双極の理創造   作:シモツキ

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第百七十六話 お試し試作品

 善は急げ…とは少し違うが、やる気がある事なら早めに行った方がいい。それはやる気が萎まない内にって事でもあるし、それが一回で終わらなかった場合、或いは続けようと思った場合、後に回すと別のやりたい事ややるべき事と被って、結局自分が困る事になるのがお決まりだから。

 という訳で、妃乃から伝言を受け取った二日後、俺は園咲さんの下を訪れた。

 

「よく来てくれたね。取り敢えずは座るといい」

 

 挨拶をするとそう促され、部屋のソファへと座る俺。今日は妃乃と一緒に来たが、その妃乃は何かの会議とかで現在は別行動中。

 

「あー…すみません園咲さん。妃乃から聞いていると思いますが、俺は……」

「うん、君自身に明確な要望はない…だったね。それと出来れば、君の妹さんに沿った装備を用意してほしい、で合っているかな?」

「そういう事です。ただほんと緋奈の件はこっちの都合なんで、無理なら無理で大丈夫です。というかそもそも、協会が了承してくれるのかも分からないですし」

 

 妃乃とかの話をした際には失念していたが、緋奈だって形式上は協会所属になっている。であれば勝手に装備をどうこうするのはアウトな可能性もある訳で、それを無視して話を進める事は出来ない。妃乃からは肯定的な発言が出たが、それだって装備の内容によるだろうし。

 

「まあ、私もプライベートでやる訳じゃないからね。試作品のテスト兼データ収集という形でなら出来ない事もないだろうが、そうなると実際に使ってもらう必要が出てくる。…それは、君の望むところじゃないんだろう?」

「はい。安全の為の装備の為に、自分から戦いに出るんじゃ本末転倒ですから」

「だろうね。けど、君には大きな借りがある。だからいざやるとなったら、その時は期待に添えるものを用意すると約束するよ」

「…ありがとうございます、園咲さん」

 

 借り…というのは、恐らく先日の擬似合コンの事だろう。俺や御道からすれば、ただ食事を共にしただけのあれを借りと言ってくれるのであれば、やはり無理な事を言う訳にはいかない。…そして、件の合コン(本番)の結果は気になるところだが…それを訊くのは、流石に不躾な事だろう。…多分。

 

「…さて、それでだ悠耶君。私は君に、幾つか試作品を試してみてほしいと思っている。一先ずは実戦ではなく、取り敢えずトレーニングルームでね」

「それは…まぁ、構いませんけど…何故俺に?」

「理由は二つ。一つは、普段使わない装備に触れる事によって、これまで気付かなかった『こういう物があってほしい』が見つかるかもしれないからだよ。そしてもう一つは…君ならではの視点を、知りたいんだ。大戦で実際に戦った事のある、君の視点をね」

 

 それから話は進み、園咲さんが俺へと投げ掛けてくる要望。質問を返した俺に対する回答は、どちらも納得出来るもの。それまで知らなかったものに触れる事で、現状を見直せるようになるってのは戦闘以外でも普通にあり得る事だし、後者に至っては言うまでもない。宗元さんみたいに、まだ存命の人もいるんだろうが…高齢の相手に、試作品のテストは色んな意味で頼み辛いもんな…。

 

「どうだろうか。無論君からすれば必ずしもやっただけの価値がある結果を得られるとは限らない訳だし、気が乗らないならこの話は無かった事にするよ?」

「…いや、内容はどうあれさっき了承しましたし、やらせてもらいます。妃乃の方も、すぐには終わらないって言っていましたしね」

「そう言ってくれると助かるよ」

 

 先に帰ったって別に悪い事はないが、印象的にはあんまり良くない。そして同じ家で生活している以上、印象の良し悪しは結構重要。

 って訳で俺は立ち上がり、園咲さんと共にトレーニングルームへ。園咲さんはモニタリング用の部屋に行ったから、実際にトレーニングルームへ入ったのは俺だけだが…って、これは別にどうでもいいか。

 

「悠耶君。分かっての通り、そこにあるのが君に試してもらいたい試作品だ。順番は君の自由で構わない」

「了解です。んじゃまぁ、こいつから…」

 

 そう言って俺が手に取ったのは、一本の剣。曰く「妃乃や綾袮、その他霊力による斬撃飛ばしが得意な霊装者からの協力を得て開発した、斬撃を飛ばし易い霊力剣」らしく、実際軽くイメージしながら振るっただけで、刀身からは薄い青の斬撃が飛んでいく。

