一撃をぶつけるには、わたしかロムラムがまずその防御を崩さなきゃならねぇ。けど……)

「何を企んでおる、ホワイトハート!」

「それ位は、テメェも理解してるよな…ッ!」

 

二人の撃ち込む光芒を跳躍で避けたトリックは、巻き付けた舌を戻しつつもその動きに魔力を纏わせ半月状の衝撃波をわたし達へ敢行。それ自体は何ら怖くもない普通の攻撃なものの、トリックの行動がそれで終わる訳がない。

 

「その巨体で跳んだって、的になるだけなんだよッ!」

「さぁて、それはどうかな?」

「どうかなって……はぁぁっ!?」

 

それで終わる訳がないのなら、次の動きをする前に落としてしまえ。その発想でわたしは魔弾を作り出し、攻撃体勢を取っていた二人と共に対空迎撃。当たれば御の字、防御されても自由の効かない空中なら容易に追撃が可能…そう目論んでいたわたしだったが……わたし達の魔法が当たる直前、トリックは壁面に沿う柱の一つに舌を巻き付かせ、舌の筋力で身体を引き付ける事によって回避行動を取っていた。

舌を自在に伸縮させ、城内を飛び回り始めるトリック。その様は、あまりにも鮮烈で…どうしようもない程気持ち悪い。

 

「て…敵且つゲテモノ枠のテメェが某不動産王みてぇな空中機動してんじゃねぇよ!?ほんとどうなってんだよその舌はッ!」

「気になるか?ならばじっとりねっとりと実際に触れて……」

「ロム!ラム!アイツ撃ち落とすぞッ!」

 

プロセッサの再精製が完了した右脚で床を蹴り、飛び回るトリックへと接近する。トリックはわたしの心を乱そうとしているのか、ただ欲望を発露しているだけなのか分からないが、とにかく奴は色々とトリッキー過ぎる。早いとこ策を構築しなきゃ不味いってのに、ほんとロリコンってのが相性悪い……

 

「威力勢い共に良い魔法だ!だが、動いている相手を狙うのなら、一捻りせねば当たらんぞ?」

「うっさい!じゃあ止まりなさいよ!」

「ほほう、止まれとな?では……」

「あっ…下がっちゃった…!?」

(……ん…?)

 

舌を利用した三次元機動に加え、魔法発射による反動で動きに変化をつけて(恐らくこの魔法も城破壊の側面がある)わたし達の攻撃を凌いでいくトリック。魔力弾を避けられたラムが不満を爆発させて無茶な要求をトリックにぶつけると、驚く事にトリックはそれを受け入れ……されどその時奴が舌を絡めていたのが巨大なシャンデリアだったが為に、トリックは振り子の要領で後ろに下がり、結果ラムに次いで放ったロムの魔力弾も虚しく天井へと激突する。

……が、そこでわたしの頭に一つの可能性が浮かび上がった。普通ならばそんな筈のない…だが奴ならあり得ないとも言い切れない、一つの可能性が。

 

(……試してみるか…)

 

わたしは複数の魔弾を作り、先程同様戦斧で打ってトリックへ発射。トリックはロムラムの攻撃を自在に避けつつ魔力障壁でわたしの攻撃も防ぐが、わたしもわたしで遠距離攻撃を続行する。懲りずに、諦めずに、何度も何度も打ち込んでいく。すると……

 

「攻めあぐねての遠隔攻撃か…己の強みを見誤ったな、ホワイトハートよ!」

(……ッ!やっぱりか…!)

 

戦斧で打つ動作に入った瞬間、少し前までわたしにまとわり付いてきたあの触手攻撃が再開される。わたしの射角を妨害しつつ近付いてくる触手は、魔弾攻撃をする上で非常に邪魔となる存在だが……この瞬間、わたしは確信する。

 

(…トリック、テメェは気持ち悪いロリコンだ…だが、幼女を大切にしてるってのは本当みたいだな……!)

