双極の理創造   作:シモツキ

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第百六十二話 新年もいつも通りに

「…あ、そうだ。俺自身は言ってないんだった。あけましておめでとう」

「あーうん、おめっとさん」

 

 いきなり何を言っているんだ。これ一話飛んでるんじゃないのか。…そう思う方がいても仕方ないとは思うが、一先ず落ち着いてほしい。そして安心もしてほしい。

 そう思った方々の感性は間違っていない。だって、俺もまだ飲み込み切れていないんだから。

 

「…なぁ、御道」

「んー?」

「もう地の文で説明するのも面倒だから、代わりに口頭で説明してくれ」

「えぇー……地の文で説明するのが面倒って何を言ってんの…?しかも、二話連続で初っ端からメタネタって……」

 

 隣にいる御道が物凄い半眼でこっちを見てくるが、それはスルー。説明が面倒だから任せたのに、それに纏わる部分で弁明だの何だのするんじゃ任せた意味がない。

 

「無視かい…ったく……こほん。本日は一月一日、元旦。時刻は早朝。深夜から朝にかけてやってる正月恒例のお笑い番組を見ていた俺の元に綾袮さんから、『初日の出と初詣行こうよ!今からそっちの家行っても大丈夫?』というメッセージが届き、大丈夫だと返信した瞬間家の前まで既に来ていた様子の綾袮さんと物凄く申し訳なさそうな妃乃さんが来訪。色々あって連れ出された俺とロサイアーズ姉妹は綾袮さんに率いられる形で千嵜宅へ行き、同様の手口で千嵜達も連れ出し初日の出へ。そのまま初詣も行くのかと思いきや、何故か双統殿による事となり、その後悠耶が連れてきた篠夜さんと共に綾袮さん達はある部屋へ入っていって…今に至る。…これで満足?」

「なっがい台詞だなぁ……」

「なっがい台詞だなぁ、じゃねぇわ。人に任せといてなんて態度しやがる…」

 

 マジでちゃんと説明するとは思ってなかった…というのはさておき、ここまでの経緯は大体今御道が言った通り。一つ付け加えるなら、依未を連れてきたのは緋奈からの要望があっての事で、依未も緋奈の名前を出した事で来る気になってくれたんだが…それは余談だな。

 で、今いるのはその部屋前の廊下。しっかしまさか、元旦から双統殿に来る事になるとは……。

 

「てかほんと、正月の朝っぱらからって…奇想天外にも程があるだろ綾袮……」

「でしょう?…綾袮さんがいなかったここ数日が、どれだけ穏やかだった事か……」

「…うん、その点に関しちゃ本当に凄いと思うわ…」

 

 尊敬と憐憫の混ざった視線を御道へと送ると、御道は遠い目をして呆れ笑い。しかもその後「まぁ、ラフィーネさんとフォリンさんも時々思いも寄らない事するから、『比較的』穏やかだったに過ぎないけどね…」とか言ってくるものだから、俺の中の同情も止まりゃしない。…苦労、してんな……。

 

「はは…てか、結局何の準備してるんだろうね」

「さぁな。待ってりゃ自ずと分かるだろ」

「いやそれはそうだけども……」

 

 考える必要のある事について思考するのは普通の事だが、これは別にそういうものじゃないし、そもそも考えて分かるような事かどうかも分からない。って訳で、これまで通りに何をするでもなく待っていると……不意にがちゃり、と扉が開く。

 

「あ、やっと出てきた。皆、何をして……」

 

 お、漸くか…と俺が思う中、御道はまだ扉が開き切らない内に声をかける。…が、その言葉は最後まで言い切られる事なく、その途中でふっと止まる。…だが、まぁ…無理もないだろう。何せ……

 

「お待たせ〜。ふふん、やっぱり初詣と言えばこれだよね!」

「悪いわね、思ったより手間取っちゃって」

「あ、う、うん……」

「お、おう……」

 

 最初に出てきた妃乃と綾袮が…いいや、入っていった女子全員が、色とりどりの着物を身に纏っていたのだから。

 

「…それは……」

「見ての通り着物よ。まさか、初めて見る…なんて事はないでしょ?」

「そ、そりゃ見た事あるけどよ…」

 

 腰に手を当てた妃乃が身に付けているのは、椿の柄が描かれた黒の着物。黒が印象の基本になっているからなのか、着物という服装そのものの力なのか、妃乃はいつもより大人びた…少女というより女性とでも言うべき雰囲気。その姿に一瞬気後れしてしまい…だが何とかそれはバレまいと、すぐに俺は表情を整える。

