双極の理創造   作:シモツキ

139 / 245
百三十八話 日常の中で

 朝、早く起きて朝食と昼食&弁当を作る日々にも、もう随分と慣れた。ぶっちゃけ最初は面倒だったこれが、今は日課として普通にこなせている。…けど、最近はちょっと憂鬱だ。だって、朝起きると寒いんだもん。

 

「うー…冬の朝の空気が冷えてる感はちょっと好きだが、この中で細かい作業するのは辛い……」

 

 野菜を次々切りながら、ぶつぶつと泣き言を呟く俺。部屋のエアコンはもう点けてあるけれど、まだ部屋は温まっていない。

 

(今日は昨日の夕飯の残り物を使えるから楽だけど…こっから数ヶ月以上この寒さは続くんだもんなぁ…ほんと憂鬱だ……)

 

 寒いのはそういう時期なんだから仕方ない、と普段なら片付けられる俺だけど、まだ寝てたいなぁ…って気持ちもある中での寒さは別。ダブルアタックとなると、まだ一年目の俺は冬の早朝の寒さを流し切れない。

 

「…考えてみりゃ、夏の朝は涼しいから割と快適だったんだよな…夏と冬のどっちがいいって話はよくあるが、こと朝にかけては断然夏だわ……」

 

 ぶつくさ言いながら俺は切り終え、次の段階へ。…てか考えてみれば、母さんや各家庭でキッチンを預かってる人は、この辛さを毎年毎年味わってるんだよな…。

……と、感慨深い気持ちになっていた時、廊下から聞こえてきたのはぺたぺたという軽い音。誰かの足音かな?と思って顔を上げると、丁度そのタイミングで扉が開く。

 

「顕人君、おはよ〜」

「おはよう…って、綾袮さん?」

「え、そうだけど?誰か別の人に見える?」

「い、いやそうじゃなくて…珍しいね、早起きなんて」

 

 朝の挨拶と共に入ってきた綾袮さんに対し、俺は一度手を止め驚く。多分イメージ通りだとは思うけど…基本綾袮さんは起きるのが遅いし、起きても眠そうにしてる事が多い。そんな綾袮さんがラフィーネさんやフォリンさんより先に起きてきたら、そりゃあ勿論驚くってもの。

 

「いやー、今日はいつもより早く目が覚めちゃってさー。これだと今日の授業は寝ちゃうかな〜」

「先生にとっては何ともありがたくない早起きだね…まぁいいけど。授業中に寝て困るのは自分なんだから」

「そうかなー?またわたしの勉強見る羽目になるかもしれないよ?」

「しれないよ?じゃねぇ…後すっごい情けないからね、その返しは……」

 

 冗談の調子から考えても、綾袮さんの目覚めはばっちりと見て間違いない。…こりゃ、朝から体力使う羽目になりそうだ…。

 

「…で、今日は何作ってるの?」

「見れば分かると思うよ?」

「へぇ、どれどれ……」

 

 俺の返しを受けて、キッチンへと入ってくる綾袮さん。それから綾袮さんは材料や鍋の中を見つつ俺の後ろへと回り……

 

「てりゃっ!」

「うわ冷たぁっ!?」

 

 突如俺の首筋へと両手を当ててきた。それはもうばっちりと冷えた、冷たい両手を。

 

「おー、顕人君の首あったかーい」

「どこで暖取ってんの!?…てか、綾袮さん手冷たくない…?もしや冷え性…?」

「んーん、冷たいのは顔を洗ってきたからだよ?」

「あぁ…なんだ、綾袮さんは温水使ってるかと思ってたけど、違うんだね」

「だって温かくなるまで待つの嫌じゃん」

「あ、そう…」

 

 しょうもない悪戯に怒りつつも、意外だった事を指摘する俺。…が、俺が思っていた事はどっちも外れていて、最終的に着地したのはなんとも綾袮さんらしい結論。…流石に顔洗った事には驚かないぞ?

