超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百四十七話 行き過ぎた純真

皆は私の事を、真面目な女神だと思っている。……それは、間違いない。もう全くもって間違いない。指導者が真面目である事が国にとって不利益になる訳がないし、私がこういう性格で生まれた以上、国民が私に真面目さを求めているのも自明の理。だから私は、自分の真面目さを捨てるつもりなんて毛頭ない。

けど、私を息抜きが出来ない女神だと思っているなら、それは勘違い。確かに根を詰め過ぎてしまう事はあるけど、息抜き自体はちゃんとしてる。息抜きという緩む瞬間を作るからこそ、真面目でなきゃいけない時に気がしっかりと引き締まる訳で、息抜きの対象には感謝しなきゃいけない。家族とか、趣味とか……と、友達…とかに…。

 

「うぅ、ちょっと苦いです…」

「もう、だから言ったじゃない。ミルクでまろやかになるって言っても、コーヒーは元々の苦味が強いんだって」

 

ブレイブを倒し、ラステイションの教会に帰還出来た日の翌日。まだ安心出来る状況じゃないし、新たな問題も発生したけど、決戦の為に英気は養っておかなきゃいけないし…という事で仕事は軽めにして、自室でカフェオレ片手に軍からの報告書を読んでいたところで、ケーシャが教会に訪れた。何でもケーシャは、私を心配して来てくれたとか。

 

「はい、これからは気を付けます…」

「そうね。っていうか、別に私に合わせてくれなくてもいいのよ?飲み物なら紅茶やジュースだってあるし、何なら買ってくるし」

「い、いえ!ノワールさんを買い物に行かせるだなんて、そんな事出来ません!むしろノワールさんが言うのであれば、ブラックで…いいえ、例えコーヒー豆そのものであっても飲めますから!」

「いや、コーヒー豆丸呑みは止めなさいよ…でもそういうなら、一度ブラックで飲んでもらおうかしら…」

「うっ……の、ノワールさんが…望むなら……!」

「ふふっ、安心なさい。冗談よ」

 

ぷるぷる震えながらコーヒーメーカーに手を伸ばすケーシャに向けて、ちょっと笑いながら言う私。普段は私は不本意ながら弄られる事が多いけど、ケーシャといる時は基本私が弄る側。…ケーシャって素直だし間に受け易い子だから、つい弄りたくなるのよね。タイプとしてはイリゼやネプギアに近いのかしら。

 

「…………」

「……何かしら?」

「…なんか合いますね、ノワールさんとコーヒーって。コーヒーじゃなくてカフェオレですけど…」

「…それ、私が大人っぽいって事?それとも単に色繋がり?」

「えっと…どっちもです!」

「そ、そう…」

 

そんなやり取りをしてから数十秒後。両手で持ったカップを口に当てた状態で、こちらをじーっと見ていたケーシャが気になって訊くと、何とも中身の薄い会話に発展。まぁ、雑談だからそれでもいいんだけど。

 

「…あ、ところでケーシャ。私がいない間にギルドで何か厄介事が起こったり、面倒事の噂が入ってきたりはしてない?」

「それは…ない、と思います。少なくとも、私に届くような情報の中にはなかったです」

「なら、特筆するような事はなかったと見てよさそうね。うちのギルドなら、報連相を怠るって事もなさそうだし」

「ですよね。職員や常連の皆さんにはいつもお世話になってます」

 

ケーシャといえばギルドの支部長で、ギルドは人も情報も集まる場所。暫し談笑を続けたところで、ふと思った私はケーシャに訊いてみるも情報はなし。心配性の傾向が強い人なら、「情報はないけど、情報網にも引っかからないような何かが動いているかもしれない…」…なんて思うんでしょうけど、生憎私にその傾向はない。情報なし=何もない、というのは早計だけど…だからといって、いるかどうかも分からない敵に惑わされるのは愚の骨頂。

 

