双極の理創造   作:シモツキ

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第百七十九話 調査、始動

「──最後にもう一度だけ言っておくわ。いい?普段以上の危険があり、不確定要素も多いのがこの作戦よ。たとえ目的が調査であるとしても、全員気を抜かないように」

 

 双統殿の一角、ホールとなっている場所に集まった無数の霊装者。その前で話を締めたのは、綾袮さんの母親である紗希さん。二大トップの一角である宮空家当主の娘がこうして話の最後を締めている事からも、これから行われる任務の重要性が伝わってくる。

 

(不確定要素、か…普段以上の危険とも繋がってくるけど、山に絶対なんてないもんなぁ……)

 

 紗希さんが言っているのは、そこに住む魔物の事もあるだろうけど、一番はやっぱり『富士山』という場所の事だろう。そう解釈した俺は心の中でうんうんと頷き、解散となった事でふぅ…と姿勢を緩める。…いやあるだろ、例えば『山に酸素が存在している』は絶対だろう?……みたいな捻くれた事は、まあ思い付くけどそういう事じゃないから無視。

 

「さ、わたし達も行こっか」

「うん。って言っても、俺と綾袮は別部隊だよね?」

「でも途中までは一緒でしょ?それとも顕人君、わたしと行動するのは嫌なのかなぁ?」

「い、いやそういう事じゃないけとね…」

 

 今綾袮が言った通り、今回俺は綾袮と一緒じゃない。今回は富士山の内かなりの範囲を調査する関係で人数及び部隊も結構な数となっていて、綾袮は妃乃さんと一緒に全体指揮。だから想定外の何かが起こらない限りは作戦中に綾袮と一緒にいる時間はほぼないだろうし、むしろ一霊装者としてはそっちが普通。

 

「にしても、ほんと普通に呼び捨て出来てるじゃん。こうなると、いよいよ玄関でのあれは何だったのか分からないね」

「それは言わないでよ…俺だってそれは滅茶苦茶しにしてるんだから…」

 

 食わず嫌いならぬ言わず羞恥とでも言うべき、綾袮達へ対する俺の呼び方。もう済んだ話とはいえ、今考えても玄関での俺は情けない。というかなんて事ないと実際に分かった今だからこそ、尚更しょうもなく感じてしまう。

 そしてこの事は、きっと綾袮にとって格好の玩具。何もしなければ今後も今日の事で弄られるだろうし、出来る事ならそれは回避したい。…と思ったところで、俺は見知った人物を発見した。

 

「…あ、上嶋さんだ」

「え、あの上嶋さん?」

「何その反応…またよく分からないボケを…っと」

 

 何気なく俺が声を漏らすと、綾袮は変なボケで返答。それに俺が突っ込んでいると声が聞こえたのか上嶋さんはこちらへと振り向き、目が合った事で俺は会釈。すると上嶋さんは話していた人達と別れ、こちらへとやってきた。

 

「よ、顕人。それに綾袮様も。今回はお前も参加するんだったな」

「あれ、知ってたんですか?」

「そりゃ、一応俺も隊長だからな。お前とは部隊が違うが、名簿で名前を見かけたんだよ」

 

 そう言って肩を竦める上嶋さん。さらりと名簿で見かけた…なんて言った上嶋さんだけど、自分が担当してる訳じゃない部隊にもしっかりと目を通しているのは、中々に立派な事なんじゃないかと思う。……これで偶々俺の名前が目に入ったってだけで、別に他の部隊の人員にも目を通している訳じゃないとかだったら、とんだ思い過ごしだけど。

 

