双極の理創造   作:シモツキ

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第百九十六話 そして再び

 的中した予想。ただの洞穴だと思っていた横穴の先にあった、地下空間へと広がる大穴。全くの未知であるその空間への調査は、当然必須。

 だが現状、この地下洞窟の事は何も分かっていない。何かあるかもしれないが、逆に言えば何もないどころか、ちょっと歩いたらすぐに行き止まりへとぶつかってしまう…なんて事も普通にあり得る。だから妃乃は、この洞窟の事を連絡だけして…まずは俺達二人だけで、先行調査をする事となった。

 

「流石に暗い…って言うか、真っ暗ね…足元どころか、頭や肩も気を付けないと何かにぶつけそう……」

「だな……」

 

 ライトの明かりを頼りに、奥の穴からゆっくりと降下。先に妃乃が降りていき、その後を俺が続く。

……因みにこれ、軽くだが下まで行った俺ではなく、妃乃が先なのにはちゃんと訳がある。理由は、妃乃がスカートだからだ。その状態で、俺が先、つまり下になれば……あぁ、そういう事さ。

 

「よ、っと…ここからは、歩いていくとして…広さ…も、見たところ大丈夫そうね……」

「…妃乃、その翼はそのままにしておいてもらえるか?」

「え、どうして?」

「や、これもそこそこ明かりになるし」

「あぁ…そういう事ね…」

 

 暗闇の中でも蒼く美しい光を放つ、妃乃の翼。照らす事を前提とした光じゃないからか、ライト程ではないものの、妃乃の翼はすぐ近くの視界を確保する位の光にはなる。

 無論それは、妃乃の翼限定の話じゃない。霊力剣や、何なら弾丸だって光源にはなるが、明かり目的に火器をぶっ放すというのは頭が悪いにも程があるし、剣にしたって表面積は翼の方がずっと上。

 

「じゃ、出来るだけ進んでみるわよ悠弥。一先ず今は、ここの構造や危険がないかの確認を優先して…って、ごめんなさい。多少とはいえ先に一回見てきた貴方を差し置いて、私がどうこう言うのは違うわね…」

「ん?いや構わねぇよ?」

「そ、そう?ならまあ、そうさせてもらうわ」

 

 ここで見栄を張ったってしゃあないし、俺に誇示するようなプライドもない。だから俺は舵取りを妃乃に任せ、隣に立って歩き出す。

 近くは妃乃の翼を頼りに、向かう先をライトで照らす。頭や肩も気を付けないと、と妃乃が言っていたが洞窟内は結構広く、壁際に寄らなければ概ねそういう心配はない。むしろ気を付けるべきは地面が欠けていないか、突然崩れないかであり…いつでも飛び立てるよう、周囲に気を付けながら心構え。

 

「…………」

「…………」

「…し、しかしほんと暗いわね……」

「まぁ、地下の洞窟だからな…」

「…どこか、光が差し込んでたりしないかしら……」

「この様子じゃ、近くにそういう場所はなさそうだが…(…うん?)」

 

 降下し、地下を歩き始めてから数分。暗闇という環境で自然と気が引き締まり、強い緊張感を持って進む中、妙に周囲へと目を走らせる…というか、しきりに周りを気にする妃乃。初めはそれを、単に警戒を強めているだけだと思った俺だが…それにしても、何かおかしい。おかしいというか…口調から、明るさを求めているような気配を感じる。

 それ自体は、なんらおかしな事はない。明るければ視界を確保出来るんだから、求めるのは当然の事。だが妃乃の様子を見るに、それともちょっと違うらしく……あ、まさか…。

 

「…もしや、妃乃……」

「…な、何よ…」

「…怖いのか?」

「なぁ……ッ!?」

 

 ふっ、と頭に浮かんだ可能性。いやでも妃乃だそ?あの時宮妃乃なんだぞ?…と思いつつも、それを俺が口にした瞬間、妃乃は絶句。人が誰かから何かを言われて絶句をするのは、幾つかのパターンがあるが…この反応は、間違いない。

