双極の理創造   作:シモツキ

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第百五十七話 気の迷い…?

 タッグマッチで色々遊んだり、パーティー用の玩具をやってみたり、その結果依未と…うん、まぁその…ドキッとするハプニングに襲われたりと、思っていた以上に濃い一日となっているクリスマスイブ。…だが、まだまだ終わりじゃない。

 

「あーがり、っと。ふぅ、危ねぇ危ねぇ」

 

 最後に残った一枚のカードを出して、最下位を避けられた事に安堵する俺。

 今やっていたのは、手札が残り一枚になった時に商品名を言わなきゃいけないあのカードゲーム。運もかなり絡むこのゲームは、最終的に俺と緋奈の三位争いとなり…俺が上がった事で、最下位は緋奈となった。

 

「あー…やっぱり序盤で特殊カードを出し惜しみしたのが不味かったかなぁ……」

 

 残り三枚という後一歩の段階で負けてしまった緋奈は、残念そうにカードを置く。確かにこのゲームにおいて特殊カードの存在は重要だし、温存したくなる気持ちは分かるが…だからって出し惜しみし過ぎると、その間にリードされて追いかける形になっちまうんだよな。何事も判断が大事ってこった。

 

「…まぁでも、楽しめたしいいかな。えっと、次はわたしの番だよね?」

「そうね、はい緋奈ちゃん」

 

 慰めの言葉でもかけようかと思った俺だが、それより早く緋奈は気持ちを切り替える。そしてその緋奈に妃乃が渡したのは、折り畳んだ紙が複数枚入った箱。

 その箱の中の紙に書かれているのは、各々が書いたゲームや遊びの名前。全て予定通りに進めるのも味気ないという事で、ゲームの内幾つかはそれを一回ずつ引いて出たものをやろう事にしていた。

 で、今は緋奈の番。箱の中に手を入れた緋奈は、ごそごそと暫く漁り……一枚を取り出す。

 

(さて、次は何かね…っと)

 

 当然折り畳んであるから、まだ何が書いてあるかは見えない。だからこそ開く最中に生まれるドキドキ感。そうして俺達が見つめる中、開き切った緋奈は紙を表にしてテーブルに置き……

 

「……あ」

 

 その瞬間、ぴたりと一瞬全員が固まった。そこに書いてあった文字は……『ツイスターゲーム』。

 

『…悠耶……』

「いや違う違う!俺じゃねぇって!…って、ん?という事は……」

 

 俺へと突き刺さる、妃乃と依未の視線。だが勘違いされちゃ敵わんと、俺は慌てて否定する。

 考案者及び愛好者の為に言っておくが、決してツイスターゲームはいかがわしい遊びじゃない。だが身体的接触を避けられないこのゲームを異性同士でやるというのは、中々ハードルが高い訳で……と、そこまで考えたところで気付いた。俺は書いておらず、妃乃も依未も俺を疑った…つまり二人も書いていない(勿論演技じゃなきゃだが…こんな事でする訳ないよな)とすれば、残るのは緋奈しかいない。

 

「…緋奈…もしや……」

「…あ、あはは…実は物置で見つけてから、一回やってみたいなーって思ってて……」

 

 実質的な肯定の言葉を口にしながら、少し恥ずかしそうに頬を掻く緋奈。…マジか…てか、うちの物置になんでツイスターゲームがあるんだよ……。

 

「そ、そうだったの…ま、まあ時々サブカルでは見かける割に現実じゃやる機会ないものだし、気持ちは分からない事もないわよ…?」

「あ、ありがとうございます妃乃さん…」

「え、えぇ…でもその、ね……?」

 

 相手が緋奈だからか、幾分優しい言い方で妃乃が理解を示すも、やはり俺の存在があってか「じゃあやろう」という事は言えない様子。依未もさっきの事があってか俺をちらちらと見ていて、少なくとも積極的にやりたい…って感じには見えない。

