超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress   作:シモツキ

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第三十話 姉思う、小さき妹

ネプギアからの電話から数十分後。何だかんだでラムを部屋に引き留め続けたアタシのところに一件のメールが届いた。

 

「…さっきは電話でこんどはメール?…ユニってせーかくの割に友だち多いの?」

「アンタ喧嘩売ってんの?…さっきの電話と同じ相手よ」

 

液晶画面に表示された送り主の名前は、ネプギアだった。内容次第によってはラムに読まれちゃ不味いと思って、見られない様にしながら開封してみると…書いてあるのは『準備完了だよ』の一文だけ。…えらい簡素な文章ね。それだけでも伝わる状況にあるからいいけど。

 

「…さて…じゃ、付き合わせて悪かったわね。もう帰るなり何なりしてくれて構わないわ」

「え…なによ急に。……あやしいわね…」

「あ、怪しいって何よ…」

 

じとー、っと訝しむ様な目でアタシを見るラム。……こんな時に限って鋭いわね…。

 

「むー…急に言ったってことは、なにかが理由なはず……」

「推理しなくていいから…」

「チョコがなくなった…のはもっと前だし、はなしがすんだ…ってのもなんかちがいそうだし……あ、メール!メールがかんけーしてるのね!」

「…あーうん、そうそう。その通りです、名探偵さん」

「ふふーん!わたしにかかればこれ位よゆーね!しんじつはいつも一つなのよ!」

「はいはい。ご苦労様でした」

「くろう?よゆーだったからくろうなんてしてないけどね〜」

「あそう…ほら、もう解決したし帰ったらどう?」

「そうね。もうここによーじなんてないし、さっさと帰ろーっと」

 

上機嫌な様子のラムはそんな事を言いながら、アタシの部屋を出ていった。確かに、思ったよりは鋭いけど…手がかりを見つけた段階で満足してるし雰囲気に乗って帰ろうとしてる辺りはまだまだ幼児ね。……そんな幼児を煽って怒らせてたアタシもまだまだなんだろうけど。

 

「……アタシも、行こうかしら…」

 

取り敢えずこれでアタシの役目は終わったけど、全ての目的が達成された訳じゃないし、ネプギアの役目はまだ終わっていない。そんな状態で、役目終わったからってゆっくりしてるのは……アタシの性に合わないわよね。それに気になって何かやろうにも手がつかないだろうし。

という事で、アタシもラムの姿がもう近くにない事を確認してから部屋を出て、ロムラムの部屋へと向かった。

 

 

 

 

ネプギアちゃんといっしょにれんしゅうをして、ちょっとだけだけど自信を持つことが出来た。そして今、ネプギアちゃんはもうすぐラムちゃんがお部屋に戻ってくるっておしえてくれた。

 

「わたしがいるとちゃんとお話出来ないだろうから隠れてるけど…大丈夫。ロムちゃんの頑張る姿は見ててあげるし、それに…ロムちゃんなら一人でもちゃんと出来るよ」

「う、うん…わたし、がんばる…」

 

わたしの手をまたにぎってくれるネプギアちゃん。わたしはよわむしで、いつもラムちゃんの後ろにいるような子なのに、ネプギアちゃんはそんなわたしの為にがんばってくれた。わたしだって出来る、っておしえてくれた。だから、がんばらなきゃ…!

 

(だいじょうぶ、ラムちゃんなら…わかってくれる…)

 

むねの前で手をにぎる。たいじょうぶ、だいじょうぶと心の中で自分に言う。そして、だいじょうぶって五回言ったところで……ラムちゃんがかえってきた。

 

「たっだいま〜!」

「お、おかえり…ラムちゃん…」

 

元気よくかえってきたラムちゃん。ラムちゃんはいつもの様子で、わたしはいつもならラムちゃんが元気なだけでちょっとほっとしてたけど…今日はちがう。むねがどきんどきんして、おなかがきゅーってして、あたまがぐるぐるする。

