超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth2 Origins Progress 作:シモツキ
私の斬撃の前に倒れ、地に突っ伏したジャッジ・ザ・ハード。勝負は付き、ジャッジの残念そうな…しかし心から満足した様子の声が聞こえ、そして…………私もまた、倒れる。
「……っ、ぅ…」
受け身も取れず、顔から硬い地面に倒れ込む。喉の奥から込み上げてくる様な感覚に襲われ、吐き出してみるとそこに出来たのは赤い水溜まり。更に二度、三度と同じ液体…血液を私は吐き出し、気付けば顔の前に血溜まりが出来ていた。……いや、顔の前だけじゃない。血溜まりはお腹の下にも出来ていて、そこに広がる血の池は口元の数倍の規模だった。
(…はは…貧血…で、済むレベルじゃないや……)
首を回した私の目に映ったのは、抉り取られた様にズタズタとなった私の脇腹。その酷い有様を見て、私は背筋が凍り付く。
怪我の規模自体も勿論恐ろしい。こんなの女神じゃなきゃ即死しているし、女神であっても…正直、致命傷の可能性がある。少なくとも放っておいたら出欠多量で恐らく死ぬ。けど、それよりも私を戦慄させたのは……これがジャッジの一撃をもろに喰らったんじゃなく、斬っ先が僅かに触れた程度で出来た傷だという事。あの時私は、ジャッジを斬り裂きつつも確かにハルバードの軌道から逃れていた。流石に完全回避は出来なかったけど、それでも掠める程度に留めていて、普通に考えればどんなに運が悪くても短刀で斬られた程度の怪我になっている筈。…なのに、私の脇腹は背骨まで真っ二つにされていてもおかしくない程の怪我を負っているという事は……ジャッジのあの一撃は、掠めるだけでその周囲を肉塊とカルシウムの塊にしてしまう程の威力を持っているという事になる。…これにはもう、生き延びた事に感謝する気持ちしかなかった。
(…ほんとに凄いよ、ジャッジ……)
ジャッジは敵であり、私達が命懸けで掴んだ平和を乱す犯罪組織のトップ格の一人であり、私の大事な友達をここに監禁し続けた、絶対に討つべき悪。……でも、彼は真っ直ぐだった。思い返せばジャッジがハルバードに纏わせた光は悪意のシェアが濃縮された闇色ではなく、どこまでも深い純粋な黒色で、そこにジャッジの本質が現れている様にも思える。…要は、嫌いになれないんだよね。
そうして薄く笑った私は意識を切り替え、立ち上がろうとする。ジャッジとの戦いは終わったけど、まだ作戦は続行中なんだから。そう思ってまず腕に力を込めたけど……動かない。
(……あ、れ…?)
力を込め、腕を立てて立ち上がろうとしたけど…立ち上がれない。時間をかけても何とか地面に突き立てるのが精一杯で、まるで踏ん張りが効いてくれない。…いや、腕だけじゃない。腰も脚もまともに動かず、私は立ち上がるどころか起き上がる事すらままならなかった。……あは…これはもしかしたら頭の上に、『かつには かったが どうやら さいごのちからを つかいはたしたらしい……』…ってウィンドウが出てるのかも…。
……なんて、ネプテューヌみたいな事を考えてしまう程私は今、ヤバい状態だった。…けど、だからって倒れてる訳にはいかないよね…きっとネプギア達は今、ネプテューヌ達を助けようと頑張ってる最中なんだから、ここで私一人寝てるなんて……
「……止めとけ…そんな身体で無理に動いたら、折角勝ったのに死んじまうぞ…?」
「…え……?」
既にガス欠状態の気力を何とか絞り出し、うつ伏せのまま腕で上半身を持ち上げたところで……背後から、ガチャリという音と共に声が聞こえた。この場において、私以外に声を発する存在なんて…一人しかいない。
「……まだ、生きてたの…?」
「勝手に殺すんじゃねぇよ……まぁ、それも時間の問題だがな……」
可動域ギリギリまで首を後ろに回し確認すると、ジャッジはいつの間にか仰向けになっていた。…さっきのは、半回転した際に鎧が鳴らした音だったんだ…。
「…せめて道連れにしてやろうってなら、私も抵抗させてもらうよ?」
