双極の理創造   作:シモツキ

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第百十六話 俺は必ず力になる

落ちていく篠夜へ、俺は手を伸ばした。一心不乱に手摺へと飛び付いて、身を乗り出して手を伸ばした。間に合うかどうかとか、何が起きたんだとか、そんなの関係なしに……篠夜を助ける事しか、頭になかった。

手を伸ばしながらこのままじゃ届かないと直感的に悟った俺は、手摺の格子に足を引っ掛け限界まで身体を乗り出す。そして、乗り越えた際半回転していた篠夜の左手首を……掴む…ッ!

 

「……──ッ!」

 

握った右手が手首を捉えた瞬間、俺は安堵しかけ……そんな気持ちを掻き消すように、激しい衝撃が全身に走った。

 

「ぐ、ぅ……ッ!」

 

身体が下へと引っ張られ、引っ掛けた足が滑りそうになり、手摺に触れている部分に大きな負担が襲いかかる。

部屋で篠夜をベットに運んだ時感じたが、篠夜は見た目通り軽い。多分緋奈より軽いと思う。…が、それでも片手…それも不安定な姿勢で支えるにはキツ過ぎる重さで、加えて落下の衝撃も初めにかかった。そのせいで俺は、とても踏ん張れるような状態じゃない。

 

「篠夜!篠夜ッ!…くそっ、やっぱり気を失ってんのか……!」

 

大声で呼びかけてみるが反応はなし。篠夜は全く動かず、力が入っている様子もない。…意識がないのは、明白だった。

両手で篠夜を掴みたいところだが、左ストッパーの様に手摺に当てている左手を離そうものならほぼ確実にバランスが崩れる。だが今の姿勢で引き上げる事もまた困難で、篠夜が目を覚ますまで耐える…なんざ論外の選択。

 

(……っ…駄目だ、このままじゃ俺も落ちる…!こうなりゃ仕方ねぇ、多少危ないが霊力強化で……)

 

このまま引き上げるのは無理、耐えるのも非現実的で、諦めて手を離すってのは……そもそも選択肢ですらない。となれば俺も落ちて自己犠牲のクッションになるか、霊力で身体能力を上げて引き上げを試みるかのどっちかで…選ぶんだったら当然後者。そう考えて俺は霊力を全身に回し、引き上げるべく歯を食い縛ろうとした……その時だった。

 

「千㟢悠耶!後数瞬、そのままの状態を維持するんだッ!」

「……ッ!?」

 

背後上方から不意に聞こえた、鋭い声。突然の事に俺が固まった次の瞬間、装備を纏った二人の霊装者が現れた。

一人は俺の身体と篠夜の左腕を素早く掴み、もう一人は篠夜の後ろに回り込んで腰を保持。そこから両名はスラスターの出力を上げる事で篠夜を浮かび上がらせ……ゆっくりと、さっきまで座っていたベンチへ運んで寝かせた。

 

「……あんた等、一体…」

 

俺も身体を引っ張られた事で、篠夜より一足先に着地。そして、二人が篠夜から離れたところで口を開く。…勿論、俺も篠夜もこの二人に助けられた訳だが……あぁ助かった、ありがとうございます…なんてすぐに言える程、俺の精神は単純じゃない。

 

「…彼女から聞いていないのか?」

「えぇ、何も」

「そうか…我々は彼女の護衛だ。予言者の身に何かあっては一大事だからな」

 

俺の発した言葉に対し、二人の内年上らしき方の男性が反応。護衛という事は、恐らく…今日一日、ずっとどこかで俺達の事を見ていたんだろう。

 

「…普段から、篠夜の周りには護衛が?」

「いいや、護衛が付くのは外出時のみだ。理由は……いや、これは我々が勝手に話す事でもないか…」

「そうっすか……感謝します。俺一人じゃ、篠夜を助けられなかったかもしれません」

「それが任務だ、気にするな。むしろ我々こそ、もっと素早く救出に入れなかった事を謝罪しよう」

「いや、別にそれは謝罪される程の事じゃ……」

 

二人が何者なのかは分かった。重ねた質問にも答えてくれた。だから疑問に区切りを付け、二人に向けて礼を言う俺。すると返ってきたのは何ともお堅い言葉で、それに頬を掻きつつ俺は返答しかけて……その瞬間、ぴくりと篠夜の身体が動いた。

 