 

「なっ、ななッ、何を言ってんのよ急に!?そ、そんな訳ないでしょ!?そんな訳ないでしょうッ!?」

「…うん、もう図星だって宣言してる位分かり易くテンパるのな」

「はぁぁ!?ず、図星じゃないわよ!テンパってもないわよ!適当な事言わないでくれる!?」

「えぇー……じゃあ、怖くないと…?」

「当然よ!たかが暗い程度、怖くも何とも……きゃあぁああああぁぁッ!?」

 

 なんかもう逆にわざとなんじゃないか、って位激しく反応する妃乃だが、案の定認めるつもりはないらしい。そのあんまりな見栄の張り方に思わず俺は呆れてしまうが、そんな事は御構いなしで妃乃は「怖くない」という自らの主張を貫こうとし……だが次の瞬間、どこかで飛び立つ何羽もの蝙蝠。バサバサッ、という羽で空気を叩く音が周囲へ響き……その音に完全にビビったのだろう。妃乃は思いっ切り悲鳴を上げ、俺の方に飛び付いてきた。

 

「うぉっ…!…ひ、妃乃ー……?」

「…ぁ…や、これは…その……」

「…怖かったんだな」

「…う、うぅ…そうよ、そういう事よ…悪い……?」

 

 別に俺だって、全く怖くない訳じゃない。暗闇からは何かが出てきそうだ、っていう感覚はあるし、蝙蝠の羽音には俺も肩がびくっとなってしまったし…何より悲鳴と共に妃乃が横から腕に抱き着いてきた事で、もうそっちへの驚きどころじゃなくなっていた。

 絡んでくる両手。服越しでも分かる、押し付けられた胸の柔らかさ。内心それにドギマギする中名前を呼ぶと、妃乃ははっとした顔になり…今度は言い訳のしようがないからか、顔を反らして口を尖らせつつも怖がっていたという事を認める。

 

「別に、悪いとは思ってないんだがな…まあ、正直意外ではあったが」

「…でしょうね…分かってるわよ、こんな風に怖がるなんて似合わないって……」

「あぁいや、そういう事じゃなくてだな。…んまあ、でも…あれだ……」

 

 妃乃はこういう状況にも割と平気なんじゃないか。根拠なんて全くないが、イメージとして俺はそう思っていた。

 だが、実際にはそうじゃなかった。そうじゃなかったし、妃乃から帰ってくる言葉には、自分へ対する情けなさ、もっと言えば卑下な感情が籠もっている。籠っているように、感じられる。だから俺は、逡巡の後左手を伸ばし…その手を、妃乃の頭の上に置く。

 

「…どうせ、今いるのは俺一人なんだ。あんまり体裁だのなんだのは気にする必要もねぇだろうし…こんなんでも役に立つなら、好きに使ってくれ」

「……何よ、急に…そんな、格好付けちゃって…」

「あぁ、柄じゃねぇよなぁ…」

「…でも、ありがと……」

 

 ぽんぽんと撫でるように軽く叩き、それから俺は少し肘を曲げた状態で腕を横に。格好付けちゃって、という妃乃からの返しはもう全くもってその通りで、ほんと柄じゃねぇなと思ったが……その数秒後、妃乃の指が俺の左腕の袖を摘んだ。先程のようにがっつりと掴むのではなく、親指と人差し指で、ほんの少し挟む程度の形ではあったが…なんだかその素直じゃない感じが逆に可愛いというか愛おしくて、思わず俺は頬が緩みそうになってしまった。

 

「こ、この事誰かに言ったら、ただじゃおかないわよ…?」

「言わねぇっての。俺をなんだと思ってるんだ」

「初めてまともに話した日の内に、引くような冗談を言ってきた男」

「…ぐうの音も出ねぇ……」

「…そんな男を今や信頼しちゃってるんだから、私も相当物好きになったものね…」

 

 そういやそうだった…と過去の俺に内心呆れていると、「信頼」という言葉がさらりと妃乃の口から漏れる。どうも妃乃自身は気付いていないようだし、その後の口振りからしていつもの皮肉的発言なんだろうが…ヤバいな、今の状態と合わさる事で、これまた可愛い。てか、なんだこりゃ。吊り橋効果か?いつどこから襲われるか分からない状況で、普段より可愛く感じてるとかそういう事か?