「しねぇよ、んな事…俺が負けて、お前が勝ったんだ。……道連れなんて勝者を、勝負を侮辱する様な行為なんざ死んでもやりたくないね。っつっても、現状で俺は死にかけなんだがな…」
「それが、貴方の美学?」
「へっ、そんな大層なもんじゃねぇさ…」
「そう…」
大層なもんじゃない…って返したという事は、方向性自体は間違っていないらしい。勝ちという結果より戦いという過程を重視していたり、私との戦闘中は終始楽しそうにしていたり…何だろう、ジャッジからは終盤で味方にはならずとも協力をしてくれるライバルキャラ的なものを感じる…。
ジャッジはもう戦う意思はないと分かり、私は視線を前へ戻す。上半身を支えるだけで震える腕に鞭打って、冗談抜きに飾り状態寸前の脚で地面の出っ張りを引っ掛けて、ずるずると這って前へ進む。満身創痍で地面に這い蹲り、一回一回喘ぎながら進む私はきっと無様で惨めだけど…そんな事気にしていられないし、ジャッジ以外いないんだから人目を気にする必要はない。だから…進むんだ。私は、進むんだ…!
ずる…ずる…ずる……ぼてっ。
「……コケたな」
「う、五月蝿い…」
「だから止めとけっての…そんなんじゃ味方に追い付く前に力尽きるの分かるだろ…」
「…悪いけど、私の目的は貴方と戦う事だけじゃないの…だから、止めとけと言われても止める訳にはいかない…」
「なら少し休めよ…途中で出欠多量で死ぬかモンスターに襲われて死ぬかして、それでお前の仲間は喜ぶのか?もし仮に追い付けたとして、その身体で足手まといにならない自信があるのか?」
「……それは…」
何と言われようと、私は進む……つもりだったけど、浅はかだった私はジャッジの言葉で簡単に止まってしまった。彼の言葉で私が追い付くまでの事も、追い付いた後の事も考えてなかったのだと気付かされる。…不味いな…ほんとに今の私、思考力が落ちてる…。
「……感謝するよ、ジャッジ」
「あぁ…?」
「ジャッジに言われなかったら、私軽率な真似するところだった…もしかして、私を心配してくれたの…?」
「心配…まぁ、広義的にはそうかもな…。…この俺に勝ったんだ、お前はこれからも勝利を重ねて、死ぬ時も華々しくいてくれなくっちゃ困るんだよ…」
「…ご心配、どーも…」
訊くまでもなかった気はするけど…やっぱり私を思っての心配じゃなかった。…別にいいけどね、ジャッジに心配されたらむしろ怖いし…。
ジャッジの言葉の方が正しいと思った私は、進行方向を変え近くの岩の前へ。そこまで着いたところで私は身体を回し、背を岩に預け……ると背中の大怪我に岩が喰い混んで死にそうだから、脇腹がズタズタになっていない側の肩を岩に預けてもたれかかる。
「…………」
「…………」
仲良しでもなければ憎しみ合ってもいない私とジャッジは、話題が無ければ会話は生まれないし、わざわざ話題を作ろうとも思わない。よって暫く沈黙していた私達だったけど…暫くしたところで、おもむろにジャッジは口を開いた。
「…にしても、まさか女神がこんなに強かったとはなぁ…これなら生前にも手合わせしときゃよかったぜ…」
「……生前にも?」
口振りから察するに、それは私への言葉ではなく独り言。だから返さなきゃいけない道理はないけど…『生前にも』という単語が気になって私は訊き返す。
「んぁ?……あー…別に隠す事でもねぇか…俺、っつーか四天王は全員元々人間だったんだよ。生前犯罪神に実力やら精神やらを見込まれてそれに応じた俺等は、死後に四天王になったのさ」
「……そう、だったんだ…」
四天王が元は人間だったなんて、思いもしない衝撃の事実。けれど四天王がただの『強くて喋るモンスター』だとは最初から思ってなかったし…何より今の私は限界状態過ぎて、驚きの感情が抑制されていた。…普段みたいに驚いてたらそれで内臓破裂しそうな気もするし、それを踏まえて脳や神経が作用してくれてるのかな…。
「…そう言うって事は、生前から強かったの?」
