超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第百四十八話 同じだからこそ

お姉ちゃんとケーシャさんが喧嘩した。アタシですら時々「えぇ……」って思う程お姉ちゃんを尊敬してるケーシャさんと、ケーシャさんの性格と来歴の関係からか優しくしてあげる事の多いお姉ちゃんが、喧嘩をした。だから、お姉ちゃんの妹で、ケーシャさんとも交流のあるアタシとしては……凄く、気が重い。

 

「はぁ……」

「…………」

「はぁぁ……」

「…………」

「はぁぁぁ……」

「……何?」

 

ここ数日…というか決戦までの一週間は、疲労を抑える為に仕事量を減らして、更に休憩の時間も増やしている。で、休憩に入ったアタシがリビングとダイニングを兼ねた部屋(主に女神と教祖がプライベートで使う場所)に行くと、そこにはお姉ちゃんもいて……さっきから執拗に溜め息を吐いていた。

 

「…何でもないわ、気にしないで」

「いや、気になるんだけど…」

「そんなユニが気にするような事じゃないわ…」

「だから内容云々じゃなくて、溜め息が凄いから気にならざるを得ないんだって…」

 

ソファに座って項垂れるお姉ちゃんは「気にしないで」と言うものの、なんかもうアタシに訴えたい事があるんじゃないかって位溜め息を吐かれるんだから、そうしたくても出来る訳がない。しかも見るからに暗いし、覇気がないし。

 

「じゃあ、溜め息には気を付けておくわ…」

「あ、うん……」

「…………」

「…………」

「…………」

「……ねぇお姉ちゃん」

「…何?」

「アタシまでもやもやした気持ちになりそうだから、早めに言っておくね。…今のお姉ちゃん、ちょっと面倒臭い」

「うっ……め、面倒臭い…?」

 

まさかそんな事をアタシから言われるとは思っていなかったとばかりに驚くお姉ちゃん。尊敬するお姉ちゃんにこんな事言うのは気が進まないけど……これは絶対お姉ちゃんが悪いんだから仕方ない。

 

「うん、溜め息もだけど雰囲気も面倒臭い。お姉ちゃん、自分が今どんな感じか分かってないでしょ」

「それは、えっと……」

「はぁ…今からアタシが再現するから、ちょっと見てて」

 

答えに窮するお姉ちゃんに対し、アタシはアタシを見るよう要求。…今アタシまで溜め息を吐いちゃったけど、まぁそれは置いといて…腰を下ろしている椅子に座り直し、それからお姉ちゃんの再現を開始。脳裏に先程のお姉ちゃんの姿を思い浮かべ、前傾姿勢で髪の毛を垂らす。…もしアタシが真っ白だったら燃え尽きた感じっぽくなるけど、まぁそれは気にしない。

 

「……こ、これは…」

「…………」

「…ごめんなさいユニ…確かにこれは面倒臭いわね、うん…しかもそれが自分の姉だと考えると……うわぁ…」

「…理解してもらえて何よりだよ」

 

十数秒程真似を続けたところでお姉ちゃんにもどうだったかが伝わり、アタシは再現終了。理解してくれたお姉ちゃんは努めて暗い雰囲気を出さないようにしてくれて、そのおかげでアタシもゆっくりと休憩を……

 

(…取れる訳、ないよね)

 

特に何かするでもなく、ただ壁を眺めているお姉ちゃんを見て思う。今アタシがしたのは、言ってみれば蓋をする行為。それによって表には出てこなくなっても、お姉ちゃんの憂鬱な気持ちの発生源が消える訳じゃない。そして、お姉ちゃんが憂鬱な気持ちになってるなら…アタシは何とかしてあげたい。

 

「……ケーシャさんと何があったの?」

「えっ!?な、なななんでそれを!?」

「何でもなにも、ケーシャさんが塞ぎ込んでいて、しかもお姉ちゃんが憂鬱そうにしてるってなったら、真っ先にそれを思い付くって……」

 

秘密を暴かれた時並みに驚くお姉ちゃんへ、アタシは半眼の視線を向ける。

お姉ちゃんの事は言うまでもないし、ケーシャさんの事もギルドで見かけて、更に職員さんから「支部長がここ二、三日元気がないんですが、何か知りませんか…?」という話を受けて、それでアタシは二人が喧嘩したんじゃって結論に至っていた。どっちも分かり易く気落ちしてるから、二人を見ればアタシじゃなくても勘付く人はいると思う。…あ、でも二人の関係性知らない場合は結び付かないかも…。