 

(…って、んな事考えてる場合じゃねぇだろ俺…いつどこから襲われるか分からない、一番気にするべきはこっちだっての……)

 

 何とも俗な考え方を追い出すように、俺は心の中で自分を叱責。冗談抜きに、ここじゃいつ襲われてもおかしくないし、襲われたと気付いた時にはもう致命傷を受けた後…なんて事も普通にあり得る。妃乃なら、まだ何とかなるんだろうが…妃乃程の実力がない俺の方は、本当に油断なんざしていられない。

 

「……っ…これは……」

「…妃乃?」

「…多分、ここを調べるのは正しい選択だったと思うわ」

 

 そう自分へと言い聞かせた数十秒後、不意に妃乃は見回すように視線を動かす。

 それは、さっきの怖がっていたものとは違う、明らかに何かを感じての動き。訊いた俺に、妃乃は真剣な声音で返し…その直後に、俺も感じる。並々ならぬ、普通じゃない何かを。

 

「…戻るか?」

「…どう思う?貴方の意見を聞かせて頂戴」

「…一旦戻るべきだろうな。既に何かしらある事は分かってる。そして万が一何かあっても、ここにゃ退路が一つしかない。その上で、今は危ない橋を渡る状況かっつったら……」

「…そうね。一度戻って、改めて調査をしましょ」

 

 状況によっては多少のリスクを背負ってでも行動を続けるべきだが、今はそうじゃない。むしろ今は、その判断こそが短絡的。…その考えがちゃんと伝わったのか、俺の言葉に妃乃は頷き、俺と妃乃で意見が一致。ならば次にする事は、さっさとここから離脱する事。

 

「良かったな、妃乃。特に何も起こらなくて」

「えぇそうね…って、それはどういう事よ…!?」

「さぁな。ともかくさっさと戻ろうぜ。…って言うと、フラグになるか……」

「フラグって…真面目にやりなさいよね……」

 

 半眼で見てくる妃乃の視線をさらりと流し、俺はその場でゆっくりと反転。あまりスピードを出さなかったのは、摘んでいる妃乃を振り切らないようにする為だが、それでも妃乃は引っ張られる形となり、わたわたと俺の横を回る。

 

(一度離しゃ良いのに…って訳にゃいかないか。そうした場合、そのままでいるかもう一度掴むかしなきゃいけねぇんだもんな)

 

 そんな事を考えつつ、だが決して油断はせずに、俺はここまでの道を引き返す。その道中もおかしな事は何もなく、それこそ蝙蝠が一番のハプニングだったと言っても過言じゃない程何もなしに穴の下、即ちここへの入り口へ到着。拍子抜けといえば拍子抜けだが…当然、悪い事態は無いに越した事はない。

 

(…さて。これが本当に何もなかったのか、それとも敢えてこっちに手を出してこなかったのか…前者であってほしいところだが、楽観視は出来ねぇな)

 

 穴を登っていく直前、俺は一度振り返る。振り返り、改めて地下空間の中を見る。

 広がっているのは、そこそこ広く…だが暗過ぎて、全容なんざ全くもって分からない場所。この場所の正体…っつーか、感じた『何か』の事は…人が集まり次第やるであろう、再調査が始まるまではお預けだな。

 

 

 

 

 通信機器があるとはいえ、音声だけ、それも通信に適した状態じゃない場所でやるんじゃ、意思疎通にも限界がある。それを考慮し、妃乃は一度支部まで戻る事を決めた。

 だが、だからと言ってここを空けたままにもしておけない。という訳で、どちらかはここに残る事となり…当然それは、俺の役目となった。立場的に妃乃の方が話が通り易い…ってのは勿論の事、妃乃の方が速度も出るし、上手く説明も出来るだろうしな。

