双極の理創造   作:シモツキ

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第百五十五話 最高のイブ

 大概の物体は、バランスが保たれているからその場で立っている事が出来る。どんなに軽くたって、どんな物質を使っていたって、バランスが崩れていたら倒れてしまうのが物理ってもの。

 そのバランスを崩す事なく、如何に状態を変化させるかが人の技術の見せどころ。支える上でどこが重要になっているかを見極めたっていいし、逆に変化させた事でそれまでとは違う形でのバランスが保たれる事を見越して作業したっていいし、どうするかは人それぞれ。ただ何にせよ、必要なのは考える事とその考えを正確に実現する為の精密動作で……

 

「……っ…あぁぁー!…駄目だったか…」

 

 たとえ前者がそれなりちゃんとしていても、後者が不十分じゃ上手くいかないよねー…。

 

「あらら、残念だったね顕人君。という訳で、ジェンガしゅーりょー!」

「まただ…また俺の負けじゃん……」

 

 崩れ去った積み木を前に、がっくりと肩を落とす俺。今やっていたのはジェンガで…俺はぐらついたタイミングで焦った結果、リカバリー出来ずに倒してしまった。

 

「確かに、今日はやけに調子が悪いですね。…もしかして、何か具合が……」

「いや、至って健康だよ…なんだろう、今日は厄日なのかな……」

「いやいや顕人君、クリスマスイブが厄日とか縁起悪いって……」

「厄日…縁起…なんだっけ……?」

「えぇと…どちらも神社に関係している言葉だったような……」

 

 楽しめてはいるけど、やっぱりゲームなら勝った方が嬉しいし、負けてばっかじゃ気持ちも沈む。で、軽く俺がしょげていると、二人は久し振りにこの日本語なんだっけトーク。…てか、久し振りって…二人もほんと馴染んできてるなぁ…。

 

「さて…どうする?もうご飯にする?それとももう一戦位やる?」

「んー…もう一戦やらない?わたしまだまだやれそうだったし」

 

 二人に意味を説明した後、夕飯には少しだけ早いって事でもう一戦ジェンガをする事に。でも俺は参加を遠慮して、勝負は綾袮さん、ラフィーネさん、フォリンさんの三人でスタート。

 俺が遠慮したのは、多分また負ける気がしたから。三人にはギリギリの戦いをしてほしいと思って、俺は参加者から観戦者に回った。…のは、いいんだけど……

 

「……!…ふぅ…次はラフィーネですよ…」

「…分かってる」

 

 高く、もう明らかに普通じゃ到達しないレベルの高さにまで積み上がったジェンガの塔。緊迫した雰囲気で、一本一本危険物を扱うかのような集中力で抜いていく三人。…それを見ながら、俺は後悔していた。ハイレベル過ぎて、全然終わる気配がねぇ…って。

 

「…先輩、自分はこれやった事ないんで実際のところは知らないんすけど…これって、こんなに下がすっかすかになるものでしたっけ…?」

 

 元の安定感ある姿が見る影もない程になってしまったジェンガを指差しながら、唖然とした顔で訊いてくる慧瑠。慧瑠の言う通り、もう下の方はすっかすかになっていた。ただでさえ上が重くて下ががっしりしていない物体は倒れ易いのに、どうしてバランスを保っていられているのか理解出来ない場所もちらほらとあって、最早今のジェンガはミステリー。…なんなの?ここは不安定と不安定を掛け合わせると、安定に変わる特異空間か何かが発生でもしてるの…?

