超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百四十二話 真っ直ぐに、一心に

お姉ちゃんはとにかくまずプラネタワーへ。わたしは大通りや繁華街へ。マジックに得体の知れない置き土産を残されたわたし達は、対モンスター戦の勝利を確認した後それだけ決めて街へと戻った。そしてお姉ちゃんと別れた後すぐインカムに届いたのは、驚愕の情報。

 

「えぇ!?しゅ、集団脱走ですか!?」

 

通信の相手は、イストワールさん。この通信はわたし、イストワール、それにお姉ちゃんの三人で交わされてるもので、インカムからはお姉ちゃんの驚きの言葉も聞こえてくる。

 

「一人二人ならともかく、犯罪組織の構成員全員だなんて…まさか、全員で協力して三つ位穴を掘ってたとか…?」

「いえ、どうやら何者かが脱走の手引きをしたようです。わたし達の目が四天王やモンスターへ向いていた隙を突かれましたね…」

 

言葉に焦燥を滲ませつつ問いかけたお姉ちゃんに答えるイストワールさんの声からは、悔し気な感情が伝わってくる。わたしやお姉ちゃんはまだ驚きの方が強く感じているけど…多分落ち着けば、イストワールさんと同じ気持ちになると思う。だってこれは完全に、わたし達の作戦を利用された訳だから。

 

「怪我人はどうなんですか?救援は必要ですか?」

「いえ、どうやら脱走は強引な手段ではなく、手引きをした者が潜入によって進めたらしいので、今のところ死傷者の報告はありません。あくまで今のところは、ですが…」

「そうですか、なら良かっ……いや良くないよ全然、脱走されちゃったんだから…」

「怪我人無しは不幸中の幸い、ってところね。…これがマジックの言っていた事なのかしら…」

 

評価をお姉ちゃんが纏めつつ、わたしの中にもある疑問を口にする。

犯罪神様への最後の供物、狂宴に包まれるがいい…マジックは消える前に、そう言っていた。あの時確かに良からぬ何かが起きていて、それを確かめる為、止める為にわたし達は急いでいる。状況的に考えれば、マジックのした事は脱走の支援なんじゃないかと思えるけど……

 

(…でも、死傷者がいないって事は気付かれずに脱走をある程度進められたって事。なら、脱走が始まったのは……わたし達がマジックを倒すより、前の事…?)

 

わたしは考える。今の段階じゃ情報が少な過ぎて推理のしようもないけど、考える事は大切。安易に答えを求めようとして間違えるのは分からないままより良くないし、ガラス片一つで答えに繋がる事もあるから。

 

「…いや、マジックの意図は何であれ、まずはその対処に当たらなくちゃいけないわね。いーすん、わたしはこのまま戻るから情報を整理しておいて。ネプギアはそこから捜索に回ってくれる?街の中にも軍の警戒がある以上、まだ遠くには行ってない筈よ」

「うん、任せてお姉ちゃん!」

 

高度を上げ、刑務所方面へと進路を変える。考える事は大切だけど、動く事だって大切。自分から情報を得たいなら動くしかないし、事態は待ってくれないんだから、場当たり的でも動くのが解決への第一歩。とにかく動いて、でも頭ではちゃんと考えて……それが出来なきゃ、一人前の女神になんてなれないよね。

 

「お二人は四天王を撃破した直後です。元構成員は殆どが普通の人間とはいえ、体力にはご注意を」

「大丈夫ですよ、いーすんさん。消耗してる事は、わたし達自身がよく分かってますから」

 

その返答を最後に、一度通信は終了。代わりに刑務所と軍に連絡を取って、脱走に関するより詳しい情報を収集する。

 

(普通に探したって見つかる訳ない。普通に見つかるなら、もう発見情報なり何なりが出てくる筈。でもそれなら、どうすれば……?)

