幸い…なんてとても言えやしないけど、本当に身体は何ともなかった。普通の人間としての部分は、至って健康な状態だった。だから入院が延びる事はなく、今の俺の状態に関しては嘘の説明を医師の方から改めてされ(といっても、その先生もどこまで本当の事を知っているのかは分からないけど)、要安静と経過観察の旨を伝えられて俺は退院する事となった。
「…ただいま」
「お帰り、顕人」
「お帰りなさい、顕人さん」
家に着き、玄関の扉を開けた俺を迎えてくれたのは、いつも通りの声と言葉。思っていた以上に家を開ける事になって、今の俺を構成する要素が激変してしまったその後でも、二人が…ラフィーネとフォリンが俺にかける「お帰り」の言葉は変わらない。
「…え、と…二人共、お昼は…?」
「いえ、まだですよ」
「ん、だからお腹空いた。ご飯作って」
「え、えぇー……」
これまで通りに迎えてくれた二人だけど、俺の心はこれまで通りとはいかない。だから何か躊躇って、普通に上がれば良いのにその場でお昼の事なんて訊いて…結果、ラフィーネからよく言えば素直な、悪く言えば太々しい言葉が返ってきた。
「あ、あの…一応俺、さっき退院したばかりの人間だよ…?体感的には、やっと家に帰ってきたって感じなんだよ…?」
「うん。わたしも顕人が帰ってくるのは久し振りな感じ。顕人の作ってくれるご飯、何日も食べてない。だから、作って」
「……へい…」
この子に人を労わる心はないのか…と軽くショックを受けながら言葉を返すと、またまたラフィーネはある意味「らしい」発言で返す。
理由(?)を聞いても、やはりラフィーネは太々しい。ラフィーネの隣にいるフォリンも、俺の隣にいる綾袮も苦笑いをしてしまう程に、態度がブレない。でも、そのらしさはどこかほっともするというか、ラフィーネの発言には、「顕人の作ってくれるご飯を食べられるのを楽しみにしてた」という意図も恐らくある訳で……俺は帰ってきて早々に、何だか奇妙な敗北感らしきものも感じる事となるのだった。
「…取り敢えず、荷物置いてくる位の時間は待ってくれるよね…?」
「うん。でも出来るだけ迅速に」
「容赦全然ないなこの子…」
「は、はは…あ、食材なら既に冷蔵庫の中に十分ありますから、そこは大丈夫ですよ」
「ありがとうフォリン…と、思ったけどよく考えたらそれ、さらりと逃げ場潰してるよね……?」
危うく素直に感謝してしまうところだった、と軽く戦慄しながらフォリンを見ると、フォリンがこちらに向けているのはにこーっとした微笑み。…姉も妹も揃って容赦なさ過ぎるでしょうこの姉妹……。
「…………」
「……?どうかしましたか?」
「いや…流石に手伝ってはくれるよね…?」
「それは勿論」
「あ、わたしも手伝うよ。一応顕人君は退院したてだし、さ」
「一応って……」
しっかり退院したてですよー、と思うものの、多分そこを訂正しても意味はない。という事で俺はがっくりと肩を落とし……冷蔵庫の中を確認&調理開始。
(うーん…お昼だし、あんま手の込んだ物を作る気にはなれないから…炒飯にしようかな…)
炒飯なら事前準備も必要ないし、冷凍ご飯があったから炊く必要もなく、ぱぱっと作ってしまいたい今にはぴったりな料理。…と、そこまで考えたところで俺にとって炒飯はもう軽く作れる料理なのか、と気付いてほんの少しだけど苦笑。去年の今頃はまだレシピを見ながらじゃないと恐らく作れなかった事を考えれば、俺も随分と経験値が貯まったものだと思う。
「フォリン、人参とソーセージを小さく切っておいてもらえる?綾袮は切った物を一旦入れとく用のお皿を出して。で、ラフィーネは……え、ラフィーネ?」
「うん、そう」
「ここにいるって事は…手伝ってくれるの…?」
「今日は特別」
「あ、ありがと…(なら手料理は夕飯に回して、お昼は弁当か何かにさせてほしかった…なんて、今は言わなくていいか…)」
