超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百十七話 もう一つの姉妹と絆

私は思いもよらぬ遠出をする事になった。準備一つ出来ない中で、しかも最初はちゃんと帰る事が出来るかどうかも怪しい、とんでもない遠出。

でも私は、その出先で幸せな日々を過ごした。凄く嬉しかったし、凄く楽しかった。そんな出先から帰った時に、私の心の中にあったのは充実感。寂しさより楽しかった思い出の方がずっと強くて、だからこそ帰った時点で次への期待も胸にしていた。

そんな思いを抱きながら、その日は終わった。そして、翌日……

 

「……か、髪の毛跳ねてないよね…?」

 

プラネタワーのロビーで、私は身嗜みの確認をしていた。そわそわ、そわそわと、自分で分かる位にいつもの私らしからぬ様子で。

 

「うぅ…疲れのおかげで寝不足にはならなかったけど……」

 

今私はある人と待ち合わせをしているんだけど、待ち合わせ時間はまだ大分先。にも関わらずもう待ち合わせ場所にいるのは、居ても立っても居られなくなったから。…彼氏を待つ女の子って、こういう気持ちなのかな…待ってるのは彼氏でもなければ、恋する相手でもないんだけど。

 

「……や、やっぱり幾ら何でも早過ぎたかな…うん、ここは一度戻ってライヌちゃんに癒しを…」

「…もういらしていたんですか…お待たせしてすみません、イリゼさん(>人<;)」

「……!い、いいいえ!全然待ってませんよ全然!むしろまだ来てない可能性もありますし!」

「……え、と…それは、世の中に存在する無数の可能性の話ですか…?(^_^;)」

「あ……ごめんなさい、今のは無しでお願いします…」

 

後ろから声をかけられた…というのもあるけど、それを抜きにしても驚き過ぎな私。しかも思わず意味不明な事を口走ってるし…お、落ち着かないと…。

 

「…すぅ、はぁ……わ、私が早く来過ぎただけなので大丈夫ですよ。時間だってまだ待ち合わせより結構前ですし」

「わたしも早めに行って待ってようと思ったんです。結果はわたしの方が後になってしまった訳ですが…。…して、どうしましょう?もう行きますか?(´・ω・)」

「…そう、ですね…他に誰か待ってる訳でもないですし、そうしましょうか」

 

ふよふよと隣へやってきたイストワールさんの提案に、私は頷く。……そう、私が待ち合わせていた相手というのは、イストワールさん。

随分前…旅に出る前に、私とイストワールさんは『やるべき事が済んだら一度出掛けよう』と約束した。まだやるべき事が全て済んだ訳ではないけど、私はイストワールさんと話したい事があったし、昨日知った会議や残ったやるべき事の筆頭である『犯罪神の再封印』も近々行う(行える)という関係上、二人揃って気兼ねなく一日の休みが取れるのが今日だけだったから、昨日急遽私はイストワールさんを誘い、こうして行く事となった。

 

「イストワールさん、どこか行きたい所はありますか?」

「ここに行きたい、というのはないですね…何せ昨日の今日ですし…σ^_^;」

「ですよね…ほんと、急な話でごめんなさい…」

「いえいえ、約束自体は前からしていましたし、問題ありませんよ。…あ、人気スポットでも調べましょうか?( ・∇・)」

「そ、それは大丈夫です…というか、そんな携帯端末のAIみたいな事をしてもらう訳には……」

 

私は徒歩で、イストワールさんは私の肩辺りの高度を飛んでお出掛け開始。一瞬AIスピーカーならぬ『いーすんスピーカー』というのを想像しちゃったけど……って、あれ…?

 

(…もう一人の私に生み出された私やイストワールさんは勿論、人の思いで生まれた女神の皆も…ある意味では、皆AI……?)