 

上空から見下ろしながら、脱走した元構成員を探す。元構成員自体を見つけられれば一番いいけど、小さな手がかりだけでも今は十分。お姉ちゃんの言う通りすぐ遠くには行ける訳ないんだから、少しずつでも手がかりを集めて、元構成員へと近付いていけば……

 

「……あれ?」

 

捜索を始めて十数分。見逃しをしないようゆっくりと首を回していたわたしは、奇妙な集団を発見した。まだ勧告が解除されていない今、軍人でもない人が集団で外に出てるというのは明らかにおかしい。

 

「…って、あの人達は……」

 

気になって降下を開始したわたしの目に映ったのは、教会を否定する言葉の書かれたプラカード。…それ一つで分かる。その人達は、信仰抗争被害の会の集団だって。

 

(なんで今、こんな所に……)

 

被害の会の人達はわたし達女神や教会を嫌っているみたいだから、勧告を素直に聞いてくれないのは分かる。でもそれにしたって、こんな有事にふらふら外を歩いているのは……

 

「…もしや……」

 

ある可能性が頭に浮かんだわたしは、周囲に気を配りながら一気に降下。集団の正面に降り立って、くるりと集団の方に振り返る。

 

「うおわっ!空から女の子が!?…って、この人は……」

「今この周辺は危険です。必要なら案内するので、安全な場所に移動してもらえますか?」

 

わたしの突然の飛来に驚く集団へ向けて、避難するよう言葉をかける。…けど、それに頷いてくれる人は一人もいない。

 

「…我々が、それを女神から言われて聞くとでも?」

「まだ安全が確保された訳じゃないんです。わたしどうこうじゃなく、自分の身を守る為に避難して下さい」

「私達の安全を守るのは貴女達の役目でしょう?そもそも危険だって言うなら、女神様は他にやるべき事があるんじゃないんですか?」

「……っ…それは…!」

 

集団からのあんまりな言い草に、つい言い返しかけるわたし。でも「ゆっくりしてる場合じゃない」って気持ちに引き止められて、ギリギリのところで踏み留まる。それからわたしは小さく深呼吸して、反論ではなく女神の言葉を集団に返す。

 

「…お願いです、避難して下さい。今はまだ、何が起こるか分からないんです」

『…………』

 

避難してと言って、正直に何が起こるか分からないと言って…頭を下げる。ここで女神のわたしが頭を下げるのは良いのか悪いのか分からないけど、正論とか理屈とかを押し付けるより、こうして気持ちを態度で表す方がずっと納得してもらえると思ったから。

頭を下げたわたしへは、何の反応も返ってこない。わたしは頭を下げてるから、どんな表情をしているかも分からない。だけど気持ちが伝わる事を信じてわたしは待ち……不意に、静かだった集団がざわつき始めた。

 

「…あ、あれって…まさか……」

「嘘…あの子……」

「……?」

 

驚きと困惑、それにまばらだけど喜びの感情が籠った、集団の人達の言葉。その言葉がわたしに対するものだとはとても感じられなくて、変に思ったわたしは顔を上げかけて……その時、ぞくりとわたしの背筋に悪寒が走った。

 

「え……?」

 

ばっと勢いよく顔を上げたわたしのすぐ側を、何かが駆け抜ける。次の瞬間わたしの目に映ったのは、身体をくの字に曲げた一人の姿と……その人のお腹に刺さった、ナイフの存在。

 

「き……きゃああああぁぁぁぁッ!!」

 

その人が倒れ込むと同時に、隣にいた女性が悲鳴を上げる。一気に衝撃が集団へ走る中、わたしは弾かれるようにその場で反転。そしてわたしは理解した。何が起こったのかを。悪寒の正体は何なのかを。マジックの言っていた…言葉の意味を。

 

「そん、な……」

 

振り向いた先にいたのは、被害の会とは別の集団。ぎこちない動きで、でも常人では出せない速度で向かってくる、恐怖に駆られた表情の人達。

その状態の人達の事を、わたしは知っている。それは解決した筈の、もうない筈の……負のシェアによって、操られた人達の姿。

 