 

「まあ、見た事はあってもあんまり馴染みはないよね。浴衣と違って簡単には着られないし」

「う…妃乃様、あたしこれで合ってます…?凄く動き辛いんですけど……」

「大丈夫よ、動き辛いのも着物ならそれが普通だもの」

 

 続いて俺が認識したのは、薄紅色を基調に様々な色で彩られた着物を着る緋奈と、灰色、薄紫、それに山吹色の三色が組み合わさった着物を纏う依未の姿。やはり二人も普段より大人っぽく、されど使われている色の違いもあってか少女的な可愛らしさもあって、またもやどきりとしてしまう。

 ふと思い出すのは、海に行った時の事。あの時も似たような思いを抱いたが、露出に関してはあの時と真逆。今は手と首から上以外、殆ど肌が見えておらず……それでも異性を感じさせられる。

 

「…ね、お兄ちゃん。似合ってる?」

「へ?あ、あー……に、似合ってるぞ…」

「…ほんとに?今の間は何?」

「す、すまん…でもお世辞を言ってるつもりはない。本当に似合ってるって思ってるよ」

「そう?…そっか、うん…えへへ、ありがとねお兄ちゃん」

 

 平常心を取り戻すよりも早く、すぐ側まで寄ってきた緋奈に上目遣いで訊かれた俺は、我ながら説得力がないなぁと思うような返答を緋奈へとしてしまった。だが二度目はちゃんと言えて、それを聞いた緋奈も嬉しそうな顔をしてくれて……うむ、着物姿の緋奈も可愛いなぁ。緋奈は何着たって可愛いけど。

 

「新年早々兄妹仲が宜しい事で…」

「そりゃ、一年の計は可愛い妹に有りって言うしな」

「え、何堂々と偽諺言っちゃってんの?きもっ…」

「へいへいキモくて悪かったな。…しかし……」

「…な、何よじろじろと……」

 

 言葉と目によるダブルの棘に刺されつつも、俺はある思いを抱いて依未をじっと見る。…流石に完成度が違うとはいえ、普段から時々『そういう格好』をしているせいか、コスプレ感凄いな…。

 

「…………」

「だ、だから何よ…似合ってないとでも言いたい訳…?」

「いや、似合ってるか否かで言えば間違いなく似合ってるぞ?(ぱっと見でも普段のコスプレ衣装より生地の質が良いって分かるし)」

「んなぁ……っ!?」

 

 ほんのり頬を染めつつ訊いてきた依未に思考を続けながら返すと、依未の顔は一瞬で爆発。いや勿論、爆ぜた訳じゃないが…そういう表現がぱっと思い付くレベルで、一気に顔が赤くなっていた。

 

「う、うぅぅぅぅ……」

「悠耶…貴方緋奈ちゃんだけじゃなく、依未ちゃんにまで真顔で言うなんて……」

「ん?だって別に、茶化すような事でもないしな」

「……じゃ、じゃあ私は…?」

「え?」

 

 顔が沸騰してしまった依未を緋奈が介抱(?)する中、今度は妃乃が呆れた顔でこっちを見てきて…それから妃乃もまた、俺へと訊いてくる。

 幾ら俺でも、ここで「え、何が?」とは思ったりしない。理由はどうあれ妃乃も俺からの感想を求めている訳で…でも、わざわざ訊いてくる点が気になる。ただおかしくないか訊くだけなら、俺以外でも良いだろうに。

 にも関わらず訊いてきたって事は、何かしら俺じゃなきゃいけない理由があるんだ。例えば異性の意見を聞きたいとか、自分より明らかに背が高い相手からどう見えるか気になるとか……

 

(…いや、違うだろ。理由はどうあれ…妃乃は俺からの言葉を求めてるんだから)

 

 理由は気になる、ほんと気になる。でも妃乃が求めてるのはそんな事じゃなくて、きっと俺ならちゃんと答えてくれると思って訊いてきたんだ。だったら…その気持ちには、答えなきゃいけない。

 

「…こういう時、『も』って表現は良くないのかもしれないが…妃乃も二人に負けない位、似合ってる…と、思う」

「……そ、そう…それはその、ありがと…」

「え、っと…おう…。それと…綾袮もだが、段違いに着慣れてる感があるな…」

「…それはまぁ…実際着慣れてるからね……」

 

