双極の理創造   作:シモツキ

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第一話 一人目の邂逅

----------------怒号の様な、咆哮の様な砲音。反響しているのではないかと思う位四方八方から聞こえる、刃のぶつかる音。そして、肉が裂け骨が砕ける独特の響き。嗚呼、ここに平穏な音など一つもない。

----------------共に戦っていた筈の味方は、多くがいなくなっていた。命を狩り合う相手である敵も、気付けば殆どいなくなっていた。代わりにあるのは、鮮血に染まった肉塊ばかり。嗚呼、ここには平和な光景など一つもない。

----------------恐らく、自分は生き残るだろう。そして、自陣が勝つだろう。それは、嫌ではない。死ぬよりは生きている方が良いし、仲間と呼べる存在が勝利を享受出来るなら、一人でも多く生き残ってくれるのなら素直にありがたい。でも……これで、自分は満足なのだろうか。数えきれない程の人を傷付け殺し、戦いとその周囲にあるものしか知らない自分は、この決戦に勝ったとして満足なのだろうか。いいや、違う。自分が望むもの、自分が欲するもの、自分が本当に得たかったものは…………

 

 

 

 

揺すられる感覚と、声をかけられている様な感覚がある。……正直、鬱陶しい。

 

「……嵜…千嵜…」

 

無視してやろうと思ったが…残念、揺すり主と声の主(多分同一人物)は諦める様子がない。となると根比べになるのは明白であり、こんな事で気力使うのも嫌だし先程より意識がはっきりしてきた事もあり、俺は諦めて起きる事にする。

 

「……やっぱお前か…」

「起こしてやった相手を恨めしそうな目で見るなよ…」

 

ゆらり、と頭を上げるとそこには見るからに優男っぽそうな男が一人。俺の予想通り、俺の睡眠を妨害した輩はクラスメイトの御道…御道……あれ?

 

「…御道、お前名前なんだっけ?」

「はい……?」

「いや、名前だよ名前。苗字が御道ってのは分かるんだが、名前の方がどうも出てこなくて…名前聞いた事あったっけ?というか、名前あるんだっけ?」

「あるわ!あるに決まってるわ!普通あるわ!っていうか第一話の初っ端から友人の名前を忘れる主人公とか前代未聞だよ!?何考えてんの!?」

「あーうん、すまん。名前忘れてたのは謝るから落ち着け。後そういうメタ発言は信次元の皆さんに任せておこうぜ、な?」

「メタ発言を指摘しておきながら自分もメタ発言&パロディネタやるとか何がしたいんだよ…」

「…それを考えるのがお前の仕事?」

「な訳あるかッ!」

 

御道はどうだ、と言わんばかりにハイテンションで突っ込んできた。おーおー元気な奴だ、けどまぁ人の名前忘れてるのは失礼な事に変わりねぇし、きちんと反省するか。

 

「悪かった、すまん。そして名前教えてくれ」

「はぁ…顕人、御道顕人だ。お分かり?」

「お分かりお分かり。っていうか…そうだ。何だかそんな名前だった気がしてきたな。うん、お前は顕人だ」

「知ってるよ、自分の名前なんだから…」

 

うんうん、と俺が頷いていると今度はげんなりした様子を見せる御道。…さて、名前も分かったところだし……

 

「何故お前は俺の安眠を妨害したんだあぁん?」

「何でヤクザっぽくなってんの…さっきのボケといい無愛想さといい、そんなんだから友人少ないんだぞお前は」

「友人少ない?想像で語るのは止めてほしいものだな…」

「あ…悪い、流石にお前だってそれなりに友人はいるよな。勝手な事言ってごめ--------」

「少ないどころか、目下友人と呼べるのはお前位しかいない!」

「聞きたくなかったそんな事実!え、マジで!?マジで言ってんの!?」

「さぁて、それはどうなのやら…」

「嘘でも良いから否定してよ…俺今後お前とどう接したら良いんだよ…」

「唯一の友人として、俺を見捨てない気持ちで接してくれるとありがたいな」

「だからそんな言葉聞きたくないんだって!」

 

怒って、げんなりして、その後は困惑と嘆きの混じった叫びを上げる。ほんとに御道は突っ込みに対して全力な奴だった。こいつは芸人志望か何かなのだろうか…。

なんて思いつつちらりと見た壁時計は、もう五時半過ぎを示していた。…うーむ、少し寝過ぎたか。

 