いつもは全く手伝ってくれないか、せいぜい配膳をする位の綾袮とラフィーネも手伝ってくれる事により、今日の昼食は四人体制。…まあ、正直言えば若干狭いというか、動き辛いけど…折角の気持ちは無下にしたくない。だから俺は普段なら片手間で、或いは調理後に回すような事も分担する事によって四人で料理を進め…数十分後、食卓に完成した炒飯が並ぶ。
「ありがとう、三人共。おかげでいつもより楽に作れたよ。…一服してからでも良かったなら、もっと楽だっただろうけど……」
「あはは…まあまあ根に持ってるんだね、顕人君……」
「それは今言っても仕方ない事。それより食べよう、顕人」
「そうですよー、顕人さん。では、頂きます」
「あのねぇ……頂きます…」
この二人は俺を怒らせたいのかな、と思う程太々しい態度に、俺は最早軽くげんなり。でもこれが、会えなかった期間の分を取り戻さんとするが為の行為だったら、可愛くも見え……ないわ。やっぱり太々しい態度は太々しいだけだわ…。
「顕人、顕人がいない間にまたわたしはゲームの腕を上げた。だから、後で勝負」
「あ、うん…そりゃ構わないけど…」
「顕人さん、私何作か気になる映画があるんですが、もし知っていたらその中でどれが特にお勧めか教えてもらえますか?」
「それも、構わないけど……」
やっぱちょっと味付けとしては濃いめだったかな、でも俺はこれ位の味付けでも良いんだよな…とか思いつつ俺が食べ進める中、ロサイアーズ姉妹から振られる話。それに答えると今度は二人で話し出し、途中からそこに綾袮も参加。三人で話し、俺は眺めつつも時々口を挟む…という流れが食事の中で展開していく。
「…………」
皆の話を聞いたり、一緒に話したりするのは楽しいし、この雰囲気は疲れる時もあるけど…落ち着く。少し恥ずかしい表現だけど…ここは俺の居場所なんだなって思える。
でも、だからこそ…ずっと違和感があった。ずっと心の中に、引っかかるようなものがあった。それは無視しようにも無視出来ない、忘れようとしても頭と心から離れない程、大きく深いもので……
「……触れないんだね。二人共、今の俺の事に…」
呟くように、半分位は心から直接零れるように、俺は言う。俺は訊く。きっとその胸の内にあるのだろう、二人の真意を聞きたくて。
「あ…っと、そうだ顕人君!顕人君は四月からの準備出来てる?文具とかの買い足しも……」
「顕人は、その話がしたかったの?」
「ちょっ、ラフィーネ…!」
真っ先に反応したのは、二人ではなく綾袮。綾袮は慌てたように話を逸らそうとして…けれどその言葉を、ラフィーネが断ち切る。
更に動揺した様子の綾袮から見られながらも、俺へと真っ直ぐに向いているラフィーネの視線。それを俺は見つめ返し…ゆっくりと、首を横に振った。
「したい訳じゃないよ。したって、辛くなるだけだから。…でも、それとこれとは別の話。二人も、知らない訳じゃないんでしょ?」
「うん、綾袮から聞いてる。顕人が、もう戦えないって事は」
「…………」
もう、戦えない。遠慮も何もないそのままの言葉に、俺は一瞬返す言葉が出てこない。
分かってる。もう理解してる。だけど認めたくない気持ちは、まだあって…それにほんの少しだけど、こうも思った。まだ戦える、霊装者じゃなきゃ何も出来ない訳じゃない…と。実際にはそんなの絵空事で、一個人が霊力無しに戦うなんてほぼほぼ不可能だって事は分かっているのに…それでも俺は、思ってしまう。
「…気、遣ってくれた…?俺が傷付いていると思って、きっと触れられたくないんだろうなと思って、『何事もなかった』…ように振る舞ってくれてる…?」
「…そう、見えましたか?」
「どう、かな…。ただ、気になったんだ…力を失った、もう霊装者じゃない俺に対して…二人が、どう思っているのかが……」