 恥ずかしさを感じつつも言葉にした答えを聞くと、依未程ではないにしろ妃乃も頬を染め、その頬を掻きつつ小声で感謝の言葉を口に。

 目を逸らし、されど決して満更でもなさそうな顔をする妃乃の白い肌、紅潮した頬。そのどちらも黒い着物との対比で映えていて……っていかんいかん、平常心平常心…。

 

「ご、ごほん。にしてもまた、随分と気合い入れた格好だな。…これから討ち入りか?」

「う、討ち入りなんかしないし百歩譲ってそうだとしても、討ち入りだったらこんな格好しないわよ…何?まさか初詣行く事忘れたの?」

「いや忘れちゃいないが…それだけの為に、それだけの格好を…?」

 

 初詣とか夏祭りとか、イベント絡みで和の装いをするのは別段おかしな事じゃない。だが明らかに妃乃達の着る和服はそういうレベルを超えていて、とても「折角だから行こうよ!」感覚の装いには見えない。…まぁ、全力でやってこその楽しみってもんもあるとは思うが…。

 

「一年の初めに行う事だもの、やる気入れたってバチは当たらないでしょ?…まぁ、私と綾袮に関しては、元々後にこれ着て出席しなきゃいけない会があるから…って言うのもあるんだけどね」

「あー……え、じゃあその為の服で初詣なんて行っていいのか?」

「何かあったら不味いわね。だから…エスコート、頼むわよ?」

「……出来る範囲でな」

 

 んな勝手な…と思った俺だが、声音から冗談混じりで言っている事は伝わっている。そして責任感の強い妃乃が、何あったとしてもそれを俺のせいにする訳がない。だから俺も、「出来る範囲で」という条件を付けつつ妃乃の要望を承諾し……俺と御道は、各々お嬢様方を連れて神社へと向かうのだった。…因みに着付けは、全員妃乃と綾袮がやったんだとか。……凄いな…。

 

 

 

 

 正直言うと、眠かった。だって寝てないし。TV見てたし。綾袮さん達を待ってる間なんて一回うとうともしたし。

 けれどその眠気は、出てきた綾袮さん達の着物姿を見た瞬間に吹っ飛んだ。着物に身を包んだその姿が、あまりにも綺麗だったから。

 

「顕人、初詣とお祭りはどう違うの?」

「あー、っと…うーん…どう説明したものかなぁ……」

「…難しい?」

「難しいっていうか、そもそもお祭りって沢山の出店を楽しむものじゃないんだよ。だから違うというより…初詣でもお祭りでも、本来の目的とは別に出店が出てる…って感じかな?詳しい事は俺も分からないけど…」

「顕人さん、いつも私達の質問には頑張って答えようとしてくれますよね。それ、結構嬉しいです」

「そう?そう思ってくれてるなら、俺も頭捻った甲斐があるかな」

 

 他の参拝者さんや出店へ寄ろうとしている人達の邪魔にならないよう、あまり広がらずに歩く俺達。説明を終えたところでフォリンさんが感謝を口にしてくれて、ラフィーネさんも頷いてくれて、俺は嬉しいと思いながらも照れ臭さから頬を掻く。

 からんからんと音を立てながら下駄で歩く二人が着ているのは、お揃いの柄をした着物。ラフィーネさんは瑠璃色、フォリンさんは白とそれぞれ自分の髪に合わせた色をしていて、髪に差している簪もまた二人お揃い。服装が同じな分、いつも以上に二人が似て見えて…ほんと、色んな意味で落ち着かない。

 

「あ、ねぇねぇりんご飴買って行こうよ!それと綿菓子も!」

「なんでそんなべたつきそうなの選ぶの…その着物で出席しなきゃいけない会があるんでしょ?」

「じゃあ、落書きせんべい…」

「お詣りした後でね…もう……」

 

 屋台へ駆け出して行きそうな綾袮さんを捕まえて、着物をもってしてもまるで抑える事が出来ないその元気さに俺はまた辟易。…え、一度目はいつだって?そりゃあ、綾袮さんが家に来た時ですわ…。

 

「もう、って言うけど…わたしが静かに、穏やかな感じにしてたらそっちの方が顕人君は落ち着かないでしょ?」

「う…そう言われると、そうだけど……」

 

 そんな綾袮さんの着物は、鮮やかな赤。桜の柄も含めて一見主張の強い色合いながらも、少し綾袮さんが落ち着きを見せると途端に深みを感じさせられる。いつもの元気で賑やかな綾袮さんではない、宮空家の娘として振る舞う時の凛々しさが自然と頭に思い浮かぶ。そしてそんな綾袮さんに見つめられてしまえば、綾袮さんの調子関係なしに落ち着いてなんかいられなくて……

