超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress 作:シモツキ
教祖の務めは女神を支え、人と女神の架け橋となる事。即ち自身の仕える女神の持つ力が遺憾無く発揮され、同時に両者間の意思疏通が円滑に進む状況を作る事こそが自分の仕事だ…とルウィーは教祖、西沢ミナは考えている。
その為に必要なのは、まず自分が今という状況を正確に認識し、理解する事だとも考えているミナ。一見温和で、その実やはり普段は温和な彼女だが……有事の際の彼女に、抜かりはない。
「…っと、たった今通信が入りました。到着したホワイトハート様達が、四天王トリックと交戦を開始したとの事です」
「…という事は、彼は……」
「はい、無事のようですよ。送り出した身としては、これで一安心です」
ルウィーへと向かう飛空艇の中で、ミナは教会にあるガナッシュから戦況の報告を受けていた。その最中に入った、ガナッシュへの通信。敵であるトリックの状況を報告出来る人間は現状迎撃に当たっていた一人のみであり、通信が入ったという事実そのものが生存の証明だった。
「…全く、勝手に例の機体を動かして迎撃に出るなんて…結果的には助かりましたが、今後このような真似は謹んで下さい」
「分かっています。私も彼も、ここまでの事態でなければこのような事は致しません」
「……今、暗に逃げ道を用意しましたね?」
「はは、流石にバレてしまいますか…」
肩を竦めて殊勝な返答を口にしたガナッシュだったが、言葉の裏の意図に気付かれ苦笑を漏らす。ここまでの事態でなければやりはしないが、同等以上の事態でもやらないとは言っていない…ミナに指摘された逃げ道とは、つまりそういう事。
しかしそんなガナッシュに対し、ミナはそれ以上の事を言わない。その理由の半分はガナッシュと彼、アズナ=ルブが軽率な判断をするような人間ではないと理解しているからで、もう半分は……それより今はやる事がある為。
「…こほん。でしたら四天王迎撃の為に追加で編成中だった部隊を、哨戒と警戒に回して下さい。魔術機動部隊には、モンスターの迎撃後に一度後退するよう指示を。想定外の事態が起きた際、彼等には再び最前線に展開してもらわなくてはいけなくなるかもしれませんから」
「分かりました。…ホワイトハート様達への増援は、不要なんですね?」
「えぇ。貴方は必要だと思いますか?」
「いえ、私の…もとい、我々のホワイトハート様やホワイトシスター様達が負ける筈がありませんから。…ただ、所詮は素人の考えですが…戦力に余裕のある今は、増援を送るのも決して下策ではないかと思います」
聞いた情報と手元の端末に映る情報から今後起こりうる事態を想定し、ミナはガナッシュへと指示。その返しで発された女神への増援は不要かという問いに対して肯定をしつつも、そこから彼女はガナッシュに問い返す。そしてガナッシュの考えを聞いたミナは、こくんと一つ頷き……言う。
「…そうですね、その考え方は間違っていません。ですが、ブラン様達の下へ増援を送るという事は、その分だけ別の場所の戦力が減るという事。勿論常に送らないのが正解という訳ではありませんが……今は、送らない方がいいんです。…その方が、ブラン様達も安心出来ますから」
「…流石はミナ様。よく理解されているんですね」
「当然です。わたしは、ルウィーの教祖ですから」
その言葉を最後にやり取りは終わり、新たな情報が入り次第連絡するとガナッシュが言ったところで通信も終了。まだ到着までは時間のある飛空艇の中でミナはふぅ、と小さく息を吐き、それから再び視線を端末へ。
(…何が起きようと、街の事はわたしや教会、軍の人間で対応します。ですからこちらの事は気にせず、出し惜しみなく戦って下さいね、皆さん)
先程ガナッシュに語った、増援を送らない理由。その根底にあるのは、ブラン達に目の前の戦いへ全力を出してほしい、全力を出せるようにしてあげたいという純粋な思い。