 

「む…むむ、む……っとぉ…!」

 

 既に真ん中が抜けた段から、俺から見て左のブロックを抜き取る綾袮さん。普通、真ん中が抜けた状態で左右のどちらかを抜けばジェンガは崩れてしまうものだし、実際ぐらりと塔は揺れたけど……十数秒後、ジェンガは倒れる事なくバランスを維持。これが念動力…とかではなく、上の積み木の重心との釣り合いが上手く取れた結果だったのは分かるけど、それにしたって凄過ぎる。そして何より、ほんと全くもって終わりが見えない。

 

(……あ、そうだ)

 

 更に観戦する事数分。凄いには凄いけど、常時その状態で続いているから流石に見ているだけの俺は飽きてしまって、ぶっちゃけ手持ち無沙汰状態。

 そんな俺の脳裏に、不意に浮かんだある悪戯。それはいつだそうかとずっと気を伺っていたもので……早速俺は、こっそり『それ』を付けるべく反転。

 

「……?どうしました先輩…って、なんっすかそれ?」

「ジョークグッズ、ってやつだよ。くくっ……」

 

 気付かれないよう背を向けて、俺は用意していた物をセット。正直、これは滑る可能性もあるアイテムだけど…今なら、この緊迫した状態ならきっと大爆発を起こしてくれる筈。加えて俺は、(自分で言うのもなんだけど)どっちかって言えば真面目なキャラって認識されているだろうから、それもこの空気感と相乗効果を発揮してくれる…と、信じている。

 準備は完了、状況もばっちり。後は初動をミスなくこなすだけだと確信した俺は……鼻眼鏡を掛けた姿で、振り向きながら厳かに告げる。

 

「…まだ、勝負は続きそうかい?」

「…………」

「…………」

「ぷっ…あははははっ!な、何それ顕人君っ!あははははははははっ!!」

「…あ、あれ……?」

 

 真剣そのものな顔で、渋めの声も出して、でも外見は鼻眼鏡。そんな渾身の一撃を放った俺だけど……あろう事か、ロサイアーズ姉妹は完全な無反応。ちらりとこちらを見ただけで、すぐに視線はジェンガの方へ。

 綾袮さんは笑ってくれた。それはもうがっつりと。でも、綾袮さんの大爆笑は想定し切っていた事で…むしろそれより、二人の反応の方が俺の心には突き刺さる。…うっそぉん……。

 

「……綾袮、次」

「あははっ、顕人君ベタ過ぎっ!ネタがベタ過ぎだってばー!…っと、そうだったそうだった…ぷぷっ、おっかしーの…!」

 

 いっそ見えていなかったんじゃないかと思う位平然とラフィーネさんは続行し、大爆笑の綾袮さんも笑いつつしっかりと成功。そうなってくると一人は笑っていたにも関わらずド滑りしたような気持ちになってしまって、一気に湧き上がる羞恥心。あ、ヤベぇ恥ずい!超恥ずい!ジェンガ中断になるレベルの笑いが取れると思ってた分くっそ恥ずいんですけどぉ!?うぅぅ…これならやらなきゃ良かった…ッ!やるにしても、もっと別のタイミングにするべきだっ……

 

 

 

 

──ガチャーンッ!

 

『へっ……?』

 

 その瞬間、音を立てて崩れ去るジェンガ。まず鳴らないと思っていた音に、まず起こらないと思っていた展開に、慧瑠含む全員がこたつの上へ視線を移す。

 そこにあるのは、やっぱり崩れてバラバラとなった元・ジェンガの塔。そしてその上で一つの積み木を持ったまま、抜く姿勢のままで微動だにしないフォリンさんの姿。

…いや、違う。一見微動だにしていないけど…よくよく見ると、ぷるぷると肩が震えている。

 

「…フォリン?」

 

 一体どうしたのか。そう思って俺達が見つめる中、ラフィーネさんが名前を呼ぶ。するとその数秒後、フォリンさんは持っていた積み木を天板に置くと、おもむろに立ち上がって部屋の外へ。そして……

 

「〜〜〜〜っっ!〜〜〜〜〜〜っっ!!」

 

 聞こえてきたのはくぐもった、ただ明らかに笑いまくっている声だった。…あれ、これ…もしかして……。

 

「…あ、戻ってきたっすね」

「フォリン、大丈夫?」

「えぇ、急に席を外してすみません。でも何もありませんよ」

「えっ…?いやでも今……」

「何でもありません」

「…笑って……」

「何でも、ありません」

「……そう…」

 

 数分後、フォリンさんは何事もなかったかのように帰還。無論スルー出来る訳もない俺は訊こうとするも、口にする度目の奥が笑っていない微笑みで圧をかけられ廊下での事は有耶無耶に。…いやそんな…圧をかけてまで隠す事…?