「あ、がッ……!」

「お、おい大丈夫かよ!くそ、なんで…なんであいつがこんな事を……!」

「と、とにかくこれ抜いてやらないと…!」

「……ッ!待って下さい!安易に抜くのは危険ですッ!」

 

慌ててナイフを抜こうとする一人を止めて、蹲る人へ駆け寄るわたし。見てみると刺さっているのは市販されてるような果物ナイフで、幸い傷は致命傷の域じゃない。…コンパさんに教えてもらった知識が、こんな形で役に立つなんて…。

 

「な、なぁ女神様、こいつ死んだりしないよな!?なぁ!?」

「当たり前です!今から衛生兵を呼ぶので、急いで運んであげて下さい!でも極力揺らさないよう気を付けて!この中で即席担架を作れる人は居ますか!?」

「あ…え、えと俺講習受けた事なら……」

「ならお願いします!」

 

自分じゃ治癒魔法で治療出来てもかなり痛みを我慢してもらわなくちゃいけなくなると判断し、軍に要請を出しながらわたしは立ち上がる。診る前はまだ多少距離があった筈の操られた人達はもう眼前に迫っていて……きっとこの人達は、被害の会の人達を傷付ける事を厭わない。だって今の彼等の身体は、彼等の思いで動いてなんかいないから。

 

「お、お願いしますって……じゃあ、ネプギア様は何を…」

「そんなの……ここで食い止めるに決まってますッ!」

 

だからこそ、わたしはその人達を止めなきゃいけない。M.P.B.Lを手放し、真っ先に突進してきた一人の両腕を掴んで押し留める。その人を横から抜けようとした人にぶつけて、二人一度に転ばせる。

 

「……っ…なんで、そんな事を私達に…!」

「理由はありませんッ!」

「へ……?」

「わたしがそうしたいから、そうしなきゃって思ったから食い止めるんですッ!皆さんだってそうでしょう!?」

 

次々と迫る操られた人達を素手で凌いで、声を張る。ただ返り討ちにするだけなら簡単だけど、相手は人で、しかも被害の会の人達にとっては仲間や家族。そんな人達だから、わたしは傷付けられないし、傷付けたくないし……守りたい。

張り出された右の拳を、左の手の平で止める。放たれた飛び膝蹴りを、クロスさせた両腕で防ぐ。数人纏めて体当たりしてきた時にはよろけたけど…それでも何とか踏み留まって、その人達を押し返す。

 

(手が、足りない…ッ!もう少し時間を稼がなきゃいけないのに……ッ!)

 

傷付ける訳にはいかないし、お姉ちゃん達の様に最小限の怪我で無力化させられるかどうかも分からないから、わたしに出来るのは転ばせたり他の人にぶつける事位。でもそれで止められるのなんて極僅かな時間で、数人だけならそれでも何とかなるけど…残りの人達も全てここまで来てしまったら、いつまで抑えていられるか分からない。……そう思った、時だった。

 

「まだか、まだ出来ないのか!?」

「お、俺だって急いでるよ!もう少し待ってくれ…!」

「もう!これじゃ彼を運ぶどころか、私達が逃げるのだって……!」

「……くそッ!もうこれ以上振り回されて…堪るかよぉッ!」

「な……っ!?」

 

背後から聞こえた、嘆きにも似た叫び声。それが聞こえた次の瞬間……操られている人の一人が、ドロップキックで跳ね飛ばされた。

 

「来やがれテメェ等!止めてやっから、少し位の痛みは我慢しやがれッ!」

「あ、貴方…何で……」

「勘違いすんなよ女神!俺は会のリーダーで、あいつ等の中には知り合いも多いから止めようとしてるだけだッ!こんな事はしたくなかったのに…!」

「だ、代表…貴方そんな喋り方する人でしたっけ…?」

「普段はそれっぽく喋ってただけに決まってんだろ!お前等も出来る事をやれよ!じゃなきゃ文句しか言えねぇって言われちまうだろうが…ッ!」

 