 

「そ、そうだったの…」

「否定しないって事は、アタシの勘違いじゃないんだね?」

「あ……」

 

普段は頭の回転が速い筈のお姉ちゃんが、アタシの言葉ではっとした顔に。……うん、これは重症ね…。

 

「…何があったの?喧嘩?」

「喧嘩…じゃ、ないわ…」

「じゃあ、お姉ちゃんが一方的に何かしちゃったの?」

「…それも、ちょっと違う」

「なら……まさか、カッとして何かを…」

「……あながち間違いじゃないわ…」

「やっぱり…ってえぇっ!?ちょっ、これは冗談のつもりだったんだけど!?」

 

三番落ち…じゃないけど、予想していた『喧嘩』という線が外れた事で適当に思い付いた事を言ってみたアタシ。…なのにまさか当たっちゃうなんて…しかもカッとしてって、お姉ちゃん……。

 

「だって、しょうがないでしょ…あの時は……」

「あの時?」

「…………」

「…お姉ちゃん…?」

 

何かを言いかけたお姉ちゃんは、そこから急に口を閉ざして表情を曇らせる。元々お姉ちゃんの表情は曇ってたけど…この曇り方は何か違う。個人的に嫌な事があったとか、悩んでるとかとは違う、もっと暗くて深い曇り。

 

「……正直、話したくないわ。話したくないし、出来れば知らないでいてほしい」

「え……?」

「…でも、そうはいかないわよね…貴女も女神だから…」

「そ、それってどういう事?ほんとに何があったの…?」

「…えぇ、だから今からその『何があったか』を話すわ。…心して聞いて頂戴、ユニ」

 

アタシが訊いた事、この話になった事が引き金になったように、次第にお姉ちゃんの様子が変わっていく。そして、お姉ちゃんの口振りにアタシが緊張する中…お姉ちゃんは言った。お姉ちゃんとケーシャさんの間で何があったかを。ケーシャさんが、何をしたのかを。

 

「そんな……ほんとに、ほんとにケーシャさんだったの…?」

「…そうよ。信じたくないけど…あの匿名の通報も、制圧をしたのも…全部、ケーシャがした事なの…」

 

喧嘩や言い争いなんかとは比較にならない、致命的とすら言える原因。アタシの心にすら陰りを呼び込む程の、聞きたくなかった事実と真実。お姉ちゃんに言われて身構えてたアタシでもそうなんだから……お姉ちゃんのショックなんて、計り知れない。

 

「…ケーシャは私の力になりたくてやったらしいし、その気持ちそのものは嬉しいけど…だからってケーシャの行為を、私は許せない……」

「…うん、それは仕方ないよ…お姉ちゃんの気持ち、アタシも分かる……」

 

思いは大切だけど、思いと行動は別軸のもの。名声の為の善行でも、それで救われた人にとっては感謝の念を抱く結果になるし、清く正しい思いがあっても悪い事は悪い事。だからきっとその時居たのがアタシでも、叩きはせずともケーシャさんを否定していただろうし、お姉ちゃんの気持ちはほんとに分かる。…でも……

 

「…お姉ちゃん、このままでいいの…?」

「…………」

「生意気言うようだけど…これは、時間を置けば自然に解決するような事じゃないよ…?」

 

ケーシャさんを許せないというのも、落ち込んでしまうのも当然な事。…けど、アタシはお姉ちゃんに尋ねた。このままでいいのかって。

もしお姉ちゃんに後悔がないなら、正しい事をしたって思ってるなら、こんなに落ち込む訳がない。落ち込んでるって事は、今の状態に納得してないって事。ここでアタシが共感するだけじゃ…何も解決はしない。

 

「…分かってるわよ。でも…どうしろってのよ…」

「それは…ちゃんと怒った理由と、良い事悪い事を伝えるとか……」

「…ユニ、ケーシャはちょっと世間知らずな面はあるけど、別に常識がない訳じゃないわ。それは、貴女だって知ってるでしょ…?」

「…だよね……」

 

質問の体で動くべきだと暗に言ったアタシだけど、正直どうしたらいいかはアタシにも分からない。叩いた事、一方的に言い捨てた事はお姉ちゃんも悪いけど、それは問題の根幹とは別の部分だし…アタシとネプギアも喧嘩した事あったけど、全然内容が違うから当てにならないし…っていうか、これ喧嘩じゃないし……。