 

「顕人君は温かくなるまだ待つタイプ?」

「いや、俺は普通に冷水で洗うけど…ってか、何俺で暖を取るの再開してんの…?」

「だってまだ手が冷たいんだもーん。顕人君も可愛い女の子に触ってもらえるんだから、WIN-WINでしょ?」

「可愛い女の子でも後ろから両手で首包まれたら怖いんですけど…」

「えー。じゃあ仕方ない、腎臓辺りにしよう…」

「怖ぁ!?え、何そのボケ怖っ!ボケの内容がグロいんだけど!?」

「そう思うなら大人しく首を触られてる事だねっ!」

「目的の割に脅迫が怖過ぎるよ…はぁ……」

 

 脅迫に屈した…訳じゃないけど、程々で切り上げないと身が持たないからげんなりしつつも俺は放置。朝から体力持ってかれるのはマジ勘弁だよ…。

 

「はふぅ、あったかい…」

「そりゃ良かったね…」

 

 それから数分間、首を触られたまま料理を続行。邪魔になるなぁと思っていたけど、俺に合わせて動いてくれたおかげで調理への支障は殆どなかった。…いや、おかげで…って言うのも変だけど。

 で、手が温まったところで綾袮さんは俺から離れ、食卓に座って雑談を続ける。本人曰くそれは「顕人君が暇にならないように」っていう事らしく、だったらそれより手伝ってよ…と最初は思っていた俺だけど、結果から言うと退屈せずに料理を進める事が出来た。…ありがたいけど、それはそれでなんか悔しい。

 

「ふふーん、今日はわたしが朝食作りを手伝ったんだよねー!」

「綾袮が?…珍しい……」

「そうですね、ちょっと驚きです…」

「おい待てや、あれを手伝ったって言い張る気?」

「え?…やだなぁ、わたしはちょっと協力しただけなんだから、顕人君が謙遜する事なんか……」

「違うよ!?手伝い以上の事をしてくれたじゃなくて、明らかに協力ではなかったよねぇって言ってんの!」

 

 しかもまさかの雑談を極力だと言い張る綾袮さんに俺は仰天。半眼で見てるラフィーネさんフォリンさんを前に、俺と綾袮さんの攻防(?)は続き……結局朝食の時点で、俺は結構な体力を消耗してしまうのだった。

 

 

 

 

「そういや、昨日御道は警戒の担当をしてたんだよな?」

 

 なんて事を言ったのは、休日明けの昼休み。当然の如く、霊装者はあんまりその事を公共の場でべらべら喋るべきじゃないが…だからってそんなぴりぴりする必要もない。特にこのご時世、仮に聞かれてもある程度はネトゲやらサバゲーの話だと勝手に思ってくれるだろうしな。

 

「そうだよ。茅章と二人でね」

「なんだ、俺をハブったってか」

「何故そうなる…文句があるなら上層部の方に言って下さいねー」

 

 そう言って御道が視線を送ったのは、机を挟んで反対側にいる妃乃と綾袮。

 

「文句も何も、悠耶は最初からそういうスタンスじゃない」

「別に文句言おうとは思ってねぇよ…で、めぼしい発見は無かった訳か」

「まーね。…やっぱり、探し物が見つかるご利益のある神社にお参りしに行くべきだったかなぁ…」

((いや、それで見つかれば苦労はしない(だろ・でしょ)……))

 

 卵焼きをつつきながら言った綾袮に、半眼を向けつつ心の中で突っ込みを入れる。困った時の神頼み…とは言うが、仮にも上層部に属する人間がそれを言い出しちゃ駄目だろうよ……。

 

「…ほんと、奴は何を探してたんでしょうね……」

「壁の中とか地中とか、そういうとこにあるんじゃね?…と、思ったが…その程度なら見つからない訳もないか…」

「当然よ、探知のエキスパートも呼んだんだから。…けど、念入りに探しても見つからなかった…」

「…あのさ、昨日帰ってから思ったんだけど…」

「うん、なになに顕人君」

「…こうも見つからないってなると、そもそもここには無かった…要は、向こうも場所を間違えてた…って事もあり得るんじゃない?」

 

 各々昼食を食べながら、今日もまた「魔人の目当てはなんだったのか」という話に。それが進む中で、御道が言ったのはこれまでに出てこなかった視点の可能性。…まぁ、そりゃあくまでこの面子の中じゃ…って話だが。

 

「…まぁ、それはなくもないよね。ほんとに見当違いでここに探しに来ちゃったのか、それとも幾つか候補があって、ここはその一つに過ぎなかったのか…って感じに、その場合でも更に可能性は分かれていくけど」

「あぁ、ここは外れの候補だった…って可能性もあるのか。それは気付かなかった…」

「ふっふっふ、もっと柔軟に考えなきゃ駄目だよ顕人君。…って訳で、焼売一個ちょーだいね」

「ちょっ、どういう意味さそれ……」

「一つ賢くなったんだから、そのお代みたいな?」

「ならそれ押し売りじゃん…!」

 

 文化祭の日、魔人は見つけられなかったのではなく、端からここにはなかった。身も蓋もない考え方だが、否定は出来ない可能性。…けどこれ、合ってるかどうかってより、本当にそうだった場合の方が厄介だよな…。

