超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百三十五話 心は満たされ新たな願いへ

翼が風を切る。髪が身体の動きに一歩遅れて荒ぶる。切り裂かれた空気が唸りを上げ、踏み切られた大地が土を舞わせ、何度も激突の音が響く。そして何より、シェアエナジーで編まれた刃が戦場を踊る。

それは、閉じられた世界。生半可な者は近付く事すら叶わない、戦いを単なる手段としか見ない者には理解の出来ない……狂乱の世界。

 

「斬り込みますわッ!」

「側面から叩く…ッ!」

 

交差した一瞬で意図を伝え、捻り込むような機動でジャッジへと接近する。わたくし達の接近をジャッジは待ち構える…などという事はなく、その時間も惜しいとばかりに突っ込んでくる。

 

「そらよッ!」

「安直ですわッ!」

 

上段から振り下ろされるハルバートを大槍の柄で滑らせ、胸の高さを過ぎたところで槍を回して押さえ付ける。その瞬間ジャッジへと肉薄する、イリゼと長剣。

 

「脇が甘いよッ!」

「開けてたんだよッ!」

「甘いのは正面もではなくてッ!?」

 

一刀両断を狙うイリゼの斬撃をシュールの貴公子が如き体重移動で避けたジャッジは、得物から右手を離しイリゼへ裏拳。その結果片手となった事でハルバートの押し返そうとする力が弱まり、その瞬間に大槍を前へ。先程とは逆に大槍をハルバートの柄で滑らせ、左腕の肘を斬り裂きにかかる。

 

「っとと、やっぱ本気の女神二人はキッツいなぁオイ!キツ過ぎて笑えてくるぜ!ギャハハハハハハッ!」

「ならば笑えばよいジャッジッ!次元の守護者たる二翼の女神を前に、笑うだけの余裕を持ち続けられるのであればなッ!」

 

大槍が柄を離れる前にジャッジはハルバートを跳ね上げ、強引に軌道を逸らして回避。とはいえそれは想定済みで、逸らされた大槍は即座に引き戻して腹部へ手刀。それとほぼ同じタイミングで裏拳を捌いたイリゼも作り出した短剣を突き出し、二方向からの挟撃がジャッジへ迫るも、絶妙な身体の捻りでその攻撃もまた避けられてしまう。…が……

 

「ぐぅっ……うらぁッ!」

(今の声……)

(どうやら、効いてはいるみたいですわね…!)

 

捻りを助走に回転斬りをジャッジは敢行し、一度わたくしとイリゼは後退。その直前にジャッジが呻き声を漏らした事で、わたくし達は確信する。強引な…それ故にジャッジの予想を超えた連携で与えた一撃が、ジャッジに負荷を与えていると。捻った瞬間に傷が引き伸ばされ、激しい痛みが走ったのだと。

着地と同時にわたくしは再び接近を仕掛け、イリゼは左手の短剣を投擲しつつ上空へと舞い上がる。放たれた短剣は、ジャッジの振るった腕に弾かれてそのまま消滅。

 

「辛いのでしょう?わたくしに穿たれた、その傷が…ッ!」

「あぁ痛ぇな…だがよぉ、戦闘はそういうもんだろ?痛みがある方が、戦ってるって思えるよなぁッ!」

「お元気です、こと…ッ!」

 

飛んで距離を詰めたわたくしはジャッジの間合いへ入る直前に脚を降ろして地を蹴り、ブーストをかけてランスチャージ。対するジャッジは飛び込むような跳躍で避けつつ、振り向きながら着地しハルバートの穂先で刺突。それを気配で察知したわたくしは身体全体を使って回転を行い、回し蹴りで槍部分の腹を蹴り付け攻撃を潰す。

そこからは互いに一撃重視に切り替え、旋回と攻撃を繰り返す。そしてそれを数度行ったところで……イリゼが動いた。

 

「天舞伍式・葵ッ!」

「……っ!」

「ぬぉわ……ッ!?」

 

激突の寸前、割って入るように空から地面へと突き刺さる大剣。ジャッジのハルバート程ではないにしろ、わたくしの大槍やイリゼの長剣より大きな剣の落下にわたくしもジャッジも回避行動へと移り、弾かれるように視線を空へ。そうしてわたくし達が目にしたのは、イリゼとこちらへ向かって次々と放たれる、先の大剣と同様に巨大な武器の数々。

 

(イリゼ、わたくしなら避けられると思って容赦なく打ち込んできましたわね……ふふっ、面白いじゃありませんの…ッ!)

