双極の理創造   作:シモツキ

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第百八十二話 再戦の魔人

 表情の変わった綾袮と、支部内放送が告げたのは、部隊の一つが魔人と遭遇したという情報だった。

 支部内放送では、待機中の部隊は再集合の後各部隊長に従えと言っていたけど…俺は部隊へは合流せず、綾袮と共に行動している。

 

「顕人君、確認だけど不調は無いね?疲れてるのを隠していたりもしないね?相手は魔人だよ?」

「大丈夫、嘘は言ってない。見ての通り擦り傷切り傷は幾つかあるし、疲労もそりゃ少しはしてるけど…無理は、してないから」

「…うん、その言葉信じるからね」

 

 俺からの返事にこくりと頷き、綾袮は支部の前から飛び立つ。俺もその後を追い、目的の場所である富士へと飛ぶ。

 今俺がこの作戦で編成されていた部隊ではなく、普段の様に綾袮と動いている理由は二つ。一つ目は魔人の襲撃という緊急且つ危険度の高い事態において、必要となるのは即応力…即ちすぐに救援へ向かえる事であり、その点においては間違いなく俺と綾袮だけで動く方が適している為。そしてもう一つは…その襲撃してきた魔人は、恐らく俺が過去に二度遭遇したあの魔人である為。

 

(ここが奴の根城だったって事か?それともまた何かを探して富士山に…?)

 

 特に何か思い入れがある訳でもなければ、因縁の相手という訳でもない、魔物を使役する魔人。理由が何であろうと、撃破ないし撃退する事には変わりないけど…やっぱり気になる。何故富士山にあの魔人が現れ、部隊に襲撃をかけたのかが。

 

「…顕人君。最優先は襲われてる部隊を守る事だからね。倒せるに越した事はないけど、倒す事が一番の目的じゃない。仮に倒せても、例えば部隊が全滅するような事があったら…そんなのは、最低の結果以外の何物でもないって、わたしは思ってる」

 

 交戦地点へ向かう中、先を飛ぶ綾袮が発した言葉。その言葉に籠っているのは、強い思いと確かな重み。出来るだけじゃない、全員助けるんだという、綾袮の意思。

 それに、どう答えるべきか俺は悩んだ。なんて言葉を返すのが、ベストだろうかと。…けれど、最終的に俺は何も言わず、ただ一つ頷いた。後ろにいる俺の首肯は、綾袮に見える訳がないけど……それでも、伝わったんじゃないかと俺は思う。

 

「……!あそこだよ!先行するから、顕人君は部隊の援護に回ってッ!」

「了解…ッ!」

 

 降りる事なく飛び続け、遂に見えた戦闘の光。それが見えた瞬間綾袮は更に加速し、翼の軌跡を残しながら一気にその地点へ。その速度に追従出来ない俺は焦る事なく速度を維持し、目を凝らしながら砲を前へ。狙うのは…今見えている中で、一番大きな身体を持つ魔物。

 

「まずは、一体…ッ!」

 

 全くこちらに気付いていなかったその魔物は回避行動すら取る事なく、二条の光に貫かれて絶命。それに驚いたに近くの魔物はギロリとこちらを睨み付けてくるが…その隙に襲われた部隊の一人が距離を詰め、近接攻撃でそいつも仕留める。

 

「君は……」

「援護します!弾幕張ればいいですか!?」

「あ、あぁ…感謝する、頼んだぞ!」

 

 これは倒す為の戦いじゃない。襲われた味方を守る為の戦いだ。心の中でそう呟きながら俺は迎撃を行う部隊の上方へと合流し、回答を受けるのとほぼ同時に二丁のライフルで弾を前方へばら撒き始める。…守る為の戦い…一度口にしてみたい言葉だったけど、流石に今は格好付けてる場合じゃないね…ッ!

 

「皆、魔人はわたしに任せて魔物の迎撃に集中!他の増援もすぐにから、それまで持ち堪えてッ!」

「綾袮様…総員、最大の脅威は綾袮様が押さえてくれるッ!若い増援もいるのだ、情けない姿は見せるなよッ!」

 

 蒼の煌めきと共に夜の雪原へと響く、綾袮の凛とした言葉。その声に、続くこの部隊の部隊長の発破に腹の底から出すような返答が上がり、感じる雰囲気がふっと変わる。

 そして、夜闇の中にちらりと見えたのは、見覚えのある魔人の姿。…やはり間違いない。奴は高校の屋上で、あの公園で戦った魔人だ。

 

(…けど、こいつ等…奴が出した魔物だけじゃない、のか……?)