わたし以上に余裕のない声を張り上げながら、その人は次の相手へと向かっていく。一瞬急いで止めなきゃ、とわたしは思ったけど、彼は戦い慣れしてるのか上手く立ち回って囲まれるのを避けていて…正直に言えば、助かった。一人でも味方が出来れば、それだけでぐっと押し留められる時間は伸びるから。

仮に危ないから、絶対わたしが押し留めるから…そう言っても多分、その人は聞いてくれない。それに戦ってくれて助かってる面もある。だったらわたしのやらなきゃいけない事は、無理にでも下がらせる事じゃない……そう思ったわたしは、無理矢理操られている人を押し退けてその人の前へ出る。

 

「わたしが引き付けますッ!貴方はわたしの事なんて気にしないで、大変になったらすぐわたしに押し付けて下さいッ!」

「はっ、言われなくたって最初からそのつもりだッ!」

 

前へ出たわたしはこれまで以上に激しく動き、出来る限り注意と視線を自分に集める。…思い出すのは、ギョウカイ墓場での最初の戦い。あの時とは条件も状況も全然違うし、ここにいたのがわたしじゃなくてお姉ちゃんならもっと上手く立ち回れたのかもしれないけど…今ここにいるのはわたし。だからわたしが、全力を尽くして守るしかない。

神経を張り詰めて、会のリーダーさんの助力も得て、担架が完成し怪我した人を乗せるまでの短な…でも実際よりずっと長く感じる時間操られた人の侵攻を食い止めていたわたし。そうして遂に、後ろから聞きたかった声が聞こえてくる。

 

「で、出来た…!これで運べる…!」

「……か、感謝なんかしないからな!」

「構いません!だから早くッ!」

「そんなの言われなくても…!」

 

まず聞こえたのは完成を告げる安堵の声で、続いて耳へ届いたのは駆け出す音。

感謝なんて別にいい。勿論してもらえた方が嬉しいけど…今一番嬉しいのは、この人達が無事に逃げられる事。だからその為にわたしは、戦闘を続ける。

 

「貴方も早くッ!」

「…………」

「どうしたんですか!?まさか怪我を!?」

「…ふんッ!俺達は助けてくれなんて言ってねぇし、さっきも言った通り俺は俺がしたいから戦っただけだッ!それだけは言わせてもらうからなッ!」

 

一緒に戦ってくれた方の目的は、移動が出来るようになった時点で果たされた筈。そう思って声をかけると何故か反応がなくて、もう一度言うと……わたしの顔は見ないまま、そんな言葉が返ってきた。…そっか、なら……。

 

「…じゃあ、わたしからも最後に一つ!」

「何だよ!?」

「貴方のおかげで助かりました!どうかご無事で!」

「……ッ!…助けてねぇよ、助けられたのは……」

 

流石にさっきみたいに頭を下げる余裕はないから、対処しつつ声だけで思いを伝えたわたし。すると、彼は一瞬びくりと肩を震わせて……それから被害の会の人達を追っていった。最後にその人が発しかけていた言葉は…それを勘繰るのは、無粋だよね。

 

「……さて、と…わたしも覚悟、決めなきゃかな…」

 

会の人達が角を曲がって見えなくなったところで、ぽつりと呟く。あの人達が離れた事で大きく余裕が出来たけど、相手の戦力は殆ど減っていない。そういう戦い方をしてるんだから当たり前の事で……この人達を本気で止めるなら、傷付けるしかない。お姉ちゃん達と同じ手段で、わたしが。

 

(…大丈夫、わたしにだって出来る。不安だけど…それでもこの人達を救う事に繋がるなら、人を傷付ける事だって……!)

