激突して、離れて、またぶつかって、また距離を取って。攻撃して、防御して、放たれる魔物を斬り伏せて、隙を突いて。
戦闘が始まってから、どの位時間が経ったかは分からない。でも、少なくとも…まだ戦いは、続いている。
「でぇえいッ!」
「ちッ…いい加減倒れろってんだよッ!」
低空飛行の突進をかけて、間合いに入る寸前に雪原を踏み込んで、その分の勢いも加算させた斬撃を一発。それに対して靄を纏い、交差させた両腕で防御した魔人は苛立たしそうにわたしへ蹴りを入れてくる。
当たる直前、わたしは天之尾羽張に込める力を抜いて、魔人の腕力を利用する事で蹴りを回避。すぐに翼を突き出して反撃に出るけど、魔人もそれは回避して、即座に掌から羽の付いた野球ボールみたいな魔物を数体打ち出す。
「こういう事も、出来るんだよ…ねッ!」
翼をはためかせて斜め後ろに避けるけど、やっぱり魔物は追ってくる。だからわたしは右脇腹側へと天之尾羽張を引き、魔物を見据えて強く突き出す。
その刺突が伸びるように、刀身から放たれるのは霊力の刃。放った霊力は魔物を纏めて突き崩し、その先にある魔人の方へ…行くけど、残念。靄を纏った手刀に斬られて、本体にダメージは入らない。
「…やっぱり、おかー様とおとー様が倒し損ねただけあって、中々強いね。魔人の中でも結構上位クラスなんじゃない?」
「中々強い…?…その言い方…まさか、最終的には自分が勝てる、とでも思ってるんじゃねぇだろうな…?」
「…だったら、何?」
「テメェも人間にしちゃ中々やる、って事は認めてやるよ。けどなぁ…調子に乗るんじゃねぇよ、人間風情がッ!」
「……ッ!」
斬っ先を向けたまま言葉を返すと、ばっと両手を左右に広げ、怒号と共に次々魔物を出してくる魔人。魔人なんて大概は人を見下してるものだけど、この魔人は特にその意識が強いらしい。だからよっぽどわたしの態度が、これだけ戦ってもわたしを倒せていない事が腹立たしいみたいで、その目には怒りが満ち溢れている。
別に怖くはない。敵意も殺意も慣れっこだし、本当にわたしは勝てると思ってるから。でも、確かに厄介。最終的には勝てると思うけど…多分まだまだ、時間がかかる。わたしも次の救援に向かいたいし、早く顕人君と合流したいのに…それが、遠い。焦らないけど、早くしたいって気持ちになっちゃう。
「そう思うなら、単独でくればいいのにッ!魔物を引き連れて、他の魔人も呼んでおいて、よく言うよッ!」
「っせぇな、テメェがオレに指図すんじゃねぇよッ!それに他の奴等の目的なんざ、知った事かよッ!」
迫る魔物を可能な限り処理しながら、またわたしは距離を詰める。少しでも集中を削ごうと、接近しながら舌戦も仕掛けて…けれど返ってきたのは、後半が少し引っ掛かる言葉。
(…他の奴等の目的なんざ……?)
単純に考えれば、そこから分かるのはこの魔人が他の魔人と仲が良い訳じゃないって事。けど、それだけじゃない。それだけなら、引っ掛からない。
「知った事かって…他の魔人とは仲間じゃないの!?別の目的で動いてる訳!?」
「あぁ!?んな事テメェに……」
どうせまともに答えてくれる訳ないけど、訊くだけなら別に損はしないし、それで何かの拍子に情報を引き出せれば儲け物。そう考えて疑問のままに言葉をぶつけると、案の定魔人は一蹴…するような口振りだったのに、その言葉は一度途切れ……ぐにゃりと口元を歪めて笑う。
「…と、思ったが…いいぜ、教えてやるよ。そんなに訊きてぇならなぁ」
(……っ…!どういう事…?どうして急に心変わりを……)
わたし…というか人を見下す態度は全く変わってないけど、その上でさっきまでなら絶対答えてくれなかった筈。なのに今、答えようとしてるのは明らかに変で…わたしは思った。魔人は味方が来た事に気付いて、わたしの注意を引こうとしてるんじゃないかって。
だけど、そんな気配はない。探知でも感じない。…だから、余計に分からない。
「そうさ、奴等の事を仲間だとは思っちゃいねぇ。協力してやってるが、そんだけの事だ」
「なら、目的は……ッ!」
「さぁな、大方の予想は付いてるが、そこまでは教えてやんねぇよ。ただまぁ、あいつ等からすりゃあ、今の俺の行動は……良い
「……──ッ!!」
不可解さを抱えたまま続く交戦。もう何度目か分からない刃と腕とのせめぎ合いになり、押し合う中で魔人はこれが言いたかったとばかりに最後の最後で声量を上げ……その瞬間、漸く気付いた。この魔人の狙いに。今起こっている、魔物と魔人達の強襲の裏に隠れた真の目的に。
(不味い……ッ!)
