双極の理創造   作:シモツキ

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第百四十一話 気にかける心

 慧瑠は魔人だった。それも、魔王の可能性すらある、強大な存在だった。……それを知った日から、一日が経った。

 俺にとってそれは、想像を絶する出来事。目が覚めた時、昨日の事は全て夢だったんじゃないかと本気で考えてしまう位には、信じ難い事だった。…けれど、俺にとってはそれ程に衝撃的な事実でも…世界は、何の変わりもなく進む。

 

「失礼しまーす…」

「……?えと、何かご用ですか…?」

「え、と…このクラスに、天凛慧瑠…っています?」

 

 午前の授業が終わった昼休み、俺は一年のクラスに来ていた。理由は勿論、慧瑠を探す為。

 勿論、普通に来ている訳がない…って事は分かってる。でも、慧瑠は「あ、魔人だったんだ。ふーん」…で流せるような相手じゃない。だから、どうせいないと思っていても、確認せずにはいられなくて……だけど、返ってきたのは否定の言葉。

 

「慧瑠…?…すみません、ちょっと分からないです…」

「そう、ですか…」

「…あの、お探しでしたら訊いてきますよ?何人かに声をかければ……」

「あ…いや、大丈夫です。もしかすると、違う学年かもしれないので…」

 

 答えてくれた一年生に軽く頭を下げて、俺はそこのクラスから離れる。下級生相手に敬語なのは…単に年下とはいえ、初対面でいきなりタメ口は避けるべきだろうと思ったから。

 

(…ここも、空振りか……)

 

 今覗いたのは、最後のクラス。何組かを知らなかった俺は、全クラスに声をかけてみて…けれど一度も、どのクラスでも、慧瑠がいるという答えは返ってこなかった。慧瑠の名前を聞いて、誰か分かる人すらいなかった。

 

「……確か、委員会絡みの書類が…っと、あった」

 

 ならば、と次に俺が向かったのは生徒会室。生徒会室には各委員会の活動方針やら何やらが書かれている書類もあって、その中には委員会に所属している人の名前も書いてある。そして、当然生徒会も委員会の一つな訳で、そこにある学籍番号を見れば、自然とクラスも分かる…と、思ったけど……そこにも慧瑠の名前はなかった。

 おかしい。これは明らかにおかしい。だって、慧瑠は生徒会に所属しているんだから。俺と同じ、生徒会本部役員なんだから。…なのに、名前がないなんて……

 

「…どう、なってんだよ……」

 

 書類を戻して、部屋を出て、鍵を閉める。…見つかるとは思っていなかった。いる訳ないって思っていた。でも、誰も分からない、名前すら載っていないなんて……そんな事は、微塵も想像すらしていなかった。

 

 

 

 

 授業が終わるや否や(つっても、教科書やノートは仕舞ってたが)クラスを出て行った御道が、暫くしてから戻ってきた。戻った御道はこれと言って何も言わず、普通に弁当箱を取り出したが…どうにも、今日は朝から様子がおかしい。

 

「…御道」

「……ん…?」

「……御道」

「…だから、何……?」

「……笹倉」

「誰!?え、笹倉!?どちら様!?」

 

 適当に思い付いた名字で呼んでみると、前二回とは打って変わってビビットな反応を返してくる御道。…もう、マジで条件反射なんだな……。

 

「そりゃ、御道の事に決まってんだろ」

「なら御道って呼んでくれない!?違う人の名前で呼ぶ必要性ないよねぇ!?むしろ分かり辛いだけだからね!?」

「へいへい。…で、今日は何があったんだ?ぼうけんのしょでも消えたか?」

「違うわ……別に、何もないよ…」

 

 ボケれば面白い位に反応するが、一歩踏み込むとすぐにまた御道は思い詰めた…ってか、かなり考え込んでるような状態に戻ってしまう。御道は普段から時々何かを考え込んでたりもするが…今日は、そういういつものやつじゃない。

