双極の理創造   作:シモツキ

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第百八十五話 目覚めた時には

 エースと指揮官は、違う存在。あくまで個としての戦果を求められる、卓越した個の強さを持つ者へ送られる称号がエースだとすれば、指揮官に求められるのは組織の戦果。集団を動かし、その集団に属する一人一人の力を引き出し、集団の脳となるのが指揮官の務め。その点で言えば、エースと指揮官は対極の存在で…けれど、両立不可能な概念ではない。

 理由は単純。エースの行為と指揮官の行為は、別カテゴリだから。個として戦果を挙げつつ、集団の長として指揮と判断を行えば、この二つは両立が出来るんだから。それが出来れば苦労しない、どちらも高次元で行うなんて普通は出来ない、となるんだろうけど…論理の上では、それを実現するだけの実力があるなら、両立は現実のものとなる。

 だけどそれには一つ、大きな問題もある。きちんと両立出来るのは、エースとして戦う相手、指揮官として見るべき状況、そのどちらもが「余裕を持って対処出来る」場合であって……同格かそれ以上の個を相手取る必要がある場合、意識の多くを指揮に集中しなければ乗り切れないような場合、その両立は…瓦解する。

 

「いい加減…鬱陶しいのよッ!」

 

 雪を巻き上げるようにしながら、下から上へと向けて一閃。天之瓊矛は私の狙い通りの位置を斬り裂き…けれど寸前で、狙った相手には躱される。

 跳躍によって避けた相手が振るう右腕。その腕は鞭の様に伸びながら迫り、私はそれを蹴り飛ばす。

 

「そう思うのでしたら、戦場に出ない事をお勧めしますよ。出てこなければ何とやら、です」

「はっ、悪いけどやられるのはあんたの方よッ!」

 

 弾いた時点で突き出されていた左の腕。右腕とは対照的に槍の如く突き出されたそれを私はしゃがむ事で回避し、その姿勢から雪原を蹴って前へ飛翔。腕の下を通る形の超低空飛行で、一気に奴との距離を詰める。今なら伸びたままの腕に一撃与えられるかもしれないけど…今は接近する事を優先。

 依然続く富士山での戦闘。自分という戦力をフルに活かす為、私はずっと戦域を渡り歩いてはエースと指揮官、その両方の立場を以てその場の戦況の後押しを行い……そんな中で、私の前に奴が現れた。私にとってはもう、軽い因縁と言っても過言ではない、この魔人が。

 

「全く貴女は大したものです。他の霊装者の数倍、数十倍もの働きをしながら、尚もまだこれだけ動けるとは…」

「ふん、うじゃうじゃ湧いてくる魔物と一々邪魔してくるあんたみたいな奴のせいで、そうぜざるを得ないだけよ…ッ!分かったらさっさと…やられて頂戴ッ!」

「そうはいきませんね、やられてしまっては目的が果たせないのですから…!」

 

 振るった横薙ぎを引き戻し済みの右腕で阻まれ、そこから魔人とせめぎ合う。真正面から力をぶつけつつ、言葉も奴に叩き付けるけど…やっぱり私は、こいつが気に食わない。丁寧過ぎる態度か、変にこっちを認めてくるのが、小馬鹿にされてるみたいで腹が立つ。

 

(まあ、下衆な奴とか傲慢な奴でも腹が立つし、結局は魔人だか腹立ってるってだけだけど…ッ!)

 

 相手は魔人なんだから、腹が立つのは当然の事。加えて今私はこいつに妨害されてる、足止めを食らっている最中な訳で、怒りを抱かない筈がない。

 だけど、物凄く業腹ではあるけれど、奴に魔人としての確かな実力と、魔人の割には比較的慢心せず、時には落ち着いて退く事が出来るだけの慎重な精神がある事も事実。怒りとは別で、しっかりと頭を働かせないと…足元を掬われる。

 

「そもそもッ、何が目的よッ!こんな大所帯を用意して…ッ!」

「残念ながら、それに応える程ワタシは親切でもなければ愚かでもありません。それに、大所帯はお互いでしょう?」

「…まさか……」

「えぇ、そのまさかかもしれません…ねッ!」

 

