双極の理創造   作:シモツキ

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第百三十二話 逆襲の炬燵

 その日俺は、双統殿に来ていた。…と言っても、双統殿に行くのはそんな珍しい事じゃないし、春先は毎回入るだけで緊張していたここも、今となってはなんて事ない。…まぁ、偉い人に会うとかならまた別だけど。

 

「…ふぅ……」

 

 ウォーターサーバーで淹れた水を飲みながら、現在俺は待機中。何を、と言えば検査で、誰を、と言えばラフィーネさんとフォリンさんを。

 二人は定期的に、検査を受ける事になっていた。それは二人に対する疑いがまだ晴れ切ってはいないからであり、同時にBORGにて人体実験を受けていた二人の身を案じた決まりでもある。

 

(…落ち着かないなぁ……)

 

 付き添い…って訳じゃないけど、検査を待っている時はいつも落ち着かない。俺の知らないところで何かされてるんじゃないかとか、命に関わるような異常が発覚したらどうしようとか、どうにもマイナスな事を考えてしまう。

 

「…実際、そうなったらどうすりゃいいんだろうな……」

 

 もしそうなったら、どうすればいいのか。俺には何が出来るのか。…そこまで考えると、本当に怖くなる。怖くなるし、改めて感じる。俺自身の、力の無さを。

 

「…………」

「顕人、お待たせ」

「あ……うん、お疲れ…」

 

 そんな事を考えて数分。軽く指を絡ませた両手を見つめていた俺は、名前を呼ばれて顔を上げる。

 

「……何か、ありましたか?」

「へ?…いや、何もないけど…なんで?」

「顕人さん、暗い顔をしていましたから」

「…してた?」

「うん」

 

 立ち上がったところで、フォリンさんからかけられた言葉。どうも俺は思考で顔が曇ってしまっていたらしく、訊き返すとすぐにラフィーネさんが頷いた。

 

「してたのか…ごめん、気にしないで。ちょっと考え事をしていただけだから」

「…明日の朝ご飯の事?」

「朝ご飯の事なら暗い顔なんてしないよ……って、もしや…今のボケ、俺に気を遣ってくれた?」

「ううん、なんとなく言っただけ」

「そ、そう……」

 

 ちょっと期待してみたけれど、結果は空振り。ばっさりと切り返してきたラフィーネさんに、内心しょんぼり。…てかちょっとこの勘違いは恥ずい。

 

「…こほん。二人共、何か異常とか問題はなかった?」

「はい、今回も異常無しです」

「そっか、それなら良かった」

「でも、フォリンはちょっと体重が……」

「わぁぁっ!?ちょっ、何を言おうとしてるんですかラフィーネっ!」

「…駄目だった?」

「駄目に決まってます!駄目ですから覚えておいて下さい!」

 

…とか思っていたら、今度はラフィーネさんの言葉にフォリンさんが滅茶苦茶テンパっていた。そりゃ止めるわなぁ…と思ったけど、何にせよラフィーネさんは時々何を言い出すか分からないから恐ろしい。……増え、たのかな…?いやでも、減ってたとしても体重の話を異性の前でされるのは避けたいか…。

 

「…………」

「…な、何見てるんですか顕人さん……!」

「えぇ!?何もなにも、単にそっちに視線向いてただけだよ!?」

「…顕人……」

「ちょっと!?冷めた目で俺を見るのは止めて!?てかこの状況、発端はラフィーネさんの発言だからね!?」

 

 しかもなんと、こっちに被害が飛び火してきた。…マジで恐ろしいな、ラフィーネさん……。

 

「はぁ…じゃ、綾袮さんの所行こうか。向こうもそろそろ終わるだろうし」

「…すみません、いつも手間をかけさせて」

「気にしないでよ、これ位」

 

 一つ溜め息を吐いた後、俺は別の場所にいる綾袮さんと合流すべく歩き出す。その際フォリンさんが言ったのは、「二人だけで施設内を歩き回ってはいけない」という二人に課せられた規則の一つで、だからいつも検査の時は俺か綾袮さんが一緒に来ている。

 俺はこれを、苦とは思っていない。けれどそれも当然の事。これは俺が選んだ道の、結果なんだから。

 

「顕人、今日の綾袮の用事は……」

「確か、文化祭に現れた魔人の調査結果報告と、今後の対策会議だった筈だよ」

 

 道中投げかけられた問いに対し、俺は聞いた事を思い出しながら答える。因みに調査結果報告とは言うけれど、実際にはまだ足取りを掴めていないとか。

 

