双極の理創造   作:シモツキ

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第百六十話 自分なりのけじめ

 あれから俺は、本当に緋奈と寝た。俺の部屋で、同じベットで、一度内側へ寝返りをすればそれだけで触れてしまうような距離で。

 だがそこに、邪な感情はなかった。…というより、懐かしさから二人で随分と昔の話をした。なんて事ない、他愛ない家族の会話をのんびりと。特に明確な終わりなんて決めず、何となく話し続けて、最後はどっちかが寝落ちする事で終了になる、目的のないただの雑談。…でも、それが心地良い。自然と思い出が蘇ってくるのが、そんな話を出来る事が…それ自体が、俺たちにとっては幸福だった。

 そんな時間を緋奈と過ごし、共に同じ場所で寝て、迎える朝。一日の、始まり。

 

「ふぁ、ぁ……」

 

 目が覚めた俺は、冬の朝の寒さに思わず二度寝してしまいたくなる衝動に抗いながら、ゆっくりと身体を起こす。…まぁ、大丈夫だとは思っていたが…もう縛られていたりはしない。

 

「…ん、みゅ……」

 

 隣を見れば、勿論そこにいるのは緋奈。俺が起き上がった事で掛け布団が捲れて寒くなったのか、緋奈はきゅっと身体を丸める。

 

「…おーい、起きろ〜」

 

 寒そうに丸くなる緋奈は何とも可愛いが、一夜明けた今の俺は至って冷静。だからこそこの状態を妃乃や依未に見られちゃ不味いって事は理解出来てるし、何なら「何かあったらいつでも俺の部屋に来い。遠慮すんな」と、隣の部屋にいる依未に話した事も思い出した。つまり…今はかなりリスキーな状態なのである。…いや、ほんとマジで。

 

「…んぅ……?」

「んぅ?…じゃなくてだね…ほれほれ起きろ」

「んぅぅ……おにぃひゃん、おはよぉ……」

「おはようさん。早速だが、この状況を冷静に考えてみてくれないか?」

「冷静に…?……あ…」

 

 見た目通りに柔らかい頬をつっつく事十数秒。目を擦りながら起きる緋奈に頭を働かせるよう言うと、ぽけーっとしていた緋奈の顔は数秒後固まり、その後「あー…これは……」みたいな感じに。

 

「…ご理解頂けたかな?」

「うん…今妃乃さんや依未さんが入ってきたら、お兄ちゃんは二人から軽蔑の視線で見られる事になるね……」

「だろうな…って訳で緋奈、悪いが……」

「待って、お兄ちゃん。その前に…どうしても、これだけは言っておきたいの」

 

 十中八九理由や経緯も聞かずに軽蔑の視線を向けてくるだろうし、それは何ともまあ理不尽な訳だが、 状況的には完全に「そういう感じ」になっちゃってるんだから仕方ない。てか、俺だって妃乃達の立場なら同じように思うだろうし。

 ともかく、このままは不味い。最低でも緋奈がベットから降りてくれなきゃ軽蔑必至。そしてそれは緋奈も理解してくれたようだから、俺は降りるよう言いかけて…けれどそこで、緋奈が遮る。真剣な顔と、真剣な声で。

 それから緋奈は、ある事を言った。これから自分がしようとしている……自分なりの、けじめの話を。

 

 

 

 

 数十分後。着替えて顔を洗った俺は、ソファに…緋奈の隣に座って、待っていた。妃乃と依未が、姿を現すのを。

 

「お待たせ。悪いわね、待たせちゃって」

「いえ、わたしこそすみません。朝から呼び出してしまって…」

 

 依未に少し遅れる形で、リビングへと入ってくる妃乃。最初に緋奈に呼ばれた時点で、緋奈の只ならぬ雰囲気を感じ取っていたのか、妃乃は既に真面目な顔。

 

「…で、話っていうのは……」

「…うん」

 

 同じく真面目な、同時に少し緊張も感じられる顔で依未が緋奈へと話を振る。振られた緋奈は答えながら頷くが…やはり、その表情は固い。

 

