神社というのは、得てして自然の中にあるもの。流石に樹海とかジャングルレベルに草木が生い茂っている中にある神社なんて見た事はないけど、基本的に神社の敷地内には木々や励みがそれなりにある。そして、そんな茂みの一つに…今俺達は、身を隠している。
「…あれ、だよね?」
「うん、あれ」
茂みの裏から指差した俺の言葉に、ラフィーネさんが静かに返答。フォリンさんも小さく首肯し、二人は視線を元に戻す。
数分前、俺と千嵜、それに茅章は綾袮さん達にある事を頼まれた。それに応じて、案内された場所へ向かうと、そこにいたのはラフィーネさんとフォリンさん。二人は見張りをしていたらしく……その二人の先には、魔物がいた。つまり、綾袮さんの言ったお願いとは…そういう事。
「全く、人手が足りないってなら仕方ないが、まさか着物じゃ動き辛いからなんて理由だったとはな……」
「ま、まぁ仕方ないよ。実際着物じゃ、思うように動けないだろうし…」
呆れ混じりの声でそう口にする千嵜と、逆にフォローをする茅章。当然俺達は普通の洋服を着ている訳で、別段動き辛いって事はない。
「…にしても、動かないね……」
「動かないっつか、寝てるな。さっきからずっとそうなのか?」
「はい。私達が見つけた時からずっとです」
神社の一角、特に何もないが故に人も来ないその場所で横になっているのは、翼の生えた馬の様な魔物。…というとペガサスっぽいけど、その翼はどちらかというと蝙蝠のそれに近いし、首も短いし、何よりその翼が生えているのは背中ではなく前脚から。その為どうもペガサスの様な神秘さはなく、どちらかといえばそれこそ魔物や悪魔のよう。…まぁ、だからって何か変わる訳でもないけど。
「わざわざこんな場所に出てきて、しかもそこそこ人も集まってんのに寝てるなんて、よく分からない奴だな…」
「けど、寝てるならチャンスじゃない?仮に寝たふりだったとしても、先制攻撃はこっちが取れる訳だし」
「でも寝たふりなら、知性の高い魔物って事になる」
「ですね。それに奴は、綾袮さんや妃乃さんでも目視するまで発見出来なかった魔物です。もしもそれが隠匿によるものだった場合、実力面も相当なものである可能性が高いです」
「これもそうか…だけど、何であろうとやる事は変わらないでしょ?双統殿から味方が来る前に目を覚まして人を襲い始めたら、取り返しが付かないんだからさ」
「…ま、そうだな」
二人の言う事はご尤も。けど見なかった事にして立ち去るなんて選択肢はないし、可能性の話をするなら熟睡している事だってあるかもしれない。詰まる所、俺の中の「今、自分達で討伐する」って気持ちには変わりない。そして、その意思を俺が示すと、千嵜は言葉で、茅章は頷きでそれぞれ同意を返してくれる。
「…そういう訳だから、二人共任せて」
「…分かりました。そもそも私達は満足に動けないからこそ、お三人を呼んだんですもんね…」
「でも、服なら切ればいつも通りに動ける。だから顕人、無理はしないで」
「うん。でも、大丈夫。折角の着物を、駄目にさせたりなんかしないよ」
そう言って俺は、二人に安心してもらえるよう笑う。今でこそ戦闘モードに意識が切り替わってる二人だけど、お揃いの着物を喜んでいた事を俺は知っている。女の子として、普通の喜びを感じていた二人の表情を曇らせる事なんて…絶対にするもんか。
「ひゅー、格好良いねぇ御道」
「…茶化すなよ……」
「ならそういう話はすぐ側に俺や茅章がいる時にするなっての。…まぁとにかく…やるぞ」
呆れ気味の半眼から鋭い目付きに変わった千嵜に頷き、後を追う形でゆっくりと立ち上がる。魔物は未だ、こちらに気付く様子はない。
「…さっき話した通り、まずは俺が一気に距離を詰めて一撃与える。そっからは奴の反応次第で追い討ちをかけるか引くか決めるが、前者だった場合は退路を断つ為に、後者だった場合は……」