 

「……?ロムちゃん?」

 

わたしが何かへんだって思ったのか、ラムちゃんはわたしの顔をのぞきこんできた。…やっぱり、言うのはやめようかな…せっかく元気なラムちゃんをいやな気持ちにはしたくないし、きっとわたしが言えなくてもネプギアちゃんが言ってくれる。わたしには、きっと…むりだもん…。

…………でも。

 

「……あのね、ラムちゃん」

「う、うん。どうしたのロムちゃん?」

「…あ、ちょ、ちょっと待って…!」

 

はなしをしようとして…ストップ。し、しんこきゅーするの忘れてた…。……すぅ、はぁ…よ、よし…!

 

「ラムちゃん…わたし、わたしね……ネプギアちゃんと、おはなししたの…!」

「え……ネプギアと…?」

 

ネプギアちゃんの名前がでたとたん、ラムちゃんはいやそうな顔をした。それを見てわたしは、ちょっとだけどむっとした気持ちになる。だって、ネプギアちゃんはラムちゃんの思ってるような子じゃないもん…すごくやさしい子だもん…。

 

「いっぱいはなしたの。さいしょにえほんのおはなしをして、そのあとわたしがラムちゃんとなかよしだっておはなしをして、それで……おねえちゃんのことも、はなしたの」

「……っ…!?」

「ネプギアちゃん、ぜんぶちゃんと聞いてくれたの。わたしはちゃんとはなそうとしなかったり、とちゅうで泣いちゃったりしたけど…それでも、ちゃんと聞いてくれたんだよ…?」

「な、何言ってるのロムちゃん…あのネプギアがそんなことするわけないわ!したとしてもそれはロムちゃんをだまそうとしてるのよ!」

「ら、ラムちゃん…ちがうよ?ネプギアちゃんは、そんなわるい人じゃないの…。……ラムちゃん、わたしのはなしを…聞いて」

 

おこりだしたラムちゃんはちょっとこわくて、それにネプギアちゃんをひどく言われてまたむっとしたけど……わたしはむねの前でまた手をにぎってがまん。わたしはラムちゃんの一番のなかよしで、ラムちゃんのおねえちゃんだもん。だから、おこっちゃダメ。ネプギアちゃんみたいに、ちゃんと聞いてあげなきゃ。おねえちゃんみたいに、相手のことを考えてあげなきゃ。……だって、わたしはラムちゃんといっしょにがんばりたいから。いっしょに、前にすすみたいから。

 

 

 

 

ユニにつきあってあげて、ユニのかくそうとしてることをあばいてやったわたし。ロムちゃんにわたしのぶゆーでんを教えてあげようと思ってへやにもどったら…ロムちゃんは、まじめそうな顔をしていた。

わたしは楽しいはなしをしようとしていた。わたしのかつやくをはなして、そのあとえほんの続きを読んで、いつもみたいにあそぼうと思っていた。なのに…ロムちゃんは、ネプギアのはなしを始めた。…ううん、それだけじゃない。ロムちゃんはおねえちゃんのことも、あのたたかいのことも…わたしたちがずっとはなさないようにしていたことを、聞いてほしいって言ってはなし始めた。

 

「ネプギアちゃん、言ってたの。おねえちゃんがひどいこと言ったのは、わたしたちの為だって」

「い、いみ分かんないよ…そんなのおかしいもん!わたしたちの為にひどいこと言うって、言葉と気持ちが逆じゃない!」

「そうだね…でもわたしたち、そう言ってもらえなかったらきっとおねえちゃんにたよってた…じゃまになるのに、守ってもらおうとしてた」

「……っ…それは…」

「ラムちゃん、もしわたしたちがあのままいたら…どうなってたと思う…?」

 

ロムちゃんの言葉に、どきりと心がはねるのを感じる。もし、もしあのままいたら…その時わたしたちは、おねえちゃんは……

 

