超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress 作:シモツキ
「うん、うん…え、そんなに!?っていうかほぼフルメンバー!?大丈夫なの!?……うんそれ大丈夫じゃないよねぇ、無理してる人間違いなくいるよねぇ!?…気持ちはありがたいけど、私は無理なんてさせたくないからその旨を皆に伝えてくれないかな?…そう、イリゼ様との約束。…頼んだよ?…じゃあまた何かあれば連絡入れるから、皆にも宜しく伝えておいて」
プラネテューヌの街中にある自然公園で電話をかける…ではなくかけていた私。ここは偶に民間のイベントが行われていたりするし、そうでなくても日中なら散歩に来ている人や遊びに来た子が散見される、そんな場所。その一角、丘の様にちょっと高くなっている所のベンチに私は腰かけていた。
「…次は何しようかな……」
既に空になったお弁当箱の包みを結び直しながら、暇潰し案を考える。お弁当はもう食べちゃったし、自然を眺めるのも飽きたし、ソーシャルゲームは自動回復待ち。おまけにここを離れる訳にはいかないから何か物を取ってくる事も出来ず、結果完成したのがちゃんと結んである包みを意味もなく開いたり結んだりするイリゼさんだった。
「ライヌちゃん連れて来れば暇にはならなかっただろうし、ライヌちゃんも走り回れて一挙両得だったのになぁ…」
…なんて無い物ねだりしても、勿論状況が変わったりはしない。だから私はただぼーっとする事しか出来ない。嗚呼、なんと無情な事か…。……え?それより隠れず座ってていいのかって?…うん、いいんだよ別に。範囲が範囲な以上隠れなくたって問題無い…というか、隠れちゃったらいよいよもって不可能の域に入っちゃうし。
「……まぁ、いっか。…大勝負まで、後数日なんだから」
ネプテューヌ達を…国の要、守護女神の奪還作戦まで後数日。当日以降は当然の事として、準備期間の今だって女神の私はまったりなんてしていられない。…今はまぁ結果的にまったりしてるけど…とにかく女神候補生四人の特訓に教祖との打ち合わせ、プロセッサの最適化改修に作戦に関係する人達との意思疎通とやらなきゃいけない事が沢山ある。先程の通話もその一つで、私は協力的だけどちょっと心配な人達の状況を確認する為に電話をかけていた。
奪還作戦のメインは勿論、守護女神四人の奪還。けれど実のところ四人の救出だけが奪還作戦の内容じゃなくて、むしろある意味では救出が作戦の一部に過ぎないとも言える。だって、この作戦における四人の救出は『表向きの』目的であって、その裏にあるのは……
「あーっ!いた!ほんとにいたわ!」
「え……この声って、もしや…」
その時、不意に聞こえた元気な声。それは聞き慣れた、具体的に言えば今日も既に耳にしている声で、私はその短い言葉だけで誰が来たのかピンとくる。
まさか本当に辿り着いてしまうとはという驚きと、教え子である四人がめきめきと実力を伸ばしている事への喜び、そしてその成長率に対するほんのちょっぴりの羨ましさを抱きながら振り向いた私。するとやっぱりそこに居たのはネプギア達四人で、声の主はラムちゃんだった。
「ふふっ、見つけましたよイリゼさん」
「わたしたちの、しょーり…!(ぶいっ)」
軽快に登ってくるロムちゃんラムちゃんと、その後ろを歩いてくるネプギアとユニ。四人の顔つきは疲弊しきっている訳でも、私を見つけて驚いている様子もない。……と、いう事は偶然でもしらみ潰しに探した訳でもなくて…
「……私のいる場所、特定したんだね?」
「はい、ユニちゃんが反則級の裏技を思い付いてくれたおかげで、イリゼさんのいる場所が分かったんです」
「は、反則とは失礼ね…アタシはちゃんとルールに抵触しない形での裏技を思い付いたつもりなんだけど?」
「でもズルい感じの方法でしょ?」
「その方法を試したネプギアにだけは言われたくないわよ…」
「う…ま、まぁそれはそうだね…」
お昼時から結構経過しているとはいえ、まだまだタイムリミットである日暮れまでは時間がある。半ば無茶な課題を達成しちゃっただけでも凄いのに、ある程度時間に余裕を持たせているんだからもう私は完全に脱帽。だから当然、どうやって私の場所を特定したのか気になってしまう。
「……で、どういう方法で見つけ出したの?」
「それはですね、これです」
「これ?」
そう言ってネプギアが出したのはNギア。ふむふむ、Nギアかぁ…。…………え、どういう事…?