 

触手を斬り払いながら、アイコンタクトで二人を呼び寄せる。

思えば、トリックは事ある毎に『教え』を口にしていた。ロムラムに対しても、わたし達に対しても、下っ端に対しても。そしてトリックは、わたし達を傷付けない事へ細心の注意を払っていた。前者をわたしは気にも止めず、後者に関してもわたし達を綺麗な身体のまま手中に収めたいからだと思っていたが……もしも、そうではないとしたら?趣味だとか、性癖だとかの域ではなく…覚悟や信念の域で、奴の言う『幼女』を大切にしているのだとしたら?

 

「おねえちゃん、何…?」

「じゃくてんでも見つけたの?」

「あぁ、そういうこった。…ロム、ラム、二人はこれからわたしの援護をしつつ力を溜めろ。そして十分に溜まったら合図をしてくれ。そうしてくれればわたしが、二人のフルパワーを当てられるだけの隙を作る」

「え……おねえちゃん、それって…」

「トドメは二人に任せる、って事だよ。…任せても、いいよな?」

「……!うん、わたしとロムちゃんに任せて!」

 

背後に降り立った二人へ、わたしは端的に狙いを説明。それから少しだけ後ろを向いて、にっと笑みを浮かべると…二人は顔を輝かせ、ぶんぶんと元気一杯に首を振った。……ったく、ほんとにうちの妹は可愛くて頼もしいな。

 

「む?作戦会議か…ならば是非我輩も…」

「内緒話を聞こうとすんじゃねぇよ。それよりトリック、互いの誇りをかけて一対一で勝負っつったらテメェは乗るか?」

「それが本心ならば喜んで乗ろう。だが、流石の我輩も魔力の籠る杖を向けられた状態で言われても本心だとは思えん」

「ま、そうだろうな。…安心しろトリック、わたしもそのつもりはねぇからよッ!」

 

わたし達の変化を感じてトリックが降り立った瞬間、わたしは奴との距離を詰める。触手と魔法による迎撃が見えた瞬間真上に飛び上がり、飛び蹴りの体勢で再び接近。そこからは迎撃が襲ってこなかったが…わたしの飛び蹴りは、分厚く柔らかな舌によって受け止められた。

 

「くぅ、先程であれば素足であったというのに…!」

「テメェは床のゴミと埃が付いたプロセッサで我慢してろッ!」

 

縦に舌を巻く事でわたしを捕縛にかかったトリックに対し、わたしは舌の先端に戦斧を打ち付ける事で妨害。尚もトリックは捕縛を狙ってくるが、絶妙なタイミングでロムラムの魔法が放たれた事によってトリックは意識を逸らされる。そしてそれは一瞬でも、わたしにとっては十分な時間。

 

「ほらほら、わたしはこっちだぜロリコン野郎ッ!」

「これは…何か必勝の策を思い付いたのだな…!」

「だとしたらどうするよ!女神三人が相手なんだ、負けたって恥にゃならねぇんだから…素直にやられやがれッ!」

 

背面に回り、横薙ぎを放つわたし。それは魔力障壁で止められるも、わたしは継続して力を込める事によって強行突破を画策。トリックも破られないよう障壁に魔力を込めなければならず、その間に再び二人の魔法が襲いかかる。

早々にトリックが気付いたのは何故か。それは、わたしの動きと気迫にキレが戻ったから。トリックの狙いに乗せられ攻め切れずに焦っていた時と、崩壊前に勝利する道筋が出来た時で精神状態が違うのは当たり前の事で……わざとわたしは、それをトリックに気付かせていた。敢えて気付かせれば、こちらに策があると考えさせれば…トリックの戦術構築を、阻害する事が出来るから。

 

「…女神候補生二人の攻勢が減った…援護に徹するつもりか…」

「かもしれねぇし、途中で突然大技ぶちかましてくるかもしれねぇぞ?」

「ふん、少なくともこの距離でそれはなかろうに…!」

 

トリックは狙いをわたしから二人に変えようとするが、勿論それはわたしが許さない。攻め落とす必要がなくなった分わたしには精神的な余裕が出来て、トリックもトリックで側に離れるより近接戦のままの方が安全だと考えたのか、付かず離れずの距離を維持してくる。……それもまた、わたし達にとっては好都合だと気付かずに。

 

(策士策に溺れる…色々見える奴程、色々考えられる奴程それに囚われ易いもんだよな…!)