「…ラムちゃんは、ネプギアちゃんきらい?」

「あ…当たり前よっ!ネプギアなんて、だいっきらい!」

「それなら……──おねえちゃんは?」

「……ッ!」

 

また、どきりとする。ロムちゃんに言われて、ロムちゃんのふかい海みたいな目で見られて、すごくすごく苦しくなる。

こんなこと、今まで一度もなかった。こんなに話してて苦しく感じることなんてなかったし、こんなにロムちゃんらしくないロムちゃんを見るのも初めてだった。

 

(こんなの、わたしの知ってるロムちゃんじゃない…どうして、どうして……?)

 

今のロムちゃんがきらいなわけじゃない。けど、今のロムちゃんはさっきまでのロムちゃんと、いつものロムちゃんとはちがってて、わたしはロムちゃんが変わったことにかんけーしてないどころかその理由すら分からない。……わたしじゃないんだ…ロムちゃんを変えたのは、わたしじゃなくて……

 

「…ロムちゃん、ネプギアはどこ…」

「え…ネプギアちゃん…?」

「そうよ!ネプギアよ!ねぇどこ!あいつはどこにいるのよロムちゃんッ!」

「ひ……っ!?」

 

気付いたら、わたしはロムちゃんのかたをらんぼうにつかんで揺さぶっていた。こんなことしたらロムちゃんはびっくりして、こわがっちゃうって分かってるのに、止められなかった。

 

「ロムちゃんはネプギアのばしょ知ってるんでしょ!?教えてよロムちゃん!」

「ら、ラムちゃ…おち、ついて…っ…!」

「かくすの!?わたしにネプギアのばしょかくすの!?ネプギアには全部はなすのに、わたしにははなしてくれないの!?ロムちゃんはわたしよりネプギアの方がだいじなの!?」

「ち、ちがう…ちがうよラムちゃん……!」

「だったら教えてよッ!」

 

くやしくて、かなしくて、むかーっとしてしょうがなかった。おさえられない気持ちを、だいすきなはずのロムちゃんにぶつけていた。

ゆるせない。ネプギアがゆるせない。どうしようもなくネプギアがゆるせなくて、ゆるせなくて、ゆるせなくて……

 

「い、いやっ……やめて、やめてよぉ……ぐすっ…ネプギア、ちゃん…!」

「……ッ!…わたしはここにいるよ、ラムちゃん!」

「……!?…ネプギア…ネプギア、あんた…あんた……ッ!」

 

ロムちゃんがふるえる声で名前を呼んだしゅんかん、ネプギアは現れた。…ネプギアは、このへやの中でかくれていた。

ついに現れたネプギア。そのネプギアに、わたしは……言う!

 

 

 

 

 

 

「……ベットの下からいきなり出てこられたらびっくりするでしょうがぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

 

ロムちゃんが話す、という事でわたしは話が済むまで黙って見ていようと思っていた。ラムちゃんの心に触れるならわたしよりロムちゃんの方が良いし、今はロムちゃんの思いを優先させてあげたかったから。……だから、ロムちゃんが怯えた顔をして、わたしの名前を呼んだ時…反射的に、出てきてしまった。…………ベット下から、突然。

 

「……え、っと…うん、それはごめんね!ほんとその通りだよ、ごめんね!」

 

隠れてるわたしと、わたしがいるのを知ってるロムちゃんにとってはなんて事ないけど、ラムちゃんからすればわたしの登場は驚き以外の何物でもない。それを考えずに出てきてしまったのは、状況が状況とはいえ反省すべきだったと思う。……シリアスな状況に突然ギャグみたいな展開起こしちゃった事も含めてねっ!