 

援護は本来、受ける側が戦い易くする為に行うもの。無論相手への信頼や戦況によってはギリギリのラインを攻める事もあるものの、この援護はラインギリギリ…を、超えている。しかし、ならばこそ……

 

「ジャッジ、そして貴女にも見せて差し上げますわ……このわたくしの、華麗にして圧倒的なる実力を…ッ!」

 

短距離ステップで無駄のない回避を重ねるジャッジに対し、わたくしは猛追を開始。視線を空から下げ、ジャッジを見据え、一気に加速。当然わたくしの進路上にも武器は降り注ぐものの、全感覚全神経を張り詰め、更にイリゼの狙いを読み切る事によって……見る事なく、避ける…ッ!

 

「背後ががら空きですわよッ!」

「なッ、この動き……行動を予測してんのか…!?」

「それ以外に、何かあるとでも…ッ!」

 

振り抜いた大槍を、ジャッジが得物の柄で防御。その瞬間にわたくしは下がり、下がった次の瞬間には柱の様な棍棒が飛来。そしてハルバートがそちらの防御に動いた瞬間……わたくしは大槍を、投げ付ける。

真上からの棍棒と、膝を狙った大槍。二つの武器が自身へ迫る中、ジャッジは歯噛みをし……ハルバートを回転させた。

 

「ぐ、ぅぅ……ッ!」

「良い援護…いえ、攻撃でしたわよ」

「良い攻撃…ううん、陽動だったよ」

 

弾かれ飛んできた大槍を掴みつつ、武器を打ち終え降下するイリゼと言葉を交わす。お互いにぃ、と狂熱混じりの笑みを浮かべながら。

ジャッジはハルバートの柄をぶつける事によって大槍を弾き、肩に棍棒の一撃を受けた。タイミング的に失敗する可能性の大きい両方の防御より、大槍よりは小さいダメージで済むであろう棍棒の防御は諦め、確実に大槍を凌ぐ選択を行った。いや…選んだのではなく、選ばされた。わたくしと、イリゼによって。

 

「とはいえまさか、この程度でギブアップではないのでしょう?」

「まさか。この私と互角に戦ったジャッジが、この程度でギブアップなんていい冗談だよ。ねぇ?ジャッジ」

「…はっ、たりめーだ……ここでギブアップなんざ、メインディッシュの途中にカラトリーを置くようなもんだもんなああああッ!!」

 

叫びながらハルバートを地面へ叩き付け、その衝撃で隆起した岩盤を蹴り付けるジャッジ。強打を受けた岩盤は粉々となるも、散弾の様に破片がこちらへと飛来。それをイリゼと共に得物を振るって起こした風により撃ち落とした、次の瞬間……ジャッジは、わたくし達の眼前へと肉薄していた。

 

「楽しいなぁ!楽しいなぁッ!ハハハハハッ!戦いってのは、こういう熱があってこそだよなぁッ!」

 

最早狂気そのものの形相で、ジャッジはハルバートを振るう。常軌を逸した表情に、気が触れているが如き笑い声。…それでも動きは、斬撃は、打撃はその精細さを欠かさない。鈍るどころか彼の狂気に呼応するように、一撃毎に鋭く、凄まじくなっていく。わたくし達二人を同時に相手しても、劣勢さを覆さんとばかりの勢いで。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラァッ!どうだッ!どうだよ女神ぃッ!」

『く……っ!』

 

避ける、凌ぐ、弾く、躱す。逸らす、受け流す、崩す、相殺する。イリゼと二人がかりで連撃に対応する。それでもジャッジの攻撃は続く。あまりの速度と圧力に距離を取る事も、二手に分かれる事も出来ず、対処したと思った瞬間には次の一撃が寸前にまで迫っている。とても一人が放っているとは思えない攻撃の嵐が、わたくし達へとその牙を伸ばし……ハルバートの攻撃範囲から下がり切れなかったわたくし達は、立て続けに胸元を斬り裂かれた。わたくしの乳房の露出部位を斬り裂いた横薙ぎが、そのままイリゼの胸も斬り裂いた。

 

(はは、どうやら本気の本気……完全な全身全霊を引き出してしまったようですわね……けれど、だから…だからこそ……)

 

 

(楽しい、楽しいですわ…ッ!この熱量が、湧き上がる狂気的な衝動の中で戦う事が……ッ!)