「……?どうかしました?(・・?)」

「あ、い、いえ…じゃあ、私が考えていた場所でいいですか?考えていたって言っても、何となくですけど…」

「構いませんよ。無理に良さそうな場所を見つけるより、行きたい場所の方が楽しめますからね( ̄∀ ̄)」

 

そんな話をしながら歩く(飛ぶ)私達。…ちょっと遊ぶ位だったりクエストだったりで人を誘った事はこれまでにもあったけど、こうして一日かけたお出掛けに誘うのは初めての事。しかもその相手がどちらかといえば仕事絡みで接する事の方が多いイストワールさんだったから、妙に緊張しちゃった私だけど…始まってしまえばなんて事なく、普通にイストワールさんと話せている。それはそれこそ、何で緊張してたんだろう…と思う位に。

そうして移動する事十数分。大通りを歩いていた私は、ある店舗の前で足を止める。

 

「ここは……服、見たかったんですか?

(´・ω・`)」

「まぁ、そうと言えばそうですね」

 

訪れたのは、アパレル業界ではそれなりに名の通ったお店。加えて言えば…初めて来るお店。

 

「さて、何から見て回ろうかな」

「どれからでもどうぞ。わたしは付き合いますから(´∀`*)」

「そうですか?なら、試着の時は私に似合うかどうか見て下さいね」

「えぇ。でもイリゼさんなら、何でも似合うと思いますよ(≧∀≦)」

 

お世辞っぽさはない、でもお世辞じゃないならそれはそれでちょっと気恥ずかしい言葉を受けながら、私は衣類や小物を見て回る。

 

(…でも、実際私はどういう系統が一番似合うんだろう?自分が良いなと思ったものが似合うとは限らないし…)

 

私だって身嗜みには気を使うし、綺麗だとか可愛いだとか思われればそれは嬉しい。つまり…女神だってお洒落はしたい!……という訳で、琴線に触れた服を幾つか選んで試着スタート(因みにどちらかと言えばブランド系のお店だったから、試着大丈夫か訊いたら店員さんにがっつり頷かれた。…女神と教祖のコンビだったからだろうね)。

 

「この服装はどう思います?」

「パンツルックですか…クールな印象があっていいですね(^o^)」

「なら、これはどうです?」

「ダッフルコート…今度は大人っぽくなりましたね。イリゼさんは背の高い方ですし、良い選択かもしれません( ̄∀ ̄)」

「では、これは……」

「……あのー、イリゼさん…」

「何です?」

「……動き易さ重視で、選んでます…?σ^_^;」

「あっ……」

 

何度か試着した姿を見せ、今度はノースリーブのブラウスを…と手を伸ばした瞬間、カーテンの向こうから聞こえたイストワールさんの質問。……正直に言えば、図星だった。半分位は、無自覚で選んでたけど…。

 

「あはは…駄目ですね。どうしても『この服着てる時戦闘になったら…』って考えてしまいます…」

「職業病ですね…女の子なんですから、間違っても『ジャージが一番良いや』とか思ってはいけませんよ?( ̄^ ̄)」

「お、思いませんしそんなドロップアウトした天使みたいにはなりませんよ…でも真面目に選び出すと物凄く大変になりそうな気がするので、服は今日止めておきます…」

 

ベストな服をイストワールさんと探すのも悪くないけど、それだけに何時間も費やしてしまうのは流石に惜しい。そう考えた私は服選びを止めて、小物の方へと移動した。服と違ってこっちは戦闘になっても降ろせるからね。

先程とは違い、単純に興味の湧く物をイストワールさんと共に見る事十数分。ふと目に付いたある商品の前で、私は立ち止まる。

 

「……あ、これって…」

「そのバック、気に入ったんですか?似合わなくはないと思いますけど、あまりイリゼさんらしくない気が…(´・ω・`)」

「いえ、これイストワールさんが入るのに丁度いいかなぁ…と」

「あぁ……って、どんな視点で見てるんですか!わたしがカンガルーの子供の様にひょこっとバックから顔を出すとでも!?o(`ω´ )o」

「私は可愛いと思いますよ、ひょこっと出てるの。…うん、これにしよう」

「そ、そういう趣旨じゃないでしょう!?わたしではなくイリゼさんの買い物でしょう!?聞いてます!?Σ(>□<;)」

 