 

M.P.B.Lの操作を考慮したわたしのプロセッサじゃ健を貫く事は難しいし、仮に鉤爪状になっていても、わたしにはお姉ちゃん程の技量がない。だから狙えるのは脱臼だけで、それだって多分…お姉ちゃん達がやるより、肩や脚を傷付けてしまうと思う。

きっとかなり苦しめてしまう。怖い思いもさせると思う。…それでもやらなきゃいけない。どんな理由があったって、ここで見捨てたら、誰も幸せにならないから。

そう心の中で覚悟を決めて、一度わたしは後ろへ跳躍。それから狙う人を決めて、手脚に力を込め、そして……

 

「はぁぁああああああッ!」

 

気迫溢れる声と共に、紫の閃光が舞い降りた。閃光の飛来と同時に操られている人の一人が両肩を外され、続く指での突きが瞬く間に数人の健を貫いていく。

 

「お、お姉ちゃん……?」

「待たせたわね、ネプギアッ!」

 

操られている人は、操られているから痛みでも恐怖でも止まらない。でもだからって無謀な攻撃をしてくる訳じゃなく、状況によっては僅かな時間でも攻め手が緩む事もある。お姉ちゃんの登場によって生まれたのはそんな瞬間で、その隙にお姉ちゃんはわたしの隣へと跳んできた。

 

「ど、どうしてお姉ちゃんがここに……」

「軍から連絡を受けたのよ。被害の会の人達は?」

「そっか…うん、その人達は大丈夫!もう指定した場所に向かってくれたから」

「だったら良かったわ。なら後はわたしに任せなさい!」

「あ……お、お姉ちゃん、わたしも……」

 

まずわたしが現れたお姉ちゃんに質問して、返しの質問にわたしが答えて、それが済むとすぐにお姉ちゃんは再突撃の姿勢に入る。

その時お姉ちゃんが言ったのは、止めるわよ、でも援護して、でもなくわたしに任せてという言葉。裏を返せば、わたしはやらなくてもいいって意味の言葉。それがお姉ちゃんの気遣いだって事は分かってるけど、覚悟を決めたばかりのわたしにとってはすぐに頷けるようなものじゃなくて……でもあるものを見た瞬間、わたしの気持ちはがらりと変わる。

 

「……ネプギア?」

「…ごめんお姉ちゃん!ここはお姉ちゃんに任せるね!」

「え、えぇ……ってネプギア!?貴女どこに行くつもりなの!?」

 

あからさまに驚くお姉ちゃんの声を背中に受けながら、わたしは操られた人達の上を飛び越える。その人達の中の数人が阻むように跳んでくるけど、『飛ぶ』と『跳ぶ』の差を活かしてわたしは回避し一団を突破。どんどん加速をかけながら、わたしは道の先の十字路を曲がる。

言葉を返そうとした直前、わたしはその場を離れる人を見つけた。その人はずっと後ろの木の陰に隠れていて、離れる動きはどう見ても逃げるものだった。だからわたしはこの場をお姉ちゃんに任せ…その人を、追い掛ける。

 

 

 

 

大通りを避け裏路地へと入っていくその人を、逃がさないという意思でわたしは追う。相手は中々速いけど追えない程じゃなくて、連戦で消耗した今のわたしでも次第に距離が詰まっていく。そして何度目かの角を曲がった時……わたしはM.P.B.Lを改めて手元に顕現させて、声と共に銃口を向けた。

 

「待ちなさい、下っ端!」

 

わたしが見つけたのは、逃げたのは、下っ端だった。思えば初めて会った時にもこうして追い掛けた事があって、あの時みたいな失敗はしないとわたしは気持ちを引き締める。

 

「……って、あ、あれ…?下っ端だけじゃなかった…?」

「ぢゅっ!?し、失礼な!小さいからってオイラを見逃すなっちゅ!」

「また下っ端って言いやがったな!いつもいつも馬鹿にしやがって…!」

 

声に驚いた様子を見せながらも下っ端が振り向いたところで、そこに…というか下っ端の前にワレチューも居た事に気付く。…この人…じゃなくてこのネズミ(?)も脱走してたんだ……!

