双極の理創造   作:シモツキ

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第百六十七話 俺の力で

 霊峰富士の空を飛び回る、竜の様な魔物。その魔物を追い、魔物の機動に食らい付き、霊力を込めた攻撃を放つ。魔物をこの場所から離さぬよう、作戦の邪魔をされないよう…全力で。

 

「こん、にゃろ……ッ!」

 

 翼を広げての突進を避けた俺は、風圧に姿勢を崩されながらも何とか振り向き背中へと射撃。大きく羽ばたく事で高度を上げていく魔物を弾丸で追いながら、崩れた姿勢も立て直す。

 

「逃がすかよ…ッ!」

 

 ライフルの射撃で追い立てながら、二門の砲で偏差射撃…ではなく偏差砲撃。タイミングはばっちり合っていたものの、一門でも良いから当てようと左右の間隔を広げた事が仇となり、砲撃は身体を90度回転させた魔物によって避けられてしまう。

 ならばと次弾を放とうとしたところで、逆に魔物から放たれる烈風。ただの風とはいえ正面から喰らえば吹き飛ばされてしまう事は必死で、俺は攻撃中段からの回避行動を余儀なくされる。

 

(やっぱこいつ、知性も並の魔物より高い…ッ!)

 

 回避の方法、攻撃のタイミング、そして何より深追いをしない一撃離脱。流石に複雑な戦法や駆け引きは仕掛けてこないものの、強靭な身体能力に的確な判断が加わるというのはとにかく厄介なもので、この魔物を一人で倒すのは難しい。不可能ではないと思うけど、結構な怪我を覚悟しなくちゃ勝てないと思う。

 けど、何も今は倒す必要なんてない。それに…戦っているのも、俺一人じゃない。

 

「俺等もいるんだよッ!」

「この、何ちゃってドラゴンが…ッ!」

 

 続けて烈風を起こそうとする魔物を突き上げるような、下からの攻撃。それは、足止めする事を叫んだ俺に呼応してくれた、数人の味方からの射撃。彼等は弾幕で魔物の攻撃を封じ込めながら、俺の側まで飛んできてくれる。

 

「どうするよ?勢いで協力する事は決めたが、俺等に策はないぞ?ってか、お前はそのペースで撃ってて大丈夫なのか?」

「大丈夫です、霊力量だけは自信が……うおっとッ!…あるんでッ!」

 

 言葉を返している途中、強引に弾幕を突破し突っ込んできた魔物。突進というシンプルながらも巨体故に強力な攻撃を散開する事で俺達は避け、各々の火器で反撃をかける。

 それと同時に、俺は思考。味方の存在は心強いとはいえ、何も考えず全員がその場その場の動きをするんじゃ折角の数的優位も意味を成さない。むしろ足止めだからこそ、考えて動かなきゃ達成は出来ない。

 

(…とはいえ、一人一人の得手不得手なんか知らないし、今はゆっくり話している余裕もない。…だったら……)

 

 旋回しながらこちらを伺う魔物に向けて、さっきよりも込める霊力を増やして砲撃。それを魔物が回避したところで、俺は皆に向けて言う。

 

「…とにかく、俺が奴に喰らい付いて注意を引き続けます。だから皆さんは、フォローお願いします」

「フォローって…それだけでいいのかい?」

「はい、それだけで…というか、フォローが欲しいんです。とにかくやれる限りやり合うつもりなので」

「やれる限りやり合う…流石、魔王とすらやり合った奴は違うな!よっしゃ、フォローは任せろ!」

 

 にっと歯を見せて笑う一人の言葉に、俺も力強く首肯。…明らかに勘違いしてるっていうか、魔王も魔人も俺はこれまでまともにやり合えた事なんてないんだけど…理由はどうあれ、上がっている士気に水を差す事なんてしたくないし、訂正なんて事が済んだらその時改めてすればいい。

 

(そうだ、やってやる…やり合ってやるさ…ッ!)