そうして口にしたのは、半ば逸らすような…でも、真剣に思っていた疑問。二人はどうして、いつも通りなのか。それは俺に、気を遣ってくれているからなのか。何より二人は、今の俺をどう見ているのか。…不安そうに綾袮が見つめる中、俺は訊いて……二人は顔を、見合わせる。見合わせ、俺の方へと視線を戻し……言う。
「…別に?」
「へ……?」
「ですね。一言で言ってしまうなら、『別に?』…です」
「え、え……?」
別に何か、特定の言葉を期待していた訳じゃない。だけど、実際に発されたのは全くもって予想外の言葉。別に、もいう素っ気ないにも程がある返しに、思わず俺は呆気に取られ…そんな俺の反応を見てか、フォリンは軽く肩を竦める。
「別に、と言っても、それはどうでも良いだとか、興味がないだとかの意味ではありませんよ。戦う為の力を失ったのですから、当然それは辛いだろう、恐ろしいだろう…と思っています」
「ん、力が無くなるのは怖い。力があっても、守れないものはあるけど…力が無くちゃ、もっと沢山のものが守れない」
「私達の力…というより、霊装者の才能、でしょうか?…がもっと低ければ、どこかの任務で失敗し、始末されてたでしょうからね。…ですから、私達なりに顕人さんの心中を理解してはいるつもりです。それが、正しいかどうかは別として」
「…その上で、『別に』なの…?」
二人も二人で、思うところがあるというのは分かった。そもそも俺は、二人が白状な人間じゃない事はよく知っている。
けどだからこそ、別にの意味が分からない。分からないから、もう一度…今度はもっとはっきりと訊き……
「だって、わたし達にとって顕人が霊装者かどうか、どうでも良い事だから」
「…どう、でもって…幾ら何でも、それは……!」
「…あ、違う。どうでもは良くない。…そうじゃなくて、えっと……」
「…二の次、ですか?」
「そう、二の次。わたしとフォリンを救ってくれたのは、照らしてくれたのは、力じゃなくて顕人の心。きっと顕人なら、霊装者じゃなくても、わたしとフォリンへ同じように接してくれてたってわたしは思ってる。…それが、わたしの気持ち」
言葉選びや話し方が上手い訳じゃない、むしろ要らぬ誤解を招くような…けれど何よりも率直で真っ直ぐな
ラフィーネの言葉が、俺の心へ入り響く。そしてそこに、フォリンも続く。
「…つまり、そういう事です。勿論私も、同じ気持ちです。私達を守り、救い、導いてくれたのは、今も一緒にいさせてほしいと思っているのは、顕人さんなんです。霊装者の、ではなく…今ここにいる顕人さんが、私達には一番大事なんですよ」
「……っ…ラフィーネ…フォリン……」
ラフィーネと比較すると、かなり理路整然とした…けれど同じ位に真っ直ぐだと思える、ラフィーネに続いたフォリンの言葉。
それは、それ等は、心の中で響いて広がる。染み込むように、馴染むように、より深くへ、より奥へと入っていく。
嬉しかった。そこまで俺を、霊装者関係なしに俺そのものを見てくれていた事、見つめていてくれた事が、凄く凄く嬉しかった。暗いばかりだった心の中へ、二筋の光が射したと感じる程に…二人の言葉は、俺の心の内側を包む。
「…ありがとう、二人共。俺を…俺の事を、そうして思ってくれていて」
「うん。でもお礼は必要ない」
「そうですよ、顕人さん。私達は普段通りにしていて、訊かれた事に答えただけなんですから」
そう言って肩を竦める二人を見て、俺は思い出す。あぁそうだ、二人はそういう女の子なんだって。俺が考え過ぎてただけで、二人は何も変わらず俺と接してくれてたんだって。
多分、それで良いんだ。正解とか、間違いとか、そういう話じゃないけど…少なくとも俺は、そう接してほしいと思ってるから。
「…綾袮もさ、出来るならそうしてほしいな」