 押し切れないのならと私は天之瓊矛を回転させ、石突側で棒術の如く攻撃。そこからも天之瓊矛がギリギリ届く距離を保ちながら、流れるような連続攻撃で反撃を封じつつ攻め立てる。

 それから凡そ十分弱。指揮に回れない事はもう仕方ないと一旦諦める事で魔人との戦闘に専念し、今も戦闘は継続中。

 

(ちっ…時間稼ぎを徹底してるわね……)

 

 もう何十手と互いに仕掛け、攻防を繰り広げているけれど、お互い致命傷の数はゼロ。奴が私をここに留め、時間稼ぎに徹しているせいで私側のダメージは殆どないけど、私も奴にずっと大きなダメージを与えられていない。

 いい加減、この状況を打開したい。もし奴等の目的が私の想像してる通りならここで足止めされてる場合じゃないし、このままじゃ全体的な戦況把握もままならない。

 一か八か、一気に勝負をかけてみるか。それかいっそ『突破』ではなく『後退』をして、どこかの部隊と合流してみるか。膠着しつつあるこの場を何とか打開する手段を私の頭が模索し始め、幾つかの案に絞ろうとしたその時……私の背筋に、得体の知れない感覚が走る。

 

「……っ!?」

 

 反射的に天之瓊矛を横薙ぎで振るい、霊力の斬撃を飛ばしながら後ろへと跳ぶ私。な、何よこれ…何かとんでもないものが、押し寄せてきてる…?

 

「おっと……おや?貴女もこれも、感じましたか?」

「…なら、何だってのよ」

「いえ、だから何だという話ではありませんが……さぁ、始まりますよ。大地が、空が、白く輝くその瞬間が」

 

 まだ余裕そうな口振りの魔人を睨め付けると、魔人は軽く肩を竦め…それからサーカスの司会の様に、掌を空へ向けて両腕を広げる。

 あからさまにがら空きな胴。振って当たる間合いじゃないとはいえ、一気に詰める事が出来る距離。だというのにそんな姿勢を取る魔人が不愉快で、でもそれ以上に私の頭を離れないのは例の気配。

 明らかに不味い。危険なんてレベルじゃない。私の神経は、確かにそう叫んでいて……その感覚が更に膨れ上がった、次の瞬間──空へ光が、迸る。

 

「な……ッ!?」

 

 大地を割らんばかりの光の奔流が、宙を駆け抜け夜空の先へ。それはあまりにも強く、あまりにも眩しい光の柱で……神々しいからこそ、恐ろしい。あれは人が…霊装者ですら、生半可な考えで触れて良いようなものじゃない。

 

「…素晴らしい…やはり流石は霊峰、流石は始まりの地であるこの国の象徴たる存在。しかしまさか、ここまでのものだったとは……」

「……あんた…これが、どういうものなのか分かって言ってる訳…!?」

「当然分かっていますとも。…さて、それよりもここは一つ、お互い退くとしようではありませんか。あれに飲まれてしまえば、貴女とて一溜まりもないでしょう?」

「誰があんたの指図なんか…ッ!」

「指図ではなく提案です、ワタシは命が惜しいですからね。無論、今回もまた半端な終わり方、というのは些か思うところがありますが…如何しますか?」

「……ちッ…だったら私はあんたが巻き込まれる事を祈るとするわ。あんたにとってはどれだけ惜しかろうと、私からすれば無価値でしかないんだから」

「賢明な判断です。では、貴女もせいぜいお気を付けて」

 

 二条、三条と空へ昇る光の奔流が増えていく中、私の皮肉を軽く受け流して魔人は消える。私も腹立たしさを心の中に残しながらも、感覚を頼りに光を避けてこの場から離脱。

 範囲の広がる光の奔流。可能性は頭の隅に置いていた、けれどまさかと思っていた、最悪の事態。そしてこれから私がしなきゃいけないのは、離脱と指揮。私は冷静に、迅速に安全な場所まで導かなきゃいけない。まだこの富士山に残っている皆を、この光から守る為に。

 

 

 

 