(対策と言えば、前の時は綾袮さんも結構忙しかったんだよね…今回もそうなるのかな…)

 

 そうして移動する事数分。幾つかある会議室の内の一つ、その近くの休憩所に着いた俺は見回してみるけど、そこに綾袮さんの姿はない。

 

「ここで待っててって言われたけど…いないって事は、まだ終わってないのか……」

「ううん、そうとは限らない」

「え、どういう事?」

「綾袮なら、こういう時……」

「ばぁっ!」

「うわぁ!?」

 

 俺の言葉に異を唱えたのはラフィーネさん。その理由が気になって振り返ると……次の瞬間、突如綾袮さんが非常口の扉から現れた。

 

「…脅かそうと隠れてるかもしれない」

「お、遅いよラフィーネさん……」

「あははははっ!驚いた?ねぇ驚いた?」

 

 びくぅっ!…と肩が思い切り跳ねる程俺は驚いた一方、ラフィーネさんは冷静そのもので、フォリンさんも少しは驚いたようだけど、俺程目立った反応はしていない。つまり、分かり易く驚いたのは俺だけで……それはもう恥ずかしい。恥ずかしいったらありゃしない。

 

「ねぇ驚いた?…じゃねぇ…非常口を悪戯に使うってどんな神経してんの…!?」

「ちっちっち。これは非常口を使う事で、万が一の時皆がここに非常口があるんだって事を思い出せるようにする為の行為なんだからね?」

「絶対嘘だ……」

 

 確かに強烈な印象としてここに非常口がある事は残るけれど、間違いなく目的は悪戯にある。これはほんとに断言出来る。だって、綾袮さんだし。

 

「はぁぁ……じゃあ、会議は終わってたのね…」

「顕人、今日はよく溜め息吐いてる」

「誰かさん達のせいでね!後まだ二回目だけどね!」

「どーどー、ほら猪のバラ肉あげるから」

「そんなんで気は収まら……猪のバラ肉!?そんなもん持ち歩いてるの!?」

「嘘だよ?」

「だよねっ!はっ倒すよ!?」

 

 あんまりなボケの連続に、流石に少し物騒な事を言ってしまう俺。…悪くないよね、うん。俺は悪くない。

 

「ごめんごめん、会議は終わったから大丈夫だよ」

「そうかい……で、何か決まったの?」

「んー、まぁね。詳しい事はまだ言えないけど」

 

 そう言って肩を竦める綾袮さんの表情には、ほんの少しだけど曇りがある。その理由は……間違いなく、それだけ厄介な事だからだろう。だろうっていうか、実際厄介じゃない訳がない。

 

「じゃあ、また前みたいに綾袮さんは忙しく?」

「かもね。今回は支部とも全面的にも協力するし」

「支部?」

「あれ、忘れてた?ここは協会の本部で、支部も各地にあるんだよ?」

「あ……」

 

 何言ってんの?…と言いたげな綾袮さんに言葉を返され、それで俺も気付く。言われてみれば…というか言われるまでもなく、日本全体を双統殿一つでカバーするなんて無茶もいいところ。支部があって然るべきで、ほんとに俺は何を訊いているんだって話。

 

「丁度良い機会だから…って訳じゃないけど、前の魔人や魔王の件もまだ片付いてないからね。これで、一体だけでも討伐出来ると良いんだけど……」

「…綾袮さん、その時は……」

「うん、もしそうなった場合は、多分二人にも声がかかると思うよ。二人なら実力は十分にあるし……あんまり気分が良いものじゃない理由にも合致するし、ね」

 

 綾袮さんは、具体的な事は言わなかった。けれど分かる。綾袮さんが伏せた理由は、「二人なら命を落としても協会としての損害は少ない」…というものだって。

 そこに関して、俺は何も言えない。そこに関しても、俺はどうこうするだけの力はないから。でも、だからってただ飲み込む事も出来なくて…俺は言う。

 

「……俺にも、何か出来る事はある?」

「…それは、今後次第かな。流石にまだ始まってない段階じゃ、一人一人の役目までは決められないからね」

「綾袮さん…」

「分かってる。わたしだって、そういうのは嫌いだもん」

 

 どうにも出来ないなら、せめて少しでも助けになれれば。そんな思いを察したように、綾袮さんは頷いてくれる。……こういうところがあるから、どんなにからかわれたり性格の悪い冗談を言われたりしても、俺は綾袮さんを嫌いにはなれない。…いや、嫌いどころか俺は……