 

 その魔人も当然気になるけれど、今はこの部隊の支援をする事が俺の役目。だから魔物を近付けさせない事、妨害する事を第一に考えた射撃をする中で…すぐに気付く。

 こちらへと仕掛けんとする、無数の魔物達。けれど過半数の魔物は種類毎別々の外見や体色をしているのに、一部の魔物は形こそ違えど、色は決まって全身真っ黒。更に言えば、作りが甘い…というと妙な表現になるけど、全身真っ黒な魔物はそうじゃない魔物に比べると全体的に単純な外見をしていて…その違いから、この場には魔人が出した魔物と、そうではない魔物の二パターンがいる事を俺はうっすら理解した。

 勿論、後者も魔人が引き連れてきた可能性はある。ただでも、別である事を頭に入れておいて損はない。

 

「……ッ、こいつ…ッ!」

 

 小型の魔物は、弾をばら撒くだけでも攻撃を躊躇う。けれど比較的大きい魔物や、硬い外殻を持つ魔物はそうはいかない。今もアリクイとハリネズミを混ぜたような魔物が俺や他の人の射撃を物ともせずに突っ込んできて、その個体は二門同時の砲撃によって倒せたものの…もしこういう攻撃を主体にされたら、硬い魔物が盾となり、その背後に別の魔物達が付く事によって強行突破を仕掛けられたら、恐らくこちらの迎撃態勢は瓦解する。士気こそ綾袮の存在によって向上しているとはいえ…それ程までに、部隊は消耗してしまっている。

 

(どうする…先手を打ってその線を潰しておくか?いやでも、支援する事を考えるなら俺はこの位置にいた方がいい。…というかそもそも、魔物がそういう作戦を取ってくる可能性自体はあるのか…?)

 

 動くべきか、動かないべきか。脳裏に浮かんだ可能性を前に、俺は迷う。魔物はそんな事をしてこない…ような気はするけど、もしも俺の予想が当たっていた場合、そしてその時こちらが何の対策も講じていなかった場合、こちらの被害は恐らく免れない。いや…免れないなんて他人事じゃなく、俺がやられる可能性だって十分ある。

 だが…そもそもこれは、俺一人で考える事だろうか。…答えは否。ここには俺より経験豊富な人が何人もいるんだろうから、意見を仰げば良い。訊かずに俺一人で決める必要なんて、微塵もない。

 そう思って、声を発しようとした俺だけど……次の瞬間、選択を待たずにその問題は解決した。

 

「はぁああぁぁぁぁッ!」

 

 勇ましく覇気ある声と共に、空から飛来する一つの人影。その影は手にした大槍で先の個体と同種の魔物を易々と貫き、魔物の上で大槍を引き抜く。

 それは、妃乃さんだった。一瞬で一体片付けた妃乃さんは息吐く間もなく跳躍によって魔物の群れの奥へと突っ込み、豪快さと繊細さが共存しているかのような槍捌きで次々魔物を斬り伏せていく。

 

「私に構わず撃ちなさいッ!戦意を失わせられれば勝利は確実よッ!」

「りょ、了解!綾袮様だけでなく、妃乃様まで来てくれたのだ、これ以上の被害は一切出すなッ!ここで確実に、凌ぎ切るぞッ!」

 

 当たりはしない、全て避けられる。言外にそんな響きを持たせた妃乃さんの声に弾かれるように、もう一度飛ぶ部隊長の発破。俺もその声に押されるようにして砲撃を放ち、攻撃によって声に応える。

 妃乃さんの存在によって、完全に状況は変わった。魔人が相手でも互角以上に戦える妃乃さんに踏み込まれた事によって魔物側の攻勢は目に見えて削がれ、格段に攻撃がし易くなった。その姿は、正に一騎当千。そして、俺は綾袮と同時に来たから分からないけど…多分綾袮の存在も、魔人を抑え込んでくれている事も、大きく戦況を好転させたんだと思う。