 

「何故貴女がここにいるんですか!?どうして、味方の筈の人達を襲わせたんですかッ!」

「そ、それはアタイのせいじゃねェよ!アタイは脱獄させただけで…!」

「……って事は、やっぱりマジックのあれは…」

 

下っ端からの返答で自分の疑問に答えを出すわたし。被害の会の人達の前に降下した時、わたしは「もしかしたら、この人達は脱走した人達と合流するつもりなんじゃ…」と思っていた。その後は強襲によって有耶無耶になっちゃったけど、脱走が下っ端の仕業だって分かった事で、マジックの置き土産が脱走支援ではないとはっきり判明。そこから消去法で、わたしは操りと結び付ける。

 

「マジック…マジック様がやったって事か?だったらやっぱりアタイのせいじゃねェよ!それに、脱獄だってアタイはそうするよう指示を受けただけだ!こんな、こんな事になるなんて……」

「……っ…何ですか、指示を受けただけって…こんな事になるなんてって…これは、貴女が脱獄させたからなんですよ!?操られたのは確かに貴女のせいじゃないかもしれません!でも、貴女が脱獄させなければもっと被害は少なく済んだんです!自由になったから、被害が拡大したんです!もう犯罪組織の本性を知ってる筈なのに、貴女は操られてる訳でもないのに……それでも自分の行為を人のせいにするつもりですかッ!貴女はッ!」

「……ッ!」

 

わたしの言葉で事態を理解し、わたしに反論して……そして下っ端は、自分は悪くないとでも言いたげな表情を浮かべた。その顔を見た瞬間、わたしは一気に頭に血が上る。

彼女からすれば、後悔の念も少しはあったかもしれない。でもわたしは見た。怪我を負った人を、怯える人を、そんな中で頑張って仲間を守ろうとする人を、無理矢理戦わされて苦しむ人を。それは下っ端だって見てる筈なのに……それなのに人のせいにする下っ端の姿が、本当にわたしは許せなかった。

自分でも内心驚く位の、わたしの怒号。それを受けた下っ端は一瞬目を見開いて……でも、その目はすぐに怒りに染まる。

 

「うるせェ…うるせェうるせェうるせェんだよッ!テメェがそれを言うんじゃねェよ!他でもないテメェが……アタイを騙した、テメェがッ!」

「……っ!それは……」

「アタイだってこれが正しくない事だって分かってるよ!けどどいつもこいつも、誰もアタイを認めねェじゃねェか!禄でもない奴だって、下っ端だって、アタイを見下してきたじゃねェか!アタイは悪くねェっ!アタイは悪くねェっ!!偉そうに説教するつもりなら、答えてみやがれッ!アタイを認めてくれる人の為に動く事が、認めてくれない奴等の為に動く事より立派な理由をッ!」

「……し、下っ端…お前、そんな事を…」

 

悔しそうに、悔しそうに叫ぶその姿に、わたしもワレチューも言葉を失う。…その主張が正しいとは思わない。頭では否定の言葉なんて幾つも浮かぶ。でも、そう叫ぶ姿があまりにも痛ましくて……わたしはすぐには言葉を返せなかった。

訪れた沈黙の中で、聞こえるのは荒い息遣い。それが何度か聞こえたところで……不意に、着信らしき音が響く。

 

「……へ…?と、トリック様…?」

「…聞こえるか、リンダよ……」

 

その着信は、彼女の通信機に対するもの。それを取り出して通信を受けると、そこからはトリックの声が聞こえてきた。

トリックといえば、ルウィーでロムちゃんラムちゃん、ブランさんが戦った筈の相手。その相手から連絡が来た瞬間、わたしの脳裏に最悪の展開が浮かんだけど……すぐにそれは否定される。