 となれば、多分緋奈はこれを取り下げるだろう。間違いなく強行はしないだろうし、仕方ないと緋奈も自分を納得させる筈。だが緋奈は、やりたいって気持ちがあったからこそ入れた訳で…うーむ、何か方法はないものか…。妃乃や依未が気にしている、俺という問題を解決した上でツイスターゲームをやれる方法が、何か…何か…………って、あ。

 

「…そういえば確か、このゲームって指示役が必要だったよな…?」

「え?あ…うん、そうだね…」

「なら、その役を俺がやるよ。それだったら問題はないだろ?」

 

 閃いた…なんて大層なものじゃない、単にふと思い出しただけの事。だがそれでも確かに、俺は気付いた。これなら、俺が誰かと接触する事はまずなくなると。

 

「それは、確かに…でも、あんたはそれでいい訳?基本ルーレット回して、出た指示を口にするだけよ?」

「構わねぇよ、どっちにしろ誰か一人はこの役をやらなきゃいけない訳だし。てか、俺を気遣ってくれるとはな」

「うっ…べ、別に気遣いじゃないわよ!後々文句言われたくないから先に訊いただけ!」

「へいへい。で、どうするよ?」

 

 俺は自分のスタンスを示した。後は三人が決めるだけで、勿論後からケチを付けるつもりもない。

 その俺からの問いを受けて、顔を見合わせる三人。そして……

 

「えー…左足青」

「あ、青!?ちょっ、無茶言わないでよ…!」

 

 戦闘中でも魔物程度が相手なら出さないような声を出して、俺に抗議をしてくる妃乃。ツイスターゲームは…提案通り、俺が指示専門になる事で無事(?)に行われる事となった。

 

「いや、無茶も何もそういう指示だし…」

「もうちょっと無理のないところで止めてよね…!」

「狙って出来るかそんな事…それこそ無茶じゃねぇか……」

 

 無茶苦茶な事を言いながらも、妃乃は青マークの所に左足を乗せようと奮闘。

 既に開始から十分前後が経っていて、今は全員両手足共どこかしらのマークへ乗せている状態。当然姿勢や互いの身体が障害となる事で中々指示通りの場所には動けず、もう見るからに三人は大変そう。

 

(てかこれ、一度に三人とか四人でもやれるものなのか…?見てる分には面白いが……)

 

 懸命に脚を伸ばす妃乃を見ながら、不意に俺が抱いた疑問。だがそれを口にしたりはしない。だって三人共集中してるし、この中々カオスな光景をもう暫く見ていたいし。

 

「うぁっ、ちょ…妃乃様……!」

「あ、ご、ごめんね依未ちゃん…!重い…?」

「い、いえ…身体的な負担は、ない…です、けど……」

「……?それは、どういう……」

「…訊かないで下さい……」

 

 依未へと覆い被さるような形で何とか青へ足を乗せられた妃乃だが、下の依未からは何やら複雑そうな声が。うーむ、俺からはよく分からないが、何か大変な事でもあるのだろうか。

 

「…ちょっと…悠耶、早く指示出してくれない…?」

「あ、そうか悪ぃ。えーっと…残念、タワシ!」

「そういうのいいから…!」

「えー……こほん。左手緑」

「緑ね…ふ、くっ……!」

 

 冗談をマジトーンで返された俺は、口を尖らせながらルーレットを回して依未へと指示。もう一個位悪態を吐いてくるかと思ったが…それより早く何とかしたかったのか、依未はすぐに動き出す。

 真横に広げていた左手をシートから離し、そのままその他を斜め前へ。位置的には然程難しくなさそうなものの、依未は両手脚とも伸ばしている…つまりは突っ張っているに近い状態だった為、バランスを取るのに苦労している様子。最終的には無事緑へ手を置けたものの、見ているこっちがハラハラするような動きだった。

 

「じゃ、次は緋奈だな……ええと、右足黄色」

「う、うん…え、黄色?もう右脚乗せてるけど……」

「へ?あ、ほんとだ…あーっと、この場合は……」

「は、早くしてくれない…!?」

「あぁすまんすまん!もう乗せてる場合は同色で別のマークに乗せなきゃいけないんだとさ…!」

 

 現状一番キツい体勢をしている妃乃に急かされ、俺は急いでルール確認。プレイヤーに比べれば楽とはいえ、案外こっちも忙しいな…!