 ちらりと隣を見てみれば、妃乃と綾袮も普通に食べている…風にしつつも、こっちの会話を聞いている様子。…止めようとする素振りはねぇし…まぁ、いいか。

 

「……昨日の出来事、か?」

「……っ…」

 

 そう言った瞬間、御道はぴくりと肩を震わせる。もうこの反応の時点で、何が理由かは間違いない。

 昨日、また魔人が…それもかなり強力な奴が現れたって話は、昨夜俺も妃乃から聞いた。そいつは御道が親しくしていた相手だったって事も、文化祭の時に現れた奴は恐らくその魔人を探していたんだろうって事も。

 

「…まぁ、その…なんだ、災難だったな…」

「……災難どころじゃないよ…」

 

 中身のない、薄っぺらな俺の慰めに、返ってくるのは暗めの言葉。…そりゃあそうだ。災難だったで済む訳がない。危険な存在が、前から近くに居たなんて考えたら普通はゾッとするし……親しい相手が実は魔人だったなんて、ただただ辛いだけ。もし緋奈や妃乃、依未なんかが魔人だったら…俺だって、落ち込んでたと思う。そして、そういう意味じゃ……今の俺の表現は、良くない。

 

「……悪い、災難ってのは撤回する」

「別にいいよ…何も、そんな奴に目を付けられて大変だったな…的な意味で言った訳じゃないでしょ?」

「お、おぅ…それはそうなんだが……」

 

 撤回しただけで…いや、その前から俺の言いたかった事を理解してくれているのはありがたい。そういうところが、社交性の高さにも繋がってんじゃねぇかなと思う。…思うんだが……

 

(…や、やり辛ぇ……)

 

 普段『友人』として一定の線は引きつつも、『男友達』として気のおけないやり取りをしているからこそ、今日の御道は接し辛い。いやほんと、緋奈みたいに家族だったり、或いは依未みたいな年下だったりするならまだやりようはあるんだが…対等な友人ってのは、逆にこういう時踏み込み辛かったりするんだよな…。

 

「…………」

「…………」

「……ほ、ほーら…ミートボールだぞー…?」

「…え、何!?まさかミートボールで元気にさせようとでも思ったの!?」

「…すまん、今のは我ながら無いわ…忘れてくれ……」

「あ、うん……」

 

 はぁ!?…みたいな顔で突っ込まれ、ずっと下げるミートボール。…いやほんと、今のは反省レベルだ俺…幾ら何言ってやりゃいいか分からなくても、ミートボールって……。…あ、別にミートボールdisってる訳じゃないぞ?ミートボール美味いし。

 

「はぁ……けど、俺こそ悪い。何か、変に気を遣わせちゃって……」

「や、それはいいんだが…」

「いいや、良くない。周りの空気悪くしたり、気を遣わせちゃったりするのは個人的になんか嫌なんだよ。だから…よっし、切り替えよう切り替えよう…!」

 

 だがそれが功を奏した(?)のか、両手で頬を軽く叩き、表情から暗さを払拭する御道。それから御道はいつも通りの調子に戻り、結果空気も好転する。

 それは、本心だろう。何十年もの付き合い…って訳じゃないが、御道がそういう奴だって事は知っている。御道自身、明るい空気の方が良いって感じているんだろう。…けど……

 

(…そんな簡単に、切り変えられるものじゃねぇだろ……)

 

 空気を悪くしたり、気を遣わせたりするのが嫌だってのは、きっと本心。だからそうならないよう、気持ちを切り替えようとするのは普通の事。だが、人はそんな簡単に心を切り替えたりなんて出来ない。少なくとも、俺だったらそんな即座には切り替えられない。そして、御道の顔を見れば分かる。今の御道が出しているのは…空元気だって事に。

 

「…ふぅ、ご馳走様…っと。さて、俺ちょっと提出物あるから職員室行ってくるわ」

「提出物?…それ、食事の前に行った方が楽だったんじゃね?」

「はは…提出しなきゃいけないの、食べてる途中に思い出したんだよ……」

「抜けてんなぁおい……」

 