とはいえそれは、ブラン達だけにトリックの撃破を任せるという選択でもある。ガナッシュの言葉通り、余裕があるにも関わらず対四天王の戦力を絞るという事でもある。上手くいけば無駄なく勝利出来るが、悪ければ致命的な敗北となる、決して無難ではない選択。では何故そんな選択を、賭博師ではないミナがしたのか。どちらかと言えば堅実な彼女が何故そうしたのか。それは……
(──凱旋を、お待ちしていますよ)
ミナがブラン達の勝利を信じる、どころか確信していると言える程に、ルウィー教会職員の誰にも負けない程に、強く深い信頼を三人へ向けているから。…ただ、それだけの事だった。
*
お化けとか、虫とか、しいたけとかと同じくらい、トリックはきらい。ぎょろぎょろした目がこわいし、なんだか気持ちわるいし、ぺろぺろしようとしてくるから、ほんとにきらい。ラムちゃんもきらいだから、やっぱりきらい。
でも、わたしもラムちゃんも、おねえちゃんに任せようとは思わなかった。だって、わたしたちも女神だから。おねえちゃんたちのかっこいいすがたをいっぱい見てきて、ネプギアちゃんやユニちゃんといっしょにつよくなって、ルウィーのみんなにしんじてもらって…がんばりたいって、今は思ってるから。…それに、りゆうは…もう一個、ある。
「変態だろうがなんだろうが関係ねぇ!トリック・ザ・ハード…テメェは、わたし達が…倒すッ!」
『たおすッ!』
まっすぐにとつげきするおねえちゃん。わたしとラムちゃんは右と左に分かれて、えいってたてに広げた魔力のざんげきをトリックにとばす。これでトリックは、よことうしろによけるのがたいへんになる。
「ほほぅ、だが我輩も倒される訳にはいかんのだッ!」
おねえちゃんのふったおのを、トリックは舌べろをたてみたいにしてぼうぎょ。わたしたちの魔法はよけるのをじゃまするためのものだから当たらなくて、そこからトリックはおねえちゃんをおし返す。
「だろうな、ただでやられてくれるとは思ってねぇよッ!」
「む?という事は、我輩の為に何かしてくれるのか?」
「あぁ。たっぷりと女神の制裁を喰らわせてやる、よッ!」
おし返されたおねえちゃんはすぐにまた近づいて、すごいパワーでれんぞくこーげき。でもトリックの舌べろはクッションみたいに力をうけ止めちゃって、こーげきが身体にとどかない。とどかないけど……おねえちゃんは、ぜんぜんあせってない。
「ちッ、ネプテューヌやネプギア辺りの得物ならもう少し攻撃が通り易いんだろうが……無い物ねだりしたってしょうがねぇな」
「ふふーん、でもかわりにわたしたちがいるでしょ!おねえちゃん!」
「ラムちゃんの、言うとーり…!(ふんすっ)」
大きくうしろにとんだおねえちゃんと入れかわるみたいに、わたしたちは前へ。そしたらすぐにトリックが魔法のしょくしゅを使ってくるけど、それをわたしがうちおとして、ラムちゃんが大きな氷をトリックへとおとす。
「この規模の氷塊を瞬時に精製とは、やはり流石ルウィーの女神……だがッ!」
氷の魔法はわたしたちのとくい魔法。けど、上を向いたトリックは舌べろをバネみたいにちぢめて、それからとびでた舌べろが氷をこっぱみじんにこわしちゃう。こわしちゃうけど……それはわたしたちのねらいどーり。
「だろ?けど、それだけじゃねぇのがルウィーの女神だッ!」
「ぬ……ッ!」
ラムちゃんの氷をこわすために上を見て、舌べろをのばしたしゅんかんおねえちゃんはまた前へ。気づいたトリックはいそいで舌べろをもどすけど、こんどはおねえちゃんのパワーをうけ止めきれずにはじかれて、空いたおなかへおねえちゃんはキック。
「ぐぉぉ……!?幼女の脚が、我が腹部に…ッ!」
「そういうところが特にキモいんだよッ!ロム、ラム!」