 

(…でも、こういうのも悪くないなぁ。機会がありゃ今度は俺も…って、誰とやるんだ?御道…は選択肢的に贅沢は言えねぇから仕方ないとして……そうだ、茅章がいるじゃないか。うん、茅章となら楽しくやれそうだ…)

 

 段々やりたくなってきた俺は、指示しつつ見て楽しみつつも密かに計画。最近飯の約束はしたし、上手くいけばその日にやれるかもしれない。そして出来たのなら…っと、またルーレット回さなきゃか。はいはいお待ち下さいねー、っと。

 そしてツイスターゲーム開始から数十分。何周もした事で三人の位置及び体勢はかなり複雑なものとなり、もう脱落者が出てもおかしくない状態。それは同時に緊迫感も増しているという事で、俺もさっきから少し緊張している。

 

「よーし…妃乃、左足赤」

「ま、また左足!?なんか私の時、やけに左足の割合多くない!?」

「そうなっちまってんだから勘弁してくれ。狙ってはいねぇよ」

「それはそうかもしれないけど…!」

 

 ヨガみたいなポーズで不満の滲む声を発する妃乃。でもほんとに偶然なんだから、俺は勘弁してくれとしか言いようがない。妃乃も妃乃でそれは分かっている…というか、分かった上でそれでも言っておきたかったってだけらしく、文句を言いつつも左足を上げて…って……

 

(…………あ)

 

 その瞬間、俺は硬直。身体は勿論視線も…いや、何よりも視線の位置が固まり、視界の中の光景に思考が一気に占められていく。

 すらりと伸びる両脚に、ほんのりと大人っぽさを感じさせる黒のニーハイ。その上には白くも健康的な太腿が存在していて、ニーハイの黒が肌の白さを際立たせている。そして何より、脚を登っていった先で俺の視線をロックしている──赤みがかった暗色の布。更に更に、その左右斜め下では適度に曲線を描きながらもきゅっと締まった白桃があって……うん、つまり…あれだ。チラどころか、モロだった。

 

「…………」

「……っ…これ、どうしても爪先立ちになっちゃうのが辛いわね…悠耶、手も足も取り敢えず付いていればセーフなのよね…?」

「…………」

「……悠耶?聞いてる?」

「…あっ…だ、大丈夫…じゃ、ないカナー…?」

「な、何よその変に上擦った語尾は…まぁ、大丈夫ならいいけど……」

 

 先に断っておくが、別に俺は性欲を持て余して日々困っている的な奴じゃない。ほんとそれは断じてない。だが、俺は男であり、身体は思春期男子であり、妃乃はぱっと見で分かる位には容姿の整っている女性で、その女性が大きく股を開いてアレをモロに出してるなんてなったら……それはもう、視線の一つや二つが釘付けになったってしょうがないじゃないか。

 しかも当の本人は気付いていない様子で、当然続行する気も満々。となれば俺がすべきは……見て見ぬ振り、ただ一択。

 

「(うむ、これは合理的且つ様々な安全を考えた上での選択…だから問題ないぞー、俺)…えぇー、と…依未、右手青」

「青、ね…もう少し…もう少しで届、くっ……って、わ、わっ…うわっ!?」

「ひぁっ!?よ、依未さん大丈夫…?」

「ご…ごめん緋奈…でもその、今動くのは……」

「そ、そっか…気にしないで、わたしは大丈夫だから…!」

 

 違和感を持たれては不味いと自分の務めを思い出し、普段の調子を装いながら依未へと指示。聞き取った依未が動いた結果、後一歩(足じゃなくて手だが)のところでバランスを崩してあわや転倒という状態になるも、横の緋奈が支えとなった事でセーフ。これが有りなのかどうかは分からないが、まあ被害を受けた側の緋奈が続行を望んでいる感じだから俺も何も言わずに……

 

(…って、おおぅ…こっちもですかい……)