 十数分後。そんな事を言って頬を掻きつつ苦笑いする御道に、嘘や誤魔化しの雰囲気はない。…って事は、ほんとにうっかりしてたんだろう。提出期限がいつまでなのかは知らないが、このまま帰るまで忘れてたらどうしたのやら…。

……なんて思いつつも、ファイルの中から書類を出て立ち上がる御道に向かって、俺は言う。

 

「…無理、すんなよ?」

「…気を付ける」

 

 投げかけた言葉は、御道の背に。返ってくるのは、背中越しの言葉。それから御道は教室を出ていき……俺ははぁ、と溜め息を溢す。

 

「…今ので、良かったのかねぇ……」

 

 何か声をかけてやりたいとは思った。だがいざ口から出たのは、さっきと違っておかしくはないが…なんつーか、無難って感じが抜けない言葉。…無理すんなってのは、ほんとに大事な事ではあるけど、割と何にでも言えるんだよな……。

 

「……まぁ、悪くはなかったんじゃない?気遣ってくれる相手がいるっていうのは、結構心の支えになるものだし」

「そうか?…てか、気遣ってる感が出てたとしたら、それは……」

「あぁごめん、そういう意味じゃないわ。そうじゃなくて、こうして声をかけてくれる相手がいるのは…って事」

「なら、いいけどよ…」

 

 大切なのは御道がどう思ったかではあるが、肯定されればそりゃ当然安心出来る。…って、いうか……

 

「…話が話なんだから、こういうのは二人の方が色々言うべきなんじゃないのか?」

「あー、やっぱそう思う?」

「そう思う?…って、まさか分かってて黙ってたのか…?」

「いや、ほら…わたしも色々声かけてはいるよ?けどわたしって…顕人君からすれば、『正体を暴いた人間』…でしょ?だから、わたしもあんまり能天気な事は言えないっていうか……」

 

 頬を掻き、苦笑いし…だが普段の元気が有り余っているようなものではなく、どこか悲しそうな表情を浮かべる綾袮。それを見て、俺も思った。あぁそうか。綾袮は綾袮で、言い辛い理由があったんだな…って。

 

「…それに、奴と顕人君とがどれだけ親しくしていたとしても、わたしが…わたし達がやる事は変わらないからね」

「…そりゃ、そうだろうが……」

「…結局、出来る範囲の事をするしかないわね。貴方も、私や綾袮も……」

 

 そう、妃乃はぽつりと呟く。綾袮も妃乃も、この状況を…今の御道を良しとはしていない。だが二人には立場があって、その立場故にやらなくちゃいけない事もある。そういうしがらみがある以上、霊装者や魔物絡みの事となると、上手く立ち回れる事もあれば縛られる事もあるのが二人で……っていかんいかん。御道が席を外してるのに、結局暗い感じになってんじゃねぇか……。

 

「…ふーむ、ここは……」

「…悠耶君、もしかして一肌脱いでくれたり?」

「いや、俺は特にやらん。てか、男が男に色々されてもぶっちゃけ鬱陶しいだけだろ」

「そう?わたしなら妃乃が色々してくれたら嬉しいし、何なら色々してもらいたいなーって位だよ?」

「綾袮……貴女それ、面倒な事を片付けてもらいたいってだけでしょ…」

「さっすが妃乃!わたし達ってば、以心伝心だね!」

「…………」

「お、おおぅ…思いっ切り生気のない目で見られた……」

 

 話が切り替わった途端、一気に明るくなった雰囲気。…やっぱ、無意識にテンションが上下する位には綾袮も御道を気にかけてるんだな…。

 

「…そうじゃなくて、この件に御道はもっと関わった方が良いかもなって事だ」

「…どういう事よ?」

「だって関わらないまま事が進んだ場合、どんな結果になろうと御道の中じゃ『望んでなかった現実』が残り続けちまうだろ。だから関わる事で、『自分なりにけりを付けた現実』に変えられりゃ、少しは吹っ切れるのかもな…ってこった」