「…ケーシャ。感謝するのは大事だし、貴女のひたむきな態度が周りの協力を喚起させてるんだろうけど、あんまり腰が低過ぎるのも良くないのよ?ヴィリエの女王並みに強かったりするならまた別だけど」

「低過ぎるのも良くない…で、でも私、支部長としてはまだまだ未熟ですし…」

「そこは良い塩梅を見つける事ね。組織毎、環境毎に求められるリーダー像は違うもの」

「い、良い塩梅を見つける…あぅ、私には難しそうです……」

「誰にだって難しい事だから、そう不安がらなくても大丈夫よ。それに、貴女には私っていうリーダーの大先輩がいるんだからね」

 

何か不味い事があったかという話から、リーダーのあるべき姿についての話に移行。我ながら全然女の子同士の会話らしくないとは思うけど、ケーシャに支部長としての道を勧めた身としては、やっぱり色々気になってしまうもの。

 

「ノワールさん…でも、いいんですか…?政府の長であるノワールさんが、一応民間企業のギルドの支部長にアドバイスするのは、あんまり良くないらしいですけど…」

「いいのよ、これは個人の付き合いとして言ってるんだから。それに、知らないの?政治を担う者の殆どは、多かれ少なかれ大っぴらには出来ない物事があったりするのよ」

「…の、ノワールさん……ちょっとダークなノワールさんも素敵です……!」

「こ、これには素敵だとか感じちゃ駄目よケーシャ…冗談だから……」

 

女神としても個人としても憧れられるのは嬉しいし、そういう視線を向けられると、つい「ふふん」…と胸を張りたくなる。…でも、ケーシャの場合は憧れの基準が妙に低いというか、今みたいに妙なところすらも憧れの感情を抱いちゃう傾向があるから、正直素直に喜べない事も時々ある。これも良く言えば純粋なんだろうけど……え、ほんとに冗談なのかって?…止めましょ、こういう事は掘り下げたところで誰も得しないわ。

 

「あ、そ、そうなんですか…すみません、何度も冗談に気付けず……」

「気にしなくていいわ。…でもそうね、もし皆と集まって話す機会があるなら、間に受けるにしても突っ込みセンスをもっと磨いて……って、いや…今のケーシャは、こういう天然キャラでボケに回る可能性もあるか…」

「えぇ、と…つまり私は、どうすれば…?」

「あ、うん今のも気にしないで。それに冗談にしろ何にしろこれは雑談なんだから、肩肘張らず好きに話せばいいのよ。最低限の気遣いと礼儀さえあれば、後は自由なのが友達との会話……っと、危ない危ない…」

 

ケーシャがパーティーと行動を共にしたらどうなるかを考えたり、固く考えるケーシャに助言をしてみたり。そんな雑談を続ける中で、私は手にしていたカップを傾けていたらしく…後一瞬気付くのが遅かったら、報告書にカフェオレを零していた。

 

「書類に飲み物なんて下手なミス、しなくてよかったわ…」

「あはは…それ、昨日の事に纏わる書類ですよね…?」

「えぇ。…あ、見ちゃ駄目よ?大体の情報は教えてあげられるけど、この中には軍事機密も書いてあるし」

「そ、それは勿論。…でもほんと、ノワールさんは真面目な方ですね。仕事場だけじゃなく、自分の部屋でも書類を読むなんて」

 

幾ら友達で信頼のおける相手だとしても、こういうところはなあなあにしちゃいけない。そしてそれはケーシャも分かってくれてるみたいで、嫌な顔一つせずまた私に尊敬の視線を向けてくれた。…ほんとに良い子よね、ケーシャって……。

 

「ありがと、でもこれは別に真面目だからって訳じゃないわ。どっちかって言うとくつろぎついでに目を通してただけだもの」

「それでも凄いですよ。政治もして、国の守護もして、昨日だってあんな大変だったのに、今日も仕事の事を考えてるんですから」

「…そう?…そう思ってくれるなら、まぁ…悪い気はしないわね…」

 