「あぁ強かったさ。今程じゃねぇが、それでもそこらの人間やモンスターが相手なら歌いながら戦場を駆け回れる位にはな」
「どこのアニマスピリチア持ち又はフォールドレセプター持ちですか貴方は…」
生前から強かったのなら、ジャッジが見込まれたのは実力である可能性が高い。犯罪神を呼び捨てしてる辺り、崇拝してる訳じゃなさそうだしね。
「…昔から俺は今日みたいな滾る戦いを欲していた。が、強過ぎるっつーのも困りもんでな、今言った通りどいつもこいつも本気を出すまでもねぇから俺は日々に飽き飽きしていた。……そんなある時、俺は犯罪神と会ったんだよ。…いや、あれは正確にゃ犯罪神の一部ってところか…」
「犯罪神の、一部…」
「あん時は驚いたぜ。強者だと思って仕掛けてみたら、見事に返り討ちにされたんだからな」
「…強そうだと思って仕掛けたら、やり返された……」
「…んだよ、何か気になる事でもあんのか?」
「い、いや別に…それで負けて、配下にさせられたと?」
「いいや。犯罪神は取り引きを持ちかけてきて、それに俺が乗って配下になったんだよ。…けど、そうだな…もし戦ってなかったら、乗らなかったかもしれねぇ…」
私の位置からジャッジの顔は見えないけど、ジャッジは遠くを見る様な目をしているんじゃないかと思う。だって、その声音からは昔を懐かしむ様な雰囲気を感じるから。
「…俺は思ったんだよ。クソ強ぇ犯罪神が配下を求めるっつー事は、世の中にゃ俺の知らねぇ強者がまだいるんだろうってな。そういう奴等と戦うには、配下として犯罪神側にいるのが一番だと考えて、俺は四天王になったんだよ。だから実際にゃ取り引きも何もって感じなんだが……予想通り、俺は強者と戦う事が出来たんだ、犯罪神にゃ感謝しねぇとな…」
「私達は大迷惑だよ…こんなに強い奴が、敵になっちゃったんだから」
「ギャハハハハハハ!そりゃそうだったな!だが犯罪神が女神に迷惑な行動を取るのは当たり前の……うぐっ…」
「……ジャッジ?」
不満を乗せた返答がツボだったのか、大笑いを口にしたジャッジ。けどその数秒後、ジャッジは息を詰まらせ咳き込んだ。一瞬私はそれを、死にかけなのに爆笑なんてしたからだと思ったけど……違う。
「…どうやら、俺はここまでみてぇだな…だが即死してねぇだけまだマシか…」
「…………」
「……ありがとよ、オリジンハート…。お前が俺とタイマンを張ってくれたおかげで、俺との戦闘に全力を尽くしてくれたおかげで…俺は満足のいく戦いが出来た…本当に、感謝してるぜ…」
そういうジャッジの言葉は、本当に満足そうだった。これから死にゆくのに、苦しい筈なのに……自分を殺した相手へ、感謝を告げてきている。
「…私は約束を果たしただけだよ。女神として反故には出来ないと思ったから、一対一で戦っただけ。……だから、貴方がお礼を言わなきゃいけない道理はない…」
「礼っつーのは道理だの常識だのじゃなくて、言いてぇから言うもんだろ…お前がどう思ってようが、俺はお前に感謝してるんだからな…」
ジャッジは光の粒子となって消滅を始める。既に人としては死んでいるらしいジャッジが今から迎えるのは死なのか分からないけど…そんな相手に、こんな言葉をかけられたら私は言葉を返せない。だからまた私達の間に沈黙が訪れて…身体が半分程消失した頃、気付けば声も掠れつつあるジャッジがまた口を開いた。
「……最後に、よ…名前を聞かせてくれねぇか…?」
「名前…?…知ってる、よね…?」
「俺は、俺に勝った奴から名前を聞くって決めてんだ…俺に勝った、尊敬すべき相手の事を…頭と心に、刻み付ける為にな…」
「…………」
「…………」
「……私はオリジンハート…原初の女神が生み出したもう一人のオリジンハートであり…私の名前は、イリゼ。…それが、貴君と雌雄を決し…貴方の力を、心より認める女神の名前だ」
数秒間、考えた。答えるかどうかじゃない。どう答えたらいいか私は数秒考えた。消えゆく四天王に、ただひたすらに心踊る戦いを欲していた彼に、どう答えればいいか考えて……決めた。他の誰でもない、ジャッジと死闘を繰り広げた女神として答えよう、って。それが最適な答え方だったのかは分からないけど……ジャッジは、満足してくれたと思う。
