双極の理創造   作:シモツキ

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第百六十九話 見えたものは

 中学や高校の二年生三学期は、三年ゼロ学期なんて言われる事がある。いきなり何を言っているんだと思うかもしれないが、それはむしろ三年ゼロ学期に対して言うべきだろう。

 二年の三学期は、二年の三学期だろうが。確かに何事も、早めに準備しておくに越した事はないが……それは普通が普通として機能している状態、これで言うなら二年の三学期は二年の三学期だって認識が普通であればこそ、早めに動いた個々人に意味が発生するのであって、早めに動くのがさも普通のようになったら、三年ゼロ学期とやらが明文化されようとされまいと当たり前の事になってしまったら、そんなのは期間が前倒しになっただけて、何の意味もありゃしない。100m走が120m走になったって、全員が余計大変になるだけじゃないか。

 

「だからな、俺は思うんだよ。真面目な奴は前倒しなんかしなくたってちゃんと勉強するし、不真面目な奴は前倒ししたって真面目になんてやりゃしない。結局無意味どころかそれ基準で他が詰まったり負担が大きくなったりするんだから、こういうのは後世に残しちゃいけない悪しき文化だろうが、ってな」

「ふぅん…で、本音は?」

「受験めんどい、試験勉強やりたかない」

 

 ほんとまだまだ寒いある日の事。俺は家に招いた依未に、前々から思っていた持論を熱弁した。…勿論、二人でゲームをやりながら。

 

「ま、不真面目極まりないあんただしそんな事だろうとは思ったけど…いっそ清々しい位に捻くれてるわね。…いや、屁理屈捏ねてる時点で清々しくもないか……」

「屁理屈、ねぇ…いいか依未。屁理屈ってのは、ちゃんと相手の論調に返しもしない癖に、体良く『自分は正しい、相手は間違ってる』って形にしたい奴が使う言葉であって、屁理屈なんてものは存在しないんだぞ?あるとすれば理屈として合ってる、間違ってる、そもそも理屈になってないのどれかだろうな」

「それは分からないでもないけど、『面倒臭い』って本心をそれっぽい持論で塗り固めて、さも自分が個人的な不満から否定してる訳じゃない…的な形にしようとしてたのは事実でしょ?」

「…受験なんて中学の一回で十分なんだよ…てか中学の一回だって、出来る事ならしたくなかったっての……」

 

 雄弁に色々語ってはみたものの、返ってくるのは一貫して冷ややかな視線と声だけ。内容的にも、依未の性格的にも、こうなる事は火を見るより明らかだったが…あーあ、誰かにこの気持ちを共感してほしいなぁ……。

 

「じゃ、あんたは今後どうする気なの?」

「どうもこうも、のんびり暮らせればそれで…というか、既に仕事は一応してる訳だし……」

「仕事してるって言ったって、あんたかなり融通効かせてもらってるじゃない。…てか…よくもまぁ、こんな話をあたしに向けて言えたわね……」

「ん?依未だったらこういう話しても大丈夫だと思ったんだが…違ったか?」

「……そういう言い方は狡いわよ…」

 

 依未の言わんとしてる事は分かる。満足に学校に行く事も出来ない人にする話じゃないだろう…ってのは俺だってそう思うし、もし不快にさせたのなら本気で謝る。けど俺は、何となく依未だったら…出会ったばかりの頃じゃなく、今の俺と依未なら大丈夫な気がしていて…その旨を伝えると、何故か依未は俯きぼそぼそとした声になっていた。…何だ?急に…。ってか……

 

「よっ、隙有り…っと」

「あっ!?ちょっ、卑怯よッ!」

「いや卑怯も何も、自分から動き止めてたじゃねぇか…」

 

 結構がっつり話しているが、今は対戦ゲーム中。そんな中で思いっ切り隙を見せた依未(のキャラ)をコンボ攻撃で一気に仕留めると、自分から隙を見せた癖に依未は滅茶苦茶文句を言ってくる。…理不尽だ……。

 