 

あの時の戦いでは感じられなかった、ただ一秒でも長く戦う事しか頭になかったあの時とは違う、深淵の様な深み。過激で強烈な、心の躍動。身体のスレスレを通り過ぎる刃の風に、攻撃を弾いた際の衝撃に、浮遊ユニットを破壊される感覚に、心が震えてしょうがない。今し方斬られた胸の痛みすら、甘美なように思えてしまう。…普段感じているあらゆる喜びが霞んでしまいそうな程の、一歩間違えば依存しかねない程の、圧倒的な……快楽。

 

「見上げた勇ましさですわッ!けれどわたくし…攻められっ放しは、趣味じゃありませんのよッ!」

「一方的じゃあつまんないよねッ!ジャッジッ!」

 

胸元から噴き出る血が地面へ落ちるよりも早く、わたくしとイリゼは地を踏み切る。ジャッジの腋の下を潜るようにしながら、すれ違いざまに両の大腿を斬りつける。高揚感で鋭敏化した直感のおかげか、積み重ねてきた信頼関係の成果か…或いは、わたくし達の相性が抜群なのか、全くもってこの反撃は同じタイミングで、左右対称の動きだった。

それからも攻防が続く。一進一退の、接戦の、ギリギリの戦い。最早優勢なのか劣勢なのかすら分からない、辿り着く場所の見えなくなってしまいそうな激闘が続く。

 

「ベールッ!」

「イリゼッ!」

 

イリゼは手を替え品を替え、わたくしは斬、突、衝を織り交ぜ、何度も反撃を身体に掠めながらも攻撃の手を緩めない。躊躇う事も、迷う事も許されない極限状態の中で、わたくしの思考と神経は研ぎ澄まされていた。

今がずっと続けばいいのに。──まさか心地良い日常を送る主人公の如き思いを、野蛮極まりない戦場の中心で感じる事になるとは、思ってもみなかった。本当に続くとしたら、それは如何に幸せな事かと、確かにわたくしの心はそれに魅力を感じている。けれど……どんなに全身が熱く滾ろうと、精神が酔い痴れようと、わたくしのある部分が…守護者であり統治者であるわたくしの思考は、冷静に戦況を、未来を見通していた。

 

(これもある種の火事場の底力なのでしょうね。龍眼ならぬ神眼の未来視、とでも言うべきかしら…)

 

先程わたくしは、イリゼの動きを読み切る事が出来た。されど今はジャッジの動きすら、『数多の可能性』として読める。それに対するわたくしの未来もまた、手に取るように分かる。その内どれを選ぶべきかは…最早、考えるまでもなく視えた。

ただそれでも、突き出した大槍は振るわれたハルバートに阻まれる。…視えているのは、わたくしだけではないらしい。

 

「ギャハハハハッ!不思議な気分だなぁ!これが高みって奴かよッ!」

「高み?道半ばの間違いではなくてッ!?」

「かもなぁッ!まぁどっちにしろ、最高の気分にゃ違いねぇってなッ!」

 

高揚感が感覚の限界を押し上げ、澄み切った思考がそれを制御し最善を導く。そしてそれによって導き出されるのは、何も次の一手だけではない。

 

「テメェはどうだよオリジンハート!二度目の死闘の気分はよぉッ!」

「どうって、これが最高以外にあるとでもッ!?全てのものには終わりがある事が、残念でならないと思う位にはねッ!」

「……っ!」

 

大地を斬り裂きながらジャッジが放った斬り上げと、シェアエナジーの爆発を推進力に変えたイリゼの袈裟懸けが激突。互いに口元を歪めながら斬り結んだ二人は位置を交代するように旋回した後離れ、次なる攻撃の構えを取る。その最中にほんの一瞬だけイリゼが向けた、わたくしへの視線。その視線と激突中の言葉で、わたくしはイリゼからのメッセージを理解する。

 

(…それが、貴女の導いた結論なのですわね…ふふっ、同意見ですわ……!)

