群れと思われる、複数の魔物が学校内に現れた。…それを綾袮さんから聞いた時、勿論俺は驚いた。驚いたし、なんでこんな時に…って思った。普段よりもずっと人が集まっているから、と言われれば納得は出来るけど……論理じゃなくて気持ちの上で、どうして文化祭の時に限って…って俺は思っていた。
けれど、その驚きは俺にとって一つ目の事。その後すぐに、もう一つ驚く…というか、「えぇぇっ!?」…と言いたくなるような事が起こった。それが何かと言うと……
「…ここも、これと言って痕跡はないわね」
「あぁ。次に行こうか」
俺は今起こっている事態の全容を掴む為の調査を、綾袮さんのご両親と一緒にやる事になったのである。……同居中のクラスメイト(異性)の、親とである。
(うぅ、何故こうなったし……)
正直俺にはよく分からない調査(機材とかを使っている訳じゃないです)を進めるお二人へ、現状俺は付いていっているだけ。足手纏いにはなってないと思うけど…役に立っている訳でもない。
…いや、訂正しよう。俺は全く役に立っていない訳じゃない。そもそも俺が千㟢達の様に待機ではなくこっちに選ばれたのは、生徒会本部役員という立場上、どこを歩き回っていても大概は「何かの仕事絡みかな?」と周りが勝手に解釈してくれる…即ち文化祭の最中でも行動し易いからで、尚且つ案内役も仕事の一つである俺が一緒にいる事によって、深介さんと紗希も人目を気にせず歩き回れるようになる。お二人だけなら場所によっては道に迷ったのかと声をかけられるかもしれないけど、俺がいればそれだけで『案内中』に見えるのだから。
謂わば今の状況には、俺の立場が、俺が一緒にいるという状態が、円滑な調査に一役買っている。…まぁだからって、ただ付いていくだけの現状を良しとしている訳じゃないけどさ。
「顕人君、二人からは何か連絡があったかい?」
「あ、いえ。何もないので、ラフィーネさん達もまだ有益な情報は得られていないんだと思います」
移動の最中、深介さんから投げかけられた質問に俺は返答。答えを聞いた深介さんは軽く頷いて、視線を向かう先へと戻す。
今答えた通り、調査は俺とお二人の他にもう一組、ラフィーネさんとフォリンさんも行っている。これはお二人にも言える事だけど、頼れる相手がいる中での発覚だったのがせめてもの救い。……俺としては、二人にも調査してもらうのは少し抵抗があったけど。
「この部屋も、特になし…やっぱり、校舎内じゃないのかしら……」
「なんとも言えないね。その可能性はあるけど、まだ断言するには根拠か弱過ぎる」
「そうね。…っていうか、当たり前の事は言わなくていいから」
「はは、それもそうだね」
緊張感がない…訳じゃないけど、深介さんと紗希さんはいつも通り。綾袮さんもだけど、やっぱり場数を踏んでいる人は違う。場数を踏んでいる人は急な事態にも余裕を持って対応出来るし、余裕があれば本来の力を発揮出来る。…けど……
「…あの……」
「うん?何かあったのかい、顕人君」
「いえ、そうではなくて……やっぱり、ラフィーネさんとフォリンさんは、危険なんじゃないでしょうか…」
一度は納得していた事柄が、俺の中で再燃する。もう一組の調査チームである、ロサイアーズ姉妹の事が。
二人もまた、多くの場数を踏んできた実力者。普通なら、俺が心配する事自体が間違っているようなものだけど……今回、というか正式に協会所属となって以降、二人は通常装備は勿論の事、自衛用の武器すら携行は許されていない。そして当然、任務で来た訳じゃない今の二人は完全に丸腰。武器が無くても霊装者は戦えるとはいえ……この判断が、ありふれたものだとは思えない。
「…まぁ、そうだね。安全ではない事は確かだよ」
「なら……」