イストワールさんの猛抗議に晒される私。でも見た目通りイストワールさんに私を引き止めるだけの力はなく、更に彼女はかなり良識的な人物という事もあって、その抗議もレジ近くまで行った時点で沈静化。比較的周りに振り回され易い私ではあるけど…性格面はあまりトリッキーじゃないイストワールさんみたいな人が相手なら、こうして優位に立つ事も出来るというもの。

そうして私達はお会計を済ませ、満足の一品が手に入ったという思いを胸に外へと出る。

 

「ありがたいですよね。プラネタワーに送ってくれるなんて」

「まさか、そうでなかった場合はわたしを入れて次の場所へ行こうと思っていたりはしてないでしょうね…?(−_−;)」

「してませんしてません。それより次は…」

「……あ、すみません。ちょっと待っていてもらえますか?(・人・)」

「え……いいですけど、それは何故…?」

「忘れものです( ´ ▽ ` )」

 

お店を出てから一分と経たずに、再びイストワールさんは店舗の中へ。忘れたって、一体なんだろう…そもそも何かをどこかに置いたりしてたかな…なーんて思いながら待っていると、早くもなく遅くもなくの時間でイストワールさんが戻ってきた。

 

「お待たせしました。次はどこへ行くんです?(´・∀・`)」

「あ…はい。次は花鳥園に行こうかと…」

 

特に何をどうした、という部分には触れる事なくイストワールさんは次の場所に対する興味を口に。少なからず疑問を持っていた私だけど、イストワールさんが話す様子もなく、むしろ楽しそうな顔で次の場所を訊いてくれた事にちょっぴり嬉しくなって、疑問は一先ず置いておく事にした。

それから私達は花鳥園を訪れ、園内をゆっくりと一周。先程のお店同様この花鳥園も…というか、花鳥園に来る事自体が初めてで、華やかで鮮やかな花と、大小様々な鳥が集まる花鳥園は、他のお客さんがいなければはしゃぎ回りたくなる程楽しい場所だった。…でも、イストワールさんは少し違ってて……

 

「うぅ…何度か猛禽類に獲物を見るような目をされました……(>_<)」

「ちょ、丁度お昼時でしたもんね……」

「後、わたしが自分より少し大きい花に近付くと、何故か周りの方が『おぉー…』と感嘆の声を上げてました…(´Д` )」

「それは……はは…(多分某いちりんポケモンっぽい感じになってたからだろうなぁ…)」

 

昼食の為レストランに入った時、イストワールさんはちょっと疲れていた。……も、申し訳ない…。

 

「…ご、ご飯食べましょうご飯!疲労回復です!」

「そうですね…こうしてレストランに来るのも久し振りです…(´∀`=)」

「教祖は女神より自由が効きませんもんね…しかもプラネテューヌの守護女神はネプテューヌだし…」

 

メニュー表に目を通しながら、イストワールさんの言葉に私は苦笑い。ネプテューヌには良いところも沢山あるし、女神としてのカリスマ性も間違いなく持ってるけど、他に良いところがあるから仕事しなくてもいいじゃんとはならない訳で……うん、ほんと仕事しようね。ネプテューヌ。

 

「私はチーズドリアにしようかな…イストワールさんは何にします?」

「わたしですか?わたしはドリアを少し頂ければそれでいいですよ( ̄∇ ̄)」

「え…もしやイストワールさん、ダイエットを……って、あ…」

「…はい。一人前どころかお子様メニューでも、わたしにとっては多過ぎますから

(´-ω-`)」

 

開いたメニューの向こうにいるイストワールさんは、今広げているメニュー表は勿論、普段座っている本にすら収まってしまう程の小さな体躯。いつもの食事だってイストワールさんだけ物凄く少なくて、普通のメニューなんて食べ切れる訳もなくて…そんな彼女に「何にする?」…なんて、いっそ失礼とも言える行為。

 