 目が覚めると、そこは屋内だった。目が覚めた時屋内にいるというのは、当たり前の事だけど…当たり前じゃない時もある。暖かい日に、うっかり木陰で寝てしまったとか、運動会や体育祭で自分が出ていない競技を見ている時、ふと疲れから睡魔に襲われた時とか……或いは、外で気を失った時だとか。

 ただまあ何にせよ、今俺は屋内に…天井がちゃんとある場所にいる。それは、紛れもない事実だ。

 

「…ぅ、ん……?」

 

 身体の節々に痛みを感じながらも、俺はゆっくりと上体を起こす。

 ぐるりと見回す限り、ここは俺の寝室じゃなきゃ家でもない。見たところ、病室から医務室かって感じの場所で……どうして俺は、こんな所で寝ているのだろうか。

 

(…え、っと…俺は確か、富士山での任務に参加してて、何度も戦闘をして、緊急事態が起こって……)

 

 ぼんやりした頭で、記憶の糸を順に辿る。幸い記憶が飛んでるとかじゃないみたいで、頭が回り出すに連れて出来事もはっきりと思い出せるようになる。最後にしようと思った先で魔人に強襲されて、押されて、けど急にその魔人は撤退して……

 

「……っ、そうだ、あの光…!」

「お邪魔しまー……あ、顕人君…!…良かったぁ、目を覚ましたんだね……」

 

 ばっと俺が窓の方へ目をやったのと、部屋の扉が開き、綾袮が入ってきたのはほぼ同時。俺の姿を見た綾袮は、驚きの後安堵したような表情になって、俺の寝ていたベット横の椅子へと腰をかける。

 

「…綾袮、ここって……」

「うん、夏の時にも入院したあそこだよ。それから今日は、あれから二日…じゃ、ないね。顕人君が意識を失ったタイミングが分からないから正確な事は言えないけど、取り敢えずはあれから二日目だよ」

「…なんか、前の時も似たような事を言われた気がする…」

「そういえばそうだね。えっと、その時は…二日弱、だっけ?」

 

 綾袮から場所と時間経過を聞いて、取り敢えずその二つの疑問は解決した。この二点が同じだと、俺には意識を失う程の事があった時、そうなる運命でもあるのか…と一瞬思ってしまうけど、そうなった原因や、身体の状態は全然違う。

 

「…ねぇ、綾袮。調査は……」

「まあまあ焦らないで顕人君、まずは自分の身体を労わる事を考えなくちゃ。蜜柑あるけど、食べる?」

「あ、うん…。…何故に林檎でもバナナでもなく、蜜柑…?」

「いやー、わたしもお見舞いの果物といえばまずそれかなぁと思ったんだけど、蜜柑が美味しそうだったからつい…」

「自分の好みでお見舞いの品を決めないでよ……」

 

 何とも綾袮らしい理由で選ばれた蜜柑だけど、別に俺は蜜柑が嫌いじゃないし、お見舞いの品としてそんな悪い訳でもない。ついでお腹もかなり空いていたから、早速受け取った蜜柑を食べる。

 

「顕人君、どこか身体が痛かったり、ちゃんと動かなかったりするようなところはない?」

「大丈夫だよ綾袮。…いや、まぁ…怪我した所は何ヶ所か痛いけど、それは当たり前の事だし」

「そっか。今回外傷はどれもそんなに酷くないし、どこもきちんと手当て済みだから大丈夫だとは思うけど、何かあったら言ってね」

「分かってるって。…ラフィーネとフォリンは?」

「今は家だよ。でも二人も心配してたし、後で電話してあげて」

 

 やっぱり心配をかけちゃってたかと思いつつ、俺は綾袮の言葉に首肯。一緒に住んでる人が緊急事態で意識を失って、入院してるとなれば誰だって心配するだろうけど…それでも心配をかけたなら、心配してくれたのなら、謝罪と感謝を伝えるのが筋ってもの。慧瑠にもだけど、ちゃんと心配かけた事を謝らないとだな…。

 

「…そうだ、綾袮。この事、うちの両親は知ってる?知ってるなら、両親にも大丈夫だって連絡しないと……」

「あー…っと、うん。その事だけど…結論から言うと、知らないよ」

「って事は、俺の状態を伝えてないの?…そ、そう……」

「ほ、ほら、命に別状はないって事は分かってたし、今回はかなりごたついて……あ」

「…ごたついて…?」

 

 あからさまに「しまった」って感じの表情に変わる綾袮。それだけでも怪しいし、一日以上気を失っていたのに連絡してないっていうのもかなり妙。…綾袮、何か隠してる……?