「え…?そうして、って……」
「綾袮、あれからずっと気を遣ってるでしょ。今日だって、普段より明らかにふざけてないし」
少しだけ心の晴れた俺は、視線を綾袮の方へと向ける。驚いた様子の綾袮に向けて、俺は言葉を続けて言う。
綾袮が俺に遠慮している事、負い目を感じている事は分かっていた。でも俺自身、ただ『気を遣わなくて良い』と言えば良いのかどうか分からなくて…でもやっぱり、今なら言える。そういう気の使われ方は…嬉しくないって。
「勿論、そう言われても…って部分があるだろうし、それは俺も理解してる。けど、やっぱ…綾袮も普段通りでいてくれた方が、嬉しいし落ち着くんだよ」
「……そっか…ごめんね、顕人君…。むしろわたし、顕人君の方にも気を遣わせちゃって…」
「…どうかな、綾袮。少しずつでも、ちょっとでも……」
「…うん、そうだね…顕人君自身がそう言うなら、頑張ってみる。…って、これ…頑張ってみる、で合ってるのかな…?」
「それは……さぁ…?」
負い目のある相手に、悪いと思っている対象に、平然と接するのは難しい事。それは分かってるけど、俺は綾袮にもそうしてほしいと思った。だって、これ以上更に失うのは…皆との関係まで崩れてしまうのは、嫌だから。
そしてそれが伝わった…からかどうかは分からないけど、綾袮は頷いてくれた。それなら多分、大丈夫だろう。大丈夫だろうって、俺は思う。
「…むぅ……」
「…どしたの?ラフィーネ」
「今は絶対、わたしとフォリンの番だった。なのに何故か、最後を綾袮に取られた……」
「えぇ、私も少々不服です」
「えぇー…それに関しては、わたしに振った顕人君に言ってよ……」
話に一区切りがついて、紐が緩むようにして戻る雰囲気。再び話し出す三人を見て、俺は小さく吐息を漏らす。
本当に、本当に嬉しい。二人は勿論だけど、綾袮だって俺を心から大切に思ってくれてる事は、あの時の涙と吐露で分かった。こんな形で三人が俺に向けてる思いの一端を知る事になるなんて、とは思うけど…三人の存在は、今の俺にとって救いだ。…だから、こそ……
(…慧瑠……)
俺の心に浮かぶのは、今ここにはいない彼女。もうどこにもいないのかもしれない、綾袮やラフィーネ、フォリンと同じ位俺が大切に思っていた、守りたかった大事な存在。
ここは、俺にとっての居場所だ。きっと皆も、そう思ってくれている。だけど、それは皆が居て、慧瑠も居て、初めて俺の居場所になるんだ。三人の代わりなんていないように、慧瑠の代わりもいないんだ。今、俺の居場所にはあるべきものがない、ぽっかりと空いたままの状態なんだ。
「…顕人さん?もうお腹一杯なんですか?」
「顕人、お腹空いてなかった?」
「え…?…あ、いや…ううん、食べる食べる」
手が止まっていた事を指摘され、軽く誤魔化しながら残りの炒飯を口へ運ぶ俺。でも、思考は止まらない。
暗く沈んだままの俺の心へ、二人は光を当ててくれた。綾袮を悲しませたくないという思いは、これ以上沈まないよう俺の心を支えてくれている。そんな三人がいるから、救われている部分は確かにある。
でも、全てじゃないんだ。慧瑠の代わりはいないように、力を失った事への悲しみは、思い描いていた未来が消えてしまった事への絶望は、三人の存在じゃ埋まらない。だけど、それでも…俺は生きていかなきゃ、いけないんだ。力のない、ただの人間として…普通に、生きるしかないんだ。
(……そうするしか、ないんだから…畜生…)
暖かい雰囲気。心休まる空間。今の俺を肯定してくれる三人。…その事に、幸せを感じながらも……俺の心の奥底には、暗い闇が残っていた。
*
BORGの本部は、所謂宮殿と呼ばれる類いの外観を有している。当然それが霊装者の施設と一般に周知されている訳ではなく、他国同様大半の国民は霊装者の存在そのものを知らない為、とある法人の有する施設であるというのが一般の認識。