「……ごめんなさい、無神経でした…」

「……?…あ…大丈夫ですよ?この大きさなのは今に始まった事ではありませんし、不便を感じる事はあっても悩んではいませんから(´・ω・`)」

「…じゃあ、せめて…私はイストワールさんの食べたい物を…」

「ですから大丈夫ですって。それに普段ドリアは食べないので、むしろドリアのままにしてほしい位ですd(^_^o)」

 

ぐっ、と軽めのサムズアップで変える必要はないと言ってくれるイストワールさん。それでも私は引け目を感じていたけど…そう言ってくれるなら、その通りにする方がイストワールさんの気持ちに添えると考え直して、自分の思った通りに注文。その後運ばれてきたチーズドリアを小皿に取り分けて、私達はお昼ご飯に。

 

「当たり前だけど、熱々だなぁ…。…あ、イストワールさん食器は……」

「ご心配なく。外食になるだろうと思って、持ってきました(`・ω・´)」

「おぉー。流石イストワールさん、抜かりがないですね」

「備えあれば憂いなし、ですよ。では頂きましょうか(・∀・)」

 

しゃきん!…とスプーンを取り出したイストワールさんに軽く拍手を送り、そのまま手を合わせて食事前の挨拶。私もスプーンを手に取り一口食べると……熱い!チーズが蓋になって切り分けるまで熱が籠っていたから本当に熱いっ!…でも……

 

「…はふぅ、美味しい……」

「ですねぇ…クリーミーです…(*´ω`*)」

 

私とイストワールさん、二人揃ってほっこりした顔に。後いつもの事だけど、小さなイストワールさんが、更に小さな食器で小さな小さな一口を食べる姿で尚更ほっこり。

 

「イストワールさん、それだけで足ります?」

「足りますよ。イリゼさんも減ってしまったドリアで満足出来ますか?(・ω・`?)」

「そんなに減ってませんし問題ありません。それに、パフェも注文しましたから」

 

雑談を交えながら食べる事数十分。濃厚なチーズドリアを堪能し終えた丁度良いタイミングでパフェも運ばれてきて、私はスプーンをデザート用の物に持ち替える。

 

「デザート用スプーンって、掬う部分を削減して柄の伸長に割り当てたみたいな形状してますよね…あ、そうだ」

「…何か思い付いたんですか?

(´・ω・`)」

「…イストワールさん、どーぞ」

 

生クリームとアイスを両方掬い、イストワールさんの口元へスプーンを持っていく私。それを受けて目を丸くするイストワールさん。これは普通のスプーンでやったらイストワールさんの顎に負担をかける行為だけど…このスプーンでならギリギリセーフな筈…!

 

「え、い、いやあの…自分で食べられますよ…?(;´д`)」

「分かってますよ。でも折角ですし、やりたいと思って……駄目、ですか…?」

「うっ……駄目では、ないですけど…

(−_−;)」

「じゃあ…あーん、してくれますよね?」

「……あ、あーん…(>o<)」

 

こっちの意図に気付いた様子でイストワールさんはやんわり拒否しようとするも、「……駄目、ですか…?」でそれを突破。それから一度は下げたスプーンをまた近付けると……イストワールさんは観念したみたいに目を瞑り、口を大きく開けてくれた。

 

「…どうですか?」

「……甘い、です(*>-<*)」

「ふふっ、ですよね♪」

 

ほんのりと顔を赤くして、それでもイストワールさんは口にして感想も言ってくれる。そしてそれを見た私は……一口も食べてないのに、なんかもう満足の気分だった。……食べるけどね、パフェ。

 

 

 

 

食後も私とイストワールさんはお出掛けを続行。美術館に行ったり、ウィンドウショッピングをしてみたり、喋りながら何となく歩いたり…そんないつもの私達じゃ全くする機会がないような事(最後のは短時間ならあったりするけど)をしている内に、気付けばもう夕方だった。

 

「良い景色ですね…(*´-`)」

「私もそう思います。でも、違う時間帯なら景色から感じるものも違ったのかも…?」

 

色々な場所に行った末、私達が訪れたのは見晴らしのいい丘。簡易的な屋根の下に備え付けられたベンチに私は座り、イストワールさんは本と共に着地。…いや、着ベンチ…?