 

「え、えーっと…あぁそうだ、今のはフォリンの負け…で、いいよね?」

「はい、私の負けです。やはり微細な力加減は、ラフィーネや綾袮さんの方がお上手ですね」

「あ、そういう事にするんだ…はは……」

 

 綾袮さんすら茶化さない(茶化せない)フォリンさんが負けを認めた事で、長かった戦いも遂に終結。…まぁ、その…凄く消化し切れない要素はあるんだけど…とにかく俺は、ハイレベルな戦いを繰り広げていた三人に賛辞を送る。

 

「お疲れ様、皆。いやもう、ほんと皆は凄いよね」

「うん、凄い。だから顕人、またご褒美頂戴」

「え、ま、また…?」

「今度は褒め言葉付きがいい」

「……本気?」

「本気」

 

 ある意味さっきのフォリンさん同様一切の意見を受け付けない感じのラフィーネさんに、お願いしますね…とばかりにまた微笑んでいるフォリンさんに、戸惑った顔でちらちらこっちを見ている綾袮さん。…色々、思うところはあるけれど…俺に拒否権も跳ね除けるだけの度胸もない事だけは間違いない。

 という事で、また俺は期待している姉妹と何やら引くに引けない感じの綾袮さんを、今度は褒め言葉付きで撫でる事になるのだった。……や、役得だなんて思ってないからなっ!?

 

 

 

 

「おぉー…!これは中々の出来だよ顕人君、フォリン!」

「うん。グラタン、美味しい」

 

 静かなるジェンガの激戦が終了し、漸くパーティーは夕食の時間に。出来合いのものは温めて、そうじゃないものはフォリンさんと一緒に準備して、テーブルにずらりと並んだ豪華な食事の数々。

 その中からまず綾袮さんとラフィーネさんが口にしたのは、フォリンさんが特に頑張っていたシーフードグラタン。口に運んで、咀嚼し、飲み込んだ二人は笑顔をフォリンさんに見せる。

 

「そ、そうですか?…ふふっ…それは、良かったです…」

 

 二人からの賞賛の言葉を受けたフォリンさんは、言われた瞬間目を丸くして…それから、本当に嬉しそうに顔を綻ばせる。……可愛い…。

 

「ふむふむ、確かに美味しいっすね。この旨、彼女に伝えてくれると嬉しいです」

「え…?それ、マジで言ってる…?」

「冗談で言ってるっす」

「…さいですか」

 

 ふざけてこそいるものの、グラタンは慧瑠からも好評。因みに今日は慧瑠も空いている場所に座り、皆と一緒に食卓を囲んでいるんだけど、慧瑠本人は勿論食事や食器の事すら三人は気付かない…いや、認識していない。…まぁ、それでいいっていうかそうじゃなきゃ困るんだけど。

 

「ポテトも七面鳥も美味しいし、正にクリスマスイブに相応しいお夕飯だね!いやぁ、やっぱり提案したわたし偉い!」

「調子良いなぁ…でもほんと、よく出来てるよフォリンさん。…って、一緒に作った俺がこういう言い方するのは変か…」

「いえ、そう言ってくれると嬉しいです。それに、感謝もしていますよ」

「俺こそ、手伝ってくれて助かったよ。二人も後片付けはちゃーんとやってくれるよね?」

「うぇ、ほんほひふ」

「へ、返答は飲み込んでからでいいよ…(まさか、ぼかす為にわざと今言ったんじゃないだろうな…?ちゃんとやるって言ってた気がするけど……)」

 

 いつもそうと言えばそうだけど、いつも以上に賑やかなようにも思える夕飯。俺も皆も浮かれてて、だからこそより会話も弾む夕食の時間。…そういや、パーティーこそやりはしないけど、うちでも毎年クリスマスにはチキンとかポテトを食べてたなぁ…。

