双極の理創造   作:シモツキ

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第十二話 それぞれで選ぶ道

俺が時宮に話をした日の二日後、月曜。その日の昼休み。

 

「ん?千嵜、その唐揚げ冷凍じゃないやつ?」

「おう、昨日の残り物だ。…つっても、最初から今日のおかずにする為に多めに作ったんだがな」

「ほんとちゃんと料理してるんだなぁ…」

「緋奈に任せる訳にはいかないからな…一個食うか?」

「あ、いいの?ありがと」

 

自分の箸で唐揚げを一つ取ってもぐもぐと咀嚼する御道を横目に見つつ、白米を口に運ぶ俺。…さて、これでまた一つ御道に恩を作っておけたな……。

 

「……んぐっ!?げ、げほげほっ…おまっ、そんな理由でこれまで時々くれてたのか!?えげつなッ!」

「冗談だ。地の文にまで反応して突っ込んでくるとは流石だな、御道」

「そんな訳の分からない賞賛は要らんわ!」

「唐揚げは要るのに?」

「唐揚げと謎の賞賛は同列じゃないって…」

 

5〜6人で弁当や購買のパンを囲んでる面々にも劣らない温度で会話をする俺達二人。…因みにうちのクラスで一番賑やかな食事グループは、時宮と宮空が中心となっているグループである。だからなんだという話だが。

 

「へいへい…因みに、なんか感想あるか?出来れば料理の向上に繋がりそうなやつだとありがたいんだけど」

「そうだねぇ…衣がしなしなになってるのはなんとかならないでしょうか」

「そりゃ無理だな、プロならともかく俺じゃしなしなにならん唐揚げは作れない」

「そうか…俺もそんな舌が肥えてる訳じゃないし、俺より緋奈ちゃんに聞いたら?」

「ま、そだな…そういや……」

 

ふと思い出した様な言い方で…実際にはそんな雰囲気になる様狙って、俺は所属の件を切り出そうとする。それは勿論、御道がどんな答えを出したか気になったから。……が、それは御道の元へとやってきたクラスメイトによって遮られてしまった。

 

「な、御道。お前現代文の宿題やったか?」

「ん?そりゃ五時間目に提出だしやったけど…」

「だよな?頼む、貸してくれ!」

「えぇー…お前先週もそう言って写してなかった?」

「まぁまぁ頼むよ、ジュース一本奢るからさ」

「仕方ないなぁ…ほら」

「よっしゃ!ありがとな御道!約束通りスペシャル青汁ジュース買ってくるぜ!」

「いやそれお礼どころか罰ゲームじゃん!っていうかそんなのうちの学校の自販機にないよねぇ!?」

 

借りた課題プリント持ってクラスを出ていくクラスメイト(名前なんだっけ?)と、走り去る彼に叫ぶ御道。……ぼっち予備軍の俺にとって御道は数少ない友人だが、御道にとっては俺以外にも色んな奴と合流がある。…御道は、そんな生活を…普通に幸福な、普通の生活を捨てるだろうか?少なくとも、俺は捨てないが…俺と御道じゃそもそも立場が違うしな…。

 

「まさかほんとに買ってくる気じゃないだろうな…」

「さぁな、買ってもらうんだからちゃんと飲むんだぞ?」

「えぇー……っと、千嵜さっき何か言いかけてなかった?」

「あぁ、んーとな……」

 

さっきは自然(と俺が思える)な流れで言おうとしたものの…それが無くなったとなると、ちょっと聞き辛い。うーむ、もう一度流れ作りからするのは面倒だし、ここは……

 

「俺先週、時宮からナイフ渡されたんだよな」

「へっ……?…な、何その物騒な話…」

「…あ、ナイフってフォークと一緒に使う奴じゃないぞ?」

「分かってるよ!分かってるから物騒なって言ったじゃん!人の話聞いてる!?」

「聞いてない」

「じゃあお前とは会話出来ねぇよ!」

「だよなー……チラッ」

「チラッってなんだチラッって!突っ込んでほしいの!?だよなーって返せてるなら話聞いてるじゃねぇかって突っ込んでほしいの!?」

「うん、お前やっぱ面白いよ。お笑い芸人目指せるよ」

「そんな話じゃねぇだろうが……」

 