「これですよこれ。わたしのブログです」
「あ、ほんとだ…それでブログが何なの?」
「それは、先程書いた内容とその反応を見れば分かりますよ」
「先程って…更新したの?」
Nギアを手渡された私は、ネプギアのブログ(というより女神ブログ。女神によって更新頻度は違うし私は現状やってないけど)のトップページから数時間前に更新されたばかりの最新記事を……って、これ…
「…ゆ、ユニ……」
「は、はい。何でしょう…?」
「……恐ろしい子っ!」
「はい!?」
記事どころかそのタイトルを見た時点で私は戦慄。そのあまりにも裏をかいた、それこそ裏技的発想に、私は誇張表現無しに戦慄してしまった。だって、そのタイトルは…『イリゼさんとかくれんぼ』というものだったのだから。
「そっか…そっか、その手があったんだ…うわどうしよう、ちょっと鳥肌立ってきた…」
「そ、そんなにですか!?……す、すいません…」
「い、いや違うよ!?別に責めてる訳じゃなくて、むしろその逆!『す、凄い…!』的な意味での鳥肌だから!…わ、この時遂に私の場所が特定されたんだ…」
タイトルをクリックした先のページに書いてあるのは、勿論私が街中で隠れてて、わたし達候補生で探しているという節の内容。そしてそのページのコメント欄には、ブログ内容への感想や探す事への応援の他私の目撃情報や協力宣言なんかもアップされている。……と、ここまで書けば分かるよね。…そう、ユニが思い付いた裏技というのは『ネット上に情報を流す事により、ネット上でネプギアに好意的な国民を丸ごと協力者としてしまう』事。…全く、恐ろしい事思い付くよねユニは…。
「そんなにすごいことなの…?」
「そうなんじゃない?思い付いた時のユニ、なんかすっごいこーふんしてたもん」
「あ、そうなんだ。ユニちゃん興奮してたんだね」
「い、いいでしょ別に。我ながら天啓並みの発想だと思ったのよ…」
ロムちゃんラムちゃんはまだネットに対して疎いからか、凄い事なのかどうかよく分かっていない様子。…そうだ、ネットと言えば……
「…ユニ、ユニはこれがルール的にアウトだとは思わなかったの?法に引っかかる様な方法は駄目だってルールにさ」
「そうですね、普通に考えたら個人情報の関係でアウトだと思います。…が、イリゼさんは公人ですし…それ以前の話として、女神は存在そのものが常識から外れているでしょう?」
「…その強かさ、忘れちゃ駄目だよ?」
ルールがカバーしている範囲をきちんと認識する力とそこから策を見つけ出す発想力、その策を実行に移せる(人に推せる)だけの胆力がユニの強かさを生み出しているんだと思うし、そういう強かさは守護者としても統治者としてもプラスになる。…もし、その面がこの特訓で開花したのなら…私は胸が張れるね。
その後も私は四人がどうやって探索をしてきたかの話を聞く。花を聞いて、考えて…立ち上がる。
「さて、それじゃあ今日の特訓はこれまで。皆お疲れ様」
「はい。……でも、アタシの策は結局よかったんですか…?」
「…と、言うと?」
「その、この特訓ってアタシ達の連携能力を鍛えるものじゃないですか。でもこれはアタシ達の連携とは言えませんし…」
「あぁ、安心していいよユニ。そんな事はないから」
なんだそんな事か…と内心私は呟く。確かにユニのは予想外の策だったけど…愚策でも失策でもない。
「これまで四人は連携能力を鍛えてきた。…けど、ネプギアが考えた通り連携は四人でのみやる訳じゃないし、私もそんなつもりないからね。四人での連携をきっかけにより大人数での連携能力や女神としての指揮力を高めてほしいと思ってたんだから、今の段階でそれを成しちゃった事は予想外の結果じゃなくて、予想以上の成果なんだよ。だから、今日の内容に点数を付けるとしたら……百点満点、だね」
「百点満点…凄いよユニちゃん!百点満点だよ!?」
「い、言い直さなくても聞こえてるわよ!…でも、百点満点、か……ふふっ…」
「むー…ネプギアとユニばっかり気付けてズルい…」