 

手の内に精製した数本のナイフをジャッジへ向けて投げるイリゼ。そこから即座に杭の様な物を何本も地面へ打ち込み、大小様々な岩盤の破片を作り出す。

恐らくこれは、先のジャッジの模倣。けれどジャッジと違い、イリゼにはわたくしがいる。一人と二人では……出来る事の規模が、違う。

 

「解体作業といきますわ…ッ!」

 

浮かんだ破片の下へと飛び込み、破砕を開始。砕き、貫き、破片を細切れへと変えていく。

それによって生まれる、砂煙。それは打ち込んだ瞬間に発生したものと合わさり、この戦場を包んでいく。わたくし達やジャッジでも瞬時には晴らせない程の、濃い目眩ましとなって。

 

「…よかった、意図が伝わって」

「えぇ。今だけは、誰よりも貴女の事が分かるような気がしますもの」

「へぇ、それは気が合うね。…ジャッジはもう止まらないよ。このまま戦い続ければ、私達は最高の体験と引き換えに戦略的な敗北をする事になる」

「…だからこそ、燃え尽きた果てではなく、最大火力の中でフィナーレを飾る。そうでしょう?」

 

完全に視界が奪われる前に、わたくし達は合流。互いの言葉に頷きを返し、同じ認識を持っている事を確認する。

終わらせるのは惜しい。けれど終わらせなければならない。そしてそれは、いつかではいけない。何故ならわたくし達の戦いは手段であり、目的ではないのだから。手段を逸脱しない範囲で堪能はしても、目的とするのは許されない。……他でもない、わたくし自身が許さない。

 

「…至上の舞台は、大熱狂のまま幕引きを」

「最上の好敵手には、最大限の手向けを。…後に続くのは、そんなところかしら?」

「ほんとに今は気が合うね、ベール。…最後の攻撃は、私に望むもの全てをぶつけて。私もベールに、ありったけ求めるから」

「では、お望み通り全てを求め…求められたもの全てに応えると致しますわ」

 

イリゼの芝居掛かった台詞に、同じ調子で返す。完璧なまでの以心伝心ににやりと笑い合った後、それぞれの得物の先端を軽くぶつけ合って音を鳴らす。

少しずつ砂煙が薄れていき、ジャッジのシルエットが見えてくる。こちらから見えるという事は、ジャッジからもわたくし達が見えるという事。けれどわたくし達は動かず、ジャッジも動かない。そうしてシルエットだけでなく身体の凹凸も見えるようになり、風景もはっきりとしていき……砂煙が、晴れる。

 

『…………』

「……なんだ、そろそろ終いにするってか。俺はまだまだ付き合うぜ?」

「わたくし達は忙しいのですわ。それに、貴方からこちらにいらしたではありませんの」

「はっ、そりゃ違いねぇ。だがまぁ、戦いはだらだら続けりゃいいってもんでもねぇ……いいぜ、見せてくれよ。女神二人の、戦いを終わらせる大技ってのをな」

 

砂煙の中で頭が冷えたかのように、落ち着いた声音で話すジャッジ。…しかしそれも、ほんの僅かな間の事。

 

「…最も、それで終わらせられるかどうかは分からねぇけどなッ!さぁどうするよグリーンハート!オリジンハート!今撃つのか!?決めきれなけりゃ、後はもう互いに立てなくなるまで終わらねぇ泥沼の戦いだぜッ!」

「決めきれなければ、ね。……決着としてしまえば、何も問題はないッ!」

「そして、わたくし達にはもう見えていますわッ!この戦いの、決着がッ!」

「ハハハハハッ!いいねぇそういう傲慢さッ!そんなテメェ等だからこそ楽しいんだッ!あぁヤベぇ、そんな事言われちまったら、余計に打ち破りたくなっちまうじゃねぇかよぉッ!!」

 

再び異常な程の熱量で笑い始めるジャッジに、最早わたくし達はある種の安心感すら覚えてしまう。…やはり、ジャッジはこうではなくては倒し甲斐がありませんわね…!