 

「ふむ、動作に問題はないね。身体に負荷や負担はあるかい?」

「や、大丈夫です。確かに、ぽんぽん斬撃を飛ばせますね……」

「その為の剣だからね。…けど、口振りからしてあまり評価は高くないのかな?」

「あー…まぁ、飛ばし易過ぎる分、疲労で集中力が切れてきたりイメージが乱れたりした時には、普通に斬るつもりだったのに暴発した…って事がありそうな気はするんですよね。後多分これ、純粋な剣としては少し強度が低くなってたりしません?」

「うん。飛ばし易くする関係で、意図的に霊力付加が離れ易い…つまりは霊力が刀身に定着し辛くしているからね。そこについては私も気になっていたし、やや本末転倒かもしれないな」

 

 霊装者の使う武器は、霊力を纏わせる事で強度や斬れ味を強化している。その霊力を離れ易くしているって事は近接戦用武器としての性能を落としているとも言える訳で、ぶっちゃけ俺からしても本末転倒というのが正直な評価。最初の一発は色が薄かった事からも分かる通り、放ち易いと言っても適当に出した場合は霊力の量や収束率の関係で威力が低くなっていそうだし、そもそもそこまでして遠隔攻撃をしたいのなら、銃火器を使えば良いだけの事。協力…というか参考元となった妃乃や綾袮はあくまで近接戦がメイン、状況によっては斬撃を飛ばして遠隔攻撃もするってスタンスである事から考えても、「発想的には面白い」止まりの武器ってところかね。

 

「じゃあ、次はこれを……」

 

 振ったり突いたり連射(斬撃だけど)したりと一通り試した俺は、その剣を戻して隣の武器へ。それに関して園咲さんから説明を受けた後、同じように二つ目の武器も試し始める。

 二つ目として手に取ったのは、先端及び両側面が刃状となっている一対の盾。前腕に嵌め、取っ手を掴んで保持するタイプの装備で、これは結構使い易い。刃と盾が一つになっている攻防一体の武器且つ両腕でそれぞれ持つが故に攻撃と防御の両立がし易く、盾に斬る能力を付加した形なだけあって強度についても申し分ない。逆に言えば主体が盾である為中心部分は厚みがあり、深く斬り裂くには向いていそうにない訳だが…それについては、戦い方次第でどうとでもなるレベルの話。

 

「…良いですね、これ。さっきのみたいな派手さはないですけど、堅実で使い勝手も良さそうです」

「片手で扱えるサイズの盾は、昔から打撃に使われてきた歴史があるからね。だからある意味、通常の盾の延長線上にあると言えるかもしれないかな。…ただ……」

「…ただ?」

「盾に斬撃武器としての要素を加える。それによって起こりうる強度の低下は、霊力による強化で補う。…それではあまりにも普通というか、出来て当然の結果でね…。面白くないんだ、有り体に言ってしまうと」

「は、はぁ…そうですか……」

 

 面白くないも何も、重要なのは実戦でどれだけ役に立つかだろう。…そう思いはしたが、園咲さんが人命を軽視しているとは思えないし、技術開発部の部長という肩書きがある以上、きっと「やりたい事」と「やるべき事」の切り替えは出来ている筈。ならば言う必要もないだろうと俺は待機していた言葉を飲み込み、その武器のテストを暫く続ける。

 斬れ味であったり、取り回しであったりといった細かい性能も検証を行い、それから俺は三つ目の武器へ。途中休憩も入れながら順に武器を試していき、その度に俺は感想を報告。色んな物を試してみるというのは中々どうして面白いもので、段々と俺も気分が乗っていき、後半にはちょっと俺なりの改善案を提案したりもしてみたり。そんなこんなで進めていき……遂に最後の試作品へ。

 

「…えぇ、と……」

 

 一番最後に残った…というか残したのは、グリップも無ければ引き金も無い、銃とダーツを足したような外見の武器(と思われる物)。普通の両手持ちライフルよりも少し小さく、同じ形状の物が十基あるそれも、恐らくは試作品の一つなんだろうが…これはそもそも、一体何なのかすら分からない。…が、それは園咲さんも予想していた事らしく、俺が試作品を数秒程見つめていたところで声が聞こえてくる。

 