 

「お祭りと初詣について説明したり、お参りを優先するよう言ったり、さっきから先輩保護者感が凄いっすねぇ」

「…仕方ないでしょ、慧瑠含めてそういう面子なんだから……」

「え、自分もっすか…?」

 

 こういう時においては、普段の調子にさせてくれる慧瑠の茶々が中々ありがたかった。

 

「…でも、良いっすね着物…昔を思い出します……」

「…え、と…俺の意識次第で、慧瑠の外観は変わるんだっけ…?」

「そうですよ?…あ、いや、大丈夫っすからね?遠回しに自分も着たかった…って文句言ってる訳じゃないですから」

「…いいの?やるだけやってみるけど……」

「その気持ちだけで十分っす。前言った通り、意識して出来るレベルじゃそう簡単には変わらないと思いますし…それよりほら、置いてかれますよ?」

「っと、それは不味い…なら、着たくなったら言ってね?頑張ってはみるからさ」

 

 女性陣皆着物のおかげではぐれてもすぐ見つけられそうとはいえ、はぐれたらその件で弄られまくる事は間違いない。だから急いで後を追いつつも、俺は慧瑠へと念押しした。…慧瑠、無遠慮に見えて実は結構気を遣うタイプだしね。こういう事はちゃんと言っておかないと。

 

「…にしても、初詣か…来るのは何年振りだろう……」

「あれ、顕人君初詣は行かないタイプ?」

「そら、明け方までTV見て、それからお昼辺りまで寝るのがこれまでの元旦だったからね」

「わー、だらけてたんだねぇ去年までの顕人君は…」

「はは…っと、順番きたよ」

 

 皆に合流し、列に並ぶ事数分。最前列に出られた俺達は、用意しておいた五円玉を賽銭箱に放り、大縄を揺らして鐘を鳴らす。そして二礼二拍手一礼を行い…目を閉じる。

 

(……今年も良い一年でありますように)

 

 我ながらありきたりな願いな気もするけど、何としても叶えてほしい事が今ある訳じゃないし、思うのはただなんだから…と思い付く事を片っ端から挙げていく程強欲でもない。…勿論、もっと強くなりたいとか、大事な人達を守りたいとか、そういう思いもあるけど…それは何かに頼るんじゃなく、自分の手で掴み取るものだしね。

 去年…と言ってもまだ今年に入ってから半日も経ってはいないけど…とにかく去年は、本当に良い一年だった。良い事だけの一年ではなかったけど…俺は思う。今年もこんな一年が過ごせるなら、それだけで十分幸せだろうって。

 

 

 

 

 参拝後、各々出店で好きな物を買い、暫く祭りの様に楽しむ事となった。初めはうちのメンバー+依未って組と、御道と関わりが深い三人って組で回っていたが、今は女子面子が全員一つに固まり……俺達は、ベンチに座ってのんびりしている真っ最中。

 

「なぁ、ぶっちゃけた事言っていいか?」

「何?」

「……寒い。めっちゃ寒い」

「…まぁ、お正月だからね…」

 

 串焼きステーキ片手に発した俺の言葉に対し、何を今更…と言いたげな視線を送ってくる御道。一方苦笑いを浮かべているのは、妃乃達を待っている間に連絡し、ついさっき合流する事の出来た茅章。

 

「はぁ…よくもまぁ、女性陣はこの中で楽しめるもんだ…」

「そりゃ、着物は暖かいだろうしねぇ。後はまぁ…楽しんでるのとただ眺めているのとじゃ、意識にも違いがあるでしょ」

「…それにしても、皆さん綺麗だなぁ……」

『…だな』

 

 唐揚げを食べながらふと茅章が呟いた言葉に、俺達も首肯。本人や他の女子がいる前じゃ多かれ少なかれ躊躇う部分はあるが、全員が全員綺麗である事は間違いない。…まぁ、実際には綺麗云々なんて要素の一つでしかないって位に個性的な面々だもあるんだが…。

 

「それと、今日も誘ってくれてありがとね」

「いいっていいって。俺達が一緒に行きたいって思っただけなんだからさ」

「年末の食事に行った時は、何だかんだ食事するだけで終わっちまったしな」

「二人共…うん。新年早々二人と会えたし、今年も良い一年になりそうな気がしてきたよ」

 

 そう言ってにこりと笑う茅章を見て、心の中に浮かぶぐっとした気持ち。はぁ…ほんと御道と二人じゃ味気ないような場でも、茅章がいるだけで段違いなんだよな…。

 