「おおっと、どこ行くんだよオイ。オレがテメェを、逃がす訳ねぇだろうがよぉおおおおッ!」
「ぐぅぅ…ッ!」
殆ど反射的にこの場から離脱しようとしたわたしへ、砲弾の様に突っ込んでくる魔人。一瞬意識が戦闘から外れてしまったわたしは対応が遅れ、防御自体は出来たものの大きくそこから跳ね飛ばされる。
わたしを慌てさせる事…それも戦闘を有利に運ばせる為じゃなく、純粋にわたしの精神を苦しめる事。きっとそれが、わたしの問いに答えた理由。上手くいけば情報を…なんて考えていたのに、むしろそれを利用されてしまった。
だけどそんな事は、どうでも良い。もしも、わたしの気付きが真実なら…もうこれ以上、ここで使って良い時間なんて一秒もない。
「邪魔を…するなぁッ!!」
「テメェの方から突っかかってきておいてよく言うぜッ!そんなに邪魔してほしくねぇなら……今ここでやられちまえッ!」
鈍器を振り抜いたような蹴りを寸前で避けて、身を捻りながら天之尾羽張で素早く横薙ぎ。後方宙返りで避けつつ打ち込んできた二発目の蹴りは刀身で受けて、わたしは声を叩き付ける。
焦るな、冷静になれ、判断を誤ればここでやられる。…頭の中では分かっているけど、ちゃんと頭は回っているけど、心が沈静化している訳じゃない。沸騰したように「不味い」って気持ちが湧き上がって、何とかしなきゃって思いで心が焦る。
そう、何とかしなきゃいけない。この場を切り抜けて、恐らく最悪の展開に進みつつある流れを変えなきゃいけない。わたしはそうしなくちゃいけないんだ。手遅れに、なる前に。
*
後一歩という状況は、後少しという認識は、踏ん張る為の気力をくれる。頑張る為の原動力になる。
だけどそれは、現状が決して悪くはない、或いは登り調子の時に起こる事。頑張れば何とかなりそう、何とかなるんだって思える時だから、生まれる力。そして逆に、後一歩、後少しという時に脅威が、強大な壁が現れた場合……生まれる思いは、真逆になる。
「くッ、ぅぅ……!何なんだよ、こいつの能力は…ッ!」
「後少しだったってのに…ッ!」
雪を蹴る音、弾丸を撃つ音、ぶつかり合う音に混じって聞こえてくるのは、歯噛みするような味方の声。少し前までは気力に、士気に満ちていた周りの声は今……重い。
「離れてッ!奴相手に近接格闘は不味い…ッ!」
俺達霊装者側は、確かに魔物を追い詰めつつあった。一定範囲にまで後退させ、一網打尽にする狙いは、決して間違ってるようなものじゃなかった。
けれど一定範囲に集めるという事はつまり、相手の戦力が集中するという事。これまでは向こうも消耗している事、こちらが勢いで勝っていた事から、何とかなっていたけど…その勢いが潰れてしまえば、状況も変わる。
そして、勢いを潰し、状況を変える一手となったのは……間違いなく、魔人の存在。
(物量って意味じゃあっちの魔人の方が危険だったけど…対単体能力で言えば、もしかしたらこいつの方が……!)