私としては謙遜無しに、身体を休ませつつ時間の有効活用が出来ればいいな感覚でしていた書類確認。だからここを評価されるとは思ってなくて、私は嬉しいけどしっくりこないという不思議な気持ちに。するとケーシャはにこりと微笑み、言葉を続ける。

 

「ふふっ、そういう謙虚なところも憧れちゃいます。おまけに赤の他人だった私を助けてくれる位優しくて、八面六臂なのに気さくで……はぅ、非の打ち所がないです…」

「ちょ、そ、それは褒め過ぎだって!…まぁ、確かに優秀なのは否定しないけど?…私だって全知全能じゃないし、私一人が出来る事には限界があるわ。昨日だってユニがいて、勇敢な軍人がいて、色んな人が協力してくれて、そのおかげでラステイションを守れたんだもの」

 

八面六臂、非の打ち所がない。嘘偽りのない目でそんな事を言ってくれるのは本当に嬉しくて……だからこそ私は、それを否定した。だってケーシャは本気で私に敬意の念を抱いてくれているから。それなら私も女神として…ううん、友達として嘘偽りない、誇張無しの『自分』でいたいって、私は思う。

 

「…それに、今だって支配された人達に対して手をこまねいているようなものだもの。これだって、私一人じゃ対応し切れないわ」

「こまねいている…」

「そうよ、だって相手が相手だし、状況も状況だもの。…ほんと、最後に厄介な事をしてくれたわね…」

 

口にした事で、すっと私の心に影が差す。折角憧れられて良い気分だったのに、それが掻き消えてしまう程。

マジックによってもたらされたらしい置き土産は、本当に厄介で腹立たしい。もしこれがモンスターの大群を呼び寄せたというのなら、全力で叩き潰せばいいだけの事。残りの力全てを放って街へ被害を出したというのなら、全くもって安堵は出来ないけど、続いている事じゃなくて()()()()事として対応出来る。…だというのに、これは……。

 

「…ほんと、決戦までに解決出来ればいいんだけどね……」

「…出来なかった場合も、決戦の日はずらさないんですよね?」

「えぇ、完全覚醒されるのが一番不味いからね。程度の問題であって、こっちも十分不味いんだけど…」

「それはそうですよね……」

 

解決出来なければその場合、それが頭に残った状態で決戦を迎える事になるけど、犯罪神が完全覚醒してしまう方がずっと私達にとって不利益となる。だから最も良いのは解決した後決戦を迎える事で、次点が出来る限り対処した後犯罪神を再封印し、それによって根源を断つ形で支配の解決を見る事。とにかく一番大事なのは……犯罪神からの勝利。…と、私が思っていると……

 

「……ノワールさん、私協力します」

「え、協力?」

 

至極真面目そうな顔をしたケーシャが、両手を胸の前で握ってこっちを見ていた。

 

「はい、協力です」

「え、っと……別に気を遣ってくれなくていいのよ?っていうかごめんね、気を遣わせちゃうような顔してて…」

「そ、そういう事じゃないです!だって私いつもノワールさんのお世話になってますし、これまでも色々助けてもらいましたし!…それに、ギョウカイ墓場でずっと苦しんでいたノワールさんに、私は何も出来ませんでしたから……」

「ケーシャ……」

 

しゅんとするケーシャの表情に浮かぶのは、何も出来なかった事への負い目。…そんなのケーシャが負い目を感じる必要はない。そう言うのは簡単だけど、そう言ったところでケーシャの心はきっと晴れない。だってその気持ちは、ケーシャ本人がどう感じてどう思うかだから。

 