 

 一応掌と足の裏以外がシートに触れていないかを確認しようとしたところで、俺は気付いてしまった。向かい合う形で接触している緋奈と依未の胸が、二人の間で潰れ合っている事に。俺は理解してしまった。冬服だとあまり起伏が分からない二人でも、各々の身体でぐっと挟めば潰れる程度には膨らみが存在している事に。後、どっちかっていうと多分緋奈の方が大きい事に。

 

「あ、あー…緋奈、動けそうかー…?」

「…う、うん…でも出来れば、楽なものにしてくれると助かるかな…」

「よ、よーし任せろ!上手い事体勢変えずに何とかなるやつ出してやるッ!」

『いや狙って出来る事じゃないでしょ……』

 

 妃乃と依未から呆れ混じりの突っ込みを受けながらも、俺は全力を込めてルーレットをスピン。もう一度言っておくが、ほんと俺に変な意図はあったりしない。体勢維持に他意なんてありゃしない。だってほら、女子同士が密着してるとか別にそこまでおかしくないもんな!てか緋奈に至っては妹だからな!実妹だからな!滅茶苦茶可愛いけど妹だし、依未も二人に引けを取らないけど半分庇護対象みたいな相手だもんなっ!さぁそれよりもルーレット、良い感じのところで止まれぇいッ!

 

「……!…左足、黄色」

「え、左足黄色?…わっ…ほんとに割と楽なところに……」

「ふっ…本気を出しゃ、こんなもんさ…」

 

 謎の達成感と共に言葉を返した俺は、ふぅ…と一つ吐息を漏らす。これで緋奈と依未の体勢は保たれた。いやいやほんと良かった。これで二人はすっ転ぶ事なく……

 

「ちょ、ちょっと失礼するね依未さん……」

「え、えぇ…んっ……」

 

……すっ転ぶ事なく、黄色に向けて動かした緋奈の脚は依未の軽く開かれた両脚の間を通って、二人の脚は絡み合うような状態となった。…うん、まぁ…これも偶然だから…ツイスターゲームって、時にこういう事にもなる競技だから…。

 

「さ、また私の番よね…そろそろ手も脚も疲れてきたし、早めに頼むわ」

「はいよ。…左足緑だな」

「ま、また左足…?しかもこれ、この体勢じゃどうにもならないわね…こう、なったら…!」

(…ん?まさか、自分の身体の下を潜らせるつもりか…?)

 

 見慣れた…とかではないものの、 「そうなってしまった瞬間」という最大風速を発する状態を乗り越えたからか、少しだけ落ち着きを取り戻した俺。それがまた崩れない内にとすぐに回して指示を出すと、妃乃はマークから離した左脚を振り始める。

 これは恐らく、勢いを付けて緑へと足を付けようとする作戦。そして身体能力の高い妃乃なら多分成功する筈。となればやはり、最後まで残るのは一番安定感のある妃乃……

 

「……えっ、きゃああああぁぁっ!?」

『わぁああぁぁぁぁっ!?』

「へ──?」

 

 そう、思った時だった。予想通りに妃乃が勢い良く脚を伸ばした瞬間、右足側がシート諸共ずるりと滑り、妃乃が回転しながら転んだのは。それに巻き込まれ、緋奈と依未も揃って崩れてしまったのは。

 ドミノの様に、連なって転ぶ三人。まさか妃乃が真っ先に倒れるなんて思ってなかった俺は、一瞬反応が遅れてしまう。

 

「うぅ…いつの間にかシートが弛んでるなんて…って、二人共大丈夫!?怪我はない!?」

「うぅぅ…だ、大丈夫です……」

「わ、わたしもです…でもその、少し圧迫感が……」

「あ、そ、そうよね!ごめんなさい、すぐに退いて…ひゃわぁぁっ!?」

『ぐぇっ!?…むぎゅう……』

「お、おい…無事かー…?」

 