 

「ふぅ…あぁそうそう、デザートにケーキもあるから、少しお腹には余裕を持たせておいてね?別腹って言うなら構わないけど」

「確かケーキも丸々一つ作ってましたよね。お疲れ様っす」

「ありがと。…てか、ケーキを切り分けた場合でも、皆は違和感を持ったりしないのかな…?」

「しないと思うっすよ?仮に変に思っても、自分なりに納得の出来る答えを脳内で勝手に作ると思います」

「…ほんと、慧瑠の能力の底知れなさが分かる度残忍な性格してなくて良かったと思うよ……」

「それ程でもないっすよー。…それに、使い方次第で強力になると言えど、基本は戦闘能力に直結しない能力だからこそ、自分はこういう性格なのかもしれません。ま、今ふと思い付いた程度の想像ですけどねー」

 

 軽い調子で、でも考えさせる事を言う慧瑠。健全なる精神は健全なる肉体に宿るとも言うし(まぁこれは誤訳らしいけど)、環境同様生まれ持った能力が慧瑠の人格形成に影響を与えてるっていうのは案外あるのかもしれない。

 

「……?顕人、間違って骨まで食べた?」

「へ?な、何故に…?」

「だって顕人、ぼんやりしてたから」

「あ、あー…大丈夫、魚ならともかく七面鳥でそんなミスはしないよ…。…しっかしほんと、我ながらよく作ったなぁ…」

「顕人君、初めは料理の度に四苦八苦してたのに、今や普通に作っちゃうもんね。出来の平均も前より上がってる気がするし、毎日食べてきたわたしは誇らしいよ…」

「うん、ありがとう綾袮さん。なんで綾袮さんが誇らしく思ってるかは、微塵も理解出来ないけど」

「おおぅ、笑顔で言葉に棘を混ぜてきた…突っ込みのバリエーションにも磨きがかかってるね、顕人君っ!」

 

 と、少し考え込んでいた俺はラフィーネさんから変に思われたり、ご機嫌な綾袮さんに好評価を受けたりと、全体的になんて返せばいいのかよく分からない展開が続く。

 

(突っ込みに関しては、皆が故意天然混ぜこぜて俺に突っ込ませまくるからなんだけどなぁ…)

 

 普段からボケまくりの綾袮さんを筆頭に、天然のラフィーネさん、油断すると撃ち込んでくるフォリンさん、しょっちゅうからかってくる慧瑠と、この家はボケに事欠かない。でもそれが、俺にとっては楽しくもある訳で…なんて事は、口にしたら弄られるから言わないけどさ。

 そんなこんなでほぼ賑やかさが静まる事なく夕食の時間は過ぎていき、全員が全員綺麗に完食。けふ〜、と綾袮さんラフィーネさんが満足そうに吐息を漏らす姿を見ながら、俺は立ち上がって冷蔵庫前へ。

 

「さて、それじゃあケーキを切るとしようか。えぇと、ケーキ用の包丁は……」

「これ使う?」

「っと、ありがと綾袮さん…ってこれ天之尾羽張じゃねぇか!オーバーキルだわ!ケーキ切るのに使う物じゃねぇわ!てか大事な武器をそんな理由で差し出すなよ!?」

「キレッキレだねぇ。でも実際わたし、下手に包丁使うよりはこれの方が正確且つ滑らかに斬れそうな気がするんだよね」

「だとしても使用用途を間違え過ぎでしょう…『切る』じゃなくて『斬る』になってるし……」

 

 代々受け継がれている刀を貸してもらうという、格好良い展開をまさかのケーキカットで使われかけた俺は、なんかもう心底げんなり。…まぁ、ボケとしては面白いんだけど…ほんと、家族に見られたら怒られると思うよ……?