「ぐぐぐ…ふんっ。散々面白くもない話を聞かせておいてこれなんて、随分といやらしい心理戦術を身に付けたものね!」

「えー、そこまで言う…?別に何か賭けてた訳じゃねぇし、不満ならもう一戦……」

「ただいま〜。あ、やっぱり依未ちゃん来てたんだね」

「あ…う、うん。お邪魔してるわ」

 

 不満を爆発させている依未を前に、どうしたものかと思いながらもう一戦提案しようとした俺。けどそこで丁度妃乃と出掛けていた緋奈が帰ってきて、にこやかにリビングへと入ってくる。

 

「おう、お帰り。今日も外は寒かったかー?」

「それはそうだよ、冬だもん。それより依未ちゃん、前に勧めてくれた作品見たよ。背景すっごい綺麗だったし、しっかり一人一人の掘り下げをしてくれてたから、自然と見入っちゃう作品だったよね」

「……!でしょ?そうでしょ?あれはあたし的にもぐっときた作品だから、そう思ってくれるのは嬉しい…!」

 

 リビングに緋奈が入ってきた時点で視線を向けていた依未だったが、勧めたという作品への好評価を聞いた瞬間、目を輝かせて緋奈の前に。それから二人はその作品の話に花を咲かせ始め……キャラ選択画面のまま、俺は放置されてしまう。

 

「……緋奈ちゃんに依未ちゃん取られたわね。あ、むしろ緋奈ちゃんを依未ちゃんに取られた感じ?」

「いや、別に…そんな事思ってナイシ-」

「分かり易く語尾が変な感じになったわね……」

 

 ぽつねんと俺が見つめている中、不意に隣へ立った妃乃からからかい混じりに言われた言葉。それには普通に返したつもりなのに、何故か語尾が妙な感じに。…いや、ほんと…別になんて事ないからな?緋奈が魅力的なのは論ずるまでもない事なんだから、ぼっちでコミュニケーション面に難のある依未が惹かれるのはなんらおかしくないし、我が妹緋奈が依未…というか誰かに取られるって事は…うん、まぁ…あの一件的にもほんとあり得そうにないし…。だから別に、全然全く気にしてなんかイマセンヨ-。

 

「…仕方ない、今は妃乃で我慢するか……」

「そうね、ここは私で…って、なんで私が妥協案みたいになってるのよ!?凄く失礼なんだけど!?」

「え?じゃ、本命の方が良かったか?」

「うぇっ!?…ぁ、や…べ、別にそうは言ってないじゃないっ!馬鹿なの!?自信過剰なの!?」

「あ、お、おぅ…なんかすまん…(凄ぇ怒られた…)」

 

 キレられて当然の事を言ったとはいえ、それを差し引いても妃乃のぶつけてくる怒りは苛烈。顔も一気に真っ赤になったし、思わず普通に謝ってしまった。…てか、馬鹿はまあ良いにしても…自信過剰……?

 

「ほんっとに、そういうところが困るのよ悠耶は…!」

「えっと…はい、気を付けます……」

「ったく…でも、ほんと仲良いっていうか、依未ちゃんの心の開き具合が凄いわね。貴方もそうだけど、彼女は千嵜家との相性が良いのかしら……」

 

 これ以上茶化してはいけない。そう感じ取った俺が素直に反省の意を示すと、俺から目を逸らしつつも(というか、向こうに目を向けつつ?)依未の事について触れる。…相性、ねぇ……。

 

「俺はあんまそんな感じしないけどなぁ…。俺に関してはそれなり以上の偶然と紆余曲折の末だし、緋奈は……こう、依未の中でぐっと来てる節があるというかなんというか……」

「…ぐっと来てる……?」

 

 俺の見解を口にしながら思い出すのは、クリスマスパーティー及びその翌日に依未が緋奈に対して見せた、なんか明らかにlikeとは違うタイプの感情。けどあれは緋奈単体じゃなく、依未側の性格や認識もあっての結果だから……って、ん?それ等が上手く合ったって事は、やっぱ相性が良いって事か…?