「ちがうよ、ラムちゃん。これは、みんなでとった百点だもん。…だよね…?」
普段は冷めてるユニも今回はちょっと嬉しげで、その隣のネプギアも同じく嬉しそう。でもそれはきっとユニが、自分の友達が評価された事に対する嬉しさなんだろうね。ネプギアはそういう子だもん。
…けれど、ラムちゃんは反対に不満気。ロムちゃんがフォローを入れているけど、確信はないのか私に視線を送ってくる。…だから、私は膝を折り二人と同じ位の目線になって告げる。
「そうだよ、ロムちゃん。この百点満点ってのは四人が力を合わせた結果の百点なんだから。ユニはさ、ラムちゃんとの会話の中で思い付いたんだよ?それってラムちゃんがいたから、ユニに気付くきっかけを与えたから思い付いたんだ…とは思えないな?」
「それは…そうなの…?」
「私はそう思うよ。ロムちゃんだって、私と同じ目線になるって発想を出したからネプギアがそこから私の意図を汲み取る事が出来た。…ネプギアもユニも、二人のおかげで思い付いたんだから二人は自信を持っても大丈夫だよ。それは私が保証する」
「な、なによ…もー、ちょっとむーっとしちゃったじゃない!だったらそれをもっと先に言ったよね!」
「ふふっ…よかったね、ラムちゃん」
私の言葉を素直に受け取ってくれて、ラムちゃんの表情は不満気な物から満足気な物にチェンジ。ロムちゃんも私の言葉とラムちゃんが気を直してくれた事で頬が緩んで、二人共子供らしい笑みを浮かべてくれた。
にこにこと笑顔を見せる四人。そんな四人の様子につい私も顔をほころばせそうになり、それに気付いてこほんと咳払い。教える側である私が笑うのは、もう少しだけ我慢しないとね。
「あー、皆。もう少し話は続くんだけどいいかな?」
「あ…はい、すいません…」
「気にしないで。さて、それじゃまず特訓についてだけど…連携能力向上の為の特訓はこれまで!皆、よく頑張ったね」
「ふぇ…?今日のが、さいごなの…?」
「そう。…あ、まだやりたかった?」
「え、えと…そうじゃ、ないけど…」
「ロムちゃんは唐突に言われて意外だったんだと思います。…今日で最後なのは、後はもう準備と身体を休める事に専念しろって事ですか?」
「それもあるけど、同時にもう十分なレベルに達したと思ったからでもあるよ。…とはいえ、じゃあ後は本番頑張ってねってのは無責任な話」
そこで一度言葉を区切る私。次の言葉を待つ四人の視線を受けながら私は数歩下へと降りて、私は四人に向き直る。
「…だからさ、この目と感覚で今の四人を確かめさせてもらうよ」
「それって、またもぎせんやるってこと?」
「そういう事。さ、皆準備はいいかな?今度は私から仕掛けるよ?」
「え?こ、ここでやるんですか?ここ遠巻きにですけど普通に一般の人が居ますよ?」
「大丈夫だよ。もし皆が私の期待通りの成長をしてくれているなら……ねッ!」
脚に力を込めると同時に語尾を強めた私は跳躍。跳び上がりながら腕を曲げ、空中からの肘打ちを最初の日の模擬戦同様ラムちゃん目掛けて落としていく。
もし四人…特にラムちゃんが対応出来そうにないならギリギリで腕を後ろに回すなり身体を逸らすなりしてラムちゃんに当たらない様にするつもりだし、四人が私の期待程成長してなくてももうあんまり追加の特訓をやる様な時間はない。そういう意味で私は駄目なら駄目で仕方ないね、って思いも少し持っていたけど……やっぱり、女神候補生の四人は優秀な生徒だった。
『……っ…!』
まさか本当にここで仕掛けてくるなんて。…そんな感情を露わにしながらも、四人は私が攻撃に出た次の瞬間には反応していた。女神化してない上に直進すればいいものをわざわざ上に跳んだのは、四人に意識を切り替える時間を与える為で…それはどうやら上手くいったらしい。
割って入る様に自身も跳躍し、交差させた両腕で私の二の腕を挟み込む事によって攻撃を防ぐネプギア。その下…私とネプギアがいる下の空間にはユニが滑り込むと同時にライフルを私の背に向けて構え、ロムちゃんラムちゃんは左右に分かれだ後ロムちゃんはネプギアへの支援を行う様子を、ラムちゃんはネプギアに当たらない位置を取りながらユニと十字砲火を叩き込む様子を見せる。
