双極の理創造   作:シモツキ

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第百六十五話 霊峰にて

 寒い日が続く一月中旬。冬至はもうとっくに過ぎているのにまだ寒いし日が落ちるのも早いし、冬至も夏至もあんまり当てにならない気がする今日この頃。…まぁ、冬至は一番昼が短い日であって、冬至が寒さのピークだって訳じゃないんだけど……。

 

「顕人、まだきな粉ある?」

「あるけど…ラフィーネさん、きな粉使い過ぎじゃない…?」

 

 今日の夕飯は実家で貰ってきた餅。勿論おかずはあるけど、メインはこれ。…美味いよね、きな粉餅。

 

「そんな事ない。成長には、沢山の栄養が必要」

「え…な、何故私を見ながらそれを……?」

「……負けない」

「や、あ、あの…えぇー……」

 

 餅にきな粉をどれ位付けるかなんて個々人の好みだけど、ラフィーネさんはやけに多いような気がする。それを疑問の形で指摘すると、ラフィーネさんは妙に真剣な顔をしながら妹であるフォリンさんを…より正確に言えばある部分を見つめ、それからフォリンさんへ向けて一言。

 かなり一方的な対抗心(?)を向けられたフォリンさんは、どうしたらいいか分からないと言いたげな表情を浮かべていて……俺は思わず、苦笑い。

 

「ラフィーネ…そうだよね。何にしても、まずは栄養だよね…!」

「うん。綾袮なら、分かってくれると思ってた」

 

 続けてそのラフィーネさんに綾袮さんが同意し、視線を合わせて頷き合う二人。そこから二人は俺が持ってきたきな粉をがっつりと皿に…って、まさか甘いきな粉を沢山食べたいだけとかじゃないだろうな…?

 

「…顕人さん、私今凄くこの場に居辛いのですが……」

「うん、まぁ、だろうね…でもこれ、俺にどうこう出来る事じゃないから……」

「…ですよね……」

 

 持つ者と持たざる者。持たざる者は持つ者の対抗心を、嫉妬心を抱くものであり、持つ者もそれが自分の意思で手にした物ではない場合、時として何も言えなくなってしまう。…そんな残酷な現実が今食卓には広がっていて……俺は思う。平和だなぁ、って。

 

「ふー……あ、そうそう顕人君。来週末って空いてる?空いてなくても空けてもらわなくちゃいけないんだけど」

 

 それから数分後。ごくんと餅を飲み込んだ綾袮さんは、思い出したように俺へと話を振ってくる。

 

「…そういう言い方をするって事は、もしや……」

「うん。来週末……登山に行こうか」

「……はい?」

 

 真面目な顔で、俺の問いへと答える綾袮さん。それに俺は一瞬やっぱりか…と思ったものの、綾袮さんが口にした答えは俺の想像とは全然違うもの。え、登山…?何を言ってんの……?

 

「…ごめん、確認だけど、それはただ綾袮さんが山に行きたいだけって事では……」

「ないよ?」

「だよね、そりゃそうだよね…わざと結論だけ言うのは止めようよ綾袮さん……」

 

 訳の分からない答えだったけど、このパターンをやられるのももう一度や二度の事じゃない。だから何となく理解はしつつも確認すると、綾袮さんはけろっとした顔で言葉を返し…俺は軽く肩を落とす。

 

「あはは、ごめんごめん。で、その山だけど…行くのは富士山、霊峰富士だよっ!」

「富士山…それはまた大御所だね…」

 

 山に大御所も若手もないだろう…という心の中でのセルフ突っ込みはさておき、日本一高い山、日本の山の代名詞と言っても過言じゃない富士山へ向かうという事で、ふっと芽生える緊張感。場所だけで緊張してたらきりがないとも思うけど……って、

 

「霊峰富士…霊峰……?」

「お、鋭いね顕人君。…霊峰富士なんて呼ばれてるように、富士山はこっちの世界でも特別な山の一つなんだ。って言っても、霊峰って呼ばれる山全てが特別な訳じゃないんだけどさ」

 

 ふと名前から思った通り、富士山はただの山じゃないらしい。それ自体は驚きだけど…同時に、何か納得出来る面もある。だって富士山は、遠目に見たって何か特別というか、他の山とは違う…って感じがあるし。

 