「……ぅ…」

「……っ!篠夜、大丈夫か?」

「……ぇ…?…あ……そっか、あたし…」

『…………』

「…迷惑、かけたわね…それに二人も……」

「お気になさらず。…では、我々は下がるとします。何かお身体に不調があれば、すぐにご連絡を」

 

ぼーっとした顔で起き上がった篠夜は、俺達三人の顔をゆっくりと見回した後自分が気絶していた事を理解した様子。その反応で大丈夫だと判断したのか、二人の護衛は立ち去っていった。…が、それはあくまで気付かれない距離に戻っていっただけだろう。

 

「…どこか、痛んだりしないか?」

「大丈夫よ…大方想像はつくけど、何があったか話してくれる……?」

「…あぁ」

 

脚をベンチから降ろし、普通に座る姿勢になった篠夜は力無い声で気絶中に起きた事を訊いてきた。一瞬、軽く倒れただけ…と誤魔化す事も考えたが、目撃したのは俺だけじゃない。それに何だか俺は誤魔化しちゃいけないような気もして……何一つ隠す事なく、事実を篠夜へと伝えた。

 

「…………」

「…………」

「…ごめんなさい、あたしのせいであんたまで危険な目に遭わせて……」

「…気にするな、とは言わねぇよ。けど危険を冒したのは俺自身の意思だし、そもそも篠夜だって好きで気絶した訳じゃねぇだろ?なら、篠夜の責任なんざ殆どねぇよ」

「…そんな事ないわ…あたしが崖の側になんて行かなければ…ううん、用事を終えた後すぐに帰れば、そもそも出掛けたりしなければ…こんな事は、起きなかった…」

 

ふるふる、とゆっくり首を横に振る篠夜。俯く篠夜の顔に浮かぶのは、罪悪感と後悔の感情。

 

「…それは言い過ぎだろ。気絶を想定してなかったから駄目だ、なんて無茶苦茶もいいところだ。…違うか?」

「…ありがと。でも…違うわ。だってあたしは…これは、想定出来る事だもの」

「は……?」

 

負い目を感じている時、人は過剰に悪く考えてしまうもの。今の篠夜もそうなんだろうと俺は考えた。

だが、篠夜ははっきりと否定した。感情的ではなく、冷静に『想定出来る事』だと、言い切った。

 

「…どういう、事だよ」

「どうもこうも、そのままの意味よ。…初めて会った時も、あたしは一度意識を失ったでしょ?あの時も今も、理由は同じ」

「理由は同じ……?」

「えぇ。あたしは予言という形で未来を知る事が出来る。けど、それは任意のタイミングで使える訳じゃないし……能力発動時、あたしは意識を失う事になる。──つまり、そういう事なのよ」

 

 

 

 

それから俺と篠夜は、双統殿へと戻った。双統殿にはもう配送を頼んだ棚が届いていたが……今は俺も篠夜も、それを部屋に設置するような気分じゃなかった。

 

「……本当に、悪かったわね…迷惑かけて、その上でここまで送ってもらって…」

「あんな事言われた後、一人で帰らせられるかよ…」

 

自分の意思とは関係無しに、勝手に発動して勝手に意識を奪われる能力。…そんな事を聞かされたら、篠夜を一人に出来る訳がない。…それは例え、護衛がいると分かっていても。

 

「…やっぱり、分不相応な事はするべきじゃなかった…ごめんなさい、本当に……」

「分不相応って…まさか、出掛けた事を言ってんのか…?」

「だって、そうでしょう?あたしはいつ能力が発動するか分からないから、いつ気を失うかも分からない。道を渡っている途中に、橋を渡っている途中に気を失う可能性だってあるから、一人で外には出られない。…なのに、それが分かってるのに、あたしはあんたを誘って、この事を伝えもせずにのうのうと遊んでたから…だからきっと、バチが当たったのよ…」

 

部屋に戻ってから…いや、帰る間もずっと篠夜は俯いたまま。それ程に負い目を感じているのか、後悔しているのか……それとも俺と、目を合わせられないとでも思っているのか。

 

「ふふっ、笑えるわよね…そうまでして、あんたにこんな迷惑かけてまで見えたのは、今日特筆する点もない魔物がうちの部隊に討伐されるって事だけだもの。あーあ、こんなの全然割りに合わない…」