「けれど、それを言うならきちんと装備を用意したところで、安全という確信を得られる訳じゃない。逆に今ここにいるであろう魔物が、全てこれまでに倒してきた個体と同等の強さしかないのなら、武器がなくても何ら問題はない。…安全や危険っていうのは相対的なものであって、想定される敵やその場の状況に合わせて選択するしかないんだよ」
教授する、或いは諭すような声音で話す深介さん。…確かに、安全や危険が相対的なものだっていうのは分かっているし、無いものは無いんだからその上でやっていくしかないっていうのも理解出来る。…けれど、だとしても…と俺は食い下がる。
「…それは分かります。でも、ならせめてもう一人位、武器のある人が二人の方に行っても……」
「…えぇ、それは全くもってその通りよ。だからこれは、合理性だけじゃなくて…わざと二人だけにしている部分もあるの」
「わざと……?」
次に返答をしてくれたのは、片手を腰に当てた紗希さん。わざと、という言葉に俺が反応すると、予想していたように紗希さんは言葉を続ける。
「顕人君。貴方は、あの二人を信用しているようだけど…アタシ達、いや…協会はまだ、二人を信用し切ってはいないわ。理由は、分かるわよね?」
「…はい」
「だからよ。彼女達が、本当に信用出来る人物なのか。協会の人間からの言葉に、どこまで忠実になってくれるのか。それを確かめる上で都合が良いと思ったから、アタシ達は武器のない二人を別行動にさせたの」
「それって…それは、そんなのはあんまりですよ…!分かります、信用は行動で得るものだって事は分かってます…!けど、それでも万が一の事があるのに、都合が良いからなんて理由で二人を危険に晒すのは……っ!」
…不服だった。納得どころか、それは理解すらも出来なかった。危険を冒す事を、冒させる事を、都合が良いからだなんて。必要不可欠だとか、他に選択肢がないとかでもないのに、不必要に二人を危険に晒すなんて。そんなのは、絶対理解なんか出来ないって俺は思って……そこで、気付いた。思い出した。お二人は綾袮さんの親で、家族で……その綾袮さんを、ラフィーネさんとフォリンさんは、元々殺そうとしていた事を。お二人からすれば、二人は大事な娘を殺す目的で近付いてきた相手だっていう事を。
「…ごめんなさい…少し、熱くなり過ぎました……」
「…いや、君の言う通りだよ。私達には私達の考えがあるけど…君は間違っていないし、むしろ人としてどちらが正しいかといえば、それは君の方だ。少なくとも、個人を大切にする気持ちよりも、組織の為や全体の為を謳う判断の方が尊い…なんて道理はない」
「…ありがとう、ございます」
「大人が子供の気持ちに向き合うのは当然の事よ、お礼なんて必要ないわ。それに……彼女達にとっても、君のように自分達の安全を第一に考えてくれる人がいるっていうのは、それだけで心の支えになると思うわよ、顕人君」
何かが欠けていれば、不確定要素が悪い方向で現実になっていれば、綾袮さんを傷付けて…殺していたのかもしれない相手を大切にしろなんて、それこそ言われた側の気持ちを考えていない発言。それを言ってから気付いた俺は後悔し……けれどお二人は、優しく俺に言葉をかけてくれた。大丈夫だ、と肩に手を置いてくれた。…父さんと母さんが俺の背中を押してくれた時も、刀一郎さんに釘を刺された時も思ったけど……あぁやっぱり…大人って、凄いんだな…。
「……もし、二人に何かあれば…」
「その時は勿論、二人の安全を最優先にして動くわ」
間を開ける事なく答えてくれた紗希さんの言葉に、じわりと生まれる安心感。何も変わってなんかいないけど…こうして即答してくれる人なら、万一の事あってもきっと大丈夫だと、俺は思う事が出来た。…まぁ最も、その『万一』が起きないのが一番良い……
「…っと、二人から連絡来ました。えっと…って、これは……」