体勢と地形の関係から、ネプギアは私より一瞬早く着地。そこでネプギアは後ろに再度跳びつつビームソードを抜き放って、私は下降しながら四人の(ユニは後ろにいて見えないけど)動きを確認して……
「……うん、これは私負けるね。皆の勝ちだよ」
──両手を挙げ、降参した。
へ?…と目を丸くするネプギア達。私は苦笑いで言葉を続ける。
「うんうん、言葉も交わさずそれぞれが最善の動きを出来てるなら十分十分。これなら私は勿論四天王だって、何なら皆のお姉ちゃんにも勝てるよ」
「え…い、いや今数秒も戦ってないんですよ?それで分かるんですか…?」
「私も女神だからね。それにそもそも連携なんかしなくたって四人は私に勝てるんだよ。模擬戦の時も四人でまとめてかからず一人ずつ勝ち抜き戦を挑んでたら、十中八九四人倒す前に私が息切れ起こしてただろうし」
『え、えぇー……』
「言ったでしょ?連携は失敗すればマイナス側に傾くって感じの事。確かに女神や四天王単体なら特訓せずとも勝ち抜きに持ち込めば勝てるだろうけど…悠長に戦ってる場合じゃない時や負のシェアの女神と化したマジェコンヌさんみたいにとんでもなく強い相手が現れた時、連携能力がなきゃ大切なものを守れないからね」
候補生と言えど女神は女神。大概の存在には優位に立てるしそれが四人もいればまあまず負ける事はない。…けど、私もネプギア達もそういう『もしも』が実際あるって身をもって体験してるんだから、そういう事に対して少しでも対応出来る様訓練しておいても損はない。…それに、ネプギア達はもう力不足のせいで大切なものを失う経験はしたくないだろうからね。
「皆、奪還作戦の時は全員が全力を尽くすしコンパやアイエフ達の力も必要不可欠だけど…それでも、奪還の要は私達…ネプギア達女神候補生なんだから、出し惜しみ無しでいかなきゃ駄目だよ?」
「分かってます。お姉ちゃんの為、皆さんの為、アタシを信じてくれてる人の為に出し惜しみなんてするつもりは毛頭ないですから」
「わたしも、みんなとがんばる…!(ぐっ)」
「わたしもわたしも!ぜったいおねえちゃんたちをたすけるんだからね!」
「イリゼさん、楽観的かもしれませんけど…わたし達なら、わたし達皆ならきっとお姉ちゃん達を助けられる筈です!だから、頑張りましょう!」
「…そうだね。それじゃあ……やるよ、皆っ!」
『おーっ!』
私の掛け声に合わせ、四人は空へと腕を突き上げる。あの日、ギョウカイ墓場から逃げ帰って以降落ち込んでいたネプギアも、無理をしていたユニも、気持ちを封じ込めていたロムちゃんラムちゃんも、今は強い思いを心に秘めて同じ方向を向いていた。
ネプギアは楽観的かもしれない…と言ったけど、私はきっと助けられると思ってる。だって、その為に入念な準備を行い、手順も踏み、心を合わせてここまで来たんだから。もう要である四人は準備万端。…後は、私や大人の面子で仕上げをしないとね。
*
そして、奪還作戦の日がやってきた。最終確認を行う為私達が集まったのはプラネタワーの聖堂室で、そこには私達や教祖の皆さんの他政治機関『教会』としての重役や国防軍の高官なども集まっていて、聖堂室は普段とは一味違う雰囲気に包まれている。
「はぅ、わたしちょっと気を張っちゃいそうです…」
「ボクも…緊張する場面は慣れてるけど、こういう状況はあんまり無いし…」
別にピリピリしている訳じゃないけど、立場ある人間が集まる場というのは自然と独特の空気になってしまうもの(女神は最高権力者だけどかなり特殊な存在だからまた別)。アイエフやケイブはまだそれなりに慣れてるみたいだけど、候補生の四人は逆に全く慣れてないみたいだし私が何か声かけを…と思ったところでイストワールさんが口を開く。
「…時間ですね。それでは奪還の最終確認をしましょう」