一応俺としては土曜の出来事を話すつもりだったのだが…つい普段のノリでボケ倒してしまった。いかんいかん……。

 

「ま、時宮は護身用に渡してくれたんだが…同級生にナイフ渡す女子高生ってどうなんだろうな」

「どうって…そりゃ普通じゃないけど、霊装者の時点で普通じゃないって話でしょ?」

「そらそうだわな、しかも時宮は名家のお嬢様な訳だし」

「…関わりがある相手とはいえ、千嵜が緋奈ちゃん以外の人の話をするなんて珍しいね。……まさか気になっちゃった?」

「はぁ!?…なんでそうなるんだよ……」

「だよねぇ、千嵜って普通の恋愛しなさそうだし」

「おい待てそれはどういう事だ…」

 

真偽はともかく、御道の口ぶりには明らかに弄りのニュアンスがあった。言ったなこの野郎、弄り返してやろうか…と一瞬俺は思ったが、ここはぐっと我慢。ここで弄り返す様じゃ聞きたい事を聞く前に昼休みが終わっちゃうぞ俺…!

 

「ったく…で、お前はどうなんだ?何か変なもん貰ったか?」

「変なもの…は貰ってないね、うん」

「そうか……」

 

今のやり取りで、御道が武器の類いを宮空から受け取っていたりはしない、という事が判明した。……が、だからってまだ御道の選択ははっきりしていない。時宮の言葉から考えるに、ナイフ渡してきたのは時宮の独断っぽいしな。

と、俺が思っていると…御道は怪訝な顔で口を開く。

 

「……千嵜、もしかして…なんか言い辛い事でもある?」

「…そう思うか?」

「そりゃ普段ズバズバ言う奴が歯切れの悪い事言ってりゃそう思うよ」

「あー…だよな、素直に言うか……ごほん、お前結局どうしたの?」

 

察された事は少し恥ずいが…結果的には御道が質問のお膳立てをしてくれた。……で、その結果がこの質問。普通過ぎるなぁ…と若干の自己嫌悪をしながら返答を待つ俺。

すると御道は、「あ、その事か…」という表情を浮かべ────

 

 

 

 

「やっほ、顕人君」

「おはよ、綾袮さん」

 

挨拶を交わす俺と綾袮さん。そこそこ爽やかな土曜の午前に、同級生と挨拶を交わすのは決して嫌な気分じゃない。それが……

 

「──それが、自分の家の前じゃなきゃあねッ!」

「うわぁ!?きゅ、急にどしたの!?」

 

土曜の午前から路上で叫ぶのはあんまり宜しくない事だけど…叫ばずにはいられない。いやだって今知ったもん!昨日帰りに「ちょっと明日の午前十時位に外出てくれないかな?」としか言われてねぇもん!それだけで想像出来るか!思春期の男子の家に理由も言わず思春期の女子が訪れるなんて想像出来るか!来るなら来るって言うよな…言わないって事は別の意図かな…とか思うわ!

 

「え、えーと…取り敢えず落ち着こ?流石のわたしもこれには軽く引いてるから、ちょっと落ち着こ…?」

「なら理由をきちんと言ってくれませんかね…!」

「う、うん。以後気を付ける。綾袮これからは気を付ける」

「ほんとそうして…それで、何の様?」

 

頭を掻きながら問う俺。これがきちんとした客人なら、家は招くのがマナーだとは思うけど…きちんとした客人じゃないし。それ以前にこんな朝から女の子家に招いたら、両親に勘違いされるし。

 

「なんのって…あれ?言ってなかったっけ?今日までに決めてほしいって」

「あぁ…そういう事ね、忘れてないよ」

「なら良かった。それじゃ、答えをどーぞ」

「あ、はい。しっかりと考えた結果…やはり所属したいと思います」

「OK、じゃあ行くよ」

「……うぇ?え、ど、どこに?そして…反応軽くね…?」

 

綾袮さんの事だから、あんまり重々しい話の運びはしないと思っていたけど……これは幾ら何でも軽過ぎる。あ、あれ?これ部活の仮入部の話だっけ?或いは委員会の話だっけ?違うよね?