 状況を理解した妃乃がはっとした顔で声をかけると、まず依未が、続いて緋奈が返答。依未はまだしも、一番下の緋奈は声からして少し苦しそうで、慌てて離れようとする妃乃。

 だが、三人は元から複雑な体勢をしていて、そこから転んだのが今の状態。当然そうなれば揉みくちゃにもなる訳で、そこから慌てて離れようとした妃乃は……手脚のどっかが引っかかって更に転倒。上から圧力を受けた二人は呻き声を漏らし……

 

「……大変よろしゅう、ございます…」

『……はい…?』

 

 手も脚も絡み合って抱き合っているような緋奈と依未に、その上から二人の間へ割り込みながらも胸を二人の頬へ押し付けているかのような体勢の妃乃。…そんな濃厚且つ濃密な『絡み』を前に、ちょっと自分でも何を言っているのかよく分からない事を口走ってしまう俺だった。

 

 

 

 

 ある意味物凄く、物凄ーく貴重なものを見られた気がするツイスターゲームも終わり、三人共疲れてしまった事もあってその後俺達は夕食にした。

 クリスマスイブという事もあって、いつも以上に丹精を込めて作った、俺謹製の料理の数々。パーティーの雰囲気もあってか三人からは好評で、あの依未でさえ「……美味しい」とはっきり言った程。俺自身、今回の料理は中々良い出来になったと思っていて……結論から言うと、十分に満足の出来る夕飯になった。

 

「悪いわね、結局料理は殆ど任せちゃって」

「気にすんな。ばっちり前払いは受けたからな」

「前払い…?」

「あ…すまん、今のは忘れてくれ。なんか暫く前からちょっと俺の頭はバグってるんだ…」

「そ、そう…よく分からないけど、取り敢えず忘れるわ……」

 

 どうにも頭の中から抜け切らない妙な思考を隅へ追いやりつつ、俺は食器を洗っていく。隣では妃乃がその食器を拭いていて、緋奈と依未は食卓を拭いたり拭いた食器を仕舞ったりと、全員が片付けを手伝ってくれている。…これを頼まずともやってくれるんだから、ありがたいよなぁ…。

 

「…よし。悪いな、依未にまで手伝わせて」

「別にいいわよ、あたしだけ何もしないんじゃ寧ろ居心地悪いし」

「…依未って、割と素直な一面もあるよな」

「うっさい、茶々入れるならこの布巾であんたの顔も拭くわよ?」

「へいへい悪かったな。さて、どうするよ依未」

 

 突き出してきた布巾を受け取り、流しで洗って布巾掛けに。それから依未に問い掛けたのは…いつ帰るかという事。

 俺としては、まだ居てもらったって構わない。けれど依未はまだ十四歳な訳で、たとえ送っていくとしてもその依未を夜遅くまで…それこそ深夜になってから帰すというのは出来れば避けたい。…って、これだとマジで保護者サイドの思考だな…はは……。

 

「……そうね。あたしがいるんじゃ妃乃様達も休めないでしょうし、悠耶のタイミングで送ってくれればいいわ」

「別にそんな気遣いはしなくていいと思うがな。こっちは呼びたくて呼んだんだしよ」

「…悠耶も、悪いわね。こんな日まで送らせて……」

「それこそ気にする事じゃねぇよ。どうして付き合ってるのかは、もう何度も言ってるだろ?」

「……うん…」

 

 自分の存在に引け目を感じているような依未だが、そんなの思い過ぎもいいところ。自信過剰ならまだしも実際と乖離した卑下なんて、誰も幸せにはなりゃしない。だからいつもの調子で、諭すように…俺の意思をはっきりと伝えるように依未の肩へと手を置くと、依未は小さく頷いて……

 

「お兄ちゃーん。そういう事するなら、せめて廊下に出てからの方がいいと思うよ?」

『あっ……』

 

 二人揃って、緋奈にかけられた声でここには緋奈も妃乃もいるんだって事を思い出した。…うん、これはあれだな。くっそ恥ずいなっ!