「そっか…悠耶君、冴えてるね……」

「人生経験だけはそこそこあるからな。…まぁ、関わった事で傷が深くなっちまうかもしれねぇし、あんま無責任には言えないけどよ……」

「ううん、参考になったよ。ありがとね、悠耶君」

 

 そうしてこの話もお開きとなり、昼休みが終わる直前に御道も教室へ戻ってくる。今回も、明確な結論は出てないが…いつもの事だし、気にしない。

 結局のところ、心の問題はそいつ次第。だから何が正解かなんてはっきりしないし、その正解だってタイミング一つで変わっちまうもの。だから、俺達に…周りの人間に出来る事と言えば……

 

(…っていやいや、だからそういうのが暗くなって逆に気を遣わせるんだっての。……何かあっても綾袮やあの姉妹がいる訳だし、俺は普段通りにいる位が丁度良いよな)

 

 頭を軽く振って、思考に打ち切りをかける俺。誰も彼もが深くまで踏み入る必要はない。むしろ誰彼構わず入ってきたら、それはそれで迷惑ってもの。…適度な距離を取るもんなのさ、野郎と野郎の関係はな。

 

 

 

 

「……ん?」

 

 今日最後の授業が終わって、下校前のHRが始まるまでの、微妙な空き時間。そこでトイレに行くと、トイレから出たタイミングで携帯が振動した。

 

(依未からか…えぇと、内容は……)

 

 確認してみれば、それは依未から送られたメッセージの通知。書いてあったのは短文だったが…ある事が気になった俺は、HR終了後に電話をするべく人気のない場所へ。

 

「…………」

「……もしもし?」

「よぅ、元気か?」

「…何?急に…」

 

 そこそこ長めの呼び出しの後、携帯越しに聞こえてきたのらいつも通りダウナーな声。…さらっと俺の言葉スルーしやがったな……。

 

「そりゃこっちの台詞だ。週末、出掛けたかったんじゃないのか?」

 

 何か言い返してやっても良かったが、切られた場合改めて電話するのは面倒臭い。という訳で俺は本題に入る。

 気になったのは、今俺が言った事。元々、今週末は依未からの要望で買い物しに付き合う予定だったのだが…そのキャンセルを、先程メッセージで伝えられた。キャンセル自体はまぁいいが…理由もなく無しにされると、やっぱり何故か気になるってもの。

 

「…それ、メッセージで返せばよくない?」

「それは…言われてみればそうだな。よし……」

「いや今言うから…なんで二度手間にしようとしたのよ……」

 

 よし、としか言っていないのに、俺の行動を読んで突っ込んでくる依未。…基本捻くれてるけど、依未って結構突っ込み気質だよなぁ…。

 

「じゃ、聞こうじゃないか」

「……あんたまさか、断らせない為にわざと…?」

「さぁて、どうだろうな?」

「ぐっ…まぁ、いいわよ別に…。…っていうか、理由は察しが付くんじゃないの?」

 

 電話という形でも目に浮かんでくる、依未の悔しがってる表情。それにちょっと口角が上がってた俺だが……続く言葉で、冗談半分だった俺の思考は冷静になる。…察しが付く、か…そういう言い方をしたって事は、やっぱり……

 

「…昨日の件か?」

「そうよ。綾袮様でも探知出来ないような魔人がいる中で、あたしに外出許可が出る訳ないでしょ?」

「だよな…って待った。外出許可って…じゃあ、これまでは毎回許可を……?」

「あぁ違う違う。流石にそこまで管理されてる訳じゃないわ。…まぁ、外出る時は一言言わないと色々面倒になるけど……」

 

 キャンセルになった理由は、依未が体調を崩したとか、気付かぬ内に俺が依未を傷付けてしまったとかではなく、単に今は危険だというだけの事。勿論、この件はこの件で凄く頭を悩ませてくれてるんだが…それでも俺は一安心。外出許可、って言葉には別の不安もよぎったが、それも俺の思い過ごしらしい。

 