 

「おぉ、スポンジがしっかりしてる…これも手作りなんだよね?」

「そうだよ。試しに一回作った時は、もっと見るからに固いスポンジになっちゃったんだけどね」

「レンガ位?」

「そんな固くなったらリアルお菓子の家が作れちゃうでしょうが…ほら、お皿とフォーク出して」

 

 突っ込みつつもケーキを切り分け、お皿に乗せて皆の下へ。さっき慧瑠と話した件もあって、少しばかり緊張していたけど…五つに切り分けたケーキの事を、誰も変に思わない。…こうなると、慧瑠の力が何を基準に及ぶのか気になるな…今はまぁいいけど。

 

「ん……甘い」

「生クリームの甘さと苺の甘酸っぱさが上手くあってますよね。美味しいです」

「でしょ?苺ケーキって、シンプルだけどだからこそ安定の美味しさがあるよね(まぁ、生クリームも苺も両方市販の物なんだけど…)」

「これ、元は粉と液体だった訳っすよね…それがこんなふんわりとした物になるんですから、料理は中々奥が深いっす…」

 

 ケーキもまた皆には好評。結構苦労したスポンジも皆柔らかいと言ってくれたから、俺としても頑張った甲斐があるというもの。

 続く談笑と共に、一口、また一口と減っていくケーキ。そうして真っ先にケーキを完食したところで、ぴょこんと綾袮さんは立ち上がる。

 

「よーしラフィーネ!ジェンガ…はもう十分やったし、何か別ので決着を付けるよ!」

「…望むところ。何の勝負でも構わない」

「あぁラフィーネ、その前にこっちを向いて下さい。口の端にスポンジの欠片が付いてますよ」

「いやぁ、若い子は元気っすねぇ…」

 

 食後の一服…なんて知らないのか、すぐ臨戦態勢となる子供っぽい二人に、それを見ている残りの二人。次またケーキを作るなら、もう少し形を良くしたいなぁ…なんて思っていた俺はそれに出遅れて、でもまぁいいかとのんびり完食。

 

「ふー…洗うのはいいから、せめて皆流しに運ぶ位はしようか」

『はーい』

 

 そうして皆が持ってきた食器を、俺はリビングを眺めつつ洗う。やはり二人の勝負は激戦となり、フォリンさんはラフィーネさんの応援に熱が入っているみたいで、今日の食器洗いは俺一人。

 フォリンさんはともかくとして、綾袮さん達が手伝ってくれないのはここで強く言わないからってのが大きいと思う。でもまぁ…いいじゃないか。ここでのんびり洗いながら、皆の様々な表情を眺めているのも案外悪くないんだから、さ。

 

 

 

 

 家でのパーティー…というか、身内だけのパーティーだから、時間を気にする必要はない。それは良い事なんだけど、裏を返せばそれは終わりにするタイミングがないって事。夜になっても余裕で続けられるし、極論パーティーのテンションのままその後過ごす事だって出来ない事はないんだから、どこでお開きにすればいいのかさっぱり分からない。

 さて、そんなパーティーをしているうちは、最終的にどうなったか。それをこれからお見せしよう。

 

「やっぱこの時間は冷え込むなぁ…」

 

 ついつい飲み過ぎた結果無くなった飲み物を買い出しに行った帰り、真っ暗な夜道でぼそりと呟く。

 当たり前だけど、十二月末の夜は本当に寒い。厚い上着を着てマフラーを巻いても、寒気が貫通してきてるんじゃないかって位に冷えを感じる。

 

(…でも、こういう時間帯に出歩くのは少しテンション上がるよな…なんて)

 

 我ながら子供っぽい事を考えつつ、早足で家へと帰る俺。着いたところで一応かけておいた鍵を開け、幾分和らいだ玄関の寒さにほっと一息。

 

「ただいまー。今は何やって…って……」

 

 リビングの扉を開け、流れるように声をかけるも、三人からの返答はなし。というか…三人揃って、こたつの天板に突っ伏していたりソファに横になったりしている。こ、これはまさか…俺のいない間に、魔人か何かが襲撃を…!?……なんて、ね。

 

「んぅ……」

「すぅ……」

「くぅ……」

 