 

「い、いやあのそのだな…」

「あからさまに動揺してるわね…依未ちゃんも大丈夫……?」

「う、うぅぅ……」

「あはは…あ、そうだ。…ねぇお兄ちゃん、折角だし…今日、依未さんに泊まっていってもらうのは駄目かな?」

『え?』

 

 俺は頬が熱くなるのを感じ、依未は恥ずかしさから背を向け、妃乃は何やってんだか…とでも言いたげな顔に。声を上げた緋奈も苦笑いしていたが…そこでふと思い付いたように(ってか実際に思い付いたんだと思うが)、依未を泊める事を提案してくる。

 

「わたし、詳しい事は知らないけど…依未さん、いつも一人で暮らしてるんでしょ?って事は、お兄ちゃんが送ったらその後は一人になっちゃうんでしょ?今日はこれだけ賑やかで楽しい時間を過ごせたのに、その最後が一人なんて…わたしだったら、寂しいなって……」

「緋奈……」

「でもうちなら依未さん一人位問題ないし……って、よく考えたらこんなの、依未さんからすれば勝手に決め付けるなって話だよね…だ、だからその…もし良かったら…どう、でしょう…?」

 

 少し驚いた俺が緋奈を見やると、前半緋奈は流れるように、後半は表情が見えない位の俯きがちに自分の気持ちを言葉へ乗せる。

 それを聞いて、俺は思った。あぁ、なんて緋奈は良い子なのかと。改めて思った。なんて優しい妹なのかと。依未の事を思って、依未の気持ちを慮って、だがそれでいて気持ちの押し付けになってはいけないと反省もする。もしこれが意図せず言っていたのなら緋奈の優しく清い心の表れって事になるし、意図して言っているのならそれはそれで他人に優しくしようって思考をいつも持っているって事になるんだから、どっちにしろ俺からすれば誇らしいところ。そしてそんな優しい緋奈の気持ちを後押ししてやりたいと思うのが、兄である俺の気持ち。

 だが、一番大切なのは依未の意思。緋奈が気にした通り、気持ちの押し付けになっちゃいけない。だから依未の気持ちを確認しようと振り向くと……

 

「…あぅ…緋奈ちゃん……」

 

……なんだかよく分からないけど、依未が緋奈に落ちかけていた。…まぁ、気持ちは分かるけどな。でもやらんぞ、俺の妹は。

 

「…どうしますかい?依未さんや」

「…はっ……!…え、と…その…妃乃様と、あんたは…」

「俺は問題ねぇよ。妃乃はどうだ?」

「私だって構わないわ。ここは悠耶と緋奈ちゃんの…というか、千嵜家の家なんだし」

「……だ、だったら…一晩、泊まらせてもらいます…」

 

 伺うような依未の瞳に俺と妃乃が頷きを返すと、依未は借りてきた猫のような感じで緋奈からの提案に同意。それにより、今から送っていく話はなくなり…今日はこのまま、依未もうちに居る事となった。

 

「うん。…っと、それじゃあお風呂出た後のパジャマをどうにかしないとだよね。依未さん、わたしの服で良いなら貸すけど……」

「い、いいの…?」

「勿論。だって、わたしが言い出した事だもん」

「…じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

 着替えの件も速攻で決まり(というか緋奈が決め)、パジャマを選ぶべく緋奈は依未を連れて自分の部屋へ。依未も若干躊躇いながら付いていき、アイコンタクトで「一人で大丈夫」と伝えられた俺は見送る形に。

 俺と違って優しい性格である事、それに同性且つ一歳とはいえ俺より年齢が近い事もあってか、初めて会った時から依未は緋奈をそこまで拒絶する感じがなかった。とはいえ依未は人付き合いに対して俺以上に消極的な訳で、そんな依未が緋奈へ少しでも歩み寄れているのなら、歩み寄れる雰囲気を緋奈が作れているのなら、俺は嬉しいし安心する。どっちも俺からすれば守りたい、何かあれば力になってやりたい…つまりは、比較的近い思いを抱く相手なんだから。…しっかし俺の為にこのパーティーを提案して、今は依未の為にも泊まる事を提案するなんて…ほんっとほんっと、緋奈は優しくて可愛い妹だなぁ…。

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