双極の理創造   作:シモツキ

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第百七十七話 お返しではなく

 ホワイトデー。特定の男にとっては『お返し』の関係からむず痒く、特定の男になりたくてもなれなかった男にとっては面白くもない、そしてそもそもあんまり興味のない男からすれば至って普通の、三月のある日。そんな日を迎えた今年の俺は……最初のパターンになっていた。

 

(…さて、どうしますかねぇ……)

 

 帰りのHRを終えた放課後。俺はいつものようにクラスメイトと話す綾袮さんを見ながら、あるタイミングを図っていた。

 何のタイミングかと問われれば…それは勿論、先月の…バレンタインのお返しを渡すタイミング。他のクラスメイトから貰った分のお返しはもう渡したけど、綾袮さん…それにラフィーネさんフォリンさんへは、まだ渡していない。いつ渡すのがベストなのか、そのタイミングで迷っている。

 

「無難に家か…?いやでも、家だと二人に渡すタイミングとの兼ね合いもあるし…けど、貰ったのも家なんだよな……」

「世界の中心で良いんじゃないか?」

「俺は愛を叫びたい訳じゃねぇよ……って、急に何!?」

 

 変なアドバイスに呆れながら突っ込…んだところで、遅れて驚きに襲われる俺。せ、千嵜か…びっくりしたぁ……。

 

「いや、お前こそ何だよ…急にぶつくさ言いだして……」

「…ちょっと、綾袮さんに渡すものがあってね…」

「んぁ?ならさっさと渡しゃ…って、あー…。そういう事か……」

 

 急に何なんだと思った俺だけど、どうやら自分で思っていたよりも声量のある独り言になってしまっていた様子。ならば隠しても余計変に思われるだけだろう、と思って俺が答えると、千嵜は返答の途中で何やら表情が変化し、分かる分かる…とばかりに大きく一つ頷いてくる。

 

「その反応…もしや千嵜も?」

「まぁ、な。…別に特別な意図がある訳じゃなく、単にお返しってだけなんだが…それでもこういうのって、タイミングを意識しちまうよなぁ……」

 

 明言はしないものの、立場的には同じであると認識し合った俺達は、はは…と乾いた笑いを漏らす。

 本当に千嵜の言う通りで、あくまで「お返し」として渡すだけなのに、場所やタイミングを意識してしまう。渡す以上は喜んでほしい…って気持ちは勿論あるし、何ならお返しは手作りだけど、別に何か特別な気持ちを伝えたい…とかじゃない。なのに気にしてしまうのは…若いからかなぁ……なんて、ね。

 

「…まぁ、やっぱり家の方がいいか…誰かに見られたら恥ずいし……」

「先回りして靴箱に入れとくとかはどうだ?」

「そんな事するタイプじゃないっての…後、食べ物を靴箱に入れるってどうなのよ……」

 

 ちゃんとした理由半分、取り敢えず先回りにしちゃえという理由半分で学校では渡さない事を決めた俺は、鞄を持って立ち上がる。そして同じく立った千嵜と共に、廊下を通って校舎の外へ。

 

「さっむ…いい加減暖かくなってくんないかねぇ……」

「一昨日は暖かったんだけどねぇ…」

 

 まだ冷たい三月の風に吹かれつつ、千嵜の言葉に同意した俺。それから俺は少しでも暖を取ろうと両手をポケットの中へ突っ込……んだところで、入れていた携帯が振動を起こす。

 

「ん?あ、茅章からだ…」

「なんだ、何か…っと、俺の方にも来たな……」

 

 俺へメッセージを送った後すぐに千嵜の携帯にもメッセージを出したのか、俺達は一度足を止めて内容を確認。

 書かれていたのは、これから時間があれば会いたい…という旨の文章。タイミングからして、会いたいというのは俺達の両方に対してだろう。

 

「…急だね…何かあったのかな」

「さあ?訊きゃいいじゃん」

「んまぁ、それもそうか…」

 

 送られてきたのは昔ながらの手紙ではなく電子メッセージなんだから、気になる事は返信で訊き返せば良いだけ。そんな当たり前の返しを受けた俺が「どうかしたの?」とメッセージを返すと、「出来れば今日の内にしたい事がある」という解答が戻ってくる。

 

「何だろう…急用…?」

「今日の内、って事はそうかもな」

 

 具体的な答えは返ってこなかったものの、具体的じゃないからこそ、何かそれなり以上に意味のある事なのかもしれない。そう思って俺が良いよと返すと、次に返ってきたのは場所の提案。