「…って、事は…上嶋さん、今回はどこかの部隊の指揮をするんですか?」

「応よ。…と、言いたいところだが…今回俺は副部隊長ってか補佐役だ。勿論いつもの面子の隊長も兼任してるけどな」

「あ、そうなんですね。…って…それ、中々凄い事では…?」

「だろ?副部隊長の中じゃ、俺が一番若いんだぜ?…まぁ、綾袮様の前じゃ自慢になんてとてもなりゃしねぇけどよ」

「いやいや、十分自慢に思っていい事だよ建さん。わたしなんて宮空家の人間じゃなかったら、ただの美少女霊装者だもん」

「ははっ、そういう発言は反応に困りますぜ綾袮様」

「そう?じゃあ、こういう時の反応の正解を、顕人君どうぞ!」

「え?……わ、謙遜してるようで自画自賛ぱねぇ…とか?」

「よく急に振られて出てきたな顕人…よっぽどそういうやり取りに慣れてるんだな、お前……」

 

 取り敢えず思い付いた返しを口にした結果、上嶋さんから向けられる…何だろう、ちょっとよく形容の出来ない視線。えぇはい、慣れていますとも。似たような台詞を前にも言われた事ありますとも。

 

「にしてもまぁ、やけに久し振りだなぁ…」

「久し振り…えと、会うのがですか?」

「いや、登場が」

「えー……」

「ふっ…主人公にゃ分からないだろうよ。最初はそれなりに登場機会のあるキャラっぽく出てきたのに、案外そうでもなかったんだって分かった時の虚しさはよ……」

「えぇー……」

 

 数十秒前までの、感じの良いお兄さん的な雰囲気は何処へやら。急に哀愁を纏って立ち去っていく上嶋さんは何というかまぁ独特過ぎて、俺は「えー……」とその派生の反応しか返せなかった。

 そしてその後普通に戻ってきて、綾袮へは目上の人に対する挨拶を、俺へは軽い調子で…それ故に気負わずにいられる言葉をかけて、今度こそ上嶋さんは立ち去っていく。…ふざけるところもいつも俺を気に掛けてくれるところも、やはり上嶋さんはブレない。そういうしっかりとした芯が自分の中にある人たからこそ、副部隊長に選ばれたのかもしれない。

 

(あれも強さだよな。綾袮さんに近い、相手をリラックスさせながらも鼓舞する力…上嶋さんは、それを鍛える事で会得したのかな……)

 

 リーダーとしての能力は先天的なものというか、「向いてる人は向いてるし、向いてない人は向いていない」…みたいに思われる事もあるが、そんな事はない。まぁ勿論才能もあるだろうけど、努力や経験だって当然必要。ただ、人間関係の話である以上は日々のコミュニケーションが技能向上に繋がる事もある訳で…何となくだけど、上嶋さんは元から積極的に人と付き合って、人を知る事でリーダーとしての能力を高めてきたんじゃないかと思う。

 

「……?顕人君、ぼーっとしてちゃ駄目だよ?」

「あ…そだね、ごめん」

 

 そんな事を考えていた俺は綾袮が歩き出した事に気付かず、小走りで振り向いた綾袮の下へ。会話しながらホールを出て、そのまま二人で廊下を進む。

 個人としての強さもある。集団でいる事で発揮される力もある。これまで俺は前者の強さを求めてきたけど、刀一郎さんの言う通りなら、後者の才能もきっとある筈。だけどその才能は、伸ばす事で始めて形となるんだから……試して、確かめて、あるなら伸ばしていきたいよな。

 

 

 

 

 車両で双統殿を出発し、富士山を管轄する支部に全員が到着し、そこで最終確認を行って、調査任務は開始となった。

 調査を行うのは、富士山という途方もない程広範囲の土地。その為に数十人の部隊か幾つも編成され…今回俺が属しているのも、その中の一つ。

 

「いやぁ、まさかこんなにも早く二度目の機会がやってくるとはな」

「はは、同感」

 

 周囲に気を配りつつ雪原を歩く中、横から俺へとかけられる声。それは同じ部隊所属の仲間からの言葉であり…その人は、今日が初めましての相手じゃない。

 本当にただの偶然か、それとも気を回してくれたのかは分からないものの、部隊の仲間には先日仲良くなった人達…即ち前の任務で行動を共にした彼等がちらほら編成されていた。おかげで知っている人がいなくて孤立…みたいな心配は最初からなかったし、やはり知っている人がいるというのは心強い。