 

「…こほん。ラムちゃん、わたしに言いたい事があるならわたしに言って。……ロムちゃんを怖がらせるのは、違うよ」

「……っ…い、言われなくてもそのつもりよ!っていうか、最初からあんたが出てたらこんなことにはならなかったんだから、ロムちゃんにあやまりなさいよ!」

「…それも違うよ、ラムちゃん。確かに、わたしが見える位置にいればこういう流れにはならなかったと思うけど……ロムちゃんを怖がらせたのは、間違いなくラムちゃんなんだから」

 

わたしは、あくまでも冷静に話す。ラムちゃんがこれまでになくヒートアップしていた事で、逆にわたしは冷静になれていた。だから、冷静に話を続ける。

 

「うるさい!わたしはロムちゃんの一番のなかよしなの!あんたはわたしより下!だからネプギアのせいよ!」

「仲良しだって、喧嘩をしたり酷い事しちゃったりする事もあるよ。上下関係なく、ね」

「ないもん!わたしとロムちゃんにはないもん!ね!?そうでしょロムちゃん!」

「え……?…あ、えと…」

 

わたしが出てきて以降ずっとこっちを睨んでいたラムちゃんは、確認をする様にロムちゃんの方へと振り返る。対するロムちゃんは、突然振られた事とラムちゃんの剣幕とで戸惑ってしまった。

それは、普通に考えればそれこそ普通の事。でも……

 

「…またなの…?またロムちゃんは、わたしよりネプギアのかたをもつの…?」

「そ、そうじゃないの…今は、びっくりしちゃった、から…」

「だったら、今は言えるよね?ほら、ネプギアに言ってやってよ。わたしとロムちゃんにはそんなことないって」

「……それ、は…」

「ロム、ちゃん……?」

「…ごめんね、ラムちゃん…これは、ラムちゃんより…ネプギアちゃんの方が、正しい…と、思う…」

「そ、そんな……あ…お、おどされてるんでしょ?ネプギアにそう言えって言われてるだけでしょ?」

「ううん…これは、わたしが考えて言ったの…」

「…う、うそよ…ロムちゃんが、ロムちゃんが…わたしよりネプギアなんかをゆうせんするはずない…ぜんぶ、ぜんぶネプギアのせいよ…ネプギアがロムちゃんを変えたから、ロムちゃんをうばったから……ネプギア…ネプギア…ネプギアぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

「……っ!ラムちゃん…!」

 

声を荒げながら左手を振りかざすラムちゃん。その手には……魔力の光が灯っていた。

瞬間、わたしとラムちゃんの間に流れ込んだ冷気。反射的に魔法を放たれると思ったわたしはビームソードを抜こうとして、その間にも冷気は収束して氷の刃へと変わり……かけたところで、ラムちゃんはぐらついた。──ロムちゃんに横から押さえつけられ、冷気の霧散と共にぐらついた。

 

「な……っ!?ろ、ロムちゃん…どうして…」

「止めて……っ!ね、ネプギアちゃんは、わたしとラムちゃんのためにがんばってくれて、わたしをおうえんしてくれた、わたしの…わたしのともだち、なの…!だから、わたしのともだちを…傷付け、ないで…!」

 

…その時のロムちゃんは、これまでになく大きな声だった。さっきまでのロムちゃんからは考えられない程に、強い意志の込められた言葉だった。ロムちゃんは……わたしの為に、怒っていた。

押さえつけられて、心からの怒気の篭った言葉を向けられたラムちゃんは、びくりと肩を震わせながら信じられない様な顔をしていた。そして……ラムちゃんは、膝から崩れ落ちる。

 

「…なんで…なんで、わたしをひていするの…?ほんとうに、わたしよりネプギアの方がいいの…?ロムちゃんは、わたしを…きらいになっちゃったの…?」

「そ、そんなこと……」

「なら、わたしの知ってるロムちゃんでいてよ!わたしの一番のなかよしのロムちゃんでいてよ!わたしの知らないロムちゃんにならないで!やだ…やだやだやだ!ネプギアッ!ロムちゃんを、ロムちゃんを…ロムちゃんをとらないでよぉ……ふぇ、ふぇぇぇぇ…」

 