 

「は、はい聞こえてますトリック様!…でも、どうしてそんな辛そうな声を……」

「ア、クク…残念ながら幼女女神達にまたも倒されてしまってな……」

「……!?そ、そんな……」

「…だが、これで良いのだ…我輩はこれでも、納得しておる……」

 

わたしの不安を否定したのは、他でもないトリック自身。倒されたのに通信出来る状況というのはよく分からないけど、わざわざ仲間を騙す必要もないだろうとわたしは安堵するけど……彼女は愕然とした表情を、続けて激しい憎悪の感情を顔に浮かべる。

 

「よくない…よくないですよトリック様!クソがッ、一度だけじゃなく二度もトリック様を殺るなんて…トリック様は人を傷付けないようしてたじゃねェか!確かに変態だったけど、教祖誘拐した時も丁重に扱ってただろうがよッ!なのに、そんなトリック様を……許せねェ、許せねェ……ッ!」

「……そう、怒るなリンダよ…我輩は納得したと言っただろう…?」

「でも……ッ!」

「良いのだ…それよりお前に伝えたい事がある…心して、聞くのだリンダ……!」

 

わなわなと拳を震わせる彼女の顔は、隣にいたワレチューが後退ってしまう程。でもトリックはそんな彼女を宥めるように穏やかな声を発し、それから少しだけ語気を強める。そこから感じるのは、本当に聞いてほしいという思い。

 

「リンダ、我輩はお前が敵討ちをする事など望まん…その理由は、分かるか…?」

「それは……相手がトリック様の好きな幼女だから…」

「それもある……だが、同時にお前にそんな道を歩んでほしくないからだ…ッ!」

「え……?」

 

苦しそうな、でも気持ちの強さを感じるトリックの言葉に、彼女の表情を支配していた憎悪が一瞬揺らぐ。そしてそれが見えているかのように、トリックは続ける。

 

「何度も言ったろう、お前には才能があると…他の人間には真似出来ない力があると…。だがそれは復讐で活きるものではない…仮に使えたとしても、その道の先にお前の幸せなどは断じてない……!」

「幸せって…ならアタイに復讐するなって言うんですか?そんなの、それこそ……」

「そうだ…!お前の才能を下らない事に費やすなど、それこそ勿体ないではないか…!今一度言うぞ、我輩は…お前の復讐を、望んでいない……!」

「…………」

 

トリックの言葉は続く。切実そうな言葉の裏には、温かさの感じる言葉が続く。

 

「お前は不幸な人間だった。だが同時に、自業自得な人間でもあった。…しかし、我輩はお前を否定せん……我輩もまた、自業自得な人間だったのだからな…」

「…トリック様……」

「我輩は人にどうこう言える立派な人間ではなかった…だがそれでも分かる。お前の才能は本物であると…!憎しみに囚われるなリンダよ…復讐ではなく、その力で、その才能で周りを見返すのだ…!禄でもない我輩でも気付いた才能なのだから、お前が正しい形で活かせばその才能を…お前を認めない人間など一人としているものか…!そしてその道でこそ、お前はより輝ける…!だから、リンダよ…もしまだ、我輩に敬意を抱いてくれているのなら…ほんの少しでよい、その道を…信じてくれ……!」

「ま、待って下さいトリック様!正しい道って、それは一体……」

 

もう限界だったのか、それとも敢えてそこで終わりにしたのか。彼女が言葉を言い切る前に、その通信は切れてしまった。…どうしたらいいか分からないという顔をしている、彼女を残して。

 

「……トリック様…どうして、そんな事…どうしてそこまで、アタイに……」

「……下っ端、いえ…リンダさん」

「……っ…!?」

 

