詳しい事は知らない…というか聞いていないが、今回の富士山での調査作戦は失敗寄りの一時中止となったらしい。理由は単純に、継続不能且つ仮に出来ても危険過ぎるから、との事。
って訳で、妃乃が家に帰ってきた。それはもう、疲れた様子で。
「…おはよ……」
「おはようさん」
ヤバいもうすぐ三月が終わる、これじゃあ春休みももうすぐ終わっちまうじゃねぇか…とテンションが下がり始めた三月末の朝。珍しく寝坊した妃乃が、まだ眠そうな顔でリビングへと入ってきた。
一時中止となった事で帰ってきた…と言っても、その日中に戻ってきた訳じゃない。時宮の人間として、作戦においても重要な立場に就いていた一人として中止後も色々とやる事があったらしい妃乃が帰ってきたのは、それから数日後であるつい昨日の事。…一応、もう少し早く…というか一旦帰ってくる事も出来たらしいが、そこはやはり真面目且つ責任感の強い妃乃。ひと段落付くまで、自分のやるべき範囲を処理し切るまでは手を抜けないというスタンスで、かなり頑張っていたんだとか(因みにそれは、つい先日電話番号を知る中となった妃乃の母親、由美乃さんから聞いた)。
(…ま、そら寝坊もするわな……)
俺はそういう役職や立場になった事なんてないから分からないが、大問題が起こった作戦の後処理なんて間違いなく大変だろう。作戦自体も大変だった、しかも聞くところによると魔人との戦闘すらあったらしい作戦の後にその後処理もやって、尚且つそこでの妥協を自ら許さなかったとなれば…疲労困憊にならなきゃ、むしろおかしい。
そんな妃乃は今、冷めてしまった朝食を温め、もぐもぐと一人で食べている。…まだちょっと眠そうだし、うっかり白米にソースをかけたり、赤ちゃんみたいに食べながら寝たりしないだろうか。…したら面白いなぁ……。
「…昨日、聞きそびれたけど…私がいない間、何かあった?」
「いいや。強いて言えば、妃乃の母親が来た事と、その際携帯で父親と話した事位だな」
「それはお母様から聞いたわ。…やけに貴方の事を気に入ってたみたいなんだけど、何かした…?」
「い、いや…特には……」
一度箸を持つ手を止め、ソファに座っている俺の方を見てくる妃乃。…ま、まぁ…思い当たる節もあるっちゃあるというか、夫の恭士さんとの会話中、アウトにも程がある発言を由美乃さんはしていたが…これに関しては、絶対黙っておくべきだろう。俺と妃乃の今後の為にも、時宮家の平穏の為にも。
「…今日は一日休みなんだよな。明日とか明後日はどうなんだ?」
「明日も明後日も休みよ。というか、ちゃんと休めってお父様に注意されたわ…」
「当然だな。今日は昼と夜も俺が食事作るから、ゆっくりしてろ」
「…悪いわね、気を遣わせて」
「疲れてる妃乃に料理をさせて、変な物が混入したりするのは勘弁だからな。靴下とか」
「それコントじゃないのよ!幾ら疲れてたってそんな事はしないわよ!?」
ちょっと捻くれた返しにボケを混ぜると、返ってきたのは一切疲れを感じさせないような鋭い突っ込み。これも条件反射の一種だろうか…。
「ったく、失礼しちゃうわ…気遣う気があるなら、こういうしょうもない事で体力使わせないでよね」
「いやでも言うだろ?変に神経質になってまで身体を休めるより、普段通りに生活するのが一番だって」
「いや貴方、絶対そういう考えの下では言ってないでしょ…後間違ってはいないと思うけど、それ実際に誰かが言ってた言葉…?」
「さあ?」
「あのねぇ……」
訝しげに見てくる妃乃にさらりと返すと、妃乃はがっくりと肩を落とす。…本当に面倒なら無視して黙々と食べりゃいいのに、そうしないとこがほんと律儀だよなぁ…。
「…ご馳走様」
「お粗末さん。俺が洗うか?」
「それ位は流石にやるわ。さっきの発言じゃないけど、そこまでやってもらうと逆に違和感あるし」