いっそそれがトレードマークと言えてしまう程しょっちゅう語尾に顔文字の付くイストワールさんも、今回は最初から顔文字無し。彼女が顔文字を使わない時は往々にして真剣な時なのだとここにいる多くの人が知っている事もあり、皆もその一言で表情を引き締める。
「これから皆さんには小型の飛空挺でギョウカイ墓場の入り口へと向かい、そこから陸路でギョウカイ墓場を進んで行ってもらいます。その際飛空挺及び侵入口はイリゼさんの招集した協力者の方々に防衛して頂くので、その心配は無用です」
「……?イリゼさん、それってまさか私兵か何かですか…?」
「し、私兵って…私に力を貸してくれる人達の事。まあ行けば分かると思うよ」
協力者の方々?…と不思議そうな顔を浮かべた皆に、私はユニの質問を介して軽く説明する。…あ、ここを見ている皆さんだけに教えておくと、冒頭で話してたのがその人達だよ。……だから何?って感じの情報かもしれないけど…。
「イリゼさんの保証がありますし、信頼のおける方々だとは思いますよ。…そして、突入後は守護女神の方々が幽閉されている場所まで侵攻した後女神候補生の四名による攻撃で結界を、イリゼさんの攻撃でアンチシェアクリスタル本体を破壊し救出。その後撤退し飛空挺で帰還…というのが奪還における概要です。皆さん、大丈夫ですか?」
「…はい。大丈夫です」
「分かりました。では、皆さんにこちらを渡しておきます」
イストワールさんがそう言ったのに合わせ、数人の職員さんがトレイに載せたコード無しイヤホンの様な物と小さなバッテリーらしき物、シェアクリスタルを利用したペンダントを持ってくる。
「これは…ま、まさか愛のペンダント!?あたしのアタックが実ったの!?」
「いや、つながりのお守りかもしれないわよ?…いや勿論冗談だけど」
「どちらも違います…まずこちらは超小型インカムとその予備バッテリー。これ一つで受信送信どちらも出来る上通信性能もかなり高いので、ギョウカイ墓場内でもこちらとの連絡が滞りなく行える筈です」
「それって…確か試験開発されていたものですよね?…ぶ、分解してみたい…!」
「駄目ですよネプギアさん…どうしてもと言うなら後日別の物をあげますから、これは分解しないで下さい。それとサイズと通信性能を追求した結果バッテリーの持ちは悪くなってしまっているので、必要のない時には使わず予備バッテリーの携行を心がけ下さいね」
インカムとバッテリーを受け取り、それぞれ耳にちゃんと合うか確認した後しまう私達。全員の確認が済んだところでイストワールさんの説明は再開される。
「次にこちらですが、これは作って頂いたシェアクリスタルを使った見ての通りのペンダントです。これは女神の皆さんの手を借りずに負のシェアによる汚染を緩和させる為の物なので、ギョウカイ墓場侵入後は絶対に身に付ける様にして下さい」
「…インカムに比べて五つ足りないのは、アタシ達女神には不要だからですか?」
「そういう事です。コンパさんアイエフさんは知っていると思いますが、それがあったとしても汚染を完全に防ぐのは難しいので、気を抜く事のない様お願いします」
あ、クリスタルはその為だったんだ…とネプギア達が納得する中、コンパ達はそちらも受け取って身に付ける。そして……
「…皆さん。守護女神の四人が助かるかどうかは、誇張無しに皆さんにかかっています。ギョウカイ墓場に向かわないわたし達がどうこう言うのは皆さんにとって気分のいいものではないのかもしれませんが……それでも皆さん、宜しくお願いします。…ネプテューヌさん達四人を、助けてあげてきて下さい」
その言葉と共にイストワールさんは…否、その場にいた奪還メンバー以外の全員が私達に頭を下げてくる。普段私やコンパ、ネプギア辺りはそれに動揺して頭を上げてほしいと慌てて言うところだけど…今は黙ってただ頷く。頭を下げた人達の気持ちはよく分かっているから、だからこそ正面から受け取って…頷いた。
「…出発しましょうか、皆さん」
「えぇ、もう時間になったんだから後は善は急げよね」