ほんとに気持ちわるそうなおねえちゃんからの合図で、わたしたちはまた氷の魔法をはつどう。つららみたいな氷をたくさん作って、上とななめ前から一気にうつ。…と、見せかけて……
「……ラムちゃん!」
「うん!今ねッ!」
「む…範囲攻撃と十字砲火の組み合わせは悪くないが、タイミングはまだま……ぐぁ…ッ!?」
ボウルみたいな魔法しょーへきをトリックが使ったしゅんかん、一本だけのこしておいた氷を思いっきりはっしゃ。先に出した氷はぜんぶはじかれちゃったけど、さいごの氷はしょーへきをとっぱ。その時ちょっと欠けちゃって…でも、わたしの氷もラムちゃんの氷もつきささる。
「…卓越した魔法使いは目的に合わせて魔法の性能を変えられるが、その分性能を偏らせる事で高位の魔法を使わず目的を果たそうとする事がある。……素直に範囲も強度も両立した障壁を張りゃ、防げてただろうよ」
「…単発威力は決して高くない範囲十字砲火で範囲重視の障壁を張らせた、という事か…一杯食わされた、いや…我輩の評価の誤りだな……」
おどろくトリックに向けて、おねえちゃんが言う。わたしたちはもっとこーげきするつもりだったけど、氷がささったあとすぐにしょーへきをはりなおされちゃったからそこでストップ。…だけど、これでわたしもラムちゃんもこーげきを当てられた。おねえちゃんをたよってじゃなくて、力まかせでもなくて、さくせんでトリックのぼうぎょをとっぱした。おねえちゃんやみんななら、それがふつうなのかもしれないけど…わたしとラムちゃんには、それができたことがすっごくだいじ。わたしたちはもっともっと、せいちょうしたいから。
「……幼女の成長は日進月歩。一を聞いて十を知り、一日で出来なかった事が出来るようになり、その翌日には発展した技術へ自ら到達する。…こんな当たり前の事を失念するなど、我輩も愚かなものだ……」
「そうさな、テメェに同意するのは癪だが…ロムラムの成長は、わたしやテメェが予想出来るようなもんじゃねぇ。…多分この戦いの中でも二人は成長するぜ?それでも勝てると思うか?」
「ふっ、であればそれも望むところ…幼女の為となる事の、どこに拒否する要素があると言うのだホワイトハートよッ!」
しょーへきの中のトリックと、その前に立つおねえちゃんは、わたしたちのはなしをする。トリックの言ってることばはよく分からなかったけど、おねえちゃんはわたしたちをほめてくれた。それはとってもうれしいし、だからそんなおねえちゃんのきたいにこたえようって、わたしもラムちゃんももっとやる気があふれてくる。
でも、やる気があふれてきたのはわたしたちだけじゃなかった。おねえちゃんからことばをかえされたトリックはにやっとして……トリックのからだの周りに、つよい魔力があつまりはじめる。
「おねえちゃん!こいつ何かしようとしてる!」
「みたいだな…だが、そうはさせるかよッ!」
わたしと同じようにかんじたラムちゃんが声をあげて、そのあとすぐにおねえちゃんがトリックをこーげき。ぐるんって回ったおねえちゃんのかいてんぎりは、うすい氷をわるみたいにしょーへきをくだいたけど…くだけたしょーへきはけむりにかわって、トリックのすがたが見えなくなっちゃう。
「……っ!ロム、頼む!」
「う、うんっ!」
出てきたけむりはすごくこかったけど、かぜの魔法でふきとばしちゃえばかんけいない。だからけむりはすぐにかいけつできたけど……見えるようになったしゅんかんに、トリックはおねえちゃんへととっしんをかけた。
「テメェが自ら接近とは、どんな風の吹き回し……うおッ!?」
わたしたちはそのうごきにちょっとびっくりしてたけど、おねえちゃんはあわてずおのの持つところでパンチをぼうぎょ。…けど、そのトリックの手首には魔法陣があって、そこからしょくしゅがとびだしてくる。
「覚悟するが良いルウィーの女神!我輩は如何なる理由があろうと、幼女を傷付ける事はしない!だが、その上で今の我輩は本気だッ!全身全霊を、この戦いに注ぐつもりなのだッ!」