光の粒子は空へと登り、その光もまた消えていく。それはどこか幻想的で、四天王もまた私達女神と同じ人の域から完全に外れている存在なのだと思わせる。
「…最高の戦いが出来た…満足いく戦闘だった…俺を倒した相手の名前を聞けた……あぁ、もう心残りは一つもねぇ…強いて言えば、負けたのは残念だが…それは俺が弱かったのが原因なんだから、仕方ねぇよな…」
「…弱くはないよ。何か一つ違えば、立場は変わってたのかもしれないんだから」
「だといいけど、な…。…さて…んじゃ、あばよオリジンハート…」
「…………」
「俺にこんな事言われても困るだろうが……お前に、勇猛なる女神オリジンハートに、一層の栄華と成功、そして…血湧き肉躍る至高の戦いがこれからもある事を、祈ってるぜ……」
──そうして、ジャッジは消え去った。最後に彼は、もう殆ど聞き取れない様な小さな声で「いつかまた戦いたい」と言って、ギョウカイ墓場の空へと消えていった。彼の向かう先がどこなのかは……分からない。
「……さようなら、ジャッジ・ザ・ハード」
消えていった空に向けて、私の口からそんな言葉が漏れ出た。多分、これは…ジャッジの心意気に対して、ちゃんと受け取った分は返したいって無意識に思ったから。…正直、複雑だけど…ジャッジの存在は、彼との戦いは私に大きな影響を与えたと思う。
(……ごめんね、皆…皆に追い付くまで、もう少しかかりそうだよ…)
傷口は燃える様に熱いのに、傷口から溢れる血は熱を持っているのに、私の身体は相変わらず冷えた様に動かない。この様子じゃ、戦闘はおろかまともに歩くだけでもまだまだかかりそうだった。…もしかしたら、ここから先は全部皆に任せなきゃいけないかもしれない。
(…でも、そうなったとしても…皆なら、大丈夫だよね……)
私は、皆を信じている。誰にも負けない位に、皆を信じている。だからせめて、私はすぐに行く事が出来なくても、この思いは届いてほしいな……そう思いながら、私は今までよりも岩に身を任せ…ゆっくりと目を閉じた。
*
ここに来るまでに、沢山の事があった。楽しい事も、辛い事も、勇気を貰った事も、悩みを抱えた事も、沢山、沢山あった。それは望んだ事ばかりじゃないし、あんまり経験しない方がいい事もあると思うけど……そういう事を受け入れて、乗り越えてわたし達は今ここにいる。
「まだ、まだよ…ロムラム、まだ大丈夫よね?」
「うん…だい、じょうぶ…!(ぐっ)」
「ユニこそ手をぬかないでよね!」
ユニちゃんはX.M.B.の砲身を四分割モードにして、ロムちゃんとラムちゃんは大きくて複雑な魔方陣を杖の先から展開して、エネルギーを収束させていく。三人の狙う先は…勿論、お姉ちゃん達を捉えるアンチシェアクリスタルの結界。
「三人共、何かあったら言ってね!あたしが何でもしてあげるから!」
「ギアちゃんも、大丈夫ですか?」
「……はい」
三人が砲撃準備を進める中、わたしはその後ろで身体を捻って結界が壊れる瞬間を待っている。気にかけてくれたコンパさんに、もうちょっとちゃんとした返答をしたい気持ちもあるけど…今はその瞬間へと意識を集中しなくちゃいけない。結界が壊れてから再展開するまでの時間も、クリスタル本体の強度も正確には分かっていない以上、少しのミスも許されないから。
「……また来た様ね。数は三…いや、四かしら」
「それなら私達だけでも倒せるわね。コンパとREDはそのまま四人を見ていてあげて」
シェアエナジーのチャージはどうしても目立ってしまうみたいで、わたし達が攻撃準備をしている間に何度もモンスターが近寄ってきた。けど、その度に皆さんが返り討ちにしてくれていて、わたし達は一度も中断する事なく準備を進められている。…本当に、本当に皆さんは頼もしい。
(これが終わったら、お姉ちゃんに褒めてもらいたいな。それで一緒にご飯を食べて、お風呂に入って…久し振りに、一緒に寝たいって言ってみようかな…うん、そうしよう)