「…ノワールさん、言ったじゃないですか。色んな人が協力してくれたからラステイションを守れたんだって。…私は、駄目ですか?その中に私は、入れませんか…?」

「そ、そんな事は……」

「分かってます、私が出来る事なんて高が知れてるのは。…それでも私は力になりたいんです。ノワールさんに恩返しがしたいんです。まだ私、全然ノワールさんのお役に立ててませんから」

「…役に立ててないって事はないわよ。今だって貴女との雑談はいい息抜きになったし」

 

…ケーシャは思い込みが激しい性格だと思う。本当に何でも間に受けてしまうというか、私を凄い存在だと思い過ぎているというか…私とは少し違う方向性の、真面目で真摯な性格が自分の中核に位置している子。…そんなケーシャだからこそ…私は、「そこまで思わなくていい」……なんて言わない。

 

「…でも、そこまで言うなら分かったわ。ケーシャ、私に協力して頂戴」

「……!は、はい!ケーシャ、頑張りますっ!」

「う、うん…貴女のキャラでそれ言われると思い詰めてく未来を感じちゃうけど……頑張りなさい。けど無理や深追いはしちゃ駄目よ?女神ですら厄介に感じてるってのがどういう意味か…分かるわよね?」

「…分かります。確実に出来る準備をし、確実に目的を遂行するのが大切って事ですよね」

 

それは少し違うような気が…と感じた私だけど、わざわざ訂正する程の違いでもないと思ってそのまま首肯。私の意を得たケーシャは嬉しそうに笑って、それから意気込むようにまた手を握る。

 

「期待していて下さいね!きっと役に立ってみせますから!」

「頼もしいわね。…もしかして、早速何か始めるつもり?」

「あ、いえ!今はノワールさんの息抜きにお供するので、安心して下さい!」

「息抜きのお供って…まぁなら、もう少し付き合ってもらおうかしらね」

 

独自の情報網を持つギルドなら支配されている人へ繋がる情報が入る可能性もあって、それをケーシャが積極的に調べてくれるなら大助かり。でもあまり気負い過ぎてはほしくないから、私はケーシャの言葉に頷き、それからはまた雑談に戻った。…さて、ケーシャのおかげで思った以上に息抜き出来たし、私も私で頑張らないとね。

 

 

 

 

友達がわざわざ心配して来てくれて、その友達との談笑で良い骨休めが出来て、翌日は気分良く朝を迎える事が出来た。…折角、出来たのに……

 

「行ってくるわ。何かあれば連絡頂戴」

「あぁ。情報があれば即座に連絡しよう」

「大丈夫だとは思うけど…一応気を付けてね」

 

ケーシャが来た二日後の朝。私はケイとユニに見送られて教会を出た。敷地内の人の目につかない場所へ移動し、そこで女神化をして地上から空へ。

 

「…………」

 

ある程度の高度……普通の人からはよく見えなくて、でも女神の視力なら一応は地上の様子が見える高さにまで上昇して、移動を開始。予め決めておいたルートを頭に思い浮かべながら、ラステイションの上空を飛び回る。

 

(まだ人通りは少ないわね…もう少ししたら賑わってくるだろうけど……)

 

あまりスピードは出し過ぎず、速度よりも見逃し防止を重視して見回す私。探しているのは、操られ支配されている人達。でも、私は探しているけど…それは捕まえる為の行動ではない。

昨日の朝と夜で、二件そういう人達の発見と捕縛の報告があった。どちらも匿名の人からの通報で、しかも軍が向かってみればその人達はもう制圧済み。結果軍は捕縛だけして帰還という、何とも拍子抜けな事態が今ラステイションで起こっている。

 

「…誰よ、こんな真似してるのは……」

 

起こった事と結果だけを見れば、別に困るような事態じゃない。けど私がこれを見過ごせないと思う理由は三つ。

一つ目はこれが危険な行為だから。十中八九制圧をしたのであろう匿名の人がどれだけの力を持っているかは知らないけど…操られている人達を相手取るなんて、とても普通の人の手に負える事じゃない。