 

「この状況なら、ここで…ッ!」

 

 攻勢を押し留める力に余裕が出来た事を感じた俺は、スラスターを吹かしてその場から上昇。魔物を横から撃つ体勢から、斜め上から撃つ体勢へと移行し、四門全てで一斉掃射。二丁と二門に惜しみなく霊力を注ぎ、その霊力を編んで、射撃及び砲撃として上から全力で叩き込む。

 上からの攻撃は、狙う対象が重ならない分通りは良い。その反面その場に押し留めるにはそこまで向かない位置取りだけど…今ならいける。今なら一気に、俺の全力を撃ち込める…ッ!

 

「持ってき、やがれッ!」

 

 上から叩き付ける俺の面制圧攻撃。攻勢を押し返す部隊の猛攻。そして反撃を許さない、妃乃さんの圧倒的乱舞。上方、前方からは物量で、内側からは格の違う質で責められる魔物の群れは遂に陣形が崩れ去り…集団からただの集まりとなった事で、完全に逆転。然程強くない魔物は次々と撃ち抜かれ、多少強い個体は妃乃さんが纏めて封殺する事により再逆転の芽は潰えていき…恐らく魔人が呼び出したものではない魔物達が逃げ出し始めた事で、勝敗が決する。

 

「や、やった…何とかなった……!」

「どうだ、人の力を思い知ったか魔物共…!」

「やはり、時宮と宮空の血を引く者はレベルが違う…お二人であれば、あの魔人も…!」

 

 次々上がる、歓喜の声。部隊の人達を守り切り、役目を果たせた事で俺も安堵。

 だけどまだ、戦いは終わっていない。通常の魔物は、もう大半が逃げ出しているとはいえ、魔人が呼び出した魔物…それに魔人自身は、まだ残っている。この場における最大の脅威は、未だ健在。

 

「よ、っと。妃乃、来るの遅いよ?」

「悪かったわね、けれどきちんと必要な時には間に合わせた。違う?」

「まーね。…で、どうするの?まだやる?」

「…はっ、あいつ等追っ払って勝利気分か?随分とおめでたい奴等だな」

 

 翼の一振りで減速し、バックステップの様に妃乃さんの側へと降り立つ綾袮。二人は軽く言葉を交わし…それから鋭い視線を、刃を標的である魔人へと向ける。

 対する魔人も両手に靄を揺らめかせ、吐き捨てるようにして綾袮に返答。綾袮も魔人も、その身体に大きな外傷はなく…敵の数は減ったというのに、先程までとまるで変わらない緊張感が周囲に漂う。

 

「いいぜ、そっちこそまだやる気があるなら遊んでやる。歯応えのない奴等を相手にしたって、詰まらねぇだけだしな」

『……!』

 

 にやりと口元に笑みを浮かべ、雪原を蹴って魔人は跳躍。けれど魔人と綾袮達の距離が縮まる事はなく、魔人が跳んだのはその逆側。木々の間へ魔人の姿は消えていき…まるで効果が切れたように、真っ黒だった魔物達も姿が崩れて消えていく。

 

「逃げた…?…いや…誘ってるわね、これは……」

「だよねぇ、うん」

 

 波が引くように消えていき、あっという間に全て消滅してしまう魔物。その頃には通常の魔物の姿もなく、この場に残るのは俺達人だけ。それは、この場における戦闘の決着を意味し……緊張の糸が解けるように、部隊の人達は一人、また一人とほっとした顔で座り込む。

 けれどそんな人達とは対照的に、綾袮達の顔は厳しいまま。一先ず俺も着地し側に寄ると、綾袮は思考に耽っていて……俺が側に来てから数秒後、顔を上げた綾袮は言う。

 

「…妃乃。わたしはあの魔人を追うから、ここを任せても良い?」

「ここを?まあ確かに、消耗具合を考えれば救援部隊が来るまでは……って、は…?今、追うって言った…?」

「うん、言ったよ?」

「…誘ってるって、分かってるのに…?」

「だからこそだよ。わたしが誘いに乗って追えば、追った先にいる戦力はこの部隊や別の部隊じゃなくて、わたしに仕掛けてくれる。そうなれば全部の部隊を守れるし……妃乃だって思ってるでしょ?魔人の襲撃は、きっと偶然なんかじゃないって」