「…で、毎年富士山である儀式をやってるんだけど、今回行くのもそれ絡みだよ。儀式自体は来週末って訳じゃないけどね」

「そうなんだ…分かった。予定は特にないから大丈夫」

「それなら良かった。…あ、登山道具は必要ないよ?装備を纏っての活動になるからね」

 

 そこで一区切りを付けた綾袮さんは湯飲みを持ってごくりと一口。その間「富士山かぁ、この時期じゃまだ雪も多いだろうなぁ…」なんて事を思っていた俺だけど、そこで今度はここまで黙っていたラフィーネさん達が口を開く。

 

「…フォリン。富士山って、確か……」

「はい。…綾袮さん。富士山は、力のある魔物が多く住む場所…ですよね?」

「ん、そうだよ。霊装者だけじゃなくて、魔物にとっても特別な場所だから、『こっちの世界』って表現にした訳だし」

 

 湯飲みを置いて、話を再開する綾袮さん。…二人も富士山の事は知ってたのか……。

 

「…ん?でもそれなら、富士登山って滅茶苦茶危険な事なんじゃ……?」

「あ、そこは大丈夫。何も富士山全域に魔物がうじゃうじゃいる訳じゃないし、富士山を根城にするような魔物は普通の人なんてあんまり襲わないからね。それに富士山の近くにも支部が一つあるし、立ち入り禁止区域以外は案外安全なんだよ?…立ち入り禁止区域以外は、ね」

 

 言葉を繰り返す綾袮さんの表情は柔らかいけど、瞳だけは真剣そのもの。

 今の口振りで、何となく分かった。立ち入り禁止区域へ勝手に入って、魔物に襲われてしまった…という人が、過去に何人もいたんだろうって。

 

「そういう訳だから、何かおかしなものを見つけたりしても、勝手にどっか行っちゃ駄目だよ?魔物抜きにも富士山で遭難する人は毎年いるんだから」

「分かってるよ。…けど、装備があるなら迷っても飛べば良いだけじゃ?」

「まぁね。でも、安易な油断は禁物だって言うのは…顕人君なら、言わなくても分かってるかな?」

 

 綾袮さんの言う事はご尤も。実際何とかなるだろうけど、初めから油断しておいて良い事なんてまあまずない。それに、考えてみれば立ち入り禁止区域…強力な魔物がいるような場所で霊力噴射して飛ぶなんて、魔物に自分の場所を教えてるようなものだろうし。

 

「了解。じゃ、油断しない為にも任務の情報は逐一教えてよ?綾袮さん、ちょこちょこ伝えるべき事忘れてたり、ギリギリになってから言ってくる…って事あるし」

「う…わ、わたしも色々考えてるんだよ?組織において情報は、立場や状況によって誰にどこまで開示して良いかが変わるものだし……」

「そっかそっかぁ。って事は、うっかり伝え忘れたりはしないんだね?してないんだね?なら安心かなぁ」

「……ごめんなさい、伝え忘れたりしないよう気を付けます…」

 

 それっぽい事を言って自己弁護を図った綾袮さんだけど、それは自分の首を絞める行為。内心にやりと笑いならすぐに切り返すと、綾袮さんは言葉に詰まり……見事俺は、綾袮さんから勝利を収めるのだった。…これでほんとに、気を付けてくれれば助かるんだけどなぁ……。

 

 

 

 

 富士山での任務の件を聞いてからは特に事件や問題が起こる事もなく、そのまま来週末…つまり、任務当日を迎えた。

 用意してもらった車(まぁ、俺ではなく綾袮さんの為にだろうけど)で移動し、最初に到着したのは富士山…ではなく、その近くに位置するある建物。

 

「へぇ、ここが……」

 

 富士山及び、その周囲を管轄とする霊源協会の支部の一つ。それが、今俺達が到着した場所。本部である双統殿含め、他の支部はもっと管轄が広いらしく、規模もそれ程大きくはないとの事だけど…逆に言えば、富士山の為にわざわざ一つ支部が用意されてるって事。それだけで、富士山の重要性はよく分かる。

 

「お待ちしておりました、綾袮様。それに、顕人さん」

「うん、お出迎えありがとね」

 

 初めに声をかけてきたのは、それなり以上の地位にありそうな男性。もしかすると、ここの支部長さんかもしれない。

 その人に一つ頭を下げ、俺は綾袮さんの後を追う。…うーん…やっぱり初めて来る場所だから、緊張するなぁ…。

 