 

「…そこんとこ、妃乃はどう思うよ?」

「私も綾袮と同じで、それもあり得る…って位ね。ないとは言い切れないし、けどそれが有力に思える程の状況が揃ってる訳でもないし」

「奴の方はどうだ?もし仮に探し物の方が見つからなくても、奴を潰せりゃ取り敢えずの解決にはなるだろ」

「そっちもさっぱりよ。幾つか気になる情報はあるけど、どれも気になる止まりで繋がりそうなものはないし。…っていうか、これに関してはあの会議でも触れたでしょ。聞いてなかったの?」

「少なくとも覚えてはいないから訊くてるんだぞ?」

「何を偉そうに……」

 

 気付けばいつものように、今回も堂々巡りで大した答えも出そうにない雰囲気。別にこれはちゃんとしか会議とかじゃなく、単なる雑談の延長線上なんだから、堂々巡りになったって問題はないが…そろそろ朗報の一つも欲しい。

 

「むむむ…顕人君ったら強情な…!」

「それはこっちの台詞だよ…!どんだけ焼売食べたいのさ…!」

「別に卵焼きでもいいんだけどね…!こうなったら……!」

「あ、ちょっ、手を押さえるのは反則でしょ…!あーもう、こうなったら徹底抗戦だ…!」

「……あっちは呑気でいいよなぁ…」

「…同感」

 

 ちらりと視線を動かしてみれば、横ではおかずをかけて御道と綾袮が攻防戦中。どこまで本気なのかは分からないが、傍から見ればそれは果てしなく平和なやり取りで、俺も妃乃も思わず呆れ顔。

 

(…けど、これなんだよな…辛気臭い話より、これ位しょうもない事が出来る方が、ずっと幸せで楽しいよな……)

 

 色々仕方ないとはいえ、他人事じゃないとはいえ、気付けばまだ『霊装者』として普通に振る舞い思考してしまっている俺。けれど、それは俺が望んだ世界じゃない筈で…ほんとにしょうもなくはあるが、下らない事で盛り上がっている御道や綾袮がすぐ側にいる事は、なんというか……少しだけ、安心のような感情も俺の中には確かにあった。

 

「…いや、何良い話っぽいモノローグしてるのよ……」

「うっ…確かにこんなタイミングでするようなモノローグじゃない気は俺もしていたが…そんな台無しになるような事言うなよ……」

 

 まさか、妃乃がそんなメタい指摘をしてくるとは。恐るべしっつーか…優等生キャラに見えて、中々どうして油断ならないんだよな、妃乃は……。

 

「ふふん、頂いたよっ!」

「あっ、くそう…てかよく考えたら、こんな攻防戦するより即座に渡しちゃった方が絶対消費は少なく済んだじゃん…はぁ、何やってんだ俺……」

「思いっ切り後の祭りだなー、御道」

「うっせぇ……」

 

 とかなんとか考えてる内に、隣の攻防戦も終了。焼売と卵焼きを取られてから(両方取られとる……)後悔する御道には、俺も妃乃も完全に半眼。まぁつまり、なんだって言うと……今日も今日とて、俺の昼食は賑やかだ。

 

 

 

 

 放課後。今日は生徒会もなく、千㟢と妃乃さんは帰りにスーパーに寄るとかで(性格全然違うのに、今や二人とも普通に行動を共にしてるんだよなぁ…)、俺は綾袮さんと下校中。

 

「今日ってずっと曇ってるよね。降水確率も40%だし……」

「言ってたねぇ。家着くまでは降ってほしくないなぁ…」

 

 後ろに回した両手で鞄を持ち、半歩先を歩く綾袮さん。…このポーズ、ちょっと可愛いよね。

 

「こんな日は、何かショックな事が起こるかもよ?」

「え、途中から雨が降るような感じの出来事が?」

「そうそうそんな感じ!さっすが顕人君、分かってるぅ!」

 

 ばっちり伝わった事が嬉しかったのか、綾袮さんはきゃっきゃとはしゃぐ。朝といい昼といい、なんか今日はいつもに増して綾袮さんが子供っぽい気がするなぁ…。

 

「因みに顕人君はさ、今日辺り起きそうなショッキングな出来事の種抱えてたりする?」

「何その意味不明な質問…聞いてどうするの?」

「ものによっては芽吹かせてみようかな〜」

「なんて悪質な…!…今後何か悩みを抱えたとしても、綾袮さんには絶対言わん……」

「えー言ってよー。楽にしてあげるよ?」

「なるよ、じゃなくてしてあげるよ、なんて言う人に言えるか…!」

 