「…綾袮の癖に、随分筋が通った事を言うじゃない…。…だけど、相手の戦力は未知数よ。何か策はあるの?」

「ううん。だから上手い事時間を稼いだ後、隙を見て逃げるよ。それかすぐに妃乃が来てくれたら、どれだけの戦力がいても何とかなると思うんだけどなー」

「うっ……そうやって調子に乗ると、足元掬われるわよ…」

 

 様々な視点や方向から自分の考えを言葉に乗せて、綾袮は妃乃さんを鮮やかに説得。普段とは逆の立場になってしまった事が不服だったのか、妃乃さんは口を軽く尖らせていたけど…発した言葉が反論ではなく忠告だった事が、綾袮の考えを了承したという他でもない証拠。

 確かに綾袮の言う通り、ここで乗れば待機していた戦力をまるっと引き付けておく事が出来る。勿論それは引き付け続けられるだけの力がある場合だけど……綾袮ならば、その点は一切心配ない。

 そうして妃乃さんからの理解を得た綾袮は、退いた魔人を追うべく再び蒼い翼を展開。その翼で飛び上がろうとして…俺は気付く。妃乃さんの視線が、いつの間にか俺へ向いている事に。

 

「…顕人、綾袮をお願い出来る?」

「えっ?」

「あ、綾袮を?…そりゃ、まぁ…付いてくるなって言われない限りは、そのつもりだったけど…」

「ちょ、ちょっと待った妃乃。お願いって…わたしに顕人君を、戦力未知数の場所へ連れて行けって言うの?」

「だからこそ、よ。一人でも味方がいるのといないのとじゃ対応能力が全然違うし、未知数なら尚更援護はあってほしいものでしょ?」

「そ、それはそうだけど…」

「ほら、分かったなら早く行きなさい。正直に待ってくれてる保証なんてないんだから」

 

 さっきのお返しだ、とばかりに同じ表現で妃乃さんに言われ、綾袮は返せる言葉が見つからない様子。更に妃乃さんから急かされると、むむむ…という顔になり…それからはぁ、と息を吐く。

 

「…まぁ、そうだね。顕人君、この追撃はかなり危険だろうし、出来れば残ってほしいけど…付いてくる気はある?」

「…あるよ。さっきも言ったけど…俺は、そのつもりだったから」

「…なら、わたしの指示を第一に動いて。いいね?」

 

 真剣な表情で発された言葉に、俺は真っ直ぐ綾袮を見つめ返して首肯。すると、一瞬だけ綾袮は頬を緩め…改めて飛翔。木々の間を通り抜けるようにして飛び、俺もすぐにその後を追う。

 

「顕人君、顕人君はもう少し高度下げても良いよ。ただでさえどこに何が潜んでるか分からないのに、それを木の枝を避けながら警戒し続けるのは大変でしょ?」

「…綾袮は大丈夫なの?」

「当然。高い所からの視点はわたしに任せてくれていいから、顕人君は無理しないで」

「…分かった、頼むよ」

 

 綾袮からの気遣いに頷き、俺は自分が飛び易い高さまで下がる。お願いされておきながら早速気遣われてしまった俺だけど…実際綾袮の言う通りだし、ここで意地を張ったって何の得にもなりはしない。

 

「(綾袮と違って、そもそも俺に魔人と正面からやり合えるような強さはまだないんだ。だったら、今は少しでも余力を……)──ッ!綾袮!右前方10…いや11時の方向ッ!」

「うん、見えてるよッ!」

 

 高度を下げた数十秒後。突如視界に映った黒い影に俺は声を上げ、綾袮は羽ばたきと共に影が消えた方向へ加速。高度はそのままに俺もそちらへ舵を切ろうとして……次の瞬間、側面から綾袮へ無数の小型の魔物が襲い掛かる。

 

「綾ッ……!」

「大丈夫ッ!それより気を付けて!多分まだ来るよッ!」

 

 反射的に上げた声と、それを言い切るよりも早く発された綾袮の返答。そしてその通り、急制動と素早い斬撃で魔物を凌ぐ綾袮へと、逆方向からも魔物が強襲。どちらの側から襲ってくる魔物も…その姿は、黒い。