手に馴染んだ得物を握り直す。翼を広げ、ジャッジを見据える。イリゼは翼を可変させ、ジャッジの笑い声が止んだ瞬間……わたくし達は同時に、飛び立つ。

 

『はぁぁぁぁああああッ!』

 

爆発の如き勢いで地面を踏み切ったわたくし達は、一直線に突っ込み斬撃。横に掲げられたハルバートの柄でそれは防がれるも、全力の加速で突き進む。

 

「負けッ、かよぉぉぉぉおおッ!!」

 

ジャッジは押し留めようと地を踏み締める。されど、ジャッジ自身は耐える事が出来ても、地面はそこまで強固ではない。わたくし達の力に地面は耐え切れず、ジャッジは脚で地面を抉りながら少しずつ押されていく。少しずつ、しかし着実に速度を上げて。

 

(もう少し…後少し……後…………──ッ!今、ですわッ!)

 

張り詰めた神経と五感が直感として伝えてくる、今だという感覚。それを感じた瞬間、わたくし達は左右に分かれ、両側面から刺突を敢行。目を見開いたジャッジは間一髪のところで身体を捻りどちらも軽傷に留まるも……これはまだ、ほんの序の口。

 

「全身全霊、わたくし達の全てを……」

「見せてあげるッ!」

 

膝、腰、胸、肩。顔、肘、腹、脛。場所を問わず、種類を問わず、あらゆる槍の攻撃で斬り付け、突き刺していく。イリゼは長剣でもって、超速度の連撃を仕掛けていく。

女神二人の全力を受けた以上、立っているだけでも大したもの。けれどそれどころかジャッジはハルバートを振るい、わたくし達の攻撃を叩き落としていく。ただそれでも…手数が足りない。体格差も不利に働いている。一対一且つ、体格も同程度であればまだ違ったのかもしれないものの……恐らくジャッジは、それを考える余裕もない。

それを示すように、大振りの横薙ぎで振り払おうとするジャッジ。けれど…もう遅い。

 

(ジャッジ、本当に貴方は大したものですわ。間違いなく貴方は一流の戦士であり…わたくし達の、好敵手ですもの…ッ!)

 

後方宙返りで横薙ぎを避け、わたくしは攻撃再開。イリゼもまた同じ動きで避け……次の瞬間、長剣を作り出した大槍に持ち替える。

そうしてわたくし達の叩き込む槍の乱舞。わたくしが突貫を仕掛け、イリゼが流れるような斬撃を放ち、イリゼが飛翔による加速を乗せて刺突し、わたくしが断ち斬るように大槍を振るう。

そして見えた一条の光。それを心で感じたわたくしは…舞い上がる。その間にイリゼは乾坤一擲の力で正面からジャッジの防御を突破し、斬り付け……大槍を投げ放つ。

 

「誉れと共に、散れジャッジッ!ロンド・オブ……」

「──グングニルッ!」

 

大槍が投げ放たれた先は、わたくしの手元。それを回転しながら掴んだわたくしは、その為に込めていた力を解放し、イリゼが込めた力も含めてジャッジへ向けて全力の投擲。天雷の如く駆け抜ける大槍はジャッジを貫き……次の瞬間には、残りの力全てを振り絞ったわたくしの放つ大槍もまた、ジャッジを貫いた。

 

「はぁ…はぁ……」

「…くっ……」

 

イリゼは膝を突き、わたくしも大槍を離して後ろへふらつく。そして、二本の槍に貫かれたジャッジは裂けてしまいそうな程に口元を歪め……大の字となって、地に伏した。

 

 

 

 

激戦だった。本当に激戦だった。今の私は瀕死じゃないけど……あの時の戦いにも劣らない、熾烈な勝負だった。

 

「……イリゼ、立てまして…?」

「あぁ…ありがとベー…うわっ…!?」

 

膝を突いた私へ差し出された、ベールの手。ありがたいと思ってその手を借りるも…引っ張った瞬間、逆にベールがよろけて座り込んでしまう。

 

「……む、無理して手を差し出してくれなくてもいいのに…」

「う……お、思った以上に身体が疲労していただけですわ…」

 