「…篠夜、あんまり自分を卑下は……」

「するなって?したくなるわよ、こんなの。予言者だなんて呼ばれてるけど、実際はこのざま。いつ見えるかも、何が見えるかも分からないから実用性なんてまるでないし、その癖デメリットは大きいし、挙句あたしは碌に外にも出られないし。こんな使い勝手の悪い能力、卑下でもしなきゃやってらんないっての…」

 

突然調子が戻る篠夜。いつもの捻くれた発言を口にする篠夜。…だが、違う。声の調子は戻っているが、声音に宿る思いは普段の篠夜のものじゃない。発されている言葉は、いつもの篠夜の毒舌じゃない。

 

「…悪い事ばっかりじゃねぇだろ。そもそも本当に役に立たない能力なら……」

「こんな扱いされてない、って?そうね、それは確かにそうよ。…でもこの扱いをされる限り、あたしはこの碌でもない能力の事を意識させられざるを得ない。これがあたしの能力だって、あたしはこれと付き合っていかなきゃいけないってね」

 

篠夜の言葉は、篠夜の感情の…内に秘める思いの吐露に聞こえた。だから俺はフォローをしようとした。そんな事はないだろう、と。

だが、篠夜にそれは届かなかった。簡単に言い返されてじった。…だが、考えてみればそれは当然の事だった。今日聞いたばかりの俺が、何年も能力と付き合ってきた篠夜以上の理解をしている訳がないのだから。

 

「…まぁ、いいのよ別に。どうせこんなの今に始まったことじゃないもの。今日は特にタイミングが悪かっただけで、もう慣れっこだから」

 

……だが、能力やそれに纏わる環境についてはまだまだ理解が足りなくても、俺には分かっている事がある。伝わってくる思いがある。

 

「それに、高望みなんかしなきゃむしろ優雅なものよ。協会が生活を保障してくれるんだから。今のご時世外に出なくたって欲しいものは手に入るし、結局のところ外の空気も景色も全部気分の問題な訳だし、この生活が自発的に何かしなくても続くって思えば、この能力もそこまで捨てたもんじゃないわ」

 

言葉を、皮肉を篠夜は並べ立てる。俺の反応を聞かず、待たず、ただただ一人で。

理解出来た。伝わってきた。篠夜の気持ちが、篠夜の思いが。俺には…俺だからこそ無視出来ない、痛い程に分かる心が。だから、だから俺は……

 

「…ほんと、高望みさえしなきゃそれで万事解決なのよ。今も受け入れれば、そんなものだって思えば、能力も、外に出られない事も、家族の事も…全部、全部……」

 

 

 

 

「──違ぇだろ、篠夜」

 

──俺は、言う。静かに、だがはっきりと言葉に思いを込めて…否定する。

 

「…違う?何が違うってのよ」

「何もかももだよ。…心にもない事言うなよ、篠夜」

「……何それ、あたしが嘘吐いてるって言いたいの?」

「誤魔化してるって言ってんだよ」

「……っ…あたしが、誤魔化してる?誰に、何をよ?…バッカじゃないの…」

 

一瞬言葉を詰まらせ、すぐに吐き捨てる篠夜。そんな篠夜の姿が……やっぱり俺は、見ていられない。放っておけない。

「馬鹿で構わねぇよ。篠夜の力になれるならな」

「だから…さっきからあんたは何が言いたいのよ!力って、あたしが強がりを言ってるとでも思ってんの!?ならそれは大間違いもいいところよ!あたしは本当に、もう能力も今のあたしにも慣れっこだって……」

 

 

「……だったら、どうして…篠夜はずっと、辛そうな顔のまんまなんだよ」

「……──ッ!」

 

びくりと肩を震わせ、完全に言葉が途切れた篠夜。それから篠夜は唖然とした顔で頬を触り……その指先が、目尻に浮かんだ涙に触れる。

 

「……う、そ…なんで……」

「…無理、すんなよ。辛いんだろ?本当は」

「違う…違うわよ!あたしはもう慣れてんの!生まれつきこの能力があって、もう十年以上この生活をしてるのよあたしは!なのに今更、どうして辛いなんて思わなきゃいけないのよ!」

「それは、慣れなんかじゃねぇよ。どうしようもねぇから、どうにもならねぇから、心が諦めちまっただけだ。諦めて、それが現実だって思えば、辛さがより酷くなる事はないんだからな」