 

(…いや、やっぱ偶然って事はないか…面子的に、これは多分……)

 

 ぐるりと部隊員を見回せば、若い人…もっと言えば年齢の近そうな人が多い。全員が近い訳じゃなくて、部隊長及び副部隊長は俺より一回り以上の年上だとは思うけど、少なくとも普通の部隊員の編成基準に年齢は入っているんだと思う。

 

「…けど、具体的には何を調査するんだろうな。お前は何か聞いてるか?」

「いや…けど何を探すか全員には伝えず、護衛要員と調査要員に分けてるって事は、かなり重要且つ秘匿にする必要のあるもの…なんじゃない?」

「あー…前に魔人絡みの調査だっけ?…を君の学校でやった時は、全員に情報共有がされてたんだよね?」

「あ、うん。つまり、今回のはそれ以上の事……と、言いたいところだけど…俺の場合実際にその魔人と戦ってるし、それもあって伝えられただけ…って可能性もなくはないかなぁ…」

 

 我ながらほんと、自分の経験は特殊過ぎて当てにならん…と、内心自分自身に呆れる俺。特別である事には前から憧れていたし、実際今も「…うん、でもこういう形で特殊さを感じられるのは悪くないな……」とか思っちゃってる俺だけど、今している話において当てにならないというのは事実。

 実際のところ、何故「何を調査する」という点が話されていないのか。厳密に言えばざっくりとした説明はされているけど、敢えて話していないという感は否めない。

 

「…………」

「…慧瑠?」

 

 話していないのは、きっと何か裏があるから。でも、それなら一体どんな裏があるのか。一旦話が途切れた後も、俺は頭の片隅でそれを考えていて……そこでふと気付く。慧瑠が、何やら神妙な表情をしている事に。

 

「…先輩。ここに来てから、何か感じてたりしないっすか?」

「…何か、って?」

「自分も上手くは表現出来ないっす。ただ、前に来た時よりもその感覚が強くなっているというか、何かがおかしいというか……」

 

 顎に親指と人差し指を当て、そう話す慧瑠は声音も真剣。俺は慧瑠の言う『何か』を全く感じられないというか、前も今もせいぜい「霊峰ってだけあって、なんかパワーを感じる気がするなぁ…」位だけど、慧瑠の言う事だからきっと全くの的外れ…って事はない筈。

 

「…先輩、回れ右して帰る…って事は出来ないっすかね…?」

「…そんなヤバそうなの?」

「いや、さっきも言った通り具体的な事は分からないっす。けど先輩、前回ここで大分無茶したっすから…」

「あー…今回は流石に大丈…夫……」

「歯切れ悪いですね…まぁ、先輩の事なんでそうかもとは思ってたっすけど……」

 

 

 思い返せば…というか今もしっかり覚えているけど、前回俺は戦闘の結果慧瑠に心配をかけてしまった。あの時は「それが先輩という人だから」みたいな感じで納得してくれたけど、だからってもう心配しない…なんて事はないだろうし、俺だって心配はかけないようにしたい。けど、また同じような状況となったら、今度は自分の身を最優先に出来るか…と言えばそれは素直に首肯出来ない訳で……ほんと心配かけてごめん、慧瑠…。

 

「いやいや、それは別にいいっすよ。そもそも自分が勝手に心配しているだけの事を、なんで先輩が謝るんっすか?」

「それは…うん、それはその通りなんだけどね……」

「なのにっすか…やっぱり人間は、魔人なんかよりよっぽど複雑で奥が深いんですねぇ……」

「慧瑠……色々思うところはあるけど、取り敢えずさらりと心を読むのは止めてくれる…?」

 

 頼んだ訳でもない心配について、責任を感じる必要はない。それは分かるし立場が逆なら俺だってそう言ってるとは思うけど、心配をかけている側としてはやっぱり「申し訳ない」と思ってしまうのが人の性。良いとか悪いとかじゃなく、心はそう感じてしまうもので……そこへ聞こえてきたのは、前方を歩く部隊長の声。

 

「……!各員、陣形を維持したまま構えろ。10時の方向から魔物が来る」

 

 聞こえた指示に続くように、ふっと感じる魔物の気配。弾かれるように皆が武器を構えていき、同じように俺も武器を展開。二丁のライフルのグリップを握り、指定された方向へと目を凝らす。

 

(数はそこそこ、速度は……速い…ッ!)