 

「…あ、しまった…追加のカイロか何か頼みゃ良かった……」

 

 見張り番をする以上、遠くに離れちゃ意味がない。だがかといって洞穴の真ん前に突っ立っていたら、この奥に何かがあるんだと周囲に伝えているようなもの。だから今俺がいるのは、洞穴とその周囲を見る事が出来る、近くの林、その木の裏。

 何か温かくなるものがほしい。…その程度の要望なら、当然通信で頼めてしまう。けど…その程度の事を、支部に急いでるであろう妃乃に頼むのは、ねぇ…?

 

(…まぁ、いいか。妃乃の事だ、それ位の気は回してくれるだろ。それよりも、問題は……)

 

 勝手な期待を結論にし、一度その思考を区切る俺。その理由は、考えたって仕方ないから…ってのもあるが、一番はつい先程から感じている、魔物の存在。

 近くに入る。だが林の中に入っているが故に視界は悪く、その姿を視認出来ていない。動き回れば見つかるかもしれないが…あくまで俺の務めは、見張る事。すぐ片付けるから、と自分を納得させて目を離していた隙に何かがあったんじゃ、洒落にならない。

 

「……引き付けるしかない、か…」

 

 今打てる手はなんだ。どんな策なら、この状況でも有用か。それを俺は、体勢を一切変えずに考え…そして、呟く。

 出来る限り、目を離す訳にはいかない。離さざるを得ないのなら、その時間は最小限にしなければいけない。…ならやはり、引き付けるしかない。このまま気付いていないフリをし、俺自身を餌とする事で魔物を誘い出し、相手の方から近付いてくるのを待って、探知能力だけでも正確な位置を捉えられる距離まで近付いたところで、一気に仕留める。それこそが、今取れるベストな選択。

 そうと決まれば早速…といきたいところだが、動く訳にはいかない以上、これといってする事もない。今俺がすべきなのは、焦って動き、こちらの意図を気取られたりしないようにする為の忍耐。そして当然、見張りの方も同時に続ける。

 

(…まだだ…大方は分かってきたが、今焦れば全部が無駄になる…落ち着け、落ち着け俺……)

 

 少しずつ、警戒しながらも魔物が近付いてくるのが分かる。近付いてきているのは分かっているのに、構えるどころかそちらへ目を向ける事すら出来ないというのは、精神的に凄まじくキツい。全身がちくちくとなり、熱くもなり、とにかく動きたくて堪らない。

 それを何とか気力で押さえ込み、待つ事約数分。…いよいよ、魔物が近くなる。その位置も、感覚的に分かっている。……でも、まだだ。一瞬で、最速で仕留めるなら、更に近い距離にまで接近させる必要がある。奴が攻撃に出る直前、奴が攻撃に移ろうとした瞬間…その時こそが、最大のチャンス。

 

「…来いよ…もっと、もっと……」

 

 自ら隙を晒す、晒し続けるという恐ろしさで、逆に何故か緩む口元。人間追い詰められ過ぎると逆に笑えるというが…恐らく今の俺に浮かんでいるのは、そういう笑み。

 あぁ、だが…漸く後一歩のところまで来た。後一歩、一歩分奴が近付いてくれば、確実に仕留められる。まだ姿をちゃんも見てもいないのにかって言われても、出来ると断言出来る程、俺の中には確信がある。

 減速したように感じる時間。張り詰められた神経により、一秒ですら長く感じる。そして俺が限界まで引き絞った精神で待つ中、魔物は最後の一歩、俺にとっての『確実』の距離へと入り……

 

 

 

 

──その次の瞬間、どこか…だが恐らくは近い木の上から、積もっていた雪が落ちる。

 

「……──ッッ!?」

 

 積もった雪が雪原へと落ちる、どさりという音。不意に聞こえれば間違いなく驚く、驚かざるを得ないような、重低音。だから当然、俺は驚く。神経を張り詰めていたからこそ、殴られたかのような衝撃が走る。

 だが、そんな後はどうでもいい。どうだっていい。それより、致命的なのは……ッ!