「悠耶君への反撃阻止を兼ねた十字砲火を、だね」
「あぁ。とはいえ拳銃じゃ火力は期待出来ねぇし、強行突破を仕掛けてきたら回避を最優先にしろよ?」
「それはお互いに、な」
綾袮さん達から借りた拳銃も、御道が持つナイフも、あくまで自衛用。少なくとも何十発と撃ち込んで蜂の巣にするだとか、一太刀で深々と斬り裂くなんて事は困難な訳で、その点は念頭に置いておかなきゃいけない。
とはいえ千嵜は勿論の事、俺だってもうそこそこの戦いはしてきたし、それは茅章もきっと同じ。
真っ直ぐ進む千嵜から別れるように、俺と茅章は左右へ。位置に着き、拳銃を構え、千嵜へと視線を送る。そして俺達から準備完了の視線を受けた千嵜は小さく一つ息を吐き……跳躍。
「悪ぃが寝首を掻かせてもらうぞ…ッ!」
石が敷き詰められた地面を蹴り、強化された身体能力で一瞬の内に肉薄する千嵜。元々一跳びで肉薄出来る距離まで進んでからの跳躍だった為に動きの無駄はなく、近付くと同時に振るわれる刃。朝日を浴びる青い刃は魔物の喉へと向かって一直線に伸び……そのまま鍔まで突き刺さる。
(さぁ、どう出る…暴れるか、それとも……)
刃が喉を捉えた瞬間、俺の中にあったのはそんな思考。ラフィーネさん達の言葉で比較的強い個体だと思っていたからこその、次があるという前提での考え。けど、次の瞬間…その思考は、覆る。
「……は…?」
初めにそれに気付いたのは、刃を突き立てた千嵜自身。その意外…というより想定外の事象へ遭遇したような千嵜の声に、俺や茅章も目を凝らし……気付く。魔物が、生き絶えている事に。
いや、当然の事ではある。だって首にナイフ突き立てられてるんだから。普通の生命なら即死したっておかしくないし、魔物だって生物の形をしているタイプは顔や首に当たる部位を潰せば致命傷になる場合が多いんだから。でも俺達は、たった一撃で倒せるような相手だとは思っていなくて……
『…えぇー……』
詰まる所、拍子抜けだった。ゲームで例えるなら、強力なボス敵とのバトルになると思って臨んだら、会話イベントだけで終わってしまったとか、手下を放つだけでボス自身とは戦いにならなかったとか、そんな感じ。勿論、汗一つかかずに勝てたって点は喜ばしいんだけども…うーん……。
「…っと、そうだ。こいつは誘き出す為の罠だったって可能性もある。周囲に別の魔物の気配は……」
「…ない」
「私も感じ取れません。ですので少なくとも、通常の魔物は周囲にいないかと」
「そうか……」
一瞬の後、罠の可能性を考えた千嵜が言葉を発するも、それをロサイアーズ姉妹が否定。俺も探してみたけど特にそれらしい存在はなく、少し離れた場所から万が一に備えている綾袮さん達からの連絡もない。
「…つまり、これって……」
「ああ。元々なのか、弱ってたのかは分からんが…ただただ奴が弱かっただけ、って事だろうな」
魔物が消えていく中、武器を下ろして合流する俺達。茅章はまだ納得いっていない様子で…そんな茅章の言葉に答えるように、千嵜は結論を口にした。
ただただ弱かっただけ。綾袮さん達が探知出来なかったのは、探知出来ない程微弱な力しかなかったから。それで筋は通るけども…いやほんと、拍子抜け感半端ないな…。
「…お疲れ様?」
「うん、そりゃ疑問符付くよね…だって俺と茅章なんもしてないし。実際疲れてないし…」
ラフィーネさんの、小首を傾げながらの言葉。その労いに苦笑いしつつ俺は答え……新年初の魔物討伐は、拳銃を構えるだけで終わってしまったのだった。
*
「そっかそっか、確かにそれなら不発になったやる気のやり場に困るよねぇ」
「いや、別に困ってはいないんだけどね……」