 

 余裕綽々で飛ぶ魔物を見据え、構え直した俺は突撃開始。ライフルの射撃で魔物に回避行動を取らせながら、飛んで距離を詰めていく。

 

「……っ…付いて来られるか、ってか?…はっ、やってやろうじゃねぇか…!」

 

 回避はすれども距離を開けようとはしない魔物は、俺がかなり近付いたところで急上昇。それはまるで、俺を誘っているような動きで…敢えてそれに、俺は乗る。

 

「ふッ……ぉぉおおッ!」

 

 どんどん高度を上げていく魔物。そもそも日本一高い山にいる中じゃ少し高度を上げるだけでも結構キツくて、普段は感じられない負担が全身に…特に肺に襲い掛かるけど、歯を食い縛ってそれに耐える。

 魔物の誘いに乗ったのは、何も勢いに任せた選択じゃない。熱くなってる面があるのは否定しないけど、足止め…つまり時間稼ぎが目的な以上、重要なのは相手の興味を失わせない事。そしてその点において、相手の誘いに乗る事は最適な判断…だと、思う。

 

「ぐっ、ぅ…っ!もう、少し……!」

 

 上がる高度、締め付けられる肺。魔物の動きも悪くなっているような気がするけど、正直そこを狙い撃つだけの余裕はない。それどころか、解放を求める身体を意思の力で押さえ付けるので精一杯で……

 

「先輩ッ!」

「……──ッ!」

 

 慧瑠が俺の名を、名前を呼ぶ事による警告をしてくれなければ俺は魔物の後方宙返りに気付くのが遅れ、急降下からの一撃をきっと諸に受けていた。

 その声に反応し、咄嗟に左手に持った純霊力の片手剣を掲げる事で鉤爪での攻撃を防御する事には成功したものの、パワーの差に押し切られて落下する俺。すぐには姿勢を立て直せず、一方の魔物は更なる突進を仕掛けてこようとするも、そこで皆から撃ち込まれる集中砲火。そのおかげで俺は姿勢制御に専念する事が出来て、深く息を吸い込みながら立て直す。

 

「…あっぶねぇ…気圧に対する見立てが甘かった……」

「甘かった、じゃないですよ先輩…!自分がいなかったらどうするつもりだったんすか…!?」

「…慧瑠を頼りにしてた、って言ったら怒る…?」

「怒るというか……まぁ、先輩は気持ちが昂ぶると人を探知器扱いする程度には魔人使いが荒いんだなー、とは思うっすかね」

「うっ…ごめんなさい、以後気を付けます……」

 

 珍しく(いや当然だけど)語気の荒い慧瑠へ誤魔化すような言葉を返すと、半眼になった慧瑠はわざとらしい口振りでひらりと反撃。上手い事やり込められてしまった俺だけど、実際慧瑠がいなきゃ諸に喰らっていた訳で……この感謝と反省は忘れちゃいけないな…。

 

「全く…誘いに乗るのが作戦なら、のんびりしてる暇はないっすよ?」

「分かってる、のんびりしているつもりはないよ…ッ!」

 

 仕切り直すように片手剣を軽く振り、俺は魔物目掛けて再浮上。俺の邪魔にならないよう皆の射撃が和らいだ事で魔物までの道が開け、羽ばたく魔物への追走再開。

 先の上昇作戦では俺を仕留められなかったからか、今度は縦横無尽に飛び回る魔物。負けじと俺もスラスター吹かすが、離されないようにするので精一杯。連射が効かない上に反動の大きい砲じゃまともに狙う事も出来ず、ライフルの射撃も中々魔物に当たらない。

 

(くッ……これが噴射で飛ぶのと翼で翔ぶのの差か…!)

 

 追い付きそうになっては一度の方向転換で離され、再び近付いたと思えば高度を変えられ、いけると思った次の瞬間には追い越させられと、翻弄されるように後一歩が届かない俺。でもその理由はもう分かってる。

 俺は、霊力を推進剤とし噴射する事で飛んでいる。対して奴は、翼で羽ばたき、翼の角度を調整する事で揚力を得て飛んでいる。加速性や最高速度は個々の能力次第であっても、こと滑らかさにおいては翼での飛行の方が数段上で、しかも俺は霊力量にものを合わせた、繊細な霊力コントロールではなく強引な全力噴射で加速も方向転換もしている以上、その差は更に広がってしまう。早い話が俺の飛行は大雑把な訳で、極論それで追い付こうとする事自体がどだい無理な話でもある。

 だけどその欠点は、前々から分かってる事。だから俺だって、打つ手がない訳じゃない…ッ!