 

(…って、何考えてんだ俺……そうだよ、俺は人として綾袮さんを尊敬してるし好印象も持っている。何を今更って話じゃないか…)

 

 何となく、何故か誤魔化すように心の中で自分に言った俺は、同時に考える。もしも俺が人の上に…生徒会みたいなあくまで同じ立場の役目じゃなく、上司や先生の様な立場になった時は、綾袮さんのように大切な思いを察せられる人でありたいと。

 

「顕人くーん?何ちょっと爽やかな顔してるのー?」

「……人が思いの籠った思考をしてた時になんて言い草…ってあれ?今褒めてくれた?」

「あっ、ごめんね間違えちゃった!変な顔だったね!」

「何そのぬか喜びさせる勘違い!?そういう間違いなら訂正しなくていいから!」

「…あの、顕人さん…私少し前から思っているんですが……顕人さん恐らく、毎回そんな全力で反応するから弄られ……」

「フォリンさんそれは言わないでッ!お互いの為にも、今後の為にもそれは心の中にしまっておいてッ!」

「あ、はい……分かりました…」

 

 シリアスな気分も束の間、綾袮さんのボケとフォリンさんの俺のアイデンティティに関わる発言によってその気分は崩壊。そしてそのまま綾袮さんは歩き出し、何食わぬ顔顔のラフィーネさんと苦笑しているフォリンさんが続いた事で、危うく置いていかれる俺。

 

「…何なの…待ってた俺へ対するこの仕打ちは何なの……?」

「えー、でも可愛い女の子三人に弄られてるんだよ?男の子的にはまんざらでもないんじゃない?」

「そりゃ偶に弄られる位ならね…!」

「あ、否定はしないんだ…顕人君って、そういうところは割と正直だよね……」

「…ノーコメント……」

 

 俺だって思春期真っ盛りの男だからね。毎日一緒に暮らしててもちょくちょくドキドキする事がある位、三人は可愛いからね。…そう言ってやる事も一瞬考えたけど、そんな度胸があるなら多分俺はここまで弄られてない。だから俺はちょっと目を逸らしつつ返答を濁して……そこでふと、綾袮さんは何かを思い出したように言う。

 

「っと、そうだ顕人君。魔人絡みでわたし達に一つ任務が来たから、今の内に言っておくね」

「…任務……?」

 

 今度は何だと思ったら、冗談ではなく真面目な話。それは先に言うべき事でしょうと思ったけどまぁそれは置いといて、どんな内容なのかと耳を傾ける俺。そんな俺に対し、綾袮さんが言った任務の内容は……。

 

 

 

 

「んー…そろそろおこた出そっかなぁ……」

 

 双統殿を出てから数十分後。帰宅し(綾袮さん的にはむしろ双統殿が実家だけど)リビングに入った綾袮さんの第一声は、そんなものだった。

 

「こたつ?…まだちょっと早くない?」

「でももう寒いじゃん、ぬくぬくが気持ち良い時期じゃん!」

「…うん、まぁそういう時期になりつつあるのは事実だけど……」

 

 力強く言ってくる綾袮さんに、俺はご覧の通り押され気味。そもそも俺も出したくない訳じゃないし、出しちゃ不味い理由もないから、強く出られたら言い返せない。……え、任務の内容?それはまぁほら、実際そのパートになれば明らかになるし、ね。

 

「でしょー?だから出そうよ〜、っていうか出してよ〜」

「それが狙いか……てか、あるの?」

「うん。双統殿にはなかったから、やっと使えると思って去年寒くなるのと同時に買ったんだ〜」

「あ、そう…確かに良家とこたつってイメージ的に合わないもんね…」

 

 どうやら綾袮さんは、こたつに興味があったらしい。まあ俺も始めてこたつに入ったのは親戚の家で、その時は「おおっ!これがこたつか…!」…みたいな事を思ったような覚えがあるから、気持ちは分かるんだけど…同時にその子供っぽさに内心苦笑い。…と、思っていたら……

 

「…こたつ、出さないの……?」

「え、ラフィーネさん…?」

「こたつ、出さないんですか…?」

「フォリンさんまで……もしや二人も、こたつに興味が…?」

 

 こくこくこくこく、と目を輝かせて何度も頷くロサイアーズ姉妹。……どうやらここいるのには、こたつに興味がある人達ばかりのようだった。

 

「よいしょ、っと。綾袮さん、天板そっちズレてない?」

「大丈夫だよー」

「じゃ、こたつ準備完了だね」

『おぉー……!』

 