数分後、討伐を終えた俺達は綾袮さん達と合流した。この結末は綾袮さん達も意外だったみたいで、話すと皆驚いていた。
「まさか、完全な思い過ごしだったとはね…まぁ、放置する訳にもいかないしどっちにしろ倒す事には変わりないけど」
「っていうか、それならわたし達でも何とかなった可能性あるよね。刺すだけならこの格好でも出来るし、翼は服関係なく動かせるし」
腕を組んで話す妃乃さんに、肩を竦める綾袮さん。実際、それだけで何とかなったんじゃないかと思う。てか、多分何とかなってた。
「でもほんと意外だったよ。弱過ぎると逆に探知出来ない場合があるってのは知ってたけど、まさかあのサイズでとは……」
「大きさと強さは比例するとは限らないけど、基本極度に弱い個体は大きさも手乗りサイズとかそれ以下の事が大半だからね。そういう意味じゃ……」
「…えぇ、かなり特殊な事例よね」
ちらりと綾袮さんが妃乃さんを見ると、締めを引き継ぐ形で妃乃さんが一つ首肯。…特殊な事例、かぁ…まあ千嵜も可能性の一つとして「弱っていた」を挙げてたし、件の魔物はもう消滅しちゃったんだから真実は闇の中なんだけど。
「でも何にせよ、お兄ちゃん達が誰も怪我せず、無事に済んで何よりですよね」
「同感です。新年早々負傷なんてしたら、一年の始まりが暗いものになってしまいますからね」
「ん、二人共言い事言う」
そんなこんなで合流しての報告は終了。良い頃合い…という訳ではないけれど、この一件で一度空気がリセットされたし、発見までに皆そこそこ楽しめたって事で、初詣はこの辺りでお開きにする事に決定。後は各自解散…といきたいところだけど、流石に女性陣はそのまま帰る訳にはいかないって事で再び向かうは双統殿。
「じゃあね、皆」
「おう、じゃあな茅章」
「まだ寒い日が続くし、身体に気を付けてね」
「はぁ…着物って、結構着てるだけでも疲れるのね…」
「あはは…それは流石に、ちょっと体力なさ過ぎだと思うよ…?」
「うっ…な、慣れれば疲れないと思うし……」
「あ、そっち方面での解決を図るんだ…」
最初に茅章と別れ、のんびり歩く帰り道。双統殿に着いてからはさっき同様部屋前で待ち、脱ぐ方が楽だからかさっきよりは早く出てくるラフィーネさん達(千嵜は話の流れで依未さんを家に誘い、色々言いつつ依未さんはその誘いを受けていた。…仲良いんだなぁ…)。
そうして綾袮さん、妃乃さんを残して、俺達はそれぞれの家へと向かって帰路につく。…はぁ…初詣も終わったからか、なんか眠くなってきたな…昼まではまだ時間あるし、帰ったら少し寝よ…。
*
家に帰ってから数時間後。決めていた通り寝ていた俺は、ラフィーネさんに起こされリビングルームへ。
何故起こされたかと言えば、それは勿論昼食だから。そして、元旦の昼食と言えば勿論…あれである。
「これが、お雑煮…」
「これが、おせち…」
それぞれの器によそわれたお雑煮と、食卓の中心で各々取れるように置かれたおせち。それを見たラフィーネさんとフォリンさんは、興味深そうに正月の定番料理を見つめていた。
「君達、こういう料理を見るのは…って、あぁそうか。雑煮もおせちも、基本的には正月にしか食べないもんね」
「というか…顕人、最近はちゃんとご飯作ってる?二人や綾袮ちゃんに出来合いのものばっかりで我慢してもらってるとかじゃないでしょうね?」
「ちゃ、ちゃんと作ってるよ…てかそれ言うなら、母さんだって普段はそこそこ冷凍食品使ってるじゃん…」
「へぇ、言うようになったじゃない。でも…便利でしょ?冷凍食品」
「そりゃ、まあ…日頃お世話になってるけど……」
簡単な手順さえ踏めばすぐ一品用意出来る冷凍食品は、台所を預かる身にとっては心強い味方。…そういや確か、おせちも家事から女性を解放する…つまり『楽』って点を要素に取り込んでる、って説があるんだっけ?