「あぁそうかよ…けっ、どこぞのスーパーコーディネーターやXラウンダーを気取るつもりかテメェは…ッ!」
「我輩にそこまで大それた理想はない!我輩はただ愛する幼女の為に全力を尽くすまでの事ッ!」
出てきたしょくしゅをぎりぎりでよけたおねえちゃんは、おのでぜんぶ切ってはんげきのパンチ。それをトリックが両方の手でふせぐと、また手首の魔法陣からしょくしゅが出てきておねえちゃんをおそう。
「相反してやがんな、傷付けない事に全力ってかよッ!」
「それもある!純粋に勝つ為というのもある!では訊こうかホワイトハート!君は己の信念を曲げた全力と、信念が枷であっても貫き通した上での全力…そのどちらが強いと思うッ!」
「…まあ、そりゃ…後者だろうなッ!」
おねえちゃんはおのをみじかく持って、左手はプロセッサのつめを使って、トリックの出すしょくしゅをすぐに切りさいていく。でもトリックはこーげきするたび、ぼうぎょするたびしょくしゅを出してきて、切っても切っても中々へらない。
また、トリックはよく分からないことを言ってる。けど、こんどは何となく分かる。だってわたしもラムちゃんも、おねえちゃんを助けたいとか、ネプギアちゃんやユニちゃんといっしょにがんばりたいとか、そんな色んな気持ちを力にしてここまで来たから。
「いくよ、ラムちゃん…!」
「うん!あんたの相手は、おねえちゃんだけじゃないんだからッ!」
小さくうしろにとびながらたたかうおねえちゃんのうしろにわたしが、トリックのうしろにラムちゃんが空から近づいて、二人で同時にしょうげきはでアタック。おねえちゃんはすぐに気づいてよけてくれたけど、トリックが気づくのも早くて、しょうげきははトリックにも当たらない。…でも、まだまだここから。
わたしもラムちゃんもあんまりむずかしいことは言えないし、知らないこともいっぱいあるけど、気持ちはおねえちゃんにもトリックにも負けないと思ってる。わたしたちにだって、曲げたくない思いがある。だから……
『アイスサンクチュアリッ!』
──相手がだれでも、どんなにつよくても……わたしたちは、負けないっ!
*
すっごくつよいわたしと、つよくてやさしいロムちゃんと、とってもたよれるおねえちゃんでたたかえば、ぜったいかてるってわたしは思ってる。でもトリックもけっこうつよくて、中々たおせない。
トリックは気持ちわるいやつで、こんなやつがつよいのはおかしいって思ってた。へんたいがつよいなんておかしいって、思ってた。…けど、今はちょっとちがう。気持ちわるいへんたいだって、今も思ってるけど……トリックがつよいりゆうは、少しだけ…分かる。
「ここはとおさないん、だからッ!」
「だから…ッ!」
わたしはほのお、ロムちゃんはでんきの魔法で空からこーげき。トリックがしょーへきで守ったしゅんかん、おねえちゃんはしょうめんからとっしん。そのおねえちゃんへ、トリックはさっきわたしの氷をこわしたときみたいにしたをつき出してくる。
「アクククク!良い、良いぞッ!精度も狙いもあの時より向上してるではないかッ!」
「そりゃロムラムの事か、よッ!」
「そうだッ!だがまだ未熟よのぉ!一本調子でないのは良いが、ただバリエーション豊富なだけの属性魔法ならば、何ら怖い事はないッ!」
とんで来たしたをおねえちゃんは回ってからのかかとおとしでつぶして、それからざんげき。けどそれをトリックは手首と足首の魔法陣から出したしょくしゅを持つところにからみ付かせることで止めて、そこからすぐにしたをまきもどす。そのままだとしたにまきこまれて食べられちゃうけど…そんなことされるおねえちゃんじゃない。
「テメェこそ舌だの触手だの偏った攻撃じゃなく、もっとバリエーション豊かにしてみたらどうだよッ!」