 

「……ッ!ここ、だぁぁッ!」

 

 何度も何度も離された末、翼を大きく広げる事でのブレーキングで俺は魔物よりも前に投げ出され、そのまま背後を取られてしまう。でもそれこそが俺の待っていた、奴が攻撃に転じる瞬間であり、背後を取られた瞬間俺は右半身側のスラスターへの霊力配給を全て停止。片側だけが推力全開となった俺は、視界が歪む程の速度で右回転し……その流れのままライフルのフルオートを叩き込む。

 俺の飛び方は力任せ。でもそれは逆に言えば、負荷さえ無視すれば無理な挙動もし易いって事。揚力による飛行よりもずっと、慣性を強引に捩じ伏せる事が出来るって事。勿論慣性そのものを消せている訳じゃないから身体への負荷は凄まじいし、精密射撃どころか普通に狙うのも出来ない位に身体がブレてしまうけど、魔物との距離が近い上、奴は俺の数倍はある巨大。方向さえ合っていれば当たるっていう状況があったからこそ、俺はこの手を敢行した。

 

「皆ッ!今だッ!」

 

 敬語を忘れ…というより敬語を意識する余裕もないまま叫ぶ俺。だけどその短い言葉で意図を理解してくれた皆は、俺の射撃で面食らって姿勢を崩した魔物へと一気に集中砲火をかけてくれて、更に皆の内の一人、大口径の大型ライフルを持った人の射撃が撃ち込まれた瞬間奴の悲鳴が聞こえてくる。

 

「こいつも…喰らえ……ッ!」

 

 気持ち悪さを覚える程に回転しながら飛んでいく俺は、止めていたスラスターを再点火し、意識を集中させる事で何とか勢いを殺し切る。そして間髪入れずに魔物を見据え、奴の胴へと二門同時に青い霊力の光を放つ。

 

「はぁ、はぁ…どうだ、これで少しは戦闘能力も落ちただろ…ッ!」

 

 多少の被弾はものともしていなかったとはいえ、奴は射撃に対して基本回避行動を取っていた。それはつまり、こっちの射撃が奴に対して有効打になり得るって事。少なくとも、ちょっと当たる程度は無視出来ても、まともに受け続ける訳にはいかないと見て間違いない。そうじゃなきゃ、避ける理由がないんだから。

 そしてその射撃を奴は、集中砲火で複数人から受けている。喰らいまくっている。であれば討伐には至らなくても、動きに支障が出る位のダメージは入っているに決まって……

 

「いや…まだっすよ先輩!」

「な……ッ!」

 

 そう思った、そう思おうとした瞬間、慧瑠が声を上げるのとほぼ同時に響いた魔物の咆哮。続けて今までで最大の烈風が放たれ、味方が一気に蹴散らされる。

 それに息を呑み、思わず烈風に襲われる皆の方を見てしまった結果生まれた隙。それを魔物は見逃さず、唸りを上げて猛然と突進。寸前のところで俺は避け、反撃の射撃を繰り出そうとするも羽ばたきの風圧で向けていたライフルの銃口が逸れ、一発も当てられないまま魔物がこちらを振り返ってしまう。

 

「んなろッ……がは…ッ!」

 

 次の攻撃は避けられない。避けようとしても回避し切れない。直感的にそう感じた俺は逆に突っ込み、先手を打たんと片手剣を振り出したものの、斬撃は魔物が突き出した脚の鉤爪に阻まれ、その直後逆の脚が俺を襲う。

 幸いギリギリ当たる位の距離だったおかげで骨が折れるような衝撃はない。それでも一発入れられた俺は蹴り飛ばされ…当然魔物も、それで満足をする訳がない。

 

「ちぃぃッ…こ、の……ッ!」

 

 ズキズキとした痛みに耐えながら、魔物に向けてライフル連射。立て直すのは後回しにし、飛ばされた勢いでの引き撃ちをかけるが、魔物の追撃を止め切れない。

 段々と近付く距離。近付けばその分当たり易くはなるけど、止められなきゃ次こそ重い一撃を喰らってしまう。

 

「くそがッ!タフ過ぎるんだよ…ッ!」

 

 その背後から魔物を叩く味方の弾丸。俺が狙われていた間に立て直せたみたいでそれは安心したものの、魔物は止まらない。瞳を怒らせ俺に喰らい付かんとする。

 

(……っ…こいつ…!)