 非常事態…とかではなく、三人は単に寝ているだけ。全員寝ている、ってのには少し驚いたけど…まぁ、皆ゲームや勝負の一つ一つに全力で当たっていたもんね。そりゃ疲れるか。

 

(…皆、こうして静かだと普通に可愛いんだよなぁ…。…まぁ、らしさ全開の三人もやっぱり可愛いけど)

 

 こたつに脚を入れたままカーペットの上で丸くなっている綾袮さんに、天板に乗せた両腕を枕にして寝ているラフィーネさんに、ソファに座った状態から身体を倒したような姿勢のフォリンさんと、三人は三者三様のスタイルでお休み中。見るからに柔らかそうな頬に、冬でも瑞々しさのある唇に、そこから漏れる小さな寝息。全員が全員、見つめているとそれだけでドキドキしそうな位の女の子で……って、いやいやいやいや何考えてんだ俺…クリスマスイブにその思考は不味い…男として何か非常に不味い魔が差しちゃう可能性出てくるだろうが…。

 

「先輩先輩、これから全員自分の部屋にお持ち帰りっすか?」

「ぶぅぅッ!?だ、だから人の心読むなって言ってんじゃん!」

「へ?…いや、今は状況から適当に言っただけっすけど……」

「んな……ッ!?」

「…先輩…先輩って、割と大きめな欲望を内に秘めてたりするんですか…?」

「き、訊くな…訊かないでくれ……」

 

 不意に現れた慧瑠への返答で大自爆をしてしまった俺は、顔を塞いでしゃがみ込む。…流石に引いたと言うか唖然としている慧瑠の言葉が、物凄く心に刺さったよ……。

 

「…………」

「せんぱーい?大丈夫っすかー?びっくりはしましたけど、基本自分は先輩が何しても幻滅とか失望はしないと思うので、安心してくれていいですよー?」

「うぅ…ありがと慧瑠……」

「いえいえ。というか自分もう先輩ありきの存在なので、先輩が自分を拒絶しない限りはほんと大丈夫っすよ」

「…なんでここで重めの話加えてくるのさ…でも、まぁ……」

「……?」

「そういう事なら、慧瑠こそ安心していいよ。俺が慧瑠を拒絶なんて、それこそあり得ないんだからさ」

「…えぇ、知ってますよ先輩。自分、先輩の事は誰よりも信じてますから」

 

 立ち上がり、小さく笑みを浮かべて俺は伝える。それを聞いた慧瑠も同じように小さく微笑んで、俺に言葉を返してくれる。…全くもう…こういうとこがあるから、散々俺をからかってきても慧瑠を嫌いに思うような気持ちは1㎜足りとも生まれないんだよな。

 

「……さて、と…」

「何するんすか?先輩。……え、まさか本当に…」

「いやしねぇよ…そうじゃなくて……」

 

 置きっ放しだった飲み物を冷蔵庫に入れた俺は、自分の部屋へ。そこでベットと押し入れから三人分の毛布を取ってリビングへと戻り、その毛布を三人へかける。

 

「あぁ、そういう…三人をそれぞれの部屋に連れていくって発想はなかったんですか?」

「それはほら、勝手に部屋に入られるのは嫌かもしれないでしょ?」

「ははぁ…で、自分が使ってる毛布もかけちゃった先輩は今夜どうする気で?」

「俺はまぁ…何とかするよ」

「…自分、多少は温かいと思うっすよ?」

「さ、最終手段ねそれは…(んな事したらドキドキしてむしろ眠れんわ…)」

 

 俺をドギマギさせたいのか、それとも魔人故の感性の違いなだけなのか。まあともかく慧瑠からの提案に表情と声音を取り繕いつつ、肩や足が出ないよう毛布を調整。そして……

 

「…お休み、皆。メリークリスマス」

 

 ぐっすりと眠る三人に、俺に向けて微笑んでくれているもう一人に……俺の大事な、大事な四人の女の子に向けて、俺はそう告げるのだった。

 あぁ、ほんと……今年のクリスマスイブは、最高に良い日を過ごせたよ。

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