狼狽え、もう繋がっていない通信機を見つめる彼女。その彼女を見て…ううん、通信を聞いている中で、わたしはある思いが心の中で生まれた。

それは、今だって気持ち。元々彼女には言わなきゃいけない事があって、でも中々その機会がなくて、ここまできてしまった後悔の気持ち。でも、今なら言えるって、これを逃したら本当にわたしは後悔すると思って……言う。

 

「…あの時は、ごめんなさい。わたしにそのつもりはなかったんですけど…騙す形になってしまったのは、事実です。でも、けど……貴女を凄いって思う気持ちは嘘じゃありません!貴女の変装技術は凄いって、女神にも真似出来ない事だって、わたしは本気で思っていますっ!」

「……っ!…今更、何言ってんだよ…何を今更、謝るんだよ…テメェは、よぉ…ッ!」

 

…本当に、わたしは凄いって思っていた。それを漸く、伝えられた。やっとわたしは、彼女の前で言う事が出来た。

彼女の気持ちは分からない。きっとまだわたしを恨んでいるだろうし、ロムちゃんやラムちゃん達への憎しみもあるかもしれないけど……それでもわたしは信じたい。わたしの気持ちが届いた事を。通信という形でも分かる程の、トリックの思いが彼女に響いた事を。

 

「……はぁ、こんな展開になるとは思わなかったっちゅ…仕方ないっちゃね…。…おい女神!オイラは捕まる気なんか欠片もないっちゅ!だから、これでも喰らうっちゅ!ちゅうぅぅぅぅぅぅ……ッ!」

「……ッ!な、何を…!」

「喰らえ必殺、ボルテッ……ってあぁぁーーッ!は、はは…犯罪神様があんな所にッ!?」

「……ッ!?」

「……と見せかけて離脱っちゅ!ほら行くっちゅよー!」

「えぇっ!?だ、騙されたぁぁぁぁッ!?」

 

溜め息を吐き、それから只ならぬ様子を見せたワレチュー。それにわたしが警戒する中、突如ワレチューは思いもしない事を言い出して……反射的にわたしが振り向いた瞬間、物凄い勢いで逃げ出していった。

追いかけるのと同じように、もっと言えば前回はわたし引っかからなかったのに、気を付けてない方でわたしは騙されてしまった。犯罪神というチョイスをしたワレチューの作戦勝ちの面もあって、そのせいでわたしは必要以上に探してしまったんだけど……それでも気付いた時には、猛烈にやってしまったという思いに襲われてしまう。だって一瞬振り向きそうになるならともかく、振り返った時にはもういないという段階になるまでわたしは騙されていたんだから。

 

「…うぅ、わたしお馬鹿過ぎる…っていうかほんとに洒落にならない……」

 

落ち込むわたし。勿論急いで探してみるけど、彼女もワレチューも見つからない。となればもう完全にわたしの失態で、なんともやるせない気持ちになって……でも半分無意識に、そんな中でわたしは呟いた。

 

「……本当に、これは嘘じゃないですからね…リンダさん」




今回のパロディ解説

・「〜〜全員で協力して三つ位穴を掘ってたとか〜〜」
大脱走という映画におけるある展開の事。偶々見た映画なのですがどうもそれが頭に残っていて、それがパロディとなりました。知ってる人…どれだけいるんでしょう…。

・「〜〜空から女の子が〜〜」
天空の城ラピュタの主人公、パズーの代名詞的な台詞の一つのパロディ。勿論これを言ったんだ彼は受け止めていません。というか勢い的に無理かと思います。

・「〜〜アタイは悪くねェっ!アタイは悪くねェっ!!〜〜」
テイルズ オブ ジ アビスの主人公、ルーク・フォン・ファブレの代名詞的な台詞のパロディ。彼の様にリンダもこの後成長する……かも、しれませんね。

・ボルテッ
ポケモンシリーズに登場する技の一つ(の一部)の事。ネズミ繋がりでワレチューなら使え……る訳ありませんね。だって使える系統のポケモンも特殊な手段が必要ですし。
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