 

 雪を巻き上げながら接近してくるのは、大型肉食獣の様な姿をした魔物の小集団。四本の脚は殆ど雪に取られる事なく、この地に適応している魔物達である事は一目瞭然。

 

「後衛、攻撃開始。前衛はギリギリまで引き付けろ。迎撃を抜けたところを一気に叩く」

『了解!』

 

 一切の返答と共に俺は二門の砲を跳ね上げ、狙い易い位置にいる個体へと狙いを定め、撃ち抜くイメージを込めて砲撃を放つ。

 伸びていく光芒と、周囲からも放たれる光実の弾丸。雪煙が舞い上がり……次の瞬間、その中から次々と魔物が飛び出してくる。

 

「……っ、俺が狙った個体は…って分かるかよ…ッ!」

 

 やはり魔物達は俊敏性が高いらしく、過半数が生き残っている。けれどそれは十分予想出来ていた事で、俺は再び砲撃を敢行。弾幕によって少しずつながら魔物は被弾し、躱している個体も例外なく速度が落ち、相手の数が減った事で逆にこちらの攻撃は密集。幾ら俊敏な魔物達と言えども、集中砲火となってしまえばそう易々と超えられる訳がない。

 

「……今だッ!」

 

 そして生き残った一部の個体が攻撃体勢に移ろうとした瞬間、再び上がる部隊長の指示。その一言で前衛メンバーは次々と雪原を蹴り、手にした武器で容赦なく一撃。この時点で数はこちらが上回っていた為に魔物達は複数の近接攻撃を一度に受ける形となり、対応仕切れずどの個体も絶命。その後ろにいた数体も俺達後衛の砲撃によって逃げる間もなく蜂の巣となり……戦闘終了。

 

「…ふぅ、一体一体はそこそこ強かったのかもしれないけど……」

「ただ突っ込んでくるだけなら、格好の的だよなー」

 

 潜んでいる個体はいないと確認が取れたところで俺が左右のライフルを降ろすと、さっき話していた彼等の一人がうんうんと首肯。

 その通り。今回は相手が魔人レベルの強さじゃなく、真っ直ぐ突進してきただけだったから、余裕で対処する事が出来た。でも、こんな楽なパターンはそんなしょっちゅうない訳で、周りも「今回は運が良かった」と捉えている人が多い様子。この作戦に呼ばれただけあって、やっぱり皆少なからず場慣れはしてるらしい。

 

「…何か、関係があ……思うか?」

「いえ、調…た限り……偶然かと思いま…」

「そうか。ならば…ラン通り進むとし…う」

 

 俺が部隊内を見回している最中、微かに聞こえてきたのは部隊長と調査要員の一人の会話。所々聞こえなかったものの、これ位なら十分想像で補える。

 それから数十秒後、部隊は移動を再開し、その数分後に今度は停止。けれど魔物の接近はなく…危険がないのに止まったのであれば、その理由は一つ。

 

「総員、警戒を厳に。人命優先だが、基本的には魔物の襲撃があろうと調査は続行する」

(つまり、襲われた場合は防衛戦になるって事か…まあ、余程の大群でもない限りそうそうピンチには…って、危なっ!これフラグになるじゃん…!)