 

「…ほんとに、ケーシャには常識がある筈なのに…やっぱり守護女神である私があんな言い方したから、ケーシャは重荷に感じて暴走しちゃったのかしら……」

「いや……多分そういう事ではないんじゃないかな…お姉ちゃんがケーシャさんにかけた言葉が、さっきの説明から大きく離れてないなら、少なくとも重荷って程ではない、と思う…」

「ううん、きっと重荷に感じちゃってるのよ…ケーシャは私の事、本当に尊敬してくれてるから……」

「う、うん…それはそうかもしれないけど…(あれ……?)」

 

心の沈む会話の途中、アタシはお姉ちゃんのケーシャさんに対する認識へ違和感を覚える。

ケーシャさんがお姉ちゃんを尊敬してる、というのは間違いない。でも、何というか…お姉ちゃんは自分とケーシャさんの距離を、アタシが認識しているより遠いものだと思ってるような気がする。もっと言えば、ケーシャさん本人への認識もアタシとお姉ちゃんじゃちょっと違うような感じがする。

 

「でも仮に私がそれを謝ったとしても、ケーシャは萎縮しちゃうだけだろうし……」

「ま、まぁそれは…うん……」

「…って、こんなの姉が妹にする話じゃないわよね……ほんとにごめんなさいユニ、今日は情けない姿を見せてばっかりね私」

「う、ううん気にしないで。元々はアタシが訊いて始まった話だし、別に情けないなんて思ってないから」

 

済まなさそうに自嘲の笑みを浮かべつつ話を切り上げるお姉ちゃんへ、アタシは首を横に振る。…確かに、こんな暗くならずすぱっと解決してくれたなら、そっちの方が格好良いとは思うけど…それが出来なかったからって幻滅するようなアタシじゃない。…お姉ちゃんにだって辛い事、出来ない事があるんだって、ギョウカイ墓場でのトラウマに怯えるお姉ちゃんに触れたあの時分かったから。完璧に見えるお姉ちゃんでも不完全なところはあって、だからこそアタシが支えにもなれるんだって……今のアタシは、知っているから。

 

「…それより、そろそろ仕事に戻った方がいいんじゃない?お姉ちゃん、アタシより先にここ来てたよね?」

「あ…それもそうね。…うん、私情は私情、仕事は仕事…きっちり気持ちを切り替えて取り組まないと……」

 

立ち上がり、自分に言い聞かせながら部屋を出て行くお姉ちゃん。それを見送ったアタシは、ゆっくりと息を吐いて……それからアタシも部屋を出る。

 

「…これはお節介かもしれないけど…勝手な事をやらせてもらうよ、お姉ちゃん。だって、アタシはお姉ちゃんが元気ないのも、ケーシャさんが落ち込んでるのも…どっちも嫌だから」

 

アタシが向かおうとしているのは、執務室じゃない。仕事はまだ残ってるけど…今はそれより、やるべき事がある。

二人の為にアタシが出来る事は何か?…勿論アタシに、解決するだけの力はない。それが出来るのは当事者であるお姉ちゃんとケーシャさんで、アタシが出来るのはせいぜい橋渡しをする程度。…でも、それでも二人が元の二人に戻れるならと……アタシは教会を後にした。

 

 

 

 

話を聞いてから数時間。夜になったラステイションの街中、とあるマンションの前で待っていたアタシは、目的の人物を見つけて声をかける。

 

「…こんばんは、ケーシャさん」

「あ……」

 

帰宅したケーシャさんに向けて、声をかけつつマンション前の木陰から姿を現わすアタシ。ケーシャさんは声をかけた瞬間足を止めて、それからアタシの方へと振り向いてくる。

 

「…ユニ、さん……」

「…少しお時間、いいですか?」

 

重苦しい空気は出さないよう、努めて普段通りの声音と表情を作りながらアタシが訊くと、ケーシャさんは小さくこくんと頷いてくれる。…良かった、拒絶されなくて……。

 

「何か飲みます?買ってきますよ?」

「いえ…いいです……」

 

部屋に入って話すのもなぁ…と思ったアタシは、人気のない場所へ移動。その道中で自販機を見かけたから、何か買おうかとも思ったけど、ケーシャさんは要らない様子。アタシも別に喉が渇いてる訳でもないからと、買いに行かずにケーシャさんと向き直る。