 

「う、うぅん…?」

「なんで私は訊き返しただけなのにそんな頭捻ってるのよ…。…まぁ何にせよ、こうして心を開ける相手が増えるのは良い事──」

 

 当然俺の頭の中なんて分からない妃乃は勘違いしてるが、それはそれで…という感じに頬を緩める。そして俺も、その言葉に同意を示そうとしていた……その時だった。不意に依未の身体がふらりと揺れ、力が抜けて倒れ込んだのは。

 

「わ、わ…っ!?依未ちゃん……!?」

「……ッ!依未…!」

 

 突然の事ながら、自分の方に倒れてきた事もあって依未の身体を受け止める緋奈。即座に俺と妃乃も駆け寄り、緋奈から預かる形で依未を抱える。

 

「依未ちゃん、聞こえる?意識はある?」

「……っ…ごめん、なさい…大丈夫、です…」

 

 ゆっくりと依未をソファに寝かせた数秒後。妃乃からの呼び掛けに答える形で依未は目を覚まし、俺達三人は揃って安堵。依未もすぐに状況を理解したらしく、申し訳なさそうな顔をしながら身体を起こす。

 

「無理に起きなくても良い、寝てろ依未」

「ううん…今のは立ち眩み位だから…それに、三人に覗き込まれてる方が落ち着かないし……」

「そ、それもそうか…」

 

 気を遣った俺だったが、言われてみれば確かに、皆に心配そうな顔で覗き込まれちゃ逆に気になって仕方ないだろう。

 という訳で俺は一旦離れ、温めの水を汲んで戻ってくる。それを依未に渡すと、依未はぐっと一口飲んで、それから小さく息を吐く。

 

「…お兄ちゃん、今のって……」

「あぁ。ありがとな、咄嗟に受け止めてくれて」

 

 小声で訊いてきた緋奈に俺は首肯し、肩へと軽く右手を置く。

 依未の体質とでも言うべき能力については、緋奈にも話していた。けどやはり、突然気を失うというのはショックが大きかったみたいで、まだ緋奈の表情には心配の色が濃い。

 けど、逆に言えばそれは、本当に緋奈が依未の事を大切な友達だと思ってるって証明な訳で…この事は、からかいついでに後で依未に教えてやるかな。

 

「依未ちゃん、体調に異変はない?いつも通り?」

「はい。いつもと同じです」

「だったら良かったわ。…それで、今回は……」

 

 俺と緋奈とが話している間、妃乃がしていたのは具合の確認。判別手段が依未からの回答のみとはいえ、本当に何もないって結論に行き着くと、妃乃は最後まで言わずに依未へと問いを投げかける。

 それは、依未が見たもの…意識の途絶を副作用とする、予言の内容に対する問い。声音に心配を残しつつも真剣な顔で訊く妃乃に対し、依未は一瞬躊躇うような表情を見せ…それから、言う。

 

「…ここのところ、何度か見ているものです。飛び回る幾つもの青い光と、駆け抜ける何条もの赤い光。そしてその中で戦ってるのは…霊装者」

「そう…何か他に気付いた事、気になった事があればいつでも言って。私は勿論、綾袮や他の人でも構わないわ」

 

 聞き終えた妃乃はさっき俺が緋奈へとしたように依未の肩へと手を置き、それから離れる。多分それは、それだけで十分だ…って事なんだろう。今聞いた限り、あんまり具体的な内容ではなかったが…妃乃であれば、分かる事があるのかもしれない。

 

「…その、ほんとに悪かったわね…空気も変な感じになっちゃったし……」

「気にするなって。でもそう思うなら、爆笑必至な一発ギャグでもしてくれて良いんだぞ?」

「あ、ごめん。今のはあんた以外に言った言葉だから」

「…さいですか……」

 

 一回気を失って申し訳なさに溢れても、依未の言の葉の切れ味は抜群。全く…けどま、平然とこういう毒を吐けるんなら、本当に体調面の問題はなさそうだな。…ここで判別するってのもどうかとは思うが……。

 