「…大丈夫か?どうしてもキツいなら、俺から話しても……」

「…ううん、大丈夫。これはわたしが、わたし自身で話さなきゃいけない事だし…お兄ちゃんから言うのも、変でしょ?」

「…そう、だな…なら、頑張れ緋奈」

 

 助け舟を出そうとした俺だったが、緋奈は首を振って拒否。普段なら、ここで食い下がる俺だが…今回は別。緋奈からの返答に頷いて、助け舟の代わりにエールを送る。

 今の俺の言葉が、緋奈の背中を押せたのかは分からない。だが俺と言葉を交わした緋奈は胸の前で右手を握り、深呼吸をし……立ち上がる。

 

「…妃乃さん、依未さん」

「…………」

「…………」

「…ごめんなさい。わたしは二人に、謝らなきゃいけない事があります」

 

 そして、緋奈は語る。どうしてパーティーを提案したのかを。その中で、自分が何を画策していたのかを。包み隠さず、はっきりと。

 それが、俺の部屋で話してくれた、緋奈のけじめ。自分の思いの為に、二人を利用した事への、最初の償い。流石に全てを話した訳じゃなく、二人には関係ない…例えば俺が緋奈に語った内容とかは、飛ばすか要約するかに留めていたが……それでも緋奈は、二人の前で明かした。自分の気持ちも、した事も、しようとした事も…全て。

 

「……これが、わたしの考えていた事、していた事の全てです。本当に…ごめんなさい」

 

 最後まで言い切った緋奈は、二人に向けて頭を下げる。深々と、誠意を込めて。

 聞いている間も、緋奈が話を締め括ってからも、妃乃と依未は何も言わなかった。話の最中の表情から驚いている事は分かったが…緋奈にどんな思いを抱いているのか、それは全く分からない。

 

「…二人共、ただで許してくれとは言わない。でも……」

 

 話し終えた事で、訪れた沈黙。緋奈も頭を下げたまま。この件に関して無関係じゃない…それどころか責任の半分は自分にあると自負している俺が、その沈黙の中で声を上げ…けれどそれは、妃乃が俺に向けて挙げた手によって止められる。

 俺と依未が見つめる中、妃乃もまた立ち上がる。そして妃乃は、緋奈の前へ。

 

「…頭を上げて頂戴、緋奈ちゃん」

 

 落ち着いた、穏やかな声で話す妃乃。その言葉を受けて、ゆっくりと緋奈が顔を上げると、妃乃は緋奈の肩へと右手を置く。

 

「まずは、隠さずに話してくれてありがとね。その話は、私達には知る由もない…隠そうと思えば黙っているだけで隠し通せる事なのに、緋奈ちゃんは包み隠さず話してくれた。…それが、嬉しいわ」

「…はい」

「それに、緋奈ちゃんが悠耶をどう思うかも貴女の自由よ。その中で私や依未ちゃんに実害を、迷惑をかけた訳じゃないし、むしろ私達は緋奈ちゃんがパーティーを提案してくれたおかげで、これまでした事のない体験をする事が出来た。…そうでしょ?依未ちゃん」

「あ……はい。あたし、誘われるまでこんな経験出来るなんて、思ってもみませんでした…」

「…妃乃さん…依未さん……」

「ね?私達は、感謝してるのよ。理由はどうあれ、私達は昨日本当に楽しかったから」

 

 妃乃が口にしたのは、感謝の言葉。何よりもまず正直に話した事へ、それからこのパーティーで自分達が得られたものについて感謝を伝え、訊かれた依未も頷いて同意。…だが、優しさと甘さの違いを知っている妃乃は、だけど、と続ける。

 

「…緋奈ちゃん。貴女は、私と悠耶の…外での会話を盗み聞きしていた。自分の目的の為に私を焚き付けて、私も依未ちゃんも利用して、何食わぬ顔をしていた。…分かるわよね?緋奈ちゃんが私に言わせようとした、私が言った言葉は、誰もいないからこそ…相手と二人だったからこその言葉だって。それを誰かに聞かれる事が、どれだけ恥ずかしいのかって」

「…………」

「貴女は正直に言ってくれた。だから私も丸く収める為だけの言葉なんて言いたくないし、緋奈ちゃんは覚悟を持って話したんだと思うから…私も正直に言うわ。……不愉快よ、そういう事をされるのは」