そんな本部の一室、絨毯を始めとするインテリアから気品漂うその部屋では、ある報告が行われていた。
「…との事で、これに関しては調停無しでの早期解決は難しいかと思われます」
「そうか、彼等にも困ったものだね。とはいえこのまま流れに任せても、支部の士気低下は免れない。…ゼリア、君だけで何とか出来るかい?」
「ご命令とあらば」
「流石だ、ゼリア。それじゃあ君に頼むとしよう。僕の名前は好きに出してくれていい」
執務机の前に立ち、淡々と報告を述べるのはゼリア・レイアード。それを受け、背もたれに身体を預けた状態で軽く表情を変えながらも、同じく淡々と返すのはウェイン・アスラリウス。彼等はただ、各々の職務に沿ったやり取りを交わしているだけなのだが…それでもどこか異質な空気感が、その部屋を包む。
「さて…それじゃあこの辺りで、休憩にするとしよう。君もどうだい?」
「では、そうさせて頂きます」
そこから数分後、一度は戻していた背を再び背もたれへと預けてウェインは提案。それにゼリアは応じるが…だからと言って早速休む訳ではなく、彼女はタブレット端末の代わりにティーポットを手に取り、二人分の紅茶を淹れる。
「悪いね、ゼリア」
「いえ、貴方に任せるより、自分で淹れた方が美味しいので」
「はは、確かにそれはそうだ」
さらりと返された言葉にウェインは軽く笑いつつ、静かに紅茶を淹れる彼女を、秘書であると同時に彼が何よりも信頼するゼリアの事を目を細めて眺める。
ともすれば…いや普通に考えれば、今の発言は失礼に当たる。しかしそれについてウェインは咎める様子もなく、ゼリアもゼリアでさも当然とばかりの表情。それは、彼等の関係性の一端か垣間見えた瞬間であり…しかし同時に、全体からすればほんの一部の面でしかない。
そうして二つのカップに注がれた紅茶。その内一つへ、ゼリアはたっぷりと砂糖を入れ…入れていない方のカップを、ウェインへと渡す。
「…相変わらず、沢山入れるね」
「えぇ、そのままでは苦いですから。私からすれば、これを素のままで飲む人間の方が理解出来ません」
「紅茶は、そういうものなんだけどね…」
再びさらりと言うゼリアに、今度こそウェインは苦笑い。見た目こそ妙齢の、大人の雰囲気漂う美女と言うべき彼女ながら、その実何かとズレているのが彼女というもの。だがそれも悪くない、とウェインは思いつつ…ふと思い出したように、一口飲んだ後に言う。
「そうだ、さっき訊き忘れた事だけど…富士の件は結局何か分かったかい?」
「その件はまだ調査中です。ですが……」
「ですか?」
「…恐らく、アレで合っているかと」
「…そうか…」
一拍置き、常人であればそれだけで気を張ってしまうような視線をウェインへと向けるゼリア。彼女からの言葉を受けたウェインは、ゆっくりとカップをソーサーに置き…ほんのりと、笑う。
紅茶の心地良い香りと共に漂うのは、具体的に何かが変わった訳ではない、しかしその前後を比較すれば多くの者が「異質になった」と答えるような雰囲気。その雰囲気の中、ゼリアは続ける。
「それと…御道顕人が、その際行われていた作戦に参加していたとの事です」
「…彼が?なら、まさか……」
「そこについてもまだ不明ですが…可能性は、あるかと思います」
「…………」
「…気になりますか?彼が」
「…どうだろうね。けど…うん。確かにこれは、気になるというのかもしれない」
「……物好きですね」
「君には言われたくないな」
御道顕人。その名前を聞いた瞬間、ウェインはぴくりと眉を動かし…それからまた、笑みを浮かべた。
それが『気になる』という事に対してなのか、それともゼリアに「物好き」と言われたからなのか、はてまた別の理由があるのか…その真意は、ゼリアにすらも分からない。