「…ま、そもそも自分の分の食器洗うのは、そんな負担でもないか」
そういう事、と言葉を返し、妃乃は食べ終わった食器を持っていく。その時にはもう目も完全に覚めていたようで、リビングに来た時点のふわっとさはない。
「…で、貴方はさっきから何をやってるのよ」
「気になる料理のレシピ物色だ。便利なもんだよな、検索すりゃ色んなレシピを知られるんだからよ」
「ふぅん、女子力高そうな事してるわね。因みに何の料理?」
「漫画やアニメでよくあるタイプの骨付き肉」
「前言撤回、思いっ切り男の子の発想だったわ…」
男なら一度は食べてみたい、かぶりついてみたいあのタイプの骨付き肉。そういや実際に作ってみた、って偶にテレビとかネットで見るけど、具体的にはどう作ってんのかな…と思ったのがつい数十分後前の事で、会話をしつつちょこちょこ俺は携帯の画面に目をやっていた。
因みに知ってる人も多いと思うが、再現の場合実際には動物から切り出した肉をそのまま焼いてるんじゃなく、骨を両端に用意した状態で肉タネをそれっぽい形に固めて豚肉やら何やらで巻く…って形が殆どらしい。…見た目だけでも再現してる人は凄いと思うが…ちょっと残念だよな、それだと。
「いつか作ってみたいけど、普通の日に作っても途中で面倒臭くなりそうなんだよな…」
「あそう…なら、バーベキューの機会でもあった時にやればいいんじゃない…?」
「バーベキューか…そういや、去年の夏やったなぁ……」
思い返せばあれはもう半年以上前の事。もうそんなに経ったのか、と思うと何となくしみじみとした気持ちが胸中に漂い…同時に思う。その前も、それ以降も、ほんと今年度は色々な事があったな、と。
…とまぁ、そんな事を考えていた俺だが…ふと視線を向けてみると、いつの間にか妃乃は神妙な顔。
「…ねぇ、悠弥。貴方…顕人から、何か聞いてる…?」
何か考え事か。表情から俺がそう思っているところで妃乃が発した、一つの問い。それに俺が否定を示すと、次に妃乃はもっとはっきりと何かを考えるような表情となり……
「……正しさって、何なんでしょうね…」
何ともまぁ、珍妙な事を口にした。…た、正しさって……。
「…なんか、ヒーロー系かダーク系の漫画でも読み始めたのか…?」
「ち、違うわよ…ただちょっと、今回の件の顛末…って言っても、まだ終わってないけど…に関して、思うところがあるっていうか、これまでは自分なりに納得出来てた事が、今回は素直に飲み込み切れてないっていうか……」
いきなりそんな事を言われたら、こうも返したくなるだろう…と思った俺だが、妃乃の調子はあくまで真面目。…にしたって、急だなオイ…そんな、正しさなんて……
「…って、待った。何で今、先に御道について触れたんだ?今回の作戦で、御道に何かあったのか?或いはあいつが何かしたのか?」
「それは…本人に聞いて頂戴」
「んまぁ、そりゃ良いが…(やっぱ関係はあるのか…)」
何があったのかは分からないが、重傷を負っただとか、それ以上の事だったなら妃乃が答えを控えるとは思えないし、ならもっとややこしい事か、逆にもっと単純で些細な事かなんだろう。
むしろ気になるのは、妃乃の声音。何となくだが、御道は全体の一端というか、妃乃の言う「思うところ」に関わってる一人位のもののような印象があって……ひょっとしたら、俺が思ってるより遥かに不味い事が、富士山で起きたのかもしれない。
(…考えてみりゃ、妃乃は今更正しさなんて気にしない、もうばっちり信念が決まってるような性格をしてるんだ。その妃乃が、こう言うって事は…きっと、相当の事なんだろうな……)
何があって、結果一時中止を余儀無くされたのかは、俺も聞いている。けど聞いた限りじゃ、そんな迷いを抱くような部分はなく…気になる。何があったのか、本当に気になる。でも…それよりも今は、目の前の事だ。