 

「どこってのは双統殿だよ。それと反応については…そう言うんじゃないかなぁ、って思ってたからかな」

「…俺の意見は変わらない、と思ってたって事?」

「ううん、しっかり考えた上で改めて『所属する』って選ぶんだろうなって思ってたの。…でもま、やっぱり理由位は聞いておこうか。それもわたしの役目だからね」

 

手を後ろで組んで、じっと俺を見る綾袮さん。綾袮さんの目は言っている。理由を話して…と。

 

「……ここで?」

「何十分もかかるなら場所移すけど…別に他人に聞かれちゃ不味い様な理由じゃないでしょ?」

「それはそうだけど…ほら、ご近所さんに見られるとか…」

「えっ…あ、顕人君はわたしを『普通の人は見るべきではない醜悪な存在』とでも思ってるの…?」

「今の台詞から何故そうなったし!……あーもう、分かったよ…」

 

生来の突っ込み気質のおかげか、俺はこれまでそれなりの人数のボケ人間と会話をしてきた。…だから、分かる。今の綾袮さんは、言っても聞いてくれない、さっさと済ませちゃうのが一番のモードに入っているのだと。……ま、時間帯的にそう積極的に人が外に出てくる時間でもないしいいか。

 

「…先に言っておくけど、『いい歳してなに言ってんの…』と思うのはいいけどそれで笑うのは止めてよ?他人にとってはくだらなくても、俺にとっては大切な事なんだから」

「分かった、笑わない」

「あ、結構すんなり了解してくれるんだね…」

「顕人君が真剣に言ってるのは一目瞭然だもん。真剣になってる人を笑う事なんかわたししないもんね」

「そっか…」

 

そういう綾袮さんの顔もまた、真剣な様子。それを見て俺は少しほっとした。……よし。

 

「……もしかしたら薄々感じてたかもしれないけどさ、俺はそういうのを夢見てたんだよ。…所謂、非日常ってやつをさ」

「あぁ…言われてみると、確かにそんな節があったね」

「うん。で…よく考えたけど、危険があるって事も考えたけど、それでも非日常への夢の方が上回っていた。……簡単に言うとすれば、こんな感じかな」

「ふぅん……うん、そっかそっか」

 

綾袮さんは自分の中で聞いた言葉を咀嚼する様に頷いた。その表情には、肯定の色も否定の色も浮かんではいない。…それが、俺にとっては少し驚きだった。

 

「…怒ったり落胆したりしないの?」

「怒ったり落胆したり?どうして?」

「どうして…って、言ってたじゃん。面白そうとか…後、刺激的だっけ?…で所属を決めちゃう人がいるって。…それと俺の理由とは、結局のところ大差ない事だよ?」

「あー…それは言ったけど、ちょっと顕人君は勘違いしてるね」

「勘違い?」

「わたしその後に言わなかった?そんな感じで『軽々しく』決める人がいるって」

 

綾袮さんの言葉を受けて、俺は確かにそう言ったな…と思い起こす。そりゃ、軽々しくなんてあの時もそれ以降も、一度たりとも考えた事はなかったけど…。

 

「簡単にしか聞いてないから断定は出来ないけど…顕人君は、軽々しさとは対極にある位考えて、確固たる思いでもって選んだんでしょ?」

「……別にさ、これは叶えなきゃならない夢ではないよ。今の生活が嫌な訳じゃないし、俺はそこそこ恵まれた環境にいると思う。けどさ…」

 

綾袮さんの澄んだ瞳で、そんな事を言われて…言いたくなった。隠すつもりはないし、最初から追求されれば言うつもりだったけど…そんな事関係なしに、俺は綾袮さんに伝えたくなった。決意を、夢を追う意思を。

 

「…そんな冷静な思考で、合理的な考えで、『普通』に馴染みきれない心で…幾ら抱いても抱ききれない夢を掴むチャンスを逃せる訳ないじゃん。逃したら後悔するって、ずっと『もし掴んでいたら…』って引きずり続けるって分かりきってるのに、そちら側を選べる訳がないじゃん。……だから、俺は選んだ。夢を追って後悔するのと、夢を諦めて後悔するのとなら────夢を追って、後悔もしない方をね」

 

それは、賢者からすれば…いや、まともな大人からすれば、馬鹿な子供の考えなんだと思う。でも、俺はそれで良い。だって、俺がなりたいのはまともな大人じゃなくて、夢見た先に立つ、自分自身なんだか──

 