 

(あの公園か…綾袮さん達へのお返しは夜でも大丈夫、かな…)

 

 ここでいい?…という問いにも肯定を示し、多分似たようなやり取りをしていたであろう千嵜と共に、俺はそのまま指定された公園へと歩き始める。何か結果的に、更にお返しの件を後回しにしてしまったみたいな形となったが…本当に、お返しを先送りにしようとかは思っていない。いや、うん。マジでちゃんとお返しする気はあるし。

 

「…なんか…今年度はちょこちょこ行ってんな……」

「…公園に?」

「公園に」

 

 高校生にもなると、公園に用事が出来る事なんてまず無くなるし、何か別の施設と直結してるタイプでもなきゃ一年に一度行くかどうか…だと思っていたけど、何やら千嵜はちょこちょこ公園に行く機会があったらしい。何故かまでは話す気なさそうだけど。

 というのはまぁさておき、徒歩で俺達が到着したのは前に茅章の話を聞いたあの公園。あれからもう半年以上経ったのか…と思いつつ入って見回すと、茅章はベンチに座っていた。

 

「ごめん、待たせちゃった?」

「ううん、僕もさっき来たところだよ。二人共、来てくれてありがとね」

「まあ、忙しくなかったしな」

 

 俺達の存在に気付くと茅章はすぐに立ち上がりわ俺達も茅章のすぐ側へ。茅章も学校から直で来たのか、今は全員制服姿。

 

「で、したい事って?」

「あ…うん。えっと……」

 

 急ぐ事はないけれど、まだ寒い中外で突っ立ってるだけってのもかなりの苦痛。という訳で早速俺が問い掛けると、茅章は一つ頷き…それから何か言い辛そうな様子を見せる。

 

(…なんだ…?やっぱりちょっと、重い話なのか…?)

 

 急な連絡と、具体的じゃない目的。その二点から俺は、可能性の一つとして「気軽に話せない悩みや問題」である事を考えていて…躊躇うような茅章の姿に、俺の中でその可能性が俄かに膨らむ。

 どうやらそれは千嵜も考えていたらしく、隣を見ればそこにあるのは真剣な顔。なんであろうとまずは聞く…そんな雰囲気を纏った表情。

 そしてそれは、俺だって同じ事。茅章が何か悩んでいるなら放っておけないし、力になりたい。相談する相手として俺達を選んでくれたのなら、その気持ちに応えたい。そんな意思を胸に抱きながら俺達二人が待っていると、意を決したように茅章はこちらを見つめ返し……言った。

 

「あ、あの…もし、嫌じゃなかったら…これ、受け取ってくれないかな……」

『え……?』

 

 恥ずかしそうな声と、緊張の混じった表情。それ等と共に俺達の前へ差し出されたのは、小さな袋に入ったブラウニー。…って、これ…まさか……

 

「その…僕、こういう見た目だからバレンタインには、『可愛いからあげる』って感じにチョコを貰えたりするんだ。で、そのお返しとしてブラウニー作ったんだけど…折角なら、二人にも食べてほしいな…なんて思って……」

『…………』

「だ、だから持ってきたんだけど…や、やっぱり変だよね、ホワイトデーにお返しじゃないお菓子を渡すなんて…二人も、反応に困っちゃう…よね……」

 

 自信がないのか目を逸らし、もじもじと差し出した物の意味を話す茅章。初めはまだ普通だったものの、次第に声が小さくなっていき、どんどん声音も沈んでいく。そうして遂に茅章はしゅんとしてしまい、ブラウニーを持つ手も若干下降。対して俺は…更に恐らくは千嵜も、そんな茅章の言動を見聞きしている間、こう思っていた。

 

(…どうしよう、普通に可愛い……)

 

 何を考えているんだ、という指摘は分かる。その突っ込みは尤もだ。だがしかし、現に茅章は可愛い。可愛いというか、見た目と言動が相乗効果を発揮している事で完全に愛らしい印象になっているのだ。そしてその愛らしさは…誤解を恐れず言えば、女の子のそれと大差ないと思う。

 

「…悠耶、君…?顕人君…?」

「…あ……ご、ごほん。そういう事だったのか…だったら……」

「受け取らない訳には、いかないよね」

 

 大分邪な感情から茅章の呼び掛けで現実へと戻ってきた俺は、千嵜の口にした言葉に首肯。同時に袋を一つ受け取り、茅に感謝の言葉を伝える。

 