「…悪いわね、変な事言って」
「あ、そういう自覚はあるんだな」
「そういう返しをされるのはちょっと癪なんだけど…」
無理に話に乗ってくれる必要はない。そんな雰囲気を出している妃乃だが…もうすぐ同居も一年になる相手の真剣な悩みを、面倒臭そうだからってだけで無視するような事はしない。…けど、正しさ…ねぇ………。
「…そもそも妃乃は、何を正しいと思ってるんだよ」
「何…って言われると困るわね…倫理とか、道徳とか、法律とか、該当するものは色々あるし…」
「って事はつまり、絶対的な一つの正しさを知りたい…って訳じゃないんだな」
「えぇ、第一正しさは普遍的なもの、とも思ってないし」
(なら、正しさは時代や状況、立場で変わるものだ…って答えじゃ、納得はしないんだろうなぁ……)
答えるにしても、今のままじゃ問い自体が漠然とし過ぎている。だから一先ずその辺りを明瞭にしようと思って訊いてみたが…まだイマイチよく分からない。
というか、妃乃が求めているのは俺の意見、俺の価値観なんだろうか。愚痴みたいにただ聞いてほしかっただけとか、求めているのは意見ではなく肯定だったとかはあったりしないだろうか。もし仮に、本当に俺なりの「正しさ」を求められていたとして、その内容を妃乃が納得出来ると思ったとしても…それで妃乃は、すっきりするのか…?
「…普遍的じゃない、とも限らないんじゃないのか?」
「…絶対的な正しさはある、って事?」
「そこまでは言わねぇよ。けど例えば、普通の人間は自分の命を最優先するだろ?で、それは生物として正しい判断な訳だが…それは、今も昔も、日本でもどの国でも、変わったりはしないよな?」
「…そうね、確かにそれはその通りよ。けど、私が言いたいのはそういう事じゃないっていうか…こう、正しさは正しさでも、正義とか善悪で言い換えられるタイプの正しさっていうか…今悠弥が例に挙げたのは、そういう観点より前にある本能部分の正しさっていうか、正解や間違い的な意味での正しさでしょ?」
「んまぁ、それもそうだな。ただでも、気持ちや精神における正しさも、元を辿れば本能的な部分に繋がってる…ってパターンもある訳で……って、言ってて思ったがややこしいなこれ…」
「…ほんと、面倒な話で悪いわね……」
まだ本当に求められているものが何か分からないし、題材からして複雑なものなんだから、すぐに答えへ向かおうとせず少し話を膨らませてみよう。そう思って会話を掘り下げてみたものの…何だか余計に複雑な感じになってしまった。絡まった糸を解こうとして、余計にこんがらがってしまった…みたいな状況になった(気がする)。
じゃあ、どうしたものか。変にごちゃごちゃ考えず、俺の思う「正しさ」を言ってみるか。けどぶっちゃけ、俺だってすぐに話せるほど確固とした正しさを持ち合わせてはいない訳で……軽く手詰まりになった俺が黙り込むと、妃乃は俺の顔を見た後軽く上を見つめて言う。
「…要はね、組織の中核としての思考、時宮家としての判断、先の事を考えた決断…これまで私は、そこに正しさを感じてたのよ。クリーンな正しさ、胸を張れる正義じゃなくても、そういう事には全体や将来の為になる打倒さがあるって、それも一つの正しさなんだって、そう思ってた。そう信じてた。…でも……」
「…それが、疑わしくなったのか?」
「そこまでじゃないわ。疑わしいじゃなくて……不安、なのよ…それが本当に、打倒さのある『正しい』なのか…それで良かったのか、って……」
時宮妃乃は、大人な性格だ。社会ってもの、組織ってものを分かってるし、そこでの立ち回りや、考え方だって出来上がっている。それは、そういう教育を受けてきたからだろうし…多分元から、そういう意味での『分別』が付けられる人間なんだろう。