「…だったら、まぁ…また後日だな」

「……悪いわね…」

「気にすんな。仕方ない事を気にしてても疲れるだけだぞ」

「何その物凄く微妙なフォロー……」

「え…これ、微妙…?」

「どう考えたって微妙でしょ。フォローするならするで、もっと『気にすんな。俺はいつでも大丈夫だからさ』みたいな事言えばいいのに言わないし、でも全く着飾りがない分『気を遣わせてしまった』って感覚にはならないから、そういう点では悪くないとも思えるし…」

「お、おぅ…言われてみるとそうだな…(うわ、分析されるとなんか恥ずい……)」

 

 まさか何気無く言った言葉をマジ分析されるだなんて思ってなかった俺は、恥ずかしい寄りの何とも言えない感情に。やべぇ、今度はどんな表情してるのか全然分からねぇ…ほんとどんな顔してこんな分析してんだ…?

 と、俺が思っている中、不意に…というか分析を終えたところで、一瞬の間の後依未は言う。

 

「……で…その…あんたは、大丈夫…?」

「俺……?」

「だって…あたしはここにいる限りは大丈夫だと思うけど…あんたは、普通に外にいる訳でしょ…?」

 

 刺々しさも毒気も抜けた、年相応の依未の声。声量もさっきより少し小さくなっていたが…聞き逃す事なく、その声はちゃんと聞こえている。

 

「そら、外ってか今も学校にいるが……もしかして、心配してくれてるのか?」

「なぁ!?ち、違っ、なんでそうなるのよ馬鹿ッ!」

「な、なんでって…文脈的に……?」

「うぐっ……わ、悪い!?」

「なんでキレるんだよ…後耳がやられるから通話で大声出すのは止めてくれ……」

 

 図星を突かれた様子で何やら滅茶苦茶慌てる依未。絶対俺は変な事なんて言ってないのに…っていうか、図星も何もこれって隠す事ではなくね…?

 

「ふんっ!心配したからなんだってのよ…!」

「いや知らねぇよ…依未さっきから無茶苦茶な事言ってるからな…?(今、電話なのにそっぽ向いたな……)」

「うっさい、全部あんたのせいよあんたの…!」

「へいへい、そりゃ悪うございましたね…」

 

 責任転嫁も甚だしい言いようだが、基本往生際が悪い依未へぐちぐち言い続けると電話のぶつ切りをされるかもしれないし、切られるだけならともかく反撃としてまた大声出されちゃ(耳が)一溜まりもない。…それに、依未が元気だった事は分かったしな。

 

「ほんっとに、あんたはもう……」

「悪い悪い。まぁ、要件は済んだしそろそろ切るとするさ。気分を害して悪かったな」

「あんた何回悪いって言うのよ……」

「それは知らん。んじゃ、勝手に外出たりすんなよ?」

「そんな事しないっての…。……けど、その…」

 

 世の中引き際が肝心。そう思って耳元から携帯を離そうとしたところで、依未はごにょごにょと何かを言いかける。

 さて、依未は何を言いたいのか。まだ言い足りない事があるのか。そう思って次の言葉を待っていると……再び毒気の抜けた声で、依未は俺に言ってくる。

 

「……ほんとに、気を付けなさいよ…?…あ、貴方には…まだまだ、色んな所に付いてきてもらわなくちゃ困るんだから……」

「…心配すんな。依未との約束は、何があったって絶対に守るさ」

「…それが分かってるなら、いい……」

「おう。心配してくれて、ありがとな」

「…うん」

 

 最後に依未の素直な声を聞いて、俺は依未との電話を切る。ほんと、人への心配は何ら隠す事じゃないし、恥じるような事もないのに、一体依未は何がしたいのか。それとも、外に出られなくなってストレスでも溜まっているのか。…まぁ、何にせよ……

 

(……こういうところは、可愛いよなぁ…)

 

 今は状況が状況だし、御道の事で不安もある。だがまぁ、何というか…自分でも無意識過ぎて、後になってから迂闊だなぁという思いにはなったが……電話を切る間際にしおらしい依未の声を聞いて、不覚にもそんな事を思ってしまった俺だった。

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