「つー訳で、今回は前回から引き続いての話だ」
「え、何よいきなり…怖っ……」
説明をぶっ飛ばして即話を進めようとしたら、シンプルに引かれてしまった。…むぅ、これは流石は無理があったか……こほん。
宗元さんとの話を終え、執務室から出て、依未の部屋へと向かい始めたのが数分前。部屋の前まで来て、依未を呼び出したのが十数秒前。そして、最初の発言で依未に引かれてしまったのが数秒前で……今に至る。
「こういう事だ、分かったな」
「分かったな、って…あんた傍から見たら、ただの頭のおかしい人だからね…?」
「周りに誰もいないから問題ない」
「いやそういう事じゃなくて…はぁ、まあいいや…言っても疲れるだけだし……」
面倒臭そうに溜め息を吐いた依未は、部屋の扉を開けたまま中へ。
それは、下らない事を言ってないで中に入れ、という合図。口も態度も捻くれてる依未だが、こういう部分は可愛いもんだよな。…そう言ったら、顔を真っ赤にして殴ってきそうなもんだが。
「んじゃ、失礼しまーす…って、またちょっと散らかり始めてるじゃねぇか……」
そんな事を思いながら部屋内に入り、依未を追って奥に進む俺だったが、途中でテーブルの上に重ねられた雑誌や、箱の中でごちゃごちゃとなった複数本のコードを発見。それについて指摘すると、ぴくんと肩を震わせた依未は視線を逸らす。
「これは…今は偶々そうなってるだけで、普段からそうって訳じゃないし……」
「いや本とかゲームのパッケージとかならともかく、コードは一日二日でこんなごちゃごちゃにならねぇだろ。…ったく、時々片付けてやらないとすぐこうなるな……」
「う…べ、別にこの程度不便じゃ……」
「…………」
「…ごめんなさい……」
ぶつくさ言いながら絡まったコードを解き始めると、依未は反論…というか、反発らしか発言を口に。だがその依未へ無言の半眼をぶつけると、観念したように依未は小声で非を認めた。…全く…世話のかかるお嬢さんだ…。
「ここはこんなもんか…いつも言ってるが、人間は後で片付けようと思ったら絶対片付けないんだからな?多少面倒でも、使い終わったらその場で片付けるようにしろ。それを続けていれば、自然に片付ける事が習慣になって、別に面倒でも何でもなくなるんだからよ」
「…はい」
「はいは百回」
「はいはいはいはい……って、言う訳ないでしょうが百回も…!」
(でもノリ突っ込みはするんだな…)
そうして片付けを終えた俺は依未からの突っ込みを聞きつつ、何となく俺の定位置となった場所へ。そこに座ると依未もちょっと不満そうな顔をしつつTV前のクッションに座り…さて、俺は何をしに依未の部屋に来たんだったかな。……あぁ、そうだそうだ。
「依未は、先月の富士山の件って知ってるのか?」
「富士山?…あぁ、まあ…それなりには」
「それなり?」
「それなりはそれなりよ。…あんたも妃乃様から、大体は聞いてるんでしょ?」
「…そういう言い方をするって事は…大っぴらにされてない部分まで知ってんだな」
ほんの少し声のトーンを落とし、質問と断定の中間位の語尾で言うと、依未はすっと首肯。何となくそんな気はしていたが…やっぱり、依未にはそういう情報も知らされるらしい。
「…依未って、実はかなり偉いのか?」
「え、何?喧嘩売ってる?」
「あぁいや、そういう事じゃなくてだな…」
「言い方が一々悪いのよ、悠弥は。…こういう事も知らされるのは、予言の関係よ。何か見ても、それについてあたしが知らなかったら、どうでも良い事だと誤認したり、何か別の物事と勘違いして捉える可能性があるでしょ?」
我ながら確かに悪い訊き方だったな…とは思っていたものの、きちんと依未には伝わったらしく、素直に理由を答えてくれる。