 

 止まる気配すらない魔物。背を向け逃げたい衝動を何とか抑え込む中で気付いたのは、魔物の身体に幾つも残る銃撃の跡。羽根も一部が焼け焦げていて、胴には抉れた部分もある。動きもまた、さっきまでより手負いのそれになっているような気だってする。

 だから分かった。やっぱり、こっちの攻撃も効いていると。効いているからこそ、背後からの射撃は半ば無視してしまう程に怒り狂って、俺を喰らわんとしているんだと。

 であればもう、時間稼ぎなんて言っていられない。だけど、怒り狂う程のダメージを負っているのなら、生存よりも報復を優先する程に前のめりになっているのなら……

 

「一か八か…やってやろうじゃねぇかよッ!」

 

 覚悟の決まった俺は、スラスターを全開噴射。逆に俺から距離を詰め、翼の下をすり抜けるようにしながら霊力刃で一撃。それ自体は斬っ先が僅かに当たった程度で碌なダメージにはなっていないだろうけど、そんな事は気にせず即反転。振り返りざまにもう一太刀当てようとして……俺は同じく反転した魔物の片翼烈風で飛ばされる。

 

「……ッ…さぁ、付いて来やがれ…ッ!」

 

 でも、それで良い。烈風には逆らわずに俺は半回転し、今度こそ魔物に背を向け急降下。奴が追ってくる気配を感じながら、木々の間をすり抜けて飛ぶ。

 

「慧瑠!奴は!?奴はどんな調子で俺を追ってきてる!?」

「殺意剥き出しっすね!先輩これ、絶対諦めないつもりっすよ…!」

「好都合…ッ!」

 

 振り返る事なく問い掛ける俺の口元には、自然と小さな笑みが浮かぶ。それが緊張感が昂り過ぎた結果なのか、無意識にスリルを楽しんでいるのかは分からないけど…それを考えている余裕はない。

 もう、俺の中で次の手は…最後の一手は決まってる。後はタイミングだけ。確実に成功させる為、ギリギリまで奴を引き付けるだけ。

 

(まだだ…まだだ、まだ…まだ、まだ……まだ…ッ!)

 

 低空飛行故に、木は衝突する危険もある。タイミングを読み違えれば、喰らわれ噛み千切られる可能性だってある。けどもう止める事は出来ないし、止める気もない。

 引き付けて、引き付けて、直感を信じて飛び続けて。そして、自分の中で何かが強く叫んだ瞬間……俺は左前方の木の幹へと、腕を伸ばす。

 

「……ッ、らぁぁああああああッ!!」

 

 片手剣の柄頭を木の幹へ突き立て、表面を削りながら殆どスピードそのままに急速旋回。木の右側から左側へと一瞬のうちに回り込み……魔物の身体を、ギラつく瞳を真正面から見据える。

 

「沈み…やがれぇええええッ!!」

 

 旋回しながら振り上げていた、二門の砲。その砲口が向かう先は、臆する事なく吠えながら突進を掛ける目の前の敵。それを跳ね返すように俺もまた叫び……最大火力を有する二門の砲撃で、狙い違わず魔物を撃ち抜く。

 

「……ッ、ぅ…!」

 

 強引な方向転換の衝撃も抜け切らない内に行った砲撃の反動で、ひしゃげそうになる身体。それでも放った砲撃は、どちらも魔物の胴を直撃。冷静さを失う程にダメージを負っていた魔物にとって、それは間違いなく致命傷に……なっていた、筈だった。

 

「な……ッ!?」

 

 大きく仰け反り、砲撃との衝突で大きく勢いの落ちる身体。一切の疑いようなく、砲撃は魔物の内部にまで到達し……けれど次の瞬間、冬空に響く一つの咆哮。叫びを上げながら真上に逸れていた魔物の眼光は再び俺を憎悪で睨め付け、最早近付くまでもなくその開かれた顎門で俺を噛み砕かんとする。

 反射的に、無意識に、本能的に、俺はライフルを魔物につけようとした。間に合うかとか、これで止められるかとかは考えもせずに、身体はそう動いていた。だけど、俺が撃つよりも早く、魔物が俺に喰らい付くよりも先に──空から舞い降りた斬撃が、魔物の右翼を強かに斬り裂く。

 

「……ぁ…」

 

 突然の事過ぎて、理解の追い付かない俺。同じように、口を開いたまま目を見開く魔物。そして、飛来した斬撃の青い光が完全に消え去るよりも早く……綾袮さんが、魔物の首をを貫き穿つ。