「早速だけど、今どんな感じか教えてくれる?資料じゃなくて、現場ではどんな感じに思ってるのかをさ」

「えぇ、勿論。ですが……」

「うん。顕人君、きて早々で悪いんだけど、ちょっと席を外しててもらえるかな?」

「あ、うん。じゃあ俺は廊下で待ってるよ」

 

 多分どこかの部屋へ向かう最中、綾袮さんから言われる言葉。でも何となくそんな気がしていた俺はすぐに頷き、それから出迎えてくれた人(やっぱり支部長さんだった)に教えてもらった休憩所へ。そこでドリンクサーバーの飲み物を飲みつつ、綾袮さんが来るまで時間を潰す。

 

「いやぁ、やっぱりいつ見ても富士山は綺麗っすねぇ」

 

 今回ラフィーネさんとフォリンさんはお留守番で、今ここにいるのは俺一人。だから窓から見える富士山をぽけーっと見ていると、暫く姿を見せていなかった慧瑠が現れて口を開く。

 

「だねぇ。…慧瑠はこれまで富士山登った事ある?」

「あるっすよ?登る事で得られるものより発生し得る面倒事の方が基本大きいので、そう何度も登りはしなかったですけど」

「面倒事?…あぁ、そっか……」

 

 元々強くなる事に興味のなかった慧瑠にとって、霊装者であろうと魔物であろうと多く居る場所へ行く事は、恐らく何のメリットもありはしない。…けど、それでも一回は登ってるって事は、それ位魔人にとっても富士山は綺麗な山なのかな…。

 

「…しっかし…ふーむ……」

「…慧瑠?」

「…先輩、気を付けて活動するんですよ?何となくっすけど…何か、嫌な予感とでも言うべきものを感じるっす」

「嫌な予感…?…了解、肝に命じておくよ」

「そうしてほしいっす。ま、自分も気を付けてはおきますけどね」

 

 それから慧瑠は、気を付けろと言った。それも具体性のない、嫌な予感という抽象的な表現で。

 でも、疑う事なく俺は信じる。だって慧瑠が、俺を謀る訳がないんだから。…まぁ、謀るってか、からかう事はちょくちょくあるけども……。

 

「お待たせ、顕人君。寂しくなかった?」

「いや、数十分一人になっただけで寂しくなるようなメンタルはしてないよ…(というか、そもそも一人じゃなかったしね)」

 

 気を付けるよう言われた数分後、聞こえてきた綾袮さんの声に俺は振り返る。どうやら一人になったのか、さっきの支部長さんの姿はない。

 

「…で、この後はどうするの?最初に登山なんて言ってたし、まさかこれで終わりって訳じゃないよね?」

「それは勿論。少ししたら、ここの支部の人達と富士山に行くよ。顕人君、今の内に装備の確認しておいて」

「…ここで?」

「わたしがいるから大丈夫。あ、でも発砲は止めてね?」

 

 いやそれはしないって…と思いつつ、俺は言われた通りに装備を確認。一つ一つサイズを戻して、霊力を流して、何もおかしな点はないと分かったらそれぞれの位置に仕舞い直す。

 

(山に行くって事は…何だろ。異常がないかの確認かな?…でもそれは、ここの支部の人達が普段からやってるか……)

 

 これから一体何をするのか。それを考えながら全武器の確認を済ませたところで、綾袮さんはサーバーから出した飲み物を飲み干し歩き出す。勿論それに俺も続き、移動した先は会議室らしき大きめの部屋。中には大人数じゃないものの装備を纏った人達がいて、すぐに俺はこの人達と行くんだって事を理解する。

 

「うん、皆揃ってるかな?今日は宜しくね!」

 

 集まっていた面々に向けて、いつもの調子で綾袮さんは挨拶。俺はここでも護衛の様に(違うけど)側で立ち、言葉の代わりに会釈を…と思ったけど、綾袮さんに振られた事で俺も挨拶。

 それから始まったのは、予想通りブリーフィング。今回の作戦は儀式に備えた安全の確保と確認であり、普段なら下手に戦闘に入るとその地域の魔物全体を刺激してしまいかねない…という事で見逃しているような魔物も、場合によっては討伐を行う事になる。

 

(話を聞く限り、運が良ければ一戦もせず終わるっぽいけど…ま、そう上手くはいかないだろうなぁ……)

 

 十数分程度で確認は終わり、俺達は車両で富士山の五合目へ。ここから先は、車で行くのは困難な場所で……同時にここからが、作戦の開始。…と、気を引き締めていた俺だけど……