「……っ…分かったような事言わないでよ…あんたに何が分かるっての!?あんたとあたしは所詮、何度か会っただけの関係でしょ!?今日だって借りを返した延長線なだけの事でしょ!?そんなあんたが、あたしの何を分かるってのよ!」

「…分かるさ、俺だって……俺にはただ命令に従って戦う以外の人生なんてないって、ずっと諦めてたんだからな」

「……っ!」

 

分かる訳がない。その通りだ、俺は篠夜の事をほんの一部、ほんの一面しか知らないんだから。だが、篠夜の事は知らなくても……篠夜の抱く辛さは分かる。分かるからこそ…俺は、言葉を紡ぐ。

 

「昔の…生まれ変わる前の俺は両親が誰なのかも分からない、軍属の霊装者としての生き方以外は何も知らない奴だった。だから、他の生き方に興味を持つ事もないだろうとは思ったが…どういう訳か、気付いたら俺は願ってたんだよな。…もっと違う生き方が、出来てたらって」

「…じゃあ、それが……」

「あぁ、奇跡に手を伸ばした理由…ってなら、きっとそれだろうな。宗元さんや部隊の仲間は俺に良くしてくれたし、戦うだけの人生たって楽しい事の一つや二つはあった。……それでも俺は、普通の生活を望んだ。慣れてた筈なのに…そのまま、これが俺の人生なんだって受け入れる事は……出来なかったんだよ…」

「…………」

「だから、何度だって言うぞ篠夜。篠夜の辛さは、辛いって思う気持ちは……俺にとっちゃ、自分の事みたいに分かるんだよ」

 

我ながら、勝手だと思う。いきなり自分語りを始めて、それを篠夜の経験と同一視して、それで『分かる』だなんて…俺は何様だって話だ。…そう、思いはするが…だからって、止めたりなんかするもんかよ。

 

「……何よ、それ…そんなの、あたしよりも辛いに決まってるじゃない…そんな事言われたら、あたし…本当に馬鹿みたいじゃない…」

「どこがだよ。辛さは人と比較するもんじゃねぇし、いつも手が届きそうで届かない篠夜の辛さは並大抵のもんじゃないだろ」

「……なら…なら本当に、分かるって言うの…?あたしの気持ちが…あたしの、思いが…」

 

一番辛いのは絶望の中に居続ける事じゃない。一番辛いのは、希望が見えた上で、絶望へと落とされる事。諦めたくても希望ちらついて諦め切れない、なのにその希望には届かない…それを自分の経験に当て嵌めた時、俺はぞっとした。色々あったとはいえ、今が幸せだからこそ……考えると、怖くなる。

その思いが、表面だけの言葉じゃないって事が伝わったんだろう。篠夜はやっと、俺の言葉を聞いてくれた。否定から、自虐から、俺へとその手を伸ばしてくれた。…だから俺は頷いた。伸ばされた手を掴むように、力強く、はっきりと。

そうして訪れた沈黙。互いに何も発さない、静かな時間が訪れ、そして……

 

「……ふん、自分も似たような経験してるから分かるだなんて、自惚れもいいところじゃない。結局それって、ただの同情じゃない。あんたの魂胆なんて、バレバレだっての」

 

「ほんと、勘違いしないでよね、あたしにとっては全部今更、全部受け入れた後の事なのよ。外に出られないのも、理解してもらえないのも、それがずっと続いてる事も、そんなのは…全部、そんなのは…そんなの、は……」

 

「……そんなの…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──辛いに、決まってるじゃない……ッ!」

 

瞳から涙を零し、絞り出すように胸の奥の気持ちを吐露する篠夜。その声は、俺に向けられていた。漸く、やっと……篠夜は俺に、本当の自分を見せてくれた。

 

「えぇそうよ辛いわよ、辛いに決まってるでしょ馬鹿…ッ!あたしだって普通に暮らしたい!普通に出掛けて、普通に買い物したり遊んだりして、のびのび暮らして、そんな自分を理解してほしい!もっと色んな景色を、移り変わりを自分の目で見てみたい!気兼ねなく生活したい!なんで、なんであたしはそんな普通の事が出来ないのよ!させてもらえないのよ!あたしが何かした!?こんな仕打ちを受けなきゃいけない事をしたっての!?どうして、どうしてあたしは……っ!」

「……なら、俺が手を貸してやるよ」

 