ラムちゃんの瞳から、大粒の涙が溢れ落ちる。それまでの様子が嘘の様に、嗚咽を漏らして泣き始める。…今度は、わたし達が愕然とする番だった。

 

「な、なに言ってるのラムちゃん…」

「だって、だって…ロムちゃん、変わっちゃったんだもん…」

「それは…ラムちゃん、ラムちゃんはロムちゃんが変わるのは嫌なの?」

「当たり前、でしょ…!おねえちゃんがいなくなっちゃって、ロムちゃんと二人になっちゃったのに、ロムちゃんまでいなくなっちゃったら…ロムちゃんがさみしくなっちゃわないように、いっつもいっしょにいたのに…ロムちゃんが、わたしをきらいになっちゃったら…わたしは、わたしはっ…!」

 

落ちる涙を手の甲で拭いながら、ラムちゃんは涙声で心情を吐露する。それを聞いて、そんなラムちゃんを見て、やっとわたしは気付く。

ラムちゃんはずっとわたし達を敵視して、わたし達を遠ざけようとしていた。それはわたし達を嫌いだからだと思っていたけど……それはちょっと違った。確かにそういう面もあるのかもしれないけど…ユニちゃんが言っていた通り、それは強がっていただけだった。本当はロムちゃんがただただ大切で、そんなロムちゃんがブランさんの様に自分の手の届かない場所に行ってしまうのが怖くてそう言っていただけだった。…それに、やっとわたしは気付く事が出来た。

どうしていいか分からず、でもラムちゃんを放っておけなくておろおろとするロムちゃん。そんなロムちゃんの肩に、わたしは手を置く。

 

「へ……?」

「…ロムちゃん、わたしに任せてくれないかな」

「……うん」

 

視線を交わらせる事数秒。ロムちゃんは、わたしの言葉にこくりと頷いてくれた。

今のラムちゃんが、どこまでわたしの言葉を聞いてくれるか分からない。けど、それでも言葉にしなきゃ。思いは形にしなきゃ。…じゃなきゃ、わたしはラムちゃんに分かってもらえないし、仲間にもなれない。だから……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ラムちゃん、わたしの友達になってくれないかな」

 

──わたしは、一歩踏み出す。

 

「……へ…?」

「友達、嫌かな?」

「な…なんで、急にそうなるのよ…」

「それは、わたしがラムちゃんと友達になりたいからだよ」

「…いみ分かんない……」

 

わたしと目を合わさないままのラムちゃん。良い悪い以前にわたしの言葉は唐突で、ラムちゃんがそういう反応をするのも当然の話。だけど、わたしは続ける。

 

「そうかな?わたし、ラムちゃんとは気が合うと思うんだけど…」

「…わたしはそうは思わない…」

「えー?だってさ、ラムちゃんはロムちゃんの事大好きなんだよね?」

「そうよ……」

「ふふっ、だったらやっぱり気が合うよ。だってわたしもロムちゃんの事好きだもん。ほら、気が合うでしょ?」

「……ッ…ば、バカじゃないの!?なにかと思ったら、ロムちゃんが好きって…ふん!あんたよりずっとわたしの方が大好きなのよ!いっしょにしないでよね!」

 

また怒りだすラムちゃん。やっと見えたラムちゃんの目元は真っ赤で、顔も涙でぐちゃぐちゃだったけど…雰囲気は、さっきのラムちゃんに戻っていた。

 

「む…本当にそうかな?わたしロムちゃんの探し物手伝ったり、隠し事を聞かせてもらったりしたんだけどな〜」

「そ、それくらいわたしだって何度もあるわよ!じゃあネプギア、あんたロムちゃんのきらいな食べ物知ってる!?」

「え?……それは…ピーマン、とか…?」

「しいたけよしいたけ!ほら、あんたはロムちゃんのすききらいも知らないじゃない!わたしはロムちゃんのこといっぱい知ってるし、おふろもねる時もいつもいっしょなのよ!レベルがちがうのよ、このバカ!」