 

「…………」

「…………」

 

どんよりと曇った、ケーシャさんの瞳。アタシがお姉ちゃんの妹だからか、アタシに気付いてからは元々暗かった表情が更に暗くなっている。お姉ちゃんも沈んだ顔だったけど……ケーシャさんの方がより気にしてるって事は、顔を見るだけで分かる。

雑談で一回空気を和ませて…というのも考えていたけど、とてもそんな雰囲気じゃない。だからアタシは、単刀直入に本題へ。

 

「…お姉ちゃんから聞きました。お姉ちゃんとケーシャさんの間で、あった事を」

「……っ…!」

 

びくりと肩を震わせ、一層暗い…追い詰められた表情に変わるケーシャさん。その顔を見ると話すのを躊躇いたくなるけど…アタシは言葉を続ける。

 

「最初に言っておきますけど、別にお姉ちゃんに言われて来た訳じゃないです。今日はアタシが個人的に来ただけですから」

「…そう、なんですか……」

 

まずはこれを言っておくべきだと思った事を口にすると、ケーシャさんの表情がまた少し変わる。安心したような、でも寂しそうな、複雑な表情へと変化。

 

「アタシが来たのは、ケーシャさんに言いたい事が…いえ、伝えたい事があるからです。でも…その前に何があったか、ケーシャさんからも聞かせてもらえませんか?やっぱりこういうのって、両方から話を聞くべきですし」

「……大丈夫ですよ、ノワールさんが間違った事なんて言う訳ないですし…それにノワールさんの判断だったら、私はそれに従うだけですから…」

「…じゃあ、聞かなくてもいいんですか…?」

 

お姉ちゃんは自分の都合の良いように嘘を吐くなんて事しないとは思うけど、お姉ちゃんの勘違いや知らない事実はあるかもしれない。そう思って訊いたアタシだったけど、返ってきたのはケーシャさんらしい言葉だった。…でも、その言葉からは危うさを感じる。危ういというか…何か、危険な感じが。

 

「……ケーシャさんは、お姉ちゃんをどう思ってますか?」

「……ノワールさんを、ですか…?」

「はい。…怒ってますか?お姉ちゃんの為に戦ったのに、頭ごなしに否定してくるなんて…って」

 

伝えるべき事を伝える前に、まずアタシはケーシャさんからの思いを聞こうと思った。否定された事について怒っているかどうかを訊いて……それにケーシャさんは、首を横に振る。

 

「そんな事、ないです…だって、私が悪いんですから…ノワールさんの期待に応えられなかった私が…失望させた私が、悪いんですから……」

「…誰だって、いつも誰かの期待に応えられる訳じゃないですよ。期待外れな結果にしてしまう事なんて、誰だってあります」

「かも、しれませんね…でも誰にでもあるからって、私が失望させた事が帳消しになる訳じゃありません…私は裏切ったんです、ノワールさんの期待を無駄にしてしまったんです……」

「無駄、なんて事は……」

「ありますよ、私はノワールさんに返し切れない程の恩があるのに……だから伝えて下さい、ユニさん…無能な私は、もうノワールさんには近付かないようにするって……」

 

話す毎に深くなっていく、ケーシャさんの暗い雰囲気。お姉ちゃんが捕まっている間もケーシャさんは何処か影のある感じになっていたけど…今は明らかに心の闇へと沈んでいる。

けど、とアタシは思った。ケーシャさんは酷く傷心しているけど、自身へ絶望の感情を向けているけど、アタシにはそれを祓う手段がある。そしてそれは伝えるべきだと思っていた事でもあって……だからアタシは、それを口にした。

 

「…それは、困りましたね。もしそれをお姉ちゃんに伝えたら…きっとお姉ちゃん、今よりも気落ちしちゃいますから」

「…え……?」

 

それまで暗さ一辺倒だったケーシャさんの表情に、そこで初めて揺らぎが生じる。小さいけど、確かな揺らぎが。

 

「お姉ちゃんは言ってました。ケーシャさんの行いは許せないって。でもケーシャさんに重圧をかけてしまったんじゃないかって、悩んでもいました。普段のお姉ちゃんらしさが、全然なくなっちゃう位には」