 

「……今日、どうでした?」

「…それは…楽しめたか、という質問ですか?( ̄^ ̄)」

「…はい。私は楽しかったです。でも、今日は二人で出掛けたというより私に付き合ってもらったって感じでしたし、イストワールさんに心労をかけてしまった事も何度かありましたから…だからその、もし楽しめなかったのなら遠慮せずに……」

「大丈夫ですよ、イリゼさん。確かに疲れる事はありましたが…今日は、とても楽しい一日でしたから(⌒▽⌒)」

 

これまで心から楽しいと思えた事は幾つもあったけど、その中でも見劣りしない位には今日一日も楽しかった。でも、私にとっては楽しい一日でも、イストワールさんにとっても楽しい一日だったとは限らない訳で……そんな不安を抱えながら横を向くと、そこでは私を見上げるイストワールさんが微笑んでいた。…その顔に、嘘や気遣いは感じられない。

 

「…それなら、良かったです。安心しました」

「…今日やりたい事は、全部出来ましたか?(´・ω・`)」

「出来ましたよ。私はもう満足です」

「……本当に、そうですか?(-_-)」

「……?…えぇ、そうですけど…」

「……何か、したい事があったのではないのですか?」

「……っ…!」

 

穏やかな顔付きのまま、ゆっくりと浮かび始めるイストワールさん。彼女の確認するような口振りに違和感を覚えつつも返答をしていると、イストワールさんは私の正面にまでやってきて……それから表情が、真剣なものに変わる。

 

「……気付いて、たんですか…?」

「えぇ。せっかちではなく、ここまで待っていたイリゼさんが、別次元から帰ってきたその日の内に突然出掛けられないかどうか訊いてきたんです。そうなれば、何かしらあるという事位は察しがつきますよ」

「…それはもう、ここまでで達成出来てるかもしれませんよ?」

「それならそれでいいんです。イリゼさんが本当に満足しているなら、それで」

 

言葉通りなら、イストワールさんは『何かある』と察しただけ。言い換えるなら変化に気付いただけで、理由や原因まではまだ見えていない。だから誤魔化そうと思えば誤魔化せるけど……そんな事はしない。だって…私は話したい事があって、出掛けるのを今日に決めたんだから。

 

「…少し、長い話になってしまうかもしれません」

「少し位長くても、最後まで聞きますよ」

「……聞いても、幻滅しないでいてくれますか…?」

「しませんよ。…約束出来ます。わたしはイリゼさんに幻滅なんて、絶対しないと」

「…嬉しいです、そう言ってもらえて」

「わたしもイリゼさんとは浅い付き合いではありませんからね」

「…………」

「…………」

 

数秒の沈黙。私の心の準備の時間で、イストワールさんが黙って待っていてくれた時間。その間私は伏し目がちになっていて、少し目を上げると、イストワールさんは曇りのない瞳で私を見てくれていて……そのおかげで、私は決心を付ける事が出来た。言おうと思っていたけど怖くて、このまま隠してしまおうかとも考えていた思いを…ゆっくりと口にする。

 

「……私、ずっと思っていたんです。私には起こさない手もあった戦争を起こして、多くの人を戦いに駆り立てて、その先で何人も傷付けてきた責任があるって」

「……否定は、しません」

「…でも、同時にこうも思っていました。責任があろうと、それが罪だとしても、私はこれまで通りの私でいなきゃって。私は自分の為、私と同じ思いを胸に秘めた人達の為にこの道を選んだのに、私が私らしくなくなっちゃったら、それは協力してくれた人も、その中で散っていった人も裏切る行為になるから。…そう思って、これまで生活してきました。自分には責任があるって感じながらも、演技じゃなくて心から楽しんだり喜んだりしてきました」

 

女神には…上に立つ者には、堂々としている事が求められる。個人的な行為に対して後悔を抱くならともかく、人を動かし先導した以上は、後悔を外に出しちゃいけない。…それは、動いた全ての人の行いを否定する事になるから。貴方達の行動は間違っていた、と言うも同然だから。