 

それからもわたし達が優勢なれど攻め切れない、一見すればそれまでと変わらない戦況が続く。その間も少しずつ城内の傷は増え、危険性は高まっていくが、二人の能力なら十分間に合う。……いや、違ぇな…間に合う、じゃなくて……

 

『おねえちゃんっ!』

「待ってたぜ、二人共ッ!」

 

──間に合った、だッ!

トリックから離れ、ロムとラムの前へ降り立つわたし。背後から感じるのは……膨大な魔力とシェアエナジー。

 

「二人共、抜かりはねぇな!?」

『うんっ!』

「なら、いくぞッ!」

 

わたし達の口振りから切り札クラスの攻撃がくると察したのか、険しい顔で魔方陣を展開していくトリック。そのトリックに向けて、わたしは最後の突撃をかける。

 

「さぁ、戯れも終わりにしようじゃねぇかトリックッ!」

「そうはさせんぞ…ッ!」

「いいや、させてもらうねッ!喰らいやがれ、わたし達三人の連携技……」

 

上段の構えで接近するわたしに向けて、触手と魔弾を始めとする多彩な魔法が放たれる。先の突撃時とは違う、何としてでも接近を許さないというトリックの迎撃。それを目にしたわたしは、笑みを浮かべ……

 

 

 

 

「…………なーんて、な」

 

……戦斧を、武器であると同時に迎撃手段でもある得物を…手放した。

 

「な──ッ!?」

 

無防備で迎撃に飛び込むわたしに対し、誰よりも驚き目を見開いたのは、その迎撃を行ったトリック自身。そしてトリックは……触手の軌道を変える。自身の放った迎撃へぶつける為に。……わたしを守る為に。

 

「悪ぃな、テメェの優しさにつけ込んじまって…だがな、わたしにも果たさなきゃいけない使命があるんだよッ!」

「うぐ……ッ!」

「だから…今度こそ終わりだトリック!シュトゥルムヴィントッ!」

 

トリックが自ら迎撃を迎撃した事により生まれた、わたしとの空白。そこへわたしは滑り込み、捻りを入れた右腕の一撃をトリックの舌へ。そして床へ叩き付けられた舌へ向けて、氷の竜巻を叩き込む。

それは、ロムとラムが使う魔法に比べれば、質も威力も低い小さな魔法。それでも氷の竜巻は当たった地点とその下の床を凍らせ……一瞬ながらも舌を釘付けにする。

 

「後は頼むぜ、ロム!ラム!」

 

そう叫びながら、わたしは跳ぶ。そしてその瞬間……部屋は光に包まれる。

 

「いくよ、ロムちゃん!」

「うん、ラムちゃん!」

 

二人の背後に現れたのは、巨大な魔方陣。それは舞い上がる二人に付随しながらあらゆる系統、あらゆる属性の魔法を放ち、退避も舌による防御も出来ないトリックへと襲いかかっていく。

それだけでも並みの攻撃とは一線を画す、圧倒的な魔法の奔流。だが、二人の魔法はそれだけでは終わらない。

 

「わたしたちの…!」

「ひっさつわざ…!」

 

それぞれで半円を描くように飛んだ二人は、トリックの背後で合流。その瞬間二人の魔方陣も合流し、更に巨大な魔方陣を作り上げる。

魔方陣が新たな紋章を描く中、二人は背中合わせになりながらロムは右手を、ラムは左手を前へ掲げる。それによって掲げられた二本の杖は交差し、背後の魔方陣は二人をすり抜け杖の先で光り輝く。そして……

 

『──メモリーオブ・リードアンドランダムッ!いっ、けぇぇぇぇええええええええっ!!』

 

──白く輝く光の柱が、空間諸共トリックを飲み込んだ。…それは、ルウィーの女神の真骨頂。本来ならわたしにも至れる筈だった、わたしにもある筈だった、魔導の作る光そのもの。……ロムとラムの魔法は、誇らしい程に…悔しい程に、その威光を示し続けていた。

 

「はぁ…はぁ……」

「こ、これがわたしたちの…フルパワーだよ、おねえちゃん…」

 

輝き続けていた光芒も無限ではなく…されど攻撃としては十分過ぎる程に照射され続けた後、消失と同時に二人は膝を付く。…だが、顔を上げた二人の顔には……自慢気な、満足気な笑顔が浮かんでいた。