追われる味方を助ける為に放つ射撃。それを魔人は大きく上へ跳ぶ事で避け、視線をこちらへ向けてくる。
当然俺は射撃を続行。けれどライフルじゃ魔人の纏う靄を抜けず、隙を突かなきゃライフルでダメージを与えるのは絶望的。ならばと落下してくる魔人へ続けざまに砲撃を撃ち込み、二門同時にぶつけるけど…それも魔人は掌で防御。手で受けた次の瞬間、触れている位置から何割かまでの光芒が消え、その影響で消滅しなかった部分も一気に四散してしまう。
「温い、所詮この程度か」
光芒を消し去った魔人は、詰まらなそうにぽつりと呟く。最大出力ではなかったとはいえ、今のは並の魔物なら一条でも貫ける、高威力の砲撃。それを温いの一言で片付けられれば、焦りが生まれない訳がない。
「だったら…ッ!」
降下してくる魔人から距離を取りつつ霊力剣を拳銃に持ち替えた俺は、ライフルと合わせて同時に連射。光弾実体弾の両方を撃ち込み、動き回る事で奴からの位置も目まぐるしく変える。
ここまで見た限り、触れた物をある程度の範囲まで消滅させるのが奴の能力。何であっても消せるなら、どんな高威力であっても意味はなく…けれど『手で触れた物』を、『一瞬置いて』消す能力だとしたら、手数で攻める攻撃に対しては相性が悪い筈。ライフルはまだしも、拳銃弾なんて魔人に当たったところでどこまでダメージが入るか怪しいけど…少なくともただ砲撃をして消されるだけよりは、よっぽどやるだけの価値がある。
「はぁぁぁぁああああッ!」
「無茶だ顕人ッ!俺達だけで、魔人なんて……!」
「分かってる!けど…やれる事を尽くさなきゃ、どうなったって絶対後悔が残るだろッ!」
案の定靄を纏った腕で阻まれ、防がれてしまう俺の攻撃。聞こえた声は全くもってその通りで、無茶である事も承知だけど…まだ俺は戦える。陣形が崩れ、部隊長とも距離が離れてしまった以上、誰かに託して逃げるって事も出来やしない。…なら、どうする?どうしたら、後悔や悔いが残らない?…そんなの、残った力を振り絞って、出来る事に死力を尽くす以外ありはしない…ッ!
(持ち堪えれば、きっとまた状況は変わる。そうならないなら、俺が変える。たとえ実際には出来なくたって…思いは絶対諦めるもんか…ッ!)
撃って、動いて、動きながら撃って。魔物は他の皆が押さえてくれると信じて、俺は目の前の魔人を撃つ。何としてでも、一秒でも長く、時間を稼ぐ。
その思いで動き続ける中、それまで防御に徹していた…というより淡々と弾丸を処理していた魔人は、不意に前方は軽く跳躍。一度俺の射線から外れ…次の瞬間、一気にこちらへ仕掛けてくる。
「……ッ!」
距離も角度も不規則な斜め前方への跳躍を繰り返す事で、俺の射撃を避けつつ距離を詰めてくる魔人。みるみる内に奴との距離は縮んでいき、思わず後ろへ逃げたくなる。
だけど俺は根性でその場に踏み留まり、両手の火器での迎撃を続行。恐れに耐えて、逃げたい気持ちを堪えて、気取られないよう魔人を引き付け……ここだと思った瞬間、砲を跳ね上げる。
砲撃なら恐らく、能力での防御を図る筈。そうすれば両手が塞がり、一発与えられるかもしれない。願望込みだけど、それでも俺はその可能性を信じて、跳ね上げた砲で撃とうとし……けれど今正に撃つというタイミングで、魔人は跳んだ。斜めではなく前に、俺の真上を飛び越える形で。
「……終わりだ」
「…ぅ…ぁああああああああああッ!!」
真後ろから聞こえる、平坦な声。取られた背後。迫るのは恐らく腕。そしてその手に触れられてしまえば……それで、終わり。
そう思った瞬間、思考が止まった。状況を考える事も、どうすれば良いという思索も、この後起こる事への想像も、全てが止まり……本能的に、身体が動く。
二門の内、左側の砲をパージ。逆に右の砲はそのまま撃って、反動に耐える事はせずターン。右側のみ放った事で、俺の身体は肩口からぐるりと回転し……パージした砲と背後にいた魔人、その両方が視界に映る。
「何……?」
「ああああああぁぁぁぁああぁぁあッ!」