引っ張り上げるだけの余力はあるつもりだったのか、恥ずかしそうにベールは目を逸らす。なら追求するのは可哀想かと思い、私は無言で肩を竦め、私達は脚へと力を入れる。これは想定以上に疲労してしまったと思いながら、ゆっくりと立ち上がると……

 

「……あー…負けちまったなぁ…リベンジ達成されたし、オリジンハートにゃ負け越しちまった…」

 

ベールの大槍が刺さったままのジャッジが、悔しそうな…けどどこか充実感のある声を漏らした。…私の精製した方の大槍は、もう既に消えている。

 

「…仕方ないよ、二対一なんだから。もし一対一だったら……」

「俺が勝ってた、ってか…?」

「……相討ち位には、持ち込めたかもね」

「ハハハハハハッ!相討ちってテメェ、案外強情な……ぐ、ふっ…」

 

…私やベールが負けていたかもしれない。正直に言えば、そんな思いも私の中にはあったけど…何故だかそれを口にするのは嫌で、ついちょっと負けず嫌いみたいな返しをしてしまった。それにジャッジは愉快そうに笑い……胴に二つも穴が空いている状態でそんな笑い方をするものだから、苦しそうな呻きを上げた。

 

「…勝敗はともかく、貴方が強い事は間違いありませんわ。わたくし達二人を相手に追い縋り、一時は互角にまで持ち込んだ貴方は、何ら恥じる事などありませんもの」

「へっ、女神が二人してフォローしてくれんのか…だったら気分は悪くねぇなぁ…。あぁ、そうだ…負けちまったが、またこんなに楽しい戦いが出来たんだ…叶わなかった筈のグリーンハートとの再戦が、まだやりてぇと思っていたオリジンハートとの再戦が出来たんだ…いい、戦いだったじゃねぇか……」

 

戦闘開始前のものとも違う、本当に穏やかな調子のジャッジには、充実感に加えて清々しさも感じる。全力を出して、望んだ戦いが出来たんだという、清々しさが。

身体の端から、あの時と同じようにジャッジは消え始めている。四天王は、その亡骸が残る事はない。だって…私達や犯罪神と同じ、シェアエナジーが実体を持った存在だから。

 

「…けど、最後だけはミスだったなぁ…前の戦いの経験を活かして、凌いだ後切り札ぶつけてやるつもりが…出す前に負けちまうとは……」

「出そうとしたのなら、その時はその時でわたくし達も違う行動をしていたかもしれませんわよ?」

「かもな…へへっ、それを想像すんのも楽しいな…」

 

もしもの話をした後、黙り込むジャッジ。一瞬もう話す力もないのかと思ったけど…ジャッジに限ってそんな事はないだろう、と思い直す。だから多分何か考えているんだろうなと思って静かに待っていると……不意にジャッジは言った。

 

「……なぁおい、グリーンハート…オリジンハート…」

「…………」

「…………」

「……嫁になる気はねぇかよ?」

『…………は?』

 

…………。

 

………………。

 

……………………は?

 

「へへっ、俺は出来た男じゃねぇが…それでも嫁位は大事にするつもりだぜ…?」

『…………』

 

……聞き違いかと思った。或いは冗談かと思った。でも…そのどっちでもないらしい。なんか私とベール、求婚されたらしい。正直ちょっと…いや全くもって意味が分からないけど、このままだと話が進まないから、私とベールは顔を見合わせ……答える。

 

『お断り(だよ・ですけど)?』

「ちぇ、振られちまったよオイ…あれか、二人一度にはちょっと…って事か…?」

『一人ずつでもお断り(だよ・ですわよ)?』

「だよなぁ……はぁ、テメェ達が嫁なら一生渇きに飢える事はねぇと思ったが…しゃあないわな…」

 

という訳で、ジャッジは振られた。当たり前の話だけど。ジャッジ自身も駄目元で訊いてみただけっぽいけど。

それから再びジャッジは数秒黙る。さて次は何を言われるのかと私達が内心身構えていると……またジャッジは、言う。

 

「……じゃあよ、代わりって訳じゃねぇが…俺はまた蘇る。いつ、どんな方法でかは分からねぇが…絶対に蘇って、テメェ達にリベンジを果たしてやる…だからそれまで、死ぬんじゃねぇぞ…?」