「それは遠隔操作端末だよ、悠耶君」

「遠隔操作端末って…SFとかロボット物で時々出てくる、あれですか?」

「そう、あれだよ。霊力配給用の装備はまだ調整中だから、接続部分から一先ず直接霊力を流し込んでくれるかな?」

 

 遠隔操作端末。言われてみればそんな感じっぽい気もするが、それにしたって驚きだ。遠隔操作端末って事はつまり、ラジコンやドローンの様に…或いは無人機の様にして扱うって事なんだから。

 言われた通りに接続部分らしき場所へと手を翳し、そこから普通の武器にやるのと同じイメージで霊力を流す。本来の配給方法じゃないからか、流し込んでいてもちゃんとチャージ出来ているのか、出来ているならどの程度溜まったのかという部分がさっぱりだったが、モニタリングしている園咲さん曰く順調な様子。大分溜まってきたところで俺もそれを感じられるようになり、一つ目が終わったら二つ目へ、それも終わったら三つ目へという作業を経て、全ての端末が充填完了。…しかし、ここからはどうするのだろうか。

 

「充填状態はばっちりだね。ならば後は単純だよ悠耶君。込めた霊力を介して、端末を動かすだけさ」

「か、簡単に言ってくれますね…」

 

 霊力を介して動かすだけ。確かにそこに複雑な順序や準備はないし、そういう意味じゃ至極単純。だがそれは複雑じゃないってだけで、簡単って意味じゃない。というか間違いなく、これは難しい事だろう。

 出来ないとまでは思わない。イメージとしては、茅章がやっていた糸の操作と近いんだと思う。勿論、物理的に繋がっているかどうかという違いはあるが。

 

(…ま、どうせテストなんだ。失敗は失敗でそういうデータになるんだろうし、気楽にやるか……)

 

 この端末群は、何基かが予備という事ではなく、十基全てを運用する想定になっているらしい。だからって十基を同時稼働させるかどうかはその時々の状況や使い手のスタイル次第だが、とにかく今は運用テスト。って訳で俺は十基全部を視界に収め、それ等全てへ意識を送る。

 考えるのは、電波の様に俺の意思を端末へと送り届けるイメージと、それを受けた端末が浮かび上がる光景。ゆっくりと呼吸を繰り返し、心を落ち着けて端末の操作に意識を注ぐ。

 

「……!…お、おぉ……!」

 

 数十秒…いや、もしかすると数分位はしたのだろうか。意識を注ぎ続けた末に、十基中八基が霊力を噴射し浮き上がる。残りの二基も、八基側をおざなりにしないようにしつつ意識を向けていると、多少動きは不安定ながら同じく浮上。十基全てが浮かび上がり、思わず感嘆の声が口から漏れる。

 

「…そこから更に動かせるかい?」

「やってみます…」

 

 指揮をするように両手を前に出し、その状態で動かす事を試す俺。まずは更に上へ、今度は左へ、次は右へ。一つの集団の様に十基の端末を揃って動かし、少しずつその速度を上げていく。

 

「…………」

 

 ただ動かすだけでも、かなりの集中力を要する。少しでも気を抜くと、意識がどれかに偏ると、何基かが落ちてしまいそうになる。

 だがそれは、慣れていないからってのも大きいだろう。例えば自転車は初めて乗る時、誰だって緊張するし集中しなきゃすぐコケそうになるが、慣れてしまえば気を抜いたって、中々クリア出来ないゲームの攻略方法を考えてたって普通に乗りこなす事が出来る。それと同じように、これの操作も繰り返す事で慣れ、感覚的に『覚える』事が出来れば、きっとこの負担は軽減される。…それよりも、問題なのは……

 

(…くっそ…駄目だ、個々で動かすのは難し過ぎる……)

 

 揃って動き、揃って飛ぶ端末。少しずつ動きが滑らかになっていってるような気もするが、今のままじゃ実用的には程遠い。ある程度の範囲に十基全てがあって、全基が同じ動きしかしないのなら、数が全く活きないどころか、むしろ集まってる分相手からすりゃ絶好の的。試しに射撃も行ってみたが、一発一発の威力はあまり高くなく、ぶっちゃけこれなら御道の一斉掃射の方がよっぽど脅威になるだろう。運用する当人とは別の場所から攻撃出来るって点も、この程度なら遠隔操作出来る罠を使うのと大差ない。

 

「……っ、あぁ…!」

 