放つ寸前で切り離された砲の内部では霊力が暴走し、爆発の予兆が如く溢れ出す光。けれど砲は爆ぜる事なく…俺の目の前で、その大半が消滅。向こう側の魔人はほんの少しだけど目を見開き……そこは俺は、近距離射撃を叩き込む。
本能的に俺が選んだのは、パージした砲を盾にする事。直感と本能で全てを推測し、計算し、俺から離れた状態の砲へと能力を発動させ……開いた空間へ撃ち込む光弾。叫びのままに力一杯トリガーを引き、流し込む霊力を弾に変えてただただ無心に撃ち続ける。そして……
「ああぁああああ……ぁ……?」
乱射で雪煙が舞い魔人の位置が分からなくなる中、不意にその中から伸びてきた影。それが蹴りであるとわかった時、その脚はもう俺の胸元を捉えていて……俺は背後へ吹き飛ばされる。
「がは…ッ!?ぁ、ぐ……ッ!」
蹴られた衝撃と、吹き飛んだ先の木に打ち付けられた衝撃。前と後ろ、双方からの衝撃で息が詰まり、一瞬遅れて痛みが熱く激しく広がる。
ゼリアさんに斬られた時よりはまだマシ。けれど痛いものは痛いし、肺の中の空気を全部吐き出してしまったせいで身体に力が入らない。そして、雪煙が晴れた先…そこには未だ健在な魔人の姿。
「…今のは驚いた。まさか、反撃を受けるなんて」
「…く、そ……ッ!」
乾坤一擲の、思考を超えた本能の動きすら、魔人に致命傷は、動きを鈍らせるだけのダメージは与えられていない。対して俺は、たった一蹴りでこのざま。多分まだ戦えるけど…受けたダメージの差は歴然。
俺の名を呼ぶ慧瑠の声を耳にしながら、木の幹を支えにして立ち上がる。魔人の瞳は、今も俺を見据えていて…けれどそんな中で、ある声がインカム越しに聞こえてくる。
「顕人君、今どこ!?まだ無事だよね!?無事なんだよね!?」
「…綾、袮……?」
「良かった…くッ……顕人君、どこにいるか分からないけど逃げてッ!出来るなら周りにいる人も連れて、ここから、富士からッ!」
「…何、を……?」
戦闘音と共に聞こえる綾袮の声は、これ以上ない程切羽詰まったような雰囲気。それは恐らく、綾袮が窮地に立たされているからとかではなく……けれど、唐突過ぎて意味が分からない。…逃げる…?それは何から…?どこへ……?
「…先輩、彼女は今何と?」
「…慧瑠…?…逃げろ、って……」
「そうっすか…先輩、自分も同感っす。理由まではよく分からないっすが…どんどんどんどん、計り知れない何かが膨れ上がってきてる感覚があるっす。明らかに、今ここじゃ異常事態が起きてるっすよ、間違いなく…」
別の場所にいて、こっちの戦況なんて分かる筈のない綾袮からの言葉に俺が困惑する中、慧瑠も同じように言う。慧瑠が今の状態になってから初めてと言ってもいい位、神妙且つ厳しい表情で。
全く分からない。慧瑠自身も「理由までは」って言ってるんだから、全くもって理解出来ない。…けど、それを言うのは綾袮と慧瑠。であれば、今は理解出来なくても…説得力は、十分にある。
(…でも、どうすれば良い…皆には説明のしようがないし、何より……)
急ぐでもなく、かといって勿体ぶる様子もなく、ただ淡々と近付いてくる魔人。何とか射撃が出来そうな程度には回復したけど…今射撃だけ出来ても、どうにもならない。
この状態で、魔人を振り切って逃げられるか。…そんなの、間違いなく否だ。それにたとえ、それが出来たとしても、俺は自分だけ逃げるなんて事は出来ない。
勿論、綾袮の名前を出せば分かってくれる可能性はある。けど追い詰められた状態じゃ、ただ綾袮の存在に縋り、事実無根な言葉を発しているだけと取られてしまう可能性もある。つまり、どうするにせよ…このままじゃ、魔人に対して劣勢なこの状況を変化させなきゃ、逃げるのも助けるのも無理。
「…こうなったら、一か八か…幾ら魔人でも、砲の接射を受ければ……」
「…何、言ってるんすか先輩…聞いていなかったんすか!?何かが不味いんっすよ!信じられないかもしれないっすけど、一刻も早く逃げなきゃ何が起こるか分からないんっす!なのに……」
「…信じてる。信じてるさ、慧瑠の言う事なんだから。でも、俺は…自分一人だけ逃げる事なんて出来ない…。そうしたら、もうその時点で俺は…俺じゃなくなる」