「…いいの……?」

「いいも何も、俺達は受け取る側だよ?断る理由なんてあると思う?」

「てか、普通に嬉しいしな。茅章にこういう事してもらえてさ」

 

 不用品回収じゃあるまいし、嫌な訳がないじゃないか。そんな思いで俺が肩を竦め、続けて隣の千嵜が首肯すると、茅章が浮かべたのは安堵の表情。

 

「よ、良かったぁ…。…普通、だよ…?不味くはないけど、特別美味しいって程でもないからね…?」

「普通に美味しきゃそれで良いさ。特別な美味さが分かる程立派な舌は持ってないしな」

「またそういう捻くれた言い方をして…。大丈夫だよ茅章、こういうのはくれるって事自体が嬉しいんだから」

「…御道、味に言及しないってのもそれはそれでどうなんだ…?」

「うっ…ま、まだ食べてないんだから言及はしようがないでしょうが…!」

 

 そこそこ良い事言ったつもりが、千嵜に突っ込まれてしまった俺。平然と返せれば良かったものの、一瞬「そ、それもそうだ…」と思ってしまったせいで言葉に詰まり、結果図星を突かれたみたいに。…むぅ……。

 

「…こほん。じゃあ…って訳じゃないけど、食べてみても良い?それはちょっと…って事なら、家で食べて後日感想を伝えるけど…」

「あ…う、うん。勿論食べてくれていいよ。もうそれは、二人の物だから」

「なら、俺も頂くとするかな」

 

 咳払いで仕切り直した俺は、茅章の了承を得て袋を開き、中の切り分けられたブラウニーの一つを摘まみ上げる。

 ちょっと固い上部に、しっとりしてそうな中身に、ちらほら見えるナッツの欠片。普通なんて言っていたけどベーシックなブラウニーは見るからに美味しそうで、漂ってくる匂いも良さげ。だから何の不安もなく俺はブラウニーを口へと運び…ぱくりと中へ。…ふむ、ふむ、ふむ…これは……。

 

「…うん。やっぱり美味しい」

「だな。特にナッツが主張し過ぎず、けれど埋もれない程度には存在感のあるサイズになっているのが良い」

「そ、そう?ナッツはこれ位かなぁと思ってそのサイズにしたんだけど…そっか、これ位が丁度良かったんだ……」

 

 千嵜から具体的な好評を受けて、茅章は表情を綻ばせる。確かにナッツの大きさは丁度良いし、甘さもくどくないというか、複数食べても全然嫌には思わない感じ。

 一つ目を飲み込んだところで、俺は二つ目のブラウニーを口に。食べている間、茅章はこっちを嬉しそうに見つめていて、まあ嬉しく思っているのならこっちも喜ばしい事ではあるけど…やはり、見られながらというのは少し食べ辛い。

 

「ご馳走様、っと。…けど、悪いな。俺達は何もしてないのに」

「ううん、これは僕がしたくてやった事だもん。それに…何もしてないなんて、そんな事ないよ」

「…そう……?」

「そうだよ。だって二人は、あの日僕の悩みを聞いてくれて、これまで色んな事に僕を誘ってくれて、今僕と何の気兼ねもなく接してくれてるでしょ?…いつもしてもらってるのは僕の方。だからこれは、そのお返しでもあるんだ」

 

 訊き返した俺に茅章はこくんと頷いて、穏やかに言う。普段のお返しが出来て嬉しい、そんな思いが伝わってくる声で、俺達に感謝を伝えてくれる。

 それが、どんなに清らかな事か。清く、優しく、歪みのない茅章の心が、そう言って感謝してくれている。そんなの嬉しいし…こう思うに決まってる。このお礼は、絶対にしなきゃいけない、って。

 

「…なぁ、千嵜」

「ああ、だな。…茅章、何か俺達に出来る事があるか?」

「え…?」

「茅章の気持ちは分かった。そういう事なら、俺達も悪いだなんて思わない。けど…これにお礼をしたいと思うのは、別に良いだろ?」

「勿論、感謝の押し付けはしたくないから、何もなければそれで良いよ。でも困ってる事でも、してほしい事でも、もしも何かあるなら言って。力になるからさ」

「二人共……」

 