 それからの数分間はバラバラに動かす努力をしてみたものの、結果は一層疲れただけ。いよいよ揃って動かす事もキツくなってきた俺は軽く呻きながらその場にどかりと座り込み、端末も全て床に降ろす。

 

「大丈夫かい?キツいようなら、テストはこの辺りで……」

「いや…一先ず休憩します…。続けるかどうかは、休憩後の体力次第で……」

 

 園咲さんからの言葉に返しながら、俺は額の汗を拭う。簡単に出来るとは思っちゃいなかったが、ここまで疲れるとも思わなかった。…こりゃ、これを最後に回して正解だったな……。

 

(…つか、考えてみりゃ茅章だって糸は基本束にして、別々に動かす数は減らしてたんだ…強度を上げる為ってのもあるんだろうか、あれは負担を減らす意図もあったんだろうな……)

 

 武器を自在に操り遠隔攻撃を仕掛ける。違いはあれど似たような事なら茅章がやっている訳で、しかも無線な分難度は間違いなくこっちが上。そう考えると、初使用で全部をバラバラに動かそうなんて事自体が、土台無理な話だったのかもしれない。少なくとも、今の俺に十基は無理だ。

 

「すまないね。厄介な代物まてテストさせてしまって」

「や、いいっすよ。確かにこれは厄介な代物ですけど、幾つか面白い物もありましたし」

「…実戦で使ってくれても構わないんだよ?」

「それは遠慮しておきます」

 

 脚を投げ出しぼけーっと座っていると、スピーカーではなく背後から声をかけられる。振り返るとそこには移動してきたらしい園咲さんがいて、手渡される紙コップ。

 

「にしても、驚きだ。私自身含め、これは他にも数名に試してもらったが…君が一番きちんと端末を動かせていた」

「…あれでですか?」

「あれでもだよ。私に至っては、滞空を維持するので精一杯だったからね」

 

 そう言って肩を竦める園咲さんに、お世辞を言っている雰囲気はない。…というか…多分この人は、お世辞なんて言えないんじゃないだろうか。いや、滅茶苦茶失礼な印象だが。

 

「…これ、十基じゃなきゃいけない理由とかはあるんですか?」

「ないよ。けれど一基や二基ならば、銃を構えて直接動く方がよっぽど強いし安定するからね。加えて空間認識は使用者の目に頼っている以上、戦域の外から端末だけを向かわせるなんて芸当も出来ない。ならば数を増やし、一人で多方面からの飽和攻撃を可能とする装備にしようと考えたのだが…やはり、十基は多いのかもしれないな。さて、どうしたものか……」

 

 端末を眺め、胸を乗っけるようにして腕を組む園咲さん。他にも実用性に欠ける試作品はあったが、その中でもこの端末装備は断トツで…けれど彼女の表情に、暗いと感じられるものはない。

 

「…楽しそうですね」

「うん?…あぁ、楽しいよ。どこを改良するか、どんな改善をするべきか、その結果生まれる別の問題があるとしたら、それにはどう対処したらいいか…それを考えている時は、いつだって楽しいものさ。例えるなら……」

「……?」

「…………」

「…園咲さん?」

「…例えるなら、なんだろうね」

「えぇー…それを俺に訊かれても……」

 

 何か出てくるかと思いきや何も出てくる事はなく、それどころか逆に意見を求められて、思わず俺は何とも言えない微妙な気分に。…ほんと読めないというか、色んな意味で独特だな、この人は……。

 

「…まあともかく、私にとってはそれも楽しいんだ。勿論、完成まではまだ遠そうだし大変だろうが…それでも、楽しいものは楽しいのさ」

「…周りにとっては苦行でも、本人にとっては楽しい事。…ありますよね、そういう事って」

 

 ただでも、その気持ちは分かる。何を楽しいと感じるかは人それぞれで、そこに大変かどうかは関係ない。達成感って意味じゃ「大変だからこそ楽しい」ってのもあり得る訳で、園咲さんにとっては装備を開発するのが、その楽しいって事なんだろう。……よし。

 

「今度は半分の五基でやってみます。もう少しそれっぽい動きが出来なきゃ、なんか締まりが悪いですからね」

 

 コップに残った中身を飲み干し、勢いを付けて立ち上がる。五基でもまだ決して楽じゃないが、一基二基じゃあ流石にしょぼいし、一基でのデータ位はもう事前に取っている筈。

 

(直接触れてるか、遠隔操作かの違いはあるが…霊力を操作するって意味じゃ、他の武器と同じなんだ。だったら、根本的な部分は変わらないだろう、よ…ッ!)