 

「くッ、そぉおぉぉぉぉッ!」

 

 弾かれるように俺は振り向き、確認もせずそのまま跳躍。身体を動かしてから、雪原を蹴ってから、俺は自分が向いた先を見て……視認する。認識する。すぐ側まで迫っていた、されど今は驚いた顔で飛び退こうとしている、俺が誘き出したその魔物を。

 まだだ。まだ間に合う、まだ届く距離にいる。その一心で俺は魔物へと突進し、左の腰へと右手を伸ばし、そこに吊るした直刀で一閃。居合の如き横一文字を、魔物へと放ち……けれどもほんの僅かに距離が足らず、紙一重で斬撃は外れる。

 

「……ッ…こッ、のぉぉおおおおおおッ!」

 

 届かない斬撃。空を斬る刃。だが俺は諦めようとは思わなかった。ここまできて、本当に後一歩で、なのにあんな理由で失敗なんざ、絶対に認められるか。

 そう叫ぶように俺は吠え、本能的に左手も腰へ。正直、自分でも何を掴んだのか分からない。何を掴もうとしたのかも定かじゃない。それでも俺は、直感のままに掴んだ物へと力を込め、真っ直ぐに投擲。放たれたそれは、放たれる直前、その先端より青く輝く刃を作り……直撃。飛び退き、魔物が正に着地をした瞬間…その片目へと、吸い込まれるように刺さる。

 

「よ…っしゃあッ!」

 

 無我夢中で放った純霊力の片手剣。倒せる確信なんざなかった、怒りにも似た感情で以ってぶん投げた一撃。それがまさか上手く刺さるとは、それも目に突き刺さるとは思ってもみなかったし、だからこそ思わず歓喜の声を上げてしまう。

 無論、まだ魔物がピンピンとしていたら、こんな声は上げない。だが、剣は目に突き刺さった。そして大体の哺乳類同様その奥に身体を動かす中枢があったのか、びくんと一度痙攣した後、力が抜けるように魔物は倒れ…そのまま一切動く事なく、消滅を始めた。

 

「不幸中の幸いってのは、きっとこういう事を言うんだろうな…はぁ……」

 

 予想だにしなかった幸運で撃破出来た訳だが、そもそも予想だにしなかった不安さえなければ、多分想定通りに倒せていた筈。そう考えると不幸中の幸いと言っても、あんまり良いもんじゃねぇなと溜め息を吐き……っと、そうだ。ここで気を抜いてどうすんだ俺…。

 

「…よし、状況に変わりはねぇな」

 

 武器を回収し、それぞれ腰に戻し、元いた木の陰へと戻る俺。そこからさっき振りに洞穴の方を覗くと、これと言って変化はなく、何かや誰かがいたりもしない。

 まあでも、目を離してたのなんてせいぜい数十秒。普通に考えたらそんな短時間で何かが起こる可能性の方が低い訳で、魔物を倒した今となっては、そもそもそこまで急ぐ必要があったのか…?とすら思えてしまう。そう思うのは、喉元過ぎればなんとやら…ってやつだろうが、とにかくそう思うとなんだかどっと疲れが押し寄せ……

 

「おや、何かから隠れているのですかな?それとも…その方向に、何かがあると?」

「……──ッッ!?」

 

……次の瞬間、後ろ上方から聞こえた声。誰なのかは分からない…だがどこかで聞いたような気のする、微妙に鼻につく声音。

 反射的に振り向む身体。そこにいたのは、上から雪原へと降り立ったのは、一度しか見ていない…だが話にはその後も、つい最近も聞いたある存在。前回の調査の際にも現れ、妃乃と一戦交えた魔人。俺はまだしも、妃乃にとっては少なからず因縁のある魔人が今……浮かべた薄い笑いと共に、俺の前へと現れた。

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