「……っ…だからどうして、先輩はそこまで……」
木から離れ、ライフルを持ち上げる俺に、慧瑠は切なそうに言う。慧瑠が言いかけて止めた言葉の先には、何が続くのだろうか。頑固って言葉か、お人好しって言葉か、それともシンプルに馬鹿か。
でも、仮にどれだとしても、それは間違いじゃないし…それで良い。俺は自分の夢に頑固で、理想とする形に合うお人好しで、そんな馬鹿でいられる事が…望みだから。
「…だったら自分は、自分も……」
思いだけじゃ、どうにもならない。普通に戦って勝つだけの力もない以上、この場を乗り切る方法がないか、今ここで俺が使える手札はどれだけあるのか、まずはそれを確かめる必要が俺にはある。
そんな中、慧瑠がぽつりと漏らした言葉。それはどこか、迷いや不安を滲ませているようで……
「……あぁ、もうか」
「…は……?」
それからすぐの事だった。急に足を止め、周囲を見回した魔人が、その言葉の意味も言わずにこの場から離脱したのは。
一瞬呆気に取られ、続いて誰か別の人に標的を変えたんじゃないかと思った俺。けれど違う。そういう訳じゃない。少なくとも、魔人は俺が確認出来る味方を狙うような素振りはなく…そのまま夜闇に消えていく。
「…何、が……?」
「もう…いや、考えてる場合じゃないっす!先輩早くッ!」
「そ、そうだ…けどまずは、援護しないと……ッ!」
何故離脱したのかは分からない。けど戦いそのものが終わった訳じゃないし、綾袮や慧瑠の言っている件もある。まだ今は、じっくり考えられるような時じゃない。
申し訳ない気持ちはある。慧瑠の言う「早く」は、俺に対しての言葉であって、ここにいる霊装者全員への事じゃない。それは分かっているけど…俺の思いは、ずっと同じ。
(ここにいるのは、俺に同調してくれた人達が殆どなんだ。俺の言葉や行動を、良いと思ってくれた人達なんだ。だから最後まで、俺は……ッ!)
気付けば疲労で随分と重くなった身体を動かし、周囲を確認。魔人は去っても魔物は攻撃を続けていて、今のままじゃまだ離脱出来ない。
最後に頼りになるのは気持ちだ。思いだけじゃどうにもならないけど、最後に力となってくれるのは思いだ。だから絶対、俺はこの思いを裏切らない。俺を良いと思ってくれた皆の思いに、背は向けない。そういう事が、そういう人が、俺の望む理想の……
「……え…?」
そう、俺の思いを、信念を胸の中で確認した次の瞬間、巨大な、膨大な……噴火の様な白い光が、遠くの場所で駆け昇る。雪崩の様に、滝の様に、地上から空へと向けて、光の奔流が迸る。
「…なんだ、あれ……」
「……あ、あぁ…まさか、そんな…」
「…慧瑠…?あれについて、何か知って……」
「逃げるっすッ!あれからッ、ここからッ、早くッ!!」
神々しさすらある圧倒的な光の柱に、俺も、味方の霊装者も、魔物も…この場で戦っていた全ての者が動きを止める。唯一、茫然とは違う反応をしていたのは慧瑠で……その慧瑠に何なのか訊こうとした直後、慧瑠は俺の肩を掴む。両肩を掴み、聞いた事もない程の大声で、俺に迫る。
「なっ、き、危険なものなの!?だったら皆……」
「もう呼び掛けてる時間はないっすッ!どうしてもというなら、自分が先輩を無理矢理にでも──」
掴む場所を肩から手首へ変えようとした慧瑠の言葉を遮ったのは、遠くに見えていたのとは違う光。かなり高い場所でも同じような光が昇り、次々とその光の柱が生まれていく。この富士山から、光の奔流が放たれていく。
柱同士が繋がるように、どんどん広がっていく光。その光が迫ってきてから、漸く俺にも理解が出来た。それがどれだけ危険で、常軌を逸したものなのかが。綾袮や慧瑠の言う、逃げなきゃいけないって言葉の意味が。
皆を見捨てるつもりはない。けど反射的に俺はスラスターを全力で吹かし、とにかく空へ飛び上がる。だけど…嗚呼、もう遅い。理解するのには、逃げるのには、あまりにも遅過ぎた。俺が飛び上がった時点で、広がる光は俺達のいる場所へと到達し、そして────。