「でしょう?さ、二人共中のお餅が硬くならない内に食べて食べて」
「うん、頂きます」
「頂きますね」
娘が出来たみたいだから、とここ数日機嫌の良い母さんに進められて、早速食べ始める二人。と言っても別に俺の分がまだ出来てない…なんて事はないから、俺も席について手を合わせる。
「頂きます、っと。……うん、毎年変わらない味だ」
「そりゃ、雑煮は毎年母さんが作ってるんだからな」
「おせちは周りの様子を見て各々取って頂戴。後、顕人そこのお皿取ってくれる?」
「あぁ、はいはい」
料理こそ正月独特なものと言えど、だからって特別な何かをする訳じゃない。一般家庭の正月のお昼なんて、多分大概はそういうもの。
「…お餅…お団子と同じようなものかと思っていましたが……」
「…凄い伸びる…ちょっと面白い…」
一方二人は、初めて食べるお雑煮…特に餅の食感を楽しんでいる模様。そうか…そういや、餅自体初めてなのか…あれ?おはぎとか赤飯もまだ食べた事ないのかな…。
「…母さん、餅ってまだある?」
「とても正月だけじゃ食べ切れない位にはあるけど?」
「なら、向こう戻る時少し持ってって良い?餅ならそこそこ保存効くし、二人も餅はお気に召したようだしさ」
「へぇ…要は自分で料理したお餅を食べさせてあげたいのね」
「そ、そうは言ってないじゃん!とか前半は掠りもしてないでしょ!?」
「はいはい。どうせお父さんと二人じゃ全部処理するのにも時間がかかるし、好きなだけ持っていきなさい」
という事で、俺は餅を持っていく確約をゲット。…代わりに母さんにからかわれたけど。はっとして振り返ったら、ラフィーネさんもフォリンさんもにやにやしてたけど。…くそう…。
「先輩、自分はきな粉餅とかあんこ餅とか、割と単純な食べ方が好きですねー」
「あぁ、はいはい。じゃ、そういう食べ方もそのうちしようか」
「後、そこの数の子と里芋も欲しいっすー」
「あいよ。…チョイスが渋いなぁ……」
横から顔を出す慧瑠と小声で受け答えしながら、重箱より求められた料理を小皿へと移す俺。元からこういう料理が好きなのか、それとも長生き故なのか、はてまた単に今食べたくなっただけなのか…まあ何れにせよ慧瑠だけ食べられないんじゃ可哀想だし、俺が自分の分を取り過ぎないようにすれば、慧瑠の分を取っても変には思われない……
「…うん?顕人、数の子取るなんて珍しいな」
「へっ!?…あ、う、うん…偶には食べてみようと思ってね…」
なんて思った正に次の瞬間、俺は父さんに声をかけられた。当然父さんにも慧瑠は見えないから、焦りながらの誤魔化しでも納得してくれたけど……びびったぁ…。
「先輩のお父さん、中々の観察眼…いや、普段からよく先輩の事を見てるんっすね」
「…みたいだね……」
バレる訳ないとはいえ、本当に指摘をされた瞬間は焦った。同時に慧瑠が直接何かした場合は認識されなくても、慧瑠に渡す為に俺が取った場合は、渡すまでは俺の行動なんだから普通に認識されるって事も改めて思い知った。…けど、普段から俺をよく見てる、か…嫌じゃないけど、ちょっと気恥ずかしいな…。
「…顕人、お雑煮食べないの?」
「え?あ、いやいや食べるよ?…二人こそ、お雑煮もおせちはどう?美味しい?」
「はい。味が濃過ぎないのも、身体に優しい感じがありますね」
「おせち、色々あるから食べてて楽しい」
「そっか。好評みたいだよ?母さん」
「ふふっ、そうね。お雑煮はまだあるから、二人共沢山食べて」
自分の母親が作った料理だからか(おせちは注文した物だけど)、二人に好評なのは何となく嬉しい。お雑煮もおせちも、去年までは嫌いじゃないけど好きって言う程でもない…なんて印象だったけど、今年はいつもより美味しく食べられているような気がする。
これが、こういうのが、誰かと食べる事の美味しさや楽しさなんだろう。…去年までとの比較でそんな事を思った俺は、それからも五人とのんびり昼食を取るのだった。
*
一面に畳の敷かれた、双統殿のある大部屋。そこでは双統殿及び協会各支部の重鎮や有力者が集まり、新年会が開かれていた。
「いやぁ、今年もご両人は変わらず美しいですな」
「ふふ、ありがとうございます。皆様こそ、ご健在で安心致しました」