けど、やっぱり…そういう観点、そういう思考を持っていても、妃乃はまだ少女なんだ。組織の中枢を担う人間としての考えを『理解』し『実行』していても、それ自体が自分の信念になっている訳じゃまだないんだ。そして、今語る妃乃は間違いなく、悩む一人の女の子で……ならきっと、何を求められているか…なんてごちゃごちゃ考えるより、俺が感じたままの言葉を言う方が良いだろう。だって妃乃は、対等な相手として、心の内を俺に明かしてくれたんだから。
「…別に、間違っちゃいないだろうさ。そりゃ俺は、協会の全部を知ってる訳じゃないが…宗元さんは、信用出来る人だ。私利私欲より仲間の事を…じゃ、ねぇな。周りの事を考えて、その上でちゃっかり自分も得をするような、そういう人だって断言出来る」
「…だから、不安に思う必要はないって事…?」
「いや、今のはあくまで俺から見た宗元さんの話であって、俺個人の考えだからな。…だから…まぁ、なんつーか…自分がそれを、信じられるかどうかじゃねぇの?自分が信じられないと思うものを、正義だとは思えないだろ?」
正しさだの、正義だの、善悪だのは、言い出したらキリがない。個人個人でこれだ、と思うものはあったとしても、万人が納得するものなんてそうそうないだろうし、仮にあっても時代や国が変わればそれは簡単に崩壊する。
だから結局のところ、何が正しいのかより、何を信じられるか、何を信じたいかなんじゃないだろうか。そこが大事なんじゃ、ないんだろうか。
「…正しいかどうかは関係ない…とまでは言わないにしても、正しいかどうかだけが、それを支持する理由にはならない…いや、むしろ…正しいから信じるんじゃなくて、信じられるものがその人にとっての正しさ、って事…?…そっか…深い、わね……」
「お、おう(ぜ、全然考えてもいないところまで読み取られた…。てか、今のでそこまで考えられるのが凄ぇ…むしろこっちが感心させられる……)」
「…悠弥?」
「あ、あーっと…そう、例えば緋奈だ。もし今急に、緋奈が高校中退して自分が考えたオリジナルスポーツの普及とプロ化を目指す、それで生きていくっつったら、親戚中が止めるだろうし、俺だってビビる。でももし緋奈が本気なら、覚悟があるなら、俺は止めない。多分、普通に考えたら止めないなんて間違ってるだろうが…俺は緋奈を信じてるし、信じたいとも思ってるからな」
少し慌てながら口にしたのは、緋奈の事。即席で考えた内容だから、我ながら色々突っ込みどころがある気もするが…嘘は何も言っていない。俺なりに葛藤…というか激しく不安は抱くだろうが、もし本当に緋奈が今言ったような事を目指すってなったら…俺は緋奈を、応援する。それが兄の、家族の…俺の務めだと、思っている。
「…本当に、心から悠弥は緋奈ちゃんの事を思っているのね。…少し、羨ましくなっちゃうわ……」
「え…?」
「……へっ?あ、あれ?今なんで私、羨ましいとか言ってんの…?」
「い、いやそれを俺に訊かれても…てか、羨ましいの…?」
「う、ぁ…い、今のは言い間違いだから!違うからっ!」
「だ、だよな…うん、よく分からんが、そりゃ妃乃が羨ましいなんて言わんよな……」
「……えぇ、そうよ…」
俺の話を聞き終えた妃乃が不意にぽつりと漏らした、羨ましいという言葉。何故か自分で戸惑った後に妃乃は否定し、その必死さから俺も弄らず納得する事を選んだ訳だが…そりゃそうだよなと返したら、何故かちょっと不機嫌な顔に。…ならどう返せば良かったんだ、これ……。
「…ともかく、貴方の信じる思いは凄いと思うわ」
「シスコン舐めんな、って事さ。…けどまぁ、今こう言えるのは緋奈との霊装者の件とか、この一年で緋奈とも色々あって、より深く緋奈の事を知れたから、緋奈との繋がりを見つめ直せたから…ってのも、あるかもしれないけどな」