 

「うー、さむさむ…毎年思うけど、こんな寒い時期に儀式やるなんて酷いよー……」

 

 徒歩で登り始めてから数十分。はっきり言って…全然作戦をしてる感はなかった。ぶっちゃけ、ほんとにただ登山をしている感じだった。

 

「…出てこないね、魔物」

「まぁね。儀式の時だってわざわざ危険な場所を通りに行こうとはしないし、襲ってくる気もない魔物の縄張りに自分から入って刺激しちゃうんじゃ、そんなの本末転倒でしょ?」

「んまぁ、それはそうなんだろうけと…うーん……」

 

 目的の事を考えればありがたいんだろうけど、俺としては拍子抜け。連戦になる事も考えていたもんだから、「あれぇ…?」って感じがとにかく強い。

 

「まあまあ、これだけの霊装者が来てるんだから、その内魔物の一体や二体はもっと力を付けようと襲って……っと、皆ストップ。ちょっと待っててもらっていい?」

 

 俺の気持ちを察したのか、綾袮さんは肩を竦めつつ話を…途中までしたところで、足を止めて全員へと指示。

 一瞬、俺も周りの人達も魔物が現れたのかと思った。けれどそうじゃないらしく、綾袮さんは「あ、大丈夫大丈夫!リラックスして待ってて」とか言いながら左手の茂みへ。…何だろう…魔物ではないけど、それっぽい痕跡を見つけたとか……?

 

「…な、おい」

「……?…あ…俺、ですか…?」

 

 待つ中で、不意に背後からかけられた声。振り向きながら訊き返すと、何人かの人…割と俺と年齢の近そうな人達が、俺へと視線を向けていた。

 

「お前って、あの御道顕人…だよな?」

「へ?…えぇ、と…多分、その御道だと思います…同姓同名の人がいなければ、ですけど……」

「やっぱりか…へへっ、会えて光栄だよ」

 

 そう言って、その内の一人から差し出される手。困惑しつつもそれに応えて握手をすると、彼はにっと笑みを浮かべる。

 

「いやぁ、まさかこんな形で会う事になるなんてなぁ…」

「てか、意外だったぜ。俺はてっきり、もっと屈強な奴なのかと思ってたけど、俺達と全然変わらないもんな」

「な?だから言ったろ?ぱっと見で判断するのは二流だぞって」

(…え、えーっと……?)

 

 恐らく話の話題は俺の事。けれど何の事だか分からないせいで、当の本人である俺が置いてけぼり。…どうしよう…内輪ノリで盛り上がってるから、全然話に割って入れない……。

 

「あぁそうだ。もし今回早めに済んだらよ、色々話を聞かせてくれよ。まぁ勿論、忙しくなかったら…だけどさ」

「え?…ま、まぁ…俺の話で良ければ…(俺の話、だよな…?)」

 

 俺の理解が追い付かないまま進む話。何か安請け合いしてしまったみたいだけど……うん、これじゃ駄目だ。こういう時受け身でいると、いつまで経っても話に入る事なんて出来ないんだから。…よーし…ここは一つ、そこそこはある筈のコミュニュケーション能力をフル活用して……

 

「お待たせー。皆、急に止まらせちゃってごめんね」

 

……と思っていたところで、「さぁ、話すぞ!」…という気持ちになったところで、綾袮さんが戻ってきた。戻ってきてしまった。…うぅむ、バットタイミング…。

 

「…どうかした?」

「…いや、何でもない……」

 

 小首を傾げる綾袮さんからの質問に、内心しょぼんとしながら首を横に振る俺。

 まぁ、正直言って助かった面もある。こっちから話した結果、微妙な空気になっていた可能性もあるし。けど同時に俺は奮起させたやる気を持って行く場所を失った訳で…詰まる所、それはそれで微妙な心境になった俺という……。

 

「…注目されてたね、顕人君」

「…見てたの?」

「戻る道すがらにね。だから見たっていうか、見えた…かな」

 

 移動再開から数分後。ふと綾袮さんが振ってきたのは、さっきの事。

 

「あぁ…びっくりしたよ。まさか、見ず知らずの人達に注目されるなんて……」

「それはそうだよ。だって、考えてみて?顕人君は霊装者になったばかりの頃にわたしや妃乃、悠耶君と協力して魔王を撃退させたのを皮切りに、夏休みの少し前には妃乃達が手負いにした魔人をわたしと二人で倒して、最近じゃ遂に魔人…ううん、恐らくは魔王にトドメまで刺した霊装者なんだよ?予言抜きにとんでもない活躍をしてるんだから、そりゃ注目もされるって」