「い、一緒にいるのは生まれの違いであって仲の良さとは関係ないよ!なら逆に訊くけど、ラムちゃんはロムちゃんに『おねえちゃん』って言われた事ある!?ないよね?」

「それはわたしがいもうとなんだからとーぜんでしょうが!それならわたしだってもっと知ってるもん!」

「わたしももっとたくさん言えるよ!?」

「も、もう止めて…!…うぅ、はずかしいよぉ……(かぁぁ)」

『あ……』

 

最初は策略だったけど…いつの間にかわたしまでヒートアップしてしまい、わたしとラムちゃんはロムちゃんに止められるまで『どっちがロムちゃん思いか』の言い争いをしていた。……目の前で妹と友達にこんな言い争いをされたロムちゃんの気持ちは…うん、想像しただけで恥ずかしくなってくるね…。

 

「あ…あやまりなさいよネプギア!」

「それはラムちゃんもでしょ…」

「うっ……ご、ごめんねロムちゃん!」

「あ、先に言われた…わたしもごめんね」

「う、うん……」

「…ふぅ、まあどっちが上かはともかく「だからわたしの方が好き!」……ら、ラムちゃんがどれだけロムちゃんの事を好きかはよく分かったよ…」

「とーぜんよ!ロムちゃんをすきな気持ちなら、おねえちゃんにだって負けないもの!」

「……だったら、さ…不安になる必要なんてないんじゃないかな?」

「…なにが…?」

「ロムちゃんの気持ちだよ。大好きなら、信じてあげなきゃ。ううん、そんな事考えなくても大好きな人なら信じられるよ」

「……っ…!」

「……ちゃんと、訊こ?ロムちゃんの気持ちをね」

 

はっとしたラムちゃんに、わたしはそう提案する。提案して、ロムちゃんに目を合わせる。すると、それだけでロムちゃんは分かってくれた。

 

「…き、訊く…のは…」

「…ラムちゃん、訊いて。わたし、すきすきっていっぱい言われたから…ちゃんと、わたしの気持ちも言いたい」

「……う…」

「…ラムちゃん」

「……ろ、ロムちゃん…ロムちゃんは、わたしのこと…すき…?」

 

ロムちゃんに真っ直ぐな目で見られたラムちゃんは、数秒の逡巡の末に…小さな声で、そう訊いた。不安そうな声音で、ロムちゃんの思いを知ろうとした。そしてその問いに、ロムちゃんは……

 

「…うん。だいすきだよ、ラムちゃん」

 

優しげな、暖かな微笑みと共にラムちゃんを抱き締めながらそう言った。

抱き締められた腕の中で、ロムちゃんの胸の中でラムちゃんは再び嗚咽を漏らす。そんなラムちゃんの頭を撫でながら、ロムちゃんは言葉を続ける。

 

「ごめんね、ラムちゃん。ラムちゃんにしんぱいさせちゃって。ありがとね、ラムちゃん。わたしの為に元気でいてくれて。…ラムちゃんは、わたしのだいじないもうとで…一番の、なかよしさんだよ」

「ロムちゃん…ロムちゃぁんっ……」

「だいじょうぶ。わたしはいなくならないし、ラムちゃんをきらいになったりもしないよ。…だって、だいすきだもん」

「……そっか…それじゃ、わたしはラムちゃんには勝てないかな…」

 

よしよしと撫でているロムちゃんを見て、わたしはそう呟く。半分はラムちゃんを安心させる為で…もう半分は、悔しさで。妹に対する気持ちと友達に対する気持ちは違うんだろうし、分かってはいたけど…こうして目の当たりにすると、やっぱり…ね。

それからも、ロムちゃんはラムちゃんを抱き締めていて、ラムちゃんはロムちゃんにくっ付いていた。お互いの気持ちを確かめる様に、大切だって思いを伝え合う様に。……そんな二人に、未来の自分を…お姉ちゃんを助け出した未来の自分とお姉ちゃんを思い浮かべる、わたしだった。