「……っ…ごめん、なさい…」

 

 不愉快。真っ直ぐに緋奈を見て、妃乃はそう言い切った。そのすぐ前に挙げた「丸く収める為だけの言葉」の方がずっと楽だろうに、それを分かった上で妃乃は、非難の言葉を緋奈へぶつけた。

 その言葉を聞いた瞬間、緋奈の表情が歪む。覚悟があろうと、非難されたのならそれは当然の反応で…だけどほんの少し、俺は安心もした。

 何故なら、緋奈にとって妃乃がどうでもいい相手なら、表情に出る程心が揺れたりはしないだろうから。昨夜妃乃についても緋奈は言っていたが、あれは建前ではなく、本当に妃乃に対して尊敬の念を抱いているんだって分かったから…良かったって、俺は思った。

 

「聞かせて頂戴。緋奈ちゃん、貴女のした事は、したかった事は、私達を利用するだけの、私を裏切るだけの価値が…意味がある事だったの?」

「え…?…それは、さっき……」

「私が聞いてるのは行為じゃないわ。緋奈ちゃんの、気持ちよ」

「……はい。反省はしています。こんな程度で許してもらおうなんて思っていません。でも…後悔も、していません」

「…よく、私の前でそれを言えたわね」

「包み隠さず話すって、決めましたから」

「…そう。じゃあ、ちょっと目を閉じてくれるかしら?」

「え…?あ、はい……」

 

 普通なら緊張してしまう、聞いているだけの俺でも若干の威圧感を感じるような妃乃からの問い詰めを前に、緋奈は一度も目を逸らす事なく、正直に答えた。はっきりと、堂々と。

 それが、その姿が、妃乃の目にどう映ったかは分からない。けれど妃乃聞き終えた妃乃は緋奈に目を閉じるように言い、その要望に不思議そうにしながらも緋奈が目を瞑った数秒後、妃乃はゆっくりと右手を上げて……

 

「……あぅっッ!?」

 

 べちんっ、と結構大きめの音が鳴る位のデコピンを、緋奈の額へと打ち込んだ。

 

「その潔さ、素直さに免じて、今回はこれで許してあげるわ。文句はないわよね?」

「……こ、これでって…こんなので、良いんですか…?」

「こんなのでも良いって思ったから言ったのよ。むしろこれも、お咎めなしじゃ逆に緋奈ちゃんが気に病むと思ってやっただけだし……理由はどうあれ、私も前に緋奈ちゃんを騙してたんだもの。それを緋奈ちゃんは許してくれた以上、私も許さない訳にはいかないわ」

「…でも、それとこれとは……」

「だから、私が良いって言ってるでしょ?…それに、聞こえなかった?私は、『今回はこれで』って言ったの。…その意味は、分かるわよね?」

「……ありがとうございます、妃乃さん。…肝に、命じておきます」

 

 緋奈が両手で額を押さえ、『(>x<)』…こーんな感じの顔をする中、ふっと表情を緩めて妃乃は続ける。戸惑う緋奈を諭すように、許す理由を緋奈へ伝えて…だが最後は、トーンを落とした本気の声で言葉を締めた。それを受けた緋奈も、しっかりと一つ頷いて、引き締めた顔で妃乃に答えた。

 これを、デコピン一つで許すのを、甘いと見るかどうかは人それぞれ。だけど俺は、これで良かったと思う。良いに決まってる。何せ、緋奈と妃乃がそれで納得したんだから。

 

「…さ、次は依未ちゃんね。ごめんなさい依未ちゃん、勝手に私から言っちゃって」

「うぇ…!?あ、い、いやその…あたし、は……」

「……依未。勝手で悪いが…許すであれ怒るであれ、ちゃんと緋奈に言ってやってくれないか。依未の、依未自身の言葉で」

「……っ…」

 

 次は貴女の番よ、とばかりに元居た場所へ戻る妃乃。振られた依未は慌てていたが…俺は依未に頭を下げて、頼み込む。どんな言葉であっても、きちんと伝えて…ぶつけてほしいって。