不意に携帯の振動が伝えてきた、フォリンさんからのメッセージの受信。電話じゃないって事は十中八九緊急の連絡じゃない訳で、それが頭にある俺は普通にメッセージを開き……一瞬固まった。そして、すぐに我に返り……俺はお二人へ、そのメッセージの文章を見せる。
「……へぇ、やるじゃない二人共」
にぃ、と綾袮さんを思わせる、けれど綾袮さんよりもずっと大人っぽい笑みを浮かべる紗希さん。深介さんも紗希さん程じゃないものの口角を上げていて、お二人が本心からラフィーネさん達を賞賛してるって事が伝わってくる。
メッセージに書かれていたのは、自分達の事を気取られる事なく魔物を発見出来たという事と、その魔物は暫く校舎の外壁を動き回った後、体育館の外壁へと移動し、そこでも動き回ってから校舎に戻り、屋上へと向かっていったという報告。
(なんでうろうろしてたのかは分からない。狙う相手を品定めしていたのか、単なる習性なのか、それとも全然違う理由なのか。…でも、何にせよ…大事なのは、最後の一文)
二人の発見した魔物は、最終的に屋上へと向かっていったらしい。それ自体は単なる事実だけど、もし屋上が体育館の様な通過点ではなく、終着点だとしたら……
「…屋上に、何かがある…そういう事ですよね?」
「それは早計よ。まだ一例に過ぎないし、屋上経由で校内に入っているのかもしれないもの」
「けれど、貴重な情報ではあるし、次の行動の指針も見えた。出来る事なら、もう何体かも屋上に向かうかどうかを確かめたいところだけど……」
「そんな簡単に出来るようなら、もう既に確認しているでしょうね。一先ず顕人君、その情報を綾袮達にも伝えてあげて」
情報共有の指示に頷き、俺は電話で情報を伝える。メッセージにしなかったのは、細かな認識の食い違いを避ける為。
「…うん、うん。頼んだ」
千㟢には普通に、まだクラスの方で動いてる綾袮さんには屋上含めた上層階の情報だけを伝えて、通話終了。携帯をしまい、俺は次の行動をお二人に訊く。
「ここからは、どうしますか?」
「当然動くわ。こちらが情報を得た事を気取られる前に、最低限屋上だけでも確認しておきたいもの」
「…分かりました」
返ってきた言葉に頷き、俺は屋上へと繋がる階段のある場所にお二人を案内開始。
それと同時に、ここからは荒事になる可能性も高い…と気持ちを引き締める。今回は普段と違って、自衛レベルの武器しかない。だからいつも以上に、油断なんてしていられない。
「…ここです」
「そのようだね。……じゃあ、紗希」
「えぇ。こっちは任せるわよ」
屋上への階段前に着いたところで、俺は道を開ける。するとお二人は頷き合って……紗希さんが階段前から離れていく。
「へ……?」
「ただの別行動だよ、心配しなくていい」
「あ……えと、はい…(別行動…?屋上じゃない可能性も考慮してる、って事…?)」
意味が理解出来ない俺に対して、深介さんは慣れた様子。ただのも何も、と思った俺だけど、既に紗希さんはまあまあ離れた距離にして、深介さんも階段を登り始めている。なので俺も疑問は一旦保留にし、深介さんに続いて屋上の前へ。
「…さて、運が悪ければ開いた途端に戦闘になるかもしれない。顕人君、覚悟はいいかな?」
「大丈夫です、心構えは出来ています」
「それは良かった。…因みにこういう時、綾袮ならなんて言うんだい?」
「綾袮さんなら、ですか?……言うべき事はちゃんと言ってくれた後、軽い調子で『いつも通りに頑張ろっか』…みたいな事を言ってくれます、かね…」
「へぇ、言うべき事はちゃんと言っているのか。…悪いね、綾袮の様に軽い調子で気の利いた事を言えなくて」
「い、いえ…むしろ、異性の親に軽い調子で何か言われても反応に困ってしまうので……」
「あぁ、それもそうだね。……じゃあ、行くよ」
余裕の表れなのか、俺の緊張を解す為なのか、それともその両方なのか。とにかく俺は深介さんとそんなやり取りを交わし、その後深介さんは扉のノブに手をかける。