 

「そのー…え、っと……」

「…………」

「…詳しい話は、顕人君が退院してから…とかじゃ、駄目…?」

「無理に言えとは言わないよ。けど、隠し事をされるのは…あんまり良い気分じゃない」

「だよね…そりゃ、そうだよね……」

 

 じっと見つめる俺の視線に観念したように、でも言い辛そうに綾袮は訊いてくる。

 こういう訊き方をしてくる時点で、気が重くなるような話になる事はほぼ確実。でも何かあるみたいなのに、それが全く分からないというのは居心地が悪いし…誤魔化すんじゃなくて先延ばしにしたって事は、きっと早かれ遅かれいつかは知る事。だったら俺は、今訊きたい。後でじゃなくて、今知りたい。

 

「…顕人君、気を失う前の事、どこまで覚えてる?」

「どこ、っていうか…最後に見たのは、どんどん広がる白い光。あれから逃れようと飛んだんだけど、間に合わなくて…多分そこで、気を失ったんだと思う」

「そう……じゃあ、何から訊きたい?」

「…作戦は、どうなったの?皆は?」

 

 複雑そうな顔をした後、綾袮は椅子に座り直し、俺の目を見つめ返す。それは覚悟を決めたような目でもあって…それ程のものなのかと、ほんの少し怖くなった。

 でも、やっぱり訊くのを止めようとは思わない。だから一番気になる「俺が気を失った後」の事をまず訊いて…綾袮は、答える形で話し出す。

 

「作戦は、中断する事になったよ。顕人君も見たなら分かると思うけど、あんな中じゃ続けられる訳ないし…あの現象が起こった時点で、そのまま続けても無意味になっちゃったからね」

「無意味…?」

「うん、無意味。…あの光に飲み込まれた人達は、顕人君と同じで命に別状はないよ。かなりの人がまだ意識不明だし、無事とはとても言えないけど…」

 

 一つ目の答えの中にあった、「無意味」という気になる表現。でもそれをさらりと流して、綾袮は続ける。本当にさらりと、まるでわざと流したみたいに。

 

「それから、魔物や魔人の事も心配しないで。あんなの、魔人だって逃げざるを得ない位の現象だからね」

「…あ、そうか…だからあの時、魔人は撤退したのか……」

「そうだ、聞いたよ顕人君。幾ら味方を守る為だからって、一人で魔人を引き付けようとしたなんて…もしかして、わたしの胃に穴を開けようとしてる?」

「い、いやそんな事は…。…ごめん、綾袮。後悔はしてないけど、反省はしてる」

「うわ、言い切るね顕人君……でももう、その心配も…」

「…綾袮?」

「あ、う、ううん。とにかく現象自体は収まったけど、普通の神経してる人なら今富士山に入ろうとなんてしないし、顕人君みたいに飲み込まれた人も全員運び出せてるから、調査の事は気に病まなくても大丈夫だよ」

 

 綾袮さんは協会において、立場と実力両方の面で重要な位置にいる人。その綾袮が、こうして普通に俺のお見舞いに来てるって事は…ここまでの話は、俺を安心させる為の嘘とかじゃなく、全部本当なんだろう。

 それは良い。けど、どうも話が明るいというか、安心出来る要素が多過ぎる。勿論、まだ意識不明の人達がいるって事は、明るくも何にもないけど…全体的に見てみれば、話すのを躊躇うような内容だとは思えない。

 

「次は、何を訊きたい?全体的な被害状況?それとも、顕人君が離れた後魔人とどう戦ったか、とか?」

「……綾袮。綾袮は…何を、隠してるの?」

「え……?」

「…流石に、それ位は分かるよ。かれこれもう一年弱、一緒に住んでるんだからさ」

「…………」

「…やっぱり、言い辛い?綾袮の口からは、話し辛い事?」

 