それが分かっていたから、私はこれまで通りの私でいる事に努めた。責任から目を逸らさないまま、選択は正しかったのだと体現していた。…でも…でもそれは……

 

「……だけど、私は向こうにいって…気付けば忘れていました。私の責任を。私が選んだ選択の結果、生まれたものを。……それは一番いけない事なのに…それは絶対に下ろしちゃいけないものだったのに…」

「…………」

「…しかも、それだけじゃなくて…忘れてたって事は、きっと私は忘れたかったって事で…この責任を重荷に感じてたって事なんです、きっと…!自分で選んだくせに…沢山の人を巻き込んで、私自身だって人を手にかけたのに…なのに、私は……っ!」

「…イリゼさん……」

「……最低ですよね、私…。自分の責任もきちんと背負っていられないで、その癖原初の女神の複製体だとか、大切な人と大切な人が守りたいものを守るだとか、調子の良い事言って……ほんとに、最低だ…」

 

…一昨日の様に、また心が冷たくなっていく。本当はもっと前向きな話をしたかったのに、自責の言葉ばかりが私の口から溢れ出る。そうして自分を責める内に、どんどん自分が嫌になって、一層自分を責めてしまう。…悪循環だって分かってる。でも、止められない。

こんな私の姿は、イストワールさんにどう映っているだろうか。哀れか、惨めか…それとも、腹立たしいか。何れにせよ、良い感情を抱いている訳がない。幻滅なんて絶対しないと言ってくれたけど…幻滅しなくたって、こんな情けない姿を見たら、私を見損なったって何もおかしくはない。

……そう思った瞬間、泣きそうになった。イストワールさんに…私にとっての特別な人に見損なわれるなんて、嫌だ。こうなる位なら隠したままにしておけばよかったと思う位、イストワールさんに見損なわれるのは辛いし怖い。…でも、もう遅い。言ってから後悔したって、悔やんだって……それはもう全部、今更の事────

 

 

 

 

 

 

「……一人でよくここまで頑張りましたね、イリゼさん」

「…え……?」

 

──その瞬間、冷たくなってしまった身体に温もりを感じた。その温もりは、イストワールさんのもの。私の頬に添えられた、イストワールさんの手の温かさ。

 

「最低なんかじゃありませんよ。ここまで頑張ってきたイリゼさんのどこに、最低な部分があると言うんですか」

「ど、どこって…それは、私が女神で、責任があるのに……」

「女神だって人です。嬉しい事があれば喜び、辛い事があれば悲しみ、時にはどうしようもない程落ち込む、人と同じ心を持っているんです。同じ心を持っているんですから、背負うべきものを重責に感じたり、その重責で辛い思いを抱いたりするのも当然の事。その中でもここまでイリゼさんは耐えてきたのでしょう?」

「…耐えたなんて、そんな…それが、するべき事だったからで……」

「かもしれませんね。でもそれは決して楽な事ではありません。わたしはこれまで何代もの女神を見てきましたが、同じ状況となればその内殆どの方が同じように思い悩んだでしょう。…ですから、イリゼさんは恥じる必要はありませんし……わたしは姉として、イリゼさんを誇りに思います」

「…私を…誇り、に……?」

 

私のすぐ近くで、優しい声でイストワールさんは言う。…こんな言葉をかけてくれるなんて思っていなかった。失望されるって思っていたから、イストワールさんの言葉は凄く凄く意外で……気付けば私はまた、泣きそうになっていた。…でもその理由は、さっきまでとは違う。泣きそうになったのは、辛いからじゃなくて……嬉しいから。

 

「はい。イリゼさんはわたしの大事な家族で、誇れる妹です。誰がなんと言おうと、わたしのこの思いは変わりません。……けれど…少しだけ、イリゼさんは背負い過ぎです。一人で全て背負うべきだと思っているなら、それは大きな間違いです」

「で、でも…じゃあ、責任は……」

「わたし達にあります。イリゼさんと共に計画を進め、多くの決定を下したわたし達教祖にも、国の長でありながら捕まり、助けられる対象となった守護女神の皆さんにも、このような時国の長として務める立場でありながら未熟であった女神候補生の皆さんにも、一個人としての力しかない皆さんにも……責任は、皆にあるんですよ。だから……」