そう言ったおねえちゃんはおのから手をはなして、うしろが見えてるみたいな回しげりでしたを止める。しかも当てたときのはんどうをつかってすぐふり向いたから、おのをしょくしゅに持っていかれる前にまたつかむことにせいこう。そのまましょくしゅを引きちぎって、トリックからおのをとりもどす。
「ご指導痛み入るなぁ!ならば我輩も何か…と言いたいところだが、残念ながら我輩に守護女神へどうこう言える事はない!君は間違いなく立派な幼女であるぞ、ホワイトハート!」
「全く嬉しくねぇんだよなぁ、そういう褒められ方をされてもよぉッ!」
おねえちゃんからの…アイ、コンタクト…?…でわたし達は魔法のパワーをつよめて、トリックのしょーへきにヒビを入れる。このまままたとっぱできればよかったけど、その前にトリックはうしろに下がって、しかもこんどはわたしたちの方にしょくしゅがのびてくる。
「めきめきと伸びる愛らしい双子の幼女に、非の打ち所がない技能を持つ麗しき姉の幼女。やはり、やはりルウィーは素晴らしい!こんな女神を望み生み出したルウィーの国民を、我輩は実のところ尊敬しているのだッ!」
「だったら、かえって…!」
「そうよそうよ!ルウィーおそいに来たくせに何言ってんのよっ!」
のびてきたしょくしゅをひょうみたいなたくさんの氷でズタズタにして、さらに同じ魔法でトリックにはんげき。ふゆうしてよけていくトリックを、おねえちゃんがおいかけていく。
「どうせテメェは退けねぇ理由があるとか言うんだろうなッ!だがそれはテメェの大好きな幼女に拒否されてまでする事かよッ!」
「あぁそうだ!所詮我輩はエゴにまみれた人間!それに大人とは、時に相手の為を思って強引な手を取る事もあるものだッ!」
「確かにそりゃエゴだなッ!相手の為を免罪符にして、納得してもらう事も相手の意思を尊重する事も放棄してるんだからよッ!」
わたしとロムちゃんがトリックをおい立てて、おねえちゃんが回りこむ。トリックがしょくしゅでじゃましてきても、おねえちゃんのときはわたしたちが、わたしたちのときはおねえちゃんがそれを片づけることで、だんだん本気のトリックをぼうぎょしかできないじょうたいに押しこんでいく。
「このままやっつけてやるんだから…ッ!」
このままならかてそうだけど、トリックはずるがしこいやつだから、ゆだんしちゃうのはきけんなこと。そう思ってわたしもロムちゃんもしっかりこーげきを続けて、れーせーにおねえちゃんをアシスト。その中でも、おねえちゃんとトリックの言い合いがつづく。
「エゴであろうと、身勝手であろうと、我輩の幼女を愛する気持ち、守りたいという気持ちに偽りはない!愛され、守られる事が幼女にとって必要なのだッ!」
「それが余計なお世話だっつってんだよッ!わたしにも守られてろってかッ!」
「無論だッ!」
「そのわたし達に、負ける経験をしてもかッ!」
「当然だッ!強い弱いの問題ではないッ!戦場に幼女がいる事、それ自体が間違っているのだからなッ!」
わたし達の魔法をしょーへきとステップみたいなうごきでしのいで、おねえちゃんのこーげきはうでとしょくしゅでぎりぎり防いで、トリックはさけぶ。ようじょようじょ言ってるはやっぱりへんたいにしか見えないけど…本気なんだって、ほんとにつよい思いがあるんだってことは、そのことばからも伝わってきた。
今も、前にたたかったときも、そのさいごにあったあのしゅんかんにも、トリックにはその思いがあった。あんまりそうは思いたくないけど…もしかしたらその気持ちは、わたしやロムちゃんのもっと良い女神になりたいって気持ちとか、おねえちゃんのルウィーを守りたいって気持ちにも、まけてないかもしれない。……そう、思ったときだった。
「犯罪神に従ってるテメェが、間違いだの何だのを語れる立場かよッ!結局テメェは自分の理想を押し付けてるだけだッ!相手に理想を求める事は間違っちゃいねぇが…なら覚悟してるんだろうなッ!それは押し付けだって、否定される事をよッ!」