 それは勿論、緋奈の為。だからどうしても嫌だと言うなら、俺は依未に強要なんて出来ない。けど、依未は暫く迷った末…口を開く。

 

「…あたし、的にはその…正直言うと、ショックだった…妃乃様の時も言ったけど、あたしこんなの初めてだし…だから楽しかったし、嬉しかったし……」

「…ごめんなさい。その思いを、踏み躙って……」

「う、ううん。怒ってる訳じゃないの…ただ、ショックだったってだけで…それに、あたしも『家族』ってものには色々思うところがあるから、気持ちは分かる…じゃないけど、許せない…って気持ちにはならなくて……」

 

 すぐ前で、緋奈を見据えて話していた妃乃とは対照的に、依未は落ち着かない様子で指を突き合わせながら、何度も視線を逸らしながら言葉を紡ぐ。

 声音も、妃乃のように堂々とはしていない。でもだからこそ、用意した言葉ではない、ありのままの本心だった事が分かる。…勿論、妃乃の言葉だって本心には違いないが。

 

「…ねぇ、緋奈…あたしも、一つ…訊いていい…?」

「…うん」

 

 数秒間沈黙し、再び口を開いた依未の問い。一拍置いて緋奈が頷くと、依未はもじもじとさせていた指を離し、緋奈と目を合わせて、言う。

 

「…あれも…あたしが泊まっていくのを提案してくれたのも、切っ掛けを作る為だったの…?それだけの為に、あの場で思い付いて言ったの…?」

「…それは……」

「……い…言い辛かったら、言わなくてもいいから…!あ、あたしは別に……」

「…そうだよ。切っ掛けを作る為に、わたしは提案した。そうじゃないって言ったら…それは、嘘になる」

「……っ、そ…そうよね…うん、ごめん…訊くまでもない事だっ……」

「でも、でもね…それだけじゃ、ないの。信じてもらえないかもしれないけど…それだけの為に、言ったんじゃない」

 

 その視線にも顔を逸らす事なく、緋奈は答える。答えて、その返ってきた答えに依未は悲しそうな顔になって…だがまだ、緋奈の答えは終わっていなかった。ふるふると首を横に振って、改めて依未の方を向いて、緋奈は続ける。

 

「わたし、依未さんには感謝してるの。凄く凄く、感謝してる。だって、わたしとお兄ちゃんが喧嘩した時、仲直り出来たのは依未さんがお兄ちゃんと話してくれたからだから」

「…あれは…ただ、あたしが気に食わなかっただけで……」

「だとしても、あんなに早く仲直り出来たのは、依未さんのおかげだよ。だから感謝してるし…あの時は、本当に思ってたの。こんなに楽しい時間を過ごせたのに、最後は一人で、自分しかいない場所に帰るなんて、そんなの寂し過ぎるって。家族と過ごせたいのは、悲しいって。切っ掛けになるとも思ってたけど、わたしなりに依未さんへ何か出来ないかなって、ちょっとでも恩返ししたいなって思いもあって、そんなことを考える内に気付いたら言ってて……」

「…緋奈……」

「だから、その…今更、虫の良過ぎる話だって思うと思うけど…ずっとわたしの中では、依未さんと…友達になりたいな、って…思ってたから……」

 

 初めはしっかりと、妃乃と相対していた時と遜色ない雰囲気で話していた緋奈。だが次第にその落ち着いた雰囲気が崩れていき……最後はさっきの依未の様にもじもじと、少し恥ずかしそうにしながら緋奈は言った。依未と、友達になりたいんだって。

…正直に言おう。この瞬間の緋奈は、めっさ可愛かった。いじらしいというか、愛らしいというか…とにかく頬をちょっぴり染め、ちらちらと依未を見ながら言う緋奈の仕草は、依未に嫉妬してしまいそうな程に可愛さが振り切っていた。

 そして、そんな緋奈に友達になりたいと言われた依未は……

 

「…はぅっ……」

「えっ…よ、依未さん……?」

 

 まるで胸を撃たれたかのように、胸元で両手を握って軽くよろめいていた。…うん、この流れ昨日も見たぞ。

 

「……ちょ、ちょっと悠耶…」

「お、おぅなんだなんだ…」

 