堰を切ったように溢れる篠夜の思い。不満と、怒りと、それに願い。こうしたかった、こうありたかったという…普通の人間には普通にある筈の、当たり前の日々への憧れ。それを口にしながら、吐き出しながらぽろぽろと涙を流す篠夜を……気付けば俺は、抱き締めていた。優しく、寄り添うように、両手で篠夜を抱き寄せていた。

 

「これからは、今日みたいにいつだって俺が付き合ってやる。どこにだって、一緒に行ってやる。篠夜が家族に理解してほしいなら、俺も一緒に話してやる。それなら、護衛の事を気に病む必要もなくなるし、こんな俺でも『今の自分を肯定してくれる人物がいる』って証明位にはなるだろ?」

「…なんで、あんたが…そんな、事……」

「そりゃ、俺が篠夜の思っている以上に恩を感じてるからってのもあるが……放っておけねぇんだよ、篠夜の事が。放っておけねぇし、このまま篠夜が辛い思いを抱え続けるなんざ許せない。それがどうにもならない現実だろうと…俺はそんなの、認めねぇ」

 

右手は篠夜の背に回し、左手は頭に置いて、篠夜への思いをそのまま伝える。細く華奢な、篠夜の身体。こんな小さな、頑丈さとはかけ離れた身体でそこまでの辛さを抱えてたなんて、それが宿命だと思わざるを得ない日々を送ってきただなんて……許容出来る筈がない。それを誰かが決めたってなら、俺は間違いなく言っている。ふざけんじゃねぇよ、って。

俺は篠夜の力になりたい。篠夜の辛さを少しでも和らげたい。その気持ちに…嘘偽りは、欠片もない。

 

「一人で抱え込むなよ篠夜。確かに予言の能力もそのデメリットも、篠夜一人にしかないものだ。けどだからって、篠夜が一人で抱えなきゃいけない事じゃないだろ。誰かが手を貸したって、それを受け取ったって、そんなの何も悪くなんてない筈だ」

 

腕の中の篠夜に向けて、言葉を続ける。手を貸してやるなんて言ったが、俺はデカい事を言える程立派な人間じゃねぇ。だから、正しくは……手を、力を貸してやりたいってだけた。

 

「…でも、あたし…あんたに何度も、辛辣な事言った…最初に会った時だって、先週だって、今日だって…迷惑ばっかり、かけてるのよ…?」

「辛辣な言葉はお互い様だろ、てか俺の方が大人気ない事言ってたような気もするしな。それに…言ったろ、俺も今日は楽しかったって。俺はお人好しじゃねぇからな。同情心とか、可哀想とか…そんな気待ちだけで、ここまでの事は言わねぇよ」

「でも…だけど……」

「いいんだよ、篠夜がどうこうじゃなくて、これは俺の気持ちなんだからよ。だからこの気持ちが迷惑だってなら、気色悪いなら、そう言ってくれればいい。だが、俺はどう思われようと、どれだけ難しかろうと……本気で篠夜の力になりたいって、思ってる」

 

もう、余計な説明は必要ない。今はただ、篠夜に思いを伝えるだけ。篠夜の思いに寄り添うだけ。実際にどこまで出来るかとか、周りからどんな目で見られるかとかは、どうだっていい。ただただ今は……篠夜の力になりたかった。

抱き寄せた篠夜の、表情は分からない。目線も合わない。だが篠夜には、気持ちが伝わっているような気がした。そして、数秒の沈黙の末……篠夜は、言った。

 

「……本当、に…?本当にあたしの、力になってくれるの…?あたしはあんたを頼っても…まだ、諦めなくても…いいの……?」

「約束するさ。必ず俺は……篠夜の、力になる」

「……っ…う、ぁ…ぁあ…うわぁああぁああああぁぁぁぁっ!!」

 

顔を上げ、縋るような…ずっと諦めていたものを、もう一度だけ信じたいという思いの籠った瞳で俺を見上げる篠夜。そんな篠夜の瞳を見つめ返して、はっきりと言い切った瞬間、篠夜の瞳はじわりと潤み……大粒の涙が、溢れ出した。声を上げ、俺の背中に回した両手で服を握り締め、残っていた悲しみ苦しみを全て吐き出していった。

そんな篠夜を、俺はただ、篠夜が落ち着くまでずっと抱き締め続けていた。

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