 殆どアイコンタクトと表情だけで意思疎通を交わした俺達は、茅章に言う。茅章からの感謝に応えるように、お礼のお礼を申し出る。

 そこに深い理由はない。何かしてもらったらそのお返しをしたくなる。感謝の気持ちを向けられたら、自分も感謝で返したくなる。ただ、それだけの事。

 

「あ、ありがとね二人共。その気持ちは、凄く嬉しいよ。…うん、ほんとに…ほんとに嬉しい……」

「なら良かった。…けど、それを前置きっぽく言うって事は……」

「え、っと…うん…。急にお礼をって言われても、すぐには思い付かないって言うか……」

「あー…うん、そりゃそうだよね…ごめん…」

「あ、け、けど待って…!二人の気持ちを無下にはしたくないから、何かないか今すぐ考えるから…!」

「いや、無理に捻り出さなくてもいいぞ…?てか、それで茅章が悩むんじゃ本末転倒っつーか……」

「大丈夫…!考えれば何かしら出てくるから…!二人にお願いしたい事なら、何かしら…………あ」

『……?』

 

 真面目で優しい性格が災いして、ぱっと思い付かないのなら「じゃあ、何かあったらその時お願いするね」とでも言えばいいところを、真剣に考え悩み出す茅章。いやいやいや…と若干の呆れを抱きながら俺達は止めようとしたものの、何故か発揮される変な意地。それによって茅章の思考は続き…数十秒程したころだろうか。不意に茅章が「あ」と声を上げ、それからこちらをじっと見てくる。

 

「…その…ちょっと変なお願いでも、いいかな…?」

「構わないよ。まあ流石に、不可能な事や非常識な事の場合は要相談になるけど……」

「そ、そういう事じゃないの。ただその…肩を、組んでほしくて……」

『肩を…?』

 

 再びもじもじとしながら茅章が口にしたのは、ちょっと意味が分からないお願い。意図が分からずそのまま俺達が訊き返すと、茅章はそうだと一つ頷く。

 

「ほら、アニメとかドラマとかで、偶に肩を組むシーンってあったりするでしょ?…僕、前からそれに憧れてたっていうか、一度やってみたいと思ってて…でも、それが出来る相手も機会もこれまでなかったから……」

「あぁ…そういう事ね」

「そういう事。…も、勿論嫌なら嫌って言ってくれていいよ?…口にしておいてあれだけど、僕自身肩を組もうとして組むのはちょっと恥ずかしい気がしてるし……」

 

 肩を組む…と言っても幾つかの意味があるけど、茅章が言っているのはテンションが上がってる時にやりたくなるあれ(俺は自分からやった事ないけど)らしい。そして恥ずかしいという言葉の通り、少し茅章は照れた表情を浮かべている。

 まあともかく、それをやってみたいというのが茅章のお願い。茅章自身は、嫌ならそう言ってくれていいと言ったけど……

 

「…じゃ、やろうか千嵜」

「あいよ。てか茅章、こんな事でいいのか?」

「も、勿論。…それに、二人がしてくれるなら…僕にとっては、全然『こんな事』なんかじゃないから」

「そっか。だったら……」

 

 ちらりと目を合わせて頷き合い、俺と千嵜は茅章の左右へ。そしてぴくんと肩を震わせる茅章の姿に頬が緩みそうになるのを感じつつ……茅章の首へ、後ろから腕を回す。

 

「……っ!」

「よ、っと…これでいいんだよね?」

「俺に訊くな。俺だって正しい肩の組み方なんて知らん」

「いや別に正しさを求める訳じゃなくて……茅章?」

 

 茅章は俺達よりも少し背が低い分、若干ながら俺達は前に傾く形となる。更にそのままじゃ茅章越しになってしまうという事で、顔を前に出しつつ千嵜とやり取りを交わしていると…ふと、茅章の顔が目に入る。

 両側から肩を組まれ、挟まれる形となった茅章の表情に映っているのは、緊張の色。それに頬もさっきより赤く……何というか、ガチガチになっている様子。

 

「茅章ー?大丈夫?」

「うぇっ!?あ、うん大丈夫!大丈夫大丈夫っ!」

「いや、ほんとに大丈夫か…?かなり声上擦ってんぞ…?」

「こっ、これはそう!突発性の発作か何かだから!」

『それは普通に大問題じゃ(ない・ねぇの)!?』

 

 わたわたとする茅章の声を千嵜が指摘すると、返ってきたのはかなりヤバげな言葉。…ま、まぁ緊張で変な事を口走っちゃっただけだろうけど…それ位緊張してるってのも決して大丈夫な状態じゃないよね…?