 緋奈が驚き、妃乃もまたほっこりした表情を浮かべているながら、俺の前に来た依未は俺の袖を引っ張りながら部屋の外へ。俺も抵抗せずに廊下に出ると、依未は俺へと迫るようにして言ってくる。

 

「あ、あんたの妹何なのよ…!?可愛過ぎるんだけど…!?」

「…だろ?」

「自信満々な顔すんな…!」

 

 予想通りというか何というか、やはり依未が言ってきたのは緋奈の可愛さの事。滅茶苦茶可愛い緋奈が見られたのと、その可愛さの理解者を得られた嬉しさからつい俺が中身のない反応をしてしまうと、依未は怒って返してくる。…って、ん?

 

「…なんで怒ってんの…?」

「お、怒ってないわよ…!そうじゃなくて……」

「…そうじゃなくて?」

「……あ、あたしみたいに捻くれ切った人間が、あんな清い女の子に『友達になりたい』なんて言われても、どう返せばいいか分かる訳ないでしょ…!それ位察しなさいよ馬鹿…!」

「えぇー……俺はその発言にどう返したらいいか分からねぇよ…」

 

 気持ちは分かる。俺も捻くれてる側の人間だから、凄く分かる。でもそれをさらりと入れた自虐と共に、変な圧で言われちゃ流石に俺も困惑する訳で……。

 

「あのー…依未さーん……?」

「ひゃ、ひゃいっ!」

 

 さてどうしたものか。それを考えようとした瞬間に、開かれた扉とそこから出てきた緋奈の顔。呼ばれた依未はびくぅ!…とこれまた分かり易く反応していて、声も裏返ってしまっていた。…これはこれでちょっと可愛いな…。

 

「その…困らせたのならごめんなさい…依未さん優しいのに、こんな事言えば気を遣わせてしまう事位、ちょっと考えれば分かるのに……」

「や、優しい…?…あたしが……?」

「うん…さっき話した事もそうだし、お兄ちゃんには遠慮がないけど、本気で傷付けようとしてる訳じゃないのは何となく伝わってくるっていうか…文化祭の時も、勝手に手伝ったお兄ちゃんに対して、最後お礼を言ってたから…」

「う……」

 

 友達になってほしいなんて言われたら、優しい人は断るのを躊躇ってしまう。それが負担になってしまう。そんな思いがあってか緋奈の方がまるで年下の様な雰囲気になってしまい、依未も依未でまさか優しいと言われるなんて思ってなかったからか、助けを求めるような視線を俺の方へ。…うん、これも分かる。俺達の心をぶっ刺し合うやり取りの中から優しさを見出だすとか、一番優しい心を持ってるのは間違いなく緋奈だよな。…でもまぁ、このままじゃ埒があかんし、助け舟を出してやるか…。

 

「あー、こほん。緋奈、分かってると思うがこの通り依未は俺と同類、即ちぼっち予備軍だ。いや、ひょっとすると予備軍じゃなくて真性のぼっちかもしれん」

「な……ッ!?だ、誰がぼっちよ誰がッ!」

「あ、すまん。友達いたなら今のは訂正するわ」

「うぐっ……」

「…とまぁ、こんな感じなのが依未だ。だから緋奈、友達になってほしいっていうか、友達になってやってくれ。依未もそれで良いだろ?」

「……っ…ぅ、うぅぅ…!」

 

 こういう時は、流れを変えて強引に進めてしまう方が良い。綺麗にお膳立てするより、引っ掻き回す方が上手くいくって事もある。そういう意図の下、話の主導権を俺が奪い、俺から緋奈に向けて提案。…どさくさ紛れに依未を弄ったなんて事はないぞー?あったとしても、それは偶然だぞー?