 で、十数分後。物置きからセット一式を持ち出した俺はそれを運び、リビングにてこたつをセッティング。天板の位置を微調整し、立ち上がったところで興奮混じりの声が聞こえてきた。…こたつを初めて生で見る人って、皆こんな感じの反応するのかなぁ…。

 

「フォリン…!」

「えぇ、見るからに暖かそうですよね…!」

「(楽しそうだなぁ……ん?)…綾袮さんどこ行くの?」

「ちょっと纏めなきゃいけない事があってね…」

「ここではやれない事?」

「うん、機密情報絡みだから…はぁ、三人は先に満喫しておいで……」

「あ、う、うん…綾袮さんも頑張って……」

 

 ラフィーネさんフォリンさんは早速こたつにインする一方、綾袮さんはちょっと哀愁を感じさせる背中でリビングを去っていく。…戻ってきたらお茶淹れてあげるとしよう…。

 

「…………」

「…………」

「……?…顕人……」

「うん?どしたのラフィーネさん」

「…これ、全然暖かくない……」

「へ?…って、いや…そりゃ電源入れてなければ暖かくなる訳ないよ……」

「えっ?…あ、こたつってそういうものだったんですね……」

 

…とか思っていたら、今度は二人が怪訝な顔に。呼ばれたから何だろうと思って聞いてみると……何ともまぁ、こたつ初心者(?)らしい勘違いをしていた。…フォリンさんがちょっと勘違いを恥ずかしそうにしていたけど、それはまぁ別の話。

 

『はふぅ……』

 

 それからまた数分。電源の入った事でこたつは暖かくなり、入っていた俺達は殆ど同時に吐息を漏らす。……まだ少し早いと思ったけど…やっぱ、いざ入ると気持ち良いなぁ…。

 

「ぬくぬく…」

「ぬくぬくですねぇ…」

(わー、二人共完全に同じ表情してる…)

 

 表情を緩ませ、揃ってぽわぽわしている二人は流石姉妹。…ぬくぬくなんて言葉、どこで知ったんだろう……。

 

「二人共、こたつは満足?」

「ん、満足…」

「これは予想以上でした…」

「なら俺も用意した甲斐があるよ。けど気を付けてね?…こたつには、魔力があるから」

『…魔力……?』

「そう、魔力。一度入ると中々出られなくなる、出たくなくなる魔力がね」

『あー……』

 

 こたつの魔力…なんて半ばこたつのお約束ネタみたいなものだけど、初体験の二人にもしっかり伝わっている様子。…いやほんと、凄いもんだよこたつって……。

 なんて事を思いながら、三人でくつろぐ事十数分。穏やかに過ごすのも悪くないなぁ、とある種俺らしくない事を思考しつつあったところで……ちょっとしたハプニングが起こる。

 

「ん、ぅ……あ」

「へっ?」

 

 数分前から、寝そべった体勢になっていたラフィーネさん。そこから枕にでもしたかったのか、ソファ上のクッションに手を伸ばすという動きをしたところで……つん、と俺の脚に何かが触れた。

 いや、ぼかした表現はよそう。ラフィーネさんの動きと、俺との位置関係からして…触れたのは、ラフィーネさんの足で間違いない。

 

「…………」

「…え、と…邪魔だった?邪魔なら少しズレるけど…」

「…ううん、そのままでいい」

「あ、そう…。ならそのまま……うぇっ…?」

 

 何をするでもなく、ただじっとこちらを見ているラフィーネさんの視線に耐えかね、俺は質問。けどズレてほしいわけじゃないらしく、だったら…と思った瞬間、また触れる。

 

「…あ、あの…ラフィーネさん…?」

「何?」

「…当たってる、よね……?」

「知ってる」

「…お、おぅ……」

 

 身体を伸ばしてクッションを掴んだところで、二度目の接触。偶然か、と思ったけど……明らかに違う。絶対に違う。だって、触れたままだもん!クッションを枕にしても尚触れてる…ってか、もはやがっつり重なってるもん!な、何のつもり!?

 

「…え、と…その……」

「…………」

「…ま、まぁこれもこたつの宿命みたいなものだしね…うん、よくあるよくあ……はい!?」

 

 クッションの上に両手を重ねて、その上に顔を置いてこっちを見ているラフィーネさんは、いつもに増して何を考えているのかよく分からない。ただ何にせよ異性と脚が重なっている状況というのは「まぁいいか」で流せる訳がなくて、俺は自分に言ってるのかラフィーネさんに言ってるのかよく分からない言葉を吐きつつ脚を離そうとし……次の瞬間、ぐっと上から力をかけられた。あ、脚をホールドされただと…!?