 それじゃ恐ろしくて敵わんわ!楽にしてあげるって、トドメ刺す時に言う言葉じゃねぇか…!…みたいな事を思いながら、俺は拒否。…まぁ、実際ほんとに言わないかどうかは…その時次第だけど。

 

「…というか、昨日神経を張り詰めるような任務をして、今日も朝から色々ふざけて、なのにまだ元気一杯ってほんとどうなってんの……」

「若さ故かな〜。…っていうのは冗談として、まぁ慣れだよね。神経張り詰める仕事なんてしょっちゅうあるし」

「んまぁ、それはそうかもしれないけど…」

「それに、顕人君だっていけないんだよ?顕人君が毎回がっつり反応するから、わたしも気分乗っちゃうんだもん」

「お、俺が反応するからって……」

 

 くるりと振り返り、後ろ歩きとなった綾袮さんはかなり理不尽な事を言ってくる。…そりゃ、確かに「一々反応するからいけない」って論調は世の中にあったりもするが……

 

「…なら、今後綾袮さんの冗談は適当にあしらう事にする」

「え……!?…そ、それ…本気で言ってる…?」

 

 ぷい、と視線をずらし、声のトーンを落として言うと、綾袮さんは俺が思っていた以上にショックを受ける。だから、「お、これはいけるんじゃないか?」…なんて、思ったんだけど……。

 

「本気だよ、って言ったらどうする?」

「凄く落ち込む」

「へ?」

「だって顕人君が突っ込んでくれないなんて、つまんないもん…」

 

 急に焚き火が消えてしまったが如く、快活さが消えしゅんとする綾袮さん。まさかこんな反応が返ってくるだなんて思っていなかったし、今のは完全なまでに想定外な反応。

 

「え、いや…えっ……?」

「…つまんないもん……」

 

 ぽつり、と最後の言葉を綾袮さんは重ねる。しょぼくれたまま、小柄なただの女の子にしか見えない雰囲気で、俯き気味に。

 

(ぐ、ぬぬ…落ち着け、落ち着け俺ぇ…!これ絶対演技だ…俺を狼狽えさせる為の演技に決まってる…!)

 

 思いっ切り感情を揺さぶられる状況を前に、俺は全力で言い聞かせる。目の前の光景は罠だと。今も綾袮さんは俺をからかっているだけなのだと。

 あぁそうだ、綾袮さんがこの程度でショックを受ける訳がない。何も突っ込むのは俺だけじゃないし、そもそも突っ込みを求めていない事だってあった。だったら間違いなくこれは罠で、ここで屈したら俺は今後もきっと上手い事丸め込まれてしまうだろう。

 そう、ここが踏ん張りどころだ。ここで耐え、からかい過ぎると逆にやり込められてしまう、という事を綾袮さんに教えてやるチャンスでもあるんだ。上手くいけば、逆に今後は俺が主導権を得られるかもしれないんだ。だったら、俺が…俺がすべき事は、勿論……ッ!

 

「……ごめんなさい、嘘です…」

「…ほんと?」

「はい…」

「そっか…そっかそっかぁ、言ったね?ちゃーんと口にしたね顕人君!」

 

──えぇはい、長めの前振りからも分かる通り、結果はこのざまですよー。綾袮さんに悲しそうな顔をされて、つい折れてしまった御道顕人さんですよーだ。…笑いたきゃ笑えぇ……。

 

「んもー、折れるんなら最初から言わなきゃいいのに〜」

「うっさいよ…ふん……」

「まぁまぁそう拗ねないでよ。一度エンジンがかかるとかなり強情になるけど、普段は低反発クッション的な顕人君のメンタル、わたしは嫌いじゃないんだぞー?」

「止めぃ…てか低反発クッション的なメンタルって…」

 

 さぞ愉快そうに笑いながら、綾袮さんはつんつんぐにぐにと頬をつついてくる。第三者視点なら見惚れてしまうかもしれない、けどからかわれてる当人としては恥ずかしさの方が優ってしまう、ある意味混じり気一切無しの笑みを浮かべて。

 だから俺は目を逸らし、ずんずんと先を歩いていく。今度こそ、今度こそ一杯食わせてやろうと心の中で誓いながら。……つか、なんで今日はここまで綾袮さんに弄られるんだ…はぁ……。

 

 

 

 

 いつものように食材を買い、スーパーを出て、家へと向かう帰り道。途中で合流した緋奈と、三人で歩く。

 