 

「…え、と…お兄ちゃん、こんな事言ってるけど……」

「……そうよ、ぼっちよ…でも、あたしだって好きでこうなったんじゃ…」

「そっか…じゃあ、わたしが依未さんの始めての友達だね」

「うぇ…?…い、いいの……?」

「勿論だよ。だってそもそもわたしから言った事だもん。…だから…改めて宜しくね、依未ちゃん」

「……っ…う、ぁ…」

「……依未」

「……こ、こっちこそ…よ…宜しく…緋奈…ちゃん…」

 

 しょぼくれる依未を前に、にこりと笑いかける緋奈。完全に立場が逆となる中、依未からの訊き返しに緋奈は軽く肩を竦めて、依未の両手を包むように握る。

 微笑まれ、物理的にも精神的にも曇りのない優しさに包まれて、またさっきの状態になりかけた依未だったが、俺が小突いた事で我に返り、滅茶苦茶緊張しながらも返答。ぎこちなく、かなり恥ずかしそうな様子を見せながらだが笑みも返して……ここに、新たな友達関係が一つ生まれるのだった。

 

「良かったわね、二人共」

「あ、妃乃さん…」

 

 いつの間にか近くへと来ていた妃乃の言葉に、緋奈は首肯。次に妃乃は俺へと視線を移してきて…俺もまた、軽く肩を竦めてみせる。

 二人が友達になる事で、俺に何か影響がある訳じゃない。だが、実際のところ俺も安心していたっていうか、良かったと思っている。何せ二人は可愛い妹といつでも力を貸してやりたい相手なんだ。その二人が仲良くなるなら嬉しいし…依未が俺以外に少しでも気の許せる相手が出来たのなら、それは俺にとっても嬉しいんだからな。

 

「さて…それじゃあこれで、この話は一件落着ね。皆、異論はないでしょ?」

「そうだな。…俺からも感謝するよ。ありがとう、二人共」

「そのお礼には及ばないわ。色々言ったけど…結局は、今日とこれまでの緋奈ちゃんの在り方が、私達に許そうって思わせたんだもの」

 

 腕を組み、軽く頬を緩めて妃乃は言う。それに依未もこくりと頷く。そして二人の反応を聞いて、見て、俺は思う。確かにそうかもしれないが…同時に、二人の優しさもあってこそ、この件は全員が納得する形で、誰も不満や負の感情を抱く事なく一件落着したんだろう、と。あぁ、そうだ…全く三人とも、俺には不釣り合いな位良い性格をしてるんだよな…。

 

(…って、良い性格じゃ逆の意味っぽくなるな…ややこしい皮肉があるもんだ……)

「さ、話は済んだし朝食にしましょ。依未ちゃんも、朝ご飯食べていくでしょ?」

「あ…えっと、はい。ご迷惑でないのなら……」

「勿論よ、こんな朝から食事も出さないで帰す方が無礼だし」

「妃乃もすっかりうちの一員である事が板についてきたなぁ…んじゃ、ぱぱっと作っちまうか」

「あ、ならわたしも手伝うよっ、お兄ちゃん」

「うぉっ…!」

『な……っ!?』

 

 そうして緋奈自身が選んだけじめも付いて、妃乃の言う通り一件落着。後はもう、昨日までと同じ日常に戻るだけで……と思った瞬間、屈託のない笑顔で俺の腕に抱き着いてくる緋奈。時々スキンシップ取ってるし、何なら昨夜は添い寝だってした俺な訳だが、それでもいきなり抱き着かれれば驚く訳で…それは勿論、妃乃や依未だって同じ事。二人共妹というか彼女みたいに抱き着いた緋奈の行為に目を見開いて、その場で固まってしまっている。

 

「…ね、お兄ちゃん…愛の形は色々あるし、わたしだってはっきりしない、曖昧な心の部分はあるけど…それでも、お兄ちゃんが大好きだって気持ちは、変わらないからね?」

 

 抱き着いた状態からほんの少し大人びた表情を浮かべ、小声で…妃乃と依未には聞こえているかいないかの微妙なラインで、俺に向けて緋奈は言う。その表情と仕草に、真っ直ぐな言葉に、思わず俺は惚れそうになってしまい……それから、思うのだった。やっぱり緋奈は、最高に可愛い、俺にとって最高の妹だな、と。

 

 

 

 

「……で、お兄ちゃん。わたしは何をすればいい?」

「あぁ、うん。それじゃあ緋奈は、ラジオ体操に行ってスタンプ貰ってきな」

「はーい。…って、いやもうわたし高校生だよ!?今は冬だよ!?何より料理全く関係ないよ!?な、何故に!?」

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