 

 部隊長からの言葉に続いて、調査要員は崖下へ。俺含む護衛要員は広がる事で警戒の陣形を取り、周囲の木々へと目を走らせる。

 フラグ…なんて表現をすると気が抜けてるみたいになるけど、別にふざけてる訳じゃない。言霊って考え方もあるし、それ抜きにも油断した思考なんて百害あって一利なしなんだから。

 

「…はー……」

 

 動いている時ならまだしも、止まっていると本当に寒さが身に堪える。それを少しでも紛らわせるべく手袋を取り両手に息を吐きかけていると、再度部隊長から指示が飛ぶ。しかも今度は部隊長も崖下に降りているからか直接ではなく、インカム越し。

 

「……!」

 

 それは、俺が警戒している方向に魔物の存在を感知したという情報と、警戒陣形を維持する為に俺を含む数人で対処せよという命令。その端的な通信を受けた俺は、同じく命令を受けた数人と頷き合い、雪原を蹴って飛び上がる。

 

「君、援護を頼めるかい?斬り込みは俺達がやるからさ」

「了解です。立ち位置は……」

「うーん…まぁ、狙い易い位置で良いよ」

 

 一回り年上っぽい人に援護を頼まれ、俺は首肯。俺が援護を頼まれたのは…まあ十中八九、背中の砲が見るからに火力支援向きだから。

 その人は他のメンバーにも簡単に指示を出し、片手持ちの火器を右手に構える。感知したという魔物の姿はもう見えていて、まだこちらには気付いていない様子。だから俺達は近くの木々へと身を隠し……俺は砲撃準備。

 

(もう少し…もう少し……今だッ!)

 

 基本的に最も攻撃を当て易いのは、不意打ち…つまりはこちらの存在に気付いていない状態の一発目。そしてその一発を確実に当てるべく、俺はタイミングを待ち……狙っていた地点に魔物が移動した瞬間、光芒を放つ。

 

「よしッ!一気に仕留めるぞッ!」

 

 撃ち込んだ二条の内、片方は狙い通りに魔物の胴へと直撃。もう片方も別の魔物の鼻先を掠め、それを合図に味方が突撃。

 突如の砲撃とそれによって仲間が一体やられた事で、慌てふためく魔物。そこを狙って二体目、三体目と続けて撃破に成功し…けれど完全に一方的だったのはその三体目まで。劣勢ながらも魔物達も立て直し、連携しての反撃に転じる。

 

「ちぃ、思ったより手強いじゃない…!」

「こっちも連携を…って、即席でやっても危ないだけか…ッ!」

 

 各個体が付かず離れずの位置を取る事で各個撃破を阻む魔物。砲撃による分断を図るも警戒されているせいか上手くいかず、こっちはちゃんとした連携が出来ない分どうしても魔物に対して攻め切れない。

 

(どうする…何としてもこの面子だけで倒せとは言われてないし、増援を呼ぶか…?…いや……)

 

 増援を呼ぶのは、何も悪い選択じゃない。部隊長も、人命優先と言っていたんだから。…けれどそこで、ふと俺は気付く。間違いなく魔物達は俺の砲撃を警戒しているのに、俺へは仕掛けてこない事に。

 それは、俺を相手にするだけの余裕がないからだろうか。…違うと断定は出来ないけど、砲撃はきっちりと避けている辺り、その可能性は低い。であれば、一番あり得るのは魔物達から『砲撃さえ気を付けておけば後回しで良い』と思われているという可能性。…だったら……

 

「……ッ、ここだぁああああぁぁッ!」

『んなぁ…ッ!?』

 

 撃ち込む砲撃。これまでと同じように、一度攻撃を止めて確実に避ける魔物。そして俺は、砲撃を撃ち込んだその直後に……雪原を蹴る。

 前に跳び、スラスターを点火し、真っ直ぐに突撃を掛ける俺。皆が俺の突然の行動に驚く中、俺は左右の手を前方に広げ、二丁同時に放ち始める。

 

「ちょっ、お前は後衛じゃ……」

「俺が頼まれたのは援護だからねッ!ぅらぁああぁぁぁぁッ!」

「…そういう事か…OK、そのまま頼むよッ!」

 