当然ながら、屋上への扉は施錠されている。けれど深介さんは静かに、けど明らかに力技で鍵を破壊し、ゆっくりと屋上への道を解放。そして、見えてきた屋上には……何もいない。
「……見当、違い…?」
「……いや、後ろだよ顕人君」
何かしらあると思っていた俺は何もない事に軽く驚き、それから見回しつつも屋上の中央辺りまで移動。けれどやっぱり何もない屋上に、俺は拍子抜けしかけて……その時、深介さんは淡々と言った。
後ろ。その言葉で一気に緊張感が走り、ばっと振り向く俺。すると背後、俺達が出てきた階段室の上には……
「──これはまた、ありがたくない客が来ちまったな」
……俺達を見下ろす、一見人の様な…でも何かが根本から違う存在、魔人がいた。
「……っ…!」
「ただの人間…じゃねぇな、やっぱ。霊装者か」
青年の様な外見を持つ魔人は、俺と深介さんを一瞥すると続けて言葉を発する。対してゆっくりと振り返った深介さんは何も言わずに、感情の読めない顔で魔人を見やる。
「…お前が、親玉か……」
「親玉?…あぁ、そういう事か。ちっ、あのサイズでも見つかる時は見つかるもんなんだな…」
「…何が目的だ」
「はっ、なんでそれを人間に…それも霊装者に言わなきゃいけねーんだよ。どうだっていいだろうが」
ぶっきらぼうに返答してくる魔人に、仕掛けてくるような動作はない。…でも、気は抜けない。俺にとっては魔人と言うだけで、まあまずまともに戦って勝てるような相手じゃないんだから。
(やっぱり、話してくれる訳がないか…。一応言ってはみたけど、こいつも人を見下して……)
「……と、思ったが…あー、あれか…言った方がむしろ楽か…。…よし、さっきのは無しで教えてやる」
「……へ…?」
あの日戦った魔王も、手負いの状態となっていた魔人も、人を自分よりも格下の存在として見ていた。確かに魔人や魔王程の力があれば、人を格下として見るのも無理はないのかもしれないけど……と俺が思っていたところで、不意に魔人は主張を覆す。
「へ?じゃねぇよ、訊いといて何ぼんやりした顔してんだ」
「い、いやそれは…というか、別にぼんやりした顔は……」
「落ち着くんだ、顕人君。相手のペースに乗せられちゃいけない」
急に変わった主張とぶっきらぼうな物言いに、思わず素の反応をしてしまう俺。けれどその俺を深介さんは手で制し、そこで初めて魔人へ対して言葉を発する。
「教えてくれるというなら、素直に聞くとしようか」
「気に食わねぇ言い方だな……ふん。オレは探し物をしてるだけだ」
「探し物?」
「探し物は探し物だ」
俺に変わる形で深介さんが魔人とやり取りし、魔人の目的か『探し物』だと判明。何を?…というニュアンスを込めて深介さんは訊き返したものの、答えるつもりがないのか、それとも単に伝わらなかっただけなのか、それに対する答えはない。
「…って訳で、オレは忙しいんだよ。今回は見逃してやるから、さっさとどっか行きやがれ」
「忙しい?…それにしては、ただ立っているだけのようにしか見えないな」
「はんっ、見て分かんねぇのかよ。オレはただ突っ立ってるんじゃなくて……」
「…………」
「……って、テメェ…このオレを嵌めようとするなんて、良い度胸してんじゃねぇか…」
「さて、何の事やら」
いつも俺や綾袮さんと話す時と同じ調子で、けれど温かさの感じられない声で言葉を発する深介さんを、魔人は睨む。
惜しい、と思った。深介さんが魔人から何をしていたか…目的ではなく行動を引き出そうとしていたのは、俺も気付いていたから。結果魔人もギリギリで気付き、情報は引き出せなかったけど……魔人相手にいとも簡単にこんな事が出来る深介さんが、俺にとっては凄く心強かった。
(…って、心強い…なんて思ってちゃ駄目だ。俺だって、観客じゃないんだから…!)