 

 それから約数十分間、俺は端末の操作を試し続けた。一基一基を別方向へ、バラバラに動かす事を目指して、五基の端末へと意識を注ぎ続けた。

 その結果、体力が尽きる頃にはそれなりに良い動きをさせられるようになって……などという事はなく、努力の結果は残念ながらちょっぴり加速や旋回が速くなった程度。だがそれでも、園咲さん的には良いデータが取れたらしく……へろへろになるのと引き換えに、俺は園咲さんから多大な感謝を得るのだった。

 

 

 

 

「あ"ー…疲れた、マジ疲れた……」

「お疲れ様。様子からして、本当にくたくたみたいね」

 

 体力切れでテストを終了した後、俺は少しだけ先に終わっていたらしい妃乃と合流した。で、今は帰路に着いている真っ最中。

 

「でも、誰かを手伝ってした疲労は、そんな悪いものでもないでしょ?」

「理由はなんだろうと疲労は疲労だっての…まあ、悪い気分って訳でもないが……」

「素直じゃないわねぇ」

「妃乃には言われたくない…」

 

 集中しっ放しだったからか、首が痛いというか肩が凝るというか、とにかく普通とは違う類いの疲労が俺の身体を襲ってくる。一方妃乃はそんな俺が面白いのか、こっちを見る度にやにやしている。

 

「…そういや、妃乃の方は何の会議してたんだ?」

「ある大規模調査の事よ。…そういえば……」

「…ん?」

「…ううん、何でもないわ。それにどうせ、悠耶は調査なんて興味ないでしょ?」

「内容に寄るな。人里離れてる場所にぽつんと立ってる家とか、繁盛してる感ないのに何故か潰れない店の調査とかか?」

「何よそのバラエティ番組みたいな調査は……富士山の調査よ、富士山の」

 

 日本を代表する山、霊峰富士。まあ当然地質調査とか行方不明者の捜索とかじゃあないだろう、だって霊装者だし。

 

「富士山ねぇ…富士山と言えば、昔宗元さんが富士山にはどうたらこうたら…って言ってたな。ちゃんと聞いてなかったから覚えてないけど」

「お、お祖父様の話はちゃんと聞きなさいよ、失礼ね…」

「いやだって、宗元さん下らねぇ話してくる事も多いんだぜ?…今から思えば、そうやって俺とコミニュケーションを取ってくれてたんだろうが…」

「お祖父様が、下らない話を?…貴方が理解出来なくて、下らない事だと勘違いしてただけなんじゃないの?」

「えー……」

 

 失礼も何も…と思った俺に対し、返ってきたのはそんな訳ないでしょ、と言いたげな妃乃の言葉。そう言う妃乃は、至って真面目な顔をしていて……俺からすれば表面的には俗な宗元さんも、妃乃からは立派な祖父らしい。いやまあ、お祖父『様』なんて言ってるし、妃乃が宗元さんを尊敬している事は前から分かっていた事ではあるが。

 

(歳をとって変わったのか、それとも立場が変えたのか、或いはあの宗元さんも、孫娘の前じゃ見栄を張りたくなるのか…まあ、そこはどうだっていいか)

 

 さっき園咲さんと「何を楽しいと思うかは人それぞれ」…って感じのやり取りをしたが、誰をどう見るかも人それぞれ。特に今回の場合、俺の知る宗元さんと妃乃の知る宗元さんは、何十年もの隔たりがあるんだから、差異があったって何らおかしな事じゃない。それに…宗元さんが尊敬出来る人物だって事は、俺だって知ってるんだから、な。

 

「ま、なんかあったら教えてくれ。調査なんて行く気はねぇが、簡単な手伝い位ならするさ」

「えぇ、何かあったら…ね。…ところで悠耶、装備の件は結局どうなったの?」

「あぁ?だから、試作品のテストを…って、よく考えたらその話、結論らしい結論出してねぇじゃん……」

「うっかりしてるわね、貴方も園咲博士も……」

 

 俺は特に希望がない。緋奈のは色々問題がありそうだ。…この二つの要素がある以上話を進めるも何もって感じではあったが、園咲さんがテストの話を持ち出した事で、有耶無耶になってしまったのは事実。だからって何か困る訳じゃないものの、それでは何とも締まりが悪く……何やってんだかなぁ、と疲れた肩を更に落とす俺だった。

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