取らぬ狸の皮算用、なんて諺があるけど…期待が力になってくれるなら先の事を想像するのもいいと思う。幸せな未来の想像は希望になるし、その未来を掴む為に頑張ろう、全力を尽くそうって気持ちにしてくれる。わたしの思いを、更に後押ししてくれる。
(……後少しだよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんも、ノワールさんも、ベールさんも、ブランさんも…わたし達女神候補生が…ううん、お姉ちゃん達に帰ってきてほしい人達全員の思いが、お姉ちゃん達を助けるんだから)
戦っているのはここにいるわたし達だけじゃない。教会関係者も、軍人さんも、わたし達の行動に協力したいって思ってくれた人達も、皆が戦っている。こんなに沢山の人がお姉ちゃん達を助けようとしてるんだもん、失敗したらなんて不安はこれっぽっちも抱かないよ。
力を溜める、力を込める、力を振り絞る。身体に、武器に力の全てを注ぎ込む。真っ直ぐな瞳で、真っ直ぐな思いで結界とクリスタルを、未来を見据える。そして…………その時は、やってくる。
「……っ!ラムちゃん、ユニちゃん…!」
「うんっ!これで、これでいけるわ!」
「アタシもよ!アタシ達のフルパワー、この鬱陶しい結界に思い知らせてやろうじゃない!」
「頑張って、四人共!四人なら出来るって、あたし達は信頼してるから!」
「ボクも!ボクも皆を応援してるよ!」
収まりきらなくなったエネルギーが漏れ出す様に、砲身の隙間と魔方陣が眩く輝き出す。ファルコムさんと5pb.さんの…わたし達を支えてくれてる皆の信頼と応援を受けて、ユニちゃんロムちゃんラムちゃんは翼を広げる。お姉ちゃん達を閉じ込め苦しめる結界を打ち破る為に、その後に待つわたしへとバトンを回す為に。
「いくわよ二人共ッ!トリニティ……」
『フル…ドライブッ!』
三人が叫び、X.M.B.と魔方陣から三条の超口径ビームが発射される。三条のビームはそれぞれが影響を及ぼし合い、威力を重ねる事で周囲の空気を飲み込み焼き尽くしながら目標へと伸びていって……結界の上部、お姉ちゃん達が射線上に入らない部分へと激突した。
「はぁぁぁぁぁぁッ!」
『やぁぁぁぁぁぁッ!』
膨大なエネルギーの奔流が結界を叩き、撃ち破ろうとする三人の力と吸収し無力化しようとするアンチシェアクリスタルの力がぶつかり合う。激突して以降、クリスタルは三人の放ったエナジーを還元しているようで結界表面を波紋が走り、結界もクリスタルも始めはビクともしていなかった。……けど、段々と…三人の声と思いに反応したみたいに、表面を走る波紋の動きやペースがおかしくなっていく。それはまるで、過剰な電力配給によって機械に負担がかかっているかの様に。
どんどん異変を増していく結界と、一切衰える事のない三条のビーム。波紋が歪に、不規則になっていく中三人は砲撃同士を近付け、一点狙いで勝負をかける。それは失敗すると砲撃同士が喰い合って相殺しちゃう危険性を孕む行為だったけど…ロムちゃんラムちゃんの二人は勿論、ユニちゃんを含めた三人でもそんな事は一切なかった。結局ジャッジはイリゼさんが相手をして、ここまでわたし達が戦う機会はなかったけど、わたし達の特訓の成果はここで活きるんだって言わんばかりに三条のビームは一条の光になって……アンチシェアクリスタルの結界を、貫いた。
「……──ッ!ネプギア…行きますッ!」
結界が甲高い音を立てながら崩壊した瞬間、わたしは飛んだ。地を蹴って、翼を広げて…砲口を後ろに向けたM.P.B.Lのエネルギーを解放し、その噴射も推進力に転換してわたしは宙に浮くアンチシェアクリスタルへと一気に接近する。当然射撃を推進力にするなんてM.P.B.Lは想定してないから物凄くブレるし、腕への負担もかなり大きい。でも……ここで全力を尽くさなきゃ、どんな結果になってもわたしは後悔するもん。皆が頑張ってるのにわたしだけ手を抜いたら、わたしは胸を張って皆と一緒にいられないもん!