「ふっ…しておる、しておるともッ!どんなに否定されようと、痛みを伴おうと……幼女の幸せの為なら、我輩は何者にでもなってやろうではないかッ!!」
「……ッ!?テメェ、まさか……ひゃああぁぁっ!?」
したもしょくしゅもはじいて、おねえちゃんがつき出した左の手。けんみたいにするどくのびるおねえちゃんの手が、トリックの身体におそいかかる。でも、それをトリックは……ぼうぎょしなかった。ぼうぎょしなかったからおねえちゃんの手がささって、トリックはかおをゆがめて……それでもつよい気持ちのこもった声をあげながら、おねえちゃんにしたをまきつける。
「お、おねえちゃん…ッ!」
「よくもおねえちゃんにまでしたを……ッ!」
「おっと…そうはさせんぞ、ホワイトシスター…!」
『……っ!』
ふだんの女神化したおねえちゃんなら出さないようなひめいをきいたとき、わたしたちは前になめられたときのことを思い出してふるえ上がる。でもそれよりもおねえちゃんをたすけなきゃって思いがつよくて、すぐに魔法をうちこもうとするけど…そのわたしたちに向けて、トリックはしたを向けてきた。おねえちゃんをまきつけた、ぬるぬるのしたを。
「う…ひ、ひきょーよ!前のときも今のときも、すぐひきょうなことをして…ッ!」
「そういうところも、きらい…ッ!」
「……当然の反応だ。恨んでくれて構わない。卑劣だと自覚もしている。…それでも、我輩には貫くべき信念があるのだ。言ったであろう?幼女の為なら、何者にでも……」
わたしとロムちゃんはトリックをにらみ付ける。トリックはそれをうけて、いっしゅんだけつらそうなかおをして…でも、おねえちゃんをはなさない。はなさないからわたしたちもこーげきできなくて、トリックはこっちに来ようとして……
「──テメェにだけ、貫きたい信念があると思ってんじゃねぇよ…テメェだけが、強い思いを持ってると思ってんじゃねぇよ…ッ!」
……トリックが目を、見ひらいた。おねえちゃんのおもい、ひびくような声がきこえたしゅんかんに。
あのしたはぬるぬるで、へんにやわらかくて、しかもなめられてるとぴりぴりもしてきて、あのときわたしたちはどうしようもなかった。…けど、おねえちゃんはちがう。したで見えないけど…分かる。内がわから、押し広げようとしてるって。
「な、何……!?幾ら女神といえど、我が舌に巻き付かれてこれだけの力を出す事など…!」
「あぁ、難しいだろうな…正直脱出まで力が持つか分かんねぇよ…けどな、あるんだよ…わたしにも、貫きたい信念が…強い思いってやつが…ッ!」
「ぐ、ぅぅ…だが……ッ!」
「忘れてるようだからもう一度見せてやるよ…わたし達が、テメェの思うような幼女じゃねぇって事を…テメェに守られなくたって、大丈夫なんだって事を……なぁそうだろ、ロムっ!ラムっ!」
『……──ッ!』
つらそうなかおで、つらそうな声で、それでもトリックに抵抗するおねえちゃん。トリックの言ってることはちがうんだって、自分たちはそうじゃないんだって、心のこもったことばで言うおねえちゃん。そのおねえちゃんのすがたを見て、名前をよばれて……わたしたちの心が、どきんとした。
おねえちゃんに当たっちゃうかもしれないから、わたしたちはこーげきできなかった。けど、ぜったい当たっちゃうわけじゃない。当たっちゃう『かも』しれないって、だけ。だけどもし当てちゃったらって思うとこわくて、だから助けられなかった。……でも、おねえちゃんによばれて…思った。そんなの、おねえちゃんに当てなきゃいいんだって。むずかしいけど、できないことじゃないって。
わたしたちは、せいちょうしてきたと思ってる。それはおねえちゃんもしんじてくれていて、それがあるからきっとわたしたちをよんでくれたんだと思う。だったら…やっぱりおねえちゃんやトリックがつよいのは、つよい思いを持ってるからなら……
(わたしたちだって……まけないくらいの、思いがあるんだから…ッ!)