確かに能力の事を考えれば、通常は秘匿にしている情報も伝えているのが自然と言える。例えば普通じゃないレベルの引き潮が起きていたら、津波が来るかもしれないと用心出来るが、『引き潮=津波の可能性』という結び付きが頭の中で起こらない人間の場合、引き潮を見たって何とも思わない。それと同じように、知識の有無は取得した情報の解釈に影響を及ぼす訳で…ひょっとしたら、同じ位どころか俺より依未の方が色々とこの件を知っているのかもしれないな。
「…けど、それが何なの?」
「…ほら、覚えてるか?前に依未がうちの廊下で教えてくれた、俺と御道に関する予言を」
「それは覚えてるけど……って、あぁ…そういう事ね…」
察しの良い依未に対し、今度は俺がこくりと首肯。折角来てこんな話、ってのも依未には悪いが…この件、流石に俺も放置は出来ない。
あの時、依未は言った。予言の中で、俺と御道が敵対してるように見えたと。だが今、御道は力を失っている。そもそも戦えない状態にある。勿論、それだけなら霊装者関係ない、単なる喧嘩だって事も考えられるが…他に見えたという情報と合わせると…やはり、辻褄が合わない。
「さっき宗元さんとも少し話したが、俺も御道も予言された霊装者だ。…いや、未だになんで予言されたのか俺もさっぱりだが…その俺達が敵対してて、しかも現状御道の方は力を失ってるって、やっぱりおかしくないか?」
「…えぇ、そうね。確かにおかしさはあるわ。…けど、分らないわよ…。あたしは所詮、突発的に発動する能力に、一方的に光景を見せられているだけだもの。本当に必ず当たるのかも分からない、原理だってはっきりしてない、そんな能力で見せられた光景の矛盾点なんて……」
ぶっちゃけ予言云々は、これまでそんなに気にしてこなかったし、今後も気にするかどうかは怪しいところ。だが明らかに妙な、それも危険を感じるおかしさがあるとなれば、話は別。そしておかしいにも関わらず放置した結果、判明した時にはもう全てが手遅れ…なんて事になったら、悔やんでも悔やみ切れない。
そう考え、この件を訪ねた事は、別に間違ってはいないだろう。けど、この時俺は配慮に欠けていた。依未にとって予言の能力はどういう存在なのか、ちゃんと知っていたのに……こう言われたら依未はどう感じるかを、全然考えられていなかった。
「…すまん」
「…いいわよ、あんたが気になる気持ちは分かるし…。…ただ、でも…これにはもっと、見えたまま以上の意味があるような気がするの…。裏、っていうか…もっと深い、何かが……」
「見えたまま以上の、か……」
俺と御道が敵対していた。…それを、額面通りに受け取るなって事だろうか。それとも、敵対はその場で起こっている事のほんの一部、一欠片に過ぎず、真に見るべきはもっと他にあるという事だろうか。…気にはなるが、俺は訊かない。依未自身、よくは分かっていないだろうから。何年もこの能力と付き合ってきた事で、培われた感覚…その感覚が何かを感じたってだけで、思考の下繰り出された判断ではないだろうから。
端的に言えば、この件は分からない、で終わるんだろう。…が、依未にも分からないという事は分かった。分からない上で、何かありそうだって話も聞けた。…なら、この話をした価値はある。
「…ありがとな、依未。また何か訊くかもしれねぇが、その時は頼む。代わりに俺も、それ相応の事をするからよ」
「…それ相応、って…?」
「依未が休んでる間に途中のゲームを進めてやったり、俺の感覚で棚を整理し直したり、緋奈と遊ぶ約束を勝手に取り付けたりとかかな」
「普通に迷惑なんですけど!?見返りどころか有害なんだけど!?ゲーム勝手に進めるとか重罪だし、人の感覚で整理された棚とか絶対使い辛いじゃない!?……さ、最後のは別に良いけど…緋奈ちゃんとの約束なら、予定なんて幾らでも組み替えるし…」
(うーん、依未は今日も順調に緋奈へぞっこんだなぁ……)