 

「あぁ、見てたぜ二人共。今の魔法は…百点満点だ」

「やった…!」

「これは、おねえちゃんが…しんじてくれた、おかげ…!」

「……っ…な、生意気な事言ってんじゃねぇよロム。それより奴をちゃんと倒せたか確認を…」

 

満面の笑みで姉冥利に尽きる事を言われたわたしは、つい喧嘩腰な返答をしてしまう。そこから更に誤魔化しを兼ねたトリックの確認をしようとして……

 

「なぁ……っ!?」

「わぁぁっ!?」

「きゃっ…!」

 

……その瞬間、天井の一部が崩落した。わたしの恐れていた事が…避けようと算段を立て、全力を尽くしてきた筈の事が……始まった。

 

「……ッ!二人の魔法が強過ぎたって事かよ…!おい、逃げるぞ二人共ッ!」

 

わたしの計算では、二人の攻撃でも城は壊れないと考えていた。けれどそれは、二人の力がわたしの推測通りだった場合。成長率がわたしの思っていた通りだったら耐えてくれるという推測であり……現実問題として、二人の魔法使いとしての能力はわたしの推測を遥かに超えていた。…ふざけんな…成長し過ぎたから悪いだなんて、そんなふざけた事があってたまるかよ……ッ!

 

「わ、わっ……!」

「お、おねえちゃん…!」

「落ち着け!まだこの様子なら一気に崩れる事はねぇ!落ち着いて、あそこの出口からこの部屋を……」

 

崩落が始まったといっても、今は幾つかの場所が落ちてきただけ。ここから連鎖的に落ち、最終的には完全崩落となってしまうだろうが、それまでにはまだ若干の余裕がある。そう判断したわたしはトリックの確認を諦め、慌てふためく二人に指示を飛ばし…………その瞬間、二人の真上の天井が、崩落した。

 

『え……?』

「────ッ!ロムッ!ラムぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!」

 

崩落の音に気付くも、呆然と見上げているロムとラム。二人を助けようと、無意識に飛び出すわたし。……けど、最悪のタイミングでわたしの前にも崩れた天井の一部が落ち、わたしは急ブレーキを余儀なくされる。これが無ければ間に合っていた筈なのに、わたしは助けるチャンスを奪われてしまう。

候補生と言えど二人は女神。崩落を受けても死ぬとは限らないし、怪我で済む可能性もある。…けど、だからなんだってんだ…!二人が危ないってのに、二人を失うかもしれないのに、なのになんでこんな時に落ちてくるんだよ……ッ!くそっ、間に合え…間に合え間に合え間に合え間に合えッ!じゃなきゃ、わたしは、わたしは……ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「──う……ぉぉぉぉぉぉおおおおおおッ!!」

 

──その時、わたしの真横をすり抜けた影。一直線に二人の下へと駆け抜け、手足を付いて二人に覆い被さる黄色の影。……次の瞬間、瓦礫が音を立てて直撃する。

 

「…………嘘、だろ……」

 

わたしは、目を見開いていた。けれどそれは、二人が潰されたからでも、瓦礫の軌道が変わったからでもない。

確かに瓦礫は真っ直ぐに落ち、下にある二人に当たりかけた。だが、瓦礫が直撃したのは二人ではなかった。瓦礫が当たったのは、二人ではなく二人に覆い被さった黄色の影……今にも倒れそうな程の重傷を負った、トリックだった。




今回のパロディ解説

・「紳士を〜〜付けやがれッ!」
ギャグマンガ日和シリーズによって生まれた言葉(?)、変態紳士の事。変態紳士・トリック。原作では紳士なのかも微妙ですが…信次元トリックは紳士です。……多分ですが。

・「こちとら女神〜〜ねぇんだよッ!」
マクロスFrontierの登場人物の一人、オズマ・リーのノベライズ版での台詞の一つのパロディ。装備をパージするという点も含めてパロディをしております。

・某不動産王
ジョジョの奇妙な冒険シリーズの第二部、戦闘流潮の主人公ジョセフ・ジョースターの事。三部最終決戦でのターザン的移動のパロディ…のつもりです。
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