 

「させ、るかよ…ッ!」

 

 一度目は真っ先に声を上げてしまったけど、二度も同じ事はしない。逆方向からの攻撃が見えた時点で俺は両脚を前に振り出し、急減速をしながら二丁のライフルで同時射撃。光実それぞれの弾丸を綾袮と魔物の間の空間へと『置く』ように放ち、突っ込んできた魔物を次々と撃ち抜く。

 

「よしッ、次はこれで…ッ!」

「あぁ?それで何すんだ?」

「──ッッ!?」

 

 フルオート射撃で押し留める事に成功した俺は、続けて背中の砲を展開。照射で一気に魔物を薙ぎ払おうとして……次の瞬間、背後から聞き覚えのある声をかけられる。

 反射的に、左へ飛び退きながら振り返る俺。振り返った瞬間、黒い何かが俺の左腕の二の腕を掠め……熱い痛みが、そこに走る。

 

「顕人君ッ!」

「おおっと、まぐれだろうがよく避けたじゃねぇか餓鬼。こりゃ、テメェの方も少し位は楽しませてくれそうだなッ!」

 

  俺と声の主である魔人、それぞれの次の行動よりも早く肉薄をかけた綾袮の、鋭く容赦のない大太刀の一撃。それを靄を纏った両腕で阻んだ魔人は綾袮の刃を押し返し、にやりと口元を歪めて笑う。

 

「どうせ楽しむなら、ゲームとかスポーツとかの方が良いんだけど、なッ!」

「あぁ?ゲーム?スポーツ?なんでテメェのしたい事をオレがしなきゃいけねぇんだ、よッ!」

 

 振るわれる天之尾羽張と魔人の両腕。距離はほぼ変わらないまま互いに仕掛け合い、互いの攻撃を凌ぎ合う。

 単純な手数は、当然魔人の方が上。けれど威力と範囲で上回る綾袮は数で応戦しようとせず、魔人の攻撃を斬撃で捩じ伏せる事によって攻撃自体に迎撃の要素を組み込んでいる。

 それこそ正に、攻撃は最大の防御。圧倒的な実力を持つ、綾袮だからこそ魔人に対しても出来る戦法。

 

「顕人君は周辺警戒お願い!邪魔さえ入らなければ……」

「オレを倒せる、ってか?はっ、いいぜやってみろよ。やれるもんならなぁッ!」

 

 後方へ跳躍…と同時に振るった腕から散弾の如く小型の魔物を放つ魔人。それを綾袮は盾の様に前へと展開した翼で防ぎ、即座に跳んで魔人を追撃。突き出した斬っ先は魔人が身を捻った事で避けられるものの、引っ掛けるようにして放った膝蹴りは魔人を捉え、防御諸共その身を背後の木へと吹き飛ばす。

 当然俺も、それをただ見ているなんて事はしない。飛び上がり、神経を張り詰め、周囲へ視線を走らせて……木の陰から綾袮へ襲い掛かろうとしていた一体の魔物を、光弾で撃ち抜く。

 

「ちッ…邪魔してくれやがってよぉッ!」

「二度目はさせないよッ!」

 

 木を蹴り俺へ突進を掛けてきた魔人を、逆に綾袮が横から突っ込む事で迎撃。蹴られた綾袮は一瞬離れるものの羽ばたきと共に宙返りし、その場で飛翔する斬撃を放つ。

 それを右の拳の一撃で砕き、左の拳で再接近を掛けた綾袮を殴り付けようとする魔人と、空からの踵落としによって打撃同士の衝突を繰り広げる綾袮。数瞬の拮抗の末綾袮が脚を振り抜き魔人の殴打を潰すも、すぐに次なる攻撃が綾袮を襲う。

 

「わたし達を襲ったのは何が目的ッ!?また何か探してる訳ッ!?」

「訊かれて素直に答える馬鹿がどこにいるんだっつのッ!…けどまぁ、一つだけ答えてやってもいいぜ?」

「…一つだけ?」

「テメェ等が気に食わなかった、っつー理由だよッ!」

「くぁっ……!」

 