しんじてくれたおねえちゃんの力になりたい。もっとせいちょうしたい。おねえちゃんみたいな女神になりたい。何より……トリックにそうじゃないんだって、しょうめいしたい。そんな思いをこめて、わたしたちは魔法をはなつ。わたしたちの一番とくいな、氷の魔法を。
つかったとき、もしもおねえちゃんに当たったら…ってふあんはなかった。よく分からないけど、ぜったいだいじょーぶって気持ちがあった。そしてそれは……本当になる。
「……!?こ、これは…ッ!?」
「…ありがとな、二人共…なら今度は、わたしの……番だッ!」
「ぬ、ぉぉぉぉぉぉッ!?」
うちこんだ二つの氷は、おねえちゃんとトリックのしたをかすっただけ。けどそれでいい。わたしたちはおねえちゃんをたすけることじゃなくて…手だすけするのが、もくてきだったから。
氷にこめたのは、凍りつかせる魔法。だからかすっただけでもトリックのした…特におねえちゃんにふれてる部分が凍っていって、わたしたちには見えないけど…ふれてる部分が、ぬるぬるからゴツゴツになった。そしたらわたしたちのねらいを分かってくれたおねえちゃんは、ゴツゴツの部分に手と足を引っかけて……したから、だっしゅつする。
「くっ……何という発想、何という連携…こんな形で、脱出されるとは…!」
「おねえちゃん、ぶじ!?」
「気持ちわるく、ない…?」
「べったべたで気持ち悪いが…安心しろ、無事だ!ロムとラム、二人のおかげでな!」
おどろくトリックの前で、おねえちゃんはかいてんしながらわたしたちの前にちゃくち。それからわたしたちにえがおを見せてくれて…わたしたちも、それににっこりのえがおをかえす。
言ったとおり、おねえちゃんはべったべた。でも目にはゆうきがあふれてて、それがわたしたちにも元気をくれる。…やっぱりおねえちゃんは、すごい。
「…さて、と…元々負けるつもりはなかったが、今ので余計に負けられなくなった。だから……その目に焼き付けやがれ、トリック。ルウィーの女神の…強さを」
おのの先をトリックに向けるおねえちゃん。おねえちゃんの心にあるのは、つよい思い。それは大きくて、でっかいかべで……でもわたしもロムちゃんもまけたくないから、おねえちゃんにもまけない女神になりたいから……わたしたちは、うんってうなずく。
今回のパロディ解説
・スーパーコーディネーター
機動戦士ガンダムSEEDシリーズの主人公の一人、キラ・ヤマトの事。一応トリックも幼女に対しては不殺です。覚悟もあります。その内容はかなり独特ですが。
・Xラウンダー
機動戦士ガンダムAGEの主人公の一人、キオ・アスノの事。勿論この能力はキオだけのものではありません。ついでに行動の動機も上記同様全然違います。