「お兄ちゃん、今日の夕飯は麻婆豆腐?」

「そうだぞ、よく分かったな…って、食材見りゃ分かるか…」

「うん。作るの手伝おっか?」

「え?…あー……」

 

 俺の隣を歩きながら、緋奈は柔らかい表情を浮かべて手伝う事を申し出てくれる。それは、ってかその気持ちは勿論嬉しいが……料理となると、話は別。

 先日、俺と妃乃は緋奈の料理下手の真実を知った。その真実は心温まる、涙が出そうなものだったが、問題はその先。有り体に言えば、原因の究明は出来たが…解決に関して、俺は完全に詰まってしまった。だって、そうだろう?緋奈は無意識にお袋の味を再現しようとしてるから料理の質が崩れるんだ…なんて、口が裂けても言える訳ないじゃないか。

 

「…あ、緋奈ちゃん。悪いんだけど、帰ったら少し話に付き合って頂戴。貴女も霊装者である以上、今起こってる事を教えておかなきゃいけないから」

「今起こってる事、ですか?」

「えぇ。…いいわよね?」

「お、おう」

 

 ふと目を話した隙に何かしてしまう可能性がある以上、出来れば手伝いは回避したい。だが正直には話せないし、かと言って理由も無しに押し切るんじゃ緋奈を傷付けてしまうかもしれない。…そんな思いで板挟みになる中、助け舟を出してくれたのは妃乃。妃乃はそれっぽい…それこそ、本当に話そうと思ってた風にも聞こえる言葉で緋奈を料理から遠ざけてくれた。

 

「何かあった時、知ってるのと知らないのとじゃ結果は大きく変わるもの。だから……」

「あ、はい大丈夫です。…ごめんね、お兄ちゃん」

「い、いや気にすんな。気持ちはばっちり受け取ったからよ」

 

 どうやら難は乗り越えられたようで、一安心。ちょっと違和感ある反応をしてしまった気もするが…まぁ、多分大丈夫だろう。

 

「…悪い、助かった妃乃」

「気にしなくていいわ。元々近い内に話すつもりだった事だもの」

「やっぱそうなのか…」

 

 その後、小声で感謝を伝えると、妃乃は軽く肩を竦めて返答。うーむ、って事は単にタイミングが良かっただけか…いやなんであろうと、感謝してる事にゃ変わらないが。…さて、っとそうだ……。

 

「一応訊いとくが、辛さはどうする?」

「うーん…わたしは前の時と同じがいいかな」

「私は激辛じゃなきゃ何でもいいわ」

「わたしは辛くない方がいいなー」

「あいよ、じゃ前と同じくピリ辛位にしておくか…」

 

 ふと家に着く直前で重要な要素、辛さをどれ位にするかという点を思い出した俺は、その場で質問。そして三人からの意見を聞いた俺は、ピリ辛に決定しつつ家の敷地内へ……

 

『って、えぇぇッ!?誰か居たぁ!?』

「ふっふーん!わたしだよっ!」

 

 びくぅっ!と滅茶苦茶驚きながら振り向く俺達。そ、そりゃそうだろ!だって今もう一人いたんだぞ!?ガイア、マッシュ、オルテガ!ジェットストリームアタックをかけるぞ!…状態だったんだぞ!?(ヒント・これの元ネタは三人組)

 で、振り向いた俺達の前にいたのは、御道と帰った筈の綾袮。

 

「あ、綾袮…貴女いつの間に……」

「今さっきだよ?用事があるから来てみたら、三人の後ろ姿を見かけたからね〜」

 

 物凄くびびった俺達とは対照的に、綾袮は至っていつも通り。…あー、そうか…スーパー寄ってた分、帰るのは遅くなったもんな…。

 

「だったら普通に出てきなさいっての…しかも用事なら、別れる前に言えばいいのに……」

「と、思うでしょ?けどそうはいかないんだよねぇ。だって……」

 

 俺も緋奈もげんなりする中、妃乃は額を押さえつつ綾袮に応対。すると妃乃の呆れた声が全く聞こえていないのかって位、綾袮は呑気な表情を浮かべていて……だが不意に、綾袮からその表情が消える。

 その代わりに浮かんだのは、神妙な顔。普段のふざけた様子からはかけ離れた、真面目そのものの表情で綾袮は……言う。

 

「──今から話すのは、顕人君には聞かれたくない話だから」

 

 何の話かは分からない。だが…何か重大な事が動き出している。…その一言だけで、綾袮は俺達にそう感じさせていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。