ばっちりふざけた筈なのに、何か最後で斜め上の反応が返ってきて、何とも言えない気持ちになる俺。…まぁ、それはおいとくとして……。
「…ごほん。冗談はさておき、ちゃんと訊く分の礼はするさ」
「…そこまで、気にしなくたって良いのに…あんたの力になる位、あたしは……」
「ん?」
「ひ、独り言よ!……因みに、だけど…あんた、予言の通りになったら…どうする気…?」
「…そりゃ、戦うさ。そうならないよう、やれる限りの事はするが…黙ってやられる事はしねぇ。やられちまったら、止める事も出来なくなるからな」
もし、御道と戦う事になったら。…予言を聞いてから、何となくは考えていたし…それに対する回答は、一貫して変わってない。いざそうなったら、何をどこまで出来るかは分からねぇが…全力を尽くして、後悔しないようにするだけだ。
「…っと、そうだ。これに関して、もう一ついいか?」
「…今度は何よ」
「富士山の件で、何人もの霊装者が力を失った。そういう形で、霊装者の力は失われる事がある。…それを知って、何か思ったか…?」
一番訊いておきたい事は訊けた。だから俺はもう一つの問いを、返答次第では一つ目に匹敵する程重要な話にもなり得る問いを、依未の目を見て静かに言う。
どんな返答が来たとしても、そこへ俺は真摯に向き合う。そう考えながら、俺は訊いた。俺が訊き、依未が受け、数秒間の沈黙が起こり…それから依未は、吐息を漏らすようにして答える。
「…そりゃ、思うところはあるわ。あたしはこれまで、自分の力に何度も苦しめられてきて、それはきっとこれからも…何もなければ、一生続くんだもの」
「…やっぱ、そうか……」
「…けど、それだけよ。思うところはあるけど、それでお終い。…別に、一人で勝手に富士山行ったりなんてしないから、心配なんか要らないわ」
もしかしたら、と思っていた。自らの力に散々苦労してきた依未は、失う事に、失われる事に…そしてその可能性に、惹かれてしまうんじゃないか…と。
けど、続く言葉はそんな俺の不安を見透かしたような、冷静ではっきりとしたものだった。勿論言葉だけなら、嘘を吐いているって事も考えられるが…依未の落ち着き具合からして、それはないだろう。今見せている依未の落ち着きは、きっと率直に返しているからこそのものだ。
「…強いな、依未は」
「はっ、こんな能力と付き合わされて、自由の効かない毎日を何年も送っていれば、これ位誰だってなるわよ」
「…それは、まぁ…その……」
「…冗談よ。ただ、今のあたしにはそう言えるだけの…そう思えるだけの理由があるってだけ。こんな能力、って気持ちは今もあるけど…今は、あたしの毎日にそこまで悲観してないから」
「…それって……」
「こ、これ以上は言わないわ、察しなさい。……あ、いや、やっぱ察しなくてもいい…!どういう意味かは考えるな…!」
決して明るい訳でも、快活でもない。緋奈や妃乃に比べればずっとネガティヴな依未が言った、それでも前を向いた言葉。そこには考えなくても感じられる、凛とした思いがあって…でも言ってから察されるのは恥ずかしくなったんだろう。一転して、途端に依未は慌て出した。だが俺の目には、そんな依未の姿が愛らしく見えて…自分でも気付かない内に、笑う。
「…な、何笑ってんのよ…」
「別に深い意味はないぞー。…あ、いや、深くない事もない…か……?」
「どっちよそれ…っていうか、ほんとになんで笑った訳…?」
「聞くか?後でどうなっても知らんぞ?」
「そんな大層な理由なの!?…じゃ、じゃあいいわよ…なんかあんたの事だから、本当に碌でもない事な可能性あるし……」
(なんで碌でもない方向だって決めるんだよ…まあいいけど……)