「あはは…でも、大事にならなくて良かったよ。話は聞いてたけど、あそこまで急にだとは思ってなかったから……」

「ごめん…それにありがと…。あたしが気を失った時、すぐに受け止めてくれたんでしょ…?」

「そんなの気にする事ないよ。立場が逆なら、依未ちゃんだってわたしを支えてくれたでしょ?」

「え、あ……うん…」

「ね?だから謝る事はないし…でも、ありがとうって言葉はやっぱり嬉しいかな。ふふっ」

 

 安堵から優しげな表情へと変わり、最後は依未へと微笑みを見せる緋奈。それは思いを向けられている訳でもない俺でも心がほっこりとする笑みで、そしてそれを受けた依未はといえば……そりゃあもう、ときめいていたさ。

 

「…悠耶、ちょっと」

「ん?」

 

 それから数分後。さっきまで話していた話題を再び緋奈が口にし、緋奈と依未は会話を再開。それによって部屋の中の雰囲気も戻り…俺も何かしようかと思ったところで、妃乃から廊下に呼び出される。

 

「うへぇ、さっむ…リビングの中じゃ駄目なのか…?」

「リビングの中で良い話なら、わざわざ廊下に呼び出さないわよ」

「いやそりゃそうだろうがよ…。…で、なんだ」

「さっきの依未ちゃんの話よ。貴方も聞いてたわよね?」

 

 途端に感じる寒さはマジで辛いが、真面目な話をしようってのは一目瞭然。なら早く戻る為にもちゃんと聞くべきだろうと俺が首肯すると、妃乃は腕を組みつつ本題へ。

 

「あくまで依未ちゃんが見た光景って形だから、断定は出来ないけど、青い光というのはまあ霊力でしょうね。ここは問題ないし、これ以上語る事でもない。けど、念頭に入れておかなきゃいけないのはここからよ」

「ここから…っつーと、赤い光と霊装者…ってやつだよな。けど、霊力が発されてる以上霊装者がいるのは当然の事だし、赤い光ってのが気になる…って話か?」

「えぇ。でも恐らく、その赤い光も霊力よ。どうして本来青い筈の霊力が赤いのかは分からないけど…少なくとも私は赤い霊力の光を見た事があるし、それは私だけじゃない」

「…見た事ある、って事は…協会の中に、そういう霊力の使い手がいると?」

「ううん。…ゼリア・レイアード。BORGの彼女が、その赤い霊力を使っているのよ」

 

 真剣な眼差しと共に発せられた、一人の名前。一瞬、誰だか分からなかった俺だが…続く言葉で思い出す。

 確かそれは、双統殿で行われた会議の後に話しかけてきた、BORGの代表と共にいた女性の名前だ。代表同様に、只ならぬ雰囲気を感じさせた、あの女性の。だが…そうなるとつまり、どういう事だろうか。単にイギリスでの一場面が見えただけなのか、それとももっと、何か深い意味があるのだろうか…。

 

「…分かってるわよね?彼女が、BORGが、油断ならない存在だって事は」

「だから、念の為頭に入れておけ…って事か」

「理解が早くて助かるわ。思い過ごしかもしれないけど、後からもっと気を付けていれば…って後悔するより、見当違いな事に気を張って損した…って肩を落とす方がずっと良いもの」

「ま、それはそうだな。俺も俺で気を付けておくさ。…つっても、今の情報だけでどう気を付けろって話だが……」

「それは言わないの。依未ちゃんが、望んでもいないリスクを背負って見てくれたものなんだから」

「…あぁ、分かってるよ」

 

 何も分からなきゃ、気を付けようがないのは事実。今分かってる事だけだと、そもそも彼女やBORGに気を付けておく…という考え自体、合っているのかどうか分からない。

 だが、分からないのなら、分かってる範囲で予想を立てて、それに沿って動けば良い。何せ、それをするのが知性ってものなんだから。

 そう、俺が自分の中で話に結論付けていると、ふと思い出したような顔をして妃乃は言う。

 