「よしじゃあ帰るか。こんな中途半端な時間なせいで一緒に帰る友人がいない御道の為に、俺が一緒に帰ってやろう」

「お前ほんとにぶっ飛ばすぞ…?…仕方ないだろ、生徒会なんて終わるタイミングが決まってないんだから」

「生徒会ねぇ…好き好んでやるお前の気持ちが分からないよ」

「好きに理由を求めるのは間違いだよ。…ま、理由がない事もないんだけど…」

「そーかい」

 

その理由は、とは訊かずに鞄を持って席を立つ。教室を出て、廊下を通って、靴箱で上履きを履き替えながら俺は御道という人間に思いを馳せる。……変な意味じゃねぇからな?…こほん。

御道顕人。そこそこいいルックスで、完全にクラスから浮いてる俺とすら気さくに話す人間性を持ち、更には生徒会所属という非の打ち所があんまりない(むしろ適度に打ち所がある分接し易い)御道は、言うまでもなくクラスの中心付近にいる。自分達でも制御出来てないんじゃねぇか…?と思う位個性の強いトンデモ美少女二人が自ら先頭に立つタイプだとすれば、こいつは皆に求められて、本人もそれを好意的に受け入れて先頭へと進むタイプ。

……こうして改めて考えて、やはり思う。羨ましいと。平々凡々…ではないものの、明るく楽しい『普通の』日常を送っている御道が羨ましいと。

 

「おーい、千嵜さーん?何やら心ここに在らずって顔してますがー?」

「…んぁ、ちょっと考え事をな」

「あそう。…普段より帰るの遅い訳だけど、ご飯大丈夫?妹さん不機嫌になってるんじゃね?」

「まぁ大丈夫だろ。うちの妹は食いしん坊キャラじゃねぇし、兄妹仲は良好だって自負してるからな」

「……大変だな、お前も」

「自分達で選んだ事なんだ、文句はねぇよ」

 

俺の言葉を受けた御道は、そうだよな…みたいな顔をした後納得した様に頷いていた。そんな様子を見て、ほんの少し口元を緩める俺。

そう、それでいい。友人というのは親族でも恋人でもない、ある一定のラインを超えない様にするもの。それこそ恋人になりたいのなら超えるのも必要だが…別にそういう意味で好きだったりはしないからな。言っちゃなんだが、まぁまぁ満足出来る日常が良いのであって、御道自体は友人以上でも以下でもねぇ訳だし。

その内に通学路の共通部分が終わり、俺と御道はそれぞれ自宅の方角へと別れる。別れて俺は夕食の事を考えながら、御道は…何考えてんだろうな?……まぁ何かしら考えながら、家に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

----------------これが、最後だったんだよな。こうして普通に、二人でいつも通りの下校をしたのは。

 

 

 

 

この世界に住む人間の九割は、この世界は魔法も異能もない、普通の世界だと思っている。けど、それは違う。殆どの人はそれに遭遇する事もなく一生を終えるが…異能や魔物と呼ばれるものは、存在する。それはずっと前……人の歴史が記録され始める前からあって、一般社会の裏で、歴史の影で存在し続けている。……ん?なんでそれを俺が知ってるのかって?そんなの……

 

「こんな状況で言ってられるかボケぇぇぇぇぇぇっ!」

 

低めのフェンスを勢いで飛び越えた瞬間、そのフェンスがべきり、とへし折れる。ついどんな感じに折れたのか振り向いて確認したくなる衝動が生まれるが……んな事気にしてる場合じゃねぇだろ!呑気だなぁおい!と心の中で自分を叱りつけつつ逃げ続ける。

こうなったのは十数分前。なんとか日が落ちる前には家に着けるかな…なんて思っていたところにそれは……魔物は現れた。見るからに常軌を逸している色合い、生物的の様なそうじゃない様な…そんな何とも言えない身体、そしてそいつの発する明らかに『異常な』雰囲気を持つそれは、野良犬だとか野良猫だとかでは絶対にない。

 

「くっそ…なんでだよ、なんでこうなるんだよ…ッ!」

 

悪態をつきながら、逃げ続ける。遭遇した次の瞬間には逃げ出した俺は幸いにも早期に狭い路地に入る事が出来て、そのおかげで何とか追い付かれていなかったが、奴を撒く事は出来ていない。そうなると問題は体力含めた運動能力なんだが…上級とは言わずとも最下級ではない奴と、ぼっち予備軍の一般高校生の俺ではどちらが勝つかなんて自明の理。それでも、俺は逃げるしかなかった。

 

「……戦える、訳ねぇんだよな…」

 