気になる様子の依未を煙に巻き……俺は思う。自意識過剰かもしれないが、依未が今の、これからの自分を前向きに捉えられている理由の一つに、俺が関われているのなら…光栄だ、と。俺が守りたいと思っている、もっと幸せにしてやりたいと感じている依未からしても、俺の存在が少しでもプラスになっているのであれば…嬉しいに、決まってるさ。
「…よし、依未。今日はまだ時間あるよな?」
「え?…そりゃ、あるけど…」
「なら、屋内花見しようぜ。外に出なきゃ一々気にする必要もねぇし、双統殿の中にも桜がよく見える場所位、一つか二つはあるだろ」
「…急に何…?あんた、花見とかしたがるタイプじゃないわよね…?」
「まあまあ良いじゃねぇか。花よりランボーって言うしよ」
「言わないし帰還兵じゃないしそもそもそれ花見否定してる言葉だから…。…何を企んでるのよ……」
「双統殿内の花見スポットを探す為に歩き回らせて、今年度もまた体力の無さを自覚させてやろうかと」
「陰湿!しょぼいけど陰湿ね!じゃあ嫌よ!行きたきゃ一人で行けば!?」
「おう、じゃあそうする」
ふざけて適当な事を言ったら、それはもうがっつりと憤慨してきた依未。だがそこで感覚的に「いける」と思った俺は、そこで敢えて「一人で行けば?」という返しに同意し、すくりと起立。出入り口に向かってすたすたと歩き出し、本当に一人で行くかのような素振りを見せる。
もしこれで依未が何のアクションもしてこなかったら…ただただ虚しい。自分から出てった癖に蚊帳の外に出されたような気分になって、季節が逆行したが如く俺の心には寒風が吹き荒む事であろう。…だが……
「ちょっ、待っ…待ちなさいよっ!一人で行けばとは言ったけど…あたしが行かないとは言ってないでしょ!?」
「えぇ…?それは主張として苦しくね…?嫌だ、ってはっきり言ってるし…」
「うっさい!」
「うぉわ!?ひ、人の足の甲踏み抜こうとするんじゃねぇよ!?それ危ないからな!?マジで折れる可能性ある行為だからな!?」
かなり無茶苦茶な事を言いながら、依未は部屋を出て行こうとする俺の横へ。その口振りは、着いて行くと明言したようなものであり……完全に俺は、依未を釣る事に成功した。…まぁ、危うく足の骨をへし折られるところだったが…そこはあまり気にしないでおこう、ギリ回避出来たし…。
「…っと、そうだ。花見なんだし、なんか摘める物あると良いよな。餅とか団子とかなら雰囲気出るが…」
「そんな都合良くある訳ないでしょ。あるのはスナック菓子位……あ」
「……?」
別に俺はそこまで桜に興味がある訳じゃない、単に気分が良いから花見でも…位の感覚でいた訳だが、どうせやるならそれっぽくしたい。そう思って言葉にすると、依未は半眼と呆れ声のコンボで否定を…と思いきや、何かを思い出した様子で部屋の中へ。そして数十秒後、一体どういう事かと俺が待っていると……
「……大福、あったわ…」
「マジか……」
戻ってきた依未の手元には、花見にぴったりな和菓子があった。…偶然って、凄ぇ……。
「…依未って、和菓子好きなんだっけ…?」
「いや、そうじゃなくて…先週家族と会った時に、貰ったのよ。この二つを、じゃなくて一箱分……」
「あぁ、そういう…。…それは、俺が貰っても良いのか…?」
「別に良いでしょ。全部あげる訳じゃないんだから」
何ともまぁびっくりな偶然だが、幸運である事は事実。それに依未自身が良いというなら、俺が断る理由もない。…けど、そうか…家族から、か……。
「…あれから、ちょっとは何か変わったか?」
「あれから?…あぁ…別に、わざわざ言うような変化はないわ」
「そうか…」
「……でも、あたしが時々は出掛けたり、友達の家に行ってるって言ったら、喜んでた。喜んでたし…安心もしてた」
「…そっか」
歩き始めてから、俺が依未へ向けた一つの問い。それを聞いた依未は、初めは何も変わらないトーンで話し…だがそれから横を向き、ちょっと恥ずかしそうにしながら残りの言葉も口にした。