 天之尾羽張と交差した両腕によるせめぎ合いの中、交わされる問答。その最中、一つだけ答えてもいい、と興味を引くような発言を魔人が口にし…その上で作戦も物理的な損益もあったものじゃない、感情丸出しの理由を口にした事で、魔人は綾袮の意表を突く。

 振るわれた手刀に対する防御の姿勢が間に合わず、天之尾羽張で受ける事は出来たものの跳ね飛ばされてしまう綾袮の身体。けれど幸いにも、綾袮の飛ばされた方向と俺が今いる位置は近く……俺は一気に高度を落とし、綾袮の背後へ滑り込む。

 

「綾袮っ!…と、とっ……!」

「あ、ありがと顕人く……」

「貰ったぁッ!」

「……ッ!顕人君ごめんッ!今度踏んでくれていいからッ!」

「はぁ!?…ごふッ……!」

 

 何とか間に合った俺は、胸と腕で綾袮をキャッチ。けれも息吐く間もなく突如綾袮は訳の分からない事を言い出し…次の瞬間、胸元に走る重い衝撃。綾袮は一気に俺から離れ…その動きを見て気付いた。俺は今、足場にされたんだと。

 

「なッ!?ちぃぃッ!」

「まだまだぁッ!」

 

 味方の俺だって予想だにしなかった行動を魔人が読める筈もなく、綾袮は目を見開く魔人へ正面から肉薄。追撃に対するカウンターを受ける形となった魔人の身体をすれ違いざまに綾袮は斬り付け、反転と同時に着地をすると、更なる攻撃を叩き込む。

 寸前で魔人が身体を晒した結果、斬り付けたと言っても恐らくその傷は深くない。深くないけど一太刀浴びせた事は事実であり、綾袮の攻撃も終わっていない。

 

「……っ…俺、も……ッ!」

 

 足場とされた事で後ろに倒れかけていた俺も、気力と下半身の力をフル稼働する事で何とか踏み留まり、上体を起こすと同時に砲撃。視界の端に見えていた魔物を一門で貫き、更にその後方にいる魔物へ突撃。

 最初に一発受けた左腕は痛む。けれどこの傷はきっと、綾袮が魔人に与えた傷よりも浅い、痛いだけで動かすのには何の支障もない程度の傷。

 

「でゃああぁぁぁぁッ!」

 

 潜んでいたもう一体に射撃をかけるも、その個体はさっきも戦った外殻が硬いタイプの魔物。ライフルの攻撃は効いているのかいないのか分からず、その魔物もこちらへ突っ込んできているが故に砲撃も間に合うかどうか微妙。だけど俺は…だからこそ俺は両手のライフルを共に手放し、純霊力の片手剣と霊力付加型の短刀を同時に抜刀。衝突の瞬間、魔物の顔面に向けて片手剣を突き刺し、その剣も手放す事で魔物の真上を一気に取り、その背へ短刀を突き立てる。

 顔と背中、その二点へ立て続けに刃を突き立てられた魔物は大きく数度痙攣し、そして絶命。流れるような挙動で倒す事が出来た高揚感を抱きつつも、俺は手放した武器の回収に動く。

 

「綾袮!顕人!聞こえる!?追った魔人はどう!?」

 

 いける。綾袮なら魔人にもきっと勝てるし、その戦いへの横槍を防ぐ事なら現在進行形で出来てる。そんな思いが過ぎる中で、インカムから聞こえてきたのは妃乃さんの声。一瞬俺は、多分綾袮も、その通信が「すぐに行けるから、もう少し待っていて」というか旨の連絡じゃないかと期待した。けれど、すぐに気付く。聞こえてくる声にあるのは、そういう良い知らせを伝えるような雰囲気じゃないって。

 

「…こっちは大、丈夫…!それより妃乃、何かあったの…!?」

 

 目まぐるしく立ち位置の変わる攻防戦を繰り広げながら、インカム越しに問い掛ける綾袮。発される答えを無意識的に想像しながら、ライフルを回収し戻る俺。そしてインカムの先、もし何もなければ今も助けた部隊と共にいる筈の妃乃さんは……言った。

 

「えぇ、戦闘中なら答えなくていいから聞いて頂戴。──別の場所にも、魔物の群れが…魔人が、現れたわ」

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