二つ目は、理由はどうあれ制圧というのは相手に危害を加える行為だから。現行犯や正当防衛ならともかく、私や法の意向無しに制圧しているのであれば、それは傷害罪に値する。例え放置するのが危険でも、元犯罪組織構成員でも…だからって身勝手に傷付けていい理由にはならない。

そして、三つ目はその人のやり方。その人が行った、制圧の仕方。

 

「ゴッサムのナイトヒーローにでもなったつもりかしら…」

 

制圧されたと言えば聞こえはいい。でも実際には、誰も彼もが銃器で何発も撃たれていた。撃たれて、まともに動けない状態になって、その状態で放置されて。……そんな状況で軍が来るまで苦しみ続けた、恐らくは来るかどうかも分からない助けに縋っていた人達の事を考えれば、私はとても制圧した人物を許す事なんて出来はしない。銃弾は殺傷性の低い物を使われたらしいけど…それでも苦しんだ事には変わらないんだから。

 

(状況や報告から考える限り、相手もそれなりの手練れ…狙撃もするみたいだし、奇襲にだけは気を付けないと…)

 

どういう意図で、どういう目的でこんな事をしているのか分からない以上、私だって油断は出来ない。…そう、まだ何も分かっていない。制圧をその人なりの正義で行っているのか、誰かに雇われたのか、それとも復讐なのか。全く分からないから…私はその人を突き止めたい。突き止めて、理由を聞きたい。その人に対して私がどうするかは……それを聞いてから決める事。

 

「待ってなさい…絶対見つけてやるんだから……」

 

 

 

 

朝から昼過ぎまで飛び続けて、休憩がてら昼食を取って、その後すぐ飛行に戻った私。かれこれ十時間近く飛び回って、人気の多い場所も少ない場所も行って、入念に探したけど……まだそれらしき人は見つかっていない。

 

「夜になると探し辛いのよね……」

 

元々一日フルで使うつもりだったから、時間的な問題はない。その人に関する情報がほぼない以上、制圧の真っ最中を見つけるしかない…つまりその人の行動が前提条件を左右する訳だから、収穫ゼロになる可能性も大いにある。…でも、非効率でもやるしかない。情報が集まるまで、支配された人には犠牲になってもらう…なんて手段は論外だもの。

 

「…ケイ、何かそれらしき情報はあった?」

「いいや、残念ながらめぼしい情報はないね。そっちは…いや、訊くまでもないか」

「そりゃ、何かあればそれを先に伝えるものね」

 

人気のない街外れに差し掛かったところで、一度私は地上に降りてケイに連絡。段々と夜が近付いていて、何とも侘しい気分になる。……今はそんな事に思いを馳せるような状況じゃないし、正しくはそんな気分になりそうなだけだけど。

 

「このまま深夜まで探す気かい?」

「そのつもりだけど?」

「…本当に君は手を抜かないね」

「あら、それに関してはお互い様でしょ?」

 

私も大概だとは思うけど、手を抜かない事に関しては多分ケイの方が上。そして偶ーに感じるけど、手を抜かないっていうか容赦ないって意味じゃ、ユニも中々のもの。……似てきちゃうのかしらね、家族同然(片方は家族そのもの)の付き合いをしてると…。

 

「…まぁ、そう言うとは思っていたさ。けれど現状この件は僕達にとって問題ではあっても向かい風ではないんだ。あまりこれに比重を置くべきではないと僕は思うね」

「大丈夫よ、私もそれは分かってるから。…悪いわね、一々気苦労をかけさせて」

「それを謝るべきは君ではなく、この問題を起こしている人間だよ。だからノワールこそ……っと、待った…」

「…ケイ?」

 

昼休憩以外じゃずっと誰とも話していなかったから、雑談でなくともこうしていると気が休まる。…なんて私が思っていた時、急にケイの声音が変わった。どうやら誰かが来た、又は別の人からも連絡がきたようで……それによって、事態は急変する。