「…ところで悠耶。貴方、まだ霊装者として自分を磨くつもりはないの?」

「…なんでだ?」

「最近、顕人がまた活躍したみたいだからね。もしかするとそう遠くない内に、実力で抜かされちゃうかもしれないわよ?」

「実力、ねぇ。別に俺は、誰に抜かされようがどうだって……」

 

 顕人が活躍したって話を聞いても、これといって思う事はない。あいつが霊装者としての道に本気で取り組んでいる事は知っているし、顕人には綾袮という何だかんだ言っても良い師が付いているんだから。

 それに、俺はあくまで今の生活を守れればそれで良い。強過ぎる力は戦いの世界に引き摺り込まれる要因にもなり得る以上、最低限の力されあれば俺は十分。…そんな答えを、俺は口にするつもりだったが……何となく、それは違うような気がした。前は確かにそう思っていたが、今は……

 

「…いや、そうだな…抜かされる云々はどうだって良いが…必要な時に、必要な力がないのは…嫌だ」

 

 自ら口にした事で、少しだけ見えた。少しだが、分かった。今の俺が、自分の中でどう思っているかが。

 前は正直、緋奈さえ守れれば良かった。妃乃には感謝していたが、妃乃は一人でも大丈夫だろうと思っていた。

 だが、今俺が守りたいのは緋奈だけじゃない。依未だって守りたいし、妃乃も時に迷ったり自信を持てなくなる時があるって事を、今の俺は知っている。そして、そんな皆の力になる為に、今よりも実力が必要だと言うのなら…俺だって、進む事は厭わない。

 

「…そう。その気があるなら、私が鍛えてあげてもいいわよ?」

「妃乃、人に物事を提案する時は、そんな上から目線じゃない方が良いぞ?」

「そ、それは確かにそうかもね。気を付けるわ…って、なんで教えて上げるのに下手に出なきゃいけないのよ!」

「いやぁ、妃乃はほんとノリの良さばっちりだよな。普段はふざけてないだけで、実は妃乃って内面は綾袮と大差ないんじゃないのか?」

「な訳ないでしょうが!……あっ、でも…」

「え、何?マジで内面は大差ないの?」

「だからそうじゃなくて…!…ああ見えて、綾袮も根の部分は真面目なのよ。厳密に言うと、おちゃらけてる面と真面目な面が共存してる…って感じだけど…」

「あ、そっち…そっすか……」

 

 自身の事かと思いきや綾袮に対する言及がなされて、何とも言えない気持ちになる俺。まー、何つーか…妃乃も大概、綾袮の事が好きだよなぁ…。

 

「…何にせよ、真面目に鍛錬する気があるなら手を貸すわよ。真面目にやる気があるなら、ね」

「へいへい。ま…必要になったら、その時は頼む」

 

 そうして廊下でのやり取りは終わり、俺も妃乃もリビングへと戻る。ふへー、寒い寒い。身体冷えちまったし、熱い茶でも入れてリビングでゆっくり……

 

「あ、戻ってきた。ちょっと」

「え……?」

 

……したかったのに、戻るや否や依未に引っ張られて再び俺は廊下に出る羽目になってしまった。…酷い……。

 

「ぶるぶる…しゃむいしゃむい……」

「……キモっ…」

「止めて、マジトーンとマジな目で言われるのは流石に俺でも辛いから……」

 

 ナイフの如く突き刺さった言葉に俺はダメージを受けているというのに、依未は変わらず冷ややかな視線。…いつか懲らしめてやる…或いはさっきの事でふにゃっとさせて、その時の顔でも撮ってやる…。

 

「…真剣な話したいんだけど、ちゃんと聞いてくれる?」

「あ、はい…。…で、何だよ。まさか、本当はどこか具合悪いのか?」

「身体は本当に大丈夫だって。…そうじゃなくて、その…見えたのよ……」

「見えた?何が?」

「だから、その…あんたの……」

 

 表情から本当に真面目な話だって読み取った俺は聞く姿勢を見せるが、今度は依未は口籠る。

 言い辛い事なのか、こっちを見ながらも中々その内容について切り出してくれない依未。ただ俺に関係する事ではあるのか、何度も俺を見ては目を逸らしてを繰り返していて……

 