 

「はぁぁああああぁッ!」

 

 吹き飛ばすような突進と共に、魔物の首を大太刀で貫いた綾袮さんは急降下。魔物諸共雪原に落ち、爆ぜるような雪煙を上げ、その雪煙を四散させながら綾袮さんは再び空へ。その手にはしっかりと得物、天之尾羽張が握られていて……刺突で首を貫かれた魔物は、雪原へと横たわっていた。

 

「……ふー、ぅ…顕人君、皆、大丈夫?」

 

 眼下の魔物を見下ろしていた綾袮さんは、魔物の消滅が始まったところで…即ち、絶命が確認出来たところでゆっくりと伸ばすようにして息を吐く。それが終わったところで、周囲を見回し…ふっとその表情に笑みを浮かべる。

 

「…綾袮、さん……」

「あ、綾袮様…?どうして、ここに……」

「どうしてって…ふふん、分からない?わたし実は、瞬間移動能力があるんだよ?」

『え……!?』

 

 ここにいる筈のない、離れた場所にいる筈である綾袮さんの登場に、俺も皆も揃って訳が分からないという面持ちで彼女を見つめる。すると綾袮さんは得意げに笑って、平然と言う。自分には、瞬間移動能力があると。

 そんな、まさか。聞いた瞬間、俺は信じられなかった。だけど、綾袮さんは俺とは別格の実力を持つ霊装者で、家系としても協会のトップの一角に立つ存在。だったらひょっとしたら、もしかしたら本当にそういう能力があるのかも、と俺は信じ始めて……

 

「…ま、嘘だけどねー」

「いや嘘かぁいッ!」

 

 てへっ、と舌を出した綾袮さんに対し、反射的に思い切り突っ込んでしまった。…いや、これは突っ込むって……。

 

「おぉ、思ったより元気だね。うんうん、綾袮さんは安心だよ」

「突っ込みで体調を判別しないでよ…。…てか、それならどうしてここに…?」

「それは勿論、突撃部隊の皆が無事に脱出出来そうってなった時点で、向こうは皆に任せてこっちにすっ飛んできたからだね。とにかく間に合って良かった良かった」

「す、すっ飛んできたって…つまり、多勢に無勢の状況下を戦い抜いた上で、普通に飛んで間に合わせたと…?」

「そーゆー事!君達、わたしの凄さが分かったかな?」

 

 唖然とする皆を前に、ご機嫌な顔で胸を張る綾袮さん。凄ぇ…って顔をされたのが嬉しいのか、それとも間に合った事で安心したのかは分からないけど、本当に綾袮さんの表情は嬉しげ。

 

「は、はい!…はぁぁ、なんとかって良かったぁ…」

「うんうん。まあ、色々言いたい事もあるけど…取り敢えず皆、ご苦労様。不測の事態の中でも作戦が崩れなかったのは君達が時間を稼いでくれたからだし、皆を代表して感謝するよ」

「つっかれたぁ…しかしお前、マジで最後まで喰らい付くなんてな。さっすが、魔人や魔王ともやり合ってる奴は違うぜ」

「え?あ…はは……」

 

 ヒーロー(女の子だけど)の様なタイミングで綾袮さんが登場した事、魔物が撃破された事によって張り詰めっ放しだった空気が解け、安堵や喜びの笑みを各々で浮かべる。中には俺に賞賛を送ってくれる人もいて、過大評価な部分はあるとは言えど、やっぱりそういう言葉をかけてもらえるのは嬉しいから、かけられた言葉には何とか笑みを作って返す俺。…だけど……

 

(…間に合って良かった、か……)

 

 ついさっき、綾袮さんが何気無く言ったその言葉。他意はなく、きっと本当にただ思った事を言っただけなんだろうけど……その言葉は、俺の心へ魚の小骨の様に刺さっている。

 確かに、綾袮さんが来てくれなかったらどうなっていたか分からない。やられていたかもしれないし…もしかしたら、ライフルで倒し切れていたかもしれない。でも…結果として、勝負を決めたのは綾袮さんだ。綾袮さんが倒して、綾袮さんが倒したから俺も無事で済んだんだ。

 嫌な訳じゃない。感謝してるし、尊敬もしてる。だけど…あぁ、それでも…心の端で、俺はこう思っていた。……また俺は、綾袮さんに助けられたのか…と。

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