 

「…噂をすれば何とやら。……三件目が発生したよ、ノワール」

「……!それって、たった今の事?」

「その通りだ。通報はたった今、場所は……」

 

手短に、必要な情報だけを伝えてくれるケイ。三件目なんて言ったら、あり得るのは例の事態以外にない。だから私は聞いた場所がどこなのか思い出し…って……

 

「……そこ、ここのすぐ近くじゃない…」

「何……?」

「たった今なら、まだその場に残っている可能性もある筈…ケイ、そこへ軍を向かわせて頂戴!私は先行するわ!」

「ま、待ったノワール!相手が誰か分からない以上、行くにしても慎重に……」

 

ケイからの言葉もそこそこに私は電話を切り、聞いた場所へと急行。本当に幸運にもその場所は近くて、全速力で行けば数分とかからない。そして仮に間に合わなくても…すぐに撃たれたであろう人達を助けられる。それだけでもこの幸運に…価値はある…!

 

(……っ!ここね…!)

 

通報で述べられたのは、幾つかの倉庫がある場所。けど倉庫の外なのか中なのか分からず、それは私で探すしかない。ならばまずは外だと私は低空飛行から上空へと上がろうとして……その寸前に、あるものを発見した。私の視界の端に映る、倉庫の裏からゆっくりと伸びる赤い液体を。

 

「これは……武器を置いてその場で止まりなさいッ!」

「……ッ!」

 

それを見た私はトップスピードでその倉庫へと接近し、倉庫の裏へと躍り出る。それによって見えてきたのは、案の定撃たれて血を流す何人もの人。そして……その中で唯一立ち、弾かれたような動きで振り返るや否や銃を私へと向けてきた、覆面姿の一人の少女。

 

「貴女は……」

「…って、あ、あれ?ノワールさん?」

「へ…っ?…その声、まさか…ケーシャ……?」

 

覆面…というか目元の分からなくなる、恐らくは防弾のバイザーをかけた少女は、一見すると華奢な体躯。そんな人がこの凄惨な状況を…?…と私が困惑する中、少女は驚いたような声を上げて私の名を呼ぶ。私にとって聞き覚えのある……本当につい最近も聞いたばかりの声で。

 

「はい、私ですノワールさん!ふふっ、もしかしてこの近くにいたんですか?」

「……っ…」

 

現れたのが私だと分かった途端、嬉しそうな声を出した少女はバイザーに手をかける。そしてバイザーが取られた事で露わになったのは……やっぱり、ケーシャの素顔だった。

 

「…どうして…なんで、貴女がここに……」

「なんで?それは勿論、この人達を捕まえる為ですよ。…あ、でも捕まえるのは軍の人達だから、私はそのお手伝いって感じですね」

 

震える私の声に、快活な声音でケーシャは答える。もしかしたらケーシャはこの場に居合わせただけかもしれない。実はまずギルドに通報が入って、教会へはその後だったのかもしれない。…そんな私の淡い想像は、その回答によって否定される。その代わりに、ケーシャが匿名の人物だったという証明と共に。

 

「…これは、全部…貴女が……?」

「はい!ノワールさんには敵いませんけど、私も対人戦は得意…というか、対人の技術をずーっと教え込まれてきましたからね。大丈夫です、昨日の時と同じように誰も殺してはいませんよ?」

「……どうして、場所が…操られてる人の場所は、どうやって…?」

「あぁ…驚かないで聞いてほしいんですけど、本当に一回目は偶然なんです。でもそれからは情報を吐かせて、その情報を元に仕掛けてたんです。…まぁ、この人達は別の場所に潜伏してる人の情報は知らなかったみたいですけど」

 