「はっ……ま、まさかチャック開いてたのか!?」

「ぶ……ッ!?ち、違うわよ馬鹿ッ!あんたのモノになんて興味ないしッ!全然ないしッ!」

「えっ……何故にパンツじゃなくて、その奥の事を…?」

「え、あ……〜〜〜〜ッッ!!?」

 

 慌てて俺が股間を隠すと、どうも違ったようで依未は顔を真っ赤にしながら全力で否定。だがその返答から感じた妙な部分を指摘すると、依未自身は気付いてなかったのか一瞬固まり…次の瞬間、既に赤かった顔が更に赤く、もうほんとに燃え出すんじゃないかって位に染まり切った。…わー、凄ぇ…人の顔って、こんなに赤くなったりするのか……。

 

「う、うぅぅ…バカ、ばかぁ……!」

「お、おおぅ…なんかごめんな依未…大丈夫、俺は誰にも口外しないぞー……」

「もう、お嫁に行けない……」

「いやそこまでじゃないだろ…てか、それを実際に言う人を俺は初めて見たよ……」

 

 茹で蛸状態の顔を両手で覆って座り込む依未は何というか不憫過ぎて、そこから暫し俺は慰める事に専念。いや、うん…もうさっきの懲らしめるとかいいや……。

 

「…うぅ…さっきのは忘れて、頭を壁にぶつけてても忘れて……」

「それは嫌だがまぁ、ネタにはしないよ…というか、結局依未は何を言いたかったんだ…?」

「…それは…さっき見た…妃乃様に話した内容の事よ……」

「内容…?けど、あれは俺も聞いて……」

「あの時は、言わなかった部分があるの。…まずは、あんたに話しておいた方が良いと思ったから…」

 

 大分雰囲気が狂ってしまったが、その狂った雰囲気を引き戻す依未の言葉。

 立場も実力もあり、依未からしても信頼しているであろう妃乃より先に、俺に話そうと思った内容。それは一体何なのかと俺が表情を引き締めると、依未は立ち上がりつつ言葉を続ける。

 

「…その光景の中には、あんたがいたわ。悠耶がいて、戦ってた」

「俺が、か…?」

「うん…それに、もう一人……えっと…あんたの友達で、御道……」

「…顕人か?」

「そう、彼。彼もいたわ」

 

 どうしてなのかは分からない。だが依未の見た光景の中には、俺と御道もいたと言う。

 それは流石に驚いた。妃乃は念の為気を付けろ、って風に言っていたが…まさか、それが的中していたとは。いつかどこかで、俺は赤い霊力を使う存在と、戦闘又は共闘する事になるとは。

 

「そうか…一応今月の頭も一緒に戦ったが、そうなると今後もどっかでまた共闘する事になるって訳か……」

「…………」

「けど、それなら別に妃乃に話したって……って、依未?どうかしたか…?」

「…一瞬よ…?これから言うのは、一瞬そう見えたってだけで、もしかしたらどっちかの後ろに敵が回り込んでたとか、そういう可能性だってある話よ…?」

「はい?いや、今度は何を言って……」

 

 とはいえ、それは狼狽えるような内容じゃない。驚きはしたが、あぁそうなのか…と受け止められる程度の事。…そう、俺は捉えていたが…依未は酷く神妙な顔で、俺の顔を見つめている。

 それは、まだ何か言いたい事が、最も言うべき核心部分の話が残っているって表情。言わなきゃいけない、大切な事があるって顔。加えて依未はやけに気を遣うような前置きを入れてきて、その言葉に俺は不安を煽られる。

 これから何を言うのか。依未が一瞬見たと言うのは、一体何なのか。俄かに俺の中で緊張が募っていく中、依未は俺の目をじっと見つめ……言った。

 

「…最後、途切れる寸前の光景では…あんたと顕人が、共闘じゃなくて……敵対してるように、見えたのよ…」

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