 

 

 

 

「……お疲れ様、ネプギア」

「あ、ユニちゃん…」

 

それから数十分後。気付いたらロムちゃんもラムちゃんも寝息を立てていた。けれどそれもその筈。二人共泣き疲れていただろうし、精神的に大きな疲労をしていて間違いない。それに、時間はもう0時を回って真夜中になっていたんだから、二人が眠くなってもおかしくない。

そんな二人をベットに寝かせて、毛布をかけたところでユニちゃんが部屋にやってきた。

 

「…えっとね。順を追って話すと…」

「あ、いいわよ。ずっと廊下で聞かせてもらってたから」

「そうなんだ…え、最初から?」

「最初かどうかは微妙だけど…事の顛末が分かる位には」

「…なら、わたしが二人をベットに運ぶの手伝ってくれてもよかったのに…」

「アンタの軽率な行動に付き合ってお膳立てもしてあげたんだから、それ位一人でやりなさいよ」

 

ベットの側面を背にして座っていたわたしの隣にやってくるユニちゃん。お疲れ様と言いつつ皮肉めいた事を言うユニちゃんだけど…一仕事(?)終えたばかりのわたしには、そんな皮肉も心地よかった。

 

「…ねぇユニちゃん、これで良かったのかな?」

「良かったのか、って?」

「わたしがやった事。間違ってはいないと思うけど…やっぱりちょっと、自信がなくて…」

「…良かったかどうかはアタシにだって分からないわよ。けど……」

「けど?」

「……精一杯の事は出来たんじゃない?」

 

にっ、とユニちゃんが笑みを見せてくれて、わたしもつい顔をほころばせる。

そうだ、わたしの行動の是非は分からないけど…わたしは精一杯やった。精一杯やれる事をやった。…だからロムちゃんに、そしてきっとラムちゃんにも思いが通じたんだよね。

 

「…ほんと、今日はありがとねユニちゃん」

「お安い御用…と言いたいところだけど、楽じゃなかったんだからいつかきちんとお礼しなさいよね」

「分かってるよ、約束だもん」

 

安心した途端、睡魔を感じ始める。もう既に普段なら寝てる時間で、考えてみればわたしも結構精神的に疲労しててもおかしくないから、これはしょうがないかもしれない。……あ、でも…

 

「そうだ…明日の事があるから、ゆっくり寝てられないんだ…」

「そうだったわね…でも、睡魔に襲われながら戦闘なんて危険過ぎる…」

 

ユニちゃんも眠くなってるみたいで、声に少し焦りを感じる。工場の制圧作戦は朝からだからあんまり寝ていられないし、かといって徹夜したら明日にどんな悪影響が起こるか分からない。どちらを選んでも大変そうで、しかも考えてる間にも眠気は強くなって…という中々に困った現状。そんな中、わたしは一つの事を思い出す。

 

「…そう言えば…眠気を覚ますだけなら、短時間の睡眠がいいって聞いた事があるんだけど…」

「あぁ、そうらしいわね…後確か、目を瞑って姿勢を楽にするだけでも身体は休められるって話もあるわ…」

「じゃ、じゃあさ、ちょっとだけ目を瞑って休もうよ?で、それでも眠かったら少しだけ寝る。それなら作戦にも遅れないし、戦い一回分位はなんとかなるんじゃないかな?」

「……そう、ね…けど、目を閉じたからって寝ちゃ駄目よ?それをしたら一巻の終わり…ふぁぁ…」

「そんなの分かってるって…ふぁ、ぁ…」

「…じゃあ、少し休みましょ……」

「うん……」

 

ユニちゃんの欠伸につられてわたしも欠伸。このまま話してると本当にすぐ寝ちゃいそうだから、わたし達はそれきり黙って目を瞑り、ベットの側面に背を預ける。

そう、これはちょっと休むだけ…ちょっと、休む…だけ……。

 

…………。

 

…………。

 

…………。

 

「……ギア…プギア…!」

 

──わたしを呼ぶ声がする。揺さぶられる様な感覚がある。ん…なんなんだろう…?