悪びれなく、罪悪感を覚える様子もなく、むしろ嬉々として話すケーシャ。人を撃っているのに、何度も悲鳴を聞いている筈なのに、今だって呻きが聞こえるのに…その表情に、陰りも曇りも一切ない。それにケーシャは言った。これまで情報を吐かせていたのだと。普通なら痛みでそれどころじゃない筈の、実際私が最小限の怪我で無力化させた場合でも、その場で吐かせるのは躊躇われる程の相手に吐かせたとしたら……聞いて気分のいいものではない手段を取っていたとしても、おかしくはない。操られている人の多くは、軍人でも戦い慣れした訳でもない、一般の人だというのに。

 

「…なんで、こんな事……」

「……?だって私言ったじゃないですか、私はノワールさんのお役に立ちたいって。頑張るって。だからですよ、ノワールさん♪」

「……ッ!それは……!」

 

ぞくりと背筋に寒気が走り、心が冷たい何かに染まっていく。そうじゃない、そんな事を言ったんじゃない。私は反射的にそう言おうとして……

 

「…ぅ、あ…ノワール様…助け……ぁぁあああああ"あ"ッ!!」

「…何ノワール様に触ろうとしてるんですか?ノワールさんは貴方達のせいで迷惑してるんです。ノワールさんにとって貴方達は悩みの種なんです。殺しはしませんから、もうこれ以上ノワールさんの邪魔にならないでもらえませんか?」

 

……怯えきった顔で私に手を伸ばした一人の手を、ケーシャは撃った。何の躊躇いもなく、侮蔑の感情を籠らせた目で。そしてケーシャは私の方へと視線を戻し、その瞬間に笑みも戻る。それはまるで、今の行為を埃か何かを捨てた程度にしか感じていないかのように。…その瞬間、私の中で何かが切れた。

 

「ごめんなさい、ちょっと制裁が足りなかったみたいです。でも安心して下さい、今度こそ動けなくしましたから。それより任せて下さいねノワールさん。これからノワールさんが苦労しなくても済むよう、制圧は私が引き受けますから。何人だって、何十人だって、私が処理してみせますから。だからノワールさんは私に任せて、ゆっくりと他の事を……」

「──黙りなさいッ!」

「え──?」

 

──満面の笑みで語るケーシャの顔を、私は張った。全力ではない…でも本気の平手打ちで。

叩かれ、その後呆然とした顔で私を見つめるケーシャ。そのケーシャに向けて、私は吐き捨てる。

 

「……もうこんな事は止めなさい。こんな事なんかしてないで、支部長としての務めを果たしなさい」

「え、え……?な、何でですかノワールさん?だって言ったじゃないですか、私に協力してって…頼もしいって…だから私、一番ノワールさんのお役に立てる事を……」

「黙れって言ったのが聞こえなかったの?貴女の私に協力したいって気持ちはありがたいわ。でも……貴女には失望したわ、ケーシャ」

「……──ッ!」

 

背を向け、撃たれた人達の救助と軍への情報提示を行う私。そこへケーシャが狼狽えながら近寄ってくるけど、そのケーシャを睨み付け、無言の圧力で立ち去らせる。

昨日と今日の三件で、軍や民間人に被害はなかった。軍は苦労せず捕縛する事が出来た。でも、真実を知った私は……どうしようもない程、心にぐちゃぐちゃした思いが漂っていた。




今回のパロディ解説

・ヴィリエ
これはゾンビですか?シリーズに登場する世界の一つの事。この世界の女王はこれでもかという位低姿勢ですからね。低姿勢というか、気弱と言うべきですけど。

・「〜〜ケーシャ、頑張りますっ!」
アイドルマスターシリーズの登場キャラの一人、島村卯月の代名詞的な台詞の一つのパロディ。…まぁ、違う意味でケーシャも病んでる子ですからね。

・ゴッサムのナイトヒーロー
バットマンの主人公、バットマンことブルース・ウェインの事。他にも法に従う事なく悪へ制裁を下すキャラはいますが、その代表的な例がバットマンですね。
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