「茅章…ほんと、今年も宜しくね」

「こっちこそ宜しく。…あ、二人共一個食べる?」

「いいのか?じゃ、頂くよ」

 

 こういう時の出店で売ってる唐揚げは大量に入っている訳でもないのに、快く茅章は差し出してくれる。その優しさに甘えて差し出された唐揚げを口に入れると、俺の持つ牛肉とは違う鶏肉の旨味が口内に広がる。…うむ、美味い。

 

「顕人君もどうぞ」

「ありがと茅章。…じゃ、こっちも一口食べる?」

「…いいの?まだ一口も食べてないのに…」

「それは単に串持ってるだけで分かる程熱かったってだけだから気にしないで。多分多少は冷めてきてると思うし」

「そう?じゃあ、一口貰おうかな」

 

 あ、しまった先越された…と内心俺が思う中、御道は持っていたフランクフルトを茅章の方へ。その申し出を茅章も受けて、フランクフルトへと顔を近付けていく。

 

「…ちょっとまだ熱そうだね…ふー、ふー……ひぅっ…!」

「…茅章?」

「…こ、こりぇ…ちょっとじゃらくて、結構あふぃぃ…」

 

 何度か息を吹きかけた後、フランクフルトの先端にかぶり付いた茅章。だが茅章は小さな悲鳴の様な声を上げたかと思えば、フランクフルトを咥えたままの姿でぷるぷると震え出す。

 いや、何故かは分かる。ソーセージとかたこ焼きみたいな包むタイプの料理は、表面に対して中が滅茶苦茶熱くなってるって事はよくあるし、これもそういう事なんだろう。で、その熱さのせいで噛み切る事が出来ず、かと言って貰った物を口から離すっていうのも気が引けるからと、茅章は咥えたままになっているんだと思う。理由も原因も分かる、分かるんだが……

 

「ひゃ、ひゃんと食べるから…ちょっと待っへね顕人くぅん……」

((…超エロい……))

 

 長い棒状の肉の先端を咥え、状態のせいで呂律が若干怪しくなり、涙目と上目遣いのコンボを決めるという、それはもうエロい茅章が出来上がってしまっていた。……やりやがったな(よくやった)御道…。

 

「ふひゅぅ…ん、んっ…はぁぁ……お、美味しいね…」

「う、うん…もっと熱さ確認してからの方が良かったね…すまん茅章……」

「全くだな。…って訳で、口直しにこっちもどうだ?」

「ちょ、口直しって……」

 

 数秒後、外気に触れて冷え始めたおかげか何とか噛み切った茅章は、飲み込んだ後御道へとぎこちないながらも笑みを見せる。

 そこを狙って、俺も茅章へとステーキを差し出す。こっちは既に五切れある内の三つを食べて熱過ぎない事を確認してるし、茅章を苦しめるような要素はない。…と、思っていたが……

 

「ん、ふっ…も、もう少し待ってね悠耶君…後、ちょっと……」

 

 串に刺さった食べ物は、下の方が食べ辛い。それを完全に失念していた結果…尖っている串の先端が喉に刺さらないよう何度も角度を変えながら、何とかステーキを咥えようと四苦八苦するこれまたエロい茅章が生まれてしまった。…悪い、茅章…それとご馳走様、茅章……。

 

「…はふぅ…美味しかったけど、これなら僕はもっと違う物にした方が良かったかな?」

「はは…そんなのは、些細な事さ…」

「あぁ…全然気にならないよね…」

「……?」

 

 ある意味着物姿に負けず劣らず良いものを見る事が出来た俺と御道は、穏やかな気持ちで空を見上げる。当人故に茅章は何の事だが全く分かっておらずきょとんとしていたが、こういう事は言わぬが花。そもそも言ったところでただただ気不味くなるのが明白であり……と、そんな事を考えていたところで、出店を回っていた女性陣が戻ってくる。

 

「いたいた。もしやとは思ったけど、貴方達ずっとここに?」

「そうだが?」

「ほんとにそうだったのね…まぁ、楽しみ方は人それぞれだけど……」

「……?もう帰るの?というか、ラフィーネさんとフォリンさんは…?」

「ううん、帰る訳じゃないよ。二人がいないのも関係してる事なんだけど…三人共さ、ちょっとお願い…聞いてくれる?」

 

 何かしら意図があるように戻ってきた女性陣へ御道が問いかけると、綾袮が首を横に振る。そして、綾袮は俺達を見回し……お願い事を、口にした。

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