 

「……顕人さん?」

「あっ……い、いや何でもないよ…?」

「ほほぅ…何でもない、ですか…」

 

 俺が一人テンパっていると、不意にかけられたフォリンさんの声。それに対して当然俺は誤魔化そうとしたけど……ここまでのやり取りで何が起きてるかなんて、ちょっと考えれば分かる事。そして、それに気付いた時には…もう遅い。

 

「確かにこたつって、うっかり触れてしまう事が宿命の家具ですねぇ。大きくし過ぎると、その分暖まるのが遅くなりますし…多少は触れても仕方ない。そういう事ですよ…ね?」

「う、うん…うっかり触れる事はあるよね、うっかり触れる事は……(がっつり触れてるんですけどぉぉぉぉッ!?)」

 

 ぴたり、と脚に伝わる確かな感覚。間違いなく分かってやってるフォリンさん。もしこれが男なら、心の中だけじゃなくて実際に口にしてるし、問答無用で弾き返してるけど……いやいや無理無理無理だって!ラフィーネさんにフォールされてるから…とかじゃなくて、女の子だもん!異性に脚当てられてるんだもん!

 

「ふふっ、どうかしました?」

「ど、どうかしましたって……あ、そ、そうだ二人共お茶飲む?飲むなら俺が淹れて……」

「いえ、お構いなく〜」

「うん、飲みたくなったら自分で淹れる」

「そ、そう……」

 

 ぱっと思い付いた脱出手段は速攻で瓦解。フォリンさんはともかく、ラフィーネさん普段淹れねぇじゃん…!くそう……!

 

(お、落ち着け俺…!何も強固に拘束されてる訳じゃないし、二人は敵とは真逆の存在。だったら抜け出す方法だってひょおぉおおおおっ!?)

 

 先に断っておこう。俺は狂った訳でもないし、こたつで暫く何もしていないと奇声を上げたくなる悪癖もない。じゃあ何があったかっていうと……ラフィーネさんが片脚を俺の膝裏に、フォリンさんが片脚を俺の両膝の間に、ほぼ同じタイミングで突っ込んできたのだ。ヤベぇ、ヤベぇヤベぇヤベぇヤベぇ色々ヤベぇ!

 

「…んふぅ……」

「はふぅ……」

 

 俺の動揺はつゆ知らず、或いは分かった上でわざと、二人はぐいぐいやってくる。それはもうがっつりと、何ならちょっと面白そうに。

 ズボン越しでも、靴下やニーハイ越しでも伝わってくる、しなやかで柔らかな二人の脚の感触。気付けばもうラフィーんには完全に挟まれてるし、フォリンさんに至っては脚絡ませてるし、完璧にロック完了状態だった。強固な…それでいて何とも心地の良い魅惑の拘束。……いかん、これはいかん。非常にいかん。このままでは……

 

(変な気分になる…!というか、既にちょっとなっている…っ!)

 

 こたつの中で、外から見れば何もおかしくなさそうな状態で、女の子二人の脚が絡んでいる。柔らかい感じもしなやかな感じもばっちり感じてしまっている。そんな状況で、落ち着いてなどいられだろうか。いいや、落ち着いていられる訳がない!…っていうか、もうさ……

 

 

──ちょっと位こっちから何かしても、良いんじゃね?

 

「…………」

「……顕人さん?急に止まって、今度はどうしました?」

「…あぁ、いや…フォリンさん、そこの孫の手取ってもらえる?」

「……?…構いませんけど…」

 

 少し不思議そうなフォリンさんから孫の手を受け取る俺。これは普段、ソファ下や食器棚の裏みたいな場所に物が落ちちゃった時取り易いよう置いてあるもので、勿論俺も何かを拾いたい訳じゃなければ、背中を掻きたくなった訳でもない。

 なら、孫の手を何に使うのか。…それは見ての、お楽しみ…。

 

「ありがと、フォリンさん」

「この位構いませんよ。しかしそれで何を?」

「さぁて、何をするでしょう」

「な、何ですかその思わせぶりな反の……ひゃっ…!?」

「…フォリン……?」

 

 怪訝そうにしていたフォリンさんが不意に上げる、小さな悲鳴。それにラフィーネさんが反応し……俺はにやりと、口元を歪ませる。

 