「……ぷっ、あはははははっ!ゆ、夢を追って後悔もしない方って、それどっちでもないじゃん!その選択肢なかったじゃん!え、まさか顕人君って前提ぶっ壊すタイプの人だったの!?それはちょっと意外過ぎだよ!あはははははははっ!」

「え、ちょっ…えぇぇぇぇええええええッ!?笑われたぁぁぁぁっ!?」

「だ、だってこんなどんでん返しされたら笑っちゃうよ!……ぷ、ぷぷっ…あははははっ!」

「わ、笑いの第二波!?いやさっき言ったじゃん!笑うのは止めてって!綾袮さんも笑わないって言ったよね!?ねぇ!?」

「わたしが笑ったのはそこじゃないもーん!ぷー、くすくす」

「第三波!?…ってそれはわざとだよね!?弄り目的の故意だよねぇ!?」

 

酷ぇ、シリアスシーンだと思ったらまさかのギャグシーン入りだった。ほんと酷ぇ。

そう思って項垂れる俺。なんか凄い恥ずいし、これは完全に言わなきゃよかった気がする。あーあ、最悪だ…。……なんて、思った俺だけど……

 

 

 

 

 

 

「────でも、そんな顕人君はちょっと格好良いかな」

 

…そう言ってもらえた事は、にっこりと笑った綾袮さんを見られた事は、幸福だったのかもしれない。

 

 

 

 

語り終えた御道は、ふぅ…と一息ついて茶を飲んでいた。決して悪くない表情を浮かべて。

 

「…自分語り、になっちゃったかな」

「あ、あぁ…まぁ、そうかもな…」

 

自分語り。確かにそう言われればそんな気もする。とはいえ聞いたのは俺の方なんだから、御道がそれを気にする必要はない。…ま、全部語れとは言ってなかったんだけどな…。

 

「……知らなかったよ、お前がそんな夢持ってたなんて」

「言ってなかったからね。…と言うか普通恥ずかしくて言えないって…」

「や、いいんじゃねぇの?夢は人それぞれだしよ」

「…あの千嵜が素直に肯定してくれるなんて…マジか……」

「お前俺をなんだと思ってるんだよ…」

 

冗談とか皮肉とかではなく、本当に御道は驚いていた。…俺そんな感じに思われてたのか…いや思われるか、うん。俺お得意の自業自得だな。……さて、と。

 

「ん?どっか行くの?」

「ちょーっとな、野暮用だよ野暮用」

 

弁当箱を閉じ、俺は席を立つ。昼休みの終わりまでは…まだ少しあるな。

 

「…………」

 

教室を出て、廊下を抜け、特別教室棟まで足を運ぶ。ここに来た理由は単純明快。人気のないところに来たかった、ただそれだけ。

 

「……ったく、馬鹿かよあいつは…宮空も宮空でなんで止めねぇんだよ…戦場を知ってる奴がそんな事言うんじゃねぇよ…」

 

壁に背を預け、頭を乱暴にかきながら、ため息混じりにそう吐き捨てる。

 

「そんな甘いもんじゃねぇんだよ…夢のあるもんじゃねぇんだよ、戦いってのは……」

 

正直、俺は御道が所属を選ぼうが選びまいが、その選択に綾をつけるつもりはなかった。宮空同様御道は安易に物事を考える奴じゃないと思っていたし、そもそも俺は所属しないと決めた身。その俺がどうこう言うのはそれこそ余計なお世話だと考えていた。

けど、俺は断言出来る。──御道の思いは、間違っていると。

 

「……でも、ならそれを伝えるのかって話だよな…」

 

俺がどう思おうと、俺が何を知っていようと、口に出さずには伝わらない。考えを変えさせたいなら、それを伝える努力をしなければいけない。…その権利が、俺にあるのか?それに…伝えるなら、俺の過去もきちんと話さなければいけないんじゃないのか?……そこまで、する事…なのか…?

 

「……俺は、無責任な奴だよな…」

 

自分は何かしてやる訳でもないのに貶して、しかも相手を気遣うという定で陰口叩いて、結局その相手より自分の事を大切にして……これを無責任と言わずして、何というのだろうか。

その日俺は、遂にその事に触れず終えてしまった。その日分かったのは、御道の夢、俺の無責任さ、そして……俺と御道は、やっぱり全く違う場所にいて違うものを見る人間なんだという事だけだった。

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