心強いのは事実。けど、魔人と相対しているのは俺も同じ。その俺が、傍観者気分にだなんてなってていい筈がない。
「けっ、調子乗ってんじゃねぇよ。それよりさっきの言葉が聞こえなかったのか?…俺も邪魔されたくねぇんだ、とっとと失せろ」
「悪いがそれは出来ない相談だね。お前こそ、探し物なら人のいない場所でやったらどうだい?」
「馬鹿か、探し終える前に場所移ったら意味ねぇだろうが。それとも何か?俺に殺されてぇってか?」
「それは勘弁だね。お互い穏便に済まそうじゃないか」
「そうだな、って訳でもう一度だけ言ってやる。とっとと失せろ」
深介さんと魔人。双方の視線が、言葉がぶつかり合う。当然お互い引く事はなく、相手に退けと主張を示す。そして魔人が最後通牒の様に言い放って……やり取りが、途切れた。
高まる緊張感。服の下で立つ鳥肌。対話で解決しないのなら、その後に起こる事なんて一つしかない。そう思って俺が神経を研ぎ澄ませた……その時だった。
「…ふぅ、ならやる事は決まったね」
「……え…?」
小さく嘆息した深介さんは、魔人と相対した時と同じように振り返る。交渉決裂を宣言するでも、先制攻撃を仕掛けるでもなく……この瞬間深介さんは、魔人に背を向け、階段室へと向き直ったのだった。
「…少し、肩に力が入り過ぎだね。それじゃあ無駄に疲れてしまうよ。緊張から無意識に入ってしまうものではあるけれど、確認する癖をつけた方がいい」
「あ、はい……って、そ、そうじゃなくて…!え、本気ですか…!?」
「勿論。本気も何も、冗談で魔人に背を向けると思うかい?」
「それは……」
投げかけられた問いに、俺は詰まる。別に分からないからじゃない。答えるまでもなく、冗談でそんな事する訳がないと分かるから。
だけど、だからこそ俺は素直に飲み込む事が出来なかった。意味が分からなかった。その選択をする理由も、出来る理由も。
「なんだ、言うだけ言ってそれかよ。まぁいいが」
「…いいん、ですか…?もしもこのままいたら、魔人は……」
「問題ないよ。確かに放置すれば魔人は何をするか分からないけど……」
拍子抜けした表情の魔人には、確かに襲ってくる気配はない。…けれど、それでいいのか。深介さんは、それでいいと思っているのか。そう思って、それは後回しに出来なくて、俺は訊いた。それでいいんですか、と。
その問いを聞いても尚、深介さんの表情は変わらない。落ち着いた顔で、さも当然かのように……
「──奴は、これから力尽くで退場させるんだからね」
『……──ッ!?』
……そう言った瞬間、屋上の先から紗希さんが現れ、肉薄と同時に手にした太刀で魔人へと斬撃を放った。
「な、に……ッ!?」
「紗希!」
「えぇッ!」
同じ様に目を見開く俺と魔人。咄嗟に魔人は靄を纏わせた両腕で斬撃を防御するものの、その背後を鋭く反転し拳銃を抜き放った深介さんの射撃が襲う。
その射撃が届く寸前、魔人は紗希さんを横へ弾きつつ自身も跳んで銃弾を回避。けれどお二人は凌がれた事を気にも留めず、声を掛け合い即座に次なる攻撃へ。
「テメェ、逃げるんじゃなかったのかよ…ッ!」
「まさか。そもそも、私はいつそんな事を言ったとでも?」
「……!(そうか…確かに深介さんは、ただ背を向けただけ…。じゃあ、さっきまでのは…油断させる為の行為……?)」
恐らくは下の階の窓から跳んで来たのであろう紗希さんにも、紗希さんと連携し絶妙な位置やタイミングで弾丸を撃ち込む深介さんにも、引く様な素振りは一切ない。…つまりは、そういう事。深介さんの言った「退場させる」という言葉の証明。
……って、だから俺は傍観者じゃないんだよ…!もう戦闘は始まってるんだ、やる事は一つだろうが…!
「援護します…!」
「あぁ、君はとにかく思うようにやってくれればいいよ。必要なら私達が合わせるからね」
「え、でも……」
「大丈夫だよ。それに…君は、私達に合わせられるかい?」
「……っ…!」
年齢も立場も実力も、全てにおいて目上のお二人に合わせさせるなんて。…そう思った俺だけど、次なる言葉に気付かされた。二対一とはいえ、まだ戦闘は始まったばかりとはいえ、魔人相手に次々と攻撃を仕掛けられる実力とコンビネーションを持つ二人に、俺が合わせられる訳がないと。
(…そうだ、変に俺が気を遣ったって、上手くいかないどころか足を引っ張る事になりかねない。だったら、俺は言われた通り……)
今俺の手元にあるのは拳銃だけ。これ一丁じゃ、俺の霊力量をまるで活かす事が出来ない。けれど戦えない訳じゃないし、霊力量を活かせなきゃ何にも出来ない訳でもない。…だから……
「…今、やれる事を尽くす……ッ!」
魔人の移動先を予測して一発。お二人の攻撃に追撃をかけるように、更に一発。そして俺は、さっき深介さんに言われたように、『今』という状況に合わせて出来る事を……選択する。
前話から、ご覧の通り文頭に空白を入れるようにしました。暫くはこの形で続ける予定ですが、何かご意見がある際は是非どうぞ。