「……えぇ、いいですわよジャッジ。貴方がリベンジしたいと言うのであれば、また戦いたいのなら…受けて立ちますわ」

「勿論私もね。…最も、その時私達はずっと強くなってるだろうけど」

「はっ、そりゃそうだ…じゃなきゃ、張り合いがねぇ…もん、な……」

 

発されたのは、正にジャッジ…と言うべき言葉。だから、私達は小さく笑みを浮かべてそれに頷いた。…確信はないけど、多分ジャッジなら執念でいつか蘇りそうな気がする。その時また人の害となるならそれは当然迷惑だけど…勝負自体は、全然嫌じゃない。だってジャッジとの戦いは…狂ってしまいそうな程に、心が躍るから。

私達の返答を受けたジャッジは嬉しそうにするも、その声は次第に小さくなっていく。身体の消失も進んでいて、もう完全消滅までは殆ど時間がないという事が伝わってきた。そしてジャッジもそれは分かっているようで…彼はまた、あの問いを口にする。

 

「…なぁ、グリーンハート…名前、聞かせてくれるか…?」

「名前…?それは、どういう意味で…」

「…答えてあげて。それが、ジャッジの流儀だから」

「……でしたら、答えない訳にはいきませんわね。…わたくしはベール。それがリーンボックスの守護女神であり…貴方が強者であると真に認める、女神の名前ですわ」

 

それは、ジャッジが自分を倒した相手へ訊く言葉。その相手を心に刻み付けたいと思う、ジャッジの願い。それを知っている私がベールに言うと…ベールは力強く頷いて、その問いに応えた。するとジャッジは嬉しそうに笑い……遂に最後の時となった。

 

「……本当に楽しかったぜ。心残りはもうねぇ…新しい願いは出来たが、今はこれで満足だ…。満足したから、テメェ等の勝利を…その名が轟き続ける事を心から祈ってやる。…だからあばよ、ベール、イリゼ…約束、忘れんじゃねぇぞ……次ん時は、またテメェ等を…最高に楽しませてやるから…よ……」

 

その言葉を最後に、ジャッジは消えた。最後まで楽しそうに、最後まで戦いに心を滾らせ、光の粒子となって天へと昇っていった。そして私とベールは、その粒子が完全に消えるまで…ジャッジを見送り続けていた。

 

「…何というか、変な方向に完成されきった性格をしていましたわね……」

「うん…実力もだけど、それ以外にも色々と凄い奴だよ、ジャッジは……」

「……そんな相手と、再戦の約束をしてしまいましたわね…」

「だね…私これで、ジャッジと約束するのは二回目だよ…」

 

肩を竦めて、軽く自分に呆れて…それから苦笑い。視線を下ろした私達は互いにそれをし合った。…戦闘の熱は余韻へと変わり始めているけど、まだ私とベールは以心伝心のままらしい。

 

「…では、もう少し休息した後行動再開するとしましょうか」

「もう少し休んでから、ね。…終わったら、きっちり身体を休めて怪我も癒さないと…」

 

出来るならばすぐにでも動きたいけど、もう少し休まないと戦闘能力に不安がある。そう私達は判断し、身体を楽にして…多少ながら調子を整えた後、作戦行動を再開した。

 

 

──蘇ったジャッジとの戦いは、こうして終わった。本来ならすべきでない選択もしたし、反省しなきゃいけない事もある。でも…私にとってはもう一度戦えた事に、ベールにとってはリベンジを果たせた事に、ジャッジと同じように……穏やかな充実の気持ちを感じていた。




今回のパロディ解説

・シュールの貴公子
お笑いタレント、ふかわりょうこと府川亮さんのニックネームの一つの事。初期にやってた芸のあのポーズ風に下半身を動かした(毒舌は言ってない)…って感じですね、はい。

・「オラオラオラオラオラオラオラオラァッ!〜〜」
ジョジョシリーズの主人公の一人、空条承太郎のラッシュ攻撃の際の声のパロディ。これだと打撃中心っぽいですが、ジャッジなので攻撃の基本はハルバートです。

・(〜〜龍眼ならぬ神眼の未来視〜〜)
刀使ノ巫女において、雷神となった十条姫和の未来視能力のパロディ。彼女のようにベールも自分と相手の動きが見えていたのかもしれませんね。
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