 味方すらも驚く俺の行動により途切れる、魔物の連携。どうやら思った通り、魔物は俺が動くなんて想定していなかったらしい。

 前の任務で知り合った一人からの言葉に声を返しつつ、俺はフルオート射撃で魔物を追撃。コントロールを失った機体の様にスラスター全開で飛び回りながら乱射する事により陣形の組み直しを阻止し、そこに入るのは仮のリーダーさんによる追い討ち。陣形が崩れ、味方と分断されたところに振り出されたナイフの一撃を魔物は避け切れず、首元を横から斬り裂かれた。

 

「数のゴリ押しなら…得意、なんだよ……ッ!」

 

 引き金は引きっ放し、スラスターも吹かしっ放し。ちゃんと狙っていない為に弾丸は殆ど当たらないものの、分断し続けるだけならそれで十分。

 連携に対して連携を返せないのなら、向こうも連携出来ない状態にしてしまえばいい。それが俺の狙いであり、察してくれた味方が次々と孤立した魔物を倒してくれる事によって、再度流れは俺達の方へ。

 けれど当然、そんなド派手に動けば俺に注意が向かない訳がないし、分断を図ってくる俺をまず処理しようと動く筈。でも裏を返せばそれも皆の援護になる訳で……

 

(何より、そう簡単に近付かせるかよ…ッ!)

 

 とにかく飛んで、とにかく撃って、暴れる様な動きをし続ける。後ろから来る魔物は張り切って、前から来る魔物は射撃で退かして、全力で続行。

 そしてまた飛び込んでくる、一体の魔物。その個体も押し返そうと左のライフルを向け、引き金を引いた……その時だった。

 

「……ッ!?弾切…ぁぐッ!」

 

 銃口より飛び出す弾丸。けれど放たれたのは一発だけで、以降ライフルは完全に沈黙。即座にそれが弾切れであると気付いたものの、その直後に俺は魔物からのタックルを喰らい、雪原へ落下。下が雪であった事、それに最後の一発か魔物に当たった結果突進が微妙に逸れた事で衝撃の割にダメージはなく、その点では助かったけど……俺が立ち上がるよりも早く、俺を組み敷く魔物の前脚。

 

「くッ…けど、俺の…勝ちだぁッ!」

 

 不味い、と思った。ゾッともした。だけど俺の頭は冷静で、恐怖よりも闘志のようなものが燃え上がって、直感的に繰り出したのは前蹴り。雪原を背にしていた俺の蹴りは、魔物を跳ね上がる形となり……仰け反った魔物の腹へと向けて、俺は右のライフルを接射。完全に俺の身体から離れた魔物へと、横から何発もの射撃が襲い掛かり…その魔物が倒れると同時に、雪原へは静寂が戻る。

 

「はぁ…はぁ…ふぅ……」

「大丈夫か!?怪我は!?」

「あ、おう…大丈夫、この通り無傷だよ…っと」

 

 上体を起こし、上がっていた息を整えようとしていたところで掛けられる声。駆け寄ってきた彼に無事を証明すべく立ち上がり見回すと、皆から向けられていたのはグーサイン。

 

「お疲れ、君の機転に助けられたよ。…けど、出来れば一言言ってからにしてくれないかな?」

「で、ですよね…それはすみません……」

「ははっ。まあ何にせよ…撃破完了だ」

 

 にっと笑みを浮かべた一回り年上の彼の言葉に、俺も他の皆も首肯。撃破した事を連絡した後まだ魔物が潜んでいないか確認し、それから俺達は部隊へ戻る。

 

(…実弾火器は、残弾には気を付けなきゃいけない。霊力がたっぷり残っていても、残弾がなきゃ撃てない。…一発残ってたから何とかなったけど…さっきのは、危うかったな……)

 

 それは、当然の事。当たり前にも程がある、常識的な真実。別に俺は忘れていた訳じゃなく……いや、忘れていた。霊力ばかりに意識が向いていて、霊力はまだまだあるから余裕だと思ってしまっていた。

 皆には、よくやってくれたと言われた。やっぱ凄いななんて事も言われたし、それは照れ臭いけど嬉しい。

 だけどまだまだ、改善が必要だ。改善して、隙は無くして、長所は伸ばして……もっと強く、上手くなるんだ。

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