「届けぇぇぇぇええええええええッ!!」
眼前に迫るクリスタル。もうM.P.B.Lの刀身が振るえば当たると認識したわたしは噴射を切って、全身の力を乗せてM.P.B.Lを横に振るう。
もう、何も考える事はない。やるべき事も、積み上げるべき事も、全部やってきた。その結果わたしはここにいて、お姉ちゃん達の救出という目標に手が届きかけている。だから、ただひたすらに、一心不乱に、全力全開で────斬るッ!
──ふり抜かれたM.P.B.L。わたしの腕に伝わった、確かな感覚。アンチシェアクリスタルは……パキリという音を立てて、驚く程あっさりと…割れた。
「はぁっ…はぁっ……やった…!」
翼で空気抵抗を受けながら着地して、プロセッサに覆われた手や足を地面に突き付けて減速する。クリスタルは想定していたよりもずっと脆かったのか、それとも今の一撃はわたしが思っていたよりもずっと強かったのかは分からないけど…確かにクリスタルは、わたしの一閃で真っ二つになった。
わたしが実際に動いたのは数秒未満の短い時間だけど、それでも全力の一撃はわたしを大いに疲労させた。そんな中、M.P.B.Lを支えに振り返ると……丁度その時、アイエフさんとファルコムさんがお姉ちゃん達を縛り上げているコードを切って、コンパさんREDさんケイブさん5pb.さんが落ちたお姉ちゃん達を受け止めていた。
「……っ…!」
どくん、と心臓が高鳴る。前の時はまともに顔も合わせられない程申し訳気持ちでいっぱいになっていて、お姉ちゃんの本当の気持ちを知った後も触れる事すら出来なかったわたし。…でも、今は違う。今ならちゃんと顔を見る事が出来る。はっきりとあの時はごめんなさいって、また会えて良かったって心から言える。お姉ちゃんに、大好きなお姉ちゃんにまた触れる事が出来る。元の姉妹に戻る事が出来る。それがわたしは嬉しくて、嬉しくて嬉しくてもう涙が出てきそうだった。
地面へ斬っ先がちょっとだけ刺さったM.P.B.Lを引き抜いて、わたしは駆ける。すぐ側まで来たところでM.P.B.Lを手放して、コンパさんに抱えられてるお姉ちゃんの元へ…………お姉ちゃんの名前を呼びながら、わたしはその胸へと飛び込んだ。
今回のパロディ解説
・かつには かったが どうやら さいごのちからを つかいはたしたらしい……
ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…において、オルテガがキングヒドラで勝った場合に発生する台詞の事。限界状態のイリゼは、こんな事を考えていたりするのでした。
・飾り状態寸前の脚
機動戦士ガンダムに登場するMS、ジオングに纏わる要素のパロディ。人間限界を超えると笑ってしまう様に、イリゼも限界状態から変な事を考え始めてしまっているのです。
・アニマスピリチア
マクロス7に登場する要素の一つの事。アニマスピリチア持ちは戦場には出ていますが戦闘(攻撃)は基本しませんし、ジャッジとは全く違いますね。
・フォールドレセプター
マクロスΔに登場する要素の一つの事。ジャッジの歌でヴァールシンドロームに対抗……嫌ですね。というかジャッジが歌うシーンなんて想像出来ません。