 固まる綾袮へ、俺は静かに言葉を続ける。意識が霊装者としてのものに切り替わっている時の綾袮ならきっと俺を騙し切れるんだろうけど、今の綾袮はただの、一人の女の子。だったら俺も、少し位は分かるし…やっぱり、隠されたくはない。

 だけど同時に、思った。もしかしたら、隠しているのは綾袮にとって凄く辛い事なのかも、と。例えば綾袮にとって親しい相手で、俺にとっても知人である誰かが…命を落とした。そういう話なら、綾袮だって話したくない筈。そう思って、この話を止めにする事も考えて俺が訊くと……綾袮は、ゆっくりと首を横に振る。

 

「……確認するね、顕人君。これは、絶対その内知る事だろうけど…それでも、今聞きたい?」

「…うん」

「多分、冷静に受け止められない話だよ。…今、聞ける?」

 

 もう一段階覚悟を決めたような、綾袮からの質問。それに俺は、一度目は声で、二度目は頷きで肯定を示す。

 俺からの返答を受け取って、数秒黙る綾袮。それから綾袮は、ある物を取り出し…言う。

 

「顕人君、これに霊力流してみてもらえる?」

「へ?…何故に?」

「それは、流してみれば分かるよ」

 

 渡されたのは、一見何の変哲もないナイフ。急な話に俺は戸惑うも、綾袮は取り敢えず流してみてという。

 何だか良く分からないけど、やってみれば分かるというなら、そうするしかない。それに綾袮が何か罠を張ってる訳もないし。という訳で、取り敢えず俺はナイフへと霊力を流し……

 

「……って、あれ?」

 

 試しにやってみようと思ってから十数秒後。俺はこのナイフに対し、ある違和感を抱いた。

 霊力が、入らない。いつもの流れていく感じが、全くない。一瞬、「もしや綾袮が普通のナイフと勘違いを?」…と思ったけど…流石にそれはない、と思う。

 

「どう?」

「ど、どうって…もしかしてこれ、試作のナイフ…?込めるのに特殊な手順が必要だとか、付加能力が相当ないと出来ないタイプだとか……」

「…ううん。それは普通の、一般的に使われてるやつだよ」

「え…?…おかしいな…俺、調子悪いのか…?」

 

 何度も試してみるけど、全く霊力が通る気配がない。いつも通りにやっているつもりなのに、全然上手くいかない。

 

「…顕人君。もしかして、全く霊力が込められない?」

「……うん。ごめん、綾袮。流せなきゃ話が進まないよね…」

「いや、いいんだよ顕人君。…別にこれは、流してどうこうする、って事じゃないから」

「…そうじゃ、ないの……?」

「うん。そういう事じゃなくてこれは、流せるかどうか…霊装者の力が、普通に機能してるかどうかの確認だから」

「……え…?」

 

 自分から話を聞こうとしたのに、これじゃあ格好付かないな…そう思う中で、綾袮の言う予想外の言葉。

 流してどうこうじゃない。流せるかどうか。能力が機能してるかどうか。予想していなかった、想像もしなかった言葉が、次々と綾袮の口から発される。けど、意味が分からない。言葉そのものは分かるけど、綾袮の意図が…何を言いたいのかが、まるで分からない。

 

「…確認だよ、顕人君。霊力が上手く流せない…それか、全然流れない。そういう事で、間違いないね?」

「う、うん…あ、あれかな。自分でも気付いてないだけで、内面的に不調なのかも。それか気を失う前は連戦且つ激戦だったから、その反動って事も……」

「顕人君」

「……っ…!」

 

 おかしい。これまで普通に出来てたのに、富士山でもあれだけやれていたのに、落ち着いている上(気絶とはいえ)一日以上寝ていた後の今、全然全く出来ないなんて。

 でもきっと、些細な理由だ。或いは原因を究明し、ちゃんと休めば何とかなる。そう思う俺の言葉を遮るように、綾袮は俺の名前を呼ぶ。そしてその声に、怖い位に真剣な表情に、俺が声を詰まらせる中……綾袮は、言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いて聞いてね、顕人君。多分それは、調子が悪いとかじゃない。なくなってるんだよ────顕人君の中から、霊装者の力が」

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