息切れで痛む胸を押さえつつ、とにかく走る。戦える訳などないのだから。勝てないとか倒しきれないとかの次元じゃなく、まず『戦闘』の体を成すレベルに至る前にやられてしまう。というかそもそも人間…霊長類ヒト科に属する生物は身体能力よりも知性と技術を優先している時点で生身の戦闘なんて愚の骨頂。ましてや相手が常軌を逸した存在なら、普通の人間がどうにかなんて絶対に出来ない。少なくとも俺には…千嵜悠耶には、奴を倒す力なんてない。

だから、せめてもの悪足掻きとして、限りなくゼロに近い可能性に藁にもすがる思いで期待して、走る。走って、走って、走って、それで……

 

 

「…………嘘…だろ…?」

 

--------辿り着いたのは、どっかの倉庫の広い駐車場。駐車してある車も少なく、魔物が動き回るには十分な広さを持った場所。……もう、逃げられない。

 

「鬼ごっこは…お終いってかよ……」

 

息が上がり、覚束なくなり始めている足でそれでも数歩進み、後ろを振り向く。それと同じタイミングで、魔物は窮屈そうにしながらも細道を抜け、俺が止まったのを見るや唸り声を上げながら牙を剥き出しにする。

 

「は…はは……」

 

俺の口から漏れる、掠れ気味の乾いた笑い。こんな縁もゆかりもない駐車場が死に場になるのかよとか、最終的にこうなるなら最初から諦めてた方が楽だったなとか、俺の思考は既に冷めた、諦観の念の籠るものになっていた。

一瞬の沈黙。そして魔物は飛びかかってくる。対する俺は……もう何もしていなかった。ただ、走馬灯の様に(というか走馬灯か)流れる思い出に意識を向けていた。

結局、千嵜悠耶は冴えない人生だった。確固たる将来の夢を持つ事もなく、生涯付き合えそうな趣味を得る事もなく、異性や恋愛に想いを馳せる事もない、可もなく不可もない、よくある人生。けど悪くないと思える程度の人生を送れただけマシかもしれない。特筆する程ではないものの、よくよく考えれば楽しい事もちょいちょいあったんだから、こんなものかと妥協しても良い気がする。唯一心残りがあるとすれば、妹を残して死んでしまう事だけど…それも死の間近となっては「すまないな、でも頑張れよ」位しか思えない。……元気に、暮らしてくれると良いんだけどな…。

気付けば、魔物はすぐ側までやってきていた。後一瞬すれば、俺は死んで魔物の晩御飯になるんだろう。ま、こうなっちゃ仕方ないな…なんて思いながら、俺は目を閉じようとする。せめて自分を殺す相手を最後まで睨み付けてやろうなんて気概のない俺は、そのまま目を閉じて、そして意識が途絶えて、そうして俺の人生は終了----------------

 

 

 

 

 

 

 

 

--------しなかった。していなかった。

 

「…え……?」

 

閉じかかっていた目を見開く。永遠に失われると思っていた意識は、突如現れたそれ(・・)に引き込まれる。

天空から舞い降りた…と言うにはあまりにも苛烈な勢いで、しかし粗暴さの無い洗練された一閃。それが現れた時、一瞬前まで俺を殺そうとしていた魔物の片腕は、宙に飛んでいた。一瞬前まで狩る者だった奴は、この瞬間狩られる者へと変わっていた。

--------そこにいたのは、一人の少女。藍色のツインテールを宙に舞わせ、紅玉の様な紅い瞳を魔物から俺へと向け……魔物の腕を刹那の間に両断した大槍と、蒼く輝く光の翼を携えた少女が、そこにはいた。

 

「…ふぅ、間一髪だったわね」

 

少しだけ安堵した様な笑みを浮かべた少女は、その後すぐに魔物に向き直り、柄を背にしつつ穂先を斜め下へ向ける構えで正対する。ここまでくれば、もう分からない者がいる筈もない。魔物の片腕を斬り飛ばし、俺を助けてくれたのはこの少女だと。少女はこの魔物を倒すつもりなのだと。

 

 

こうして、俺は一つの終わりを迎えた。だがそれは、その直前まで自分が想定していた、『死』という終焉ではない。それは新たな日々の、新たな世界の始まりであり…別れを告げた筈の世界へ、もう一度足を踏み入れる事となる『始まりの為の終わり』だった--------。




活動報告の通り、こちらの作品でも時折メタ発言やパロディ発言をしようと思いっています。頻度は少なくなると思うので今のところは解説しない事としますが、もし要望があればOriginsシリーズ同様後書きにて解説します。
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