「いや、それは……」

 

 確かに綾袮さんの言う通り、羅列すると俺のしてきた事は凄まじい。けど、あの時の魔王戦は運とタイミングが良かったとしか言えないし、二つ目の魔人の件は足を止めさせる為に一発撃っただけでほぼ戦闘に参加してないし、最後の…慧瑠の件に至っては、『そういう事』になっているだけ。当然トドメを刺した訳じゃないし……そういう事になっているの自体、俺はあんまり良く思っていない。…勿論、それが俺にとっても都合の良い纏め方になっているのは承知してるけど…。

 

「…ま、良いじゃないっすか。自分の件に関しては全くの間違いって訳じゃないですし……魔人に新たな道を示して、自分の生活は変えないままに共存している霊装者なんて、きっと先輩だけなんですから」

「…まぁ、慧瑠がそう言うなら……」

 

 ほんと、俺としては納得がいかない。納得してないけど、真実を真実のままに公表された場合、俺は今この場にいないだろうし…そもそも俺も、そっち側だ。本当の真実よりも都合の良い、捻じ曲げられた真実を夏に作り上げた側で、そういう意味じゃ俺にどうこう言えるような立場はない。

 ただそれでも、もやもやするのは変わらない訳で……そんな俺の心境を察したのか、慧瑠がのんびりした顔で宥めてくる。

 慧瑠はこの件において、一番の被害者。本来相容れない存在なんだから仕方ないとはいえ、討たれかけた慧瑠がそう言うのなら…俺もぶーぶーは言えないよね。

 

「……?顕人君、今何か言った?」

「あ、いや…けどそうなるとそれはそれで困るな…俺話せる程の活躍してないし……」

「…盛っちゃう?」

「そんなカメラアプリ感覚で言われても……まあでもあれか、やった事じゃなくて感想をメインにすれば何とかなるか…」

 

 そんなこんなでとにかく俺達は進み続ける。当然登れば登る程山は険しくなっていくけど、身体強化のおかげで多少の悪路では進行を阻まれる事もなく、今はもう左を見ても右を見ても、完全なまでの雪景色。

 

(…子供っぽい考えだけど、これだけ雪があれば雪合戦もスキーもし放題だろうなぁ…てか、綾袮さんはこれ見てもはしゃがないのかな?…ってそっか、毎年見てるんだからもう慣れてるか……)

 

 やる事がないからぼんやり色々考える中、ふっと浮かんだ疑問と共に俺は視線を綾袮さんの方へ。その疑問自体は一瞬且つ俺の脳内でセルフ解決したものの…俺が見た時綾袮さんが浮かべていたのは、いつになく真面目そうな顔。

 

「…綾袮さん?」

「……ほぇ?あ、どしたの?」

「……?…や、凄い真剣そうな顔してたから、どうしたのかなー…と」

「あぁ…まあほら、いつ襲われてもおかしくない場所だからね。わたし一人が油断して襲われるんだったら自業自得だけど…わたしが油断してなきゃ防げた筈の怪我や事故なんて、わたしは絶対嫌だからね」

「…そっか…うん、俺も気を付けるよ。最低でも、自分の事はちゃんと自分で守らないと…」

「うんうん、戦闘になったら顕人君の事も頼りにするから、ばっちり頼むよ?」

 

 会話の中ではっとさせられる、意識の違い。俺は安全が確保された場所でもないのに油断していて…しかもそれを、綾袮さんに言われなきゃきっと気付く事もなかった。最初にこの話を受けた時、油断するなって言われてたのに。

 経験の差はあるだろう。立場の差も大きいと思う。けど、もしその油断が仇となった時、後悔するのは…間違いなく俺。だったら経験だの立場だので言い訳せず、きちんと反省する方が良い。綾袮さんも、頼りにすると言ってくれたんだから。

 そうだ。今のところは何もないけど、本当に何もなく終わるかどうかは、最後の最後まで分からない。だから……

 

(…こっから先は、もっと気を引き締めていくぞ……!)

 

 周りに注目されない程度に頬を叩き、気持ちをがらりと切り替える俺。そして俺は、進む先をしっかりと見据え……最後まで油断しない事を、心に決めた。

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