「ノワールさんが、悩んでた…?そんな…悪いのは、私なのに……」

「裏切られただとか、期待外れだとか、そんな事お姉ちゃんは思ってませんよ。少なくともアタシはお姉ちゃんから、そんな気配を感じませんでした。…ケーシャさんは、本当にお姉ちゃんが心から失望してると思いますか?お姉ちゃんは、そんなに度量の小さい女神だって思ってるんですか?」

「それは…そんな事は……」

 

アタシはお姉ちゃんに、気持ちは分かるって言った。でもお姉ちゃんの気持ちが分かるからって、ケーシャさんを理解出来ない訳じゃない。女神としてのアタシはお姉ちゃんに同感だけど……お姉ちゃんの妹としてのアタシは、ケーシャさんの気持ちが分かるって思ってる。だってアタシもお姉ちゃんを尊敬していて、お姉ちゃんの役に立ちたいって思っているから。ケーシャさんに負けない位、アタシもお姉ちゃんに憧れてるから。

 

「ケーシャさん、お姉ちゃんと会うのは嫌ですか?お姉ちゃんがもう怒ってなくても…近付かないなんて選択を望んでなくても、それでも嫌ですか?」

「…嫌じゃ…嫌じゃないです…!私はノワールさんと会えないなんて、そっちの方がずっと嫌です!…でも、迷惑をかける私なんかが…嫌な思いをさせる私なんかが会う資格なんて……」

「だったら、やるだけやってみましょうよ。きっとお姉ちゃんは拒絶なんてしないと思いますけど…もしケーシャさんの思い違いだったら、悲しいじゃないですか。お姉ちゃんも、ケーシャさんも相手から離れたい訳じゃないのに、折角あんなに仲良かったのに、その関係が終わっちゃうなんて」

 

ふるふると首を振るケーシャさんに、アタシは言う。今のままは悲しいって。まだ元の仲に戻れるかもしれないじゃないかって。アタシはその思いを込めて言って…ケーシャさんの言葉を待った。ケーシャさんが、どうしたいのかを。

人気のない場所での、静かな数秒間。ケーシャさんは俯いていて、でもアタシが見つめる中ゆっくりと顔を上げて…言った。

 

「……許してくれると、思いますか…?」

「…分かりません。でも、思いを込めて話せば…その気持ちは、きっとお姉ちゃんに伝わると思います」

 

不安そうなケーシャさんの言葉に、アタシは真剣な顔で返した。気休めの肯定なんかせず、アタシが思った通りの言葉を。そうしてまた沈黙が訪れて…でもその後すぐ、ケーシャさんは小さく笑ってくれた。

 

「…ありがとうございます、ユニさん。私、ユニさんに言ってもらえなきゃ…何も分からないままでした…」

「いいんですよ、ケーシャさん。…だってアタシ、ケーシャさんの思いは分かりますから」

「そう、なんですか…?」

「はい。立場は違いますけど、アタシのお姉ちゃんに対する気持ちは、ケーシャさんの気持ちと凄く似てるんだと思います。だからアタシもずっと力になりたくて、色々道に迷ったりもして…でも今は、アタシの道でお姉ちゃんの方へと歩いていけてるんです」

 

アタシはアタシの気持ちを伝える。同じ相手に憧れる者としての、正直な気持ちを。それと同時に、アタシはケーシャさんを心から否定する事なんて出来ないと思う。アタシだって、前なら…ケーシャさんに近い選択を、していたかもしれないから。

 

「…そっ、か…ユニさんも、私と同じだったんだ……」

「はい。似た者同士かもですね、アタシ達」

「似た者同士…あはは、そうですね…趣味も合いますし、ノワールさんへの気持ちも同じですし、違うのは力とか、出来る事とか、ノワールさんとの関係性…とか……」

「……ケーシャさん…?」

「……あ、れ…?」

 

まだ晴れやかとは言わないものの、普段の雰囲気を取り戻しつつあるケーシャさん。それにアタシはほっとして、やっぱり動いてよかったと思いかけた。…けど、その時……ケーシャさんの様子が、変わる。

 

「ユニさんと私が、同じ…?同じで、でもユニさんの方がノワールさんに近くて、ノワールさんの事を理解出来てて、ノワールさんの力になれてる…?」

「あ、あの…ケーシャさん?」

「…そうだ…ノワールさんを助けたのは、ユニさん…ノワールさんの代わりにラステイションを守ってたのも、ユニさん…四天王との戦いも、犯罪神との戦いも、普段の仕事もちょっとした悩みも人間関係のいざこざも困った事は全部全部全部全部、ユニさんが力になってる…私じゃなくて、ユニさんが……」