「うん。…けど、その前に一ついいかな?四人にはやってほしい事があるんだ」
プラネテューヌの女神候補生としての思いからか、真っ先に口を開いたネプギア。そこにユニも同意したけど…私は逆にそれを止める。止めて、四人を手招きする。
何だろう…と言いたげな表情で私の下にくる候補生の四人。その四人を前にして…私は言った。
「……最後の一手だよ。私達にとって最大級の波を作る為の、最後の一手を、ね」
*
仕事に向かう者、朝食を口にする者、一日の予定を考える者。十人十色の姿を見せるゲイムギョウ界の四ヶ国で……その日、それは起こった。
「……突然申し訳ありません、今画面をご覧になっている皆様」
突然、電波を受信可能な全てのテレビやモニターが起動し映し出された画面。普段ならば起こり得る事のない非常事態に人々が画面へ目をやる中、そこに映っていたのは女神化状態でドレスに身を包んだ四人の女神候補生…そして、同じくドレスを纏った原初の女神の複製体、もう一人のオリジンハートだった。
「私は特務監査官、オリジンハートことイリゼです。突然の事に皆様動揺してしまっていると思いますが、どうか私の話を聞いて頂きたいと思います」
騒つく人々。四ヶ国同時に、同じ物を見て人々は騒ついている為に一人一人の声は小さくとも、それが重なり一つの大きな動揺の声となっていく。
「まずは、謝罪からです。これまで我々女神と教会は、国民の皆様にある事を隠していました。……四ヶ国の守護女神がとある組織に幽閉されている、という事を」
それまでの騒つきは突然の事に対する疑問の声が中心だった。しかし、オリジンハートがその言葉を、その事実を口にした瞬間四ヶ国は静まり返り……次の瞬間それまでとは比べ物にならない程の大きな動揺と騒つきが四ヶ国随所から発生した。それは守護女神の四人が多くの国民から信仰されていた事を示すものだが…人々の心は穏やかではない。信仰対象、或いは自国のトップである守護女神が幽閉され、しかもその事実を他の女神や教会がこれまで隠していたと言われたのだから心穏やかでいられる訳がない。
そんな人々の反応を予想していたのか、暫く黙るオリジンハート。ひとしきり人々は騒つき、そこから更なる情報を得ようと再び人々の視線が画面へと向いたその前後にて彼女は再度口を開く。
「皆様の混乱を防ぐ為とはいえ、情報の隠蔽を行なっていた事は事実。ですので我々が責められるのは仕方のない事だと私も覚悟しております。…しかし皆様、本当に責められるべきは我々でしょうか?幽閉した組織こそが最も責められるべき存在ではないのでしょうか?」
オリジンハートは言葉を続ける。彼女の問いかける様な言葉は、それを聞く人々の興味をより引きつけていく。
「…犯罪組織マジェコンヌ。その名を耳にした事のある方もいるでしょう。女神による統治を脱却し、より良い世界を目指そうとする彼等は信仰宗教に該当する組織であり、教会も犯罪組織の存在については認識しておりました」
犯罪組織の紹介に合わせ、画面の一環に犯罪組織の情報が表示される。……表向きの、情報が開示される。
「……しかしある時を境に、犯罪組織からは疑わしい要素が見受けられる様になりました。教会は犯罪組織に対し信じようと思いつつも、皆様の安全を第一と考え調査を開始。もし思い違いであれば公的に謝罪をする心積もりで調査を進めていきました。……その結果が、こちらです」
その言葉を受け、画面は四分割状態に変化。そしてそこに映し出されたのは…犯罪組織の裏を表す画像と動画だった。
それぞれ設定された時間で移り変わっていく画面。映し出される画像と動画は犯罪組織の兵器製造やモンスターの運用、施設の無断建造など非合法活動の一部始終。中には拘束された構成員による自供や犯罪組織が絡んだとされる事件の概要も混ざっており、既に何度も驚いている人々は更なるショックを与えていく。