「…そっか。…それ、よく真顔で言えたわね」
「だからシスコン舐めんな…と、言いたいところだが…言われてみると、確かに真顔で言う事じゃねぇなこれ……」
「ふふっ。…けど…うん、そうよね。自分にとっての『正しさ』は自分が決める以上、信じられるかどうかが大切…それは、その通りよね」
指摘されて何だか恥ずくなった俺が少し目を逸らすと、妃乃は愉快そうに笑い…それから、普段の声音、自分に対して自信を持っているいつもの声音に声が変わる。視線を向けて見れば、表情もさっきより柔らかく……ほっとした。そんな妃乃の、顔を見ただけで。
「少しは参考になったか?」
「ま、少しわね。…だから…ちゃんとお礼も言わせて頂戴。ありがと、悠弥。私の相談に、付き合ってくれて」
「気にすんな。…俺なりに、思うところもあったからだしさ」
「思うところ…?」
普段は素直じゃない癖に、こういう時は素直になるのが妃乃というもの。…いや、違うな。あまり弱いところは見せたくなくて、意地っ張りではあるが、不義理や恩を仇で返す事は嫌いで、礼儀を大切にしてるのが妃乃だ。
だからこそ俺は、妃乃が困っている時、悩んでいる時は放っておけないし、妃乃の為になりたいと思う。妃乃は頑張っているんだから、俺よりもずっと努力して、自分に妥協しないで、しかもその上で多くの人に手を貸している、沢山のものを守っている妃乃だから…そんな妃乃には、元気でいてほしい。そう、俺は……
「…力になりたい、って思ったんだよ。さっき言った通り、俺は緋奈を心から信じてるが…妃乃の事も、信頼してるからな」
力になりたい、力になりたいんだ。妃乃が元気でいられるように、妃乃が自分を信じられるように、妃乃が誇りを貫けるように。
それから俺は手を伸ばし、妃乃の頭をぽふぽふと叩く。叩くというか、撫でるというか…とにかく俺は妃乃の頭に触れ、時々緋奈にするように撫でる。
「……な、何…してる、のよ…」
「悪いな、なんかそうしたくなったんだ。…嫌なら止めるぞ?」
「……いい…相談に付き合ってくれたお礼に、今は許してあげる…」
「そうかい」
出窓から入る暖かい日差しのせいか、ここまでに思ってきた感情に浮かされたのか、それともまた別の…もっと単純に、妃乃に触れたい、撫でたいとでも思ったのか…自分でもよく分からないが、とにかく俺はその行為を続ける。妃乃も恥ずかしそうに頬を染めつつも振り払うような事はなく、許可を受けて行為は続く。
(…そういや、前にも一度似たような話をしたな…んで、その時も俺は撫でた気がするな…うーん…もしかすると俺は、撫でるのが好きなのか…?…なんて、な)
それから俺は思う。力になりたいって思いは本物だ。けど、今回みたいな事ならともかく、力がなければ、力にはなれない。それ相応の力がなければ、支えられない。そして、俺は霊装者だ。妃乃と同じ霊装者で、だからこそ出来る事がある。相談に乗る事以外でも、力になる方法がある。今よりもっと積極的に鍛えて、嘗ての俺と同じ位の力を…或いはそれ以上の実力を今の俺が身に付ければ、今よりきっと支えられる。
もう、その選択をする事に迷いはない。俺は妃乃の力になりたいから。緋奈を守りたいし、依未だって幸せにしてやりたい。穏やかな、普通の日々は今だって大切で、無くしたくないが…それを上回る程に、俺は皆が大切なんだ。ただの平穏じゃない、皆との日々が、今の俺の真の望みだ。その為なら……全力で、全身全霊で、やれる限りの事をするさ。
もうすぐ新年度となる、春先の今日。妃乃を撫で、俺は今の俺の思いを再確認しながら……新たな決意を、決めるのだった。
……因みにこの後、普通に家に居た緋奈がリビングの中に入ってきて、物凄く気不味い空気になったんだが…それはまぁ、語らないって事で…。