「フォリンさん、どうかした?」

「ど、どうかしたも何も…まさか顕人さ…ふぁ……っ!」

「フォリン、大丈夫?」

「だ、大丈夫で…くふっ…じゃなくて、顕人さんが…あ、くっ…んんっ……!」

「…顕人?」

 

 ぴくん、ぴくんと頬を赤らめ時々震えるフォリンさん。その様子にラフィーネさんは不思議そうにしているけれど、まだその理由については分かってない様子。…さて、じゃあ次は……

 

「あ、顕人さん…っ…が…ふくぁ……っ!」

「…どういう事?顕人、何か分かる?」

「うーん、これだけじゃ俺にはどうにも…」

「そう…でもフォリンは絶対おかしい。もしかしたら何か病気…、……っ!?」

 

 フォリンさん同様、ラフィーネさんもまた不意にぴくんと肩を震わせる。即座にラフィーネさんは跳ね起きようとしたけど、即座の追撃がそれを許さない。

 

「あ、顕…人……っ!」

「うん、顕人だよ?」

「ラフィーネにも…!?あ、顕人さんそういうやり返しはどうかと……ひゃうぅ…!」

 

 そこからは、不規則に二人は反応していく。恥ずかしそうに、我慢するように、そして何より……くすぐったそうに。

 先程俺が手にしたのは孫の手。元々掻く為の道具。それを受け取った手は、現在こたつの中に入っている。つまり、二人が何に反応しているか……いや、何に襲われているかと言えば…そういう事。

 

「くひゃっ、ぁあ…っ!ま、待って下さい顕人さん…っ!あ、脚捕まえるのはズル…いぃっ……!」

「ど、道具も…ふくっ…ず、ズル…んんぅっ…い……っ!」

「さぁて、何の事かなー?」

 

 耐えかねた様子で、こたつの中から逃げようとする二人。けれど俺は片脚で押さえ、片脚で絡め返す事で二人を……二人の脚を逃さない。

 ピンチはチャンスとはよく言ったもの。優勢になる程油断をしてしまいがちで、今の二人は完全にこれに当て嵌まる。

 だけど俺は別に、倫理や法に反するような事はしていない。あくまで悪戯レベルの、危険な事なんて一切ない、単なるちょっとした行為。けど…いやだからこそ、そんなちょっとした事であるが故に、形成逆転による高揚感は半端じゃない。

 

「あ、顕人…んひゃっ…さぁ、ん……っ!」

「だ、ダメぇ……っ!んくぁっ…!」

 

 顔を赤くするだけに留まらず、遂に二人はちょっと艶かしさを感じる声に。そんな二人の反応を見て……俺は、確信する。

 

(勝った…この二人に、二人の悪戯に…完全に勝った…!)

 

 圧倒的な爽快感。普段してやられている相手を手玉に取り、一方的に好き勝手やるという完全勝利。その高揚感に押されて、俺は悪戯を続ける。外からは見えないこたつの中で、二人の脚をくすぐり続ける。

 クッションにしがみ付いてぷるぷると震えるラフィーネさんに、天板に手を突いて必死に耐えるフォリンさん。紅潮した頬に艶めいた声音、そして悩ましげに震えるその姿はあんまりにも刺激的で、それもあって程々にするという発想が完全に頭から抜け落ちる俺。……そう、この時自制心を働かせて止めていたら、俺は勝利のままでいる事が出来た。けれど辞め時を見失ったままの俺は、心から満足するまで続けようとしてしてしまい…………

 

「ふ〜、綾袮さんが戻ってきたよっ!さあさあ皆、わたしにもそのこたつのぬくぬく感を味合わせて……」

「はぁ…はぁ……」

「ん、ぁ…ぅ……」

「…………あ」

 

 勢い良く扉が開かれ、そこから綾袮さんが元気に登場。意気揚々と現れた綾袮さんは、早速こたつに入ろうとし……次の瞬間、気付いた。それはもう悪そうな顔をしている俺と、頬を赤くしたまま荒い息を漏らす二人の姿に。

 

「……ふぅん…ねぇ顕人君。わたしが真面目にお仕事してる間に…君は何をやってたのかなぁ…?」

 

 にこぉ、笑みを浮かべる綾袮さん。だけどそれは笑みではあるけど、綾袮さんは一切合切笑っていない。笑顔だけど、全くもってご機嫌じゃない。そして、ゆっくりと俺がこたつの中から孫の手を取り出し、脚も抜いて正座をした時……綾袮さんからは、心底呆れたような冷たい視線が降り注いでくるのだった。

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