「…お分かり頂けたでしょうか。これが、犯罪組織の真の顔です。表向きには真っ当な理想を掲げていた犯罪組織の本性がこれなのです。…さて、何故私が犯罪組織について語ったのか。それは聡明なる皆様ならばもうお分かりだとは思いますが…私の口から、言わせて頂きます」
耳を澄ませば、ごくりと唾を飲む音が聞こえてくるかの様な街の雰囲気。オリジンハートの次の言葉を待つ様に、思い付いた『まさか』を確認する様に、元に戻った画面の前で人々は静まり返る。
「守護女神の四人は、犯罪組織によって皆様の安穏たる日々が壊される事のない様、彼等の下に向かいました。…その結果が、幽閉です。守護女神に対し犯罪組織は、卑劣なる手を用いて幽閉したのです」
人々から、声が漏れる事はない。その衝撃に次ぐ衝撃によって、オリジンハートの語りによって人々は完全に言葉を失っていた。
「幾つもの法律違反、皆様を騙す悪辣な精神、そして守護女神の幽閉。それ等は到底許されるべきものではなく、また犯罪組織から一切の申し開きがない今の状況を考慮し、何より皆様の平和を守る為……今この瞬間を持って、四ヶ国の教会は犯罪組織マジェコンヌを過激派国際テロリズム組織と指定。同時に守護女神の奪還作戦を遂行する事を決定しました」
そこでオリジンハートは言葉を切る。言葉を切り、目を閉じ…目を開けた時、そこには……
──人々の守護者たる、女神の姿があった。
「我々は裏切られた!信仰の自由を保障し、例え現政権にとって不利益であろうとも一人一人の思いを尊重し共存していこうと考えていた我々は、裏切られたのだ!」
「そればかりではない!彼等は繁栄を望む皆を、善良たる皆を謀り世に危険を蔓延らせ、平和を奪おうと画策していた!表では良い顔をしながら裏では悪意の爪を研ぎ、不安や傷心に悩む者を甘言でもって惑わし、その上マジェコンヌなどと借り物の名前でその罪すら他者に押し付けようとしている!」
「彼等は卑怯だ、愚劣だ、害悪だ!その存在にいち早く気付いたのが守護女神の四人であり、彼女等は間違いなく皆の事を思っていた!皆の掴んだ平和が崩れる事のない様、誠心誠意で向かったのだ!そんな彼女等すら踏み躙り、幽閉する事で彼女等の自由も四ヶ国に住まう皆の象徴も奪ったのが、テロリスト集団である犯罪組織なのだ!」
「許せるだろうか?許していいのだろうか?…否、断じて否だ!私は犯罪組織を許せない!その悪行も、その精神も、何よりも皆を裏切る犯罪組織を絶対に許せない!──故に、断言しよう!私は、私達女神は、我々教会は犯罪組織に正義の鉄槌を下すと!今も尚皆を思う守護女神を全力を用いて奪還し、それによって犯罪組織に正しさとはなんたるかを教えると!」
「日々を、同志を、女神を愛する全ての者よ!我々に協力してほしい!我々を信じてほしい!それが力となり、平和の為の道標となるのだから!何も不安に思う事はない、女神を信じる君達は正しい!正義を志す君達が、残虐非道な悪である犯罪組織に屈する事などあり得ない!さぁ、取り戻そうではないか!我々の大切なものを、全て!」
「私は約束する!ギョウカイ墓場からの守護女神奪還を!それをもって、犯罪組織撲滅の第一歩とする事を!我々女神と教会は、ここに守護女神奪還作戦の実行を────宣言する!」
オリジンハートの演説が終わった時、四ヶ国は無人であるかの如く静まり返っていた。静まり返り、人々は言葉を心の中で反芻し、自らの思いと照らし合わせ……口を開いた。女神への応援を、教会への支持を、犯罪組織への宣戦布告を。
戦いの意思を滾らせる、女神を信仰する人々。女神と教会による宣言によって、彼等一人一人の意思によって……女神統治の四大国家と犯罪組織による対テロ戦争は、勃発した。
今回のパロディ解説
・「……恐ろしい子っ!」
ガラスの仮面の登場キャラ、月影千草の代名詞的台詞のパロディ。この瞬間、イリゼは白眼になっていたり…は、まぁ当然ながらしていません。
・つながりのお守り
キングダムハーツ バース・バイ・スリープに登場するアイテムの一つ。ペンダントは星型ではなく普通に原作中に出てくるクリスタル(又は女神メモリー)の形をしています。