 

イストワールさんは、一度言葉を区切る。区切って、私の頬に触れていた手を頭へと移して……

 

「……皆で背負いましょう。イリゼさんの辛さはわたしが…わたし達皆が背負います。いえ、皆で背負うべきものなんです。それがわたし達全員にある責任であり……家族で、仲間なんですから」

「……っ、ぁ…イスト、ワールさん…イストワール……お姉、ちゃん……っ!」

 

涙が、溢れ出す。これまでの自分を肯定してもらえたからというのもあるけど、自分一人で背負わなくてもいいんだって分かったのもあるけど……何よりイストワールさんの優しさが、私に向けてくれる家族の愛が嬉しくて嬉しくて堪らない。嬉しくて、それが幸せで……無意識に私は、お姉ちゃんと呼んでいた。

今まで私はベールと同じように、ネプテューヌ達妹がいる三人を羨ましく思っていた。その思いは偽物じゃないし、今もあるけれど……ネプギアに、ユニに、ロムちゃんに、ラムちゃんに…妹である四人にも羨ましいという感情を持っていた事に、この時初めて気付いた。自分に妹としての感情もあった事を、初めて私は知る。

 

「お姉ちゃんっ…お姉ちゃんっ、私……っ!」

「分かっていますよ、イリゼさん。貴女の思いは、全部」

「…は、はい…ぐすっ……」

「…これは、お昼の発言を少し訂正しないといけないかもしれませんね」

「うぇ…?」

「わたし、お昼は今の大きさに悩んではいないといいましたが、今は少し不満です。だって…今のわたしは撫でる事が精一杯で、イリゼさんを抱き締めてあげる事が出来ないんですから」

「……そんな、そんな事言われたら…もっと泣いちゃうじゃないですかぁぁ…!」

 

優しい言葉をかけてくれるだけで、撫でてくれるだけで、泣いてしまう程嬉しいのに、更にこんな事を言ってもらえるなんて。そして言葉通りに泣き続けてしまう私を、イストワールさんは泣き止むまでずっと撫でてくれていた。そして、私が漸く落ち着いた時……周りはもう、真っ暗だった。

 

「…少しどころじゃない長さになってしまいましたね……」

「いいんですよ、イリゼさんの為ですから。……もう、大丈夫ですか?」

「…はい。まだちょっと自分で考えたいので、また何か聞いてもらうかもしれませんけど…心が、軽くなりました」

「ふふっ。それならば安心です」

「……あの、イストワールさん」

「…何ですか、イリゼさん」

「……ありがとう、ございました」

「はい( ^∀^)」

 

──そうして、私とイストワールさんのお出掛けは終了し、私達はプラネタワーへと帰る。こんなに切ない思いをするなんて、こんなに泣いてしまうなんて思っていなかったけど……帰る時の私は、心からの笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

「ただいま、ネプギア」

「あ、お帰りなさいイリゼさん。いーすんさん」

 

プラネタワーに戻った私達は、入って早々にネプギアと遭遇。…そういえば、今日ネプギアや皆はどうしてたんだろう…。

 

「ネプギアさん、今日わたし達がいない間に何かありませんでしたか?(´・ω・)」

「ありませんでしたよ。お二人は…良いお出掛けになったみたいですね」

「…分かる?」

「はい。だってイリゼさんもいーすんさんも、凄く良い顔してますから」

 

そう言って微笑むネプギアだけど、内心私は動揺気味。…だって私、目元がまだちょっと赤いから。多分察しの良い人なら、私が泣いたの見抜いちゃうよね…。

 

「…ところでネプギアさん、ネプテューヌさんはどこでしょう?(´ω`)」

「お姉ちゃんですか?お姉ちゃんなら……」

「ここにいるわよ」

 

ネプギアが途中まで答えたところで、不意に後ろから聞こえた声。あ、この声は…と思いつつ振り向くと、そこにいたのはやっぱりネプテューヌ。

 