「それは我々も同じ事です。御二方は先日も複数の魔人…特に一体は魔王級の可能性もある個体と一戦交えたとお聞きしました。そのような場に何の助力も出来ず、申し訳ありません」
「いえいえ。私達が万全の状態で戦えるのは、偏に皆様が各地の魔物に対処して下さっているおかげ。感謝こそすれども、皆様への不満など微塵もありません」
普段は会う事も少ない各地の者同士で談笑を交わし、酒を酌み交い、賑やかに過ごす有力者達。その中には妃乃と綾袮の姿もあり、有力者達に笑顔を振りまいている。
「はは、本当に妃乃様、綾袮様共にお若いながら落ち着いた物腰をしていますな。…ところで、この後の事ですが……」
「失礼します。綾袮様、妃乃様、御当主様方がお呼びです」
それから数分後。二人を半円状に囲う形で出来ていた集まりへ、一人の霊装者が声をかける。
それを受けて、申し訳ないと断りを入れてから離れる妃乃と綾袮。呼んだ相手が協会のトップである為に誰も引き留める者はおらず、そのまま二人は案内人の後を続いて大部屋の外へ。
「はふぅ…あー、疲れた……」
ある程度歩き、周りに人がいない事を確認したところで綾袮が漏らしたのは嘆息。それに対して妃乃は、瞳に若干の理解を浮かべながらも言葉を返す。
「疲れたって…この場にいないとはいえ、そういう事を言うんじゃないわよ……」
「でも、妃乃だって疲れはしたでしょ?」
「…それは、まぁ……」
「ねー?そりゃ、優しい人とかちっちゃい頃よくお世話になった人とかもいるけどさー…」
口を尖らせて不満を吐露する綾袮に対し、今度は妃乃が嘆息を漏らす。
とはいえ、二人がそう思うのも無理はない。会場内での会話などお互い多くが社交辞令であり、新年会として純粋に雑談をしているのはせいぜい気心の知れた者同士だけ。加えて大半が自分達よりずっと高齢者且つ、未成年故にアルコールを楽しむ事も出来ず、別段機嫌を取りたい相手がいる訳でもない二人にとっては、とにかく疲労ばかりが重なっていく場なのである。
無論、このような場には二人共慣れてはいる。だが数刻前まで気を許した相手、一緒にいて楽しいと思える者達と初日の出や初詣に行ってきたばかりであるが故に、普段よりも疲労を感じてしまっていた。
「…来たか」
「お待たせ、おじー様」
「お待たせしました、宗元様、刀一郎様」
「ふっ…新年でも変わらず伸び伸びとしているな、お前の孫娘は」
「わたしはわたしらしくが一番だからね!…それとも、私も佇まいは正した方が宜しいですか?」
「…いや、いい。肩の力も抜けない家族など、悲しいだけだ」
そんなやり取りを交わしながら角を曲がった二人を待っていたのは、宗元と刀一郎の二人。祖父であり協会の長でもある二人に対し、早速二人は各々挨拶。
小さく笑みを浮かべ、綾袮の緩い挨拶に返答する宗元。それを受けて綾袮は切り替えるように物静かな雰囲気へと変わるも、刀一郎は首を横に振って否定。すると綾袮はにこりと微笑み、「でしょー?」と口調も元に戻す。
「家族、か…妃乃、お前も昔はもっと無邪気で……」
「うっ…わ、私の事はいいですから!それより何か話があるのでは!?」
「あはは、妃乃照れちゃって〜。…大丈夫だよ、宗元様。妃乃も、肩の力はちゃんと抜けてるから」
「あぁ、分かっているさ。…だが、あまり長く席を外せは変に思われるのも事実。本題に入るとしようか」
「自分から話を逸らしておいて何を…。…まあいい。二人共、先程遭遇した魔物の討伐を行ったようだな。報告は聞いたぞ」
両者の祖父である二人が表情を引き締めた事で、妃乃と綾袮も同様の顔をして刀一郎からの言葉に首肯。その言葉に続けるように、宗元もまた口を開く。
「その件はご苦労だった。だが報告を聞く限り、何やら気になる事があったようだな」
それは、確認の言葉。同時に、その気になる事について問う意味も持たせた言葉。宗元、刀一郎、そのどちらも真剣そのものな表情を浮かべ、鋭い視線で二人を見やる。
話せという意図の言葉に、目を見合わせる妃乃と綾袮。アイコンタクトで意思疎通を図った二人は頷き合い、それから視線を前へと戻して……言う。
「はい。その魔物の討伐を行ったのは、私達ではない為可能性の域を出ませんが……討伐時の状況及び情報からして、その魔物は──無極域の影響を受けていたのかもしれせん」