 

「……ユニ、ちゃん…?」

「ユニ、ちゃん…?じゃないわよ!ほら時間見て!」

「へ?時間って……あぁぁっ!?」

 

ユニちゃんが指差したのは壁の時計。そんなに慌ててどうしたんだろう…と思いつつその時計を見たら、時刻はもう朝。……もっと言うと、作戦の出発時刻…どころか、開始時刻。……だ、だ、だ…

 

「大遅刻だよぉぉぉぉ!ゆ、ユニちゃんどうしよう!?」

「どうしようも何も今から急いで行くしかないでしょ!言い訳考えるのはその後よ!」

「だ、だよね…ユニちゃん準備は!?」

「出来てる!さっさと行くわよネプギア!」

「う、うん……!」

 

跳ね起きて顔を叩くわたし。出来ればご飯を食べてから行きたいけど…そんな余裕は全くない。完全に遅刻のわたし達は、すぐに女神化して出発を……

 

「…どこ、行くの…?」

 

…しようとした瞬間、後ろからの声に止められた。振り返ると、そこには目を覚ましたロムちゃんとラムちゃんの姿。…どうやらわたし達は起こしちゃったらしい。

何も知らない二人に話すべきか迷い、わたしとユニちゃんは目を合わせる。…けど、ロムちゃんはそれよりも早かった。

 

「…もしかして、たたかい…?」

「そ、それは……」

「それなら、わたしも行く…」

「え……?」

「ネプギアちゃんは、わたしのともだち。ユニちゃんは…えと、ともだちのともだち。だから、わたしは力になりたいの。それに…わたしも、ルウィーの女神様、だから…」

「ロムちゃん…」

「……ネプギア、そう言うならロムも連れていきましょ。戦力は多い方がいいし、女神だからと言われちゃ仕方ないわ」

 

わたしがどうこう言うよりも早く、ユニちゃんはそう決断した。それにわたしは一瞬考えて…その後すぐに頷く。だって、ユニちゃんの言う通りだから。

そして、ここでもう一人が声を上げる。

 

「だったらわたしも行くわ!」

「え…ラムちゃんも?」

「当ったり前よ!まだしんよーならないネプギアと、せーかくわるいユニといっしょじゃロムちゃんがしんぱいだもの!」

「アンタ、ほんと生意気ね…」

「ふーん。それよりもほらロムちゃん、早く準備しよっ」

「ラムちゃん…うん…!」

「……あー、それと…ネプギア」

「え?なに?」

 

ラムちゃんはちょいちょいとわたしを手招き。どうやら耳打ちで何かを伝えたいらしくて、それにわたしが乗って耳を近付けると……

 

「……ロムちゃんがすきなのはわたしの方が上。…けど、ネプギアの気持ちも分かったわ。だから…ともだちのことは、ほりゅーにしてあげる!かんしゃしてよね!」

「ラムちゃん…うん!期待して待ってるね!」

 

そして、ロムちゃんとラムちゃんが準備を終えた事でわたし達は外へ。外に出て、女神化し、目的の施設へ向かう。わたし達四人で、候補生四人で……一つの、目的へと。




今回のパロディ解説

・しんじつはいつも一つ
名探偵コナンシリーズの主人公、江戸川コナン(工藤新一)の代名詞的台詞のパロディ。見た目は幼女、中身も幼女、でも女神!名(?)探偵ラム!…なんてどうでしょう。

・レベルがちがうのよ、このバカ
新日本プロレス所属のプロレスラー、オガタ・カズチカさんこと岡田和睦さんの名言の一つのパロディ。ラムなら降らせるのは金の雨ではなく雪か氷の礫でしょう、多分。

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