仲が悪い訳じゃない。けど、理解をしてもらえない。依未は家族と、そんな関係だと言っていた。けど…依未が普通の生活を、時々でも普通の人のように過ごせている事を喜べる家族なら、やっぱり依未の事を思っているのは間違いないんだろう。
(…まぁ、思ってるのと理解してやれてないのとは別問題だし、家族だからこそ理解してやろうと努力しなきゃいけないんだけどな。…って、これは俺が偉そうに言える事でもねぇか)
俺自身、緋奈を思ってはいても心を理解しようとはしていなかった事があるんだから、しかもそれを指摘してくれたのが依未なんだから、何を偉そうに言ってんだって話。…だが、同じように家族との関係で悩んだからこそ、その時助けられたからこそ…もし依未が家族に理解してもらおうとする時があったら、その時はまず俺が協力してやらないとな。
「…お、ここなんて良さそうだな。大丈夫か依未、依未の背で見えるか?」
「ご心配どうも。悠弥こそ、その腐った目でちゃんと見えてる?」
「…………」
「…………」
「…桜位、普通に見ない…?」
「…そうだな……」
それから数分後、俺達が見つけたのは窓が広く、背凭れ無しのソファがある場所。そこで俺達は、もうお馴染みとなった煽り合いをしてみたが…ただただ微妙な雰囲気になるだけで、少なくとも花見をしようって時にするべき行為ではなかった。…反省しよう…。
「…で、どうするの?」
「どうって…桜見ながら、大福を食う…?」
「…それだけ?」
「まぁ、うん…ゲームとかしてもいいが、二人でそれだと来た意味ねぇし……」
「……花見って、案外やる事ない…?」
「言うな…本格的に後悔しそうになるから言うな……」
もっと人数がいるなら、駄弁るだけでも良いんだろう。もし互いに成人していたら、酒を…って選択肢もあっただろう。だが、そのどちらも今は叶わず…ただ花を見続けて過ごせる程、俺も依未も豊かな感性を持った人間じゃない。
つまり、完全に手持ち無沙汰。大福を食い終わったら、それこそ何をすりゃ良いのか分からない。
「…そういえば……」
「ん?」
「…あんたこそ、どうなのよ。富士山で起きた事、聞いて」
というか、よく考えたら飲み物すらねぇじゃん。大福何だから、欲しくなるの分かるだろ…とどんどん準備不足が気になっていく中、不意に依未が口にした問い。それは、少し以外で…でも確かに、気になるだろう。俺の事情は、依未だって知ってるんだから。
その問いに対する答えは、もう自分の中にある。だがそれを、どう答えるべきか。そっちを俺は少し考え…それから外の桜に目をやりながら、そのままの姿勢で答える。
「…確かに俺も、前は勘弁してくれって思ってた。何でまた霊装者に…ってな。…だが、今は違う。今の俺にとって、これは必要な力だ。今の俺は…守りたいものが、ずっと増えたからな」
「…そう。なら、せいぜい頑張りなさいよ。……頼りに、してるから」
「ああ、任せとけ」
淡白な声音と、つっけんどんな言葉。訊いといてそれか、と思う程依未の発した返しは無愛想で…だがその後に、依未は言った。小声で、だけどはっきりと。
捻くれてる、本心を隠したがる依未が、包み隠さず言ってくれた言葉。頼りにしてるという、簡単な様でその実中々言えない言葉。それを依未が言ってくれたんだから、それに応えない訳にはいかない。元々何も言わなくたって、そのつもりだったが…頼りにしてると言ってくれたんだ、全身全霊で応えてみせるさ。
そうしてゆっくりと過ぎていく時間。見える桜は美しく、口に運ぶ大福は甘く、何より過ぎゆく時間は穏やかで……
「……部屋、戻らない…?」
「…だな……」
……穏やか過ぎた結果、案の定早期に何もする事がなくなってしまった俺達は、何とも言えない気持ちで依未の部屋へと戻るのだった…。