 

(…けど、これはこれで……)

 

 調子が狂ったままの茅章を見ている事で、じわりと胸の中に浮かぶ悪い発想。

 皆さんご存知悪い事はしないこの俺御道顕人だが、時々魔が差してしまう事はある。例えばそう、昨年のコタツの一件の様に、凄く悪い発想が過ってしまう事があるのだ。

 

「……こいつめー」

「ひぁっ!?いや、ちょっ…あきひほくん…?」

 

 つぷり、と茅章の頬をつつく指。それは勿論、俺の人差し指。…何をしてるかって?正直、自分でもよく分からない。

 

「…柔らかそうだな」

「にゅわっ!?ゆぅやくんまれなに…!?」

『……何となく?』

「ふぇええっ!?」

 

 ぐにぐにと何度か頬を指で押していると、今度は逆側の頬が千嵜の餌食に。発想が被ったのか、まさか俺の行動を見てやりたくなったのか、その辺りは定かじゃないけど…そりゃあそうだよなと思う。だって実際、つつきたくなる雰囲気があるし。現に俺もつついてるし。

 

「うぅぅ…ひゃめてよふひゃりともぉ……」

 

 抵抗…のつもりなのか、ぷくっと頬を膨らませる茅章。だが当然それが抵抗になる筈もなく、押す度ぷひゅうと息が抜けていくばかり。

 加虐心を煽るというか、ついつい困らせてしまいたくなるというか。今の茅章はそういう感じに溢れていて、俺も千嵜もつんつんつんつん続けてしまう。

 対して茅章は俺達に挟まれ、腕を回されている事もあって完全にされるがまま。というか頬を膨らませる程度でそもそも抵抗らしい抵抗がなく、してる事といえば顔を真っ赤にしてる程度で……気付けば俺達は、十分位茅章の頬を弄り回していた。

 

「ひぅぅ、酷いよ二人共…まだ頬が変な感じする……」

 

 柔らかな頬をたっぷりとつつき回して満足したからか、ある段階から急激に襲ってきた「何やってんだ俺…」感。その感情に促されるように俺も千嵜も離れると、茅章は照れとか関係なしに赤くなってしまった頬をさすりながら、俺達二人を恨めしそうに見やってくる。…それがまた恐ろしさなんて一切なく、むしろ可愛らしい感じだったんだけど……うむ、不味いな。今日はマジで思考がおかしい。

 

「悪い、流石に少し調子に乗り過ぎた…」

「俺もごめん…なんかちょっと変な思考回路になってた…」

「ほんとだよ…二人じゃなかったら僕、もっと怒ってるんだけどね…?」

『…二人じゃなかったら?』

「あっ…う、うん…。…恥ずかしかったし、なんでつつかれてるのか全然分からなかったけど…別に、嫌な気はしなかったから……」

 

 行為はどうあれ反省しなくては。俺は冷静になった事でそういう思いを抱きつつあったというのに、これまた茅章が口にしたのはいじらしいというか、再び弄りたくなるような言葉。もしや茅章、誘っているのか…?…と一瞬思ってしまう程、無自覚なんだろうけど今のはあざとい。

 

「あー…こほん。茅章」

「な、何?」

「いや、仕切り直し…って訳じゃないけど、俺は一番最初に言うべき言葉を、まだ言ってなかったと思ってさ」

「最初に言うべき言葉…?」

「…そうだな。そういや、俺も言ってなかったわ」

 

 とはいえ、差した魔にいつまでも流される訳にはいかない。咳払いと共に気持ちを切り替えた…いや、魔が差す前へと戻した俺は、改めて茅章に向き直る。

 同様に佇まいを正した千嵜と共に、茅章を見つめる俺達二人。そして茅章がきょとんとする中、俺達は軽く笑みを浮かべて……言った。

 

『ありがと(ね・な)、茅章』

「あ……うんっ!」

 

──ホワイトデー。日本においては、バレンタインにてしてもらった事のお返しをする日であり……そんな日に俺と千嵜は、美味しいブラウニーと優しい思い、それに最高の笑顔を茅章から貰ったのだった。

 

 

 

 

 

 

……え、綾袮さん達へのお返し?それは勿論帰ってからしたよ?ちゃんと一人一人に、感謝の言葉と一緒に渡したよ?…その時の描写?……貰う場面ならともかく…あげる場面、見たい…?

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