「…ケーシャ、さん……」

「…あは、あはは、あはははは…あはははははははは…ノワールさんには凄く凄く頼りになるユニさんがいて、ユニさんと私は同じで、私がユニさんと違うのは、ユニさんよりノワールさんの力になれてないって事だけ…あぁ、だったら……」

 

 

 

 

 

 

「──私、要らないや…」

 

ぞくりと背筋を駆け登る、異常な何かに対する恐怖。ふらりふらりと揺れながら、乾いた笑いを零すケーシャさん。そして、再びアタシと目が合った時……ケーシャさんの瞳には、何の感情も灯っていなかった。

 

「……人が悪いですよぉユニさぁん…私に希望を見せておいて、そこから突き落とすなんて…何だか色んな意味で、私道化竜を彷彿としちゃいましたぁ…」

「え、や…ケーシャさん…?な、何を言って……」

「何って、ユニさんが教えてくれたんじゃないですかぁ……私はノワールさんにとって、要らない人間なんだって」

「……ッ!」

 

妙に明るい、明るいのに陽の感情は一切籠らないケーシャさんの声にアタシは動揺を隠せない。これまでとは桁違いの危うさに、アタシは冷や汗が止まらない。…怖い。ケーシャさんが怖い。ケーシャさんの心が音を立てて壊れていくように思えて、それがどうしようもなく怖い。

そんな中、ゆらりと上がったケーシャさんの右手。そこに握られているのは、一丁のサブマシンガン。

 

「ねぇユニさん。もしこれを撃ったら…どうなると思います?」

「……アタシを、撃つんですか…?」

「あはは、そんな事する訳ないじゃないですかぁ。ノワールさんにとって必要な存在のユニさんを撃つなんて事、私がすると思います?きっとノワールさんは悲しみますよ?…ノワールさんを悲しませるなんて、私がする訳ないですよぉユニさん」

「じゃあ、それは……」

「これは、別のものを撃つ為に使うんです。…あぁ、急がなきゃ…じゃなきゃ間に合わなくなっちゃう…」

「あ…け、ケーシャさん!?どこ行くんですかケーシャさん!」

 

手を下ろして、長い黒髪をゆらゆらと揺らしながらケーシャさんはアタシの横を通り過ぎる。我に返ったアタシはケーシャさんの背へ声をかけるけど、ケーシャさんからの反応はない。でもこのままケーシャさんを行かせちゃ不味いって事は、考えなくたって分かる。

とにかくまずは止めなきゃと振り返ったアタシ。それからアタシはケーシャさんの肩を掴もうとして……止まった。…分かってしまったから。ケーシャさんを止めなきゃいけないって事と同じ位…アタシじゃ止められない事を。

 

(馬鹿だ、アタシ…ケーシャさんが本当に本当に強い思いをお姉ちゃんに向けてるって事は知ってたのに…なのに橋渡しをするどころか、余計にケーシャさんを追い詰めちゃうなんて……!)

 

自分のしてしまった事を後悔しながら、自責の念に駆られながら、アタシは携帯を取り出す。

自分がどうにか出来なくなったから誰かに頼むなんて、あまりにも情けない。自分が状況を悪化させといて、何してんだって思う。でも…今はそんな事考えてる場合じゃない。アタシの後悔なんて後で幾らでも出来るし、アタシが責められたところで自業自得なだけだけど…今ケーシャさんを止めなきゃ、きっと取り返しのつかない事になるから。だからアタシは電話をかけ……叫ぶ。

 

「お姉ちゃん、ケーシャさんが…ケーシャさんが大変なの!アタシが余計な事したから、ケーシャさんが…ッ!お姉ちゃん、叱責は後で幾らでも受けるわ!だから…だからお姉ちゃん、ケーシャさんを止めてあげてッ!」




今回のパロディ解説

・燃え尽きた感じ
あしたのジョーの主人公、矢吹丈の代名詞的なシーンの事。別にノワールは燃え尽きた感じにはなってません。ノワールもユニも白ではなく黒ですから。

・道化竜
ヴァンガードシリーズに登場するユニットの一体、星輝兵(スターベイダー) カオスブレイカー・ドラゴンの事。直接…ではないですが、間接的に声優ネタでもありますね。
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