「あれ、ネプテューヌも出掛けてたの?…というか、どうして女神化を…?」

「ちょっと、ね。もう、いーすんったら女神使いが荒いんだから」

「偶にはいいじゃないですか。それに、今日一日羽を伸ばせたでしょう?( ˘ω˘ )」

「それはまぁ、そうだけど…」

 

何やら頼み事をされていた様子のネプテューヌと、そのネプテューヌに対していつも通りに返すイストワールさん。でも今のやり取りじゃ何の話か全然分からない訳で、私とネプギアは小首を傾げる。

 

「お姉ちゃん、電話の後すぐに出ていったけど…何をしに行ってたの?」

「ちょっと商品の受領にね。…はい、イリゼ」

「へ……わ、私?」

「そう、貴女へのお届けものよ。開けてみたら?」

 

質問に答えた後、ネプテューヌは手にしていた箱を私にくれる。一瞬「え、ネプテューヌからのプレゼント?」と思ったけど…言葉から察するに、ネプテューヌはあくまで運搬役。じゃあ誰だろう、そして何が入っているんだろうと箱を開けてみると……入っていたのは、何となく見覚えのあるリボン。

 

「……?このリボン…は、あのお店の…?」

「そうですよ。これはわたしからのプレゼントです(^ ^)」

「プレゼントって…あ……」

 

一体いつの間に…?と思った私だけど、すぐに気付く。お店を出た時、一度イストワールさんは戻っていった事に。あの時イストワールさんは「忘れもの」と言っていたけど……荷物を忘れてきたとは、一言も言っていない。つまりあの時の忘れものっていうのは、私への誤魔化し…或いは、まだやる事があるって意味での忘れものだったって事。

ただでさえ今日イストワールさんには色々な事をしてもらえたのに、更にプレゼントまでなんて。そんな思いでリボンを箱から取り出すと、リボンの両端に入った細やかな刺繍が目に入ってくる。その内片側は私の翼を模したような刺繍で、もう片方は……

 

「…これ、もしかして……」

「…はい、わたしの羽根を模してもらったんです。…その…両方イリゼさんの翼の方が、良かったですか…?」

「い、いえ!これでいい…ううん、これがいいんです!私、こんなプレゼント貰えて凄く嬉しいです!…わぁ、わぁぁ……!」

 

絆は形や距離で変化するものじゃないけど、形として分かるものがあった方が良いのは事実。そしてその観点において、このプレゼントは……人前である事を忘れて目を輝かせてしまう位、私にとって嬉しいものだった。…ど、どうしよう…どこに結ぼう、どこに結ぼうかな……?

 

「…ふふっ♪やっぱり後ろの方かな?それとも…あ!編んであるところに更に結ぶとかもいいですよね!」

「えっ?…ま、まぁ…イリゼさんが気に入る結び方をしてくれるのなら、わたしはどの形でも……(・・;)」

「じゃあそうさせてもらいますね!早速結んでこよーっと♪」

「……すっごい喜んでるね、イリゼ…」

「うん…あそこまで喜んでるイリゼさんなんて、滅多に見ないかも…」

 

二人への感謝もそこそこに、結ぶ為自室へと向かう私。帰る前も思ったけど、今はそれ以上に…これ以上ない位に、心から思っている。──今日は本当に、良い一日だったって。だから…これからも宜しくお願いしますね、イストワールさん。




今回のパロディ解説

・女神だってお洒落はしたい!
中二病でも恋がしたい!…のタイトルのパロディ。これパロディとしての汎用性高いですよね。○○だって□□したい、という形なら色々なものが入りますし。

・ドロップアウトした天使
ガヴリールドロップアウトの主人公、天真=ガヴリール=ホワイトの事。駄目になってジャージばっかり着てる女の子、と言えば私はこのキャラが思い付きますね。

・某いちりんポケモン
ポケットモンスターシリーズに登場するポケモンの一体、フラエッテの事。小さいイストワールが花を持って佇んでいる…これはかなり絵になると思うのです。

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